ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート30 破れた世界/影から来るもの

 青い髪、三白眼、細身の男。

「……新しい宇宙を創る用意はすべて整った。いますべてが終わり、そしてすべてが始まる」

 ギンガ団のボス、アカギは、アクタに目を向けないままに語り始める。

「湖の3匹の結晶から作り出した『あかいくさり』と! わたしがそれをもとに科学機械で作り出した、もう一本の『あかいくさり』で異次元の扉を開いてやる。そしてわたしのためにその力を使え」

 まさしく赤い鎖──と呼べる真紅の螺旋構造が、アカギの周囲を回る。

 その分野についてほとんど知識を持たないアクタでも、なんとなく察しはつく。この二重螺旋構造の「くさり」はさながら、DNA。

 それを、複製とはいえ人造したというのか。

「アカギさん、やめ──」

 しかし制止は叶わなかった。

 空気が震え、少年の身体はプレッシャーに包まれる。もはや最後まで言葉を紡ぐことができない。

「時間を操る神話のポケモン、ディアルガ」

 構成されるふたつの「門」。

「……そしてもう一匹。空間を司る神話のポケモン、パルキアよ」

 現れたのは、片や金剛石、片や真珠のような装飾を持つ、甲殻をまとった2体のポケモンだ。

 その姿に、ハクタイシティのポケモン像を思い出す。

「このときを待っていたぞ、ディアルガにパルキアよ」

 ふたつの巨影が伝説のポケモンであることは、はっきりと分かった。並々ならぬ威圧感を放つ2体に、アクタは言葉を失う。

「この世界を形づくるのは時間と空間の二重螺旋。ならばわたしはお前たちの持つ能力を、わたし自身の力として新しいギンガを! 宇宙を誕生させる!」

 対してアカギは、2体のポケモンの巨影に一切ひるむ様子もなく、不遜に向き合う。

「いまの不完全で醜い世界は消えるがいい。いちどすべてをリセットする。究極の世界。完全な世界を創るため、心といった曖昧で不完全なものなどなくなれ」

 ──という彼の望みを止めたいのは、アクタだけでは──人間だけではないらしい。

 上空に3つの光が現れ、円を描いて旋回する。それは妖精を思わせる姿をした、3体のポケモンだった。

「……やはりな。知識の神、ユクシー。意志の神、アグノム。そして感情の神、エムリット……」

「神……?」

 ここでようやく、アカギは振り返ってアクタに目を向ける。

「シンオウを守るため、哀れなポケモンたちが来たか。精神のシンボルとされる湖の3匹が揃ってこそ、時間・空間のポケモンどちらか 1匹とバランスが保たれる。だがディアルガとパルキアの2匹が同時に現れてはどうすることもできないだろう」

「アカギさん、もうやめろよ」

 震える空気の重さに膝をつくも、どうにかアクタは声を絞り出す。

「世界、創り変えるとか……そんなの、あんたが勝手に決めていいことじゃないですよ!」

 しかしアカギは、少年を嘲笑うかのように浅くため息をつく。

「……さて。キミはいままでわたしのやることに盾突いてきたが、それも許そう。なにしろいまからすべての心が消えるのだから。──キミから! キミのポケモンから! キミの大事なひとたちから……!」

 そんなことはさせるものか。

 少年は立ち上がろうと試みる。

「ようやくわたしの夢が叶うときがやってきたのだ!」

 

 

 不意に。

 周囲が暗くなった。

 

 

 まだ夜の時間ではないのに、まるで日が落ちたかのような暗闇が訪れる。

「なんだこの気配……」

 その闇は、アカギにとっても予想外だったらしい。そして上空を飛ぶ3つの光の軌道が乱れる。まるで彼らもうろたえているみたいだ。

「……何者かが怒り狂っている?」

「ぼく以外にもそんなひとが?」

 気丈に軽口を絞り出し、立ち上がったアクタは、その「穴」に気がついた。

 石畳の上。黒い、黒い、黒い、影がにじみ出て、底の見えない穴を形成した。

「!?」

 せっかく立ち上がったのに、アクタは驚愕してしりもちをついてしまった。

 穴から現れたのは、赤い目、赤い爪を持つ黒い影。その正体はわからないものの、大型のポケモンだった。

「おもしろい。影でしか出てこられないポケモンがいるのか」

 影は、翼の形となって穴から伸びてくる。竜のような、否──悪魔のような翼から、影が滴となって零れる。

「それにしても愚かな……ディアルガ、パルキアの2匹の力を操るこのわたしに……」

 翼の形状が変わる。

 禍々しい赤い爪がギラリと光る──魔手。

「このアカギに逆ら()()()()()()()……!!」

 影は、アカギを呑み込んだ。

「……え?」

 やがて空は明るくなる。

 アカギの姿は消えていた。ディアルガとパルキアの姿も消えていた。

 少年の目の前には、黒い影が渦巻いた「穴」。残った不可思議はそれだけだった。

 

 

「なんてこと……!」

 呆けたアクタに、シロナが駆け寄ってくる。

「シロナさん! ええと………」

 空を舞う3体のポケモンたちが、鳴き声を上げる。

 そしてユクシー、アグノムは光の形状のまま、穴へと飛び込んで行った。

「ええ!? 入っちゃうの!?」

 桃色の光──エムリットだけは、アクタの目の前に姿を現す。

「…………」

 しばらく少年と見つめ合う。やがて、エムリットも穴のなかへ向かった。

「……えと、シロナさん。来てくれたんですね」

「ごめんなさい、遅くなって。ちょっと調べものに手こずっちゃって」

 シロナは神話に関する研究者だ。先ほど神話じみた光景を目の当たりにした現状、彼女の調査結果は重要な情報だ。

「神話を調べていてわかったの。この世界を創るとき生み出された、ディアルガとパルキア。じつはそのとき、もう1匹ポケモンが生まれていたらしいの」

「それが……」

 シロナは頷く。

「ディアルガにもパルキアにも負けないぐらいの力を持ちつつ、語られることのなかったポケモン。それがギラティナ! でね、もうひとつの世界というか、わたしたちの世界の裏側……そこに潜んでいるんですって!」

 きっと、この奇妙な穴こそが、世界の裏側につながってるのだろう。だとしたらやはり、アカギをさらっていったあの影が……

「さっきの影……あれがギラティナだと思うの」

 シロナは周囲を見渡す。

 槍のように尖っていた柱が──()()()()()()

「な、なんだこれ!? この柱、石造りですよね!? 割れて砕けるならまだしも、こうはならないでしょ……」

「でも実際、歪んでいる……。あの穴ができて、もうひとつの世界と繋がったせいね。このままでは歪みはシンオウ全体に広がり……世界は壊れていく……」

「世界って……」

「あくまでも可能性の話よ」

 世界規模。そんなスケールについていけそうにない。たしかにアカギは「世界を創る」なんて言っていたが、こうも現実を帯びてこようとは。

「ビビった?」

「はい。さすがに」

 だけど。

 アクタがすることには変わりはない。

「あの影を……ギラティナを止めるには、この穴の向こうにいかなきゃいけないんですね」

「そうよ。一緒に来る?」

 あまりにも気軽に誘われたものだから、アクタは驚いた。

 てっきり危険を理由に連れて行ってもらえないものかと──だから、頭を下げて「連れて行ってください」と頼むつもりだったのに。

「はい、行きます。あの男にもまだ用事があるんです」

「そっか。じゃあ、アカギを追いかけましょう!」

 シロナは臆することなく──まるで散歩にでも出かけるような足取りで、禍々しい影を放つ穴に入って行った。

「……よくあんなに、ふつうに行けるなあ」

 アクタも、恐る恐る彼女に続いて穴に飛び込む。

 本来、異世界に足を踏み入れること自体、大変な勇気であった。

 

 

「ここは……」

 アクタとシロナは、周囲を見渡す。

 渦巻く背景。

 浮遊する足場。

 捻じれる時間。

 止まった時間。

「うっわ、なんだここは……!?」

 絶句するアクタ。

「ポケモンのいる気配もなく、時間は流れず、空間も安定していない、掟破りの世界……『破れた世界』と呼ぶべき空間……」

 対して、シロナは冷静にこの世界を分析している。

「とにかくギラティナを探しましょう。槍の柱から広がる歪みを止めるためにも……」

 その瞬間、上空を黒い影が横切る。

「いまのは……」

「ギラティナ……!?」

 シロナは、影の向かって行く方向へ歩き出す。

「急ぎましょう! このままでは、破れた世界もわたしたちのいた世界も歪んでいく気がするもの……」

「はい!」

 シロナに続いて歩き出した、その瞬間。

 アクタの視界が歪む。

「え?」

 正確には、空間が歪む。

 気がつけばアクタの目の前から、シロナの姿が消えていた。

「……はぐれた!?」

 先ほど、彼女は言っていた。──()()()()()()()()()()()()()()()と。

「だからって、シロナさんとはほんの数歩離れただけなのに……ええい、うろたえてる場合じゃないや」

 頼れる大人とはぐれてしまったのは手痛いが、独りきりでも前へ進まなければ。アクタはとにかく、破れた世界を道なりに進んだ。

 仕掛け。悪路。まるでダンジョンのような世界だが、野生ポケモンが出ないのはありがたい。不安定な空間、なんて場所でポケモンを出すことがあれば、そのまま離れ離れになってしまう可能性だってあるからだ。

「ただでさえぼくはノーコンなのに……」

 投げたボールが戻ってこないなんて、冗談にならない。

「たしかにここでポケモンを出すのは控えるべきね」

 ある程度進んだ場所で、シロナと合流した。

 ふたりの乗った足場が、エレベーターのように降下する。

「こうやって降りて行けばギラティナに会えるのかしら。……この破れた世界では、()()()()()()()というのかしら」

「ものすごく矛盾した表現ですけど、この世界ではなにもおかしくないですね」

 周囲の景色には、上下左右がない。壁は床であり天井である。頭が混乱ほど奇妙な世界だが、アクタは徐々に景色に慣れてきた。その証拠に、シロナについていけている。

 時おり、エムリットたち3体のポケモンが目の前を横切った。

「できるだけあの子たちについていきましょう。これは予想だけど、あの3体はあなたのことを、導こうとしているんだと思う」

「どうしてぼくを?」

「ギンガ団から助けたんでしょ。たぶん……エムリットたちも世界を守ろうとしているんじゃないかしら。そしてそのためには……」

「ひとりでも多くの助けが必要ってわけですね」

「そうね」とシロナは笑った。彼女がどうして笑ったのか、アクタにはわからなかった。

 アクタ通路を進もうとすると、突然、目の前に障害物が現れた。

「うわあびっくりした」

「ふーん……じゃあこっち?」

 シロナは、あえて障害物のある方向に進むと、こんどは逆に道が開けた。

「意地悪だなあ、このダンジョンは」

「ふふ、そうね。さすがは世界の裏側」

 ぽつぽつと、シロナが語り出す。

「わずかに伝わるギラティナの神話。そこで語られていたこの世の裏側……それがこの世界のこと。この世界の役割……そしてギラティナは、ただ1匹でなぜここにいるの?」

「それは、ぼくも気になってました。この世界のことはよくわからないけど、ほかにポケモンもいないのに……」

 寂しくないのだろうか。

 という心配は、神様じみた伝説のポケモンに向けるのは失礼だろうか。

「……わからないことばかりだけど、いまはやることがあるわね」

「はい。──あっ」

 不意に。

 アクタとシロナの間の、足場が割れた。

「うわわ。どうしよう」

「無理に合流しなくていいわ。一緒に行くよりも、手分けして正しい道を探しましょう」

 幸い、ふたりの足場からはそれぞれ進めるルートがある。

 そういうわけで、またアクタはシロナとはぐれてしまった。とはいえ先ほどまで彼女とともに行動していて、この空間の歩き方もずいぶんと理解できた。

 それに──時おりアクタの目の前を飛ぶ、湖のポケモンたちについていくことで、順調に進めているような気がした。

 そんな、ひとりでも平気だと自信をつけた矢先。シロナとは違う人影と遭遇する。

「アカギさん」

 青い髪、三白眼、細身の男に、追いついてしまった。




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲキッス ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

グレイシア ♀
 なまいきな性格

ポリゴン2
 ひかえめな性格

リオル ♀
 わんぱくな性格
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