ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート23 リッシ湖/ギンガ爆弾2

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「……止まったか」

 壁に手をついてバランスを取っていたナナカマドは、ゆっくり図書館を見渡す。

「みんな大丈夫か?」

「なんだってんだよー!?」

 テーブルにしがみついたジュン。テーブルの下に潜ったヒカリ。そしてアクタは──

「アクタ、お前はそれ、大丈夫なのか?」

「だ──大丈夫です! ね! みんな! もう大丈夫だから!」

 勝手にモンスターボールから出たポケモンたちが、アクタを囲んでいた。

 イーブイ、トゲチック、ポリゴン2は、アクタの頭や背中にのしかかっている。ラムパルドは覆いかぶさっており、ドダイトスは背中の樹木を屋根のようにして、それぞれがアクタを守っていた。

 明らかに過剰な保護だった。

 当のアクタは、うずくまってタマゴを守るのがようやくだ。

「すごいなこれは……ポケモンにここまで心配されるのは、良いことなのか悪いことなのか判断が難しいところだが」

 その様子を興味深そうに眺めるナナカマド博士。

「つーかテレビ! テレビッ! なんか ニュース!!」

 ジュンは図書館に設置されたテレビを点ける。意外にも彼がいちばん冷静らしい。

 アクタはポケモンたちをボールに戻して立ち上がる。テレビに映っているのは、森から黒煙が上がる映像だった。

『──ごらんになったのは、リッシ湖にたまたま居合わせたカメラマンが撮影した映像のようです』

『驚きですよね。この爆発ですごいものが出てきたりなんかしちゃったりして』

「じーさん! 謎の爆発だってよ!?」

「うむう……なぜリッシ湖で……?」

 アクタは階段に向かって歩き出す。

「待ちなさい、アクタ!」

 足を止めて、振り返る。

「……外に出るのは構わない。街の様子が気になるしな。気をつけて階段を降りるんだぞ。まだ揺れるかもしれんからな」

 アクタは、どんな顔をしていたのだろう。

 ナナカマド博士の遠回しな「落ち着け」という命令に、少年はやがて冷静さを取り戻した。

 図書館、というかミオシティにはまだ地震による混乱が漂っていたが、これといった被害は発生していないようだ。

「……さっきの揺れは自然のものではないな」

 図書館の外。隣に立ったナナカマド博士が呟き、髭を撫でて考え込む。

「──おいおい、聞いたか! なんでもリッシ湖で謎の爆発が起きたそうだ!!」

「でももう大丈夫らしいぞ。なんだかお騒がせな話だな」

 住民たちの会話が耳に入る。

「……ギンガ爆弾です。たぶん」

「なに?」

「──じいさん!! オレ、行くぜ! なんかヤバい気がするんだ!」

 恐らく、ジュンも察しがついたのだろう。その場から走り去ってしまった。

「……まったく、ジュンめ。また飛び出しおってからに。──アクタ、ギンガ爆弾とは?」

「名前のとおり、ギンガ団が作った爆弾で……すごい威力なんですけど、その用途や目的まではわかっていないんです」

「リッシ湖で一体、なにが起こっているのか……どちらにせよ、地震を引き起こすほどの代物だ。リッシ湖も無事とは思えん」

「博士。ぼく、行きます」

 アクタはモンスターボールを手に取る。

「しかし……」

「ジュンはもしかしたら、リッシ湖に行ったのかもしれない。だとしたらひとりにさせるのは危険だ。それに、幻のポケモンのことも気になります」

「…………」

 ナナカマド博士は難しい顔で考え込んだが、やがて頷いた。

「いいだろう。だがなにが起きているのかまったく見当がつかん……くれぐれも無理はするなよ! わたしたちもシンジ湖の様子を見たらそっちに行くからな」

「……アクタくんなら、なにがあっても大丈夫だよね」

 不安そうなヒカリだが、

「大丈夫だよ。ぼくたちなら」

 モンスターボールを投げる。

 ボールは真上に打ち上がって、そして、アクタの頭の上に落ちた。

「痛い!」

「ほんとうに大丈夫!?」

 出てきたトゲチックは、手足で少年の肩を掴む。

「だ、大丈夫だって! それじゃあ行ってきますね! ──“そらをとぶ”!」

 トゲチックの身体は小さいが、それでも力強く、アクタの身体を空へと運んだ。

「……博士。さっきはああ言いましたけど、アクタくん……ほんとに大丈夫でしょうか? ものすごく頼りなく思えてきました。さっき地震が起きたときも、自分のポケモンたちに全力で守られてたし」

「あれも、信頼のひとつの形かもしれん。なんにしても、アクタに関してはそう心配することもないだろう。──ヒカリにはまだ話していなかったな」

「え?」

 この日、初めてヒカリは、アクタの経歴を知った。

「ええええええええ!?」

 

 

 リッシ湖。

 広大な湖が──あるべきはずが、水は軒並み干上がっており、眼前にはいくつかの水たまりを残した、湿った地面があった。

 コイキングが力なく跳ねている。

「さすがにギンガ団でもコイキングは要らないわねー!!」

「ハハハ!」

 爆弾の威力に気を良くしたギンガ団員たちが、数人残っている。

 そこに、怒れる少年が現れる。

「…………」

「ん? おい、あいつ……」

「なに見てんだよ、子ども! ポケモンでも置いて、とっとと失せろ!」

 腹立たしい。

 どうしてこんなやつらのために、ポケモンたちが苦しまなくてはならないのだ。

「もう、どうでもいいから、全員かかってこいよ」

 アクタはモンスターボールを構えた。

「へえ! あいつやる気だぜ!」

「アナタもコイキングのように跳ねさせてあげましょうか」

「ワレワレギンガ団に逆らうやつは、ボスのために懲らしめる!」

 ギンガ団のポケモンたちが襲い掛かってくる。アクタは複数のボールを投げた。あちこち妙な方向に飛んで行くモンスターボールだが、ポケモンたちはみんな、アクタとおなじ方向を見ていた。

「ドダイトス、“ウッドハンマー”!」

「トゲチック、“げんしのちから”!」

「ラムパルド、“しねんのずつき”!」

「イーブイ、“でんこうせっか”!」

「ポリゴン2、“ほうでん”!」

 瞬殺とも呼べる勝利。呆然と尻もちをついた団員のひとりに、アクタは詰め寄る。

「ギンガ爆弾ですね」

「あ、ああ、そうさ! ギンガ団の造った爆弾、縮めてギンガ爆弾はすごい威力だったぜ!」

 虚勢を張るように笑うギンガ団員。

「もう遅いわ! 湖に沈んでいた島。そのなかで眠っていたポケモン、もうギンガ団が捕えたぜ!」

「…………」

「ま、お前がだれでもいーよ。これからすごいぜ! トバリのギンガ団アジトにすべてのポケモンが! 伝説のポケモンが集まるぜ!」

「…………」

「お前ひとりがんばって、どうなるっていうんだ? ギンガ団はたくさんいるんだぞ。いまごろ仲間がフタバタウン近くの……そうだ、シンジ湖に向かってるぜ!」

「教えてくれて、どうもありがとう」

 この湖で起こったことも、ギンガ団の目的も、だいたいわかった。もはや負け犬でしかないギンガ団員たちに背を向けて、アクタは湖の洞窟に向かった。

 ふつうなら“なみのり”で湖を渡らないと入れない洞窟だが、水が干上がったいまでは徒歩で足を踏み入れることができる。

 そこにいたのは──

「ミッションは順調。ボスも満足なさるだろう。すべてはみんなのために。そしてギンガ団のために!」

 アカギではなかった。

 青い髪を立てた細身の男だ。

 岩の洞窟に不似合いな計器類を操作する男に、アクタは声をかける。

「おい」

「!」

 男は振り返る。

「お前の顔を知ってるぞ! ハクタイのギンガ団アジトに乗り込んできた子どもだな!」

 これまで散々、ギンガ団の邪魔をしたおかげで、アクタの顔は彼のような幹部に知れ渡っているらしい。目立つのは好きではないが、こういった場合、面倒な説明を省けるので手っ取り早い。

「フッ! マーズも情けない! こんな子どもに負けるとはな! だがギンガ団を邪魔するならどんな可能性でも潰す!!」

「こんな子ども──とか油断してたら、負かしますよ」

 アクタはモンスターボールを手にする。

「ぼくはアクタ。あなたたちのやろうとすることを、台無しにするために来ました」

 投げたボールは洞窟の壁にバウンドし、ポリゴン2を呼び出した。

「ボールをまともに投げられないくせに、生意気な口を……!」

 正論だった。アクタはちょっと恥ずかしくなる。

「我が名はサターン! マーズと同格だと思ったら大間違いだ!」

 繰り出されたのはゴルバット。

「ポリゴン2、“ほうでん”」

「あっ……」

 ──は、一撃で戦闘不能になった。

「……ふん! たまたま相性のいい技を持っていたくらいで、調子に乗るな! ドーミラー!」

 銅鏡の形をしたポケモン。はがねタイプを持っており、たしかに弱点が少ない。むしろ効果が薄いタイプのほうが多いくらいだ。

「ドダイトスに交代……いや、特性が『ふゆう』かもなあ。だったらポリゴン2、引き続き頼めるかな」

 頷くようにポリゴン2は電子音を鳴らす。

「“シグナルビーム”!」

 極彩色の光線がドーミラーを襲う。

「くっ……“ジャイロボール”!」

 反撃を意に介さず、ポリゴン2はつぎの攻撃態勢に。

「“ほうでん”!」

 電撃を浴びて、ドーミラーは地面に落ちる。

「……なるほど強い! ギンガ団に歯向かうわけだ」

 遅いなあ。

 とアクタは思った。

 少年の強さを認めるのが、危機感を覚えるのが、遅い。手持ちが2体も『ひんし』になって、ようやく本気になるのか。

「だが、これならどうだ! ドクロッグ!」

 青い細身の身体だが、かくとうタイプに相応しい隙のない立ち姿だ。喉の毒袋、腕の棘は妖しく、そして毒々しい。

「“かわらわり”だ!」

 その手刀は、ノーマルタイプのポリゴン2に効果抜群だった。強烈な一撃であったが、ポリゴン2はそれでも倒れない。

「よく耐えた! すごい! それじゃ……」

 “じこさいせい”や“テクスチャー”も選択肢にあるが、ここは力押しでいける。ドクロッグの進化前であるグレッグルとはなんどか戦っており、弱点が一緒ならば、このままポリゴン2に任せられる。

「“サイケこうせん”!」

 かくとうタイプ、どくタイプを持つドクロッグに対して、威力は4倍だ。その一撃でドクロッグは戦闘不能になった。

「くっ! このわたしが……!」

 膝をつくサターン。

()()()()にしかならないだと!」

「……え?」

 思わず聞き返す。

「作戦はすでに、つぎの段階に進んでいる! お前のような子どもがなにをしても、流れる時間は止められない!」

 ああ、しまった。

 リッシ湖にいた幻のポケモンはすでに捕まえられた。だから、嵐が去ったリッシ湖を詳しく調べようとすること自体、時間の無駄だったのだ。

 つぎはシンジ湖。その情報は、ギンガ団の下っ端から聞き出したばかりじゃないか。

「ギンガ団は3つの湖に眠っていた3匹のポケモン、そのパワーを使って新しい宇宙を生み出す! いまごろ仲間のマーズが、シンジ湖でつぎのポケモンを捕えているだろう……」

 サターンの言葉を聞き終わる前に、アクタは踵を返して走り出す。

 目指すはフタバタウンの近く、シンジ湖。果たして間に合うだろうか。




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲチック ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

イーブイ ♀
 なまいきな性格

ポリゴン2
 ひかえめな性格

タマゴ
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