ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート6 ハナダシティ/ゴールデンボールブリッジの死闘

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 ここはハナダシティ。

 ハナダは水色、神秘の色。

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 オツキミ山、そして4番道路を抜けて、アクタはハナダシティに到着した。水路に囲まれた街だ。ポケモンセンターで回復を済ませたあと、街を散策する。まずはミラクル・サイクルという自転車屋を訪れた。

「自転車が100万円!?」

 目を丸くするアクタ。店主は尊大に腕を組み、セールスポイントを語り出す。

「それだけ高性能だからねえ。まず、売りはコンパクトであること! きみ、旅をしているんだろう? だけどこの自転車、折りたたんでしまえば大した荷物にはならないよ! そして片手で楽に扱えるほどのフレームの軽さ! 組み立てだって一瞬で──あ、もう行くの? お金が貯まったらまたどうぞ!」

 自転車は無理だ。ミラクル・サイクルを退店したアクタは、つぎにハナダジムの前に立つ。

「……ちょっと修行したいな」

 怖気づいてしまい、回れ右をした。

 ハナダシティの北には、25番道路──通称、ハナダの岬と呼ばれる地区がある。多数のトレーナーがいるらしく、修行には持ってこいだろう。

 道中の橋の手前で、

「ようアクタ! こんなとこうろちょろしてたのか!」

 グリーンに出会った。

「わ、グリーン。元気?」

「まあな。おれなんかポケモン、強いの、すごいの、いろいろ捕まえちゃって絶好調だぜ! ……どれどれアクタはなんか捕まえた?」

 嫌味な表情を浮かべるグリーンであったが、アクタは自信ありげに胸を張った。

「はい!」

「はい!? フシギダネ以外にポケモンがいるのか!?」

「はい!」

「見せてみろよ!」

 開けた場所に移動し、ポケモンバトルが始まった。

「──まだ育てている途中なんだけど」

 アクタはコイキングを出した。

「なるほどな。うちにも、将来有望なのがいるぜ」

 グリーンはケーシィを繰り出した。エスパータイプのポケモンである。

「“はねる”だ!」

 コイキングが跳ねる。

「こっちは“テレポート”!」

 ケーシィの姿が消える。おなじ位置にふたたび現れた。

「“はねる”!」

「“テレポート”!」

「“はねる”!」

「“テレポート”!」

 この間、勝負の状況が動くことはない。通りすがりの見物人たちも去って行った。

「やるじゃねえか……」

「そっちこそ」

 そこには、当人たちにしかわからない空気があったのだろう。ふたりは各々のポケモンを引っ込める。

「そうだ、フシギソウに進化したんだ」

 アクタは進化したばかりの相棒を見せびらかす。

「へえ。ほかに育てるポケモンがいないもんだから」

「うるさいな」

「さぞかし鍛えてるんだろうな。こいつの相手をしてみろ!」

 グリーンが出したのはコラッタだった。アクタ自身、なんども戦ったことがあるねずみポケモンだ。なお、捕まえたことはない。

「フシギソウ、“つるのムチ”!」

「“しっぽをふる”だ!」

 一発目のムチでは倒し切れない。続けてコラッタが動く。

「“でんこうせっか”!」

「くっ……“つるのムチ”!」

 コラッタは倒れた。

「うーん、最初から“ひっさつまえば”のほうが良かったかな」

「コラッタ、育ててるんだ」

 グリーンのことだから、もっと強そうで珍しいポケモンを出してくると思ったので、意外だった。

「コラッタ舐めんなよ? かなり伸びしろがあるんだぜ。──さあ、つぎはこいつだ!」

 グリーンが空へ投げたボールから、ピジョンが現れた。ポッポが進化したのだ。

「ひこうタイプに、どう戦うかな? “すなかけ”!」

 前回とおなじように、風に巻き上げられた砂がフシギソウの技の命中力を下げる。

「当たるかな……“ねむりごな”!」

「当たりません!」

 ピジョンは空を舞って回避する。

「“かぜおこし”!」

 突風に吹かれて、フシギソウは倒れ、『ひんし』になってしまった。

「コラッタの“しっぽをふる”が防御を下げていたからな」

「……うわー! 悔しい!」

 アクタは思わず地団太を踏んだ。

「なんだよー、ムキになっちゃって!」

「ムキにくらいなるさ! けっこう修行したつもりなのに……!」

「……わかったわかった! 賞金は勘弁してやる。お前の場合、モンスターボール代もバカにならないだろ」

「あ、そう? どうも……あられ、食べる?」

 ふたりはハナダシティのポケモンセンターで回復を済ませて、ベンチに座って、ニビあられを食べた。

「硬いな、このあられ」

「ニビシティの名産だし、いわタイプをイメージしてるんじゃない?」

「ああ、そういうこと……それにしても、びっくりしたぜ。コイキングとはいえ、お前が新しいポケモンを連れてるなんてさ。ボロの釣り竿でも手に入れたのか?」

「…………」

「ん?」

「……ん?」

 露骨に歯切れが悪くなるアクタ。グリーンはしばらく考え込み、やがてぼそりと呟いた。

「……オツキミ山のポケモンセンター?」

 アクタの肩がびくっと震える。

「な、ななな、なんのことかな」

「あられ、こぼすぞ。──いくらノーコンでもさあ、コイキングなんかに300円も払うかね」

「コイキングなんか、とは聞き捨てならないぞ! それと、ぼくのときは500円だった!」

「買ってんじゃん」

 はっとして口元を抑えるアクタ。グリーンは呆れた様子でため息をついた。

「べつに責めるつもりはねえよ。お前みたいなポケモン大好き野郎にもらわれれば、そのコイキングも、売れ残るよりは幸せだろ」

「そ、そう?」

「ただコイキングってのは、そのへんに釣り糸を垂らせば、ポンポン釣れる水ポケモンなんだ。おまけに、育てるには苦労するぜ!」

 コイキングが「雑魚」のように言われるのは不愉快だったが、育成が大変だということは、理解しているつもりだ。だけどコイキングはがんばってくれている。今後も苦労していくつもりだ。

「そういえば、ヒトカゲは元気?」

「ん? ああ、まあな」

「へえ、まだヒトカゲなんだ。うちの子はとっくにフシギソウに進化してるのに」

 と、アクタは勝ち誇った笑みを浮かべる。意趣返しだった。

「て、てめえ!」

「特別な育て方はしてませんよ。ただ、愛情を持ってポケモンに向き合った結果です」

「むかつくな、おい! 戦えるポケモンがフシギダネ1匹だっただけのくせに! おれは、育てたいポケモンがたくさんいるんだよ!」

「はいはい、そういうことにしておきましょうね」

「この野郎!」

 睨み合うふたり。

 やがて、可笑しくなって同時に吹き出した。気兼ねなく冗談を言い、笑い合える。そういったことができる友人は、アクタとグリーンにとっては互いが唯一だった。

「……そういえば、ハナダの岬にいるマサキっていうやつのこと、知ってるか? ポケモンマニアで有名なんだぜ」

「あー、聞いたことはあるな。会ったの?」

「おう。珍しいポケモン、たくさん見せてもらっちゃったもんね! おかげでポケモン図鑑のページが増えたぜ」

「へえ」

 俄然、興味が湧いてきた。

「パソコン通信のポケモン預かりシステム、あれもマサキが作ったんだぜ」

「ポケモンセンターのパソコンから使えるやつ?」

「そうそう。でもお前は使ったこともねえだろ」

 ズバリ、言われてしまった。

「おれはしょっちゅう使ってるから、一度お礼にでも、と思ってな。まあだれであれ、ポケモンのデータくらい見せてくれるんじゃね?」

「うん、行ってみるよ」

 アクタが頷くと、グリーンは「よし」と立ち上がる。

「さてと、いつまでもこんなところで、道草──ていうか、お菓子を食ってる場合じゃないぜ!」

「もう行っちゃうの? 慌ただしいなあ」

「クチバシティで用事があるんだ。……じゃな、バイビー!」

 去って行くグリーン。恐らく彼は、ハナダジムのバッジをすでに入手しているのだろう。猛スピードで旅を進める友人には、もはや尊敬しかなかった。

「でも、もっとゆっくり旅すればいいのに」

 アクタは呑気にあられをかじった。

 

 

「この橋は人呼んでゴールデンボールブリッジ! 5人勝ち抜けば豪華な賞品がもらえる!」

 24番道路へつながる橋に、5人のトレーナーが並んでいた。

「5人抜きかあ。やってみたい」

「よーし、いいだろう! さて、お前に抜けられるかな?」

 最初の相手は、虫取り少年。

「ふたり目はわたし! これからが本番よ!」

 つぎはミニスカートの少女。

「3人目登場! そう簡単にはいかないぜ!」

 短パン小僧。

「4人目はわたしよ! そろそろバテてきたんじゃない?」

 ミニスカート。

「きえーいっ! 5人目! おれが相手だあ!」

 キャンプボーイ。

 どうにか5人抜きを達成した。橋の先で、拍手をしながら男が歩み寄ってくる。

「おみごとーっ! 5人抜きおめでとう! 賞品にこれをプレゼントしよう!」

 渡されたのは、『きんのたま』だった。

「……あ、だから、ゴールデンボールブリッジか」

 納得した。

 達成感を味わうアクタに男はそっと耳打ちしてきた。

「ところで……ここだけの話、ロケット団に入らない?」

「へ?」

「おれたちはポケモンを悪いことに使おうっていうグループだ! きみみたいな強いトレーナーは大歓迎! な、入りなよ」

 男の背広の下には、「R」のマークがあった。嫌悪感を隠さず、アクタは男から距離を取る。

「入らないです」

「入らないの?」

「入らないですよ」

「入ってよ!」

「いやです」

「入れよ!」

「しつこい……」

「……断るって顔、してんな」

「断ってるじゃないですか!」

「それなら……! 無理やり入れてやる! うりゃーっ!」

 いまさら、5人も6人も変わらなかった。男のズバットも、ドガースも、フシギソウで撃破する。コイキングも応援してくれた。

「お前…! ホント強えな! それだけの腕があれば、ロケット団でも偉くなれるのに、もったいないぜ!」

「なあ、彼らもロケット団なんですか?」

 先ほど戦った5人のトレーナーたちは、アクタとロケット団との戦いを見ていた。

「い、いや……こいつらには、5人抜きっていうゲームに付き合ってもらっただけさ。な? 盛り上がっただろ……?」

 5人の視線は、男に同意しない。むしろ責めるものだった。ロケット団の男は、旗色が悪いと見るや、脱兎の如く逃げ出した。

「あ、逃げやがった」

「……ごめんよ。きみには迷惑かけたね。」

 キャンプボーイの少年が、アクタに頭を下げる。

「あんな悪いやつの提案に乗っちゃって……」

「あの悪名高いロケット団の、団員探しに利用されているなんて、知らなかったのよ」

「もうこのゲームもやめるよ。どうせ、ぼくたちだけじゃ賞品とか用意できないし……」

 すっかり落ち込んでいる5人。

「……あの、べつにやめることはないんじゃない?」

 アクタは、弱々しくも笑いかけた。

「悪いやつに利用されたのは、ツイてなかっただろうけどさ。5人抜きチャレンジ自体は悪くないよ。賞品とか要らないんじゃない? みんな強かったから、達成感があったっていうか……ぼくは楽しかったよ」

「そうか……ありがとう。ほんとにありがとう。もうちょっと、続けてみるよ」

「わたしたちも強くなるから、またチャレンジしに来てね!」

「よーし、みんな! まずはポケモンセンターで回復だ!」

 肩を組む5人。雨降って地固まる──アクタは仲睦まじい彼らの様子に、胸を撫で下ろした。

 

 

 25番道路、通称ハナダの岬に到着する。唯一の建物である小屋が、マサキなる人物の家なのだろう。アクタは扉をノックする。

「はいはーい! どうぞ入ってきてやー!」

 突然の訪問は迷惑だと思っていたが、杞憂だったのだろう。歓迎する声にアクタはほっとして、扉を開けた。

 ピッピがいた。

「こんちわ! ぼくポケモン……!」

 ピッピがしゃべった。

 アクタは、反射的に空のモンスターボールを投げた。

「わー! ちょっと待っ……」

 部屋中の壁にバウンドし、ピッピにはかすりもしなかった。

「ええ……? 自分、めっちゃノーコンやんな。ていうか、捕まえようとすんのやめてくれる!?」

「あ、すいません。つい……」

 ポケモンに怒られてしまった。アクタはピッピに頭を下げる。

「ていうかぼく、ポケモンとちゃうわい! わいはマサキ! ひと呼んでポケモンマニアや!」

「あ、あなたが……!? いくらポケモンマニアだからって、そんな見た目になっていいわけがないでしょう!」

「いや、いまはこんなんやけど、ついさっきまでは、中身も見た目も人間やったんやって!」

「…………」

「あっ、なんやその目は? あんさん信用してへんな。ホントやで! 実験に失敗して、ポケモンとくっついてもうたんや」

「すごいことやりましたね」

 部屋を見渡すと、大きなコンピュータに、転送マシンのような機械が2台。オーキド研究所を彷彿させる設備が用意されていた。

「なっ! 助けてくれへん?」

「いいですよ。なにすればいいですか?」

「ナイス快諾! べつに、難しいことじゃないねん。わいが転送マシンに入るさかい、分離プログラムを頼むで!」

「えっと、このパソコンから実行すればいいですか?」

「そうやそこのパソコンや! いま画面に出てるやつを実行してくれればええから!」

 と、マサキを名乗るピッピは、一方の転送マシンに入ってしまった。

「画面の確認もせずに……分離プログラム? いまの話だと、転送装置を起動しろってことかな。それらしいファイルはひとつだけだし、これを起動すればいいんでしょっと」

 アクタは自分用のパソコンを持っていたので、コンピュータ機器について最低限の知識は有している。来訪者がまったくの素人でなかったことが、マサキにとって不幸中の幸いだっただろう。

 転送マシンが起動する。転送の処理が始まり、やがて逆方向の転送マシンから細身の青年が出てきた。

「やあー! おおきにおおきに、助かったわ!」

 その口調で、アクタは納得する。

「マサキさんですか?」

「ん? ああ、この姿だとはじめましてやな! あんさん、名前は?」

「アクタです。ポケモンコレクション、見せてほしいなって思って……」

「なんや、そんなことならいくらでも! ほれ、パソコンにデータが入っとる」

 マサキはコンピュータを操作してファイルを開く。

「これがマサキくんお気に入りポケモンの、イーブイや! 3パターンに進化してな──って、なに? 急に興味なさそうな顔して」

「……すいません、実物を期待してたんです」

 てっきり、珍しいポケモンと触れ合えるものだと思っていたのだ。

「おっとこりゃ失礼。まあせやなー。ポケモンって実物が一番やしなー……そや! じゃあ代わりのお礼っちゅーのもなんやけど……これやるわ!」

 マサキは机の引き出しを探り、船が描かれたチケットを取り出した。

「いま、クチバの港にサント・アンヌ号が来とんのや」

「豪華客船でしたっけ。テレビで見たことあります」

 差し出されたチケットを受け取る。乗客向けではなく、あくまでもパーティーの招待客を対象にしたチケットらしい。

「ポケモントレーナーもぎょうさん来るらしいで。チケットもろたのはええんやけど、パーティーとか好きやないからな。代わりに行って遊んでえな」

「へえ……珍しいポケモン見られるかも。ありがたく、行ってきます」

「ん、こちらこそありがとうな! あのまま一生ピッピかと思ったわ……」

 転送マシンの扉から、ピッピが顔を出した。こんどはしゃべらなかった。

「ていうか、ポケモンと合体? それってすごいことなんじゃ……」

「ホントは転送の実験やったんや。うっかり、自分が入った状態で起動させてしもて……な、アクタ。このことはだれにも黙っといてくれや。フツーに事故やし。わいは技術屋であって、研究者ではないし!」

 アクタは頷いた。人間が、ポケモンになる。夢のようではあるが、大変な事例だ。

「ぼくも忘れます。しゃべるポケモンなんて、ぜんぜんかわいくなかったですし」

「なんやと、こら」

 




フシギソウ
 れいせいな性格
 背中のつぼみが大きく育ってくると、2本足で立つことができなくなるらしい。

コイキング
 がんばりやな性格
 大昔はまだもうすこし強かったらしい。しかし、いまは悲しいくらいに弱いのだ。
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