ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート21 鋼鉄島/波動の男

「あなたがギンガ団のボス、アカギね」

「…………」

 アカギは、モンスターボールをふところに収めた。

「やめておこう。お前と戦うには準備不足だ。きょうのところは退くとしよう」

「そう。賢明な判断ね」

「だが、そこの長老の態度でわたしの知りたいことはわかった」

 アカギは踵を返し、洞窟から去って行く。

「時間、空間の2匹が揃えばだれにも止められない……そういうことだな」

 シロナとすれ違う瞬間でさえ、アカギは無表情だった。

「おかしなことを言いおって……」

 座ってバトルを見ていた長老は、ため息混じりに立ち上がる。

「このシンオウ地方の時間と空間には、多くの人々、多くのポケモンたちの想いが詰まっておる。素晴らしい世界じゃ。変える必要などないじゃろう」

「おばあちゃん」

「よう来てくれたの、シロナ。坊やもご苦労じゃった。お前さんのおかげでいろいろ助かったよ。ありがとうな」

「……いえ」

 冷静になったアクタには、わかっていた。あのまま戦っていれば、自分は確実に負けていた。シロナが来てくれなかったら、きっとアカギは宣言の通り、壁画を破壊しただろう。

「そ、それじゃあぼく、ポケモンを回復させたいので」

「あ、ちょっと──」

 シロナは制止しようとしたが、聞こえない振りをする。少年は逃げるようにその場を後にした。

 

 

「恥ずかしい……」

 ポケモンセンターで手持ちを回復させている間、アクタはベンチに座って落ち込んでいた。

 負けるのはいい。ただ、感情的になったがゆえに実力を発揮できなかったことが、ポケモンたちを活かせなかったことが、恥ずかしくて、情けなかった。

「うなだれてるわね」

 いつの間にか隣にシロナが座っていた。アクタは驚きのあまり飛び上がる。

「それにしてもギンガ団って……」

 飛び上がる少年を意に介さず、シロナは会話を続ける。

「宇宙を創り出すとか、おかしな格好でおかしなことを言ってるだけ──そう思っていたけど、意外と困ったひとたちね」

「あの男……アカギは、世界を変えるとか言ってました」

「ありきたりね。要は世界征服でしょ? 独り占めとかそういうの、ダメよ」

「…………」

「ところでさ、遺跡、おもしろかった?」

「え? あ、はい」

 シロナは、落ち込むアクタに気を遣っている様子はない。励ましてもらえるのでは──と考えていたのは、アクタの甘えだったようだ。

「よかったらなんだけど……ミオシティにね、図書館があって。大昔の本が読めるのね。きみがポケモン図鑑を完成させるのに役立つかも!」

 それでも、アクタに対して親切なのは変わりない。

「……じゃあ、行ってみます。ミオシティですね」

「うん。コトブキシティから西に向かうのがいちばん早いわよ」

 結果として。

 ミオシティに行ったことで、アクタは心の傷を乗り越えることになるのだが、シロナがそれを予期していたのか──というのは、だれにもわからないことである。

 

 

────

 ここはミオシティ。

 水面に映える街。

────

 

 大きな運河が走る港町だった。橋の上には気持ちのいい風が流れている。

「きれいな海だね、イーブイ」

 足元のイーブイに話しかけるが、つん、と顔を背けられた。それでもイーブイは海を眺めており、アクタの意見には同意しているようだ。

「さてと、ここにもジムがあるわけだけど……」

 橋の先にはオレンジ色の屋根の建物がある。ミオシティポケモンジムだ。

「……行っていいんだろうか」

 どうにも足取りが重い。イーブイはアクタの顔を心配そうに見上げた。

「ああ、ごめん。まだちょっと引きずってるだけなんだ。ちょっとこう、リフレッシュできるようななにか……」

 などと頭を抱えていると、橋の向こうからジュンが走ってきた。またぶつかられるかと思ったが、ジュンはアクタの手前でピタッと止まる。

「おっと! アクタかよ!」

「最近、ぶつかってこないね。助かるよ」

 妙なところでジュンの旅の成長を感じてしまった。

「この先のポケモンジムに挑戦するつもりだな! じゃあオレが挑戦できるかたしかめてやるよ! ついさっきジムバッジを貰ったばかりのオレがさ!」

「え、もうミオジムのバッジ取ったの? 早いなあ」

「いいからほら! バトル!」

 いつもどおり唐突な誘いであるが、こうしたバトルがリフレッシュになるかもしれない。すくなくとも足元のイーブイはやる気だ。

「……よし、じゃあいこうかイーブイ!」

「ムクホーク!」

 ジュンが繰り出したのは、尖った鶏冠を持った大きな鳥ポケモン。ムクバードが進化したのだろう。

「……うん、当然ながら手加減はしてくれないよね」

 イーブイと比べると、ムクホークは明らかに種族として上だ。イーブイは善戦したものの、ほどなくして敗れてしまった。

 戦果が振るわなかったのはイーブイだけではない。ジュンの手持ちポケモンはみんな、最終進化を迎えていた。フローゼル。ロズレイド。ゴウカザル。そして新たに加わったらしいヘラクロス。

 ひとにぶつからなくなったことだけが、ジュンの成長ではない。

「よっしゃーッ! オレ、勝っちまったよ!?」

 結果、今回のバトルは敗北を喫した。

「すごいなジュンくん……」

「呼び捨てでいいって。オレもかなり鍛えてるからなー! ──っていうか、お前のほうはちょっと、調子悪くね?」

 ジュンは首を傾げた。

「お前、オレよりすこしだけ強いと思ってたのに……なんかいつもみたいなキレがないっていうか」

 鋭い。アクタは「うーん」と言葉を濁しつつ、

「最近、嫌なバトルをしちゃって……負け、だったかな。それをまだ引きずってるのかも……」

「へえ! お前でもそういうことあるんだなあ。へへ! ダサいな!」

 鋭いどころか、容赦がない。

「そんなんじゃミオジムじゃ勝てないぞ!」

「はい……」

「お前は鋼鉄島に行って鍛えたほうがいいと思うぜ! オレもジムに行く前に鋼鉄島で鍛えたしな!!」

「こうてつじま?」

 曰く、ミオシティから船で行ける孤島らしい。むかしは鉱山だったそうだが、いまはもっぱらトレーナーの修行場として使われているという。

 鋼鉄島を利用するトレーナーは多いようで、港からは専用の便が出ていた。

 というわけで、アクタはその島を訪れる。

「うわ、すごくそれっぽいな」

 険しい山肌の先に、洞窟が口を開けている。島の規模から、洞窟は深そうだ。

「これは長丁場になりそうだ……しばらく野宿かな」

 意外にも、アクタのなかに不安はなかった。

 ジュンに言われたとおり、バトルの調子は悪い。アカギに対して上手く戦えなかったことは、まだ落ち込んでいる。

 そんなときだからこそ、いっそのこと険しい自然に身を任せていたいのだ。

「……新しいケチャップ買っておけばよかったな」

 

 

 さて、ひとりで気楽に修行をしようと、鋼鉄島の洞窟に乗り込んだアクタであったが。

「……きみは?」

 いきなり入り口でひとと出くわしてしまった。

 青い帽子、青い背広の男だった。スマートな立ち姿に、アクタは「かっこいい」と第一印象を覚える。

「あ、えっと、アクタです。ここで修行しようかと」

「わたしはゲン。いつもここで修行をする物好きトレーナーだよ」

 ゲンと名乗った男は、洞窟内を見渡す。

「なにやらポケモンたちが騒がしい。ここで会ったのもなにかの縁だ。よかったら一緒に行こう」

「え、でも……」

 ひとりで修行するつもりだったアクタは返事にためらう。

「遠慮することはない。アイテムはたくさん持ってるから、きみのポケモンが傷ついたらわたしが回復してあげるよ」

「いや、その、悪いですし……」

「気にするな。それに、わたしはここに慣れている。洞窟は入り組んでいるが、迷うことはないだろう。きみの修行の時間も短縮できると思うが」

「…………」

 どうしよう。このひと、すごく詰めてくる。

「はい……じゃあ、よろしくお願いします」

 アクタはもはや、頷くほかに選択肢はなかった。

 

 

 ゲンが使うポケモンはルカリオだった。

 トバリシティジムリーダーのスモモが使っていたことが、記憶に新しい。彼に似合いの格好いいポケモンだ。

「ルカリオ、“メタルクロー”」

 おまけに強い。

 野生のいわポケモンをなんなく退ける、ゲンとルカリオ。

「……ゲンさんって、ここで修行する意味あるんですか?」

 そんな質問を投げかけた。鍛える必要がないほどの実力だと思ったからだ。

「はは、そうだね。ここで修行するのはある意味、暇人だね」

「…………」

 そういう意味で訊いたのではないのだが。

「ここには、はがねタイプの野生ポケモンがいるからね」

 たしかに鋼鉄島に入って、クチートやハガネールといったはがねタイプを持つポケモンと何度か遭遇している。

「そういえば、ルカリオもはがねタイプですよね」

「はがねポケモンを使うポケモントレーナーが、はがねポケモンと戦うのは……自分と戦うようなものかな」

 そんなものだろうか。アクタは首を傾げる。

「なるほど。はがねタイプのポケモンと戦いたいから、鋼鉄島に」

「まあ、そうだね。他人よりも自分に勝つのが難しいから」

「……はあ」

 なんだか煙に巻かれている気がする。アクタが頭を抱えていると、ゲンは振り返って逆に尋ねてきた。

「きみも、()()()()()()()()ここに来たんじゃないのかい?」

「え……」

「修行というのは、得てしてそういうものさ。──それにしても、ポケモンが騒ぐのはなぜだろう? 気になる……先を急ごうか」

 歩き出すゲンを、慌ててアクタは追いかける。

 なんだか不思議な男だった。

 見透かしているようなのに、なかなか踏み込んでこない。アクタに興味があるのかないのかもよくわからない。

 値踏みされるのは良い気分ではないが──それでもアクタは、ゲンについていった。単純に、ゲンの戦いが勉強になったからだ。

 トレーナーとして強いのはもちろんだが、ルカリオへの指示が非常に最小限なのだ。まるで通じ合っているみたいだ。

 なんとも羨ましい間柄だ。アクタは、自分の手持ちと通じ合えているだろうか。

 ──きっと、そうでもない。とにかくいまは、ポケモンから信頼を得ている自信がなかった。

「なるほど……」

 休憩をはさみつつも、数時間は歩いただろうか。鋼鉄島のかなり奥に来たところで、不意にゲンは立ち止まった。

 彼の視線の先には、ギンガ団。無骨な鋼鉄島には不似合いな、不思議なファッションのふたりが立っていた。

「ポケモンが騒ぐ理由はきみたちか。この鉱山にどんな理由でも、騒ぎを持ち込んでほしくないな」

 非常に優しいゲンの忠告だったが、ふたりのギンガ団はまったく聞く耳を持たない。

「ギンガ団のおれらはすべてのポケモンを奪うのだ! なあ相棒!」

「おうブラザー! というわけでこのさびれた鋼鉄島のポケモン、ぜんぶ奪っちゃいます!」

「すべての喜び、そして悲しみを分かち合う。それがシンオウに生きるすべてのトレーナー、そしてポケモンの生き方だ。それを邪魔するものは許さない」

 モンスターボールを手にするゲン。彼は横目でアクタを一瞥する。

「きみは下がっていたまえ」

「…………」

「はい」と頷きそうになってしまった。

 でも、それは違う。それじゃダメなんだ。アクタはゲンの隣に並ぶ。

「ぼくも戦います」

「……わかった。アクタ! この勝負、絶対に勝つよ!」

 少年が投げたボールは、いつものようにあらぬ方向へと飛ぶが、トゲチックは空から戦場へ駆けつける。

 ゲンのルカリオは鋼鉄島を駆けまわり、ギンガ団のポケモンを翻弄する。

 ふたりがギンガ団たちを追い払うのに、そんなに時間はかからなかった。

 

 

「参った! すごいコンビネーションだ! おまえらふたり、そしてポケモンと……」

 悪事を働こうとしていたこのふたりが、清々しい顔をしていたのはすこし腹が立ったが、改心してくれたというならばそれに越したことはない。

「相棒、帰ろうぜ!」

「だな、ブラザー! だいたい、いまギンガ団、どうなってるかわかんないぜ」

 バトルが終わって、戦ってくれたラムパルドを「おつかれさま」と労う。ラムパルドは嬉しそうに、アクタに頭部を押しつけた。

「調子は良さそうだね。スランプは抜け出せそうかい?」

「え?」

 ゲンは戦ったポケモンたちのために『キズぐすり』を用意しながら。

「きみの戦い方はなんだか迷いがあった。まるで自分のポケモンに対して気を遣っているみたいだった。だがさっきの戦いでは、それが無くなっていたよ」

「…………」

 ゲンから受け取った『キズぐすり』をラムパルドに使う。

「あのとき──バトルの途中で何度もこちらを振り返った、ポケモンたちの不安そうな顔が、頭から離れないんです」

 アカギとの戦いのときの話だ。

「ポケモンを不安にさせたことが──信頼を裏切ってしまったことが、どうにも悔しいんです。でも──」

「でも?」

「あのギンガ団たちを見て思い出したんです。自分のポケモンが奪われるかも、っていう恐怖を。……ってことはたぶん、ぼくは、まだポケモンたちと一緒にいたいんだな、って」

 気が付くのが遅かった。

 アクタに、トレーナーを辞められるはずがなかった。

「だったら、迷ったり悩んだりしてるヒマなんてないです。ポケモンたちを奪われないように強くならなきゃいけないんだ。だから、改めてお願いします、ゲンさん」

 少年は、ゲンに頭を下げた。

「ぼくに修行をつけてください。アカギに勝たなきゃいけないんです」

「……顔を上げて」

 ゲンは、少年の肩に手を置く。

「水臭いじゃないか。わたしたちはもう友だちだ。きみの満足いくまで、付き合うよ」

「……はい、ありがとうございます」

 かくして。

 アクタの鋼鉄島での修行は、ここでようやく始まった。

「ゲンさん、ルカリオと心が通じ合ってるみたいですごいですよね。やっぱり付き合いが長いからですか?」

「まあね。でもそれより、ルカリオは人間の『波動』を感じることができるから、わたしの思考も理解できるんだよ」

「……ズルくないですか」




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲチック ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

イーブイ ♀
 なまいきな性格

ポリゴン2
 ひかえめな性格
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