ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

59 / 161
レポート27 エイチ湖/ギンガ団に栄光あれ

 ポケモンセンターでの回復中に。

「あっ、グレイシャバッジ! スズナさんに勝ったんですよね」

 すっかり元気になったスモモがいた。医務室で別れたのは一、二時間ほどだが、もうこんなに快復できるものなのか。アクタは彼女の体力に戦慄した。

 あるいは、医務室から無断で抜け出してきたのか。

 もっと寝ていなくては──と説得しても無駄だろう。

「おめでとうございます。そのうち、あたしの修行にも付き合ってくださいね」

「それはポケモンのですよね?」

 体力的なトレーニングであれば、彼女にはついていけそうもない。

 スモモとのやり取りもそこそこに、ポケモンたちの回復が終わり次第、アクタはキッサキシティを出てエイチ湖に向かった。

 結論からいえば、どうやら間に合わなかったようだ。

 雪原に囲まれた湖。そのほとりには、見覚えのある女性と、膝をついたジュンの姿があった。

「ちくしょう! ギンガ団めッ!!」

 戦闘不能になったゴウカザルが、雪原に伏している。

「ふぅーん、もう終わり? あなたのポケモンはまあまあでも、あなたが弱いものね」

「なっ……!?」

「それでは湖のポケモン助けるなんて無理な話……ポケモンチャンピオンだって諦めたほうがいいわね」

 ジュピターの深いため息は、白くなった。

「それにしてもここ、寒すぎるわ。トバリのアジトに戻りましょう」

「待てよ」

 ジュンに背を向けたジュピターを、アクタは呼び止める。

「なにを勝手に終わろうとしてんだ」

「あら、あなた? ハクタイで会ったわね」

「アクタです」

「そう。じゃあアクタ、いい? これからギンガ団はみんなのためにすごいことをする。だからポケモンがかわいそうとか、くだらないことであたしたちの邪魔をするの、やめてほしいわけ」

「くだらないだと……?」

 少年の眉間にシワが寄る。

 ポケモンのことを特に大切にするアクタの前で、よくのたまえたものだ。思わずモンスターボールに手が伸びるが──

「いや、そういうのはもういいわ。エイチ湖にいた伝説のポケモンは手に入れた。すでにトバリのアジトに届いているころだし──ああ、アジトに乗り込んできても意味ないのよ。部外者が足を踏み入れるような場所じゃないから」

「いいや、行きます。伝説のポケモンたちのことはまとめて助ける。あなたちのこともみんなやっつける。覚悟しておけ──って、アカギさんに伝えておいてください」

 ボスの名前を知っているアクタに、ジュピターは眉をひそめるが……

「子どもの妄言に付き合ってられるか。では失礼」

 睨む少年を相手にすることなく、ジュピターはゴルバットともに飛び去ってしまった。

「ちっ。──ジュンくん、大丈夫?」

 雪の上に座り込むジュンに歩み寄る。彼は震える手で、『ひんし』のゴウカザルをボールに戻す。

「立って。風邪を引くよ」

「…………」

「……へこんでるね」

「そーだよ!」

 ジュンは、積もった雪を殴りつける。

「おれ、ギンガ団相手になにもできなかったんだよ!」

「…………」

「あのユクシーとかいわれてたポケモン、すごく辛そうだった……」

「……そっか」

「あいつの言うとおりだ! ポケモンたちは戦って、育ってるのに、おれが弱い! おれだけが……ちくしょう……!」

 どんな言葉をかければいいのかわからない。

 どんな言葉も下手な慰めにしかならない。

「じゃあぼく、行くから」

 だからアクタは慰めないことにした。

「ユクシーたちのことを助ける。ギンガ団をぶっ潰す。気が向いたら、助けに来てよね」

「でも、おれなんか……」

「立てよ、ジュン。──風邪引くからさ」

 もう一度だけ気遣って、アクタはジュンを置いて先に進んだ。

 

 

 ユクシーを奪われてしまったとはいえ、エイチ湖に出向いたことは決して無駄ではなかった。ユクシーと、そして先に捕らわれたアグノムとエムリットも恐らく、トバリシティにいることがわかったからだ。

「あ。スモモさんのこと、送ってあげればよかったなあ」

 “そらをとぶ”でトバリシティに降り立ってから、キッサキシティで別れたスモモのことを思い出した。

「まあいいか。あのひと、走って帰るとか言い出しそうだ」

 トバリシティに来たのは久しぶりだ。スロットゲームで負けたり、ヒカリのポケモン図鑑がギンガ団に奪われたりと、嫌なこともあった。

 反面、ドダイトスへの進化や、ポリゴンと出会ったり、大切な思い出もある。デパートの買い物だって、楽しかった。

「楽しい思いでばっかりだったらいいんだけど……」

 どうも、そうは問屋が卸してくれない。

 ギンガトバリビルのふもとで、少年はビルを見上げる。表向きはエネルギー開発を行う研究団体。ビル前の看板には「夢は宇宙へ!」と前向きな言葉が書かれている。そしてなにに使うものかわからない、巨大なアンテナ。

「どうだ! このアンテナ! 詳しいことは知らないが、とにかくすごいアンテナだ!」

 アンテナを見上げるギンガ団員が、知らないくせに誇らしげにしている。

「あのう、このビルってなかに入れますか?」

「ん? 部外者が入れるわけ……」

 目線を下ろしてアクタの顔を見たギンガ団員は、はっとした。

「やや! お前は!」

「……会ったことありましたっけ」

 アクタはこれまで、何人ものギンガ団の下っ端と戦ってきた。ただし、髪型や服装が統一されているせいで、彼らの見分けがつかない。

「お前がおれを憶えていなくても、おれはお前を憶えている! お前のせいでピッピは取り上げられて……相方は田舎に帰り……」

 ピッピということは、ハクタイシティで戦ったことがあるのだろうか。

「うわーん! 知らない! おれは倉庫のカギなんて知らないぞ!」

「あ、ちょっと!」

 アクタの制止も間に合わず、ギンガ団員は涙を流して走り去ってしまった。

「おとなを泣かしてしまった……」

 どうやら彼も苦労しているらしい。哀れではあるが、同情はしない。ギンガ団という組織にいる以上、彼も()()()()()()に手を染めているだろうからだ。

「倉庫のカギって言ってたな。うーん……」

「わたしに任せろ!」

 聞き覚えのある声が。振り返ると、くすんだ色のコートの男。国際警察のハンサムがいた。

「ハンサムさんだ。お久しぶりです」

「服を新調したか? いいコートだな」

「えへへへ」

「カギがどうとか言ってたな? ふふふ……ギンガ団のアジトに入るための、倉庫のカギなら持っているぜ。正面突破はムリだけど、カギさえあれば中に入れる」

 どうやら、倉庫とこのビルはつながっているらしい。

「どうする? アジトに入るのかい? なんだか訳ありなんだろ?」

「訳ありといえば訳ありですけど……いいんですか?」

 これまで幾度となく協力してきたとはいえ、このギンガトバリビルは明らかに危険地帯。子どもであるアクタの介入は、おとなとして阻止されるものかと思ったのだが──

「きみの実力は知っているつもりだ。それに、覚悟もあると見える。それに、ここですげなく追っ払ったとして、きみ単独で勝手に暴れられても迷惑だからな。どうせなら一緒にいこうじゃないか!」

 ならば、アクタは頷いた。

 この柔軟な考え方に関しては、ハンサムのことは頼もしく思える。バトルとかに関しては、ちょっとわからないけど。

「ギンガ団から手に入れたこの倉庫のカギを使って…………がちゃり! よし! 開いたぞ!」

「口でがちゃりって言うんですね」

 さっそく、アクタとハンサムはギンガ団倉庫に侵入した。

「ええと、防犯カメラの箇所が……」

「ねえハンサムさん。ハクタイのときとおなじで、ぼくが暴れて囮になりますから、ハンサムさんはアジトのこと調べてくださいよ」

「いいのか!? きみは相変わらず豪快だなあ」

 アクタには、潜入とか調査とか、器用なスキルはない。自信があるのはバトルだけだ。なればこそ、力押しという選択肢が取れる。

 アクタはひとり、肩で風を切って堂々と廊下を歩く。すぐにギンガ団の下っ端たちが駆けつけてきた。

「まいごのまいごのポケモントレーナー!」

「プルートのじいさんといい、お前のような子どもといい、最近アジトに変なやつが増えたな!」

「ワレワレのアジトを荒らす、お前は一体何者だ!?」

 逃げも隠れもせず、アクタとポケモンたちは迎え撃つ。

「リオル、“はっけい”!」

 最近、かくとうタイプの技を覚えたリオルを、積極的に繰り出していくが──

「──うん、まだまだか。リオル、ナイスファイト! 交代!」

 戦力としてカウントするには、まだ早い。『ひんし』にさせられないうちに引っ込める。

「グレイシア、“れいとうビーム”!」

 5体の強力なポケモンたちの力で、アクタはつぎつぎとギンガ団の下っ端を打ち倒していく。猛進する少年はいつしか、倉庫の地下通路からギンガトバリビルへ到達していた。

 派手に暴れるアクタだったが、防衛に回るギンガ団員の数も徐々に少なくなってくる。アクタのほうもそれなりに消耗してきたが、

「仮眠室……? ここ、だれも来なさそうだな。みんな、休憩しよっか」

 ちゃっかりと回復を図る。ポケモンたちに木の実と薬を与えて、自分は、カロリーバーにケチャップを塗りたくって食べる。

「美味い……!」

 そして仮眠室らしく、ベッドに横になる。20分だけ目をつむって、起床。

「よく寝たー! さあ、再開だ!」

 とにかくこの日のアクタは、すこぶる元気だった。

 

 

 その広間には、ギンガ団員が集まっていた。

「こっちだ、こっち」

 柱の陰にいたハンサムは、アクタに手招きをする。ギンガ団員たちの注意はまったくこちらに向かない。アクタは身を低くして、ハンサムに合流した。

「派手に暴れてくれたな。おかげで難なくここまで来れたぞ」

「よかった。ぼくも難なく来れましたけどね」

「そ、そうか。……それにしてもギンガ団の連中、集まってなにを始めるつもりだ?」

 疑問の答えはやがて現れた。ギンガ団員たちは突如として沈黙し見上げる。彼らの視線の先には──

「ギンガ団の諸君! 改めて名乗ろう。わたしがアカギである」

「演説というわけか……」

 ハンサムは静かに舌打ちをする。

「さて。我々はこの不完全な世界で、苦しみながら生きてきた。この世界に生きるひとも、ポケモンも、不完全であるがために醜く争い傷つけ合う。──わたしはそれを憎む」

 正直、大いに口をはさみたくなったが、さすがにアクタは隠密に徹した。

「不完全であることを全力で憎む。世界は完全であるべきだ。世界は変わらなければならない」

 ギンガ団員たちは歓声を上げる。

「では変えるのはだれか? それはわたし、アカギであり、きみたちギンガ団である」

 アクタはひたすら、アカギを観察した。彼との距離は遠い。どんな表情で演説しているのか、気になったのだ。

「我がギンガ団は神話を調べ、伝説のポケモンを捕えた。そして我がギンガ団は、世界を変えるエネルギーを! 夢の力を手に入れたのだ!」

 ふたたび、歓声。

「そうとも諸君! わたしが夢に描いてきた世界が現実のものとなる。──テンガン山に行く者、ここアジトに残る者。それぞれ為すべきことは違えども、その心はひとつである。我々ギンガ団に栄光あれ!」

 演説は以上のようである。アカギは歓声に背を向けて、広間を去って行った。

「うおー!!」「アカギ様さいこー!!」なんて団員たちは浮かれて騒ぐ。ハンサムとアクタは厳しい表情で沈黙していた。

「……フー、いまのがギンガ団のボス、アカギか。あれでまだ27歳とは恐れ入る」

「20代なんだ……」

 もっと年上かと思った。アカギのこけた頬や、なにより達観した言動や表情は、老けた──というより、神秘的な雰囲気があった。

 それでも、20代には収まらない「疲れ」のようなものは感じたので。

「サバ読んでるんじゃないですかねえ。ほんとはアラフォーとか」

「きみは果てしなく残酷なことを言うんだな」

 ハンサムは苦笑する。歳の重ね方というものは、11歳のアクタにはまだ理解できない。

「……それにしてもギンガ団のためだけの世界を創るだと? なんだか頭がくらくらするな」

「それはそうですね。理解できないや」

「新しい世界とはなんだ? 不完全な世界ってなんだ? ──まあいい。それを探るのも国際警察のメンバーである、わたし、ハンサムの仕事だからな」

 ハンサムは襟を正す。

「さっきの演説から、アカギはテンガン山に登るそうだが……」

「はい。でもいまアカギの部屋に行けば、まだ追いつくかもしれません。テンガン山に先回りするよりも、アカギと話すチャンスがあるほうにかけてみたいかな」

 それに、湖のポケモンたちも助けなければ。

「そうか──ではここで別れるとしようか。くれぐれも無理するなよ」

 ハンサムは出口のほうへ去って行く。これから彼は、ギンガ団の動きを国際警察に連絡してくれるのかもしれない。だとしたら頼もしい限りだ。

「ぼくはぼくで、できることをやろっと」

 アクタは身を潜めつつ、ビルの奥へ進んで行った。

 

 

「ギンガ団のビルを、好き勝手に見学するツアーは楽しかったかい?」

「ちっこいトレーナーさん、あなたギンガ団でも有名よ。だってあなたを倒せば、出世できるって話よ!」

 ギンガ団員を打ち倒して。

 アクタは、ビルの最上階──アカギがいる部屋へとたどり着いた。

「……来たか」

「はあ、はあ……来ましたよ」

 息切れをするアクタに、アカギはゆっくりと視線を向ける。

「先ほどの演説、聞いていたな」

 アクタがあの広間にいたことをわかっていて、それでいて見逃していたというのならば、侮られたものだ。すこしアクタは不愉快であった。

「立派な演説──とは思いませんでした。団員たちにとっては聞こえの良い内容だったようですけど、ぼくは団員じゃないし、なにより、あなたの言葉には心がこもっていない」

 アクタは他人の言葉に対し、勘が鋭いほうではないが、それでもアカギの演説は、他人事を喋っているみたいに感じた。

「よくわかっているじゃないか」

 アカギの口角がすこし上がった。

「フフフ、あれはウソだ。──もちろんわたしは新しい世界を生み出す。だがそれはギンガ団のためではない。わたしはわたしのためだけに、新しい世界を望むのだ」

 アカギの表情が変わるところを、初めて見た。

「そうでなければ完全な世界はあり得ない。なにしろギンガ団の連中は、揃いも揃って役に立たない不完全なやつばかりだからな」

 それは邪悪な微笑だった。

「……結局、あんたは歪んでいる」

 恐怖すら覚えるが、それでも少年は、邪悪を睨みつける。邪悪はそんな少年に歩み寄る。

「ここに来た理由はわかる。エムリット、アグノム、ユクシーの3匹のポケモンのことだろう」

「そうだよ。返せ」

「あのポケモンたちはもう必要ない。キミが引き取ってくれるなら、処分する手間が省ける」

「処分だと……?」

 いよいよ頭に血を昇らせるアクタ。アカギはその怒りを気にも留めず話し続ける。

「それにしてもキミには呆れたよ。そもそも、あのポケモンたちとキミは関係ないのだろう? なのに、()()()()()というくだらない感情のため助けに来るとは、愚か過ぎる」

 アカギはモンスターボールを手に取った。アクタが先にボールを握ったからだ。

「心という不完全なものが感じる、哀れみや優しさ。──そんな曖昧なものに突き動かされここに来たことを、わたしが後悔させてあげよう」

「こっちのセリフだよ! 自分のためにポケモンや他人を利用する、愚か極まりない行為を後悔させてやる! 反省しろ!」




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲキッス ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

グレイシア ♀
 なまいきな性格

ポリゴン2
 ひかえめな性格

リオル ♀
 わんぱくな性格
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。