ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
翌日。
鋼鉄島での修行はすぐに終わった。アクタはバトルの勘をすっかり取り戻し、ゲンからはがねタイプについて多くを学んだ。
「もうお別れですか? もっとゲンさんの修行を受けたいのに……」
「はは、わたしから教えることはもうないよ。気づいていないかい? わたしときみとでは、そんなに実力差はないんだ」
そうだろうか。アクタには、ゲンはまだ実力を隠しているようにも見えるが。
訝しむ少年をよそに、ゲンは自分の荷物から楕円の物体を取り出した。
「よければこのポケモンのタマゴ、きみが貰ってくれないか?」
「急に!?」
急に、嬉しい話が飛び込んできた。
この修行のうちになんとなく感じていたが、このゲンという男、アクタに負けず劣らずマイペースである。
「ぜひ受け取ってほしい。きみとの友情の証に」
「……はい。喜んでいただきます」
アクタは荷物から抱っこひもを取り出す。胸元でタマゴを抱きしめた。
「そのタマゴから生まれてくるポケモンに、いろんな世界を見せてあげてほしい」
これで、まだ候補だが6体目の手持ちが埋まったことになる。どんなポケモンが生まれてくるのか楽しみだ。
「きみと一緒にいて、とてもおもしろかった。わたしもいろんな場所で自分の力、試そうと思う」
「……と言うと?」
「いままでこの島で、自分にばかり向き合っていた。あちこちを旅して、外の世界はもう知り尽くした──という気になっていたが、きみのようなトレーナーが出てきたんだ。また、旅を始めてみようかな」
「ぼくを基準で考えられても……でも、いいと思いますよ」
もしもいつか、本気のゲンと戦えるならば、きっと楽しいだろう。
「つぎは鋼鉄島の外で、ばったり会えたら素敵ですね」
「あはは、そうだな。──じゃあ、また会おう! 気をつけて帰るんだよ」
ちなみに。
この修行でノーコンは治らなかった。
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「オーッス! 未来のチャンピオン!」
ミオシティに戻って、さっそくアクタはジムに向かった。
「ここのジムリーダーははがねポケモンの使い手! はがねタイプは防御力が高くて、生半可な攻撃じゃびくともしないぞ!」
ゲンとの修行で、はがねタイプに関しては勉強させてもらった。タイプ相性的に有効な技は、いまのところドダイトスしか持っていないのだが、十分だ。
「十分、ドダイトスは強いからね。だからその……また頼ることになると思うけど」
控室で、アクタは媚びるようにドダイトスに木の実を与える。
「がんばろうね。きみの“じしん”ならどんなポケモンが相手でも勝てるさ」
ドダイトスは誇らしげに鼻息を鳴らし、木の実を咀嚼した。
「おお、自信満々だね! ……“じしん”だけに?」
アクタの手を噛んだ。
「痛たたたた。ごめんなさい……」
ミオジムは、リフトを使って移動する仕組みだった。何人かのジムトレーナーを打ち破り、アクタたちは勝ち進んでいく。
「あれがこうなって、こうで、こう……あ、こっちか」
アクタにとっては、ジムトレーナーとの戦いよりもリフトの仕組みが難解であった。頭をひねりながら、ようやく最奥にたどり着く。
「やっと来たか」
マントの男は、スコップを杖のようにして立ち上がった。
「バッジを5つ持ってるんだってな? クロガネのジムバッジは持ってるか?」
「はい、持ってます。コールバッジ」
「なるほどなるほど! わたしの息子を倒したか。まああいつはまだまだ未熟者だからな」
「ヒョウタさんのお父さんなんですか!?」
驚くアクタ。正直なところ、「似てないな」と思った。
「おう! あいつは弱いから、退屈なバトルだっただろう!? グハハハハ!」
豪放磊落に笑う。ヒョウタとはまるで正反対の性格だ。まあ、よくよく見れば面影のようなものが見えてこないでもないが……
「息子のヒョウタに代わって、このわたしトウガンが相手をしてくれようぞ!」
トウガンはモンスターボールから、ハガネールを繰り出した。鋼鉄島で野生の個体と何度か戦った。巨大な鉄の蛇のポケモンだ。
「トゲチック!」
アクタが投げたボールは真後ろに飛んで行く。トゲチックはパタパタと飛んでくる。
「ほほう、ほんとにノーコンなんだな」
「え?」
「さあ始めるぞ!」
トウガンはなぜか、アクタのノーコンを知っている様子であったが……追及を待たずして、バトルが始まる。
「トゲチック、“マジカルリーフ”!」
くさタイプの技は効果抜群にはならないが、ハガネールの特殊防御は高くない。トゲチックでも十分に戦えると踏んだのだが……
「良い技だが、ひこうタイプなら──“こおりのキバ”!」
冷気をまとった牙がトゲチックを襲う。
「うわ、そう来たか……トゲチック、まだやれる?」
トゲチックは振り向かないまま、勇ましく鳴き声を上げる。
「だったらもう一回! “マジカルリーフ”!」
2発目の攻撃は幸運にも急所に当たった。ハガネールの巨体が沈む。
「ガッツのある、いいトゲチックだな! まさかハガネールが負けるとは思わなかったぞ」
「えへへ、そうでしょう」
ポケモンが褒められると素直に喜んでしまう。
「だがこいつはどうだ? レアコイル!」
3匹のコイルが連結したような姿の、でんきタイプを持つポケモンだ。トゲチックにはでんき技を耐える余力はない。
「トゲチック、さすがに交代! ──ドダイトス!」
切り札であるドダイトスを頼る。じめんタイプならばでんき技は効かない、なにより──
「“じしん”!」
この技が強い。狙いどおり、レアコイルは戦闘不能になった。
「なんと!」
威力は4倍。レアコイルを瞬殺されてトウガンは感嘆する。
「むう……思ってたより手際がいいな。こっちはいつの間にか、最後の1匹か! ここからが本番だな!」
アクタはドダイトスを一旦戻す。
「トリデプス!」
「ラムパルド!」
真横に飛ぶモンスターボールだが、ラムパルドは慣れた様子でバトルフィールドに駆けつける。
「“しねんのずつき”!」
そしてトウガンの繰り出した、盾のような顔面のポケモンに突撃した。
「“てっぺき”──いわタイプにせよエスパータイプにせよ、トリデプスには大した効果はないぞ」
「わかってますよ。でも、なんていうか……」
このラムパルドは、ヒョウタのおかげで仲間になったのだ。
「ヒョウタさんのこと、弱いなんて言われて、ちょっと、むっとしました」
「……あ、そう」
「“がんせきふうじ!”」
やはり、防御力が高いトリデプスにはまともなダメージにはならない。
「トリデプス、“メタルバースト”!」
ラムパルドの勢いを利用した反撃。強烈なはがねタイプの技に、ラムパルドは奮戦虚しく戦闘不能になってしまった。
「あいつ、いい友達を持ったなあ」
しみじみと頷くトウガンをよそに、アクタはラムパルドを交代させる。もちろん、
「ドダイトス!」
ドダイトスとトリデプス。四足歩行の重量級が睨み合う。
「タイプ相性の話なら、こんどはこっちがマウント取れますよね?」
「ふっ、まだまだ! 諦めない!」
窮地においても不敵な笑みを浮かべるトウガンに、アクタは尊敬の念を抱いた。
「“じしん”!」
それでも、勝利したのはアクタだった。
:
「まあ言葉の綾というか、冗談というか……」
トウガンはバツが悪そうに、アクタから目を逸らす。
「ヒョウタが弱いってことはないのは、わかってる。ただまあ、男親ってのは素直に息子のことを褒められんものなのさ。特に、同業のジムリーダーともなればな」
「はあ。そういうもんですか」
「息子のことはともかく! わたしの自慢のポケモンたちを倒した、その強さを認め、このマインバッジを渡そう!」
盾を模したようなバッジだった。
「グハハハハ! 歳は取るものではないな! きみやジュンくんといった強いトレーナーがどんどん出てくるわい! そして、きみたちや息子のような若いトレーナーが増えれば、ポケモンの未来も明るい!」
「未来、ですか」
「そうとも! だが若い者には負けてられん。どれ、わたしは鋼鉄島でもう一度鍛えなおすかな」
「…………」
ノーコンの件といい、トウガンはアクタのことを知っているようだった。教えたのは息子のヒョウタか、あるいはゲンか。
「いつかまた勝負してください。ぼくももっと強くなります」
トウガンと固い握手を交わして、アクタはミオジムを後にした。
「おお、アクタ! ジムリーダーに勝ったのか! 大したもんだぜ!
相変わらず眼鏡の男は勝利を祝ってくれる。
「で、手に入れたバッジが6個か。強いトレーナーになったな! お前が『ポケモンチャンピオンを目指す!』と言ってもだれも笑わない! 応援するぜ」
この男はいつだってアクタを応援してくれる。ほんとうにありがたいのだが、どうもカントー地方で殿堂入りした経験については知り得ていないらしい。なんだか嘘をついているようで気が引ける。
「そーそー! お前の実力ならポケモンチャンピオン、目指せるぜ。もっとも、オレのほうが強いからあり得ない話だけどな」
ふたりの間に突然、ジュンが入ってきた。
「おお、ジュンか。きょうも元気だな!」
「へへっ、まあな! ──よしっ! アクタ、図書館に来いよ!!」
アクタはジュンに引っ張られ、ミオ図書館に連れて行かれた。
「ジュンくんって図書館とか行くんだ……」
「きょう、初めて行った! ていうか呼び捨てでいいって!」
ならばなぜ、ジュンはアクタの手を引いているのだろうか。読めない文字でもあるのだろうか。疑問の答えは、図書館の3階にたどり着いてわかった。
「来たか」
テーブルにいたのは、ナナカマド博士とヒカリだった。
「ほら、じいさん! アクタのやつ、連れてきたぜ」
「ど、どうも、お久しぶりです……」
「じゃあオレ、行くからさ!」
去ろうとするジュンだが、
「………………………………………………………………」
ナナカマド博士はじっとジュンの目を見つめる。なんと見事な無言の威圧だろうか。
「……うう、わかったよ」
諦めてジュンはテーブルに着いた。アクタも隣に座る。
「うむ……揃ったな」
少年少女を前に、ナナカマド博士は
「お前たちはすっかり忘れているかもしれんが、わたしはポケモンの進化について研究している」
そういえばそうだっけ。たしかにアクタはちょっと忘れていた。
「へー」
ジュンは初めて聞いたような反応だった。実際、初めて聞いたのかもしれない。
「だが、研究すればするほどわからないことが増えていくばかりだ」
博士はおもむろに席を立って、窓の外を眺めた。
「進化するポケモン、しないポケモン。なにが違うのか? 生き物として未熟なポケモンが進化するのか。だとすれば進化しないとされる伝説のポケモンは、生き物としての完成形か?」
ジュンがこっそり席を立とうとしたので、アクタは彼のマフラーを掴んで止めた。
「そこでだ」
ナナカマド博士は振り向く。男子ふたりは姿勢を正す。
ヒカリの視線は「男子!」といったふうにふたりを咎めている。
「シンオウ地方にある3つの湖には、幻のポケモンがいるという。それを見ることができれば、ポケモンの進化についてなにかわかるかもしれん。どうだ。おまえたち、幻のポケモンを探してくれないか?」
「……?」
ジュンは首を傾げる。
「オレはポケモン図鑑、貰ってないぜ」
「……渡す前に研究所を飛び出したのは、どこのだれだというのだ」
ため息をつくナナカマド博士。
「ジュンよ。いろんなポケモンをその目で見るのも強くなるために大事なことだぞ」
「あ、そう? そういうことなら……」
「あたしは当然、行きます!」
ヒカリは立ち上がって挙手をする。
「図鑑も完成に近づくし! アクタくんも行くよね!」
「え? あ、うん。ぼくももちろん」
アクタにしてみれば、問われることすら不思議なくらいだ。幻のポケモンなんておもしろそうなもの、見たいに決まっている。
「よろしい。では、湖は3つ。お前たちはちょうど3人。別れて調査しよう!」
ナナカマド博士はタウンマップを広げる。
話し合った結果、ヒカリはシンジ湖。ジュンはエイチ湖。アクタはリッシ湖に行くことに決まった。
──そんなときだった。
シンオウ全土を、地震が襲った。
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲチック ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
イーブイ ♀
なまいきな性格
ポリゴン2
ひかえめな性格
タマゴ