ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
ナギサシティの北。
船を待ちながら。
「……この街、なんだか落ち着くんです。海のそばで、灯台があって……」
アクタは、ワンピースの少女と知り合った。アクタよりもいくつか年上のようである。
「地元に似てる、とかですか?」
「ふふ、じつはそうなんです。あたしの故郷も……」
会話の途中で。
「おーい! アクタ!」
耳慣れた声が少年を振り向かせる。ジュンだった。
「あれ、なんか邪魔したか!? ていうかお前、ちょくちょく女のひとと一緒にいるよなあ」
「ジュン、誤解を招く言い方は……」
ワンピースの女性は笑顔で一歩退いて、アクタをジュンに譲った。ジュンは照れた様子で彼女に会釈をする。
「なあ、シンオウ地方のジムバッジ、8個全部手に入れたんだろ!」
「うん、どうにか」
「チクショー! すごいな! くやしいぜ! だけどな、オレだって負けないぜ」
ジュンは遥か北に、うっすらと目視できる島を指さす。
「だってオレは、最強のトレーナーになる!」
その方向には、ポケモンリーグがある。
「いままではオヤジに憧れての夢のような目標だったけど、いまは違うぜ! トレーナーとはなにか。ポケモンとはなにか? をオレなりに考えた! 一歩ずつでいいから、オレたち強くなっていくのさ!」
「オヤジさん……?」
首を傾げるアクタをよそに。
「いまはまだお前と勝負しない! 悔しいけど、お前のほうがちょっとだけ強いの、わかるからな」
すこし意外だった。以前のジュンは、アクタを見かけるなり勝負を仕掛けてきた。てっきり今回も挑まれると思ったのだが。
「いいか、ほんのちょっとだけだぞ」
「わ、わかったよ」
「たぶんオレとの違いは1メートルくらい?」
「はあ」
「いや1センチくらいだな」
「なんでもいいよ」
「えーっと、要するに、すぐお前に追いついてやるってことだよ! 早くポケモンリーグに行かないと、オレが抜かすからな!」
そう言い残して、ジュンは走り去って行ってしまった。
「相変わらず、ひとの話を聞かないというか、自分ばっかり喋るというか……」
いいか。
ジュンらしい。それに、成長していることもわかった。
「……お友達ですか?」
先ほどまで話していた少女は、くすくすと笑っていた。
「はい。なんか恥ずかしいな……」
「おふたりのやり取りを見ていたら、なんだか嬉しくなっちゃって……。あんなふうになんでも話せて、競い合えるお友達がいるって素敵ですよね」
「……ぼくもそう思います。けっこう、ジュンには救われてますから」
おなじ場所を目指し、競い合う友がいる。
そういうのは、ライバルって呼ぶのだろう。
「……あたし、強くなりたくてとても遠くまで来たんですけど、いろんなところでいろんなひとがポケモンと一緒にいて……それがとても楽しそうで、あたしまで嬉しくなるんです」
「やっぱりポケモントレーナーなんですね。失礼に聞こえちゃうかもですけど、なんだか強そうだなって思いました」
「ほんとうですか? うふふ、ありがとうございます」
船の時間だ。アクタは少女と別れて、乗客の少ないフェリーに乗り込む。
行き先は、ポケモンリーグ──その手前、チャンピオンロード。
「……あ、あのう、うまく言えないけどがんばってくださいね」
別れ際、少女はアクタを応援してくれた。
「どうもありがとう、ミカンさん」
なんだか、恋をしてしまいそうになった。
:
入口のポケモンセンターで準備を整える。
休息を取り、アイテムを回復し、いよいよアクタたちはチャンピオンロードへと挑む。
「テンガン山ほどじゃないけど、寒いな。それに、テンガン山以上に入り組んでるみたいだ」
コートにそでを通す。長丁場になることを覚悟した、今日か明日中には踏破したいところだが──きっと、そううまくいかないだろう。
なにせ、野生のポケモンは強力。ポケモントレーナーも強者ぞろい。ポケモンリーグの挑戦者をふるいにかけるように、過酷な道のりが待ち受けていた。
なお、このチャンピオンロードに入場するにあたり、ジムバッジのチェックなどの資格は問わない。
極論、だれでも入場できるのだが、こんな過酷なダンジョンに訪れるのは、ポケモンリーグへの挑戦者か、修行中のトレーナーか──いずれにせよ、トレーナーであれば確実に
「うわあ疲れた! 休憩!」
数時間後、アクタは寝袋に入る。モンスターボールから6体のポケモンたちが出てきて、おのおのが横になるアクタに寄り添った。
「一緒に寝てくれるの? 暖かいなあ……ぐう」
すぐに少年は寝入った。
ポケモンたちの目的は、添い寝ではなく見張りだった。もちろんアクタは、眠る前に野生ポケモンを避けるためにスプレーを撒いたのだが、万が一のこともある。
6体は交代で、周囲を警戒した。
彼らには一様に、アクタを守りたいという使命感があった。アクタは主人として常にポケモンたちを導くが、その実、精神的には脆く、不安定な面がある。
それでもアクタは
そのがんばりに応えるために、ポケモンたちはアクタを守るのだ。
「ふわ……ああ、チャンピオンロードの途中だったっけ。おはようみんな」
のんきにあくびをして目指すアクタだが、寝ている間にポケモンたちが自分を守ってくれていることなど──知っていた。
「ええと、2時間ぐらい寝てたかな? みんな、お腹空いてない?」
ポケモンたちを撫でるアクタ。全員が互いの厚意を知っているし、それを表に出さない。ただ、トレーナーとして、そのポケモンとして、相手にとってベストであろうとしているだけなのであった。
「ドダイトス、寒い洞窟なのに相変わらず良い枝ぶりじゃん。えへへ……痛たたたた」
だからドダイトスは、主人が望むがままに噛みついたのであった。
:
アクタがチャンピオンロードを抜けたのは、翌日の夕方だった。
「……すごいなあ」
まるで城。透き通るような銀の塔で構成された建造物が、シンオウ地方においてポケモントレーナーの頂点、ポケモンリーグ。
建物が荘厳なデザインというだけで、アクタは足を踏み入れるのに躊躇してしまうが──ポケモンたちも含めてくたびれている現状、緊張している場合ではない。
まずは、ポケモンたちの回復。
そして宿泊。
「わあ、やった」
宿泊施設を訪れたアクタは、喜んだ。
「ひとり部屋だ」
ポケモンセンターの宿泊施設は、大部屋になっていることがほとんどだった。トレーナーカードを持っている未成年のトレーナーは無料で泊まれるのだ。ベッドがあるだけありがたい話である。その点は文句あるまい。
しかし部屋が個室というだけで、他人の目がないというだけで、ずいぶんと羽が伸ばせるものだ。アクタは思わずベッドに飛び込んだ。
──なお、カントー地方のポケモンリーグの宿泊施設はホテルのスイートルーム並の豪勢な部屋だったのだが、そこを比較しないのがアクタという少年だった。
一晩、ゆっくり眠る。
翌朝、たっぷり食べる。
あとはいよいよ、ポケモンリーグに挑戦なのだが……
「……まだかなあ」
アクタは二の足を踏んでいた。
「そろそろ来る頃だと思うんだけどなあ。チャンピオンロードに手間取ってるのかなあ。それともデンジさんに負けちゃったとか? いやあ、大丈夫だと思うんだけどなあ」
挑戦に臆したわけではない。ただ、ここに来るであろう
「わざわざ待つのも、変な話だよなあ。そもそもあいつ、気を遣われるのは嫌いそうだし……うーん……」
小一時間ほど逡巡するが、その間もポケモンリーグを訪れる新たな人影はなかった。
仕方がない。
待ち人は来ないものだと諦めて、アクタは立ち上がり、ポケモンリーグ本館の扉へと向かった。
「待てー!」
──そのときだった。
「ポケモンリーグ挑戦だろ。オレもそのつもりだぜ!」
ようやく、ジュンがやってきた。
「──待ってたよ。遅かったじゃん。とりあえず……」
「さあ、どっちが相応しいか、ポケモン勝負で決めるぞ!」
「待て待て待て」
興奮するジュンの肩を押さえつける。
「まずはポケモンの回復! そしてジュンも休憩しないと! 話はそれからだ」
たったいまチャンピオンロードを抜けてきたばかりのジュンは、ボロボロだった。
そういうわけで。
ポケモンセンターで、ジュンのポケモンたちの回復を待つ間、ふたりは食堂に。
がつがつと、黙々と食事をするジュン。
テーブルのはす向かいに座ったアクタは、お茶を飲む。ふたりの間に会話はない。ただおなじ空間でおなじ時間を過ごす、それだけだった。
:
「どっちが相応しいか──って、どういう意味?」
アクタとジュンは外へ出る。
さすがポケモンリーグなだけあって、バトル用のコートも広い。
「ぼくとジュン、どっちも挑戦するんじゃダメなの?」
「そんなの、めんどくさいだろ。オレは最強のトレーナーになるんだ。四天王もチャンピオンもお前も含めて、いまこの地にいる人間のなかで、最強になりたい」
「……そっか」
合理的といえば、合理的だ。
……無駄といえば、無駄かもしれないけど。
「それに、お前に勝てなきゃチャンピオンにも勝てないだろ」
「うん。それはそうかもね」
コートで向かい合うふたり。もはや、言葉なんて要らない。
同時にボールを投げた。
「ムクホーク!」
「トゲキッス!」
アクタのボールは変な方向に飛んで行ったが、トゲキッスは空中旋回してバトルフィールドに戻ってくる。
「トゲキッス、“エアスラッシュ”!」
「ムクホーク、“つばめがえし”だ!」
空中で打ち合う翼。やがて“エアスラッシュ”にムクホークがひるんだ隙に、アクタはポケモンを交代させる。
「グレイシア、“れいとうビーム”!」
効果抜群のこおりタイプの技に、ムクホークは地に落ちた。
「だったら、ヘラクロス!」
大きな一本角のポケモン。ヘラクロスはさっそく、グレイシアの至近距離に飛び込んでくる。
「“インファイト”!」
拳による連撃。高威力のかくとうタイプの技だ。さすがにグレイシアは耐えきれず、戦闘不能になった。
「うわ、やるぅ……」
「へへっ! これでお互い1アウトだな!」
「いやいや」
ふたたびトゲキッスを繰り出す。
「やべ!」
「“エアスラッシュ”」
空気の刃の一撃で、ヘラクロスは戦闘不能になった。
「むし・かくとうタイプだったよね。だったらひこうタイプは天敵でしょ」
アクタはトゲキッスを一旦、ボールに戻す。
「ちぇっ、そうそう追いつかせてくれないか……カビゴン!」
「ポリゴンZ!」
多くのトレーナーが旅の果てとして目指す、ポケモンリーグ。
そこで、リーグへの挑戦をそっちのけで、全力で戦い合うトレーナー。非常に珍しい光景だった。
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲキッス ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
グレイシア ♀
なまいきな性格
ポリゴンZ
ひかえめな性格
ルカリオ ♀
わんぱくな性格