ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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エピローグ4/しょうぶどころの訣戦・前編

「ぼくさ、カントー地方に帰る」

 名前のとおりバトルが盛んな島、バトルゾーン。

 そのサバイバルエリアに位置するこの「しょうぶどころ」も例外ではなく、ポケモンバトルを楽しむための施設である。

 アクタは「いちげんさんおことわり」なこの施設の常連であり、自分とおなじく常連として入り浸っている、定番メンバー6名が揃ったところで、話を切り出した。

「……ふーん」

 ジュンをはじめとした彼らは、思ったより薄いリアクションだ。惜しまれるなり、最低でも驚かれるかと思ったのに……拍子抜けというか、寂しさを覚えてしまう。

「来月くらいになるかな。こっちの荷物を送ったり、ポケモンたちを検疫したり、いろいろとやらない、と……?」

 語るアクタをよそに、彼らは円になってコソコソと話し始めた。

「ねえみんな、聞いてる?」

 いくらこの地を離れるからといって、急に仲間外れにされることなどあるだろうか。少年が困惑している間に、

「アクタ」

 内緒話は終わったようで、ジュンたちはアクタに向き直る。

「オレたちみんなとバトルしようぜ。お前が負けたら、帰るの中止な」

「それはおかしいんじゃない!?」

 

 

 広いバトルフィールドがたったひとつ。観戦席はカフェスペース。

 そんな間取りの会員制バトルサロン、しょうぶどころ。ジムリーダーをはじめとする強力なトレーナーたちが、あくまでもプライベートで、自由なバトルをするために使用している。

 アクタやジュンも例外ではない。暇さえあればここを訪れて、バトルやお茶なんかを楽しんでいる。

「じゃあぼくは6匹、好きなポケモンを選んでいいんだね? そっちは6人で1匹ずつ、交代でバトルってことで」

「おう! 順番は内緒な。あとお互い、ポケモンの交代はなしで。1対1の、かける6だ」

「な、なるほど……えっと、じゃあぼくは最低でも4人に勝てば良いってことだね」

「……さ、みんな順番決めよーぜー」

「ねえってば。勝ち越せばいいんだよね? なんでそこをはっきりしてくれないの?」

 なんだか自分に不利な方向に話が進んでいそうで、アクタは心配になるが──

「まあいいか。みんなに勝っちゃえばいいんだ」

 小さく呟いて、自分のモンスターボールをずらりと並べた。

 13個。

 カントー地方から連れてきた手持ちを含めた数だ。

 相手6人とはこれまで何回も戦ってきたし、正直、手の内はわかっている。彼らが使う1匹を予想し、その弱点を突けるポケモンを選べば、おのずと勝ち筋は見えてくるのだが──

「アクタ、あと1分以内に選ばなかったら失格だからな! ついでに罰金100万円!」

「ジュンさあ、露骨にぼくのこと負かそうとしてるだろ」

 あらためて、少年はモンスターボールたちに向き直る。

 1分以内にタイプ相性を考えてパーティを組むのも、やぶさかではないのだが……

「戦いたい子、だーれだ?」

 立候補制で6匹を選んだ。

 

 

 最初の相手は、跳ねた金髪、緑のマフラー、白とオレンジのボーダーシャツの少年。シンオウ地方でのライバル、ジュンだ。

「おうアクタ! 強くなってるのはお前だけじゃない! それを見せてやる」

「ジュンが強くなったことなんて、ぼくが一番わかってるよ」

 あの湖で、彼が初めてポケモンを手にしたときから、一緒だった。

「行くぞ! 勝負だぜ!!」

 ジュンが繰り出したのは、燃えるたてがみを持つ大きな馬のポケモン、ギャロップ。

 アクタが投げたボールは、バトルフィールドから出た。

「このノーコン!」

「ごめん、ラプラス!」

 長い首と厚い甲羅を持つ、みずとこおりタイプを持つポケモンは、ひれ足で器用に歩いてバトルフィールドに入った。

「いまの場外で負けってことに……」

「しつこいぞ、ジュン! モンスターボール投げるので場外負けになってたら、ぼくは殿堂入りなんてできてないよ!」

 なんて、自分で言っていて悲しくなった。

「それもそうだな。──じゃあ行くぜ! ギャロップ、“おにび”!」

 いきなり『やけど』の状態異常を負ってしまう。さすがだ。

「ラプラス、“ハイドロポンプ”!」

 長期戦を避けるべく、こちらの「いきなり」は、高圧水流だ。

「危ねっ!」

 だが、ギャロップは跳躍して回避する。さすがに、すんなりと戦いは終わらない。

「みず技で好き勝手にやらせはしないぜ。“にほんばれ”!」

 日照りがバトルフィールドを覆う。熱気が辛いのか、ラプラスは顔をしかめる。

「これでほのお技の威力も申し分なしってわけか……ほんと、戦略的なことやってくるようになったよね」

「なめんなよ? お前はチャンピオンに弟子入りして強くなったみたいだけどな。オレだって、マキシ師匠や、デンジさん、オーバさん、そしてダディからいろいろと鍛えられたんだ」

「…………」

 頼もしそうな師匠のラインナップに、アクタは無性に、ジュンが羨ましくなった。

「“ハイドロポンプ”!」

 ほんのり嫉妬を込めて放った水流は、こんどはギャロップに命中した。

「くっ……まだまだ!」

 効果は抜群であるが、“にほんばれ”の日照りもあって、ギャロップは持ちこたえた。

「最後まで諦めないッ! 絶対諦めるかよッ!!」

 ギャロップの“だいもんじ”がラプラスを呑み込む。

「みすみすカントー地方に帰してやるか! オレは、お前と……!」

「うん、ライバルだ。どれだけ離れていたって、ずっとね」

 ラプラスは熱気に負けず、“しおみず”を放つ。炎を打ち消す潮流は、ギャロップを戦闘不能にした。

「……なんだってんだよーッ!」

 

 

「ちょうどよかった。あたしのハピナス、戦いたくてウズウズしてたの」

 ふたり目は、モミ。長い三つ編みに、緑のカーディガンとスカートの女性だ。

 おとなしそうな見た目とは裏腹に、しょうぶどころの常連なだけあって、なかなか好戦的なのだ。

「モミさん。もしあなたが、どうしてもぼくに、カントー地方に帰ってほしくないというのなら……」

「うーん、じつはあたしは、無理して引き止めようとは思ってなくって……」

「あ、そうですか」

 アクタが投げたボールは天井に飛んでいったが、空中で現れたルカリオは、華麗に身をひるがえしてバトルフィールドに降り立った。

「まあ、ノーコン」

「あはは……」

 対峙するのは、ハピナス。丸くて大きな身体に、ピンク色の毛並みの良い体毛。ハクタイの森で初めて会ったときは、進化前のラッキーだった。

 ノーマルタイプのポケモンだ。かくとうタイプのルカリオにとっては相性が良い。さきほどのラプラスもそうだったが、なかなか運が良い。

「タイプが有利なんてズルいぞ!」

 客席からそんなヤジが飛んで来た。

「いや、偶然だし……ズルいってのはおかしいでしょ」

「タイプ相性が不利だからって、負ける気はないわ。ルカリオ相手は想定の範囲内だもの」

 そうなのだ。

 モミとは、お互いに手の内を知った仲だ。故に、ルカリオで容易く勝てないことはわかっている。

「ルカリオ、“はどうだん”!」

 バトルが始まり、まずは牽制。青い光弾は効果抜群のはずなのに、ハピナスはまるで意に介した様子がない。

「あら? “インファイト”じゃないのね。──ハピナス、“サイコキネシス”!」

 ハピナスは体力と、特殊防御がずば抜けて高いポケモンだ。“はどうだん”などといった特殊攻撃で攻めていては日が暮れる。それに──

「さあ、回復も。“タマゴうみ”」

 地道にダメージを与えたとしても、こうして回復されてしまう。

 打破するには、物理攻撃。モミも言ったとおり、ルカリオ最大の攻撃である“インファイト”で攻めなければ、勝てないだろう。

 だがそれに踏み込めないのは、やはり、モミの戦法を知っているからで──

「……あれ? アクタさん、ルカリオのそれ」

 モミは、ルカリオの首に下がった、『やすらぎのすず』に気づいた。

「ああ、これ。そうそう! モミさんから貰ったやつです。いまではルカリオのお気に入りで」

「嬉しいな、まだ使ってくれてたのね」

「最近わかったんですけど、『やすらぎのすず』を持たせてると、ポケモンがなつきやすくなるんですね。トゲピーやリオルが進化したのも、じつは早かったわけだ」

 つまり、アクタの冒険を支えてくれた一因は『やすらぎのすず』だったのだ。

「モミさんのおかげ──というのは、考え過ぎかな? まあとにかく、そんな相手に腰が引けてちゃ、失礼だな」

 アクタの覚悟を察したルカリオは、腰を低くして攻撃を構えた。鈴が小さく鳴る。

「──ハピナス、“カウンター”の準備を」

 アクタが恐れていたのは、それだ。もしもこの“インファイト”で倒すに至らなかった場合、“カウンター”によりこちら側が大きなダメージを受ける。そうなれば戦闘不能になるのは、ルカリオのほうだ。

「ルカリオ、行こうか。“インファイト”」

 素早くハピナスに迫り、ルカリオは拳と脚による連撃を叩き込む。体幹はまっすぐに保ったまま。

「……間に合いません、か」

 ようやく鈴がチリン、と鳴ったとき。

 ハピナスは戦闘不能になった。

「攻めること、守ること、そのバランスは大変ですね。──ふう、やっぱりアクタさんってすごい」

「モミさん。ありが……」

「ありがとうアクタさん! あなたのおかげであたしたち、またたくましくなりました」

 先に言われてしまった。そんなモミの優しさと別れるのが、寂しくてたまらなくなった。

 

 

 3人目として立ちはだかったのは、ツインテールの少女ミルと、2本のスプーンを構えたフーディンだ。

「アクタさん! ミル、強くなったんだよ」

「わかってるよ。ミルちゃんにはけっこう、負かされてるもんね」

 さて。しょうぶどころにおいてのアクタの活躍について。

 殿堂入りの経験があり、チャンピオンに師事しているわりには、じつは芳しくない。むしろ数字の上の「勝率」としては最弱ともいえる。

 だからしょうぶどころの利用者最年少のミルにも、ちょくちょく負けているわけで。

「トゲキッス!」

 アクタが投げたボールは後ろに行ったが、慣れているトゲキッスは空中を悠々と飛行し、バトルフィールドにふわりと降り立つ。

「ノーコンなんだもんなあ」

 ミルにとっても見慣れた光景なので、もはや絶句はしない。

「それじゃあ行きますよー! フーディン、“めいそう”!」

「それ積まれるときついなあ。トゲキッス、“エアスラッシュ”!」

 ミルと出会ったのは、迷いの洞窟。名前のとおり入り組んだダンジョンで、まんまと迷っていたミルを助けたのだ。──そのあと出口まで一緒に迷ったのだが。

「“しんそく”!」

「うっ……負けないでフーディン! “サイコキネシス”!」

 あのとき泣いていた女の子が、自分と対等に戦っている。アクタにはそれが、なんとも嬉しい。

「なにをニヤニヤしてるんですか!? キモい!」

 対して、ミルはなかなか辛辣である。

 アクタのほうが泣きそうになってしまう。

「キモいなんて言うなよ。きみとのバトルが楽しいんだ。」

「迷いの洞窟でアクタさんと別れてから、ミルも冒険して、すっごく強くなったんです! もう迷ったりしないってところ、アクタさんに見せるからね!」

 トゲキッスとフーディンは、それぞれ最強の攻撃を放つ。

「「“はかいこうせん”!」」

 二筋の光線が激突し、爆発し、やがて煙が晴れたバトルフィールドには、倒れたフーディンと、なんとか飛び続けるトゲキッスがいた。

「……むう! 強過ぎです!」

 一瞬、落ち込んだ様子を見せたミルだが、口を尖らせて気丈に振る舞う。

「こっちのセリフだよ。きみだって、強過ぎだ」

 当然か。

 迷いの洞窟ではタマゴだったトゲキッスさえ、こんなに成長しているのだ。

「あのとき、アクタさんの言ったとおりだった。『ポケモンって、トレーナーの気持ちに応えてくれる。だから大切にしたぶんだけ一緒に強くなってくれる』って」

「へー、そんな良いこと言ったんだ」

 客席から冷やかしの声が飛んできて、アクタは真っ赤になる。

「そ、そんなこと言ったかなー?」

「『愛情を持って育てれば、ユンゲラーもきっと、ミルちゃんに喜んでついてきてくれるよ』」

「なんでそんなに憶えてんの!?」

「アクタさんってあれですよね。あたしみたいな年下に対しては強く出ますよね。めっちゃ語ってましたし」

 恥を晒され、アクタは絶句した。

 小さな仕返しが上手くいって、ミルはいたずらっぽく、舌を出す。

「いつかまた、ポケモン教えてね! ミル、アクタさんみたいにもっともっと強くなりたいから!」




後編に続く。
6人分は多い。
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