ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
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ここはハナダシティ。
ハナダは水色、神秘の色。
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オツキミ山、そして4番道路を抜けて、アクタはハナダシティに到着した。水路に囲まれた街だ。ポケモンセンターで回復を済ませたあと、街を散策する。まずはミラクル・サイクルという自転車屋を訪れた。
「自転車が100万円!?」
目を丸くするアクタ。店主は尊大に腕を組み、セールスポイントを語り出す。
「それだけ高性能だからねえ。まず、売りはコンパクトであること! きみ、旅をしているんだろう? だけどこの自転車、折りたたんでしまえば大した荷物にはならないよ! そして片手で楽に扱えるほどのフレームの軽さ! 組み立てだって一瞬で──あ、もう行くの? お金が貯まったらまたどうぞ!」
自転車は無理だ。ミラクル・サイクルを退店したアクタは、つぎにハナダジムの前に立つ。
「……ちょっと修行したいな」
怖気づいてしまい、回れ右をした。
ハナダシティの北には、25番道路──通称、ハナダの岬と呼ばれる地区がある。多数のトレーナーがいるらしく、修行には持ってこいだろう。
道中の橋の手前で、
「ようアクタ! こんなとこうろちょろしてたのか!」
グリーンに出会った。
「わ、グリーン。元気?」
「まあな。おれなんかポケモン、強いの、すごいの、いろいろ捕まえちゃって絶好調だぜ! ……どれどれアクタはなんか捕まえた?」
嫌味な表情を浮かべるグリーンであったが、アクタは自信ありげに胸を張った。
「はい!」
「はい!? フシギダネ以外にポケモンがいるのか!?」
「はい!」
「見せてみろよ!」
開けた場所に移動し、ポケモンバトルが始まった。
「──まだ育てている途中なんだけど」
アクタはコイキングを出した。
「なるほどな。うちにも、将来有望なのがいるぜ」
グリーンはケーシィを繰り出した。エスパータイプのポケモンである。
「“はねる”だ!」
コイキングが跳ねる。
「こっちは“テレポート”!」
ケーシィの姿が消える。おなじ位置にふたたび現れた。
「“はねる”!」
「“テレポート”!」
「“はねる”!」
「“テレポート”!」
この間、勝負の状況が動くことはない。通りすがりの見物人たちも去って行った。
「やるじゃねえか……」
「そっちこそ」
そこには、当人たちにしかわからない空気があったのだろう。ふたりは各々のポケモンを引っ込める。
「そうだ、フシギソウに進化したんだ」
アクタは進化したばかりの相棒を見せびらかす。
「へえ。ほかに育てるポケモンがいないもんだから」
「うるさいな」
「さぞかし鍛えてるんだろうな。こいつの相手をしてみろ!」
グリーンが出したのはコラッタだった。アクタ自身、なんども戦ったことがあるねずみポケモンだ。なお、捕まえたことはない。
「フシギソウ、“つるのムチ”!」
「“しっぽをふる”だ!」
一発目のムチでは倒し切れない。続けてコラッタが動く。
「“でんこうせっか”!」
「くっ……“つるのムチ”!」
コラッタは倒れた。
「うーん、最初から“ひっさつまえば”のほうが良かったかな」
「コラッタ、育ててるんだ」
グリーンのことだから、もっと強そうで珍しいポケモンを出してくると思ったので、意外だった。
「コラッタ舐めんなよ? かなり伸びしろがあるんだぜ。──さあ、つぎはこいつだ!」
グリーンが空へ投げたボールから、ピジョンが現れた。ポッポが進化したのだ。
「ひこうタイプに、どう戦うかな? “すなかけ”!」
前回とおなじように、風に巻き上げられた砂がフシギソウの技の命中力を下げる。
「当たるかな……“ねむりごな”!」
「当たりません!」
ピジョンは空を舞って回避する。
「“かぜおこし”!」
突風に吹かれて、フシギソウは倒れ、『ひんし』になってしまった。
「コラッタの“しっぽをふる”が防御を下げていたからな」
「……うわー! 悔しい!」
アクタは思わず地団太を踏んだ。
「なんだよー、ムキになっちゃって!」
「ムキにくらいなるさ! けっこう修行したつもりなのに……!」
「……わかったわかった! 賞金は勘弁してやる。お前の場合、モンスターボール代もバカにならないだろ」
「あ、そう? どうも……あられ、食べる?」
ふたりはハナダシティのポケモンセンターで回復を済ませて、ベンチに座って、ニビあられを食べた。
「硬いな、このあられ」
「ニビシティの名産だし、いわタイプをイメージしてるんじゃない?」
「ああ、そういうこと……それにしても、びっくりしたぜ。コイキングとはいえ、お前が新しいポケモンを連れてるなんてさ。ボロの釣り竿でも手に入れたのか?」
「…………」
「ん?」
「……ん?」
露骨に歯切れが悪くなるアクタ。グリーンはしばらく考え込み、やがてぼそりと呟いた。
「……オツキミ山のポケモンセンター?」
アクタの肩がびくっと震える。
「な、ななな、なんのことかな」
「あられ、こぼすぞ。──いくらノーコンでもさあ、コイキングなんかに300円も払うかね」
「コイキングなんか、とは聞き捨てならないぞ! それと、ぼくのときは500円だった!」
「買ってんじゃん」
はっとして口元を抑えるアクタ。グリーンは呆れた様子でため息をついた。
「べつに責めるつもりはねえよ。お前みたいなポケモン大好き野郎にもらわれれば、そのコイキングも、売れ残るよりは幸せだろ」
「そ、そう?」
「ただコイキングってのは、そのへんに釣り糸を垂らせば、ポンポン釣れる水ポケモンなんだ。おまけに、育てるには苦労するぜ!」
コイキングが「雑魚」のように言われるのは不愉快だったが、育成が大変だということは、理解しているつもりだ。だけどコイキングはがんばってくれている。今後も苦労していくつもりだ。
「そういえば、ヒトカゲは元気?」
「ん? ああ、まあな」
「へえ、まだヒトカゲなんだ。うちの子はとっくにフシギソウに進化してるのに」
と、アクタは勝ち誇った笑みを浮かべる。意趣返しだった。
「て、てめえ!」
「特別な育て方はしてませんよ。ただ、愛情を持ってポケモンに向き合った結果です」
「むかつくな、おい! 戦えるポケモンがフシギダネ1匹だっただけのくせに! おれは、育てたいポケモンがたくさんいるんだよ!」
「はいはい、そういうことにしておきましょうね」
「この野郎!」
睨み合うふたり。
やがて、可笑しくなって同時に吹き出した。気兼ねなく冗談を言い、笑い合える。そういったことができる友人は、アクタとグリーンにとっては互いが唯一だった。
「……そういえば、ハナダの岬にいるマサキっていうやつのこと、知ってるか? ポケモンマニアで有名なんだぜ」
「あー、聞いたことはあるな。会ったの?」
「おう。珍しいポケモン、たくさん見せてもらっちゃったもんね! おかげでポケモン図鑑のページが増えたぜ」
「へえ」
俄然、興味が湧いてきた。
「パソコン通信のポケモン預かりシステム、あれもマサキが作ったんだぜ」
「ポケモンセンターのパソコンから使えるやつ?」
「そうそう。でもお前は使ったこともねえだろ」
ズバリ、言われてしまった。
「おれはしょっちゅう使ってるから、一度お礼にでも、と思ってな。まあだれであれ、ポケモンのデータくらい見せてくれるんじゃね?」
「うん、行ってみるよ」
アクタが頷くと、グリーンは「よし」と立ち上がる。
「さてと、いつまでもこんなところで、道草──ていうか、お菓子を食ってる場合じゃないぜ!」
「もう行っちゃうの? 慌ただしいなあ」
「クチバシティで用事があるんだ。……じゃな、バイビー!」
去って行くグリーン。恐らく彼は、ハナダジムのバッジをすでに入手しているのだろう。猛スピードで旅を進める友人には、もはや尊敬しかなかった。
「でも、もっとゆっくり旅すればいいのに」
アクタは呑気にあられをかじった。
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「この橋は人呼んでゴールデンボールブリッジ! 5人勝ち抜けば豪華な賞品がもらえる!」
24番道路へつながる橋に、5人のトレーナーが並んでいた。
「5人抜きかあ。やってみたい」
「よーし、いいだろう! さて、お前に抜けられるかな?」
最初の相手は、虫取り少年。
「ふたり目はわたし! これからが本番よ!」
つぎはミニスカートの少女。
「3人目登場! そう簡単にはいかないぜ!」
短パン小僧。
「4人目はわたしよ! そろそろバテてきたんじゃない?」
ミニスカート。
「きえーいっ! 5人目! おれが相手だあ!」
キャンプボーイ。
どうにか5人抜きを達成した。橋の先で、拍手をしながら男が歩み寄ってくる。
「おみごとーっ! 5人抜きおめでとう! 賞品にこれをプレゼントしよう!」
渡されたのは、『きんのたま』だった。
「……あ、だから、ゴールデンボールブリッジか」
納得した。
達成感を味わうアクタに男はそっと耳打ちしてきた。
「ところで……ここだけの話、ロケット団に入らない?」
「へ?」
「おれたちはポケモンを悪いことに使おうっていうグループだ! きみみたいな強いトレーナーは大歓迎! な、入りなよ」
男の背広の下には、「R」のマークがあった。嫌悪感を隠さず、アクタは男から距離を取る。
「入らないです」
「入らないの?」
「入らないですよ」
「入ってよ!」
「いやです」
「入れよ!」
「しつこい……」
「……断るって顔、してんな」
「断ってるじゃないですか!」
「それなら……! 無理やり入れてやる! うりゃーっ!」
いまさら、5人も6人も変わらなかった。男のズバットも、ドガースも、フシギソウで撃破する。コイキングも応援してくれた。
「お前…! ホント強えな! それだけの腕があれば、ロケット団でも偉くなれるのに、もったいないぜ!」
「なあ、彼らもロケット団なんですか?」
先ほど戦った5人のトレーナーたちは、アクタとロケット団との戦いを見ていた。
「い、いや……こいつらには、5人抜きっていうゲームに付き合ってもらっただけさ。な? 盛り上がっただろ……?」
5人の視線は、男に同意しない。むしろ責めるものだった。ロケット団の男は、旗色が悪いと見るや、脱兎の如く逃げ出した。
「あ、逃げやがった」
「……ごめんよ。きみには迷惑かけたね。」
キャンプボーイの少年が、アクタに頭を下げる。
「あんな悪いやつの提案に乗っちゃって……」
「あの悪名高いロケット団の、団員探しに利用されているなんて、知らなかったのよ」
「もうこのゲームもやめるよ。どうせ、ぼくたちだけじゃ賞品とか用意できないし……」
すっかり落ち込んでいる5人。
「……あの、べつにやめることはないんじゃない?」
アクタは、弱々しくも笑いかけた。
「悪いやつに利用されたのは、ツイてなかっただろうけどさ。5人抜きチャレンジ自体は悪くないよ。賞品とか要らないんじゃない? みんな強かったから、達成感があったっていうか……ぼくは楽しかったよ」
「そうか……ありがとう。ほんとにありがとう。もうちょっと、続けてみるよ」
「わたしたちも強くなるから、またチャレンジしに来てね!」
「よーし、みんな! まずはポケモンセンターで回復だ!」
肩を組む5人。雨降って地固まる──アクタは仲睦まじい彼らの様子に、胸を撫で下ろした。
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25番道路、通称ハナダの岬に到着する。唯一の建物である小屋が、マサキなる人物の家なのだろう。アクタは扉をノックする。
「はいはーい! どうぞ入ってきてやー!」
突然の訪問は迷惑だと思っていたが、杞憂だったのだろう。歓迎する声にアクタはほっとして、扉を開けた。
ピッピがいた。
「こんちわ! ぼくポケモン……!」
ピッピがしゃべった。
アクタは、反射的に空のモンスターボールを投げた。
「わー! ちょっと待っ……」
部屋中の壁にバウンドし、ピッピにはかすりもしなかった。
「ええ……? 自分、めっちゃノーコンやんな。ていうか、捕まえようとすんのやめてくれる!?」
「あ、すいません。つい……」
ポケモンに怒られてしまった。アクタはピッピに頭を下げる。
「ていうかぼく、ポケモンとちゃうわい! わいはマサキ! ひと呼んでポケモンマニアや!」
「あ、あなたが……!? いくらポケモンマニアだからって、そんな見た目になっていいわけがないでしょう!」
「いや、いまはこんなんやけど、ついさっきまでは、中身も見た目も人間やったんやって!」
「…………」
「あっ、なんやその目は? あんさん信用してへんな。ホントやで! 実験に失敗して、ポケモンとくっついてもうたんや」
「すごいことやりましたね」
部屋を見渡すと、大きなコンピュータに、転送マシンのような機械が2台。オーキド研究所を彷彿させる設備が用意されていた。
「なっ! 助けてくれへん?」
「いいですよ。なにすればいいですか?」
「ナイス快諾! べつに、難しいことじゃないねん。わいが転送マシンに入るさかい、分離プログラムを頼むで!」
「えっと、このパソコンから実行すればいいですか?」
「そうやそこのパソコンや! いま画面に出てるやつを実行してくれればええから!」
と、マサキを名乗るピッピは、一方の転送マシンに入ってしまった。
「画面の確認もせずに……分離プログラム? いまの話だと、転送装置を起動しろってことかな。それらしいファイルはひとつだけだし、これを起動すればいいんでしょっと」
アクタは自分用のパソコンを持っていたので、コンピュータ機器について最低限の知識は有している。来訪者がまったくの素人でなかったことが、マサキにとって不幸中の幸いだっただろう。
転送マシンが起動する。転送の処理が始まり、やがて逆方向の転送マシンから細身の青年が出てきた。
「やあー! おおきにおおきに、助かったわ!」
その口調で、アクタは納得する。
「マサキさんですか?」
「ん? ああ、この姿だとはじめましてやな! あんさん、名前は?」
「アクタです。ポケモンコレクション、見せてほしいなって思って……」
「なんや、そんなことならいくらでも! ほれ、パソコンにデータが入っとる」
マサキはコンピュータを操作してファイルを開く。
「これがマサキくんお気に入りポケモンの、イーブイや! 3パターンに進化してな──って、なに? 急に興味なさそうな顔して」
「……すいません、実物を期待してたんです」
てっきり、珍しいポケモンと触れ合えるものだと思っていたのだ。
「おっとこりゃ失礼。まあせやなー。ポケモンって実物が一番やしなー……そや! じゃあ代わりのお礼っちゅーのもなんやけど……これやるわ!」
マサキは机の引き出しを探り、船が描かれたチケットを取り出した。
「いま、クチバの港にサント・アンヌ号が来とんのや」
「豪華客船でしたっけ。テレビで見たことあります」
差し出されたチケットを受け取る。乗客向けではなく、あくまでもパーティーの招待客を対象にしたチケットらしい。
「ポケモントレーナーもぎょうさん来るらしいで。チケットもろたのはええんやけど、パーティーとか好きやないからな。代わりに行って遊んでえな」
「へえ……珍しいポケモン見られるかも。ありがたく、行ってきます」
「ん、こちらこそありがとうな! あのまま一生ピッピかと思ったわ……」
転送マシンの扉から、ピッピが顔を出した。こんどはしゃべらなかった。
「ていうか、ポケモンと合体? それってすごいことなんじゃ……」
「ホントは転送の実験やったんや。うっかり、自分が入った状態で起動させてしもて……な、アクタ。このことはだれにも黙っといてくれや。フツーに事故やし。わいは技術屋であって、研究者ではないし!」
アクタは頷いた。人間が、ポケモンになる。夢のようではあるが、大変な事例だ。
「ぼくも忘れます。しゃべるポケモンなんて、ぜんぜんかわいくなかったですし」
「なんやと、こら」
フシギソウ
れいせいな性格
背中のつぼみが大きく育ってくると、2本足で立つことができなくなるらしい。
コイキング
がんばりやな性格
大昔はまだもうすこし強かったらしい。しかし、いまは悲しいくらいに弱いのだ。