ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート32 破れた世界/反骨の神

「認めるか! あり得るか! ようやくここまで来たのだ!」

 ルカリオと抱き合い進化を喜ぶアクタをよそに、アカギは激昂する。

「新しい世界! 新しいギンガ!! 見果てぬ夢だというのか!!」

「……それじゃぼくたち、行きますから」

 ルカリオをボールに戻し、アクタは破れた世界の奥に目を向ける。

「待て! 貴様はあのポケモンと会ってどうするつもりだ!」

「うーんと……」

 アカギを振り返って。

「戦おうかなって」

「……貴様にあのポケモンを倒したり、捕まえたりなぞできるものか」

 捕まえられないという意見には、アクタも同意だ。ノーコンだからだ。

「わたしが考えるに! このおかしな世界はあの影のポケモンそのもの! 捕まえたり倒したりすれば、この世界も消えるはず!」

 アクタはアカギに背を向けて、

「なるほど! 貴様はわたしの代わりに世界を創りなおすのではなく、世界を壊すというのだな。ではあとは任せてやる」

「ごちゃごちゃうるさいな」

 歩き出す。

「ギラティナとの決着はぼくたちがつける。あんたはもう、黙って反省しててくれ」

 

 

「あらアクタくん。早かったね」

 道なりに進んだ先に、シロナと、かたわらに紺色のドラゴンポケモンがいた。彼女の手持ちらしい。ずいぶん強そうだ。

「あ、はい。で、ギラティナは?」

「ちょっとだけ戦ったけど、どうも撒かれちゃったみたいで──あら?」

 唐突に、こちらに対する威圧を感じる。それは破れた世界の最奥。最後の場所。

「これは──ギラティナ? アクタくんを呼んでいる……?」

「……ねえシロナさん。もしここでギラティナを倒してしまったら、世界に影響が──」

 いや。回りくどい訊き方をする暇はない。単刀直入に、尋ねることにした。

「世界は()()()()()()?」

「……大丈夫。ポケモンが世界を消すだなんて、そんなことはあり得ない」

 シロナは首を横に振る。その根拠は、彼女自身の研究によるものではなく──

「だって、世界はきみが生まれるのを待っていた。きみと一緒にいるポケモンも、きみの親しいひとたちも、さらに繋がるひともポケモンも、みんな世界に望まれて生まれてきたと、あたしは思う」

 その考え方に、アクタはずいぶんと腑に落ちた。ちょっとした恐怖や迷いが、嘘だったように晴れていく。

「だからギラティナは消えない。わたしたちの世界も! この破れた世界も消えたりしない! さあギラティナに会いに……」

 言いかけて、シロナはコートの内側からいくつかの道具を取り出す。

「……って、その前にがんばったポケモンを元気にしてあげなきゃ」

 アクタのポケモンたちを回復してくれた。

 

 

「わたしたちの世界、この破れた世界。それがひとの手で壊されかけて、ギラティナは怒っている」

「うん。アカギのせいだ」

「そのためふたつの世界はテンガン山山頂──『槍の柱』で繋がり、お互いが歪み始めている……」

 アクタとシロナはふたり、ギラティナの待つ場所へ進んでいく。

「ぼくが戦って、いいんですか?」

「ええ。だってあたしが戦おうとしても、相手にしてもらえなかったもの。だけどきみが来た途端、ギラティナはこちらに関心を示した。きっと、きみが選ばれたんだと思う」

「責任重大ですね……」

 シロナは微笑む。

「でも心配要らない。ギラティナと戦うことで、きみとポケモンとが持っている強い絆を見せれば、ギラティナもわかってくれるし、世界の歪みも止まるから!」

「絆、ですか」

「うん。きみときみのポケモン、その絆がとても強いの、あたしにはわかってるから!」

 シロナは優しく、強く、少年の背中を叩いて送り出す。

 だれかにポケモンとの絆をわかってもらえるのはひどく嬉しい。ずいぶんと勇気が出た。

 存在感の漂う方向へ──ここから先は、ひとりで進む。

 歩く先に、次々と足場が現れる。その最果てに、

「──ギラティナ」

 咆哮とともに少年の前に()()は現れた。爪のような形状の3対の翼。龍を思わせる長い尾。金色の仮面の隙間から、赤い目が覗いている。

 ギラティナは静かにアクタを見つめている……

「ぼくはアクタ。ギラティナ、戦ってください。その……」

 なんのために? 一瞬、アクタが考えたが。

「……戦いたいから、戦ってください」

 ()()()()()()──というのは気恥ずかしいし、なんだか違和感があった。アクタはギラティナと戦いたいから挑戦するのだ。

 やがてギラティナは咆哮した。さながら、アクタの言葉を気に入ったかのように。

「グレイシア!」

 アクタはボールを投げる。

 真後ろに飛んで行った。

「あちゃあ」

 グレイシアはアクタに駆け寄って、抗議するように、少年のふくらはぎを前足ではたいた。

「ご、ごめんなさい。伝説のポケモンの前で……」

 ノーコンの謝罪を受け取って、グレイシアはアクタの前に出て、臨戦態勢を取った。ギラティナは一瞬、ためらったようだが、やがて襲いかかってきた。

「“こおりのつぶて”!」

 しかし出会いがしらの一撃で、ギラティナはひるむ。

「よし、やっぱりドラゴンタイプだな。効果抜群だ」

 ギラティナの周囲にふわりと岩石が浮かび、襲いかかる。

「“げんしのちから”!? そう来たか。いわタイプには見えないけど……」

 アクタはモンスターボールを探る。

「そうだ。ちょっと試してみよっか。伝説のポケモン相手にアレだけど……グレイシア、交代!」

 交代に繰り出したのは、先ほど進化したばかりのルカリオだ。

 ルカリオはふと、アクタを振り返ると、背丈が近くなった主人が興味深いのか、肩に頭を擦りつけてくる。

「いやいや、いまは甘えている場合じゃないから……」

 そんなルカリオにギラティナは迫るが──

 ルカリオはその気配を鋭く察知し、跳躍して少年から離れた。

 俊敏に、華麗に、周囲を飛び回る。

 やはりルカリオは強い。スモモやゲンのルカリオを思い返す。彼らを乗り越えるには、あとどれだけの研鑽が必要なのか。

「ルカリオ、“はっけい”!」

 拳を放つ。リオルだったころより、ずっと重く、鋭い一撃だった。

 はずだが──

「え?」

 ギラティナには、効果が無い。

「ご、ゴーストタイプ!?」

 これは分が悪い。進化したばかりのルカリオは技を整理していない。アクタが把握している技は、ノーマルとかくとうタイプのみ。およそゴーストタイプを相手にはできない。

「うーん……! 残念だけど交代! グレイシア!」

 もう一度、グレイシアを繰り出す。

「“シャドーボール”!」

 グレイシアは黒々とした光球を発射する。わざマシンで覚えさせたゴーストタイプの技だ。直撃してギラティナは身をよじる。効果抜群らしい。

「じゃ、ゴーストタイプで確定だな。こおりタイプも効いたから、ドラゴン・ゴーストで間違いないだろう」

 ギラティナはふたたび、“げんしのちから”で反撃してくる。このままこおりタイプのグレイシアで応戦してもいては、先に『ひんし』になるのはこちらだろう。。

「じゃあグレイシア、交代! ドダイトス!」

 アクタの手持ちのなかでもっともレベルが高く、もっとも付き合いが長いポケモンだ。背中の樹木を勇ましく揺らし、ギラティナの“ドラゴンクロー”を食い止める。

「“かみくだく”!」

 ドダイトスの牙は、ギラティナに大きなダメージを与える。

「つぎ、“じしん”!」

 しかしギラティナは、大地の揺れに合わせて浮かび上がった。

「これは……特性が『ふゆう』か。うーん……」

 どうやら思案する暇は与えられない、ギラティナは不意に、みずからの影のなかに姿を消した。

「えっ……ドダイトス、気をつけて!」

 逃げたとは思えない。アクタが声をかけるまでもなく、ドダイトスは周囲を見渡すが、やがて真下からギラティナの突進を受けた。

 “シャドーダイブ”。アクタの知らない、ギラティナ固有の技だった。

 ギラティナはふたたび影に潜む。

「またか! じゃあ交代!」

 影に入ったタイミングがギラティナの隙だ。もちろん、影に対して攻撃はできないが──

「トゲキッス!」

 飛び出してきたギラティナの一撃は、ノーマルタイプを持つトゲキッスに効果を成さなかった。

「やっぱりゴーストタイプの技だ。トゲキッス、いわタイプの技に気をつけて、空中戦だ!」

 破れた世界の空を、トゲキッスとギラティナは縦横無尽に飛行する。襲い来る“げんしのちから”や“ドラゴンクロー”に、トゲキッスは“エアスラッシュ”で応戦する。

「このままじゃ……うん。覚悟を決めて、最後に一番の攻撃を仕掛けるか」

 やがてトゲキッスは戦闘不能になってしまう。アクタはすぐにトゲキッスをボールに戻し、つぎのポケモンを呼び出した。

「ラムパルド、“いやなおと”!」

 防御を下げられたギラティナだが、意に介さず天空から凄まじい勢いで突進してくる。

「“もろはのずつき”!」

 強靭な頭部による、渾身の頭突き。

 これがアクタにとって最強の矛。

 ただしラムパルド自身にも反動がある。ラムパルドは膝をついて息を切らす。そしてギラティナは──

 ──巨体が大地に着く。

「やっ……」

 しかし翼の先端の赤い棘が、踏ん張るように大地に突き立てられた。

「倒し切れないか……!?」

 アクタは思わず、ラムパルドに寄り添った。2発目を繰り出すのは苦しい。ならばつぎはどうする? 打開策を模索するアクタを。ギラティナは静かに見下ろす。

「……ギラティナ?」

 その赤い瞳から、戦意のようなものはなくなっていた。

 ギラティナはすっと立ち上がり、そして、破れた世界の背景に、影のように消えていった。

「ギラティナもわかってくれたみたいね!」

 シロナがやってくる。

「はい。それか……単に満足してくれたのか」

「満足?」

 アクタはラムパルドを撫でて、モンスターボールに戻す。

「だってギラティナ、この変な世界に独りぼっちなんでしょ? なんかそれって、寂しいんじゃないかって。たまにはバトルですっきりしたいものでしょう」

「……ふふ、そうかもね」

 笑うふたり。ギラティナによる威圧が無くなった、破れた世界の最後の場所に。

「あのポケモンを……影のポケモンを倒しただと!?」

 アカギがやってくる。

「そうすることで、このおかしな世界を残した! ということはもう一度『あかいくさり』を使っても、新しい世界を生み出すことなどできないのか!?」

「アカギさん……」

「なぜだ! この世界を守る理由はなんなのだ!? そんなに不完全で曖昧な心とやらが大事か!」

「べつに、難しいことは考えてませんよ。ただ──」

 怒り狂うアカギに、アクタが答える。

「ぼくは、ポケモンが好きだから」

「な……っ!?」

 あまりにも簡潔で、あまりにも幼稚な理由にアカギは言葉を失う。

 しかし、アカギを打ち負かし、ギラティナにさえ認められた少年が発すれば、その主張には強大な説得力が生じる。

「ふふっ、あなたの負けよ。彼は正しい」

 シロナはアクタを庇うように立つ。

「……生まれた場所。生まれてから過ごした時間。話す言葉。みんな違う……。だけど隣にポケモンがいてくれたから、ポケモンがいることが嬉しいから、知らないひとともポケモン同士を戦わせたり交換できる……」

「黙れっ!!」

 しかしアカギは聞く耳を持たない。

「もういい、たくさんだ! だから心が大事だと言いたいのか! そんなもの、いままで幸せに生きてきたと思い込んでいる、人間の戯れ言だ!」

 ふたりの言葉は対照的だった。シロナは世界を認めていて、アカギは世界を憎んでいる。

「いまわたしが感じている怒り、憎しみ、憤り……この醜い感情は不完全な心のせいだ!」

 否。

 アカギが憎んでいるのは、世界ではなく──

「……まあいい、お前たちとはわかり合えない! いいか? わたしは世界の謎を解き明かし、必ず完全な世界を創り出す」

 感情を殺せない、自分自身──なのかもしれない。

「いつの日か気づけばお前は! わたしが創り出した、心のない世界に生きている」

 アカギはふたりに背を向ける。

「待てよ、どこに行くんですか」

 アクタはシロナを押しのけて、アカギを呼び止める。

「なんで考えを変えないんだ! 負けたくせに、間違ったくせに、失敗したくせに! なんで反省をしないんだ!」

 シロナはアクタの肩を抱いて、追いすがる少年を止める。

「謝れよ! 迷惑かけたポケモンたちに! ひとびとに! あんたを信じたギンガ団に!」

 アカギは歩みを止めず、立ち去って行く。

「みんなに謝れ!!」

 振り返ることすらせず、やがてアカギの姿は見えなくなった。

 怒りのままに、アクタは泣き崩れる。

「…………」

 シロナはそんな少年を抱きしめた。

「……悲しみがあるから喜びを嬉しく思い、怒りがあるから優しさが生まれるのに……」

 破れた世界の最後の場所で、少年はしばらく、泣いた。




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲキッス ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

グレイシア ♀
 なまいきな性格

ポリゴン2
 ひかえめな性格

ルカリオ ♀
 わんぱくな性格
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