ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「……あの影のポケモンはここにいない。わたしを置き去りにし、さらに奥へと去って行った。……わたしの計画を邪魔できて満足だというのか……」
アカギはアクタに背を向けて、この破れた世界の奥へ進もうとする。
「待ってよ」
少年はその背中に駆け寄る。
「……ここで決着をつけるとでも?」
「ううん、ここじゃなくていいや。ポケモンたちが危ない」
もちろんアクタには、アカギを打ち倒したい気持ちは大いにあるのだが、いまはそのときではない。
「ギラティナのところに行くんでしょ。一緒に行きません?」
「…………」
短い沈黙の後。
「好きにすればいい」
頷くアカギ。
「じゃあ」と、アクタはアカギの横に並んで。
手を繋いだ。
「……おい、なんのつもりだ」
「この世界、ふとしたときに空間が歪んで、シロナさんと同行しててもはぐれちゃったんです。でもこうして手を繋いでいれば、たぶん大丈夫でしょ」
「…………」
ふたりは歩き出した。
まったく仲が良くなさそうに、手を繋いで。
「ところでお前……遺伝子について知っているか?」
「うーん、生き物の、なんやかんや……よくわかんないです」
「……そうだろうな」
「教えてください」
「遺伝子というのは人間やポケモンといった、生き物の設計図と言えるもの。その本体であるDNAは、正反対の性質を持つ2本の鎖が絡み合っている」
「鎖……」
「その設計図の鎖は片方が壊れたとしても、もう片方をコピーし元の姿に戻せるのだ。──なにが言いたいかわかるだろう」
「ぜんっぜんわかりません」
「……時間も流れず、空間も安定せず、影のポケモンだけしかいないこのおかしな世界と、わたしが変えたい世界……ふたつの世界は遺伝子のように、お互いの世界が消えないよう支え合っているのだろう。だが支え合うときに、影のポケモンもなにかしらの影響があるとみた」
「だからギラティナは、アカギさんのことを……」
「そう。あの影のポケモンはそれを嫌い、わたしを呑み込んだ。きっとこのおかしな世界はあの影のポケモンが生み出した。だから世界になにかあると、影のポケモンにも影響がある」
「…………」
「まあそんなことはどうでもいい。大事なのはあいつを倒し、この世界そのものも消すこと。もう 二度とわたしの邪魔ができないように……世界を元に戻せないように」
「どうでもいいことあるかよ」
「……なに?」
「結局、いままでと一緒なんだ。あんたの手段はいつも、だれかに迷惑をかける。今回はその相手がギラティナだったんだ。ギラティナは悪くない。みんなあんたのせいだ」
手を繋いで、こんなに近くにいるのに。
ふたりの距離は、果てしなく遠い。
:
ようやく最深部──の手前らしき場所までたどり着いた。ずいぶんと開けた場所だ。
「この奥にギラティナが……?」
手を繋いだまま佇むふたりのもとに、シロナがやってきた。
「先に来てたのね。──って、どういう状況?」
「ああ、いや、なんでもないんです」
アクタはアカギの手を放して、シロナの隣へ。
そしてアカギとシロナは向かい合う。
ひりついた雰囲気が、破れた世界に漂う。
「……どうして世界を変えようとするの? この世界が憎いなら、自分ひとり、だれもいないところに行けばいいだけでしょう」
「ふん。なぜこのわたしが、世界から逃げるように息をひそめて生きるのだ?」
嘲笑するアカギ。
「わたしはこの世界から、心という不完全で曖昧なものを消し去り、完全な世界を生み出す。それがわたしの正義! だれにも邪魔はさせない」
「そんな……」
「そんな正義があるかよ!」
シロナの言葉を遮って、アクタが激昂する。
「自分勝手に世界を創り変えることが、正義なわけない! どんな理由があっても、他人やポケモンを犠牲にしてまで果たす夢が、正しいわけないだろ!」
アクタはモンスターボールに手をかける。
「シロナさん。さすがにここまで来て、空間が歪んで迷路に放り込まれたりしないですよね?」
「……ええ。近くにギラティナがいる影響かわからないけど、このあたりは安定しているみたい」
地面は広く、そして分厚い。
「やるのね?」
「シロナさんは、先にギラティナのところへ。アカギはぼくが片をつけます」
「…………」
シロナはしばらく少年を見つめて。
「……うん、いいでしょう。任せるわね」
そんなふたりに、冷笑を向ける。
「貴様が相手ではないのか? シロナ。こんな子ども……」
「あなたはアクタくんに勝てないわ」
たったそれだけを言い残して、シロナはふたりに背を向けて、ギラティナの待つ最奥へ進んで行った。
「……なにを馬鹿な」
アカギは笑っているようで。
否、怒っていた。
「わたしは負けぬ! あの影のポケモンにも! くだらない世界にも!」
それぞれボールを開く。
「ヘルガー!」
「ドダイトス!」
ヘルガーの“かえんほうしゃ”がドダイトスを襲う。効果は抜群だが、耐える。
「“じしん”!」
反撃のじめんタイプの技もまた、効果抜群だった。ヘルガーは戦闘不能になる。
「“ギャラドス”!」
凶悪な牙を覗かせる青龍が、ドダイトスに襲い掛かる。
「“こおりのキバ”!」
「やばっ……!」
こおりタイプの技は、ドダイトスに4倍ものダメージを与える。“かえんほうしゃ”のダメージもあり、ドダイトスの巨体が倒れた。
「おつかれさま。つぎは──ポリゴン2!」
ポリゴン2は三筋の光線、“トライアタック”を放つ。
「状態異常には……」
「ならん! ギャラドス、“たきのぼり”!」
強烈な一撃を喰らう。やはり、ギャラドスは強い。アクタは一瞬、カントー地方を懐かしく思った。
「大丈夫、これでとどめだ! “ほうでん”!」
でんきタイプの技を浴びて、ギャラドスは『ひんし』になって地に落ちる。
「けっこうダメージを負ったね。交代しよう」
一旦、ポリゴン2をボールに戻す。
「さあ、仕切り直しだ。といっても、残りのポケモンは予想ついてるけど……」
「予想したところで、勝てるまい──クロバット!」
「トゲキッス!」
2体のポケモンが宙を舞う。そして、
「「“エアスラッシュ”」」
おなじ技をぶつける。空気の刃が衝突し、凄まじい風が巻き起こる。
「もう一回、“エアスラッシュ”!」
「ぬ……“クロスポイズン”!」
反撃として繰り出された毒の刃は、急所に当たった。戦闘不能にこそ陥らないが、ピンチだ。
「だったら、“しんそく”!」
高威力の先制技。高速の突撃で、クロバットは倒れた。
「よし! ──っと、トゲキッス、戻って」
「……理解できん。なぜわざわざ交代させる。つぎにわたしがどんなポケモンを出そうと、最初に“しんそく”を食らわせることはできただろうに」
「え? だっていっぱいダメージ負ったし……先制攻撃できたとしても、そのあとやられるかもじゃないですか」
「それがどうしたというのだ。──まったく。ポケモンを傷つけたくないという思想。重ねて理解できん。なのに実力があるなど……」
「……こっちこそ
アクタは首を傾げる。
「そんなふうにポケモンのこと、ぞんざいに扱っているのに……クロバットに進化してる」
カンナギタウンでアカギと初めて戦ったとき、彼はゴルバットを連れていた。さっき戦っていたクロバットがおなじ個体であることは、見ればわかる。
クロバットは、トレーナーに十分に
「あんたみたいな男でも、ポケモンに好かれるんだ。それって、ちゃんと自分のポケモンに向き合ってる証拠だ」
「……余計な想像を巡らせるな。──ドンカラス」
アカギはつぎのモンスターボールを投げる。大きな黒い翼のポケモンが現れる。
「グレイシア!」
こおりタイプで迎え撃つ。まずは“こおりのつぶて”を発射し、先制を取るが──
「“ねっぷう”」
意外にも、反撃にほのおタイプの技が返って来た。
「他人を都合よく解釈するなど、気に喰わん。お前にしても、ギンガ団の部下にしても」
「ギンガ団のほうに関しちゃ、あんたが騙したんでしょ! ──くっ!」
結局、熱風に吹かれてグレイシアは戦闘不能になってしまった。アクタは交代で、ラムパルドを繰り出す。
「ドンカラス、“サイコキネシス”!」
「ラムパルド、“いわなだれ”!」
ドンカラスの技は強烈だったが、ラムパルドのいわタイプの技は効果抜群だ。岩石に呑まれて、ドンカラスは戦闘不能になる。
「ここまでわたしを追い込んだこと。それは認めてやろう」
アカギの口ぶりから、どうやらつぎが最後のポケモンらしい。なにが出てくるか、もう消去法でわかる。
「マニューラ」
鋭い鉤爪を持つ、ニューラが進化したポケモンだ。
「“ねこだまし”」
先制攻撃によりラムパルドはひるむ。マニューラは続けざまに、“つじぎり”を放った。先のドンカラス戦でのダメージもあり、ラムパルドはピンチだ。
「だったら──“がむしゃら”!」
体力が減っているほどに威力が増す技だ。危機を好機にする一撃。マニューラは膝をつく。
「まさかまさかまさかッ! わたしが負けるかもだと!!」
「負けるんだよ! ラムパルド……」
「遅い! “つじぎり”!」
一瞬、マニューラが早かった。鉤爪の一閃。ラムパルドは倒れる。
「リオル」
6体目。進化もしておらず、他の仲間に比べてレベルも未熟だが──
「かくとうタイプならば勝てるとでも? それが見当違いだと思い知らせてやろう」
「いや。リオルは勝てる」
マニューラと、小さなリオルが対峙する。
「“はっけい”」
「“れいとうパンチ”」
ふたつの影が高速で動き、衝突する。
冷気で『やすらぎのすず』を結ぶリボンが破れ、落ちた鈴が音を鳴らす。
くずおれたのは、マニューラだった。
「消耗したマニューラより、リオルのほうが速かった。──よくやったね、リオル」
勝利したリオルは、アクタを振り返る。その瞬間、その小さな影が光に包まれた。
背が伸びて、凛々しく、そしてたくましい姿に
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲキッス ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
グレイシア ♀
なまいきな性格
ポリゴン2
ひかえめな性格
ルカリオ ♀
わんぱくな性格