ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート31 破れた世界/アクタとアカギ

「……あの影のポケモンはここにいない。わたしを置き去りにし、さらに奥へと去って行った。……わたしの計画を邪魔できて満足だというのか……」

 アカギはアクタに背を向けて、この破れた世界の奥へ進もうとする。

「待ってよ」

 少年はその背中に駆け寄る。

「……ここで決着をつけるとでも?」

「ううん、ここじゃなくていいや。ポケモンたちが危ない」

 もちろんアクタには、アカギを打ち倒したい気持ちは大いにあるのだが、いまはそのときではない。

「ギラティナのところに行くんでしょ。一緒に行きません?」

「…………」

 短い沈黙の後。

「好きにすればいい」

 頷くアカギ。

「じゃあ」と、アクタはアカギの横に並んで。

 手を繋いだ。

「……おい、なんのつもりだ」

「この世界、ふとしたときに空間が歪んで、シロナさんと同行しててもはぐれちゃったんです。でもこうして手を繋いでいれば、たぶん大丈夫でしょ」

「…………」

 ふたりは歩き出した。

 まったく仲が良くなさそうに、手を繋いで。

「ところでお前……遺伝子について知っているか?」

「うーん、生き物の、なんやかんや……よくわかんないです」

「……そうだろうな」

「教えてください」

「遺伝子というのは人間やポケモンといった、生き物の設計図と言えるもの。その本体であるDNAは、正反対の性質を持つ2本の鎖が絡み合っている」

「鎖……」

「その設計図の鎖は片方が壊れたとしても、もう片方をコピーし元の姿に戻せるのだ。──なにが言いたいかわかるだろう」

「ぜんっぜんわかりません」

「……時間も流れず、空間も安定せず、影のポケモンだけしかいないこのおかしな世界と、わたしが変えたい世界……ふたつの世界は遺伝子のように、お互いの世界が消えないよう支え合っているのだろう。だが支え合うときに、影のポケモンもなにかしらの影響があるとみた」

「だからギラティナは、アカギさんのことを……」

「そう。あの影のポケモンはそれを嫌い、わたしを呑み込んだ。きっとこのおかしな世界はあの影のポケモンが生み出した。だから世界になにかあると、影のポケモンにも影響がある」

「…………」

「まあそんなことはどうでもいい。大事なのはあいつを倒し、この世界そのものも消すこと。もう 二度とわたしの邪魔ができないように……世界を元に戻せないように」

「どうでもいいことあるかよ」

「……なに?」

「結局、いままでと一緒なんだ。あんたの手段はいつも、だれかに迷惑をかける。今回はその相手がギラティナだったんだ。ギラティナは悪くない。みんなあんたのせいだ」

 手を繋いで、こんなに近くにいるのに。

 ふたりの距離は、果てしなく遠い。

 

 

 ようやく最深部──の手前らしき場所までたどり着いた。ずいぶんと開けた場所だ。

「この奥にギラティナが……?」

 手を繋いだまま佇むふたりのもとに、シロナがやってきた。

「先に来てたのね。──って、どういう状況?」

「ああ、いや、なんでもないんです」

 アクタはアカギの手を放して、シロナの隣へ。

 そしてアカギとシロナは向かい合う。

 ひりついた雰囲気が、破れた世界に漂う。

「……どうして世界を変えようとするの? この世界が憎いなら、自分ひとり、だれもいないところに行けばいいだけでしょう」

「ふん。なぜこのわたしが、世界から逃げるように息をひそめて生きるのだ?」

 嘲笑するアカギ。

「わたしはこの世界から、心という不完全で曖昧なものを消し去り、完全な世界を生み出す。それがわたしの正義! だれにも邪魔はさせない」

「そんな……」

「そんな正義があるかよ!」

 シロナの言葉を遮って、アクタが激昂する。

「自分勝手に世界を創り変えることが、正義なわけない! どんな理由があっても、他人やポケモンを犠牲にしてまで果たす夢が、正しいわけないだろ!」

 アクタはモンスターボールに手をかける。

「シロナさん。さすがにここまで来て、空間が歪んで迷路に放り込まれたりしないですよね?」

「……ええ。近くにギラティナがいる影響かわからないけど、このあたりは安定しているみたい」

 地面は広く、そして分厚い。

「やるのね?」

「シロナさんは、先にギラティナのところへ。アカギはぼくが片をつけます」

「…………」

 シロナはしばらく少年を見つめて。

「……うん、いいでしょう。任せるわね」

 そんなふたりに、冷笑を向ける。

「貴様が相手ではないのか? シロナ。こんな子ども……」

「あなたはアクタくんに勝てないわ」

 たったそれだけを言い残して、シロナはふたりに背を向けて、ギラティナの待つ最奥へ進んで行った。

「……なにを馬鹿な」

 アカギは笑っているようで。

 否、怒っていた。

「わたしは負けぬ! あの影のポケモンにも! くだらない世界にも!」

 それぞれボールを開く。

「ヘルガー!」

「ドダイトス!」

 ヘルガーの“かえんほうしゃ”がドダイトスを襲う。効果は抜群だが、耐える。

「“じしん”!」

 反撃のじめんタイプの技もまた、効果抜群だった。ヘルガーは戦闘不能になる。

「“ギャラドス”!」

 凶悪な牙を覗かせる青龍が、ドダイトスに襲い掛かる。

「“こおりのキバ”!」

「やばっ……!」

 こおりタイプの技は、ドダイトスに4倍ものダメージを与える。“かえんほうしゃ”のダメージもあり、ドダイトスの巨体が倒れた。

「おつかれさま。つぎは──ポリゴン2!」

 ポリゴン2は三筋の光線、“トライアタック”を放つ。

「状態異常には……」

「ならん! ギャラドス、“たきのぼり”!」

 強烈な一撃を喰らう。やはり、ギャラドスは強い。アクタは一瞬、カントー地方を懐かしく思った。

「大丈夫、これでとどめだ! “ほうでん”!」

 でんきタイプの技を浴びて、ギャラドスは『ひんし』になって地に落ちる。

「けっこうダメージを負ったね。交代しよう」

 一旦、ポリゴン2をボールに戻す。

「さあ、仕切り直しだ。といっても、残りのポケモンは予想ついてるけど……」

「予想したところで、勝てるまい──クロバット!」

「トゲキッス!」

 2体のポケモンが宙を舞う。そして、

「「“エアスラッシュ”」」

 おなじ技をぶつける。空気の刃が衝突し、凄まじい風が巻き起こる。

「もう一回、“エアスラッシュ”!」

「ぬ……“クロスポイズン”!」

 反撃として繰り出された毒の刃は、急所に当たった。戦闘不能にこそ陥らないが、ピンチだ。

「だったら、“しんそく”!」

 高威力の先制技。高速の突撃で、クロバットは倒れた。

「よし! ──っと、トゲキッス、戻って」

「……理解できん。なぜわざわざ交代させる。つぎにわたしがどんなポケモンを出そうと、最初に“しんそく”を食らわせることはできただろうに」

「え? だっていっぱいダメージ負ったし……先制攻撃できたとしても、そのあとやられるかもじゃないですか」

「それがどうしたというのだ。──まったく。ポケモンを傷つけたくないという思想。重ねて理解できん。なのに実力があるなど……」

「……こっちこそ()()()()()ですよ」

 アクタは首を傾げる。

「そんなふうにポケモンのこと、ぞんざいに扱っているのに……クロバットに進化してる」

 カンナギタウンでアカギと初めて戦ったとき、彼はゴルバットを連れていた。さっき戦っていたクロバットがおなじ個体であることは、見ればわかる。

 クロバットは、トレーナーに十分に()()()()()ことを条件に進化するポケモンだ。

「あんたみたいな男でも、ポケモンに好かれるんだ。それって、ちゃんと自分のポケモンに向き合ってる証拠だ」

「……余計な想像を巡らせるな。──ドンカラス」

 アカギはつぎのモンスターボールを投げる。大きな黒い翼のポケモンが現れる。

「グレイシア!」

 こおりタイプで迎え撃つ。まずは“こおりのつぶて”を発射し、先制を取るが──

「“ねっぷう”」

 意外にも、反撃にほのおタイプの技が返って来た。

「他人を都合よく解釈するなど、気に喰わん。お前にしても、ギンガ団の部下にしても」

「ギンガ団のほうに関しちゃ、あんたが騙したんでしょ! ──くっ!」

 結局、熱風に吹かれてグレイシアは戦闘不能になってしまった。アクタは交代で、ラムパルドを繰り出す。

「ドンカラス、“サイコキネシス”!」

「ラムパルド、“いわなだれ”!」

 ドンカラスの技は強烈だったが、ラムパルドのいわタイプの技は効果抜群だ。岩石に呑まれて、ドンカラスは戦闘不能になる。

「ここまでわたしを追い込んだこと。それは認めてやろう」

 アカギの口ぶりから、どうやらつぎが最後のポケモンらしい。なにが出てくるか、もう消去法でわかる。

「マニューラ」

 鋭い鉤爪を持つ、ニューラが進化したポケモンだ。

「“ねこだまし”」

 先制攻撃によりラムパルドはひるむ。マニューラは続けざまに、“つじぎり”を放った。先のドンカラス戦でのダメージもあり、ラムパルドはピンチだ。

「だったら──“がむしゃら”!」

 体力が減っているほどに威力が増す技だ。危機を好機にする一撃。マニューラは膝をつく。

「まさかまさかまさかッ! わたしが負けるかもだと!!」

「負けるんだよ! ラムパルド……」

「遅い! “つじぎり”!」

 一瞬、マニューラが早かった。鉤爪の一閃。ラムパルドは倒れる。

「リオル」

 6体目。進化もしておらず、他の仲間に比べてレベルも未熟だが──

「かくとうタイプならば勝てるとでも? それが見当違いだと思い知らせてやろう」

「いや。リオルは勝てる」

 マニューラと、小さなリオルが対峙する。

「“はっけい”」

「“れいとうパンチ”」

 ふたつの影が高速で動き、衝突する。

 冷気で『やすらぎのすず』を結ぶリボンが破れ、落ちた鈴が音を鳴らす。

 くずおれたのは、マニューラだった。

「消耗したマニューラより、リオルのほうが速かった。──よくやったね、リオル」

 勝利したリオルは、アクタを振り返る。その瞬間、その小さな影が光に包まれた。

 背が伸びて、凛々しく、そしてたくましい姿に()()した。




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲキッス ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

グレイシア ♀
 なまいきな性格

ポリゴン2
 ひかえめな性格

ルカリオ ♀
 わんぱくな性格
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