ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「あなたがギンガ団のボス、アカギね」
「…………」
アカギは、モンスターボールをふところに収めた。
「やめておこう。お前と戦うには準備不足だ。きょうのところは退くとしよう」
「そう。賢明な判断ね」
「だが、そこの長老の態度でわたしの知りたいことはわかった」
アカギは踵を返し、洞窟から去って行く。
「時間、空間の2匹が揃えばだれにも止められない……そういうことだな」
シロナとすれ違う瞬間でさえ、アカギは無表情だった。
「おかしなことを言いおって……」
座ってバトルを見ていた長老は、ため息混じりに立ち上がる。
「このシンオウ地方の時間と空間には、多くの人々、多くのポケモンたちの想いが詰まっておる。素晴らしい世界じゃ。変える必要などないじゃろう」
「おばあちゃん」
「よう来てくれたの、シロナ。坊やもご苦労じゃった。お前さんのおかげでいろいろ助かったよ。ありがとうな」
「……いえ」
冷静になったアクタには、わかっていた。あのまま戦っていれば、自分は確実に負けていた。シロナが来てくれなかったら、きっとアカギは宣言の通り、壁画を破壊しただろう。
「そ、それじゃあぼく、ポケモンを回復させたいので」
「あ、ちょっと──」
シロナは制止しようとしたが、聞こえない振りをする。少年は逃げるようにその場を後にした。
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「恥ずかしい……」
ポケモンセンターで手持ちを回復させている間、アクタはベンチに座って落ち込んでいた。
負けるのはいい。ただ、感情的になったがゆえに実力を発揮できなかったことが、ポケモンたちを活かせなかったことが、恥ずかしくて、情けなかった。
「うなだれてるわね」
いつの間にか隣にシロナが座っていた。アクタは驚きのあまり飛び上がる。
「それにしてもギンガ団って……」
飛び上がる少年を意に介さず、シロナは会話を続ける。
「宇宙を創り出すとか、おかしな格好でおかしなことを言ってるだけ──そう思っていたけど、意外と困ったひとたちね」
「あの男……アカギは、世界を変えるとか言ってました」
「ありきたりね。要は世界征服でしょ? 独り占めとかそういうの、ダメよ」
「…………」
「ところでさ、遺跡、おもしろかった?」
「え? あ、はい」
シロナは、落ち込むアクタに気を遣っている様子はない。励ましてもらえるのでは──と考えていたのは、アクタの甘えだったようだ。
「よかったらなんだけど……ミオシティにね、図書館があって。大昔の本が読めるのね。きみがポケモン図鑑を完成させるのに役立つかも!」
それでも、アクタに対して親切なのは変わりない。
「……じゃあ、行ってみます。ミオシティですね」
「うん。コトブキシティから西に向かうのがいちばん早いわよ」
結果として。
ミオシティに行ったことで、アクタは心の傷を乗り越えることになるのだが、シロナがそれを予期していたのか──というのは、だれにもわからないことである。
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────
ここはミオシティ。
水面に映える街。
────
大きな運河が走る港町だった。橋の上には気持ちのいい風が流れている。
「きれいな海だね、イーブイ」
足元のイーブイに話しかけるが、つん、と顔を背けられた。それでもイーブイは海を眺めており、アクタの意見には同意しているようだ。
「さてと、ここにもジムがあるわけだけど……」
橋の先にはオレンジ色の屋根の建物がある。ミオシティポケモンジムだ。
「……行っていいんだろうか」
どうにも足取りが重い。イーブイはアクタの顔を心配そうに見上げた。
「ああ、ごめん。まだちょっと引きずってるだけなんだ。ちょっとこう、リフレッシュできるようななにか……」
などと頭を抱えていると、橋の向こうからジュンが走ってきた。またぶつかられるかと思ったが、ジュンはアクタの手前でピタッと止まる。
「おっと! アクタかよ!」
「最近、ぶつかってこないね。助かるよ」
妙なところでジュンの旅の成長を感じてしまった。
「この先のポケモンジムに挑戦するつもりだな! じゃあオレが挑戦できるかたしかめてやるよ! ついさっきジムバッジを貰ったばかりのオレがさ!」
「え、もうミオジムのバッジ取ったの? 早いなあ」
「いいからほら! バトル!」
いつもどおり唐突な誘いであるが、こうしたバトルがリフレッシュになるかもしれない。すくなくとも足元のイーブイはやる気だ。
「……よし、じゃあいこうかイーブイ!」
「ムクホーク!」
ジュンが繰り出したのは、尖った鶏冠を持った大きな鳥ポケモン。ムクバードが進化したのだろう。
「……うん、当然ながら手加減はしてくれないよね」
イーブイと比べると、ムクホークは明らかに種族として上だ。イーブイは善戦したものの、ほどなくして敗れてしまった。
戦果が振るわなかったのはイーブイだけではない。ジュンの手持ちポケモンはみんな、最終進化を迎えていた。フローゼル。ロズレイド。ゴウカザル。そして新たに加わったらしいヘラクロス。
ひとにぶつからなくなったことだけが、ジュンの成長ではない。
「よっしゃーッ! オレ、勝っちまったよ!?」
結果、今回のバトルは敗北を喫した。
「すごいなジュンくん……」
「呼び捨てでいいって。オレもかなり鍛えてるからなー! ──っていうか、お前のほうはちょっと、調子悪くね?」
ジュンは首を傾げた。
「お前、オレよりすこしだけ強いと思ってたのに……なんかいつもみたいなキレがないっていうか」
鋭い。アクタは「うーん」と言葉を濁しつつ、
「最近、嫌なバトルをしちゃって……負け、だったかな。それをまだ引きずってるのかも……」
「へえ! お前でもそういうことあるんだなあ。へへ! ダサいな!」
鋭いどころか、容赦がない。
「そんなんじゃミオジムじゃ勝てないぞ!」
「はい……」
「お前は鋼鉄島に行って鍛えたほうがいいと思うぜ! オレもジムに行く前に鋼鉄島で鍛えたしな!!」
「こうてつじま?」
曰く、ミオシティから船で行ける孤島らしい。むかしは鉱山だったそうだが、いまはもっぱらトレーナーの修行場として使われているという。
鋼鉄島を利用するトレーナーは多いようで、港からは専用の便が出ていた。
というわけで、アクタはその島を訪れる。
「うわ、すごくそれっぽいな」
険しい山肌の先に、洞窟が口を開けている。島の規模から、洞窟は深そうだ。
「これは長丁場になりそうだ……しばらく野宿かな」
意外にも、アクタのなかに不安はなかった。
ジュンに言われたとおり、バトルの調子は悪い。アカギに対して上手く戦えなかったことは、まだ落ち込んでいる。
そんなときだからこそ、いっそのこと険しい自然に身を任せていたいのだ。
「……新しいケチャップ買っておけばよかったな」
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さて、ひとりで気楽に修行をしようと、鋼鉄島の洞窟に乗り込んだアクタであったが。
「……きみは?」
いきなり入り口でひとと出くわしてしまった。
青い帽子、青い背広の男だった。スマートな立ち姿に、アクタは「かっこいい」と第一印象を覚える。
「あ、えっと、アクタです。ここで修行しようかと」
「わたしはゲン。いつもここで修行をする物好きトレーナーだよ」
ゲンと名乗った男は、洞窟内を見渡す。
「なにやらポケモンたちが騒がしい。ここで会ったのもなにかの縁だ。よかったら一緒に行こう」
「え、でも……」
ひとりで修行するつもりだったアクタは返事にためらう。
「遠慮することはない。アイテムはたくさん持ってるから、きみのポケモンが傷ついたらわたしが回復してあげるよ」
「いや、その、悪いですし……」
「気にするな。それに、わたしはここに慣れている。洞窟は入り組んでいるが、迷うことはないだろう。きみの修行の時間も短縮できると思うが」
「…………」
どうしよう。このひと、すごく詰めてくる。
「はい……じゃあ、よろしくお願いします」
アクタはもはや、頷くほかに選択肢はなかった。
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ゲンが使うポケモンはルカリオだった。
トバリシティジムリーダーのスモモが使っていたことが、記憶に新しい。彼に似合いの格好いいポケモンだ。
「ルカリオ、“メタルクロー”」
おまけに強い。
野生のいわポケモンをなんなく退ける、ゲンとルカリオ。
「……ゲンさんって、ここで修行する意味あるんですか?」
そんな質問を投げかけた。鍛える必要がないほどの実力だと思ったからだ。
「はは、そうだね。ここで修行するのはある意味、暇人だね」
「…………」
そういう意味で訊いたのではないのだが。
「ここには、はがねタイプの野生ポケモンがいるからね」
たしかに鋼鉄島に入って、クチートやハガネールといったはがねタイプを持つポケモンと何度か遭遇している。
「そういえば、ルカリオもはがねタイプですよね」
「はがねポケモンを使うポケモントレーナーが、はがねポケモンと戦うのは……自分と戦うようなものかな」
そんなものだろうか。アクタは首を傾げる。
「なるほど。はがねタイプのポケモンと戦いたいから、鋼鉄島に」
「まあ、そうだね。他人よりも自分に勝つのが難しいから」
「……はあ」
なんだか煙に巻かれている気がする。アクタが頭を抱えていると、ゲンは振り返って逆に尋ねてきた。
「きみも、
「え……」
「修行というのは、得てしてそういうものさ。──それにしても、ポケモンが騒ぐのはなぜだろう? 気になる……先を急ごうか」
歩き出すゲンを、慌ててアクタは追いかける。
なんだか不思議な男だった。
見透かしているようなのに、なかなか踏み込んでこない。アクタに興味があるのかないのかもよくわからない。
値踏みされるのは良い気分ではないが──それでもアクタは、ゲンについていった。単純に、ゲンの戦いが勉強になったからだ。
トレーナーとして強いのはもちろんだが、ルカリオへの指示が非常に最小限なのだ。まるで通じ合っているみたいだ。
なんとも羨ましい間柄だ。アクタは、自分の手持ちと通じ合えているだろうか。
──きっと、そうでもない。とにかくいまは、ポケモンから信頼を得ている自信がなかった。
「なるほど……」
休憩をはさみつつも、数時間は歩いただろうか。鋼鉄島のかなり奥に来たところで、不意にゲンは立ち止まった。
彼の視線の先には、ギンガ団。無骨な鋼鉄島には不似合いな、不思議なファッションのふたりが立っていた。
「ポケモンが騒ぐ理由はきみたちか。この鉱山にどんな理由でも、騒ぎを持ち込んでほしくないな」
非常に優しいゲンの忠告だったが、ふたりのギンガ団はまったく聞く耳を持たない。
「ギンガ団のおれらはすべてのポケモンを奪うのだ! なあ相棒!」
「おうブラザー! というわけでこのさびれた鋼鉄島のポケモン、ぜんぶ奪っちゃいます!」
「すべての喜び、そして悲しみを分かち合う。それがシンオウに生きるすべてのトレーナー、そしてポケモンの生き方だ。それを邪魔するものは許さない」
モンスターボールを手にするゲン。彼は横目でアクタを一瞥する。
「きみは下がっていたまえ」
「…………」
「はい」と頷きそうになってしまった。
でも、それは違う。それじゃダメなんだ。アクタはゲンの隣に並ぶ。
「ぼくも戦います」
「……わかった。アクタ! この勝負、絶対に勝つよ!」
少年が投げたボールは、いつものようにあらぬ方向へと飛ぶが、トゲチックは空から戦場へ駆けつける。
ゲンのルカリオは鋼鉄島を駆けまわり、ギンガ団のポケモンを翻弄する。
ふたりがギンガ団たちを追い払うのに、そんなに時間はかからなかった。
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「参った! すごいコンビネーションだ! おまえらふたり、そしてポケモンと……」
悪事を働こうとしていたこのふたりが、清々しい顔をしていたのはすこし腹が立ったが、改心してくれたというならばそれに越したことはない。
「相棒、帰ろうぜ!」
「だな、ブラザー! だいたい、いまギンガ団、どうなってるかわかんないぜ」
バトルが終わって、戦ってくれたラムパルドを「おつかれさま」と労う。ラムパルドは嬉しそうに、アクタに頭部を押しつけた。
「調子は良さそうだね。スランプは抜け出せそうかい?」
「え?」
ゲンは戦ったポケモンたちのために『キズぐすり』を用意しながら。
「きみの戦い方はなんだか迷いがあった。まるで自分のポケモンに対して気を遣っているみたいだった。だがさっきの戦いでは、それが無くなっていたよ」
「…………」
ゲンから受け取った『キズぐすり』をラムパルドに使う。
「あのとき──バトルの途中で何度もこちらを振り返った、ポケモンたちの不安そうな顔が、頭から離れないんです」
アカギとの戦いのときの話だ。
「ポケモンを不安にさせたことが──信頼を裏切ってしまったことが、どうにも悔しいんです。でも──」
「でも?」
「あのギンガ団たちを見て思い出したんです。自分のポケモンが奪われるかも、っていう恐怖を。……ってことはたぶん、ぼくは、まだポケモンたちと一緒にいたいんだな、って」
気が付くのが遅かった。
アクタに、トレーナーを辞められるはずがなかった。
「だったら、迷ったり悩んだりしてるヒマなんてないです。ポケモンたちを奪われないように強くならなきゃいけないんだ。だから、改めてお願いします、ゲンさん」
少年は、ゲンに頭を下げた。
「ぼくに修行をつけてください。アカギに勝たなきゃいけないんです」
「……顔を上げて」
ゲンは、少年の肩に手を置く。
「水臭いじゃないか。わたしたちはもう友だちだ。きみの満足いくまで、付き合うよ」
「……はい、ありがとうございます」
かくして。
アクタの鋼鉄島での修行は、ここでようやく始まった。
「ゲンさん、ルカリオと心が通じ合ってるみたいですごいですよね。やっぱり付き合いが長いからですか?」
「まあね。でもそれより、ルカリオは人間の『波動』を感じることができるから、わたしの思考も理解できるんだよ」
「……ズルくないですか」
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲチック ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
イーブイ ♀
なまいきな性格
ポリゴン2
ひかえめな性格