ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
青い髪、三白眼、細身の男。
「……新しい宇宙を創る用意はすべて整った。いますべてが終わり、そしてすべてが始まる」
ギンガ団のボス、アカギは、アクタに目を向けないままに語り始める。
「湖の3匹の結晶から作り出した『あかいくさり』と! わたしがそれをもとに科学機械で作り出した、もう一本の『あかいくさり』で異次元の扉を開いてやる。そしてわたしのためにその力を使え」
まさしく赤い鎖──と呼べる真紅の螺旋構造が、アカギの周囲を回る。
その分野についてほとんど知識を持たないアクタでも、なんとなく察しはつく。この二重螺旋構造の「くさり」はさながら、DNA。
それを、複製とはいえ人造したというのか。
「アカギさん、やめ──」
しかし制止は叶わなかった。
空気が震え、少年の身体はプレッシャーに包まれる。もはや最後まで言葉を紡ぐことができない。
「時間を操る神話のポケモン、ディアルガ」
構成されるふたつの「門」。
「……そしてもう一匹。空間を司る神話のポケモン、パルキアよ」
現れたのは、片や金剛石、片や真珠のような装飾を持つ、甲殻をまとった2体のポケモンだ。
その姿に、ハクタイシティのポケモン像を思い出す。
「このときを待っていたぞ、ディアルガにパルキアよ」
ふたつの巨影が伝説のポケモンであることは、はっきりと分かった。並々ならぬ威圧感を放つ2体に、アクタは言葉を失う。
「この世界を形づくるのは時間と空間の二重螺旋。ならばわたしはお前たちの持つ能力を、わたし自身の力として新しいギンガを! 宇宙を誕生させる!」
対してアカギは、2体のポケモンの巨影に一切ひるむ様子もなく、不遜に向き合う。
「いまの不完全で醜い世界は消えるがいい。いちどすべてをリセットする。究極の世界。完全な世界を創るため、心といった曖昧で不完全なものなどなくなれ」
──という彼の望みを止めたいのは、アクタだけでは──人間だけではないらしい。
上空に3つの光が現れ、円を描いて旋回する。それは妖精を思わせる姿をした、3体のポケモンだった。
「……やはりな。知識の神、ユクシー。意志の神、アグノム。そして感情の神、エムリット……」
「神……?」
ここでようやく、アカギは振り返ってアクタに目を向ける。
「シンオウを守るため、哀れなポケモンたちが来たか。精神のシンボルとされる湖の3匹が揃ってこそ、時間・空間のポケモンどちらか 1匹とバランスが保たれる。だがディアルガとパルキアの2匹が同時に現れてはどうすることもできないだろう」
「アカギさん、もうやめろよ」
震える空気の重さに膝をつくも、どうにかアクタは声を絞り出す。
「世界、創り変えるとか……そんなの、あんたが勝手に決めていいことじゃないですよ!」
しかしアカギは、少年を嘲笑うかのように浅くため息をつく。
「……さて。キミはいままでわたしのやることに盾突いてきたが、それも許そう。なにしろいまからすべての心が消えるのだから。──キミから! キミのポケモンから! キミの大事なひとたちから……!」
そんなことはさせるものか。
少年は立ち上がろうと試みる。
「ようやくわたしの夢が叶うときがやってきたのだ!」
:
不意に。
周囲が暗くなった。
:
まだ夜の時間ではないのに、まるで日が落ちたかのような暗闇が訪れる。
「なんだこの気配……」
その闇は、アカギにとっても予想外だったらしい。そして上空を飛ぶ3つの光の軌道が乱れる。まるで彼らもうろたえているみたいだ。
「……何者かが怒り狂っている?」
「ぼく以外にもそんなひとが?」
気丈に軽口を絞り出し、立ち上がったアクタは、その「穴」に気がついた。
石畳の上。黒い、黒い、黒い、影がにじみ出て、底の見えない穴を形成した。
「!?」
せっかく立ち上がったのに、アクタは驚愕してしりもちをついてしまった。
穴から現れたのは、赤い目、赤い爪を持つ黒い影。その正体はわからないものの、大型のポケモンだった。
「おもしろい。影でしか出てこられないポケモンがいるのか」
影は、翼の形となって穴から伸びてくる。竜のような、否──悪魔のような翼から、影が滴となって零れる。
「それにしても愚かな……ディアルガ、パルキアの2匹の力を操るこのわたしに……」
翼の形状が変わる。
禍々しい赤い爪がギラリと光る──魔手。
「このアカギに逆ら
影は、アカギを呑み込んだ。
「……え?」
やがて空は明るくなる。
アカギの姿は消えていた。ディアルガとパルキアの姿も消えていた。
少年の目の前には、黒い影が渦巻いた「穴」。残った不可思議はそれだけだった。
:
「なんてこと……!」
呆けたアクタに、シロナが駆け寄ってくる。
「シロナさん! ええと………」
空を舞う3体のポケモンたちが、鳴き声を上げる。
そしてユクシー、アグノムは光の形状のまま、穴へと飛び込んで行った。
「ええ!? 入っちゃうの!?」
桃色の光──エムリットだけは、アクタの目の前に姿を現す。
「…………」
しばらく少年と見つめ合う。やがて、エムリットも穴のなかへ向かった。
「……えと、シロナさん。来てくれたんですね」
「ごめんなさい、遅くなって。ちょっと調べものに手こずっちゃって」
シロナは神話に関する研究者だ。先ほど神話じみた光景を目の当たりにした現状、彼女の調査結果は重要な情報だ。
「神話を調べていてわかったの。この世界を創るとき生み出された、ディアルガとパルキア。じつはそのとき、もう1匹ポケモンが生まれていたらしいの」
「それが……」
シロナは頷く。
「ディアルガにもパルキアにも負けないぐらいの力を持ちつつ、語られることのなかったポケモン。それがギラティナ! でね、もうひとつの世界というか、わたしたちの世界の裏側……そこに潜んでいるんですって!」
きっと、この奇妙な穴こそが、世界の裏側につながってるのだろう。だとしたらやはり、アカギをさらっていったあの影が……
「さっきの影……あれがギラティナだと思うの」
シロナは周囲を見渡す。
槍のように尖っていた柱が──
「な、なんだこれ!? この柱、石造りですよね!? 割れて砕けるならまだしも、こうはならないでしょ……」
「でも実際、歪んでいる……。あの穴ができて、もうひとつの世界と繋がったせいね。このままでは歪みはシンオウ全体に広がり……世界は壊れていく……」
「世界って……」
「あくまでも可能性の話よ」
世界規模。そんなスケールについていけそうにない。たしかにアカギは「世界を創る」なんて言っていたが、こうも現実を帯びてこようとは。
「ビビった?」
「はい。さすがに」
だけど。
アクタがすることには変わりはない。
「あの影を……ギラティナを止めるには、この穴の向こうにいかなきゃいけないんですね」
「そうよ。一緒に来る?」
あまりにも気軽に誘われたものだから、アクタは驚いた。
てっきり危険を理由に連れて行ってもらえないものかと──だから、頭を下げて「連れて行ってください」と頼むつもりだったのに。
「はい、行きます。あの男にもまだ用事があるんです」
「そっか。じゃあ、アカギを追いかけましょう!」
シロナは臆することなく──まるで散歩にでも出かけるような足取りで、禍々しい影を放つ穴に入って行った。
「……よくあんなに、ふつうに行けるなあ」
アクタも、恐る恐る彼女に続いて穴に飛び込む。
本来、異世界に足を踏み入れること自体、大変な勇気であった。
:
「ここは……」
アクタとシロナは、周囲を見渡す。
渦巻く背景。
浮遊する足場。
捻じれる時間。
止まった時間。
「うっわ、なんだここは……!?」
絶句するアクタ。
「ポケモンのいる気配もなく、時間は流れず、空間も安定していない、掟破りの世界……『破れた世界』と呼ぶべき空間……」
対して、シロナは冷静にこの世界を分析している。
「とにかくギラティナを探しましょう。槍の柱から広がる歪みを止めるためにも……」
その瞬間、上空を黒い影が横切る。
「いまのは……」
「ギラティナ……!?」
シロナは、影の向かって行く方向へ歩き出す。
「急ぎましょう! このままでは、破れた世界もわたしたちのいた世界も歪んでいく気がするもの……」
「はい!」
シロナに続いて歩き出した、その瞬間。
アクタの視界が歪む。
「え?」
正確には、空間が歪む。
気がつけばアクタの目の前から、シロナの姿が消えていた。
「……はぐれた!?」
先ほど、彼女は言っていた。──
「だからって、シロナさんとはほんの数歩離れただけなのに……ええい、うろたえてる場合じゃないや」
頼れる大人とはぐれてしまったのは手痛いが、独りきりでも前へ進まなければ。アクタはとにかく、破れた世界を道なりに進んだ。
仕掛け。悪路。まるでダンジョンのような世界だが、野生ポケモンが出ないのはありがたい。不安定な空間、なんて場所でポケモンを出すことがあれば、そのまま離れ離れになってしまう可能性だってあるからだ。
「ただでさえぼくはノーコンなのに……」
投げたボールが戻ってこないなんて、冗談にならない。
「たしかにここでポケモンを出すのは控えるべきね」
ある程度進んだ場所で、シロナと合流した。
ふたりの乗った足場が、エレベーターのように降下する。
「こうやって降りて行けばギラティナに会えるのかしら。……この破れた世界では、
「ものすごく矛盾した表現ですけど、この世界ではなにもおかしくないですね」
周囲の景色には、上下左右がない。壁は床であり天井である。頭が混乱ほど奇妙な世界だが、アクタは徐々に景色に慣れてきた。その証拠に、シロナについていけている。
時おり、エムリットたち3体のポケモンが目の前を横切った。
「できるだけあの子たちについていきましょう。これは予想だけど、あの3体はあなたのことを、導こうとしているんだと思う」
「どうしてぼくを?」
「ギンガ団から助けたんでしょ。たぶん……エムリットたちも世界を守ろうとしているんじゃないかしら。そしてそのためには……」
「ひとりでも多くの助けが必要ってわけですね」
「そうね」とシロナは笑った。彼女がどうして笑ったのか、アクタにはわからなかった。
アクタ通路を進もうとすると、突然、目の前に障害物が現れた。
「うわあびっくりした」
「ふーん……じゃあこっち?」
シロナは、あえて障害物のある方向に進むと、こんどは逆に道が開けた。
「意地悪だなあ、このダンジョンは」
「ふふ、そうね。さすがは世界の裏側」
ぽつぽつと、シロナが語り出す。
「わずかに伝わるギラティナの神話。そこで語られていたこの世の裏側……それがこの世界のこと。この世界の役割……そしてギラティナは、ただ1匹でなぜここにいるの?」
「それは、ぼくも気になってました。この世界のことはよくわからないけど、ほかにポケモンもいないのに……」
寂しくないのだろうか。
という心配は、神様じみた伝説のポケモンに向けるのは失礼だろうか。
「……わからないことばかりだけど、いまはやることがあるわね」
「はい。──あっ」
不意に。
アクタとシロナの間の、足場が割れた。
「うわわ。どうしよう」
「無理に合流しなくていいわ。一緒に行くよりも、手分けして正しい道を探しましょう」
幸い、ふたりの足場からはそれぞれ進めるルートがある。
そういうわけで、またアクタはシロナとはぐれてしまった。とはいえ先ほどまで彼女とともに行動していて、この空間の歩き方もずいぶんと理解できた。
それに──時おりアクタの目の前を飛ぶ、湖のポケモンたちについていくことで、順調に進めているような気がした。
そんな、ひとりでも平気だと自信をつけた矢先。シロナとは違う人影と遭遇する。
「アカギさん」
青い髪、三白眼、細身の男に、追いついてしまった。
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲキッス ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
グレイシア ♀
なまいきな性格
ポリゴン2
ひかえめな性格
リオル ♀
わんぱくな性格