ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート24 シンジ湖/ころもがえ

 フタバタウン付近。シンジ湖。

 シンオウ地方で、アクタが初めてポケモンたちと接触した場所だ。アクタはトゲチックの“そらをとぶ”で、湖の近くに降り立つ。

「ワレワレは悪いけれど時間稼ぎしちゃいます」

「ワレワレは世界平和のためにすべてを独占するのです!」

「お前を宇宙の彼方にぶっ飛ばします!!」

「この作戦を成功させて、ワレワレ、ボーナスを貰うのです」

 襲い来るギンガ団員を蹴散らした。もはや彼らは時間稼ぎにもならない。

「おお、アクタ! よく来てくれた!」

 ナナカマド博士は、アクタよりも先にシンジ湖に来ていた。

「博士、大丈夫ですか?」

「わたしは大丈夫だが、ギンガ団の連中が伝説のポケモンを……いま、ヒカリが先に行って食い止めてくれているんだ! アクタ! ヒカリを助けてやってくれい!」

 少年はしっかりと頷き、駆け出した。湖畔にはヒカリとポッタイシがいたが、ポッタイシはすでに戦闘不能になっている。

「アクタくん! ギ、ギンガ団が! 湖のポケモンを……」

「うん、事情はわかってる。大丈夫?」

「あ、あたしは……このひとに勝てなかったの……」

 ヒカリと相対していたのは、見覚えのある赤毛の女性だ。

「あなたの顔! イヤなこと思い出しちゃった! 発電所のことよ!! あなたのせいで酷い目に遭ったんだから」

 彼女は燃えるようなつり目でアクタを睨みつける。

「ええと……」

「なにその顔。あたしのこと憶えてるでしょ! いいわよ! もう一度自己紹介してあげる!」

 べつに、忘れているわけではないのだが。

「あたしはギンガ団幹部のマーズ! 強くて美しいの!」

 久しぶりに会ったが、やはり激しいひとだ。

「で、なに? なかよしカップルのつもりで助けに来たの!? 許さない! 許さない!!」

「いや、カップルとかじゃないですし……」

「タマゴまで抱いちゃってさ!」

「それは関係ないでしょ」

「とにかく、あなたもやっつけるから!」

「一回、落ち着きませんか?」

 マーズのポケモン、巨体を持つとらねこポケモン、ブニャットが襲い掛かってくる。アクタはドダイトスで迎え撃つ。

「ブニャット、“ねこだまし”!」

 前に戦ったときとは違い、アクタのハヤシガメはドダイトスに進化したのだが──それでもダメージが軽くなった気がしない。今回のマーズは本気なのだろう。

「続いて“きりさく”!」

「っ──! なんかめちゃくちゃキレてますけど、前に戦ったときあんた、手加減してたんでしょ!?」

「だからって負けるつもりはなかったわよ! ああああムカつく!!」

「…………」

 とにかくアクタを負かすまで、怒りは収まらないようだ。

 それにしても、皮肉なものだ。

 ムカつく? 許さない?

 そんなのはこっちのセリフなのに。

「ドダイトス、“じしん”!」

 その巨体による足踏みに、揺れる大地。ブニャットは大きなダメージを受ける。

「くっ……生意気に強くなって!」

「旅をしてれば、ぼくもポケモンもレベルが上がりますよ。それに──」

 アクタはマーズを睨みつける。

「『湖にいる伝説のポケモン巡りツアー』を邪魔されて、はらわた煮えくり返っているのは、こっちなんだよ!」

 マーズはひるまずブニャットに指示を出す。

「“きりさく”!」

「“ウッドハンマー”!」

 さながら、クロスカウンター。

 ──というわけではないが、ブニャットは“ウッドハンマー”のダメージで。ドダイトスはその反動ダメージを負い──しかし先に倒れたのはブニャットだった。

「また負けた……」

 ほとんど相打ちだったが、マーズは敗北感を覚えているようだ。

「これで、発電所でしょ! このシンジ湖でしょ! ギンガ団の幹部として……こんなことってありえない!!」

 引き続き激昂するマーズ。──かと思いきや、突然彼女は、深呼吸を始めた。

「……落ち着いて、マーズ。今回は湖に眠っていた伝説のポケモンをアジトに運ぶのがあたしの仕事……そうよ! 今回の仕事は大成功なのよ!」

 すでに問題を切り替えていた。

 ストレスのコントロールが急過ぎて、恐い。──と引くアクタをよそに、マーズは周囲の部下に指示を出す。

「お前たち、引き上げるよ! アジトでボスがお待ちかねよ!」

「え、あ、帰るんですか!?」

「帰るわよ」

 マーズは不機嫌そうな目で少年を睨む。

「3つの湖のポケモンはなにかしら結びついてるのね。サターンが派手にやってくれたから、ここの()()()()()ってポケモンが眠っていた洞窟が出てきたの。きっと仲間を助けようと目覚めたんでしょうけど、おかげでギンガ団、楽できちゃった!」

「……そのポケモンたちを使って、なにをするつもりなんですか」

 こんどは、睨む少年に対してマーズは不敵な笑みを向ける。

「さあて? 感情の神エムリット……意志の神アグノム……そして知識の神ユクシー……すべてを集めたギンガ団がなにをするのか、お楽しみに」

「ふざけん……!」

「バイバイ」

 アクタの怒りを聞く隙もなく、マーズはゴルバットで飛び去ってしまった。

 ほかのギンガ団たちも、各々去って行く。

「…………」

 また、止められなかった。

 また、間に合わなかった。

 ギンガ団への──あるいは自分への怒りに打ち震えるアクタだったが、残念ながらそれをぶつける先が、ここにはなかった。

 

 

「そうか……リッシ湖でも、伝説のポケモンがギンガ団に連れ去られたというのか……」

 嵐が過ぎ去ったシンジ湖にて、ナナカマド博士と合流する。

「つぎはきっとエイチ湖です。いや、いままさに作戦が始まっているかもしれない。ぼく、これから現場に向かいます」

「まあ落ち着きなさい。相手はおとなの集団だ。お前たちが無事だっただけでも十分に嬉しいぞ」

 自分が発した「お前たち」という言葉に、ナナカマド博士ははっとする。

「……そうだ、ジュンは!? 一緒じゃないのか?」

 そういえば、ミオシティで別れたとき、ジュンは「なんかヤバい気がする」とか言いながら走り去った。てっきり、リッシ湖に様子を見に行ったのかと思ったが、現場では会わなかった。

「──そうか、エイチ湖だ」

 3つの湖を3人で調査する。ジュンはエイチ湖の担当に決まったのだ。もし彼が、リッシ湖の爆発で「エイチ湖も危ないのでは」と感じたのならば、凄まじい勘だ。

「むう……エイチ湖に向かったとすれば、ジュンが心配だ!」

「だからぼくが行かなきゃ……!」

「アクタ、とにかくきょうはもう休むんだ。日も暮れてきている。フタバタウンにホームステイ先があるんだろう?」

「休んでいる場合なんかない! エイチ湖にいるポケモンが危ないんです!」

「アクタ!」

 ナナカマド博士は、少年を怒鳴りつけたかと思うと、その口に「なにか」をねじ込んだ。

「もがっ」

 それは、柔らかくて、甘くて──

「…………」

「『いかりまんじゅう』。わたしの大好物だ」

「…………」

「キッサキシティの近く、エイチ湖までの道は厳しい。テンガン山を通過する必要があり、その先の216番道路、217道路は並のトレーナーでは踏破できまい。ジュンの成長のため、わたしはあいつをエイチ湖に挑戦させようと思ったのだ」

 咀嚼する。

「ギンガ団にしてもそうだ。あの愚か者どものなかに、エイチ湖までたどり着けるようなトレーナーはそういまい。やつらの作戦もすぐには始まらないはずだ」

 いかりまんじゅうを。そして博士の言葉を咀嚼する。

「わたしもジュンのことが気がかりだ! だからアクタにもエイチ湖に行ってほしい。ゆっくり休んで、万全の状態でな」

「……はい」

 ようやくまんじゅうを呑み込んだ。おいしかったが、お茶が欲しくなった。

「そうします。ポケモンたちもいっぱい戦ってくれたし、休ませないと」

「うむ、そうするといい」

 話がまとまったところで。

「あのう、アクタくん」

 おずおずとヒカリが話しかけてくる。

「ええと、助けてくれて、どうもありがとうございます」

「あ、うん。……どうしたの? なんだかよそよそしいな」

 なにかを察したのか、ナナカマド博士はふらりとその場を離れ、アクタとヒカリとふたりきりにする。

「……ははあ。マーズさんがぼくらのこと、『なかよしカップル』とか言ったのを気にしてるんだね」

「え? いや、ぜんぜん違いますけど」

 ぜんぜん違った。

 これは恥ずかしい。

「あのね、アクタくん、カントー地方でチャンピオン……じゃなくて、殿堂入りしたことあるって」

 ああ、その話か。バレてしまったのか。

「ごめん。言えなくて」

 騙していたわけではないが、黙ってはいた。

「ヒカリさんともジュンくんとも、対等な友だちでいたかったんだ」

「いいの。あたしこそ、先輩面しちゃって……恥ずかしい……」

「うん、おもしろかった」

「はあ!?」

 うっかり本音を漏らしたアクタに、ヒカリが詰め寄ってくる。

「やっぱりおもしろがってたんじゃない! だいたい、殿堂入りトレーナーであることを隠すにしても、せめて経験者っぽく振る舞えばいいじゃない! あのノーコンもわざと!?」

「あれはマジ」

「それはそれでどういうことなのよ!」

「ええと……そう! そもそもさ! ナナカマド博士が話してくれれば良かったんじゃないかな?」

 ヒカリの矛先を逸らそうとする。遠くで湖を眺めていたナナカマド博士が、びくっと肩を揺らした。

「そ、それもそう! 博士、どうして言ってくれなかったんですか!?」

「……おもしろそうだったから」

「ちょっと!」

 アクタとナナカマド博士は、悪いところが似ていた。

 

 

「おかえり、アッくん」

「た、ただいま、アヤコちゃん」

 ずいぶんと久しぶりに、フタバタウンのアヤコの家に帰った。アヤコと会ったのは、ヨスガシティのポケモンコンテスト以来だ。

「急に帰ってきてごめんね」

「いいのよ、ナナカマド博士から連絡もらってたし。ご飯できてるわよ」

 博士の気遣いに感謝だ。

「ポケモンたちにもご飯あるわよ」

「ほんと? 助かるなあ。じゃあ、外で……」

 アクタのポケモンは、なんと5体。それにドダイトスやラムパルドのサイズはおとなにも匹敵する。家のなかでは狭いのだ。

 6体目はタマゴ。抱いたタマゴは、ずいぶんと暖かい。

「ポケモンたち、ちゃんと育ってるわね」

 月の下。アヤコが作ったポケモン向けの料理やポフィンを、みんなが美味しそうに食べている。

「そうでしょ。みんないい子なんだ」

「あらあら、アッくんがそういうふうに育てたんじゃないの?」

「え? あー……そうなるのかな」

 首を傾げるアクタ。

 ポケモンたちを「しつけよう」と思ったことはほとんどない。育成に悩むことはあっても、苦しんだことはない。

「夢中になってポケモンたちと向き合っただけだよ。ぼくが……というより、みんなががんばってくれたんだと思う」

「……そっか」

 夕食はハンバーグだった。

 ケチャップをたっぷりかけたかったが、「アヤコちゃんの手料理に失礼はしないように」という母の言葉を思い出し、()()()()にとどめておいた。

 家のベッドは、ポケモンセンターのものよりも広い。トゲチックとイーブイとタマゴと一緒に眠った。

 ずっとここで暮らせたら、どれほど幸せだろう。

 だけどつぎの日、朝食のあとにすぐ、旅を再開することにした。

「アッくん、つぎはキッサキシティに行くんだって? それじゃあ、新しい服に着替えて行ったら? これからの時期、うんと寒くなるし」

「ありがとう。──って」

 差し出されたのは、「着替え」どころじゃない。

「ほら、着てみて。サイズはちょうどいいはずよ」

 赤い長そでのシャツ。黒いズボン。──さらに、青いコート。黒いランニングシューズ。白いマフラー。白いリュック。

「用意しすぎじゃない!?」

「わあ! やっぱり似合う! ヨスガシティでタキシードを仕立てたとき、アッくんに似合いそうな服をいろいろ思いついちゃって。ついたくさん買っちゃった!」

 靴やリュックまで新調することになろうとは……しかしさすがは一流コーディネーターであるアヤコの見立て。鏡のなかの自分は、我ながら様になっていると思う。

「……ありがとう、アヤコちゃん。大切にする」

 赤いハンチング帽を被る。この帽子に関しては元から使っていたものだ。

「ニュースとか見てると、ギンガ団っていうひとたちがあちこちで良くないことをしているみたいで、なんだか心配なんだけど……」

 アクタの新しい服を、ポケモンたちは珍しそうに匂いを嗅いでいた。それがくすぐったくて、アクタは身をよじって笑う。

「あははは! ──痛たたたた。ドダイトス、噛んでるよ」

「──大丈夫よね! だってあなたはひとりじゃないんだもんね!」

 そんな光景が、アヤコには微笑ましく、そして頼もしく見えたのだ。

「うん。みんなと一緒なら、なんだって大丈夫──そうだ」

 新しいリュックに荷物を移す作業で、アイテムのなかに光を放つ石を見つけた。

 鋼鉄島の修行中に見つけた、『ひかりのいし』だ。アクタはそれを、トゲチックに差し出す。

「あのね、これで進化できるって……」

 アクタの言葉を待たずして、トゲチックは『ひかりのいし』に触れた。

 同時に、トゲチックの身体そのものが光り出す。

「わ、始まっちゃった」

「そっかあ、コンテストでがんばってた、あのトゲピーが……」

 白い翼は、腕と一体化してより大きく。

 その体躯も、アクタを覆い隠せるほどに。

「──じゃあアヤコちゃん、行ってきます。つぎ帰ってくるときは、もっとゆっくりするね!」

 ほかのポケモンたちをモンスターボールに戻す。アクタの肩を、白いポケモンの後ろ足が掴んだ。

「トゲキッス、“そらをとぶ”!」

 フタバタウンの空に、少年たちが飛び立った。

「いってらっしゃい! 気をつけてね!」

 どうか、無事に帰ってきてほしい。アクタたちが見えなくなるまで、アヤコは祈り続けた。




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲキッス ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

イーブイ ♀
 なまいきな性格

ポリゴン2
 ひかえめな性格

タマゴ
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