ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート38 ポケモンリーグ/湖畔にて

 フタバタウンの北に位置する広大な湖、シンジ湖。

 その湖のほとりで、アクタとドダイトスは佇んでいた。

「懐かしい? そうでもない? どっちにしろ、なんだか感慨深いよね。何ヶ月か前にここで出会って、一緒に戦った」

 ドダイトスの頭を撫でる。ドダイトスは少年の手つきに心地よさそうに目を細めた。

「きみはナエトルのころから頼もしかった。ハヤシガメに進化して、ほかのポケモンたちを仲間にするまで、1体でずいぶんがんばってくれた」

 少年は回想する。

 記憶は昨日に遡る。

「ポケモンリーグでも大活躍だったっけ」

 

 

 シロナの最初のポケモンは、ミカルゲ。霊体が渦のような形状を成している、ゴーストタイプのポケモンだった。

「ドダイトス、“かみくだく”!」

 牙の一撃は、想像していたよりも威力が出ない。どうやら効果抜群ではないようだ。

「ゴーストタイプと……?」

「このタイプも持ってるのよ。“あくのはどう”!」

 ドダイトスを黒いオーラが襲う。

「あくタイプ……ってことは、あれ? 弱点がないじゃないですか!?」

「まあね。珍しいでしょ? ──“ぎんいろのかぜ”!」

 容赦ないミカルゲの猛攻に、それでもドダイトスは一歩も退かない。

「うっ……でも、かえってわかりやすい! ドダイトス、がんがん攻めていこう! “じしん”!」

 

 

「おーい! アクタ!」

 シンジ湖に、ジュンがやってくる。

 走ってきたので、アクタは念のためドダイトスの影に隠れた。

「おい! なんで隠れてんだよ!?」

「だってここでぶつかったら、湖にドボンじゃないか」

「ぶつからねーって! オレのことをなんだと思ってんだよ!」

「……前は、ブレーキが壊れた自転車だと思ってた」

 アクタはドダイトスに寄りかかって、改めて湖を見渡す。

「ねえジュン。この湖でのこと、憶えてる?」

「……なにが?」

 首を傾げるジュン。

「なにがって……ここ、ぼくらが初めてナエトルやヒコザルと出会った場所だろ?」

「え? ああ、そういえばそうだっけ。よく憶えてるなあ、お前」

「ジュンもさあ、そういうのちゃんと把握してなよ。自分のポケモンと、どこで出会ったのかとか……」

「へー、マメなやつ」

 興味なさそうに呟くジュン。

 そんな大らかな面も、たぶん、彼の魅力だ。──そう思うことにした。

 

 

「ラムパルド、“しねんのずつき”!」

 その頭突きはロズレイドに対して効果抜群だった。だが、ロズレイドは涼しい顔で踏みとどまる。

「“エナジーボール”!」

 自然エネルギーの光弾がラムパルドに直撃する。それまでの戦いで受けたダメージもあり、ラムパルドは戦闘不能になった。

「グレイシア!」

 しかしロズレイドも大きなダメージを負っているのは事実。即座にグレイシアに交代し、こおりタイプの技を仕掛けようとする。

「ロズレイド、“どくどく”」

 しかし一瞬、ロズレイドが速かった。

「くっ……! “れいとうビーム”!」

 ロズレイドは倒れるが、グレイシアは『もうどく』の状態異常になってしまった。このまま戦い続けていては、数分で『ひんし』になってしまう。アクタもグレイシアをモンスターボールに戻した。

「トゲキッス」

 シロナが投げたボールからは、白い翼が。アクタも見慣れたポケモンだ。こういう状況で対抗意識を覚えてしまうのは、悪癖だろうか。

「こっちも、トゲキッス!」

 真上に投げられた(ノーコン)モンスターボールから、この場で2体目のトゲキッスが。

「まあ、大きくなったのね」

 このトゲキッスは──トゲピーのタマゴはほかでもない、シロナから譲られたものだ。

「親子なのよ、この子たち」

「あ、そっか。そうなるんですね」

 親子同士を戦わせるのは残酷だったろうか。アクタの心配をよそに、2体のトゲキッスは嬉しそうに、楽しそうに、それでも敵意をもって互いに向き合っている。

「それじゃ、パパに成長を見せてちょうだい。──“エアスラッシュ”!」

「“エアスラッシュ”!」

 空気の刃がぶつかり、嵐になる。

 

 

「あー! そういえばオレ、ポケモン図鑑って貰ってねえ!」

 アクタのポケモン図鑑を見て、ジュンは不意に大声を上げた。

「そっか。結局、貰ってないんだ」

「ちょっと、博士のところに行ってくる!」

「待て待て待て」

 アクタはジュンのマフラーを掴んで、立ち上がる彼を止める。「ぐえっ」とジュンの首が締まった。

「急にいま行っても迷惑でしょ。だいたい……ポケモン図鑑は便利な道具じゃないんだよ? ポケモンの情報を集めるためのものであって……」

「わかったよ! ヒカリみたいなこと言うなって!」

 マフラーを整えつつ、ジュンは再び座る。

「でもそういうわりに、お前の図鑑のデータってスカスカだよな。『見つけた』ポケモンの詳しいデータがぜんっぜんない」

「効果は抜群だ」

 アクタはうなだれる。

「しょうがないじゃん……ポケモン、ぜんぜん捕まえられなくて……」

「そんなに落ち込まなくてもいいだろ。……言い過ぎたよ。悪かったって」

「ヒカリさんは、けっこう図鑑埋まってるんだろうなあ」

 そう噂をした矢先、ふたりに駆け寄る人影が。

「おーい、アクタくーん!」

 ヒカリだった。

 

 

 トゲキッス同士の戦いは、アクタのトゲキッスの“はかいこうせん”で決着した。

 ──しかし

「ルカリオ、“ストーンエッジ”!」

 シロナのつぎのポケモン、ルカリオによって、技の反動で動けない間に倒されてしまった。

「じゃあこっちも、ルカリオ!」

 おなじポケモン同士の戦い、2回目。

「そっか、きみもルカリオを持っているのね。格闘家同士、バチバチにやり合いたいところだけど……」

 互いのルカリオは波動を溜める。

「いいですね。ぜひ、やり合いましょう! “はどうだん”!」

 それぞれ放った光弾が、それぞれに命中する。アクタのルカリオは一気に距離を詰めるが──

「“じしん”!」

 シロナのルカリオの技に足を取られる。──これで勝った、とシロナは思ったが。

「負けるな! 思い切り踏み込め! “インファイト”!」

 アクタのルカリオは、止まらない。喰らいつくように敵に接近し、拳を繰り出した。

「──見事」

 思わずシロナは呟いた。同時に、シロナのルカリオは倒れた。

 

 

「なんだヒカリかよ」

「なんだとはなによ。──ふたりとも、なにしてたの?」

「なにって……」

 アクタとジュンは顔を見合わせて。

「べつに……なにも?」

「ただ喋ってただけだよな」

「……あっそ」

 ヒカリはすこし笑って、ため息をつく。

 湖のほとりに座る3人。彼らのポケモンであるドダイトス、ゴウカザル、エンペルトの3体も、ゆったりとじゃれ合っている。ナナカマド博士の研究所出身の、幼馴染のポケモンであった。

「そういえばさっき話してたんだけど、ヒカリさんのポケモン図鑑ってどんなかんじ?」

「え? あ、ええと……」

「ぼくはシンオウ地方のポケモンとは、かなり出会ったんだけど……なにぶん、ゲットはぜんぜんだからさ。データ量でいえば、やっぱりヒカリさんのほうががんばってるんじゃないかなって」

「……うん」

 ヒカリは頷いた。真顔だった。

「ヒカリさん、いまポケモン図鑑持ってる? ちょっと見せてほしいな」

「ん? あー、いまは持ってないかな。えっとね、研究所だ。研究所に置いてきたの」

「そっか。じゃああとで見せてね」

「……いやー、どうかな。博士に預けてるから。すぐに見れるかどうか。うん。だからきょうとかじゃなくて、こんどがいいかな。うん、こんどがいいよ」

「そっかあ」

 理由はわからないが、たぶんヒカリは、アクタにポケモン図鑑を見せたくないのだろう。気を遣って、追及せずにしておいた。

「あ、そういえばアクタ、あのレポートって結局、博士に提出したのか?」

「うん。もう読んでくれたかな。ちょっと量があるからまだかな?」

「なあに、レポートって?」

 ヒカリには言っていなかったか。ジュンが「それがな」と説明してくれる。

「こいつ、旅のレポートを書いてるんだってさ。よくやるよなあ」

 もっと丁寧に説明してほしいのだが。

「ぼくさ、ポケモンぜんぜん捕まえられないから、せめて旅のこと、出会ったポケモンのことは詳しく記録しておくようにしてるんだ。ノートに旅の記録を書くだけなんだけど」

「へー。マメだねアクタくん」

「そうなんだよこいつはマメなんだよ」

 彼らは感心しているようだ。すこし照れる。

「だいたい40冊くらいかな。今朝、ナナカマド博士に預けたんだ」

「40冊」

「そ、そっか。そんなに……」

 彼らは引いているようだ。すこし傷ついた。

「でもそれ、ちょっと読んでみたいかも」

「いいよ。おもしろいものか、自信ないけどね。──ふたりの旅にも興味あるなあ」

 シンオウ地方で、自分とおなじタイミングで冒険を始めたジュンとヒカリは、一体、どんな旅をしていたのだろう。

 道のりは似ているかもしれないけれど。

 きっと、ぜんぜん違うものだ。

「ジュン。ヒカリさん。きみたちの旅って、どんなだったの?」

 

 

「ミロカロス、“なみのり”!」

 迫る波にポリゴンZが呑まれる。体力はピンチだ。

 タイミングを見極めて攻撃しなければ、ポリゴンZの攻撃は“ミラーコート”で反射される。つまり──“ロックオン”なんて使っている余裕はないということだ。

「ポリゴンZ、“でんじほう”!」

 命中率が低い技だが、イチかバチか。ポリゴンZは圧縮した電気を発射した。

 ──賭けはアクタの勝ちだった。ミロカロスは回避しようとしたが、結局はその長い身体をかすめてしまい、高威力の“でんじほう”で戦闘不能となった。

「よし! シロナさん、つぎで最後でしょ!」

「──ここまで追い詰められたの、いつ以来かしら!」

 シロナは笑っている。アクタはぞっとしたが──皮肉にも、気持ちはわかる。

 楽しいのだ。

 ただ、強さを比べるだけのこの勝負が楽しくってしょうがない。

「ガブリアス!」

 現れたのは、紺色のドラゴンポケモン。両腕の翼のような器官に背びれと尾びれ。まるでサメのような竜だ。

「“じしん”」

 すさまじい威力で地面が揺れ、ポリゴンZは戦闘不能になる。

「……負けるかも」

 アクタはだれにも聞こえないように、非常に小声で弱音を吐いた。

 

 

 ジュンは、ヒカリは、たどたどしく自分たちの冒険を語った。他人の立場で紡がれるシンオウ地方の冒険は、なんともおもしろいものだった。

「アクタのほうこそさ、カントー地方の旅はどうだったんだよ」

「楽しかったよ」

「そういうこと訊いてるんじゃねえよ……」

「あれ? ジュンくんは、アクタくんがカントー地方で旅をしてたこと、知ってるんだ」

 そういえばそうだ。ジュンに、カントー地方でのことを話したことがあっただろうか。

「あっちじゃ殿堂入りしたんだろ? やるよなあ」

「……ちなみに、いつから知ってた?」

「うーんと、最初から」

「「そうなの!?」」

 アクタとヒカリの声が被る。

「お、おう。カントーで、同年代のトレーナーがポケモンリーグを制覇したって、オヤジから聞いてさ。アクタの名前は知ってたんだ」

「うそだあ。だってこれまで、そういう感じじゃなかったじゃん」

「だってお前、あまりにもノーコンだから人違いだと思ったんだよ!」

「それを言うか……」

 アクタはちょっとだけ落ち込む。

「でもバトルに関しちゃかなり慣れてるし、オレにもいろいろ教えてくれたから、やっぱりホンモノなんだな、って」

「そのとき言ってくれても良かったのに。そしたらぼくも、意味もなく隠そうとしなかったよ」

「だって……」

 ジュンはすこし口ごもる。

「お前とは、対等な立場が良かったんだよ……ライバルとして、友だちとして……」

 ふたりの少年は、頬を赤くする。

 アクタが自分から経歴を話さなかったのも、おなじ理由だった。

「……ねえ、あたし帰ったほうがいい?」

 ヒカリだけが冷めた目をしていた。

「いや、帰んなって! 気まずいだろ!」

「はいはい。──でも冗談抜きで、そろそろいい時間かも」

 ヒカリはポケッチに目を落とす。

「あ、もう準備できたのかな」

 そう言ってアクタが立ち上がると。「え!」とジュンが声を上げる。

「お前……サプライズパーティのこと、知ってたのか!?」

「あ、バカ!」

 ヒカリがジュンの口を押さえたが、たぶんもう遅かった。

 

 

「ドダイトス、“じしん”!」

「ガブリアス、“かえんほうしゃ”!」

 それでも、ドダイトスは奮闘する。

 ふたりのトレーナーの表情は、笑みとも苦痛ともとれる歪み方をしている。

 楽しい? きつい? どちらも肯定できる。

 ただふたりはこの時間、この空間に充実していた。相手に勝つことだけど考えた。

「“ギガドレイン”!」

 だが戦いは永遠ではない。ポケモンの体力には必ず限界がある。

「“ドラゴンダイブ”!」

 ガブリアスはすさまじい勢いで突進する。その姿はまるでジェット機。

「ドダイトス──」

 巨体は。

 さすがに、倒れた。

「さあ、つぎのポケモンを。これで最後かしら?」

「はい。とっておきのがいます。グレイシア!」

 モンスターボールが床に跳ねて、グレイシアが現れる。

「こおりタイプね。なるほど、ガブリアスはとても苦手よ」

「ドダイトスもです」

「ふふ、そうね」

 ただグレイシアは万全ではない。ロズレイドとの戦いで『もうどく』の状態異常になっている。その表情にも余裕はない。

 長引かせるわけにはいかない。アクタは狙いを定めるように、ガブリアスを指さした。

「グレイシア、“こおりのつぶて”!」

 先制攻撃。

 威力は低いが、ガブリアスに威力は4倍。ドダイトス戦でのダメージでもあり、これで──

「まだまだよ! こんなに楽しい勝負、簡単には終わらせない!」

 ──勝ったと思ったら、()()()た。

 ガブリアスは倒れなかった。

「“かえんほうしゃ”!」

 グレイシアが炎に包まれる。

 ああ、さすがチャンピオンだ。この状況で、まったく諦めていない。

「ぼくも諦めてしまえば、どれだけ楽だろうか」

 炎のなかで、グレイシアは冷気を溜める。

「でも諦められない。グレイシアは、まだいけるから」

 炎を吹き飛ばす風を放った。

「グレイシア、“ふぶき”!」

 

 

「──つまり、ぼくがシンオウポケモンリーグを制覇した祝勝会って、サプライズだったんだ?」

 ジュンとヒカリは、バツが悪そうに顔を見合わせる。

「もう、ジュンくん! 口を滑らせないよう、あれだけ注意したのに……!」

「う……悪い、つい……!」

 まさか内緒にする予定だったとは知らなかった。アクタはなんとかフォローしようとする。

 どおりで、急にシンジ湖に呼び出されたわけだ。

「気にしないで。なんだかきょう、お食事会があることはアヤコちゃんから聞いてたし」

「そ、そうか?」

「あと、それがぼくの祝勝会だってことは、ハンサムさんから聞いた」

「あの変なひと!」

 ヒカリが憤慨する。

「え、だれだそれ。顔がハンサムなのか?」

「ジュンはまだ会ったことなかったっけ。おもしろいひとだよ」

「ぜんっぜんおもしろくない! もう! ギンガ団事件解決のおつかれさまパーティでもあるから、しょうがなく招待したのに!」

 このままではハンサムがヒカリに糾弾されてしまいそうだ。その光景もけっこう見たいのだが、さすがにかわいそうだ。

「大丈夫だよ。ちゃんとぼく、びっくりするからさ」

「ほんと?」

「ちょっとびっくりしてみろ」

「……ああああああああ!」

「うるさっ」

「なんか違うと思う」

 これはどうも、面倒な課題を背負ってしまったようである。

「声を出すよりもさ。目を見開いて、口を半開きにして、しばらく周囲を見渡して、やがて満面の笑みを浮かべて、照れて顔を隠す。そんなふうに演技して。泣けるなら泣いて」

「ヒカリさん。そんなにするすると演技プランが出てくるの、ちょっと恐いな……」

「もういいじゃんか! 行こうぜ!」

 ジュンはうんざりしたようにため息をついた

「ええ……? まあ、いいか。アクタくん、行こっか。おなかも空いたでしょ」

「うん。楽しみだな、ケチャップあるかなあ」

「……調味料を期待してるの?」

 3人の少年少女は、シンジ湖に背を向けて歩き出す。ドダイトス、ゴウカザル、エンペルトの3体のポケモンたちが彼らに続く。

 やがてアクタだけが、ふと振り返った。

「あのとき」

 湖の中心にポツンと浮かぶ、小島を見つめる。

 それが伝わっているのかどうか、わからないけど。

「ギラティナのこと、ぼくに任せてくれて、ありがとう」

 アクタは駆け足で、ジュンとヒカリに追いつく。

 感情の神は、シンジ湖の上空で、彼らを静かに見守っていた。




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲキッス ♀
 むじゃきな性格

ラムパルド ♂
 やんちゃな性格

グレイシア ♀
 なまいきな性格

ポリゴンZ
 ひかえめな性格

ルカリオ ♀
 わんぱくな性格
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