ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「いひひ……! さあさあ! 勝負しようぜ!!」
アクタと対峙して好戦的に笑う、赤い髪をひとつ結びにした少年、バク。彼とはこの島で知り合った。
「しょうぶどころに誘ってくれたのもバッくんだったね。すっかり楽しませてもらったよ」
「おいおい、しみじみしてんじゃねーよ! おれはお前と別れるのがイヤだから、こうして立ち合ってるんだぜ?」
それもそうだ。ふたりはモンスターボールを構える。
「モンスターボールのなかで、おれのポケモン、震えてる! これ、武者震いってやつだな!」
それはアクタのほうもおなじだったが、あるいはこのボールのうごめきは──ノーコンを嫌がっているだけかもしれない。
「グレイシア!」
ゆっくりと投げた。が、真横に飛んで行った。
「よっ! ノーコン!」
はやし立てるバク。
グレイシアはさっそくアクタの足元に駆け寄ってきて、前足で少年のふくらはぎをはたいた。
バクが繰り出すのは、地面からわずかに浮遊する、泥の身体に、赤い8つの目を持つ、ネンドール。
じめんタイプを持つので、こおりタイプのグレイシアは有利ではあるが──
「また相性はそっちが有利だな。だからって……いひひ! 良いねえその顔! すこしも油断してないな!」
「ネンドールの強さは知ってる。それに、勝負を分けるのはタイプ相性じゃない。でしょ?」
「そのとーり! ひとーつ、ポケモン勝負に近道なし! ふたーつ……」
「…………」
謎の間が空いて。
「まあいいや、勝負しようぜ!」
「あとで一緒に考えようね、ふたつ目以降」
バトルが始まり、まずネンドールは“めいそう”で強化。アクタも攻撃の前に下準備を行う。
「グレイシア、“あられ”」
バトルフィールドに、氷の粒が降り注ぐ。こおりタイプではないネンドールにはわずかにダメージが入り続け、反対に『ゆきがくれ』の特性を持つグレイシアには、攻撃が当たりづらくなる。
「天候を変えてくるか! ちょっとマズいけど……気合いで乗り切るぜ! ネンドール、“げんしのちから”!」
岩の塊は、霰を跳ねのけてグレイシアに命中する。いわタイプの攻撃は効果抜群で、大きなダメージを負ってしまった。
「よっしゃ! これは燃えるシチュエーション!!」
「やるなあ……」
バクと出会ったのは、ハードマウンテンというダンジョンだ。プルートたちギンガ団の残党との戦いにおいても、手助けしてもらった。
その戦いで仲良くなり、彼の家──このしょうぶどころに招かれることになったのだ。
「グレイシア」
アクタが声をかけると、グレイシアはこちらを一瞥して、たしかに頷いた。
「どんどん行くぜ! “サイコキネシス”!」
「“ミラーコート”」
グレイシアは受けた念動力に耐え、跳ね返した。
「な、なにっ!?」
技を返されたとはいえ、グレイシアは“サイコキネシス”のダメージ自体は負ったし、倍の威力で返された“サイコキネシス”は、エスパータイプであるゆえにネンドールに対して通常分のダメージしかない。
しかし、バクの隙を作るには十分な戦法だった。
その一瞬を見逃さず、グレイシアは冷気を溜める。
「ヤバい! ネンドール、“だいちのちから”……」
その技が放出される前に、グレイシアの“ふぶき”がネンドールを呑み込んだ。霰の天候で必中となった“ふぶき”に──
「……たぁー! 負けちまったか!」
ネンドールは倒れた。
「イヒヒ! 熱っちーな、お前!!」
「“ふぶき”にやられといて、熱いはないでしょ」
アクタは安堵の息をつく。
“ふぶき”のタイミングを見誤らなくて良かった。“だいちのちから”を“ミラーコート”したとしても、『ふゆう』のネンドールには効果がない。そもそもグレイシアの体力も危ないところだった。
呼吸を合わせてくれたグレイシアに感謝だ。「がんばったね」と労いながら撫でるも、つん、と顔を背けられた。青い尻尾が、アクタの靴をぺしぺし叩く。
「あーあ、お前みたいな強いやつを、みすみす地元に帰すなんて、惜しいねえ。アクタのおかげで、しょうぶどころも盛り上がってきたところなのによお」
しょうぶどころは、バクの家である。経営者は彼の祖父。
アクタが初めてしょうぶどころを訪れたとき、はっきり言って、客足は乏しいものだった。
そういうわけで、少年たちはしょうぶどころを盛り上げるためにさまざまな策を講じた。もっとも効果があったのは、ジムリーダーに来てもらうことだった。
旅で知り合ったシンオウ地方のジムリーダーたちは、来訪を快く引き受けてくれた。彼らにも修行になるし、なにより、いつもルールの上で戦っているジムリーダーたちにとって、自由でプライベートなバトルは、良い息抜きになったのだ。
かくしてしょうぶどころは、ジムリーダーさえ愛用するバトルサロンとして注目を集め、ジュン、モミ、ミルといった実力者トレーナーも通うことになったのだが──それを自分のおかげのように言われても、アクタは困る。
去ってしまうのは、もしかして、無責任なのだろうか。
「バッくん、ぼくは……」
「ハードマウンテンで鍛えなおすか! アクタ、しょうぶどころのことを忘れんなよ! おれはまだまだ強くなるからさ! 近いうちに、カントー地方にもおれとしょうぶどころの噂が届くだろうよ!」
バクは勝負の結果を受け容れている。アクタに責任を負わせず、背中を押して送り出す。それが彼なりの義理であった。
「ありがとう、バッくん。つぎも負けないように、ぼくももっと強くなるね」
:
白いフリルがついた、黒いワンピースの少女。5人目に立ちはだかったのは──
「マイさんか。よろしくね」
「…………」
相変わらず無表情。機嫌が悪いわけではないはずだが──
「……ねえアクタ。あなたはいま4連勝しているけれど、これってあなた、勝ち越したことにならない?」
「えーと、それは……どうなの?」
観客席に問いかけるが、
「…………」
全員、目を逸らした。
「このっ……いいさ、とにかくやろう、マイさん」
アクタが投げたモンスターボールは、バトルフィールドの外に飛んで行ったが、すぐにサンダースは少年の足元に戻ってきた。そしてアクタにすり寄って、静電気を流す。
「あ痛っ」
「やはりノーコン……」
マイは分厚い手帳を取り出したかと思うと、さらさらとメモをした。
「記録しないでよ」
「ノーコン率……100パーセント」
「どうせそうだよ」
マイはアクタに変な意味で興味を持っており、出会ってからずっと、あの手帳にアクタの行動なんかを記録されている。
恥ずかしいったらない。
「その手帳、棄てて」
「いや」
手帳を収めたマイは、代わりにモンスターボールを取り出す。現れたのはウインディ。ほのおタイプのポケモンだ。
「まだまだ、アクタのこと、知り足りない……あたしが勝つことで、あなたがカントー地方に帰ることにすこしでも抵抗できるのなら……あたし……負けないから……!」
マイと出会ったのは、シロナの修行の一環で、シンオウ地方の伝説のポケモンを探しているときだった。
シンオウ地方には「伝説」と称されるほど稀少なポケモンが、何種類か噂されている。
そのなかの「シェイミ」というポケモンを探しているとき、彼女と知り合った。
「ウインディ、“しんそく”」
「サンダース、“チャージビーム”!」
捕獲こそ叶わなかったものの、シェイミという可愛らしくて優しいポケモンに出会えたのも、マイのおかげだ。
「“ほうでん”!」
電撃を浴びて、ウインディが『まひ』する。しかし動きは止まらず、その身体は炎をまとう。
「“フレアドライブ”」
炎と雷が、バトルフィールドに満ちる。
「……つぎの攻撃が最後だな。当たらなかったら、負けるのはこっちだ。行くよ、サンダース」
サンダースはウインディを見据えたまま、覚悟を決めるように鳴いた。
「“かみなり”!」
「“フレアドライブ”!」
炎とともに迫りくるウインディに、落雷が命中した。
ウインディはサンダースに到達できず、戦闘不能になる。
「これで……あなたとの時間が終わる」
無表情でウインディをボールに戻すマイ。表情に出なくても、彼女が落胆していることはよくわかった。
「……ねえ、アクタ」
「はい」
「あたしは……話すのが苦手……あたしの選んだ言葉は、そのつもりもないのに……うっかりだれかを傷つけるかも……そう考えると、口をつぐんでしまう……」
たぶん、マイは、そういった経験があるのだろう。
そういった経験をしてしまったことで、自らも傷ついたことがあるのだろう。
そんなふうに察したアクタは、「うん」と深く頷いて、彼女の紡ぐ「言葉」を待った。
「だからありがとうの気持ちを、正しく優しく伝えてくれるポケモンは素敵……」
「わかる」
ポケモンたちは言葉を話さない。
だけどこちらの気持ちを理解してくれるし、アクタも、ポケモンたちの気持ちがよくわかるようになった。
「アクタのおかげで、ポケモンのことがもっと好きになったし……そして、ほかのひとのことも、なんだか恐くなくなった……あなたはポケモンに対しても人間に対しても、すごく……真摯に接している」
「……そんなことを言われちゃ、なんだかむずがゆいけど」
ただアクタはいつもどおり、アクタらしく過ごしていただけだ。
「ぼくの振る舞いが、マイさん励ますことができたのなら、光栄です」
「あたしも自分の言葉で、伝えるね……あなたに……ありがとう……」
「どういたしまして」
感謝をしっかりと受け止めた。
自分の姿にだれかが影響を得たというのは、重くとも、誇らしいことなのだから。
「それはそうと、この前、ぼくのケチャップを隠したことは許してないから」
「反応が見たかったの……」
:
シロナによる修行は熾烈を極めた。
体力づくりのため、肉体的に過酷なトレーニングを課せられるのは序の口。軽装でダンジョンに放り込まれたり、数え切れないほどポケモンバトル連戦を強いられたり。
逆に言えば、バトルフロンティアの手伝いや、伝説のポケモン探しなんかは、まだ楽なほう……というか、楽しかった。シンオウ地方の珍しい地域を旅することもできたし。
しょうぶどころで過ごす時間は、アクタにとっては休息だった。好きなひとたちと一緒にいられる。
特に、ゲンとのバトルや語らいは、顕著であった。
鋼鉄島で、ほんの一日くらいの短い時間であったが、ゲンはアクタの師匠だった。優しいし教え方も上手く、非常に良い先生だったと思う。
「……戦う準備はできたかな?」
青い帽子、青い背広の男、ゲン。
ひょっとしたら彼と戦うのも、これが最後かもしれない──とにかく6連戦はこれで最後だ。
「いつでもオッケーです。やりましょう、ゲンさん」
「うむ。では──」
ゲンはルカリオを呼び出す。
アクタはボールを投げると、足元に落ちた。
「うわあ」
目の前に広がった大輪の花に押されて、転んでしまう。
そんな主人を、フシギバナは蔓を使って助け起こした。呆れ顔で鳴く。
「ありがとう、フシギバナ」
アクタが初めて手にしたポケモン。カントー地方を旅した相棒だ。
「いつもどおりのノーコンは結構だが……そっちはルカリオじゃないのか」
「へ? ルカリオは、ほら、モミさんと戦ったから……」
「ああ、そうだっけ」
「なにを見てたんですか、あなたは」
ゲンはたまに天然だ。まあ、そういう人間味のあるところも、彼の魅力だと思う。
それに、ゲンがルカリオ同士での戦いを望んでいたというのならば、それはそれで光栄なことだ。
「まあいい。きみがカントー地方に帰らなければ、まだ戦う機会は何度でもあるだろうからね」
「止める気、まんまんなんですね。もう5勝してるのに……」
バトルフィールドの中心に向かい、ルカリオとフシギバナはじりじりと距離を詰める。
しょうぶどころに、かつてない緊張感が満ちる。
「“ボーンラッシュ”」
「“はなびらのまい”」
まったく同時に2匹のポケモンが動き、戦いが始まった。
このしょうぶどころにおいて計測されている勝率では、ゲンは最強と呼んでも過言ではない。ジムリーダーが相手でも、ほかの常連客が相手でも、滅多に負けることはない。
そんなゲンが、唯一勝てない相手が、アクタなのだ。
「きみたちから感じる波動……良いね」
2体のポケモンは距離を取る。ルカリオは『オボンのみ』を食べて体力を、フシギバナは『ラムのみ』で“はなびらのまい”による混乱を、それぞれ回復させる。
「波動を感じることができるのは、ルカリオじゃなかったですっけ? ゲンさんくらいになると、わかるようになっちゃうんですか」
「そうとも」
「肯定するんだ……」
ルカリオの“ブレイスキック”で大きなダメージを喰らう。“こうごうせい”による回復をもってしても、やはり効果抜群の技はきついものだ。
「きみだってそうだろう? 自分のポケモンや、相手に対して、『波動』と呼べるような
「……フシギバナ、“じしん”!」
こんどはルカリオが大ダメージを負う。ほのおタイプ対策に覚えさせた“じしん”だが、思っていたより便利だ。
「まったく、シロナはものすごいトレーナーを育てた。物事の感じ方。戦いの立ち回り。わたしの手には負えない」
「そんなこと言わないで、もう一回弟子にしてくださいよ」
「……よっぽどシロナは厳しかったんだね」
アクタはなんども頷く。
「すまないが、わたしからきみに教えられることはなにもない。弟子ではなく──ライバルになってほしいな」
ルカリオとフシギバナは、それぞれ最大の攻撃を準備する。
「ルカリオ、“インファイト”!」
「フシギバナ、“ハードプラント”!」
いくつもの巨大な蔓が、ルカリオに襲い掛かる。鋼の拳がそれらをさばいていく。
「鋼鉄島で、明らかに悩んでいた若いトレーナーが、よくここまで強くなった」
「その節はお世話になりました」
「あのときわたしが鋼鉄島にいなかったら……あのとききみが鋼鉄島に来なかったら……ずっと出会わないままだったのか、それともどこかで出会っていたのか」
「後者ですよ。ぼくたちは絶対に出会っていただろうし──どこでどんな出会い方をしても、きっとゲンさんはぼくのことを助けてくれた」
特性『しんりょく』が発動した状態での“ハードプラント”は、ルカリオの連撃に打ち勝った。
「また会おう、ゲンさん。そしてまた戦おう。ライバルだもんね」
:
「で、どうだった?」
6連戦、6連勝を終えたアクタは、サイコソーダで喉を潤しつつ、観客席に問いかけた。
「ヒカリさん、しょうぶどころでやっていけそうかい?」
「いや無理かも」
白い帽子の少女は、困惑ししつつ首を横に振った。
「ちょっとあたしには、レベルが高いな……」
「またまたあ。このサバイバルエリアに来る実力があるんなら、しょうぶどころでも通用するよ」
「それは、まあ……」
アクタやジュンに追いついた、とは言えなくても、シンオウ地方のジムバッジはすべて集め、バトルゾーンに船で渡って、自力でこの施設までたどり着いた。
だからといって、いきなりこの修行場に放り込まれても、困る。
「大丈夫だよ、モミさん・ミルちゃんの女子組も優しいし」
「……アクタ、あたしは?」
「マイさんのことは、あんまり真剣に考えなくていいから」
「……ちょっと……」
マイはアクタを睨むが、少年は口笛を吹いて無視する。
「未成年だから会費もいらねーぜ。あ、トレーナーカードだけコピーさせてくれよな」
てきぱきと書類を用意するバク。
「楽しいよ、ここは。ぼくは楽しかった」
「まあ、それは……なんとなくわかるけど……」
アクタの純粋な笑顔に、ヒカリはもはや諦めて首肯する。
「じゃあずっとここにいればいいじゃないか」とゲンが呟いたが、だれも反応しなかった。
「……わかった。もう、わかったから。でもアクタくん、先にあたしの用事を済まさせてくれる?」
「用事?」
ヒカリは、白い封筒をアクタに差し出した。
「研究所に届いた、アクタくん宛の手紙。カントー地方からだって」
そもそもヒカリは、この手紙を渡すためにここを訪れたのだ。
実力をつけたとはいえ、戦いたいがために「しょうぶどころ」に足を延ばすほど、バトルマニアではない。
「なんだなんだ、向こうのカノジョか?」
「それにしては地味な封筒ですね」
「そもそもアクタさんにカノジョなんていないでしょ」
「絶対いない……」
「うるさいよみんな! ──でも、だれだろう? オーキド博士ならメールでやり取りしてるし、グリーンにしたって、わざわざ手紙なんか書くタイプじゃないしなあ……」
さっそく封を開けて、中身を検める。
「…………ふーん」
難しい顔で、しかし興味深そうに、少年は唸る。
「ジョウト地方かあ」
アクタのプロフィール(マイのノートより抜粋)
名前:アクタ
特性:ノーコン
性別:男
身長:142cm
体重:38kg
血液型:AB
変声期:まだ
殿堂入り回数:2回
趣味:レポートを書くこと、ポケモンのブラッシング
特技:ポケモントローゼ
好きな食べ物:ケチャップをかけたもの
苦手な食べ物:トマト
好きなもの:ポケモン、ケチャップ
苦手なもの:シロナ、悪いことをするひと
好きな女性のタイプ:優しい年上のひと
好きな男性のタイプ:おもしろいひと
ケチャップを隠したときの反応:狼狽と号泣
好きなポケモン:何匹でもいいの? 1匹だけ? いやいや、ポケモンのことはみんな好きなのに、そこから絞るなんて無理に決まってるって。何匹でもいいのなら、まあ「全部」ってことになるけどさ。まずはフシギダ(以下省略)