ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

72 / 161
エピローグ2/ギンガ団顛末・前編

 トバリシティ。

 ギンガ団の本部、ギンガトバリビルにて。

「サターンさん」

「お前か……」

 アクタの顔を見るなり、青い髪を立てた細身の男、サターンは苦々しく表情を歪めた。

「元気ですか?」

「元気そうに見えるか?」

「それは……」

 アクタは部屋を見渡す。物が少ない、簡素は空間。部屋のすみにはいくつかの段ボールが積み上がっていて、その上にドクロッグが寝そべっている。

 引っ越し、ではない。

 トバリシティ、ハクタイシティのギンガ団のビルには連日、警察組織の捜査部隊が出入りしている。

 表向きにはエネルギー開発を行う研究団体。

 しかして、その実態は組織犯罪のグループ。

 それが明るみになった以上、証拠を押収されたり、団員の聞き取りが行われたりと、ギンガ団はかつてないほどの繁忙と混乱に見舞われている。

「お前のせいだぞ」

「悪いことしたのはそっちでしょ」

 サターンの恨み言も、アクタはどこ吹く風だ。なんだか物腰柔らかな少年の様子が、サターンはおもしろくなかった。

 怒るなり、悲しむなり、動揺させてみたかったのだが。

「ところで、アカギさんはまだ見つからないんですよね」

「ああ。マーズとジュピターが捜索に行ったっきりだが、なんの報告もない」

 サターンは深いため息をついて、椅子に深く座る。

「聞いたぞ、槍の柱でのこと」

「……うん」

「あのひと……アカギ様は心という不完全な存在を憎んでいた。そのくせ、熱い言葉で他人の心を自在に操るという矛盾を見せる」

 洗脳。扇動。人心掌握。

「ギンガ団に栄光あれ」だなんて思ってもない言葉で、団員たちに演説していたことを思い出す。

「わたしはそれが気になり、あのひとがなにをするのか、そばにいて見定めようとしていた」

「サターンさんは、最初からわかってたんですね。アカギさんの……恐いところを」

「だけどそれも終わった……心の無い世界など、だれが望むというのだ!?」

 アカギの野望は結局、サターンにとって同調できるものではなかったのだ。

「これから、どうするんです? ギンガ団のこと。サターンさん、ここに残っているっていうことは……」

「残った団員たちのこともある。放っておくわけにはいくまい。さて、どうするか……?」

 サターンは苦笑する。

「こんな状況じゃ、新しくなにかを始めるのも難しいかもな。なにせギンガ団は犯罪組織の扱いだ」

「……やり直せると思いますよ」

「はっ! 他人事だと思って」

「そんなこと言わないでよ。いまはまだ、はっきりとした展望は見えないだろうけどさ。これまで悪いことに使ってきた技術も、良いほうに切り替えていけばいいんだ。サターンさんたちなら、きっとそれができるって思うよ」

 サターンはふたたび、深いため息をつく。

「なにをやるにしても──やりすぎは良くない。そのことは教えられたからな」

 少年から目を逸らして、彼は窓の外に目を遣った。なんだか照れているみたいに見えた。

「ウソだったコマーシャルだが、ほんとうに新しいエネルギーでも探してみるか」

 しばらく後。

 サターンをリーダーとして、ギンガ団は新エネルギーの開発を再開することになる。

 

 

「ひとりで大丈夫か?」

 その部屋を前にして、ハンサムはアクタを気遣う。

「うん、大丈夫です」

「一応、隣の部屋で会話の様子は聞いているからな。なにかあったら呼んでくれ」

「大丈夫ですってば。ぼくはあのおじいちゃんと、ちょっとお話をするだけです」

 扉を開けて、アクタは取調室に通された。

「プルートさん、でしたよね」

 パイプ椅子に縮こまって座った老人は、うつむいた顔を上げて少年に目を遣る。

「そういうお前さんは……アクタと言ったかね」

 アクタは、机をはさんだプルートの向かいに座る。

「気分が良いじゃろ? アカギの計画、そしてわしの計画まで止めたんじゃ。さながらヒーローじゃないか」

「……気分、良くないですよ。ぼくはあなたに、もう悪いことしないでほしかったな。サターンさんもマーズさんもジュピターさんも、それぞれの形でケジメをつけようとしているのに」

 ハードマウンテンというダンジョンに、ヒードランという伝説のポケモンがいる。

 プルートはヒードランを利用し、また新たな悪事を始めようとした。つい先日、ハンサムや、地元のトレーナーであるバクという少年と協力し、それを未然に防いだところだ。

 結果として、プルートは国際警察により逮捕。こうして拘留されているわけだ。

「ふぅ……どいつもこいつも、勝手なことを。頭でっかちの青二才だったアカギのどこがいいのやら」

 嘲笑するプルート。

「せっかくギンガ団を創りながら、最後はひとりで好き勝手に、わけのわからんことをしたんだろう? そのせいでいま、わしがこんな苦労をしとるというのに……」

「あんた、勝手なこと言うなあ」

「勝手? いやいや、現実的な意見じゃろ? 若い連中は夢を見るもんだが、わしは現実に生きる。そのためにはお金が大事」

「…………」

 話に聞き入る少年に、妙に気を良くしたプルートは、つぎつぎに口が回る。

「……アカギは消えた。マーズとジュピターもいなくなった。サターンは残ったギンガ団の面倒を見ると言っておった。みんな愚かじゃなあ。せっかくギンガ団としてみんな集まったんだ。その力を利用して、金儲けをすればいいのになあ」

「それで?」

「……それで、とは?」

 アクタもプルートも、互いに不思議そうに首を傾げる。

「お金を儲けて、それをどう使うんですか? さっきからプルートさん、お金が大事って話ばっかりだ。それはわかりますけど、お金の使い道の話が出てこないなって」

「…………」

「夢を見ていいのは、若者だけじゃないと思いますよ。ねえおじいちゃん。夢とか野望とかないんなら、あんたにアカギさんの代わりは無理だよ。──だからって、漁夫の利を狙っていい理由にはならないけど」

「お、お、お前になにがわかる! この疫病神の、怪物が!」

 プルートは激昂する。この狼狽っぷり、どうやら図星を突いてしまったようである。

「お前と関わったギンガ団はみんな、ろくな目に遭わん! お前さえいなければ、いまごろ……そう! わたしこそが新しいギンガ団のボス、プルートさまなのだあ」

「おっと、お元気ですねえご老人!」

 入室してきたハンサムに、途端にプルートは縮こまる。

「その調子で、新しいギンガ団について、国際警察のわたしにいろいろ教えてもらおうか! アカギもマーズもジュピターもいない。いまではあんたに聞くしかないようだしな」

「あー、それは、なんというか……わしは知らん!」

 プルートはとうとう、机の下に隠れてしまった。

「なにも知らんぞ! 新しいギンガ団とか、ヒードランでお金儲けとか、年寄りの茶目っ気じゃん! それにわし、ギンガ団の幹部のなかでも一番の下っ端だったし……」

 ハンサムに促されて、アクタは部屋の外に出る。

「あのじいさん、ただの小物らしいな……アカギの居場所だとか、有益な情報は持っていなさそうだ」

「うん。しょうがないから、ぼくらで地道に探しますよ」

「すまない。我々もなにか情報を掴めたら……ん、()()()とは?」

 アクタの言葉に、ハンサムは首を傾げる。

「マーズさんとジュピターさんと、一緒に旅をすることになりました」

「ナヌー!!」

 

 

 それは、ハードマウンテンにてプルートの悪事を止めようとしたとき。

 山の内部にて、アクタをふたりの女性が待ち構えていた。

「ちょっと! あなた! アカギ様の行方、教えなさい。槍の柱で消えてからどこに行ってたのよ!?」

 赤毛の女性は、マーズ。長身の女性は、ジュピター。

「あ、マーズさん。ジュピターさん。お久しぶりです」

「お久しぶりじゃないわよ! 気安っ!」

「あなた、わたしたちのこと友だちかなにかだと思ってない……?」

 どうやら、友だちだと思っていたのはアクタだけらしい。すこし、傷ついた。

「おふたりとも、どうしてここに? まさかプルートのおじいちゃんに協力してるんですか?」

「あなたが悪事を止めに来ると思ってね。そうじゃなきゃ、あんなじいさんについてこないわよ。──それより、こちらの質問に答えてもらおう」

「そうよ! アカギ様はどこ!?」

 非情に難しい質問だ。すべて話すとなると、ずいぶんと時間がかかりそうだ。

「えっとね、槍の柱から、ぼくたち『破れた世界』ってところに行って」

「はあ、破れた世界……!?」

「ギラティナのいた場所で」

「ギラティナのいた場所? ぜんぜん意味不明よ! なに? あなたとぼけるつもりなのね」

 これは困った。そもそも話を聞いてもらわなければ……

「いいわ! ポケモン勝負で痛めつけて白状させちゃう」

 ……まあ、それも有りか。

「ブニャット!」

 マーズのとっておきのポケモンだ。腰元のモンスターボールの1つが軽く震えたので、アクタはそれを手に取った。

「ドダイトス!」

 投げたボールは、後方の壁に当たった。

「あ、ごめんよドダイトス」

「……あんた、相変わらずよね」

 肩をすくめるマーズ。ドダイトスとブニャットが向かい合い、ようやくバトルが始まった。

「ブニャット、“さいみんじゅつ”!」

 しかし予想していたかのように、ドダイトスは身体を傾けて、技を回避する。

「“ウッドハンマー”!」

 樹木の一撃が炸裂。

「“ギガドレイン”」

 反動ダメージを補填。

「そんで、“リーフストーム”!」

 緑の嵐で、ブニャットは倒れた。

「うそ……!?」

 流れるような動きでブニャットが敗れたことに、マーズは絶句する。

「な、なんなのよッ! あたしのこと嫌いなの!?」

「いやあ、わりと好きですよ」

「うるさいマセガキ! もう! なんで負けちゃうのよ。これじゃアカギ様のこと、聞き出せないじゃないの! あたしったら」

 この自分の感情に正直なマーズのことを、おもしろ……好意的に思っているのはたしかである。

「……マーズ、あなたってほんとうに弱いのね。おなじ幹部として恥ずかしい」

 彼女を押しのけて、ジュピターがアクタの前に立つ。

「いいわ! つぎはあたしが相手よ。あたしもアカギ様のこと、知りたいと切実に思ってるしね」

「うん。ぼくもジュピターさんと戦いたいって、切実に思ってるんです」

「……生意気」

 ジュピターが繰り出したのは、やはりスカタンク。

 アクタはドダイトスを引っ込めて、代わりに──

()()()()()!」

 カントー地方から呼び寄せた仲間を繰り出した。

 ギャラドスはノーコンにより離れた呼び出されたあと、すぐにアクタのもとに駆けつけて、頬ずりをして甘えた。

「あはは、ほらほら、これからバトルなのに」

「……なんかあなた、油断してない?」

 スカタンクの“どくづき”が襲いかかる。

「そんなことない。ギャラドス、“りゅうのまい”」

 攻撃と素早さを上げるギャラドス。ジュピターは警戒し、スカタンクに“えんまく”を命じて命中率を下げるが……

「“アクアテール”!」

 水気を帯びた尾は、スカタンクに命中した。

「くっ……!」

「もう一回、“アクアテール”!」

 2撃目の尾で、スカタンクは戦闘不能となった。

「フン! 相変わらずの強さ。ちっともかわいくないわね!」

「え、ジュピターさん、ぼくのこと強いって思ってたんだ」

 ジュピターとまともに戦って、勝利したのはこれが初めてだ。思わず嬉しくなって、アクタはジュピターの表情を覗き込むが。

「……なんなのよ!」

 そっぽを向かれてしまった。

「決めた! あたし、アカギ様を探す」

 黙ってバトルを観戦していた様子のマーズだが、急に意を決した。

「その、破れた世界? だっけ。そこに行けばいいんでしょ」

「いや、あの……」

「じゃ、あたしギンガ団、辞めるから。ジュピター、あとはよろしく!!」

「マーズとおなじことするの、ほんとイヤなんだけど、あたしも好きにさせてもらうわ。アカギ様がいないギンガ団……いてもつまんないしね」

 ジュピターはマーズの隣に並ぶ。

「というわけであたしたち、ふつうの女の子に戻ります!」

「よく言うわ……ふつうの女の子はムリでしょ。──さて、こういうときは旅かしら?」

「だったらぼくも連れてってくれませんか?」

「「は?」」

 少年の申し出に、女性ふたりは面食らう。

「ぼくもアカギさんを探してるんだ。ギンガ団には、あのひとが必要だもん」




ドダイトス ♂
 のんきな性格

トゲキッス ♀
 むじゃきな性格

グレイシア ♀
 なまいきな性格

ポリゴンZ
 ひかえめな性格

ギャラドス ♀
 がんばりやな性格

サンダース ♂
 きまぐれな性格
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。