ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート7 ハナダシティ/オン・ザ・プール

「なるほど、ポケモン図鑑を作ってる、と」

「はい」

「でもノーコンや、と」

「はい」

「難儀やなあ」

 25番道路の池のほとり。アクタはおもむろに小石を拾い、池に向かって投げた。

 池にすら落ちなかった。

「なんでやねん!」

「なんででしょうね。──そこまで深刻に悩んでるわけじゃないんです。オーキド博士も、このことを知りつつも笑顔で送り出してくれた。ぼくはぼくのできる限り、精一杯に旅をしていこうと思います」

「そっか。うん、前向きなのはええことや」

 マサキはしばらく考えたかと思うと。

「タマムシシティに行く機会があったら、『ポケモン講座』っていう塾を探してみ。タマムシマンションの屋上なんて、ややこしい場所にあるんやけどな。話はつけとくから」

「はあ、ポケモン講座。行ってみます」

 無料で授業でもしてくれるんだろうか。

「ほんなら、おおきにな。気をつけて旅するんやで。巷ではロケット団とかいうけったいな連中が、揉め事を起こしとるみたいやからな」

「マサキさんも、実験するときは気をつけてくださいね」

 ハナダの岬から裏道を南下して、アクタはハナダシティに戻った。

 グリーン。ゴールデンボールブリッジ。修行中のトレーナーたちとの戦いで、ポケモンバトルの実力を鍛えた。いざ、ハナダジムの門を叩く。

「おーす! 未来のチャンピオン!」

 眼鏡の男性が出迎えた。ニビジムにもいた、知っている顔だった。

「なんでいるんですか?」

「そんなことはどうでもいい! アドバイスしよう! ここのリーダーカスミは水に棲むポケモンを使うプロフェッショナルだ! こんなときは植物タイプで水を吸い取る作戦だ」

「植物タイプって言いました?」

「植物タイプって言っちゃったな。もとい、くさタイプだ! ……それか、でんきタイプで痺れさせるのもいいぜ」

 受付にて、使用するポケモンを登録する。フシギソウに、コイキング。

「さあ、がんばろうね」

 控室での待機もそこそこに、ジムチャレンジが始まった。

 

 

 ジムトレーナーは、海パン野郎とピクニックガールのふたり。みずタイプポケモンとの戦闘経験は少なかったものの、くさタイプであるフシギソウで危なげなく打破する。

 いよいよ、ジムリーダーとの戦いにこぎつけた。ステージはプールに囲まれている。

「あのねきみ! ポケモン育てるにもポリシーがあるやつだけがプロになれるの!」

 現れたのは、すぐにでもプールに飛び込めそうな、セパレート水着の女性だった。露出度は高くないものの、開放的な格好の異性に、アクタは照れて目を逸らす。

「よそ見しない!」

 怒られてしまった。「はい!」と視線を戻す。彼女が、ジムリーダーのカスミだった。

「名前、アクタだっけ? あなたはポケモン捕まえて育てるとき、なにを考えてる?」

「つ、捕まえ……? あの、えっと、がんばって育ててます!」

「曖昧!」

「はい! すいません!」

 体育会系だった。先ほどからずっと、アクタの背すじは伸びている。

「わたしのポリシーはね……みずタイプポケモンで、攻めて、攻めて……攻めまくることよ!」

 それはポリシーなんだろうか──という疑問は、口に出さない。カスミはモンスターボールを投げる。星型ポケモン、ヒトデマンが現れた。

 アクタもつられて、モンスターボールを投げた。

 ボールはプールに落ちた。

「え? ちょっと、なに、ふざけてる?」

「すいません! あの……」

 水面に、コイキングが跳ねた。

「……なるほど、せっかくプールがあるもんね」

 なにを納得したのか、カスミはヒトデマンを水上に移動させた。

「水中だとバトルの様子がわからないから、あくまでもフィールドは水上ね」

 どうもノーコンで勘違いさせてしまったらしいが、コイキングは陸より水のほうが、幾分か動きやすそうだ。「お願いします」と同意した。

 審判の合図で、ポケモンバトルが始まった。

「コイキング、きみの真価を見せるときだ。これまで学習したことのすべてをぶつけるぞ!」

 コイキングは、強い視線で応える。

「“たいあたり”!」

 ついに覚えた、攻撃技だった。コイキングが水上を高速で泳ぎ、ヒトデマンに衝突した。

「よし、いいぞ!」

 ただしダメージは小さいようだった。ヒトデマンは微動だにしていない。

「いいコイキングね」

 それでも、カスミはコイキングを賞賛した。

「きっとこれからも強くなるわ。──ヒトデマン、こっちも“たいあたり”!」

 おなじ技でも、威力は相手のほうが上だった。さすがに旗色が悪い。

「……ごめん、コイキング。交代だ」

 コイキングをモンスターボールに戻した。そして、足元にフシギソウを放った。

「すいません、水上戦、終わりでいいですか?」

「はいはい。──フシギソウね。そっちが本命か」

「そうです。最近、良い技を覚えたので」

 フシギソウに目配せをする。自信ありげにフシギソウは頷いた。

「“はっぱカッター”!」

 背中から葉を射出した。緑の刃はヒトデマンを切り裂き、『ひんし』にした。

「つぎはこっちも本命を出すからね! 油断しちゃダメよ!」

 カスミの2体目のポケモンは、スターミーだった。紫色の五芒星が重なっている形状で、先ほどのヒトデマンの進化系である。

「スターミー、“みずのはどう”!」

 振動する水流がフシギソウを襲う。効果はいまひとつ──なのだが。

「……フシギソウ、混乱してる?」

 酩酊するように、フシギソウはよろめいていた。

「よし! うまいこと追加効果が入ったわね」

「フシギソウ、しっかり! “はっぱカッター”!」

 だが、フシギソウはわけもわからず、蔓で自らを打つ。

「スターミー、“スピードスター”!」

 星形の光線に襲われる。

「さあ、このままじゃフシギソウ、『ひんし』になっちゃうわよ」

「こんらん」は、一度でもべつのポケモンと交代すれば治療される。だが、交代自体が隙になる。下手をすれば、コイキングとフシギソウの両方がやられかねない。

 だから、

「──フシギソウ、“はっぱカッター”!」

 アクタは指示を続けた。こんどは混乱に負けずに聞き入れて、“はっぱカッター”を繰り出した。スターミーに大きなダメージを与える。

「……“じこさいせい”!」

 スターミーは技で体力を回復させる。だがこの際、アクタは退かない。

「“はっぱカッター”!」

 攻めて、攻めて、攻めまくる。カスミ本人から学んだ()()()()だ。

 果たして幸運か、それとも覚悟が伝わったのか──フシギソウは技を放った。

 刃は、スターミーの中央、赤い宝石に直撃した。それは急所だったのだろう。スターミーはよろめき、やがて沈んだ。

「うーん……! わたしの負けね」

 バトルの終了と同時に、フシギソウの混乱が解けた。アクタはフシギソウに駆け寄る。

「やった! よくがんばったね、フシギソウ!」

「あーあ、なんか悔しいな。しょうがない! わたしに勝った証拠にブルーバッジを上げる!」

 カスミが差し出したのは、水色のバッジ。水の滴の形をしている。

「“みずのはどう”でしたっけ。びっくりしました。タイプ相性が有利だからって、油断しちゃってたかもしれません」

「おもしろい技でしょ。わざマシンがあるから、上げるわよ。あなたのコイキングが進化したら、使ってあげて!」

「進化……」

 コイキングのモンスターボールを手に取る。

「がんばって育ててる──だっけ? それは嘘じゃないみたいね」

「ほんとですか?」

「うん。わたしの目に狂いはないわ。これでもみずタイプのエキスパートなのよ」

「……ありがとうございます、カスミさん。ポケモンを褒められると、自分のことよりも嬉しいです」

「ふふっ。その気持ち、忘れないでね」

 カスミは手を差し伸べた。反射的にアクタは応じる。──それは固い握手だった。

「……ヤバい、ぼくにはナナミさんがいるのに」

 アクタは、恋をしてしまいそうだった。

 

 

 恋をしている暇はなかった。アクタはハナダジムを去る。

「カスミに勝ったな! おれの言ったとおりだったろ? お前もすごいがおれもすごいだろ?」

「そうですね」

 眼鏡の男性に別れを告げる。つぎのジムにもいるのだろうか、とアクタは想像して恐くなった。

 ポケモンセンターでの回復後、タウンマップ片手に歩いていると、謎のひとだかりに遭遇した。

「なにかあったんですか?」

 近くにいた警官に尋ねてみる。

「かわいそーなことに、この家はドロボーに入られたんだ! 犯人はわかっとる! ロケット団の仕業だ!」

「ええー。あのひとたち、民家に泥棒とかやっちゃうんですか」

「もう、何でもアリだ! 警察としても、ロケット団の悪事にはほとほと困っとるのだ!」

 聞くところによると、盗まれたのはわざマシンらしい。ポケモンに技を教えるためのアイテムで、アクタもいくつか所持している。

「お金とかポケモンじゃなくて、わざマシン……? よほど特別な技だったのかな」

 その場を離れたアクタ。下手人の「目的」がなんなのか考えつつ歩いていると、目の前を黒い影がさっと横切った。

 ポケモンではない、人間だ。いつもならばそんなものに興味はないのだが、その影が黒い服を着ていたことが気になり、アクタは影を追いかけてみた。

 いつしかアクタは、その男を袋小路に追い詰めていた。

「……なんなんだよお前は!」

 振り返った男の胸には「R」のマークがあった。

「ロケット団ですよね」

「…………え、おれ?」

「あなた以外にだれがいるんだ」

「……ただのとおりすがりだ。ロケット団? 泥棒? 技マシン? なんのことだか!」

「…………」

「ダメ?」

 男はへらへらと笑ったかと思うと、急にモンスターボールを投げてきた。出てきたのは、ワンリキーだ。

「おら、どけよ! 痛い目に遭うぞ!」

「フシギソウ」

 アクタもポケモンを出す。

「げ! お前、トレーナーかよ」

「そうじゃなきゃ、わざわざあんたみたいな怪しい男を追いかけたりしませんよ! “どくのこな”!」

 毒の状態になるワンリキー。

「ぐっ……“からてチョップ”!」

 かくとうタイプの技は、どくタイプを持つフシギダネにはいまひとつ効かない。

「“はっぱカッター”!」

 ワンリキーは倒れた。続いてロケット団の男は、スリープを繰り出す。長い鼻を持った、エスパータイプのポケモンだった。

「なんでわざマシンなんか盗んだりしたんですか」

「穴が掘れれば、なにかと便利だろうが!」

「……あ、わざマシンって“あなをほる”? ていうか、便利だなんて理由で、ひとから物を盗んなよ! フシギソウ、“はっぱカッター”!」

 緑の刃を喰らうも、スリープはなんとか耐える。

「スリープ、“かなしばり”! ──へへっ、これで“はっぱカッター”は使えないな!」

「交代、コイキング!」

 アクタはフシギソウとコイキングを入れ替える

「なんだ、コイキングなんて楽勝だぜ! “さいみんじゅつ”!」

 スリープから波動が放たれるも、コイキングはジャンプして回避する。

「ナイス、コイキング! “たいあたり”!」

 ジャンプの勢いで、スリープに衝突する。

「くそう、だったら“ずつき”だ!」

 反撃されるも、アクタのコイキングはたった一撃では倒れない。

「“たいあたり”!」

 続く一撃で、スリープは沈んだ。

「ひょえー、参った!」

「ひょえーて」

 コイキングを労い、モンスターボールに戻す。

「もうしないよ! 見逃してくれい!」

「とにかく、わざマシンは返してくださいよ」

「……わかった! 盗んだものを返すよ」

 ロケット団の男は、アクタにわざマシンを投げた。たしかに、“あなをほる”が記録されたものだった。

「わざマシンなんて、お金を貯めて買えばいいじゃないですか。タマムシシティに売ってるらしいですよ」

「まともに金を稼げるんなら、だれだって苦労しねえよ!」

 そう突っぱねられてしまっては、アクタも閉口するしかない。

「そ、それじゃ……! おれは退散するから! ……ばいばーい!」

 男はアクタの脇をすり抜けて、去って行ってしまった。

「いや警察に……! うーん、逃がしちゃった。まあいいか」

 盗まれた物が戻ってきただけ、良しとしよう。アクタは事件現場に戻り、被害者らしい民家の家主に事情を説明した。

「そうか、きみが取り戻してくれたんだね。──よかったらそのわざマシンは、きみが貰ってくれないかな?」

「え? でも……」

「盗まれたものは戻ってこないと諦めてたんだ。うちのディグダには、気長に育てながら穴掘りを教えることにしたよ」

 申し出を断ることもできず、アクタは“あなをほる”のわざマシンを手に入れてしまった。

「ロケット団にはこりごりだけど、良いことはするもんだなあ」

 などと呑気に呟く。ハナダシティに来てからというもの、何度も「良いこと」となる行為をしていることに、アクタはまだ気が付いていない。

 




フシギソウ
 れいせいな性格
 つぼみを支えるため足腰が強くなる。日向でじっとする時間が長くなれば、いよいよ大輪の花が咲くころだ。

コイキング
 がんばりやな性格
 跳ねることしかしない情けないポケモン。なぜ跳ねるのか調べた研究者がいるほど、とにかく跳ねて跳ねて跳ねまくる。
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