ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
ポケモンセンターでの回復中に。
「あっ、グレイシャバッジ! スズナさんに勝ったんですよね」
すっかり元気になったスモモがいた。医務室で別れたのは一、二時間ほどだが、もうこんなに快復できるものなのか。アクタは彼女の体力に戦慄した。
あるいは、医務室から無断で抜け出してきたのか。
もっと寝ていなくては──と説得しても無駄だろう。
「おめでとうございます。そのうち、あたしの修行にも付き合ってくださいね」
「それはポケモンのですよね?」
体力的なトレーニングであれば、彼女にはついていけそうもない。
スモモとのやり取りもそこそこに、ポケモンたちの回復が終わり次第、アクタはキッサキシティを出てエイチ湖に向かった。
結論からいえば、どうやら間に合わなかったようだ。
雪原に囲まれた湖。そのほとりには、見覚えのある女性と、膝をついたジュンの姿があった。
「ちくしょう! ギンガ団めッ!!」
戦闘不能になったゴウカザルが、雪原に伏している。
「ふぅーん、もう終わり? あなたのポケモンはまあまあでも、あなたが弱いものね」
「なっ……!?」
「それでは湖のポケモン助けるなんて無理な話……ポケモンチャンピオンだって諦めたほうがいいわね」
ジュピターの深いため息は、白くなった。
「それにしてもここ、寒すぎるわ。トバリのアジトに戻りましょう」
「待てよ」
ジュンに背を向けたジュピターを、アクタは呼び止める。
「なにを勝手に終わろうとしてんだ」
「あら、あなた? ハクタイで会ったわね」
「アクタです」
「そう。じゃあアクタ、いい? これからギンガ団はみんなのためにすごいことをする。だからポケモンがかわいそうとか、くだらないことであたしたちの邪魔をするの、やめてほしいわけ」
「くだらないだと……?」
少年の眉間にシワが寄る。
ポケモンのことを特に大切にするアクタの前で、よくのたまえたものだ。思わずモンスターボールに手が伸びるが──
「いや、そういうのはもういいわ。エイチ湖にいた伝説のポケモンは手に入れた。すでにトバリのアジトに届いているころだし──ああ、アジトに乗り込んできても意味ないのよ。部外者が足を踏み入れるような場所じゃないから」
「いいや、行きます。伝説のポケモンたちのことはまとめて助ける。あなたちのこともみんなやっつける。覚悟しておけ──って、アカギさんに伝えておいてください」
ボスの名前を知っているアクタに、ジュピターは眉をひそめるが……
「子どもの妄言に付き合ってられるか。では失礼」
睨む少年を相手にすることなく、ジュピターはゴルバットともに飛び去ってしまった。
「ちっ。──ジュンくん、大丈夫?」
雪の上に座り込むジュンに歩み寄る。彼は震える手で、『ひんし』のゴウカザルをボールに戻す。
「立って。風邪を引くよ」
「…………」
「……へこんでるね」
「そーだよ!」
ジュンは、積もった雪を殴りつける。
「おれ、ギンガ団相手になにもできなかったんだよ!」
「…………」
「あのユクシーとかいわれてたポケモン、すごく辛そうだった……」
「……そっか」
「あいつの言うとおりだ! ポケモンたちは戦って、育ってるのに、おれが弱い! おれだけが……ちくしょう……!」
どんな言葉をかければいいのかわからない。
どんな言葉も下手な慰めにしかならない。
「じゃあぼく、行くから」
だからアクタは慰めないことにした。
「ユクシーたちのことを助ける。ギンガ団をぶっ潰す。気が向いたら、助けに来てよね」
「でも、おれなんか……」
「立てよ、ジュン。──風邪引くからさ」
もう一度だけ気遣って、アクタはジュンを置いて先に進んだ。
:
ユクシーを奪われてしまったとはいえ、エイチ湖に出向いたことは決して無駄ではなかった。ユクシーと、そして先に捕らわれたアグノムとエムリットも恐らく、トバリシティにいることがわかったからだ。
「あ。スモモさんのこと、送ってあげればよかったなあ」
“そらをとぶ”でトバリシティに降り立ってから、キッサキシティで別れたスモモのことを思い出した。
「まあいいか。あのひと、走って帰るとか言い出しそうだ」
トバリシティに来たのは久しぶりだ。スロットゲームで負けたり、ヒカリのポケモン図鑑がギンガ団に奪われたりと、嫌なこともあった。
反面、ドダイトスへの進化や、ポリゴンと出会ったり、大切な思い出もある。デパートの買い物だって、楽しかった。
「楽しい思いでばっかりだったらいいんだけど……」
どうも、そうは問屋が卸してくれない。
ギンガトバリビルのふもとで、少年はビルを見上げる。表向きはエネルギー開発を行う研究団体。ビル前の看板には「夢は宇宙へ!」と前向きな言葉が書かれている。そしてなにに使うものかわからない、巨大なアンテナ。
「どうだ! このアンテナ! 詳しいことは知らないが、とにかくすごいアンテナだ!」
アンテナを見上げるギンガ団員が、知らないくせに誇らしげにしている。
「あのう、このビルってなかに入れますか?」
「ん? 部外者が入れるわけ……」
目線を下ろしてアクタの顔を見たギンガ団員は、はっとした。
「やや! お前は!」
「……会ったことありましたっけ」
アクタはこれまで、何人ものギンガ団の下っ端と戦ってきた。ただし、髪型や服装が統一されているせいで、彼らの見分けがつかない。
「お前がおれを憶えていなくても、おれはお前を憶えている! お前のせいでピッピは取り上げられて……相方は田舎に帰り……」
ピッピということは、ハクタイシティで戦ったことがあるのだろうか。
「うわーん! 知らない! おれは倉庫のカギなんて知らないぞ!」
「あ、ちょっと!」
アクタの制止も間に合わず、ギンガ団員は涙を流して走り去ってしまった。
「おとなを泣かしてしまった……」
どうやら彼も苦労しているらしい。哀れではあるが、同情はしない。ギンガ団という組織にいる以上、彼も
「倉庫のカギって言ってたな。うーん……」
「わたしに任せろ!」
聞き覚えのある声が。振り返ると、くすんだ色のコートの男。国際警察のハンサムがいた。
「ハンサムさんだ。お久しぶりです」
「服を新調したか? いいコートだな」
「えへへへ」
「カギがどうとか言ってたな? ふふふ……ギンガ団のアジトに入るための、倉庫のカギなら持っているぜ。正面突破はムリだけど、カギさえあれば中に入れる」
どうやら、倉庫とこのビルはつながっているらしい。
「どうする? アジトに入るのかい? なんだか訳ありなんだろ?」
「訳ありといえば訳ありですけど……いいんですか?」
これまで幾度となく協力してきたとはいえ、このギンガトバリビルは明らかに危険地帯。子どもであるアクタの介入は、おとなとして阻止されるものかと思ったのだが──
「きみの実力は知っているつもりだ。それに、覚悟もあると見える。それに、ここですげなく追っ払ったとして、きみ単独で勝手に暴れられても迷惑だからな。どうせなら一緒にいこうじゃないか!」
ならば、アクタは頷いた。
この柔軟な考え方に関しては、ハンサムのことは頼もしく思える。バトルとかに関しては、ちょっとわからないけど。
「ギンガ団から手に入れたこの倉庫のカギを使って…………がちゃり! よし! 開いたぞ!」
「口でがちゃりって言うんですね」
さっそく、アクタとハンサムはギンガ団倉庫に侵入した。
「ええと、防犯カメラの箇所が……」
「ねえハンサムさん。ハクタイのときとおなじで、ぼくが暴れて囮になりますから、ハンサムさんはアジトのこと調べてくださいよ」
「いいのか!? きみは相変わらず豪快だなあ」
アクタには、潜入とか調査とか、器用なスキルはない。自信があるのはバトルだけだ。なればこそ、力押しという選択肢が取れる。
アクタはひとり、肩で風を切って堂々と廊下を歩く。すぐにギンガ団の下っ端たちが駆けつけてきた。
「まいごのまいごのポケモントレーナー!」
「プルートのじいさんといい、お前のような子どもといい、最近アジトに変なやつが増えたな!」
「ワレワレのアジトを荒らす、お前は一体何者だ!?」
逃げも隠れもせず、アクタとポケモンたちは迎え撃つ。
「リオル、“はっけい”!」
最近、かくとうタイプの技を覚えたリオルを、積極的に繰り出していくが──
「──うん、まだまだか。リオル、ナイスファイト! 交代!」
戦力としてカウントするには、まだ早い。『ひんし』にさせられないうちに引っ込める。
「グレイシア、“れいとうビーム”!」
5体の強力なポケモンたちの力で、アクタはつぎつぎとギンガ団の下っ端を打ち倒していく。猛進する少年はいつしか、倉庫の地下通路からギンガトバリビルへ到達していた。
派手に暴れるアクタだったが、防衛に回るギンガ団員の数も徐々に少なくなってくる。アクタのほうもそれなりに消耗してきたが、
「仮眠室……? ここ、だれも来なさそうだな。みんな、休憩しよっか」
ちゃっかりと回復を図る。ポケモンたちに木の実と薬を与えて、自分は、カロリーバーにケチャップを塗りたくって食べる。
「美味い……!」
そして仮眠室らしく、ベッドに横になる。20分だけ目をつむって、起床。
「よく寝たー! さあ、再開だ!」
とにかくこの日のアクタは、すこぶる元気だった。
:
その広間には、ギンガ団員が集まっていた。
「こっちだ、こっち」
柱の陰にいたハンサムは、アクタに手招きをする。ギンガ団員たちの注意はまったくこちらに向かない。アクタは身を低くして、ハンサムに合流した。
「派手に暴れてくれたな。おかげで難なくここまで来れたぞ」
「よかった。ぼくも難なく来れましたけどね」
「そ、そうか。……それにしてもギンガ団の連中、集まってなにを始めるつもりだ?」
疑問の答えはやがて現れた。ギンガ団員たちは突如として沈黙し見上げる。彼らの視線の先には──
「ギンガ団の諸君! 改めて名乗ろう。わたしがアカギである」
「演説というわけか……」
ハンサムは静かに舌打ちをする。
「さて。我々はこの不完全な世界で、苦しみながら生きてきた。この世界に生きるひとも、ポケモンも、不完全であるがために醜く争い傷つけ合う。──わたしはそれを憎む」
正直、大いに口をはさみたくなったが、さすがにアクタは隠密に徹した。
「不完全であることを全力で憎む。世界は完全であるべきだ。世界は変わらなければならない」
ギンガ団員たちは歓声を上げる。
「では変えるのはだれか? それはわたし、アカギであり、きみたちギンガ団である」
アクタはひたすら、アカギを観察した。彼との距離は遠い。どんな表情で演説しているのか、気になったのだ。
「我がギンガ団は神話を調べ、伝説のポケモンを捕えた。そして我がギンガ団は、世界を変えるエネルギーを! 夢の力を手に入れたのだ!」
ふたたび、歓声。
「そうとも諸君! わたしが夢に描いてきた世界が現実のものとなる。──テンガン山に行く者、ここアジトに残る者。それぞれ為すべきことは違えども、その心はひとつである。我々ギンガ団に栄光あれ!」
演説は以上のようである。アカギは歓声に背を向けて、広間を去って行った。
「うおー!!」「アカギ様さいこー!!」なんて団員たちは浮かれて騒ぐ。ハンサムとアクタは厳しい表情で沈黙していた。
「……フー、いまのがギンガ団のボス、アカギか。あれでまだ27歳とは恐れ入る」
「20代なんだ……」
もっと年上かと思った。アカギのこけた頬や、なにより達観した言動や表情は、老けた──というより、神秘的な雰囲気があった。
それでも、20代には収まらない「疲れ」のようなものは感じたので。
「サバ読んでるんじゃないですかねえ。ほんとはアラフォーとか」
「きみは果てしなく残酷なことを言うんだな」
ハンサムは苦笑する。歳の重ね方というものは、11歳のアクタにはまだ理解できない。
「……それにしてもギンガ団のためだけの世界を創るだと? なんだか頭がくらくらするな」
「それはそうですね。理解できないや」
「新しい世界とはなんだ? 不完全な世界ってなんだ? ──まあいい。それを探るのも国際警察のメンバーである、わたし、ハンサムの仕事だからな」
ハンサムは襟を正す。
「さっきの演説から、アカギはテンガン山に登るそうだが……」
「はい。でもいまアカギの部屋に行けば、まだ追いつくかもしれません。テンガン山に先回りするよりも、アカギと話すチャンスがあるほうにかけてみたいかな」
それに、湖のポケモンたちも助けなければ。
「そうか──ではここで別れるとしようか。くれぐれも無理するなよ」
ハンサムは出口のほうへ去って行く。これから彼は、ギンガ団の動きを国際警察に連絡してくれるのかもしれない。だとしたら頼もしい限りだ。
「ぼくはぼくで、できることをやろっと」
アクタは身を潜めつつ、ビルの奥へ進んで行った。
:
「ギンガ団のビルを、好き勝手に見学するツアーは楽しかったかい?」
「ちっこいトレーナーさん、あなたギンガ団でも有名よ。だってあなたを倒せば、出世できるって話よ!」
ギンガ団員を打ち倒して。
アクタは、ビルの最上階──アカギがいる部屋へとたどり着いた。
「……来たか」
「はあ、はあ……来ましたよ」
息切れをするアクタに、アカギはゆっくりと視線を向ける。
「先ほどの演説、聞いていたな」
アクタがあの広間にいたことをわかっていて、それでいて見逃していたというのならば、侮られたものだ。すこしアクタは不愉快であった。
「立派な演説──とは思いませんでした。団員たちにとっては聞こえの良い内容だったようですけど、ぼくは団員じゃないし、なにより、あなたの言葉には心がこもっていない」
アクタは他人の言葉に対し、勘が鋭いほうではないが、それでもアカギの演説は、他人事を喋っているみたいに感じた。
「よくわかっているじゃないか」
アカギの口角がすこし上がった。
「フフフ、あれはウソだ。──もちろんわたしは新しい世界を生み出す。だがそれはギンガ団のためではない。わたしはわたしのためだけに、新しい世界を望むのだ」
アカギの表情が変わるところを、初めて見た。
「そうでなければ完全な世界はあり得ない。なにしろギンガ団の連中は、揃いも揃って役に立たない不完全なやつばかりだからな」
それは邪悪な微笑だった。
「……結局、あんたは歪んでいる」
恐怖すら覚えるが、それでも少年は、邪悪を睨みつける。邪悪はそんな少年に歩み寄る。
「ここに来た理由はわかる。エムリット、アグノム、ユクシーの3匹のポケモンのことだろう」
「そうだよ。返せ」
「あのポケモンたちはもう必要ない。キミが引き取ってくれるなら、処分する手間が省ける」
「処分だと……?」
いよいよ頭に血を昇らせるアクタ。アカギはその怒りを気にも留めず話し続ける。
「それにしてもキミには呆れたよ。そもそも、あのポケモンたちとキミは関係ないのだろう? なのに、
アカギはモンスターボールを手に取った。アクタが先にボールを握ったからだ。
「心という不完全なものが感じる、哀れみや優しさ。──そんな曖昧なものに突き動かされここに来たことを、わたしが後悔させてあげよう」
「こっちのセリフだよ! 自分のためにポケモンや他人を利用する、愚か極まりない行為を後悔させてやる! 反省しろ!」
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲキッス ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
グレイシア ♀
なまいきな性格
ポリゴン2
ひかえめな性格
リオル ♀
わんぱくな性格