ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート26 キッサキシティ/気合いのバトル

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 ここはキッサキシティ。

 氷きらめく冬の街。

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「アクタさん、熱があったんですよ。きょうは一日中寝てください。一歩たりとも動かずに」

 文字どおり、ポケモンセンターに()()()()()()アクタは、いつもの宿泊施設とは違って広いベッドに寝かされた。

 医務室らしい。訪れるのは初めてだ。

「ぼくはべつに、元気なんですけど……」

「そうは見えません。顔、赤いですよ」

 ベッドのかたわらで、スモモは腕を組んで立つ。

「トレーナーたるもの、体調管理が肝要です。具合が悪いときは休む。常識です」

「それはそうですけど……でもぼく、急いでて……」

 ギンガ団がエイチ湖を狙っているのだ。キッサキシティまで来て、寝ている場合ではないのだが……

「…………」

 スモモは無言でポキポキと指を鳴らした。

「…………」

 アクタは閉口した。

「気持ちはわかります。でも焦っていはいけません。万全ではない体調で挑戦しても、待っているのは敗北です」

「……はい」

「安心してください。わたしが話をつけておきます」

 妙に頼もしいスモモ。彼女は、ギンガ団の作戦について知っているのだろうか。トバリシティにはギンガ団のアジトがある。スモモがギンガ団を調査していたとしても不思議ではない。

「ジムチャレンジですよね。キッサキのジムリーダー、スズナさんとはよくバトルの練習をするんです。アクタさんが快復次第、挑戦に応じてくれるよう頼んでおきますよ」

 ぜんぜん違った。

「いやそうじゃなく……」

「気にしないでください。スズナさんもきっとあなたに興味を持つと思います。──さあ、寝てください。寝れば寝るだけ快復が早くなりますよ」

 まだボールに戻っていないグレイシアは、ベッドに飛び乗ったかと思うと、枕元に座り、アクタの額に尻尾を乗せた。

「あっ、冷たい……」

「それじゃ、あたしは行きますから。勝手にベッドを抜けだしたら、えっと……割りますよ」

「なにを!?」

 どうやらアクタに選択権はない。諦めて、目をぎゅっと閉じた。グレイシアの尾に熱を奪われ、気持ちがいい。

「結構です。それでは失礼します。お大事にされてくださいね!」

 スモモは医務室から去って行く。

「……くしゅ!」

 ドアの外からくしゃみの音がした。

「そっちも風邪引いてるじゃないですか」

 

 

 体調管理には気を遣っている──つもりだったが、これでは笑い者だ。

 反省するアクタ。しかし実際のところ、どれだけ体調が万全だろうと、吹雪のなかを長時間歩きとおせば「衰弱」して然るべきである。スモモに助けられなければ、もっとひどい状態になっていたはずだ。

 ともかく身体が丈夫なことはたしからしい。翌朝には熱は下がっており、すっかり快復していた。

「お世話になりました」

 ポケモンセンターの、医務室職員の女性に頭を下げる。

「気にしないで。キッサキはいつも気温が低いから、体調を崩すトレーナーは多いのよ。──でも、ポケモンが看病してくれるのは珍しいかも」

 グレイシアはかなりの時間、アクタのそばに付いていてくれたらしい。

「心配かけちゃったかな。ありがとうね、グレイシア」

 モンスターボールに声をかける。きっとグレイシアのことだから、つん、とそっぽを向いていそうだけど。

「ポケモンたちの回復は終わっているわ。リオルはタマゴから孵ったばかりなのよね? 健康診断をしておいたわ」

「はい。ありがとうございます」

「アクタさん、リオルを持っているんですね」

 スモモが話に入ってくる。

「でも、生まれたばかりですか。もしちゃんと育っていたら、今回のジム戦で活躍できそうなのに──あっ、スズナさんはこおりタイプのポケモン使いなんです」

「……はい」

「スズナさんってすごいですよね! 苦手なかくとうタイプに強くなるため、あたしと

練習したかったそうです」

「いいから。寝てくださいよ」

 医務室。

 今朝までアクタが寝ていたベッドには、こんどはスモモが横になっていた。

「きのう、言ってくれたじゃないですか。トレーナーたるもの、体調管理が肝要だ、って。具合が悪いときは休む。常識です」

「あたしはぜんぜん具合悪くありません。熱もほとんどないですし……くしゅ!」

「ほら、くしゃみしてるじゃないの。それに微熱を甘く見ちゃダメよ。まったく、スモモさんはいつも……」

 呆れる職員の女性。どうやら、スモモが薄着でキッサキシティを訪れるのはしょっちゅうなことらしい。それで風邪を引かないほうが難しいだろう。

 というか、軽い風邪で済んでいることに、アクタは戦慄してしまうのだが。

「アクタさん。スズナさんにジム戦のことは話しています。あたしのことは気にしないで、すぐにでもジムに行ってください」

 スモモは、アクタに真剣な眼差しで言い含める。

「いいですか。必ず行ってください。なにがあっても遅れないで。ぜったいに、スズナさんのご機嫌を損ねるようなことがあってはなりません」

「…………」

 ジムリーダーのスズナとはよほど恐ろしい御方なのだろう。とにかく、エイチ湖への到着はさらに遅れることになるようだ。

 

 

 キッサキシティもまた、雪が積もった極寒の街だ。アヤコに貰ったコートがほんとうにありがたい。雪に足跡をつけながら、街の中央に位置するキッサキジムへ。

「オーッス! 未来のチャンピオン!」

 こんなところにまで、いつもの眼鏡の男がいた。

「ここのジムリーダーはこおりタイプの使い手! 燃える炎の技で氷を溶かしてやれ!!」

「ほのおタイプの技、持ってないんですよ」

「じゃあ、とにかく気合だな! 気合で身体ごとぶつかれーッ!」

「じゃあじゃねえよ」と思いつつ、いつもどおりの彼の応援に感謝する。

 スモモの言ったとおり、アクタの来訪は「予約」されていたらしく、控室を経由することなくジムチャレンジが始まった。

 ジムトレーナーたちを退けつつ、雪玉に阻まれた迷宮を進む。

「わかんない、わかんない……」

 やはりものすごく迷ったが、とにかくアクタは走って、手あたり次第に雪玉を砕いた。

 雪まみれになりながらも、ようやくジムの最奥にたどり着く。

「あ、来た来た。遅かったじゃん」

 ふたつ結びのおさげ。白いシャツにミニスカート。スモモと会った後なので感覚が麻痺しているが、彼女もなかなか薄着である。

「あんたがアクタだよね。スズナに挑戦?」

「はい、お願いします」

 コートに積もった雪を払って、威儀を正す。

「いいよ! 強いひと待ってたし。──強いんだよね? スモモから聞いてるよ。けっこうやるんだって? だけどあたしも気合い入ってるから強いよ?」

「気合い、ですか」

「そ。ポケモンもオシャレも恋愛も、ぜんぶ気合いなのッ! そこんとこ見せたげるから、覚悟しちゃってよね!」

 スズナが投げたモンスターボールからは、ニューラが飛び出した。アクタもボールを投げるが、真後ろに飛んで行った。

「あわわわわ」

 思わずボールを追いかけるアクタは、氷の床の坂道をツルツルと滑って行く。

「あはははは! ほんとにノーコンだ! ウケる!」

 けたけたと笑うスズナ。これも事前にスモモから聞いていたのだろう。

 アクタはトゲキッスに連れられて、バトルフィールドに飛んで戻ってきた。

「へえ、強そうなポケモンじゃん。──じゃあ、やろっか」

 ふたりのトレーナー、2体のポケモンはそれぞれ適切な位置に着き、ジムバトルが始まる。

「ニューラ、“こおりのつぶて”!」

 こおりタイプの先制攻撃。ニューラが撃ち出した氷塊は、ひこうタイプを持つトゲキッスに効果抜群だ。

「トゲキッス、“はどうだん”!」

 しかしアクタも負けない。あく・こおりタイプを持つニューラに、かくとうタイプの技は絶大な効果を発揮した。光弾の一撃でニューラは戦闘不能になった。

「ふーん、なる。おっけー。じゃあつぎは、イノムーね」

 2体目は、長い体毛に覆われたいのししポケモン。こおりタイプのポケモンであれば、相性的にはトゲキッスが不利なのは変わりないが。

「まだいけるかい?」

 トゲキッスは振り返らずに、イノムーを見据えて頷いた。

「よし、じゃあ“はどうだん”!」

 再度放った光弾は、イノムーに命中したが──

「“ゆきなだれ”!」

 波のような雪が迫り、トゲキッスに覆いかぶさった。“ゆきなだれ”は、先に技を受けていれば2倍の威力を発揮する技だ。高威力の技を浴び、トゲキッスはそのまま戦闘不能なってしまう。

「“はどうだん”ね。便利なかくとう技だけど、それ一本で切り抜けられると思わないでよね」

「……ドダイトス」

 投げたモンスターボールはアクタの足元にバウンドしつつも、どうにかバトルフィールド内にドダイトスを呼び出した。

「“ウッドハンマー”!」

 樹木の一撃が、イノムーを戦闘不能にした。一応、じめんタイプを持つイノムーには効果抜群である。

「ここでくさタイプか! ウケんね!」

 くさタイプはこおりタイプに相性が悪い。それに、じめんタイプを持つドダイトスには、こおりタイプは威力4倍だ。今回はドダイトスの出番がないかも、とアクタも思っていたのだが──

「ウケないでください。けっこう緊張したんですからね? イノムーのほうが素早かったら破綻してたわけですし」

 ドダイトスをボールに収める。そしてお互い、3体目のボールに手をかける。

「ユキノオー!」

「グレイシア!」

 両者、こおりタイプのポケモン。先に動いたのはグレイシアだ。

「“こおりのキバ”!」

 進化したばかりの初陣。グレイシアは新たに習得したこおりタイプの技を繰り出す。くさタイプを持つユキノオーにそれなりに効果を発揮するが──

「ユキノオー、“きあいだま”!」

 太い腕から発射される光球。寸でのとことで、グレイシアは回避した。

「ちぇっ、外れちゃったか」

「……っぶね」

 かくとうタイプの高威力の技だった。グレイシアが喰らえば一撃で『ひんし』になっていただろう。

「恐いなあ。どうする、グレイシア? ここは一旦、交代する?」

 グレイシアはアクタを睨みつける。

「あはは、冗談だって。やれるだけやってくれよ」

 イーブイは複数のタイプへ進化する。だからこそ進化先については、ずっと悩んでいた。

 こおりタイプのグレイシアに進化したのは偶発的なものだったが、アクタにしてみれば、()()()()()()()()()、と悩みがひとつ消えた瞬間であった。

 今後のことは特に心配していない。

 意欲、実力、経験値。イーブイが──グレイシアが第一線で活躍できることに、アクタはなんの疑いも持っていない。

「グレイシア、“こおりのキバ”!」

 再度放った牙は、急所に当たった。ユキノオーの巨体が倒れる。

「よし、グレイシア! すごい!」

 さすがのグレイシアも、飛び跳ねて喜ぶ。スズナは腕を組みつつ、悩まし気にユキノオーをボールに戻した。

「……ふーん。あるいはさっきの“きあいだま”さえ当たってれば……ううん、ツイてるだけじゃないよね。思ってた以上にやるじゃん、アクタ」

「え? あ、どうも……」

 スズナが繰り出す4体目。それは見ただけで悪寒を覚えるような、冷ややかかで、厳かで、美しいポケモンであった。

「ユキメノコ──これが最後ね! とっておきのポケモンで相手してあげるんだから!」

「それじゃあこっちも──ラムパルド!」

 こおりタイプ相手ならば、いわタイプはとっておきだ。ラムパルドはバトルフィールドに降り立って咆哮する。

「ユキメノコ、“シャドーボール”!」

 黒い光弾を受け止めつつ、ラムパルドはユキメノコに迫る。

「ラムパルド、“ダメおし”!」

 あくタイプの技で大きなダメージを与える。

「あなたの気合い伝わってくるけど、負けないから! “ふぶき”!」

 強力な冷気がラムパルドを包む、

 それでも。それでも。アクタとラムパルドは止まらない。

「こっちのセリフだ! 寒い思いして、風邪引いて、恋までしそうになってここまで来たのに、負けてたまるか!! “がんせきふうじ”!」

 最後のはすこし違うのかもしれないが、スズナやラムパルドは聞き流す。岩はユキメノコの頭上に降り注ぎ、そのまま戦闘不能にした。

「すごいんだ! タイプ相性で有利なことを差し引いても、いい気合い! ちょっと尊敬するかも」

 ユキメノコをボールに戻すスズナは、晴れやかだった。

「気合い……ですか? えへへ、そうかな」

 ラムパルドの頭部を撫でて労いつつ、アクタは賞賛の言葉に照れる。

「うん。なんだかあなたの気合い──そういうものに押し切られちゃった」

 アクタは、ときおりノリや勢いで戦うところがある。スズナはそれを良いようにとらえてくれているようだ。

「そうだ、コレあげないと……!」

 スズナが差し出したのは、グレイシャバッジ。氷山を模した形が、テンガン山を彷彿させる。

「ほんと、楽しかったよ! スモモから聞いてたとおり、気合たっぷりなトレーナーだね!」

「あはは、また気合いですか。スズナさんは、気合いを大事にしてるんですね」

 思わず笑うアクタだが、対してスズナは急に赤面して、はにかんだ。

「……こおりタイプのジムリーダー って、もっとクールな感じで振る舞ったほうがいいのかな?」

「え」

「なんかそのへん、難しくて……」

「き、気にしてるんですか」

 突然しおらしくなるスズナに、アクタは胸が苦しくなる。

 ギャップというものに疎いアクタは、よく意味も分からず、恋をしてしまいそうになった。




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲキッス ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

グレイシア ♀
 なまいきな性格

ポリゴン2
 ひかえめな性格

リオル ♀
 わんぱくな性格
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