ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「よっ! トレーナー。いつやってくるのか、指折り数えて待っていたぜ」
「あ、オーバさん」
赤いアフロヘアーの男。ナギサシティで一度会った、オーバだ。そういえば四天王だと言っていたっけ。──いまのいままで忘れてしまっていた。
「ナギサでのことはデンジの野郎から聞いたぜ。あいつの心に火を点けるとは、期待が高まって仕方ねぇ!」
オーバは満面の笑みで武者震いしている。まるで燃えているみたいだ。室温まで高まっているように感じて、アクタはコートを脱いだ。
「さて、こんどはほのおのポケモン使い! オーバさまがお前らの魂、どれだけ熱く燃え盛っているか、確かめさせてもらう!!」
「やっぱりほのおタイプを使うんですね」
ヘルガー。ブースター。ギャロップ。オーバ自身のテンションは熱いが、彼のポケモンは“にほんばれ”や“おにび”といった補助技も使いこなす。
「ゴウカザル、“フレアドライブ”!」
炎をまとった突撃で、ルカリオは戦闘不能になる。
「トゲキッス! “エアスラッシュ”だ!」
ひこうタイプの技で、どうにか倒した。
「きみの勢い感じる。熱い気持ち、伝わってくる!」
オーバが繰り出した最後のポケモンはブーバーン。両腕がバーナーのようになっている。
「さてと、ひこうタイプが相手なら……“10まんボルト”!」
しかし意外にも、放たれたのは炎ではなく電撃。タイプは一致していないだろうに、かなりの威力だ。一発でトゲキッスは戦闘不能にされてしまった。
「特殊攻撃が高いんだな……うーん、でも……!」
耐久力に不安はあるものの、ラムパルドを選んだ。
「いわタイプねえ。それでこのブーバーンを打ち破れるかな!? “かえんほうしゃ”!」
両腕から発射される炎。ラムパルドに効果はいまひとつなのだが、それでも特殊攻撃が高いブーバーンが使えば、十分に脅威だ。
「ラムパルド!」
ポケモンバトルをやっている以上、自分のポケモンを傷つけずに勝つことはまずできない。ことポケモンリーグという、一度だって負けられない戦いであれば、自分のポケモンに犠牲を強いることも、仕方がないことなのかもしれない。
アクタの考えはラムパルドに伝わったのだろう。ラムパルドはブーバーンを見据えたまま、深く頷いた。
トレーナーとして、アクタの腹が決まった。
「“もろはのずつき”!」
ラムパルドの最強の矛。全身全霊の突撃で──
「うおおっ……!!」
ブーバーンは倒れた。
そして、ラムパルドも。
「……ありがとう。おかげで勝てたよ」
“もろはのずつき”の反動は、ラムパルドの体力をゼロにした。ダブルノックアウト。この場合の勝者は、手持ちポケモンを残しているアクタだ。
「──まさかまさかの敗北だ!」
オーバは頭を抱える。
「見くびっていたわけじゃない! だけど負けるとは微塵も思ってなかった!」
わかりやすく悔しがっている。この男、ずっとテンションが高い。
「すごい! きみときみのポケモン、熱いぜ!!」
「あ、ありがとうございます」
オーバは天井を見上げる。勝負の余韻に浸っているのだろうか。
「…………」
「…………」
長い沈黙の後、オーバはため息をついた。
「……フゥ……燃え尽きちまったぜぃ」
「そ、そうですか」
「…………」
「…………」
「……つぎ、行きなよ」
「うわ、急にテンション下がりましたね」
:
「これは良いタイミング。ちょうど本を読み終えたところでした」
アクタが部屋に入ると、赤いスーツの男は手元の本をパタンと閉じた。色付きレンズの眼鏡がこちらを認める。
「では自己紹介を。わたしはゴヨウ。使うのはエスパータイプ」
「アクタといいます。好きなものはケチャップです」
「それにしても、ここまで来るとは相当な実力の持ち主。
あまりにも無駄なく会話が進むので、アクタはすこし寂しかった。
だが寂しがっている場合じゃない。四天王の4人目。つまり彼の言うとおり、四天王最強。これまで戦った3人のだれより強いことははっきりしている。
やはりかなり苦戦した。
バリヤード。エーフィ。フーディン。強力な特殊攻撃に翻弄される。それに加えて、ゴヨウのトレーナーとしての腕はあまりにも高い。四天王最強は伊達ではないということか。
「ルカリオ、“インファイト”!」
青銅の銅鐸型のポケモンに、ルカリオの連撃が炸裂する──が、倒すには至らない。
「ドータクン、“サイコキネシス”」
念動波を受けて、ルカリオは戦闘不能になる。先ほどの“インファイト”の一撃で決められなかったのは痛い。見た目どおり、ドータクンは耐久力が高い。おまけに、特性が『ふゆう』なのでじめんタイプが通用しない。
「だから威力が高い技で攻めるしかないわけだけど──ポリゴンZ!」
思い切って“はかいこうせん”を使いたいところだが、はがねタイプを持つドータクンには大したダメージは与えられないだろう。せめてまともにダメージが通るタイプで戦わなければ。
「“ロックオン”!」
ドータクンに狙いを定める。
「む──“めいそう”」
さらに耐久力を高めるドータクン。
「“でんじほう”!」
ポリゴンZは、圧縮した電気を発射する。威力は高いが命中しづらい技だが、事前に“ロックオン”を使ったことで必中になっている。
ごおん、とドータクンの鋼の身体から、鐘の音が響く。そして浮遊していたドータクンは地面に倒れた。
「よし……!」
「ふむう……さて、ここからどうしましょうか」
ゴヨウが最後に放ったボールからは、腕が刀のような形状をしている人型のポケモン。
「エルレイド、頼みますよ」
「……かっこいいな」
エスパータイプであることは確実だ。だが、あの俊敏そうな体躯にはまだ秘密があるだろう。
「ポリゴンZ、“トライアタック”!」
先手を取って光線を放つが、エルレイドはものともせずにこちらへ迫る。
「“ドレインパンチ”!」
鋭い突きに、ポリゴンZは倒れた。
「かくとうタイプ……!」
アクタは確信した。
ひこうタイプのトゲキッスを頼りたいところだが──すでに『ひんし』だ。バリヤードの“10まんボルト”が決定的だった。
そういうわけで、ここまでの過酷な戦いで、残ったアクタのポケモンは残り1体。
「ドダイトス!」
樹木を背負った巨体が、エルレイドに向かい合う。
「それがきみの、最後のポケモンですか」
「はい。そして、最初のポケモンです」
エルレイドは“サイコカッター”で攻める。ドダイトスは“ギガドレイン”や“じしん”で応戦する。力のぶつかり合い。ポケモンリーグの終盤に一戦にしては、いささか戦略性に欠けるものがあったが──
「エルレイド、“サイコカッター”!」
「ドダイトス、“ウッドハンマー”!」
当人たちにとっては、どうでもいいことだ。
「なるほど……いままでの3人に勝ってきたその強さ、本物ですね」
激闘を制したのは、アクタだった。
ゴヨウは眼鏡を外し、ハンカチで汗を拭う。その優雅な仕草は、肩で息をしているアクタにはとても真似ができない。
「これであなたは四天王全員に勝ったわけですが、まだ終わりではありません。ポケモンリーグには、わたしたち四天王よりもはるかに強いチャンピオンがいます」
「は、はい。本来はそうなんですよね」
当時、チャンピオンが不在であったカントー地方のほうが特殊だったのだ。もっとも、アクタは曲がりなりにも「チャンピオン」の座に着いた友と戦うことになったのだが。
「さあ、扉を潜り抜け、最後の戦いに挑みなさい」
ゴヨウは椅子に座り込んで、本を開いた。
「わたしはつぎの挑戦者が来るまで本を読んでいます。そうすれば心が落ち着き、どんなときでも慌てることなく対処できますからね」
「……あのう、じゃあまず、ポケモンを回復させたほうがいいんじゃないでしょうか」
「おっと」
ゴヨウもそれなりに敗北への動揺があるようだ。ようやく彼の人間味のある様子が見られて、アクタはなぜか安堵した。
:
それは、アクタがデンジに勝利し、ビーコンバッジを手に入れたときの帰り道。
「おお! アクタ! ジムリーダーに勝ったのか! 勝ったんだな!」
いつもジムチャレンジのアドバイスをくれる眼鏡の男は、興奮気味に少年の勝利を喜んだ。
かと思いきや、取り繕うように冷静な面持ちになって、咳払いをする。
「だけどおれはまだお前を認めないぜ。だってお前とお前のポケモンは、まだまだ強くなるからな!」
「まだまだ?」
「ああそうさ! いやー、それにしてもシンオウのジムバッジ8個! よく集めたもんだぜ!」
もしもシンオウ地方のチャンピオンに勝ったら、それで自分の旅は終わりなのだろうか。
彼の言った「まだまだ」の到達点はここなのか?
キクノが言った「どこまででもいけますよ」の到達点は?
どこが
「元気にしてた?」
長い金髪を降ろした、黒いコートの女性だった。
彼女は初めて会ったときと同じように、少年に向けて、強烈な「なにか」を放っていた。
敵意だとか威圧だとか、そんなかわいいものじゃない。
彼女がアクタに向けたものは、言うなれば、殺気──
──あるいは、
「シロナさん」
それを向けられているアクタは、今回は平静を保っていた。
恐怖を感じていないことに、自分自身で驚いている。それはつまり、双方のトレーナーとしての実力が拮抗していることを意味する。
「あれ? あまりびっくりしてないのね。ひょっとして、あたしがチャンピオンだって知ってた?」
「いいえ。でも、そうじゃないかって──そうだったらいいな、って思ってました」
シロナが強いことは知っていた。それも、ほかのトレーナーの反応から、えらく強いらしい。ならば戦ってみたいと思ってしまうあたり、アクタはかなりの「ポケモントレーナー」なのだ。
「そういえばあのとき、送りの泉で言えなかったこと、伝えておくわね。だってアクタくん、すぐに気絶しちゃったし」
「ああ、そうだ。あのときはありがとうございます。博士のところまで送り届けてくれたみたいで」
「いいのよ。『ありがとう』っていうのは、こっちのセリフなんだから。──そう、テンガン山でのこと、破れた世界でのこと。感謝しています」
シロナは、アクタに向けて深々と、頭を下げた。
「え、ちょっと、シロナさん……!?」
「そして、ごめんなさい。あんなに危険なことを、子どものあなたにやらせてしまった。ギンガ団のことにしても、ほんとうはあたしたちポケモンリーグや、ジムリーダーが対処すべきだったのに──やつらの情報操作に躍らせられ、後手に回ってしまった。あなたがいなければきっと、アカギの思うとおりになっていたでしょう」
「…………」
「あなたってすごい! ほんとうにすごいトレーナーね! シンオウのみんなの代わりに改めてあたしから言わせてね」
彼女は頭を上げて、少年に微笑みかけた。
「シンオウ地方を救ってくれて、ありがとう」
ノーコンのアクタと違って、あまりにも正面からの謝罪と感謝。
それを受けて、少年は──
「……いま言います?」
ちょっと、怒った。
「これから思いっきり戦おうっていうのに、ありがとうとかごめんなさいとか。そういうのはべつの機会でいいでしょ。戦意が鈍っちゃう」
「ふふっ、それもそうね」
可笑しそうに吹き出すシロナ。微笑を湛えつつも、彼女から威圧感は、より一層に激しくなる。
「でもアクタくん、きみが立派なのはほんとうよ。どんな困難にぶつかっても、ポケモンと乗り越えてきたのね。それはどんなときでも自分に勝ってきたということ。──そうして学んだ強さ、きみたちから感じます!」
ふたりは、十分に距離を取る。
「さてと! ここにきた目的はわかってます! ポケモンリーグチャンピオンとして、きみと戦います!」
「はい! よろしくお願いします。じゃあさっそく──ドダイトス!」
アクタが投げたボールは、真後ろに飛んで行った。
「え? なにいまの?」
「す、すいません。手元が狂って……」
「違う。偶然じゃない。だからといって、ふざけてるわけでもない」
シロナは知らなかったのだ。アクタがノーコンだということを。
だからアクタの病的ともいえる当て勘の無さに、心底驚き、だからこそ分析を始めた。
「…………」
じっとアクタを見つめる。
「再現性は?」
「再現って……ええと、狙ったところに投げられないのは、いつものことです」
「いつから?」
「最初から、としか言いようがないです。だから一年くらい前、カントー地方を旅したときも大変でした」
「…………」
シロナは、考え込んだかと思うと。
「まあいっか。関係ないや」
と、みずからもモンスターボールを手に取った。
「始めましょう」
「あ、はい」
なんとも、盛り上がらない雰囲気で、アクタのチャンピオンへの挑戦が始まった。
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲキッス ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
グレイシア ♀
なまいきな性格
ポリゴンZ
ひかえめな性格
ルカリオ ♀
わんぱくな性格