ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「なるほど、ポケモン図鑑を作ってる、と」
「はい」
「でもノーコンや、と」
「はい」
「難儀やなあ」
25番道路の池のほとり。アクタはおもむろに小石を拾い、池に向かって投げた。
池にすら落ちなかった。
「なんでやねん!」
「なんででしょうね。──そこまで深刻に悩んでるわけじゃないんです。オーキド博士も、このことを知りつつも笑顔で送り出してくれた。ぼくはぼくのできる限り、精一杯に旅をしていこうと思います」
「そっか。うん、前向きなのはええことや」
マサキはしばらく考えたかと思うと。
「タマムシシティに行く機会があったら、『ポケモン講座』っていう塾を探してみ。タマムシマンションの屋上なんて、ややこしい場所にあるんやけどな。話はつけとくから」
「はあ、ポケモン講座。行ってみます」
無料で授業でもしてくれるんだろうか。
「ほんなら、おおきにな。気をつけて旅するんやで。巷ではロケット団とかいうけったいな連中が、揉め事を起こしとるみたいやからな」
「マサキさんも、実験するときは気をつけてくださいね」
ハナダの岬から裏道を南下して、アクタはハナダシティに戻った。
グリーン。ゴールデンボールブリッジ。修行中のトレーナーたちとの戦いで、ポケモンバトルの実力を鍛えた。いざ、ハナダジムの門を叩く。
「おーす! 未来のチャンピオン!」
眼鏡の男性が出迎えた。ニビジムにもいた、知っている顔だった。
「なんでいるんですか?」
「そんなことはどうでもいい! アドバイスしよう! ここのリーダーカスミは水に棲むポケモンを使うプロフェッショナルだ! こんなときは植物タイプで水を吸い取る作戦だ」
「植物タイプって言いました?」
「植物タイプって言っちゃったな。もとい、くさタイプだ! ……それか、でんきタイプで痺れさせるのもいいぜ」
受付にて、使用するポケモンを登録する。フシギソウに、コイキング。
「さあ、がんばろうね」
控室での待機もそこそこに、ジムチャレンジが始まった。
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ジムトレーナーは、海パン野郎とピクニックガールのふたり。みずタイプポケモンとの戦闘経験は少なかったものの、くさタイプであるフシギソウで危なげなく打破する。
いよいよ、ジムリーダーとの戦いにこぎつけた。ステージはプールに囲まれている。
「あのねきみ! ポケモン育てるにもポリシーがあるやつだけがプロになれるの!」
現れたのは、すぐにでもプールに飛び込めそうな、セパレート水着の女性だった。露出度は高くないものの、開放的な格好の異性に、アクタは照れて目を逸らす。
「よそ見しない!」
怒られてしまった。「はい!」と視線を戻す。彼女が、ジムリーダーのカスミだった。
「名前、アクタだっけ? あなたはポケモン捕まえて育てるとき、なにを考えてる?」
「つ、捕まえ……? あの、えっと、がんばって育ててます!」
「曖昧!」
「はい! すいません!」
体育会系だった。先ほどからずっと、アクタの背すじは伸びている。
「わたしのポリシーはね……みずタイプポケモンで、攻めて、攻めて……攻めまくることよ!」
それはポリシーなんだろうか──という疑問は、口に出さない。カスミはモンスターボールを投げる。星型ポケモン、ヒトデマンが現れた。
アクタもつられて、モンスターボールを投げた。
ボールはプールに落ちた。
「え? ちょっと、なに、ふざけてる?」
「すいません! あの……」
水面に、コイキングが跳ねた。
「……なるほど、せっかくプールがあるもんね」
なにを納得したのか、カスミはヒトデマンを水上に移動させた。
「水中だとバトルの様子がわからないから、あくまでもフィールドは水上ね」
どうもノーコンで勘違いさせてしまったらしいが、コイキングは陸より水のほうが、幾分か動きやすそうだ。「お願いします」と同意した。
審判の合図で、ポケモンバトルが始まった。
「コイキング、きみの真価を見せるときだ。これまで学習したことのすべてをぶつけるぞ!」
コイキングは、強い視線で応える。
「“たいあたり”!」
ついに覚えた、攻撃技だった。コイキングが水上を高速で泳ぎ、ヒトデマンに衝突した。
「よし、いいぞ!」
ただしダメージは小さいようだった。ヒトデマンは微動だにしていない。
「いいコイキングね」
それでも、カスミはコイキングを賞賛した。
「きっとこれからも強くなるわ。──ヒトデマン、こっちも“たいあたり”!」
おなじ技でも、威力は相手のほうが上だった。さすがに旗色が悪い。
「……ごめん、コイキング。交代だ」
コイキングをモンスターボールに戻した。そして、足元にフシギソウを放った。
「すいません、水上戦、終わりでいいですか?」
「はいはい。──フシギソウね。そっちが本命か」
「そうです。最近、良い技を覚えたので」
フシギソウに目配せをする。自信ありげにフシギソウは頷いた。
「“はっぱカッター”!」
背中から葉を射出した。緑の刃はヒトデマンを切り裂き、『ひんし』にした。
「つぎはこっちも本命を出すからね! 油断しちゃダメよ!」
カスミの2体目のポケモンは、スターミーだった。紫色の五芒星が重なっている形状で、先ほどのヒトデマンの進化系である。
「スターミー、“みずのはどう”!」
振動する水流がフシギソウを襲う。効果はいまひとつ──なのだが。
「……フシギソウ、混乱してる?」
酩酊するように、フシギソウはよろめいていた。
「よし! うまいこと追加効果が入ったわね」
「フシギソウ、しっかり! “はっぱカッター”!」
だが、フシギソウはわけもわからず、蔓で自らを打つ。
「スターミー、“スピードスター”!」
星形の光線に襲われる。
「さあ、このままじゃフシギソウ、『ひんし』になっちゃうわよ」
「こんらん」は、一度でもべつのポケモンと交代すれば治療される。だが、交代自体が隙になる。下手をすれば、コイキングとフシギソウの両方がやられかねない。
だから、
「──フシギソウ、“はっぱカッター”!」
アクタは指示を続けた。こんどは混乱に負けずに聞き入れて、“はっぱカッター”を繰り出した。スターミーに大きなダメージを与える。
「……“じこさいせい”!」
スターミーは技で体力を回復させる。だがこの際、アクタは退かない。
「“はっぱカッター”!」
攻めて、攻めて、攻めまくる。カスミ本人から学んだ
果たして幸運か、それとも覚悟が伝わったのか──フシギソウは技を放った。
刃は、スターミーの中央、赤い宝石に直撃した。それは急所だったのだろう。スターミーはよろめき、やがて沈んだ。
「うーん……! わたしの負けね」
バトルの終了と同時に、フシギソウの混乱が解けた。アクタはフシギソウに駆け寄る。
「やった! よくがんばったね、フシギソウ!」
「あーあ、なんか悔しいな。しょうがない! わたしに勝った証拠にブルーバッジを上げる!」
カスミが差し出したのは、水色のバッジ。水の滴の形をしている。
「“みずのはどう”でしたっけ。びっくりしました。タイプ相性が有利だからって、油断しちゃってたかもしれません」
「おもしろい技でしょ。わざマシンがあるから、上げるわよ。あなたのコイキングが進化したら、使ってあげて!」
「進化……」
コイキングのモンスターボールを手に取る。
「がんばって育ててる──だっけ? それは嘘じゃないみたいね」
「ほんとですか?」
「うん。わたしの目に狂いはないわ。これでもみずタイプのエキスパートなのよ」
「……ありがとうございます、カスミさん。ポケモンを褒められると、自分のことよりも嬉しいです」
「ふふっ。その気持ち、忘れないでね」
カスミは手を差し伸べた。反射的にアクタは応じる。──それは固い握手だった。
「……ヤバい、ぼくにはナナミさんがいるのに」
アクタは、恋をしてしまいそうだった。
:
恋をしている暇はなかった。アクタはハナダジムを去る。
「カスミに勝ったな! おれの言ったとおりだったろ? お前もすごいがおれもすごいだろ?」
「そうですね」
眼鏡の男性に別れを告げる。つぎのジムにもいるのだろうか、とアクタは想像して恐くなった。
ポケモンセンターでの回復後、タウンマップ片手に歩いていると、謎のひとだかりに遭遇した。
「なにかあったんですか?」
近くにいた警官に尋ねてみる。
「かわいそーなことに、この家はドロボーに入られたんだ! 犯人はわかっとる! ロケット団の仕業だ!」
「ええー。あのひとたち、民家に泥棒とかやっちゃうんですか」
「もう、何でもアリだ! 警察としても、ロケット団の悪事にはほとほと困っとるのだ!」
聞くところによると、盗まれたのはわざマシンらしい。ポケモンに技を教えるためのアイテムで、アクタもいくつか所持している。
「お金とかポケモンじゃなくて、わざマシン……? よほど特別な技だったのかな」
その場を離れたアクタ。下手人の「目的」がなんなのか考えつつ歩いていると、目の前を黒い影がさっと横切った。
ポケモンではない、人間だ。いつもならばそんなものに興味はないのだが、その影が黒い服を着ていたことが気になり、アクタは影を追いかけてみた。
いつしかアクタは、その男を袋小路に追い詰めていた。
「……なんなんだよお前は!」
振り返った男の胸には「R」のマークがあった。
「ロケット団ですよね」
「…………え、おれ?」
「あなた以外にだれがいるんだ」
「……ただのとおりすがりだ。ロケット団? 泥棒? 技マシン? なんのことだか!」
「…………」
「ダメ?」
男はへらへらと笑ったかと思うと、急にモンスターボールを投げてきた。出てきたのは、ワンリキーだ。
「おら、どけよ! 痛い目に遭うぞ!」
「フシギソウ」
アクタもポケモンを出す。
「げ! お前、トレーナーかよ」
「そうじゃなきゃ、わざわざあんたみたいな怪しい男を追いかけたりしませんよ! “どくのこな”!」
毒の状態になるワンリキー。
「ぐっ……“からてチョップ”!」
かくとうタイプの技は、どくタイプを持つフシギダネにはいまひとつ効かない。
「“はっぱカッター”!」
ワンリキーは倒れた。続いてロケット団の男は、スリープを繰り出す。長い鼻を持った、エスパータイプのポケモンだった。
「なんでわざマシンなんか盗んだりしたんですか」
「穴が掘れれば、なにかと便利だろうが!」
「……あ、わざマシンって“あなをほる”? ていうか、便利だなんて理由で、ひとから物を盗んなよ! フシギソウ、“はっぱカッター”!」
緑の刃を喰らうも、スリープはなんとか耐える。
「スリープ、“かなしばり”! ──へへっ、これで“はっぱカッター”は使えないな!」
「交代、コイキング!」
アクタはフシギソウとコイキングを入れ替える
「なんだ、コイキングなんて楽勝だぜ! “さいみんじゅつ”!」
スリープから波動が放たれるも、コイキングはジャンプして回避する。
「ナイス、コイキング! “たいあたり”!」
ジャンプの勢いで、スリープに衝突する。
「くそう、だったら“ずつき”だ!」
反撃されるも、アクタのコイキングはたった一撃では倒れない。
「“たいあたり”!」
続く一撃で、スリープは沈んだ。
「ひょえー、参った!」
「ひょえーて」
コイキングを労い、モンスターボールに戻す。
「もうしないよ! 見逃してくれい!」
「とにかく、わざマシンは返してくださいよ」
「……わかった! 盗んだものを返すよ」
ロケット団の男は、アクタにわざマシンを投げた。たしかに、“あなをほる”が記録されたものだった。
「わざマシンなんて、お金を貯めて買えばいいじゃないですか。タマムシシティに売ってるらしいですよ」
「まともに金を稼げるんなら、だれだって苦労しねえよ!」
そう突っぱねられてしまっては、アクタも閉口するしかない。
「そ、それじゃ……! おれは退散するから! ……ばいばーい!」
男はアクタの脇をすり抜けて、去って行ってしまった。
「いや警察に……! うーん、逃がしちゃった。まあいいか」
盗まれた物が戻ってきただけ、良しとしよう。アクタは事件現場に戻り、被害者らしい民家の家主に事情を説明した。
「そうか、きみが取り戻してくれたんだね。──よかったらそのわざマシンは、きみが貰ってくれないかな?」
「え? でも……」
「盗まれたものは戻ってこないと諦めてたんだ。うちのディグダには、気長に育てながら穴掘りを教えることにしたよ」
申し出を断ることもできず、アクタは“あなをほる”のわざマシンを手に入れてしまった。
「ロケット団にはこりごりだけど、良いことはするもんだなあ」
などと呑気に呟く。ハナダシティに来てからというもの、何度も「良いこと」となる行為をしていることに、アクタはまだ気が付いていない。
フシギソウ
れいせいな性格
つぼみを支えるため足腰が強くなる。日向でじっとする時間が長くなれば、いよいよ大輪の花が咲くころだ。
コイキング
がんばりやな性格
跳ねることしかしない情けないポケモン。なぜ跳ねるのか調べた研究者がいるほど、とにかく跳ねて跳ねて跳ねまくる。