ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
フタバタウンの北に位置する広大な湖、シンジ湖。
その湖のほとりで、アクタとドダイトスは佇んでいた。
「懐かしい? そうでもない? どっちにしろ、なんだか感慨深いよね。何ヶ月か前にここで出会って、一緒に戦った」
ドダイトスの頭を撫でる。ドダイトスは少年の手つきに心地よさそうに目を細めた。
「きみはナエトルのころから頼もしかった。ハヤシガメに進化して、ほかのポケモンたちを仲間にするまで、1体でずいぶんがんばってくれた」
少年は回想する。
記憶は昨日に遡る。
「ポケモンリーグでも大活躍だったっけ」
:
シロナの最初のポケモンは、ミカルゲ。霊体が渦のような形状を成している、ゴーストタイプのポケモンだった。
「ドダイトス、“かみくだく”!」
牙の一撃は、想像していたよりも威力が出ない。どうやら効果抜群ではないようだ。
「ゴーストタイプと……?」
「このタイプも持ってるのよ。“あくのはどう”!」
ドダイトスを黒いオーラが襲う。
「あくタイプ……ってことは、あれ? 弱点がないじゃないですか!?」
「まあね。珍しいでしょ? ──“ぎんいろのかぜ”!」
容赦ないミカルゲの猛攻に、それでもドダイトスは一歩も退かない。
「うっ……でも、かえってわかりやすい! ドダイトス、がんがん攻めていこう! “じしん”!」
:
「おーい! アクタ!」
シンジ湖に、ジュンがやってくる。
走ってきたので、アクタは念のためドダイトスの影に隠れた。
「おい! なんで隠れてんだよ!?」
「だってここでぶつかったら、湖にドボンじゃないか」
「ぶつからねーって! オレのことをなんだと思ってんだよ!」
「……前は、ブレーキが壊れた自転車だと思ってた」
アクタはドダイトスに寄りかかって、改めて湖を見渡す。
「ねえジュン。この湖でのこと、憶えてる?」
「……なにが?」
首を傾げるジュン。
「なにがって……ここ、ぼくらが初めてナエトルやヒコザルと出会った場所だろ?」
「え? ああ、そういえばそうだっけ。よく憶えてるなあ、お前」
「ジュンもさあ、そういうのちゃんと把握してなよ。自分のポケモンと、どこで出会ったのかとか……」
「へー、マメなやつ」
興味なさそうに呟くジュン。
そんな大らかな面も、たぶん、彼の魅力だ。──そう思うことにした。
:
「ラムパルド、“しねんのずつき”!」
その頭突きはロズレイドに対して効果抜群だった。だが、ロズレイドは涼しい顔で踏みとどまる。
「“エナジーボール”!」
自然エネルギーの光弾がラムパルドに直撃する。それまでの戦いで受けたダメージもあり、ラムパルドは戦闘不能になった。
「グレイシア!」
しかしロズレイドも大きなダメージを負っているのは事実。即座にグレイシアに交代し、こおりタイプの技を仕掛けようとする。
「ロズレイド、“どくどく”」
しかし一瞬、ロズレイドが速かった。
「くっ……! “れいとうビーム”!」
ロズレイドは倒れるが、グレイシアは『もうどく』の状態異常になってしまった。このまま戦い続けていては、数分で『ひんし』になってしまう。アクタもグレイシアをモンスターボールに戻した。
「トゲキッス」
シロナが投げたボールからは、白い翼が。アクタも見慣れたポケモンだ。こういう状況で対抗意識を覚えてしまうのは、悪癖だろうか。
「こっちも、トゲキッス!」
真上に投げられた(ノーコン)モンスターボールから、この場で2体目のトゲキッスが。
「まあ、大きくなったのね」
このトゲキッスは──トゲピーのタマゴはほかでもない、シロナから譲られたものだ。
「親子なのよ、この子たち」
「あ、そっか。そうなるんですね」
親子同士を戦わせるのは残酷だったろうか。アクタの心配をよそに、2体のトゲキッスは嬉しそうに、楽しそうに、それでも敵意をもって互いに向き合っている。
「それじゃ、パパに成長を見せてちょうだい。──“エアスラッシュ”!」
「“エアスラッシュ”!」
空気の刃がぶつかり、嵐になる。
:
「あー! そういえばオレ、ポケモン図鑑って貰ってねえ!」
アクタのポケモン図鑑を見て、ジュンは不意に大声を上げた。
「そっか。結局、貰ってないんだ」
「ちょっと、博士のところに行ってくる!」
「待て待て待て」
アクタはジュンのマフラーを掴んで、立ち上がる彼を止める。「ぐえっ」とジュンの首が締まった。
「急にいま行っても迷惑でしょ。だいたい……ポケモン図鑑は便利な道具じゃないんだよ? ポケモンの情報を集めるためのものであって……」
「わかったよ! ヒカリみたいなこと言うなって!」
マフラーを整えつつ、ジュンは再び座る。
「でもそういうわりに、お前の図鑑のデータってスカスカだよな。『見つけた』ポケモンの詳しいデータがぜんっぜんない」
「効果は抜群だ」
アクタはうなだれる。
「しょうがないじゃん……ポケモン、ぜんぜん捕まえられなくて……」
「そんなに落ち込まなくてもいいだろ。……言い過ぎたよ。悪かったって」
「ヒカリさんは、けっこう図鑑埋まってるんだろうなあ」
そう噂をした矢先、ふたりに駆け寄る人影が。
「おーい、アクタくーん!」
ヒカリだった。
:
トゲキッス同士の戦いは、アクタのトゲキッスの“はかいこうせん”で決着した。
──しかし
「ルカリオ、“ストーンエッジ”!」
シロナのつぎのポケモン、ルカリオによって、技の反動で動けない間に倒されてしまった。
「じゃあこっちも、ルカリオ!」
おなじポケモン同士の戦い、2回目。
「そっか、きみもルカリオを持っているのね。格闘家同士、バチバチにやり合いたいところだけど……」
互いのルカリオは波動を溜める。
「いいですね。ぜひ、やり合いましょう! “はどうだん”!」
それぞれ放った光弾が、それぞれに命中する。アクタのルカリオは一気に距離を詰めるが──
「“じしん”!」
シロナのルカリオの技に足を取られる。──これで勝った、とシロナは思ったが。
「負けるな! 思い切り踏み込め! “インファイト”!」
アクタのルカリオは、止まらない。喰らいつくように敵に接近し、拳を繰り出した。
「──見事」
思わずシロナは呟いた。同時に、シロナのルカリオは倒れた。
:
「なんだヒカリかよ」
「なんだとはなによ。──ふたりとも、なにしてたの?」
「なにって……」
アクタとジュンは顔を見合わせて。
「べつに……なにも?」
「ただ喋ってただけだよな」
「……あっそ」
ヒカリはすこし笑って、ため息をつく。
湖のほとりに座る3人。彼らのポケモンであるドダイトス、ゴウカザル、エンペルトの3体も、ゆったりとじゃれ合っている。ナナカマド博士の研究所出身の、幼馴染のポケモンであった。
「そういえばさっき話してたんだけど、ヒカリさんのポケモン図鑑ってどんなかんじ?」
「え? あ、ええと……」
「ぼくはシンオウ地方のポケモンとは、かなり出会ったんだけど……なにぶん、ゲットはぜんぜんだからさ。データ量でいえば、やっぱりヒカリさんのほうががんばってるんじゃないかなって」
「……うん」
ヒカリは頷いた。真顔だった。
「ヒカリさん、いまポケモン図鑑持ってる? ちょっと見せてほしいな」
「ん? あー、いまは持ってないかな。えっとね、研究所だ。研究所に置いてきたの」
「そっか。じゃああとで見せてね」
「……いやー、どうかな。博士に預けてるから。すぐに見れるかどうか。うん。だからきょうとかじゃなくて、こんどがいいかな。うん、こんどがいいよ」
「そっかあ」
理由はわからないが、たぶんヒカリは、アクタにポケモン図鑑を見せたくないのだろう。気を遣って、追及せずにしておいた。
「あ、そういえばアクタ、あのレポートって結局、博士に提出したのか?」
「うん。もう読んでくれたかな。ちょっと量があるからまだかな?」
「なあに、レポートって?」
ヒカリには言っていなかったか。ジュンが「それがな」と説明してくれる。
「こいつ、旅のレポートを書いてるんだってさ。よくやるよなあ」
もっと丁寧に説明してほしいのだが。
「ぼくさ、ポケモンぜんぜん捕まえられないから、せめて旅のこと、出会ったポケモンのことは詳しく記録しておくようにしてるんだ。ノートに旅の記録を書くだけなんだけど」
「へー。マメだねアクタくん」
「そうなんだよこいつはマメなんだよ」
彼らは感心しているようだ。すこし照れる。
「だいたい40冊くらいかな。今朝、ナナカマド博士に預けたんだ」
「40冊」
「そ、そっか。そんなに……」
彼らは引いているようだ。すこし傷ついた。
「でもそれ、ちょっと読んでみたいかも」
「いいよ。おもしろいものか、自信ないけどね。──ふたりの旅にも興味あるなあ」
シンオウ地方で、自分とおなじタイミングで冒険を始めたジュンとヒカリは、一体、どんな旅をしていたのだろう。
道のりは似ているかもしれないけれど。
きっと、ぜんぜん違うものだ。
「ジュン。ヒカリさん。きみたちの旅って、どんなだったの?」
:
「ミロカロス、“なみのり”!」
迫る波にポリゴンZが呑まれる。体力はピンチだ。
タイミングを見極めて攻撃しなければ、ポリゴンZの攻撃は“ミラーコート”で反射される。つまり──“ロックオン”なんて使っている余裕はないということだ。
「ポリゴンZ、“でんじほう”!」
命中率が低い技だが、イチかバチか。ポリゴンZは圧縮した電気を発射した。
──賭けはアクタの勝ちだった。ミロカロスは回避しようとしたが、結局はその長い身体をかすめてしまい、高威力の“でんじほう”で戦闘不能となった。
「よし! シロナさん、つぎで最後でしょ!」
「──ここまで追い詰められたの、いつ以来かしら!」
シロナは笑っている。アクタはぞっとしたが──皮肉にも、気持ちはわかる。
楽しいのだ。
ただ、強さを比べるだけのこの勝負が楽しくってしょうがない。
「ガブリアス!」
現れたのは、紺色のドラゴンポケモン。両腕の翼のような器官に背びれと尾びれ。まるでサメのような竜だ。
「“じしん”」
すさまじい威力で地面が揺れ、ポリゴンZは戦闘不能になる。
「……負けるかも」
アクタはだれにも聞こえないように、非常に小声で弱音を吐いた。
:
ジュンは、ヒカリは、たどたどしく自分たちの冒険を語った。他人の立場で紡がれるシンオウ地方の冒険は、なんともおもしろいものだった。
「アクタのほうこそさ、カントー地方の旅はどうだったんだよ」
「楽しかったよ」
「そういうこと訊いてるんじゃねえよ……」
「あれ? ジュンくんは、アクタくんがカントー地方で旅をしてたこと、知ってるんだ」
そういえばそうだ。ジュンに、カントー地方でのことを話したことがあっただろうか。
「あっちじゃ殿堂入りしたんだろ? やるよなあ」
「……ちなみに、いつから知ってた?」
「うーんと、最初から」
「「そうなの!?」」
アクタとヒカリの声が被る。
「お、おう。カントーで、同年代のトレーナーがポケモンリーグを制覇したって、オヤジから聞いてさ。アクタの名前は知ってたんだ」
「うそだあ。だってこれまで、そういう感じじゃなかったじゃん」
「だってお前、あまりにもノーコンだから人違いだと思ったんだよ!」
「それを言うか……」
アクタはちょっとだけ落ち込む。
「でもバトルに関しちゃかなり慣れてるし、オレにもいろいろ教えてくれたから、やっぱりホンモノなんだな、って」
「そのとき言ってくれても良かったのに。そしたらぼくも、意味もなく隠そうとしなかったよ」
「だって……」
ジュンはすこし口ごもる。
「お前とは、対等な立場が良かったんだよ……ライバルとして、友だちとして……」
ふたりの少年は、頬を赤くする。
アクタが自分から経歴を話さなかったのも、おなじ理由だった。
「……ねえ、あたし帰ったほうがいい?」
ヒカリだけが冷めた目をしていた。
「いや、帰んなって! 気まずいだろ!」
「はいはい。──でも冗談抜きで、そろそろいい時間かも」
ヒカリはポケッチに目を落とす。
「あ、もう準備できたのかな」
そう言ってアクタが立ち上がると。「え!」とジュンが声を上げる。
「お前……サプライズパーティのこと、知ってたのか!?」
「あ、バカ!」
ヒカリがジュンの口を押さえたが、たぶんもう遅かった。
:
「ドダイトス、“じしん”!」
「ガブリアス、“かえんほうしゃ”!」
それでも、ドダイトスは奮闘する。
ふたりのトレーナーの表情は、笑みとも苦痛ともとれる歪み方をしている。
楽しい? きつい? どちらも肯定できる。
ただふたりはこの時間、この空間に充実していた。相手に勝つことだけど考えた。
「“ギガドレイン”!」
だが戦いは永遠ではない。ポケモンの体力には必ず限界がある。
「“ドラゴンダイブ”!」
ガブリアスはすさまじい勢いで突進する。その姿はまるでジェット機。
「ドダイトス──」
巨体は。
さすがに、倒れた。
「さあ、つぎのポケモンを。これで最後かしら?」
「はい。とっておきのがいます。グレイシア!」
モンスターボールが床に跳ねて、グレイシアが現れる。
「こおりタイプね。なるほど、ガブリアスはとても苦手よ」
「ドダイトスもです」
「ふふ、そうね」
ただグレイシアは万全ではない。ロズレイドとの戦いで『もうどく』の状態異常になっている。その表情にも余裕はない。
長引かせるわけにはいかない。アクタは狙いを定めるように、ガブリアスを指さした。
「グレイシア、“こおりのつぶて”!」
先制攻撃。
威力は低いが、ガブリアスに威力は4倍。ドダイトス戦でのダメージでもあり、これで──
「まだまだよ! こんなに楽しい勝負、簡単には終わらせない!」
──勝ったと思ったら、
ガブリアスは倒れなかった。
「“かえんほうしゃ”!」
グレイシアが炎に包まれる。
ああ、さすがチャンピオンだ。この状況で、まったく諦めていない。
「ぼくも諦めてしまえば、どれだけ楽だろうか」
炎のなかで、グレイシアは冷気を溜める。
「でも諦められない。グレイシアは、まだいけるから」
炎を吹き飛ばす風を放った。
「グレイシア、“ふぶき”!」
:
「──つまり、ぼくがシンオウポケモンリーグを制覇した祝勝会って、サプライズだったんだ?」
ジュンとヒカリは、バツが悪そうに顔を見合わせる。
「もう、ジュンくん! 口を滑らせないよう、あれだけ注意したのに……!」
「う……悪い、つい……!」
まさか内緒にする予定だったとは知らなかった。アクタはなんとかフォローしようとする。
どおりで、急にシンジ湖に呼び出されたわけだ。
「気にしないで。なんだかきょう、お食事会があることはアヤコちゃんから聞いてたし」
「そ、そうか?」
「あと、それがぼくの祝勝会だってことは、ハンサムさんから聞いた」
「あの変なひと!」
ヒカリが憤慨する。
「え、だれだそれ。顔がハンサムなのか?」
「ジュンはまだ会ったことなかったっけ。おもしろいひとだよ」
「ぜんっぜんおもしろくない! もう! ギンガ団事件解決のおつかれさまパーティでもあるから、しょうがなく招待したのに!」
このままではハンサムがヒカリに糾弾されてしまいそうだ。その光景もけっこう見たいのだが、さすがにかわいそうだ。
「大丈夫だよ。ちゃんとぼく、びっくりするからさ」
「ほんと?」
「ちょっとびっくりしてみろ」
「……ああああああああ!」
「うるさっ」
「なんか違うと思う」
これはどうも、面倒な課題を背負ってしまったようである。
「声を出すよりもさ。目を見開いて、口を半開きにして、しばらく周囲を見渡して、やがて満面の笑みを浮かべて、照れて顔を隠す。そんなふうに演技して。泣けるなら泣いて」
「ヒカリさん。そんなにするすると演技プランが出てくるの、ちょっと恐いな……」
「もういいじゃんか! 行こうぜ!」
ジュンはうんざりしたようにため息をついた
「ええ……? まあ、いいか。アクタくん、行こっか。おなかも空いたでしょ」
「うん。楽しみだな、ケチャップあるかなあ」
「……調味料を期待してるの?」
3人の少年少女は、シンジ湖に背を向けて歩き出す。ドダイトス、ゴウカザル、エンペルトの3体のポケモンたちが彼らに続く。
やがてアクタだけが、ふと振り返った。
「あのとき」
湖の中心にポツンと浮かぶ、小島を見つめる。
それが伝わっているのかどうか、わからないけど。
「ギラティナのこと、ぼくに任せてくれて、ありがとう」
アクタは駆け足で、ジュンとヒカリに追いつく。
感情の神は、シンジ湖の上空で、彼らを静かに見守っていた。
ドダイトス ♂
のんきな性格
トゲキッス ♀
むじゃきな性格
ラムパルド ♂
やんちゃな性格
グレイシア ♀
なまいきな性格
ポリゴンZ
ひかえめな性格
ルカリオ ♀
わんぱくな性格