ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

73 / 161
エピローグ3/ギンガ団顛末・後編

 プルートとの面会を終えたアクタは、その足で──正確にはトゲキッスの翼で、バトルゾーンの一部であるリゾートエリアという町に降り立った。

「で!? 破れた世界ってのには、どう行けばいいのよ!?」

 カフェのテラス席で、マーズとジュピターと合流。

 こういったお洒落な店は初めてなので、緊張してしまう。ジュピターは「お子さまはこんなのでも飲んでなさい」とアイスココアを注文してくれた。

 ココアの甘さに舌鼓を打つ前に、いきなりマーズは本題に入った。

 飲み物が届くまで待ってくれただけ、マシだと思おう。

「結論から言いますけど、もう一度破れた世界に行くのは、無理っぽいです。ナナカマド博士や、サターンさん、シロナにも相談しましたけど……」

「あのときの状況を再現したとしても? たとえば、『あかいくさり』をもう一度使っても?」

「湖のポケモンたちをまた苦しめるようなことをするなら、それは却下です」

 思わず視線が強くなる。少年に睨まれて、ジュピターは肩をすくめた。

「そもそも、なんでギラティナっていうポケモンが出てきたんだっけ?」

「えっと、アカギさんの、世界を変えようとする野望に反応したんです。ギラティナの棲む場所……破れた世界にも影響が出るから」

「ふーん」

 不意にマーズは、きゅっと目をつむって力んだ。

「……どうしたんです?」

「……世界を変えようと願ってるの。どう? ギラティナは来そう?」

「…………」

 ちょっとかわいいと思ってしまった。

「馬鹿じゃないの、マーズ」

 対してジュピターは辛辣である。

「なによ! ジュピターこそ、ろくな意見を出してないくせに!」

「あら、じゃあ質問させてもらうけど」

 ジュピターはふたたびアクタに向き合う。

 少年の腰のモンスターボールから、サンダースとグレイシアが勝手に出てきた。主人の足元に戯れるのも束の間、カフェテラスの開けた場所で、背伸びをしてくつろいだ。

「アカギ様はいまも、破れた世界に()()()?」

「それなんですよねえ」

 アクタは腕を組んで、首を傾げる。

「ギラティナはアカギさんのことを嫌ってるはずだから、なんなら追い出しちゃうかも」

「つまり、アカギ様はもう、この世界に帰って来てるってこと!?」

「たぶんですけど」

「だとしたら、どこに? ギンガ団に戻って来てないのに」

「うん。とりあえず、この世界でアカギさんを探してみましょう。あのひとが行きそうな場所ってどこですか?」

「どうでもいいけど、あなたが仕切るのは気に喰わないわねえ」

 

 

 それからアクタとマーズとジュピターの3人は、アカギに所縁がある場所を転々と旅をした。

「と言っても、アカギさんの個人情報って、ギンガ団のデータベースにも残ってないんでしょ?」

「だからこうやって、過去にアカギ様が出した命令をしらみつぶしに調べて、とっかかりを見つけるしかないでしょ」

「雲を掴むような話だなあ……。ん、ジュピターさん? なにか気になることでも?」

「……電力エネルギーを集める計画をしていたときの話なんだけど」

 アクタは、谷間の発電所で電気を奪われたときのことを思い出した。

「発電所で、初めてマーズさんと会ったんですっけね」

「懐かしいわねー。まさかあのとき戦ったあんたに、ギンガ団潰されるなんて思ってなかったわ。はー憎たらしい」

「話、聞く気ある?」

 ジュピターに睨まれて、アクタとマーズは押し黙る。

「……そのとき、ナギサシティから電力を奪っては? ていう案が出たんだけど、アカギ様はそれを却下したの」

「へえ」

()()()()()()()()()()()()()──ですって」

 アクタは立ち上がる。

「決まりだ。ナギサシティを調べよう」

 

 

 調べた結果、どうやらナギサシティはアカギの故郷らしい。

「アカギ様がナギサシティに手を出さなかったのは、生まれ故郷だから……? まさかあの方に限って、そんな……」

「そんな人間らしい感情があるなんて?」

 アクタは絶句するジュピターの表情を覗き込むが。

「……なんなのよ!」

 そっぽを向かれてしまった。

「なんだか幻滅しているみたいだから……」

 ジュピターは否定も肯定もせず、目を逸らす。

「やっぱりあのひとは人間だよ。みんなとおんなじ、不完全な人間だ。それがわかって、ぼくはすごく嬉しいな」

「……認めざるを得ないか。我々はあの方の振る舞いに乗せられて、身勝手なイメージを抱いていたのね」

「ジュピター、アクタ、ごはん買ってきたわよー!」

 マーズとブニャットがナギサ市場から戻ってくる。

「ぼくの分、ケチャップたっぷりにしてくれました?」

「はあ? そんなのないわよ。ふつーにカツサンドだし」

「えー……しょうがない。マイケチャップをかけるか」

「自前の持ってんの? 気持ち悪っ!」

 ナギサシティでは情報こそ得られたものの、アカギは戻ってきているわけではなさそうだ。いまとなっては生家すら残っていない。

 辛うじて、彼の親類が228番道路に住んでいるという情報を得られたものの……

「まあ当然、ここに身を寄せているってわけじゃなかったですね」

 228番道路の民家で話を聞いた後、3人は池のほとりに佇む。

「そもそもアカギ様が、ギンガ団を差し置いてだれかを頼るとか思えなーい」

「うーん、それはそうかも……」

 アクタは、ブニャットとスカタンクをブラッシングする。最近は、ひっかかれたり臭い液をかけられたりすることもなくなった。

「ねえ、やっぱり破れた世界ってところにいるんじゃないの?」

「そうだとしたら詰みなんだって……でも、うーん……いっそのことギラティナの痕跡を追うか……? あんまりシロナに頼りたくないなあ……」

「アクタ。プルートともう一度話すことはできない?」

 ジュピターの問いに、アクタは首を傾げる。

「でも、プルートさんはアカギさんの居場所なんて、知らないみたいでしたよ」

「だとしても、あの無駄に用意周到なじいさんなら、アカギ様の情報をなにかしら隠し持っていそうでしょ?」

「なるほどお」

 さっそくハンサムに連絡を取ったアクタだったが、すでにプルートはハンサムの管轄から外れてしまったらしい。面会できるのはずいぶん先になるそうだ。

 しかし、押収されたプルートの研究資料はギンガ団に返却されたらしい。

 せめてなにか情報を得られれば──藁にも縋る思いで、3人は返却先のギンガハクタイビルに向かった。

「まあでも、研究者でもないあたしたちが、こういう資料から情報を読み取れるとは思えないけどねえ……」

「文句を言わずに調べなさい。やらないよりマシでしょ。──なにこれ、子どもの日記?」

「ポリゴンZ、このパソコンのファイルから、アカギさんに関連してそうなデータを抜き出せる? ──わあ、多いなあ」

 丸一日ほど粘って。

「あ、わかったかも。アカギさんがいるところ」

 少年は閃いた。

 

 

 真夜中のハクタイの森。

「怖い」

 森の洋館を前にして、アクタは縮こまった。

「やっぱり坊やね。お姉さんが手をつないであげましょうか?」

 にやにや笑って手を差し出すマーズだが。

「ジュピターさんがいいなあ」

「はあ!? なんでよ!?」

 ジュピターの隣に着くアクタ。

「まとわりつくな」

 が、小突かれてしまった。手厳しい。

「さっさと入るわよ。手分けして探す?」

「あ、でもぼく、部屋の目星はついてるんです」

 ふたりのすぐ後ろで、洋館の廊下を進む。マーズは時おり「ビビり」と少年を冷やかした。

「ねえアクタ。いまさらだけどあなた、なんでアカギ様を探すの? ギンガ団のために──なんて、本気じゃないでしょ。自分で壊滅させといて」

「本気だよ。ぼくが心配しているのは、これからのギンガ団だもん」

「これから?」

「サターンさんが言ってたんだ。もうギンガ団は悪の組織じゃなくなるんだって」

 一応、ギンガ団を「辞めた」扱いのふたりには、関係のないことだろうが。

「組織が変わるためには、これまでギンガ団がやってきた悪事に対して、アカギさんが責任を取らなくちゃ」

「アカギ様を罪に問うと?」

 ジュピターの視線がきつくなるが、アクタは首を横に振る。

「それとこれとは、べつの話。大事なのは、アカギさんが『やったこと』を認めて、みんなに説明することです。つまりまだ、ギンガ団にはアカギさんが必要なんです」

「……そんなの、罪に問うのとおなじことじゃないの?」

「うーん、まあ、実際の責任の取り方は、アカギさんに任せるよ」

 3人は、とある部屋の前にたどり着いた。

「アクタ。あなたひとりで行きなさい」

「え?」

 ジュピターは少年の背中を押す。

「ちょっと、ジュピター!?」

「この子にはその権利がある。──あたしたちはそのへんで待ってるから」

 背中を向けるジュピター。納得していなさそうなマーズだが、やがて彼女についていく。

「……ありがとうございます」

 アクタは、その部屋の扉を開けた。

 白黒の砂嵐を映すテレビ。

 その前で椅子に腰かける、男の姿があった。

 

 

 アカギの姿は、まるで別人と思うほどに頼りない。

「アカギさん」

 とりあえず、声をかけてみた。

「この世界に戻っていたんですね。良かった」

 良かった──とは? 少年は自問する。

 アクタは、アカギの身を案じるような立場ではない。むしろ逆だ。憎んでさえいたじゃないか。

「……あなたがいないと、ギンガ団の件に決着がつかない」

 正直に告げた。

「ギンガ団、ずっと警察に捜査されてて、大変なんですよ。サターンさんがみんなをまとめてる。今後は真面目にエネルギー開発事業をしようってことになってるのに、事件に決着がつかないことには、進まない」

 アカギは無言だ。

「出頭してくれませんか。やったこと、ぜんぶ説明してほしい」

 アカギは無言だ。

「……()()()()()()なんてもう言いません。ただ、役目を果たしてください」

「いまさらわたしに、この世界でなにをやれというのだ」

 ようやくアカギは応えた。

 かすれた声だった。

「望まぬ世界で、生き恥を晒せというのか」

「……なにが生き恥だよ」

 少年の声が震える。

「こんなところで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことのほうが、よっぽど恥ずかしくて、辛いじゃないか!」

「……どうしてお前が泣くんだ」

 振り返ったアカギは、呆れ顔であり疲れ顔だった。

「あんた、贅沢だよ……! 強くて、頭良くて、愛してくれるポケモンと、愛してくれる人間がいるのに……!」

 勝手にあふれ出てくる涙を拭う。

「期待に応えることに疲れたのなら、みんなに頼ればいいじゃないか。そうやってみんなで、理想の世界を創ればいいのに……!」

「……『世界を創る』のには反対ではないのか」

「そりゃ、心のない世界とかは勘弁してほしいし、みんなに迷惑がかかる手段も嫌だけどさ。夢は否定しないよ」

 ようやく涙が止まって、アクタは呼吸を整える。

「こんな小さな空間にいたままじゃ、だれの時間も進まない。これからどうするのか、あなたの判断に任せます。まずは外に出ましょう」

「…………」

「その子も一緒に」

 白黒のテレビに、影が浮かんだ。

 画面からぬっと姿を現したのは、まるで発光する電球。オレンジ色の身体が、青白いプラズマで覆われている。

「これ、あげます」

 アクタはアカギに、モンスターボールを差し出した。

 なんの変哲もない、どこにでも売っている、赤と白のボールだ。

「ロトムもそれを望んでいるとすれば、きっとゲットできるでしょ。──ぼくはノーコンだから、無理ですけど」

 アカギは迷いあぐねて、しかし、やがてモンスターボールを受け取った。

「……いや。お前は、なかなか的を射ている」

 

 

 ジュピターたちとハクタイの森を目指すすこし前、アクタはひとり、マサゴタウンのポケモン研究所を訪れた。

「ロトム……電化製品のなかに入り込むポケモンか……」

 ナナカマド博士は、アクタが見せた資料をぺらぺらとめくる。

「なにかわかること、ありますか?」

「うむう……わたしが知っているのはこんな話だ」

 博士は白いひげを撫でて、ぽつぽつと語り始める。

「むかし、おもちゃのロボットに入り込んだままのポケモンがいてな。それを新しいポケモンとして認めるかどうか……議論が始まろうとしたが、肝心のロボットポケモンはいなくなったというんだ……」

「いなくなった、ですか」

「それにしてもこのロトムというポケモンは、変わったポケモンだな。電化製品のなかに入りつつ、というかなかば融合して新しい技を覚えるのか。言ってみれば、機械のようなポケモンのような存在だ。ふむう……! 極めて特殊だが、これもポケモンのひとつの姿だな」

「よくわかります。ポリゴンも人工ポケモンって言われてますけど、みんなと変わらない、生きたポケモンですもん」

 腰元の、ポリゴンZが入ったモンスターボールを撫でる。

「なるほどなるほど! いくつになってもポケモンには新しい発見がある! それにしてもアクタ、お前のポケモン図鑑にはすでにロトムのデータがあるじゃないか。ひょっとして、捕まえる算段でもついたのか?」

「いやあ、ぼくじゃないんですけど」

 

 

 アカギを見つけて、マーズやジュピターとの旅も終わった。

 ブニャットとスカタンクは、名残惜しそうにドダイトスにすり寄っている。

「ねえ、あんたってあたしのこと好きでしょ」

「へ?」

「男と女、って意味で」

 マーズの問いに、アクタは思わず吹き出す。

「ぼくが? マーズさんを? あはは、ないない」

「生意気! つぎに会うときはボコボコにしてやるからね!」

「望むところです。でもぼく、負けないよ。──ジュピターさんも、またバトルしましょうね」

「ええ、つぎは泣かしてあげるんだから」

 ふたりと別れ、寂しさもひとしおに──ハクタイシティのポケモン像を見上げつつ、少年はベンチに腰かける。

「ロトムのことはどうやってわかったの?」

 隣の女性が話しかけてくる。

「プルートが残した資料に、子どもが書いた日記があったんだ。どうやらその子がロトムを発見したらしくて……でも、ある日突然、ロトムはいなくなってしまったと」

「続けて?」

「ここからは仮定です。というか勘。もしその子どもというのが、アカギさん()()()()()()()()()?」

「つまりアカギは、ロトムに対して特別な思い入れを持っていた、と? なるほど。その仮定を認めたとすると、彼がロトムの棲み処にいるというのは……納得できないこともない」

「勘が的中してラッキーでした。ジュピターさん、ぼくのこと、すごいって思ったかなあ」

「あら、本命はジュピター?」

 アクタは咳払いをして、「そんなことより」と本題に入った。

「そんなことより、シロナ。アカギさんはこれから、どうなるんです?」

 アクタの隣の女性、シロナは、あごに手を当てて考える。

「このまま出頭しなかったら……追跡している捜査員により逮捕かしら」

「え、跡をつけてるんですか!?」

「当然でしょ。あれだけのことをした男を、逃がすわけないじゃない。ちなみに、あなたたちの3人旅も捜査員が追跡してたからね」

「ええ……?」

「おとなはさらっとズルいのよ。覚えときなさい」

 師匠っぽいシロナの発言に、アクタは小さく「はい」と返事をする。

 とはいえ、アカギならば心配ないだろう、とアクタは思った。

 マーズとジュピターも一緒だ。それに、新しいポケモンも。

「まあとにかく、ギンガ団の件は解決コースに向かっていると思ってくれていいわ。そうそう、あなたにもポケモンリーグを通して感謝状が出ると思うから」

「ええ……要りませんよそんなの。恥ずかしい」

「ダメ。ちゃんと受け取っておきなさい。それも()()よ」

 そう言われると弱い。苦々しい顔を浮かべつつも、アクタは「わかりました」と頷いた。

「……アカギと話して、すっきりした?」

「……はい、ちょっとは。結局、怒ったし泣いちゃいましたけど」

「結構。──さて、じゃあ修行をつぎのステップに進めましょう」

「げえ」

 少年はふたたび苦い顔になった。

 シロナの修行はとにかく厳しいのだ。配慮がなく、容赦がなく、手心がない。

「嫌がっても無駄よ。観念なさい。あしたからきみには、バトルフロンティアに行ってもらいます」

「え? バトルフロンティアってたしか……」

 近日、開放予定のバトル施設だ。高レベルの特殊なバトルが体験できるそうで、アクタも挑戦したいと思っていた。

「そういうことなら、話が違ってくるぞ。楽しみだなあ」

「たぶん勘違いしているんだろうけど、アクタには施設側のお手伝いをやってもらうからね。こき使ってもらいなさい」

「…………」

「そうイヤな顔をしないの」

 シロナは気軽に、少年の肩をポンポンと叩く。

「きつめのアルバイトなんて、悪の組織の相手より、ずっとマシでしょ」

 スパルタ修行は、今後も続いて行く。




 出会いは突然だったよ。
 ぼくが、失くしたおもちゃのロボットを見つけたとき、
 芝刈り機のモーターからポケモンが飛び出してきたんだ。
 不思議そうに僕に近寄ってきた。
 ポケモンは笑ったように見えた。
 そのとき分かったんだ、ぼくたちは友達になれるって。
 不思議なポケモンを、ロトムって呼ぶことにした……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。