ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート28 ギンガトバリビル/冷たい鉤爪

 アカギが繰り出したのは、紫の身体に四枚の翼を持つこうもりポケモン、クロバット。

 アクタが投げたボールは壁にぶつかったが、ノーコンにもすっかり慣れたトゲキッスは空中旋回して少年のもとに戻る。

「“エアスラッシュ”!」

「“どくどくのキバ”」

 トゲキッスが放つ空気の刃をかいくぐり、クロバットは白い翼に牙を立てた。

 運悪く、トゲキッスが『どく』の状態異常に陥ってしまう。

「っ──! “げんしのちから”!」

 いわタイプの技でクロバットに大きなダメージを与えるも、まだ戦闘不能には追い込めない。

「……トゲキッス、交代! グレイシア!」

 状態異常を負ったトゲキッスを引っ込めて、こおりタイプのグレイシアを繰り出す。

「“こおりのつぶて”!」

 先制攻撃として発射した氷の弾丸は、ようやくクロバットを戦闘不能にした。

「……ドンカラス」

 アカギの2体目は、ヤミカラスの進化系らしい黒い翼のポケモンだった。

 グレイシア相手にも関わらず、続けてひこうタイプが現れたことに、アクタは違和感を覚える。

「“だましうち”」

 黒い翼がグレイシアを襲うが。

「“れいとうビーム”!」

 反撃のこおりタイプの光線のほうが、威力は高い。効果は抜群だ。

「なるほど……このままではわたしが負けるかもな」

「なるほどじゃねえよ」

 冷徹に言い放つアクタ。彼のテンションの下がりを感じて、グレイシアは戦場から一歩退く。

「なんか、あんた……出し惜しんでません?」

「…………」

 アカギの実力は、こんなものではないはずだ。粛々とポケモンに攻撃技を命じるだけのアカギは、さながらカンナギタウンで戦ったとき以下だと感じた。

「時間稼ぎでもしたいんですか? それにしちゃ雑だ。なんのつもりかわかんないけど、やるなら本気で来てくださいよ。すごく不愉快だ」

「おもしろい。そして興味深い」

 アカギはドンカラスをボールに収める。

「キミは……なるほど強い。そしてその力の源はポケモンへの優しさというわけだ」

「……はあ?」

 アクタの疑問の声も裏返る。

「この前は弱いだの不完全だの言っといて、なんだその掌返しは! ていうかまだ終わってないだろ! ちゃんとやれよ! バトル!」

「優しさ……もったいない。そんなものはまやかしだ」

「聞いてよ!」

 しかしアカギは聞く耳を持たないようで、独り言のように呟き続ける。

「見えないものは揺らぎ消えてしまうものなのだ。死んでしまえばなくなるものだ。だからわたしはすべての感情を殺した」

「感情を殺す? すべて? そんなのできっこないよ」

 11歳の少年は、11年ほどしか生きていないなりに、反論する。

「人間もポケモンも、生きてりゃ、悲しいし嬉しいし腹立たしいよ。それを他人に隠すことはできても、自分自身にだけは偽りようもないでしょ。アカギさん、それはあんたもおなじのはずだ。いまの世界が悲しくて、怒ってるから、『新しい世界』だなんて自分に都合のいいものを求めてるんだろ」

「…………」

「あんたの言葉を借りるなら、それって()()()ってことになるのかな? ま、ぼくの意見は真逆だけどね。感情があってこそ、人間は完全なんじゃ──」

「……まあいい。キミとはわかり合えないだろう」

 アカギは強引に話を打ち切った。

 思いつきの挑発だったが、ただ不愉快にさせただけらしい。

 代わりに、彼は3つ目のモンスターボールを放る。出てきたのはニューラだった。

「ずいぶんと日が暮れた。もう夜の時間帯だな」

「は?」

 唐突な世間話にアクタは首を傾げる。だが、どうやら他愛のない話ではなさそうだ。ニューラの手には、アイテムである『するどいツメ』。そんなニューラに、アカギはポケモンの成長を促す『ふしぎなアメ』を与えた。

「今回、わたしがキミと戦ったのは時間稼ぎが目的ではない」

 ニューラの身体が光に覆われる。進化が始まったのだ。

「わたしのところにただひとりで来た、キミの勇気を認めたまでのこと。おかげでよくわかったよ。我々の戦いは、こんな小さなビルでは終息しない。より相応しい場所があるはずだ」

 頭部に扇、首にはマフラーのような赤い飾りがついた姿。ポケモン図鑑は、その進化系をマニューラと示した。

「“こごえるかぜ”」

 マニューラの発した冷気は、グレイシアを狙ったものではない。ただアクタとアカギを分断するように、分厚い氷壁を造った。

「……どういうつもりですか」

「湖のポケモンたちを助けるなら、この先の研究室に行くがいい。わたしはテンガン山に向かう。頂上で新しい世界を生み出さねばならないからな」

 アカギとマニューラは、少年に背を向ける。

「キミと決着をつけるならば、頂上(そこ)だ」

 

 

「勝手なことばっかり言いやがって……!」

 ラムパルドに氷壁を破壊してもらい、アクタはアカギの部屋を抜ける。すぐにでも彼を追いかけたいところだが、まずはエムリット、アグノム、ユクシーの3匹を助けなければ。

「……なんか、ぜんぶアカギの筋書きどおりみたいでほんとうにムカつくな」

 ぶつぶつと文句を言いながら、アクタは研究施設らしいエリアを進む。

 アカギは研究者らしい。アクタにとってはわけのわからないモノばかりが存在する施設だが、アカギにとっては手足のように扱えるのだろう。彼が非常に頭のいい人間であることはわかる。バトルのセンスもある。

 なのにそれを「優しいこと」に使えないなんて、もったいのない……とアクタはつくづく呆れるのであった。

「もしもアカギが優しい人間だったなら」──淡い理想に耽るアクタだったが、やがて施設の奥の光景を見て、もはや期待は抱けないものと知る。

「ううっぷ……今回の実験は……アカギ様に……ついていく自信がなくなってしまった……」

「うう……気分が悪くてなにも言えないの……造り出された()()……一体なにに使うのかしら?」

 3匹のポケモンが装置に閉じ込められている。

 長い尾を持ち、妖精を思わせる姿の3匹のポケモンは、それぞれ頭部の形状が違う。

 ユクシー。エムリット。アグノム。

 彼らは苦悶していた。

 尻尾を引きつらせ、身体を震わせ、瞳を閉じて、苦悶していた。

「ふひゃひゃ。さてさて湖のポケモンども、どこに行くのか気になるのう」

「なにが言いたい?」

 そんなポケモンたちの様子を一切気に留めずに、会話するふたりの男の姿があった。

 彼らのことは憶えている。老人はプルート。若い男はサターンだ。

「べつに。わしは新しい世界などどうでもいいんじゃ。アカギの言うとおりギンガ団が新しい世界を支配すれば、わしもおいしい思いができる。ぜひぜひアカギにはがんばってほしいところだわ。──さてテンガン山の頂上でなにが起きるのか楽しみだわ」

「……じいさん。あんたに心配されなくてもボスは大丈夫だ」

「おい」

 嫌悪感を隠さないまま、アクタはふたりに詰め寄る。

「あのポケモンたちを解放しろ。なんでこんな、ひどいことができるんですか」

「お前……ポケモンを助けるためにわざわざここまで?」

 サターンはどうやら、アクタがここまで踏み込んできた経緯を察したようだ。

「……いつものことながらボスの考えはわからない。なぜこんな子どもを自由にさせておくのか……?」

「アカギからはもう離れたほうがいい。あの男はあなたたちみんなのことを利用しているだけなんだ」

「お前がボスを語るのか」

 冷笑するサターン。

「ボスを見くびるなよ。ボスの思想は、ギンガ団の在り方を体現しているのさ。わたしたちギンガ団は必要なものを独占し、要らないものは捨てるだけ」

「……救いようがない」

 アクタとサターンは、それぞれモンスターボールを構える。

「まあいい、せっかく来てくれたんだ。ギンガ団なりのもてなしをしよう。──それに湖でやられたそのリベンジもある」

 サターンはドクロッグを繰り出す。アクタが投げたボールは天井にぶつかって、ドダイトスを呼び出した。

「だから、なんでボールをまともに投げないんだお前は! ドクロッグ、“どくづき”!」

 どくタイプの鋭い突きであったが、ドダイトスはものともしない。

「なに……っ!?」

「 “じしん”」

 ドダイトスは前足・後ろ足でギンガトバリビルを揺らす。施設の研究機材がいくつか倒れて、ちょっと悪いけどざまあみろと思った。ドクロッグは戦闘不能となった

「ドダイトスは頑丈です。生半可な一撃じゃやられません。ドクロッグは、特性の『きけんよち』で、ドダイトスが効果抜群の技を持っていることに気づいてましたよ。あんた、ちゃんと見てましたか……?」

 人間としてもトレーナーとしても、サターンはレベルが低い。

 ──とは、口には出さなかった。ひどい言葉だと思ったからだ。

「おつかれさま、ドダイトス──痛たたたた。噛まないでよ」

「……くっ! なぜお前はそんなに強い」

「真剣にやってるからです。……ボールをちゃんと投げられないのだって、ふざけてるわけじゃないですよ」

 ノーコンに関してはたぶん、病気のようなものだ。

 だけどバトルに関しては自信がる。

「ぼくを見くびるなよ。あなたが真剣に勝負に向き合ってれば、もっと善戦できたはずだ」

 アクタの言葉に、サターンは戦意を失ったようだ。つぎのモンスターボールに触れようともしない。

「まあいい、この3匹はお前が好きにしろ……このマシンのボタンを押せば自由にしてやれる……」

 アクタはすぐにボタンを押した。サターンの言葉どおり、3匹を拘束していた機械は電源が落ち、ユクシー、エムリット、アグノムは外に出るや、ふっと姿を消した。

「……アカギさんはあの3匹を、必要ないって言ってた。いったいあなたたちはなんのために3匹を捕えたんですか?」

「……ボスは3匹の身体から生み出した結晶で『あかいくさり』を作り出した」

 不機嫌そうなサターンだが、一応情報はくれるようだ。

「鎖?」

「それこそが、テンガン山でなにかを繋ぎとめるために……そしてなにかを生み出すために必要なものらしい……もっとも、ボスがテンガン山でなにをするつもりなのか、わたしも知らないがな」

「なんっにも教えてもらってないんですね」

 呆れるアクタ。サターンは自嘲気味に笑う。

「きっと、お前の言うとおりなんだろうな。ボスは冷酷な人間だ。ボスはわたしに対して価値を見出していないだろう──さっきも言っただろう? ギンガ団は必要なものを独占し、要らないものは捨てるだけ──薄々わかっていたさ。わたしはもう……」

「そんなことないって」

 アクタはサターンのことなんて嫌いだった。ギンガ団が嫌いだからだ。

 だけど、なんとなく励ますような言葉を返してしまった。

「あんたたちはすごいよ。悪いやつだけど、みんなすごい。ただ──間違えてるだけだ。ついていく人間も、物事の考え方も」

「…………」

 サターンはなにも言わず、部屋を出て行った。

「子どもに負けるとはな……ギンガ団、心配だのう……」

 プルートはブツブツと呟く。

「アカギの言っていたテンガン山の頂上での作戦……上手くいくのかどうか。……うーむ、べつの作戦も準備しておいてやろうかの。この天才プルートがな!」

「やい、じいさん」

 乱暴なアクタの呼びかけに、プルートはびくっと肩を震わせる。

「ひっ! なんじゃ!?」

「いまはテンガン山に行くのが最優先だから、あんたのことはほっとく。でもアカギのことが片付いたら、つぎはあんただ。おとなしくしてろ」

 そのまま老人に背を向けて、アクタはようやくギンガトバリビルを脱出した。




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲキッス ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

グレイシア ♀
 なまいきな性格

ポリゴン2
 ひかえめな性格

リオル ♀
 わんぱくな性格
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