ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート37 ポケモンリーグ/最高峰

「よっ! トレーナー。いつやってくるのか、指折り数えて待っていたぜ」

「あ、オーバさん」

 赤いアフロヘアーの男。ナギサシティで一度会った、オーバだ。そういえば四天王だと言っていたっけ。──いまのいままで忘れてしまっていた。

「ナギサでのことはデンジの野郎から聞いたぜ。あいつの心に火を点けるとは、期待が高まって仕方ねぇ!」

 オーバは満面の笑みで武者震いしている。まるで燃えているみたいだ。室温まで高まっているように感じて、アクタはコートを脱いだ。

「さて、こんどはほのおのポケモン使い! オーバさまがお前らの魂、どれだけ熱く燃え盛っているか、確かめさせてもらう!!」

「やっぱりほのおタイプを使うんですね」

 ヘルガー。ブースター。ギャロップ。オーバ自身のテンションは熱いが、彼のポケモンは“にほんばれ”や“おにび”といった補助技も使いこなす。

「ゴウカザル、“フレアドライブ”!」

 炎をまとった突撃で、ルカリオは戦闘不能になる。

「トゲキッス! “エアスラッシュ”だ!」

 ひこうタイプの技で、どうにか倒した。

「きみの勢い感じる。熱い気持ち、伝わってくる!」

 オーバが繰り出した最後のポケモンはブーバーン。両腕がバーナーのようになっている。

「さてと、ひこうタイプが相手なら……“10まんボルト”!」

 しかし意外にも、放たれたのは炎ではなく電撃。タイプは一致していないだろうに、かなりの威力だ。一発でトゲキッスは戦闘不能にされてしまった。

「特殊攻撃が高いんだな……うーん、でも……!」

 耐久力に不安はあるものの、ラムパルドを選んだ。

「いわタイプねえ。それでこのブーバーンを打ち破れるかな!? “かえんほうしゃ”!」

 両腕から発射される炎。ラムパルドに効果はいまひとつなのだが、それでも特殊攻撃が高いブーバーンが使えば、十分に脅威だ。

「ラムパルド!」

 ポケモンバトルをやっている以上、自分のポケモンを傷つけずに勝つことはまずできない。ことポケモンリーグという、一度だって負けられない戦いであれば、自分のポケモンに犠牲を強いることも、仕方がないことなのかもしれない。

 アクタの考えはラムパルドに伝わったのだろう。ラムパルドはブーバーンを見据えたまま、深く頷いた。

 トレーナーとして、アクタの腹が決まった。

「“もろはのずつき”!」

 ラムパルドの最強の矛。全身全霊の突撃で──

「うおおっ……!!」

 ブーバーンは倒れた。

 そして、ラムパルドも。

「……ありがとう。おかげで勝てたよ」

 “もろはのずつき”の反動は、ラムパルドの体力をゼロにした。ダブルノックアウト。この場合の勝者は、手持ちポケモンを残しているアクタだ。

「──まさかまさかの敗北だ!」

 オーバは頭を抱える。

「見くびっていたわけじゃない! だけど負けるとは微塵も思ってなかった!」

 わかりやすく悔しがっている。この男、ずっとテンションが高い。

「すごい! きみときみのポケモン、熱いぜ!!」

「あ、ありがとうございます」

 オーバは天井を見上げる。勝負の余韻に浸っているのだろうか。

「…………」

「…………」

 長い沈黙の後、オーバはため息をついた。

「……フゥ……燃え尽きちまったぜぃ」

「そ、そうですか」

「…………」

「…………」

「……つぎ、行きなよ」

「うわ、急にテンション下がりましたね」

 

 

「これは良いタイミング。ちょうど本を読み終えたところでした」

 アクタが部屋に入ると、赤いスーツの男は手元の本をパタンと閉じた。色付きレンズの眼鏡がこちらを認める。

「では自己紹介を。わたしはゴヨウ。使うのはエスパータイプ」

「アクタといいます。好きなものはケチャップです」

「それにしても、ここまで来るとは相当な実力の持ち主。()()()()()と言われるわたしも、全力で戦わせていただきましょう」

 あまりにも無駄なく会話が進むので、アクタはすこし寂しかった。

 だが寂しがっている場合じゃない。四天王の4人目。つまり彼の言うとおり、四天王最強。これまで戦った3人のだれより強いことははっきりしている。

 やはりかなり苦戦した。

 バリヤード。エーフィ。フーディン。強力な特殊攻撃に翻弄される。それに加えて、ゴヨウのトレーナーとしての腕はあまりにも高い。四天王最強は伊達ではないということか。

「ルカリオ、“インファイト”!」

 青銅の銅鐸型のポケモンに、ルカリオの連撃が炸裂する──が、倒すには至らない。

「ドータクン、“サイコキネシス”」

 念動波を受けて、ルカリオは戦闘不能になる。先ほどの“インファイト”の一撃で決められなかったのは痛い。見た目どおり、ドータクンは耐久力が高い。おまけに、特性が『ふゆう』なのでじめんタイプが通用しない。

「だから威力が高い技で攻めるしかないわけだけど──ポリゴンZ!」

 思い切って“はかいこうせん”を使いたいところだが、はがねタイプを持つドータクンには大したダメージは与えられないだろう。せめてまともにダメージが通るタイプで戦わなければ。

「“ロックオン”!」

 ドータクンに狙いを定める。

「む──“めいそう”」

 さらに耐久力を高めるドータクン。

「“でんじほう”!」

 ポリゴンZは、圧縮した電気を発射する。威力は高いが命中しづらい技だが、事前に“ロックオン”を使ったことで必中になっている。

 ごおん、とドータクンの鋼の身体から、鐘の音が響く。そして浮遊していたドータクンは地面に倒れた。

「よし……!」

「ふむう……さて、ここからどうしましょうか」

 ゴヨウが最後に放ったボールからは、腕が刀のような形状をしている人型のポケモン。

「エルレイド、頼みますよ」

「……かっこいいな」

 エスパータイプであることは確実だ。だが、あの俊敏そうな体躯にはまだ秘密があるだろう。

「ポリゴンZ、“トライアタック”!」

 先手を取って光線を放つが、エルレイドはものともせずにこちらへ迫る。

「“ドレインパンチ”!」

 鋭い突きに、ポリゴンZは倒れた。

「かくとうタイプ……!」

 アクタは確信した。

 ひこうタイプのトゲキッスを頼りたいところだが──すでに『ひんし』だ。バリヤードの“10まんボルト”が決定的だった。

 そういうわけで、ここまでの過酷な戦いで、残ったアクタのポケモンは残り1体。

「ドダイトス!」

 樹木を背負った巨体が、エルレイドに向かい合う。

「それがきみの、最後のポケモンですか」

「はい。そして、最初のポケモンです」

 エルレイドは“サイコカッター”で攻める。ドダイトスは“ギガドレイン”や“じしん”で応戦する。力のぶつかり合い。ポケモンリーグの終盤に一戦にしては、いささか戦略性に欠けるものがあったが──

「エルレイド、“サイコカッター”!」

「ドダイトス、“ウッドハンマー”!」

 当人たちにとっては、どうでもいいことだ。

「なるほど……いままでの3人に勝ってきたその強さ、本物ですね」

 激闘を制したのは、アクタだった。

 ゴヨウは眼鏡を外し、ハンカチで汗を拭う。その優雅な仕草は、肩で息をしているアクタにはとても真似ができない。

「これであなたは四天王全員に勝ったわけですが、まだ終わりではありません。ポケモンリーグには、わたしたち四天王よりもはるかに強いチャンピオンがいます」

「は、はい。本来はそうなんですよね」

 当時、チャンピオンが不在であったカントー地方のほうが特殊だったのだ。もっとも、アクタは曲がりなりにも「チャンピオン」の座に着いた友と戦うことになったのだが。

「さあ、扉を潜り抜け、最後の戦いに挑みなさい」

 ゴヨウは椅子に座り込んで、本を開いた。

「わたしはつぎの挑戦者が来るまで本を読んでいます。そうすれば心が落ち着き、どんなときでも慌てることなく対処できますからね」

「……あのう、じゃあまず、ポケモンを回復させたほうがいいんじゃないでしょうか」

「おっと」

 ゴヨウもそれなりに敗北への動揺があるようだ。ようやく彼の人間味のある様子が見られて、アクタはなぜか安堵した。

 

 

 それは、アクタがデンジに勝利し、ビーコンバッジを手に入れたときの帰り道。

「おお! アクタ! ジムリーダーに勝ったのか! 勝ったんだな!」

 いつもジムチャレンジのアドバイスをくれる眼鏡の男は、興奮気味に少年の勝利を喜んだ。

 かと思いきや、取り繕うように冷静な面持ちになって、咳払いをする。

「だけどおれはまだお前を認めないぜ。だってお前とお前のポケモンは、まだまだ強くなるからな!」

「まだまだ?」

「ああそうさ! いやー、それにしてもシンオウのジムバッジ8個! よく集めたもんだぜ!」

 もしもシンオウ地方のチャンピオンに勝ったら、それで自分の旅は終わりなのだろうか。

 彼の言った「まだまだ」の到達点はここなのか?

 キクノが言った「どこまででもいけますよ」の到達点は?

 どこが()()()かわからない少年の旅。たしかに言えるのは、きっとここが、過去最高峰の地点であるということだ。

「元気にしてた?」

 長い金髪を降ろした、黒いコートの女性だった。

 彼女は初めて会ったときと同じように、少年に向けて、強烈な「なにか」を放っていた。

 敵意だとか威圧だとか、そんなかわいいものじゃない。

 彼女がアクタに向けたものは、言うなれば、殺気──

 ──あるいは、()()()()()

「シロナさん」

 それを向けられているアクタは、今回は平静を保っていた。

 恐怖を感じていないことに、自分自身で驚いている。それはつまり、双方のトレーナーとしての実力が拮抗していることを意味する。

「あれ? あまりびっくりしてないのね。ひょっとして、あたしがチャンピオンだって知ってた?」

「いいえ。でも、そうじゃないかって──そうだったらいいな、って思ってました」

 シロナが強いことは知っていた。それも、ほかのトレーナーの反応から、えらく強いらしい。ならば戦ってみたいと思ってしまうあたり、アクタはかなりの「ポケモントレーナー」なのだ。

「そういえばあのとき、送りの泉で言えなかったこと、伝えておくわね。だってアクタくん、すぐに気絶しちゃったし」

「ああ、そうだ。あのときはありがとうございます。博士のところまで送り届けてくれたみたいで」

「いいのよ。『ありがとう』っていうのは、こっちのセリフなんだから。──そう、テンガン山でのこと、破れた世界でのこと。感謝しています」

 シロナは、アクタに向けて深々と、頭を下げた。

「え、ちょっと、シロナさん……!?」

「そして、ごめんなさい。あんなに危険なことを、子どものあなたにやらせてしまった。ギンガ団のことにしても、ほんとうはあたしたちポケモンリーグや、ジムリーダーが対処すべきだったのに──やつらの情報操作に躍らせられ、後手に回ってしまった。あなたがいなければきっと、アカギの思うとおりになっていたでしょう」

「…………」

「あなたってすごい! ほんとうにすごいトレーナーね! シンオウのみんなの代わりに改めてあたしから言わせてね」

 彼女は頭を上げて、少年に微笑みかけた。

「シンオウ地方を救ってくれて、ありがとう」

 ノーコンのアクタと違って、あまりにも正面からの謝罪と感謝。

 それを受けて、少年は──

「……いま言います?」

 ちょっと、怒った。

「これから思いっきり戦おうっていうのに、ありがとうとかごめんなさいとか。そういうのはべつの機会でいいでしょ。戦意が鈍っちゃう」

「ふふっ、それもそうね」

 可笑しそうに吹き出すシロナ。微笑を湛えつつも、彼女から威圧感は、より一層に激しくなる。

「でもアクタくん、きみが立派なのはほんとうよ。どんな困難にぶつかっても、ポケモンと乗り越えてきたのね。それはどんなときでも自分に勝ってきたということ。──そうして学んだ強さ、きみたちから感じます!」

 ふたりは、十分に距離を取る。

「さてと! ここにきた目的はわかってます! ポケモンリーグチャンピオンとして、きみと戦います!」

「はい! よろしくお願いします。じゃあさっそく──ドダイトス!」

 アクタが投げたボールは、真後ろに飛んで行った。

「え? なにいまの?」

「す、すいません。手元が狂って……」

「違う。偶然じゃない。だからといって、ふざけてるわけでもない」

 シロナは知らなかったのだ。アクタがノーコンだということを。

 だからアクタの病的ともいえる当て勘の無さに、心底驚き、だからこそ分析を始めた。

「…………」

 じっとアクタを見つめる。

「再現性は?」

「再現って……ええと、狙ったところに投げられないのは、いつものことです」

「いつから?」

「最初から、としか言いようがないです。だから一年くらい前、カントー地方を旅したときも大変でした」

「…………」

 シロナは、考え込んだかと思うと。

「まあいっか。関係ないや」

 と、みずからもモンスターボールを手に取った。

「始めましょう」

「あ、はい」

 なんとも、盛り上がらない雰囲気で、アクタのチャンピオンへの挑戦が始まった。




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲキッス ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

グレイシア ♀
 なまいきな性格

ポリゴンZ
 ひかえめな性格

ルカリオ ♀
 わんぱくな性格
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