ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「ぼくさ、カントー地方に帰る」
名前のとおりバトルが盛んな島、バトルゾーン。
そのサバイバルエリアに位置するこの「しょうぶどころ」も例外ではなく、ポケモンバトルを楽しむための施設である。
アクタは「いちげんさんおことわり」なこの施設の常連であり、自分とおなじく常連として入り浸っている、定番メンバー6名が揃ったところで、話を切り出した。
「……ふーん」
ジュンをはじめとした彼らは、思ったより薄いリアクションだ。惜しまれるなり、最低でも驚かれるかと思ったのに……拍子抜けというか、寂しさを覚えてしまう。
「来月くらいになるかな。こっちの荷物を送ったり、ポケモンたちを検疫したり、いろいろとやらない、と……?」
語るアクタをよそに、彼らは円になってコソコソと話し始めた。
「ねえみんな、聞いてる?」
いくらこの地を離れるからといって、急に仲間外れにされることなどあるだろうか。少年が困惑している間に、
「アクタ」
内緒話は終わったようで、ジュンたちはアクタに向き直る。
「オレたちみんなとバトルしようぜ。お前が負けたら、帰るの中止な」
「それはおかしいんじゃない!?」
:
広いバトルフィールドがたったひとつ。観戦席はカフェスペース。
そんな間取りの会員制バトルサロン、しょうぶどころ。ジムリーダーをはじめとする強力なトレーナーたちが、あくまでもプライベートで、自由なバトルをするために使用している。
アクタやジュンも例外ではない。暇さえあればここを訪れて、バトルやお茶なんかを楽しんでいる。
「じゃあぼくは6匹、好きなポケモンを選んでいいんだね? そっちは6人で1匹ずつ、交代でバトルってことで」
「おう! 順番は内緒な。あとお互い、ポケモンの交代はなしで。1対1の、かける6だ」
「な、なるほど……えっと、じゃあぼくは最低でも4人に勝てば良いってことだね」
「……さ、みんな順番決めよーぜー」
「ねえってば。勝ち越せばいいんだよね? なんでそこをはっきりしてくれないの?」
なんだか自分に不利な方向に話が進んでいそうで、アクタは心配になるが──
「まあいいか。みんなに勝っちゃえばいいんだ」
小さく呟いて、自分のモンスターボールをずらりと並べた。
13個。
カントー地方から連れてきた手持ちを含めた数だ。
相手6人とはこれまで何回も戦ってきたし、正直、手の内はわかっている。彼らが使う1匹を予想し、その弱点を突けるポケモンを選べば、おのずと勝ち筋は見えてくるのだが──
「アクタ、あと1分以内に選ばなかったら失格だからな! ついでに罰金100万円!」
「ジュンさあ、露骨にぼくのこと負かそうとしてるだろ」
あらためて、少年はモンスターボールたちに向き直る。
1分以内にタイプ相性を考えてパーティを組むのも、やぶさかではないのだが……
「戦いたい子、だーれだ?」
立候補制で6匹を選んだ。
:
最初の相手は、跳ねた金髪、緑のマフラー、白とオレンジのボーダーシャツの少年。シンオウ地方でのライバル、ジュンだ。
「おうアクタ! 強くなってるのはお前だけじゃない! それを見せてやる」
「ジュンが強くなったことなんて、ぼくが一番わかってるよ」
あの湖で、彼が初めてポケモンを手にしたときから、一緒だった。
「行くぞ! 勝負だぜ!!」
ジュンが繰り出したのは、燃えるたてがみを持つ大きな馬のポケモン、ギャロップ。
アクタが投げたボールは、バトルフィールドから出た。
「このノーコン!」
「ごめん、ラプラス!」
長い首と厚い甲羅を持つ、みずとこおりタイプを持つポケモンは、ひれ足で器用に歩いてバトルフィールドに入った。
「いまの場外で負けってことに……」
「しつこいぞ、ジュン! モンスターボール投げるので場外負けになってたら、ぼくは殿堂入りなんてできてないよ!」
なんて、自分で言っていて悲しくなった。
「それもそうだな。──じゃあ行くぜ! ギャロップ、“おにび”!」
いきなり『やけど』の状態異常を負ってしまう。さすがだ。
「ラプラス、“ハイドロポンプ”!」
長期戦を避けるべく、こちらの「いきなり」は、高圧水流だ。
「危ねっ!」
だが、ギャロップは跳躍して回避する。さすがに、すんなりと戦いは終わらない。
「みず技で好き勝手にやらせはしないぜ。“にほんばれ”!」
日照りがバトルフィールドを覆う。熱気が辛いのか、ラプラスは顔をしかめる。
「これでほのお技の威力も申し分なしってわけか……ほんと、戦略的なことやってくるようになったよね」
「なめんなよ? お前はチャンピオンに弟子入りして強くなったみたいだけどな。オレだって、マキシ師匠や、デンジさん、オーバさん、そしてダディからいろいろと鍛えられたんだ」
「…………」
頼もしそうな師匠のラインナップに、アクタは無性に、ジュンが羨ましくなった。
「“ハイドロポンプ”!」
ほんのり嫉妬を込めて放った水流は、こんどはギャロップに命中した。
「くっ……まだまだ!」
効果は抜群であるが、“にほんばれ”の日照りもあって、ギャロップは持ちこたえた。
「最後まで諦めないッ! 絶対諦めるかよッ!!」
ギャロップの“だいもんじ”がラプラスを呑み込む。
「みすみすカントー地方に帰してやるか! オレは、お前と……!」
「うん、ライバルだ。どれだけ離れていたって、ずっとね」
ラプラスは熱気に負けず、“しおみず”を放つ。炎を打ち消す潮流は、ギャロップを戦闘不能にした。
「……なんだってんだよーッ!」
:
「ちょうどよかった。あたしのハピナス、戦いたくてウズウズしてたの」
ふたり目は、モミ。長い三つ編みに、緑のカーディガンとスカートの女性だ。
おとなしそうな見た目とは裏腹に、しょうぶどころの常連なだけあって、なかなか好戦的なのだ。
「モミさん。もしあなたが、どうしてもぼくに、カントー地方に帰ってほしくないというのなら……」
「うーん、じつはあたしは、無理して引き止めようとは思ってなくって……」
「あ、そうですか」
アクタが投げたボールは天井に飛んでいったが、空中で現れたルカリオは、華麗に身をひるがえしてバトルフィールドに降り立った。
「まあ、ノーコン」
「あはは……」
対峙するのは、ハピナス。丸くて大きな身体に、ピンク色の毛並みの良い体毛。ハクタイの森で初めて会ったときは、進化前のラッキーだった。
ノーマルタイプのポケモンだ。かくとうタイプのルカリオにとっては相性が良い。さきほどのラプラスもそうだったが、なかなか運が良い。
「タイプが有利なんてズルいぞ!」
客席からそんなヤジが飛んで来た。
「いや、偶然だし……ズルいってのはおかしいでしょ」
「タイプ相性が不利だからって、負ける気はないわ。ルカリオ相手は想定の範囲内だもの」
そうなのだ。
モミとは、お互いに手の内を知った仲だ。故に、ルカリオで容易く勝てないことはわかっている。
「ルカリオ、“はどうだん”!」
バトルが始まり、まずは牽制。青い光弾は効果抜群のはずなのに、ハピナスはまるで意に介した様子がない。
「あら? “インファイト”じゃないのね。──ハピナス、“サイコキネシス”!」
ハピナスは体力と、特殊防御がずば抜けて高いポケモンだ。“はどうだん”などといった特殊攻撃で攻めていては日が暮れる。それに──
「さあ、回復も。“タマゴうみ”」
地道にダメージを与えたとしても、こうして回復されてしまう。
打破するには、物理攻撃。モミも言ったとおり、ルカリオ最大の攻撃である“インファイト”で攻めなければ、勝てないだろう。
だがそれに踏み込めないのは、やはり、モミの戦法を知っているからで──
「……あれ? アクタさん、ルカリオのそれ」
モミは、ルカリオの首に下がった、『やすらぎのすず』に気づいた。
「ああ、これ。そうそう! モミさんから貰ったやつです。いまではルカリオのお気に入りで」
「嬉しいな、まだ使ってくれてたのね」
「最近わかったんですけど、『やすらぎのすず』を持たせてると、ポケモンがなつきやすくなるんですね。トゲピーやリオルが進化したのも、じつは早かったわけだ」
つまり、アクタの冒険を支えてくれた一因は『やすらぎのすず』だったのだ。
「モミさんのおかげ──というのは、考え過ぎかな? まあとにかく、そんな相手に腰が引けてちゃ、失礼だな」
アクタの覚悟を察したルカリオは、腰を低くして攻撃を構えた。鈴が小さく鳴る。
「──ハピナス、“カウンター”の準備を」
アクタが恐れていたのは、それだ。もしもこの“インファイト”で倒すに至らなかった場合、“カウンター”によりこちら側が大きなダメージを受ける。そうなれば戦闘不能になるのは、ルカリオのほうだ。
「ルカリオ、行こうか。“インファイト”」
素早くハピナスに迫り、ルカリオは拳と脚による連撃を叩き込む。体幹はまっすぐに保ったまま。
「……間に合いません、か」
ようやく鈴がチリン、と鳴ったとき。
ハピナスは戦闘不能になった。
「攻めること、守ること、そのバランスは大変ですね。──ふう、やっぱりアクタさんってすごい」
「モミさん。ありが……」
「ありがとうアクタさん! あなたのおかげであたしたち、またたくましくなりました」
先に言われてしまった。そんなモミの優しさと別れるのが、寂しくてたまらなくなった。
:
3人目として立ちはだかったのは、ツインテールの少女ミルと、2本のスプーンを構えたフーディンだ。
「アクタさん! ミル、強くなったんだよ」
「わかってるよ。ミルちゃんにはけっこう、負かされてるもんね」
さて。しょうぶどころにおいてのアクタの活躍について。
殿堂入りの経験があり、チャンピオンに師事しているわりには、じつは芳しくない。むしろ数字の上の「勝率」としては最弱ともいえる。
だからしょうぶどころの利用者最年少のミルにも、ちょくちょく負けているわけで。
「トゲキッス!」
アクタが投げたボールは後ろに行ったが、慣れているトゲキッスは空中を悠々と飛行し、バトルフィールドにふわりと降り立つ。
「ノーコンなんだもんなあ」
ミルにとっても見慣れた光景なので、もはや絶句はしない。
「それじゃあ行きますよー! フーディン、“めいそう”!」
「それ積まれるときついなあ。トゲキッス、“エアスラッシュ”!」
ミルと出会ったのは、迷いの洞窟。名前のとおり入り組んだダンジョンで、まんまと迷っていたミルを助けたのだ。──そのあと出口まで一緒に迷ったのだが。
「“しんそく”!」
「うっ……負けないでフーディン! “サイコキネシス”!」
あのとき泣いていた女の子が、自分と対等に戦っている。アクタにはそれが、なんとも嬉しい。
「なにをニヤニヤしてるんですか!? キモい!」
対して、ミルはなかなか辛辣である。
アクタのほうが泣きそうになってしまう。
「キモいなんて言うなよ。きみとのバトルが楽しいんだ。」
「迷いの洞窟でアクタさんと別れてから、ミルも冒険して、すっごく強くなったんです! もう迷ったりしないってところ、アクタさんに見せるからね!」
トゲキッスとフーディンは、それぞれ最強の攻撃を放つ。
「「“はかいこうせん”!」」
二筋の光線が激突し、爆発し、やがて煙が晴れたバトルフィールドには、倒れたフーディンと、なんとか飛び続けるトゲキッスがいた。
「……むう! 強過ぎです!」
一瞬、落ち込んだ様子を見せたミルだが、口を尖らせて気丈に振る舞う。
「こっちのセリフだよ。きみだって、強過ぎだ」
当然か。
迷いの洞窟ではタマゴだったトゲキッスさえ、こんなに成長しているのだ。
「あのとき、アクタさんの言ったとおりだった。『ポケモンって、トレーナーの気持ちに応えてくれる。だから大切にしたぶんだけ一緒に強くなってくれる』って」
「へー、そんな良いこと言ったんだ」
客席から冷やかしの声が飛んできて、アクタは真っ赤になる。
「そ、そんなこと言ったかなー?」
「『愛情を持って育てれば、ユンゲラーもきっと、ミルちゃんに喜んでついてきてくれるよ』」
「なんでそんなに憶えてんの!?」
「アクタさんってあれですよね。あたしみたいな年下に対しては強く出ますよね。めっちゃ語ってましたし」
恥を晒され、アクタは絶句した。
小さな仕返しが上手くいって、ミルはいたずらっぽく、舌を出す。
「いつかまた、ポケモン教えてね! ミル、アクタさんみたいにもっともっと強くなりたいから!」
後編に続く。
6人分は多い。