ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「認めるか! あり得るか! ようやくここまで来たのだ!」
ルカリオと抱き合い進化を喜ぶアクタをよそに、アカギは激昂する。
「新しい世界! 新しいギンガ!! 見果てぬ夢だというのか!!」
「……それじゃぼくたち、行きますから」
ルカリオをボールに戻し、アクタは破れた世界の奥に目を向ける。
「待て! 貴様はあのポケモンと会ってどうするつもりだ!」
「うーんと……」
アカギを振り返って。
「戦おうかなって」
「……貴様にあのポケモンを倒したり、捕まえたりなぞできるものか」
捕まえられないという意見には、アクタも同意だ。ノーコンだからだ。
「わたしが考えるに! このおかしな世界はあの影のポケモンそのもの! 捕まえたり倒したりすれば、この世界も消えるはず!」
アクタはアカギに背を向けて、
「なるほど! 貴様はわたしの代わりに世界を創りなおすのではなく、世界を壊すというのだな。ではあとは任せてやる」
「ごちゃごちゃうるさいな」
歩き出す。
「ギラティナとの決着はぼくたちがつける。あんたはもう、黙って反省しててくれ」
:
「あらアクタくん。早かったね」
道なりに進んだ先に、シロナと、かたわらに紺色のドラゴンポケモンがいた。彼女の手持ちらしい。ずいぶん強そうだ。
「あ、はい。で、ギラティナは?」
「ちょっとだけ戦ったけど、どうも撒かれちゃったみたいで──あら?」
唐突に、こちらに対する威圧を感じる。それは破れた世界の最奥。最後の場所。
「これは──ギラティナ? アクタくんを呼んでいる……?」
「……ねえシロナさん。もしここでギラティナを倒してしまったら、世界に影響が──」
いや。回りくどい訊き方をする暇はない。単刀直入に、尋ねることにした。
「世界は
「……大丈夫。ポケモンが世界を消すだなんて、そんなことはあり得ない」
シロナは首を横に振る。その根拠は、彼女自身の研究によるものではなく──
「だって、世界はきみが生まれるのを待っていた。きみと一緒にいるポケモンも、きみの親しいひとたちも、さらに繋がるひともポケモンも、みんな世界に望まれて生まれてきたと、あたしは思う」
その考え方に、アクタはずいぶんと腑に落ちた。ちょっとした恐怖や迷いが、嘘だったように晴れていく。
「だからギラティナは消えない。わたしたちの世界も! この破れた世界も消えたりしない! さあギラティナに会いに……」
言いかけて、シロナはコートの内側からいくつかの道具を取り出す。
「……って、その前にがんばったポケモンを元気にしてあげなきゃ」
アクタのポケモンたちを回復してくれた。
:
「わたしたちの世界、この破れた世界。それがひとの手で壊されかけて、ギラティナは怒っている」
「うん。アカギのせいだ」
「そのためふたつの世界はテンガン山山頂──『槍の柱』で繋がり、お互いが歪み始めている……」
アクタとシロナはふたり、ギラティナの待つ場所へ進んでいく。
「ぼくが戦って、いいんですか?」
「ええ。だってあたしが戦おうとしても、相手にしてもらえなかったもの。だけどきみが来た途端、ギラティナはこちらに関心を示した。きっと、きみが選ばれたんだと思う」
「責任重大ですね……」
シロナは微笑む。
「でも心配要らない。ギラティナと戦うことで、きみとポケモンとが持っている強い絆を見せれば、ギラティナもわかってくれるし、世界の歪みも止まるから!」
「絆、ですか」
「うん。きみときみのポケモン、その絆がとても強いの、あたしにはわかってるから!」
シロナは優しく、強く、少年の背中を叩いて送り出す。
だれかにポケモンとの絆をわかってもらえるのはひどく嬉しい。ずいぶんと勇気が出た。
存在感の漂う方向へ──ここから先は、ひとりで進む。
歩く先に、次々と足場が現れる。その最果てに、
「──ギラティナ」
咆哮とともに少年の前に
ギラティナは静かにアクタを見つめている……
「ぼくはアクタ。ギラティナ、戦ってください。その……」
なんのために? 一瞬、アクタが考えたが。
「……戦いたいから、戦ってください」
やがてギラティナは咆哮した。さながら、アクタの言葉を気に入ったかのように。
「グレイシア!」
アクタはボールを投げる。
真後ろに飛んで行った。
「あちゃあ」
グレイシアはアクタに駆け寄って、抗議するように、少年のふくらはぎを前足ではたいた。
「ご、ごめんなさい。伝説のポケモンの前で……」
ノーコンの謝罪を受け取って、グレイシアはアクタの前に出て、臨戦態勢を取った。ギラティナは一瞬、ためらったようだが、やがて襲いかかってきた。
「“こおりのつぶて”!」
しかし出会いがしらの一撃で、ギラティナはひるむ。
「よし、やっぱりドラゴンタイプだな。効果抜群だ」
ギラティナの周囲にふわりと岩石が浮かび、襲いかかる。
「“げんしのちから”!? そう来たか。いわタイプには見えないけど……」
アクタはモンスターボールを探る。
「そうだ。ちょっと試してみよっか。伝説のポケモン相手にアレだけど……グレイシア、交代!」
交代に繰り出したのは、先ほど進化したばかりのルカリオだ。
ルカリオはふと、アクタを振り返ると、背丈が近くなった主人が興味深いのか、肩に頭を擦りつけてくる。
「いやいや、いまは甘えている場合じゃないから……」
そんなルカリオにギラティナは迫るが──
ルカリオはその気配を鋭く察知し、跳躍して少年から離れた。
俊敏に、華麗に、周囲を飛び回る。
やはりルカリオは強い。スモモやゲンのルカリオを思い返す。彼らを乗り越えるには、あとどれだけの研鑽が必要なのか。
「ルカリオ、“はっけい”!」
拳を放つ。リオルだったころより、ずっと重く、鋭い一撃だった。
はずだが──
「え?」
ギラティナには、効果が無い。
「ご、ゴーストタイプ!?」
これは分が悪い。進化したばかりのルカリオは技を整理していない。アクタが把握している技は、ノーマルとかくとうタイプのみ。およそゴーストタイプを相手にはできない。
「うーん……! 残念だけど交代! グレイシア!」
もう一度、グレイシアを繰り出す。
「“シャドーボール”!」
グレイシアは黒々とした光球を発射する。わざマシンで覚えさせたゴーストタイプの技だ。直撃してギラティナは身をよじる。効果抜群らしい。
「じゃ、ゴーストタイプで確定だな。こおりタイプも効いたから、ドラゴン・ゴーストで間違いないだろう」
ギラティナはふたたび、“げんしのちから”で反撃してくる。このままこおりタイプのグレイシアで応戦してもいては、先に『ひんし』になるのはこちらだろう。。
「じゃあグレイシア、交代! ドダイトス!」
アクタの手持ちのなかでもっともレベルが高く、もっとも付き合いが長いポケモンだ。背中の樹木を勇ましく揺らし、ギラティナの“ドラゴンクロー”を食い止める。
「“かみくだく”!」
ドダイトスの牙は、ギラティナに大きなダメージを与える。
「つぎ、“じしん”!」
しかしギラティナは、大地の揺れに合わせて浮かび上がった。
「これは……特性が『ふゆう』か。うーん……」
どうやら思案する暇は与えられない、ギラティナは不意に、みずからの影のなかに姿を消した。
「えっ……ドダイトス、気をつけて!」
逃げたとは思えない。アクタが声をかけるまでもなく、ドダイトスは周囲を見渡すが、やがて真下からギラティナの突進を受けた。
“シャドーダイブ”。アクタの知らない、ギラティナ固有の技だった。
ギラティナはふたたび影に潜む。
「またか! じゃあ交代!」
影に入ったタイミングがギラティナの隙だ。もちろん、影に対して攻撃はできないが──
「トゲキッス!」
飛び出してきたギラティナの一撃は、ノーマルタイプを持つトゲキッスに効果を成さなかった。
「やっぱりゴーストタイプの技だ。トゲキッス、いわタイプの技に気をつけて、空中戦だ!」
破れた世界の空を、トゲキッスとギラティナは縦横無尽に飛行する。襲い来る“げんしのちから”や“ドラゴンクロー”に、トゲキッスは“エアスラッシュ”で応戦する。
「このままじゃ……うん。覚悟を決めて、最後に一番の攻撃を仕掛けるか」
やがてトゲキッスは戦闘不能になってしまう。アクタはすぐにトゲキッスをボールに戻し、つぎのポケモンを呼び出した。
「ラムパルド、“いやなおと”!」
防御を下げられたギラティナだが、意に介さず天空から凄まじい勢いで突進してくる。
「“もろはのずつき”!」
強靭な頭部による、渾身の頭突き。
これがアクタにとって最強の矛。
ただしラムパルド自身にも反動がある。ラムパルドは膝をついて息を切らす。そしてギラティナは──
──巨体が大地に着く。
「やっ……」
しかし翼の先端の赤い棘が、踏ん張るように大地に突き立てられた。
「倒し切れないか……!?」
アクタは思わず、ラムパルドに寄り添った。2発目を繰り出すのは苦しい。ならばつぎはどうする? 打開策を模索するアクタを。ギラティナは静かに見下ろす。
「……ギラティナ?」
その赤い瞳から、戦意のようなものはなくなっていた。
ギラティナはすっと立ち上がり、そして、破れた世界の背景に、影のように消えていった。
「ギラティナもわかってくれたみたいね!」
シロナがやってくる。
「はい。それか……単に満足してくれたのか」
「満足?」
アクタはラムパルドを撫でて、モンスターボールに戻す。
「だってギラティナ、この変な世界に独りぼっちなんでしょ? なんかそれって、寂しいんじゃないかって。たまにはバトルですっきりしたいものでしょう」
「……ふふ、そうかもね」
笑うふたり。ギラティナによる威圧が無くなった、破れた世界の最後の場所に。
「あのポケモンを……影のポケモンを倒しただと!?」
アカギがやってくる。
「そうすることで、このおかしな世界を残した! ということはもう一度『あかいくさり』を使っても、新しい世界を生み出すことなどできないのか!?」
「アカギさん……」
「なぜだ! この世界を守る理由はなんなのだ!? そんなに不完全で曖昧な心とやらが大事か!」
「べつに、難しいことは考えてませんよ。ただ──」
怒り狂うアカギに、アクタが答える。
「ぼくは、ポケモンが好きだから」
「な……っ!?」
あまりにも簡潔で、あまりにも幼稚な理由にアカギは言葉を失う。
しかし、アカギを打ち負かし、ギラティナにさえ認められた少年が発すれば、その主張には強大な説得力が生じる。
「ふふっ、あなたの負けよ。彼は正しい」
シロナはアクタを庇うように立つ。
「……生まれた場所。生まれてから過ごした時間。話す言葉。みんな違う……。だけど隣にポケモンがいてくれたから、ポケモンがいることが嬉しいから、知らないひとともポケモン同士を戦わせたり交換できる……」
「黙れっ!!」
しかしアカギは聞く耳を持たない。
「もういい、たくさんだ! だから心が大事だと言いたいのか! そんなもの、いままで幸せに生きてきたと思い込んでいる、人間の戯れ言だ!」
ふたりの言葉は対照的だった。シロナは世界を認めていて、アカギは世界を憎んでいる。
「いまわたしが感じている怒り、憎しみ、憤り……この醜い感情は不完全な心のせいだ!」
否。
アカギが憎んでいるのは、世界ではなく──
「……まあいい、お前たちとはわかり合えない! いいか? わたしは世界の謎を解き明かし、必ず完全な世界を創り出す」
感情を殺せない、自分自身──なのかもしれない。
「いつの日か気づけばお前は! わたしが創り出した、心のない世界に生きている」
アカギはふたりに背を向ける。
「待てよ、どこに行くんですか」
アクタはシロナを押しのけて、アカギを呼び止める。
「なんで考えを変えないんだ! 負けたくせに、間違ったくせに、失敗したくせに! なんで反省をしないんだ!」
シロナはアクタの肩を抱いて、追いすがる少年を止める。
「謝れよ! 迷惑かけたポケモンたちに! ひとびとに! あんたを信じたギンガ団に!」
アカギは歩みを止めず、立ち去って行く。
「みんなに謝れ!!」
振り返ることすらせず、やがてアカギの姿は見えなくなった。
怒りのままに、アクタは泣き崩れる。
「…………」
シロナはそんな少年を抱きしめた。
「……悲しみがあるから喜びを嬉しく思い、怒りがあるから優しさが生まれるのに……」
破れた世界の最後の場所で、少年はしばらく、泣いた。
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲキッス ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
グレイシア ♀
なまいきな性格
ポリゴン2
ひかえめな性格
ルカリオ ♀
わんぱくな性格