ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート2 ヨシノシティ/最強への道

「ごめん、負けた」

 ウツギ研究所に戻ると、そこには博士と警察官がいた。

 チリアはとりあえず、勝負の結果を告げる。

「なんだねキミは? いまポケモン盗難事件の取り調べ中なのだが……」

 警察官は、訝しげにチリアを見つめる。

「捜査の法則その1、『犯人は現場に戻る』……ということはまさか! キミが!」

「違うけど」

「は ん に ん !?」

「違うってば」

「あのお、彼女は……」

 ウツギ博士も否定しようとしたところに、黄色い帽子の少年が駆け寄ってきた。

「ちょっと待って! このひとは関係ありません」

 ヒビキだった。

 彼に続くマリルは不安そうに周囲を見渡すが、チリアの姿を認めて、嬉しそうに飛び跳ねていた。

「ぼく、見たんです。真っ赤な髪をしたやつがここを覗いているのを!」

 ヒビキは、強い視線をチリアに向ける。

「ね!? 犯人はそいつだよね!?」

「うん。それはそう」

 警察官は、一層チリアに詰め寄る。

「! で、キミはそんな少年と戦ったというのかい? ふーむ、ということは犯人はその人物か……」 

 警官はヨシノシティから来たようだ。ワカバタウンにしてもヨシノシティにしても、ひとの悪意とは無縁な平和な地だ。どうやらこの警察官は、久しい「事件」に興奮しているようである。

「ところでその少年、どんな名前かわかる?」

「名前?」

 チリアは、すこし考える。

「いいえ、名前まではわかりません」

 首を横に振った。

「そうか……ご協力ありがとう! 本官のつぎなる行動は『赤い髪の人物を追え!』というわけだな!」

 張り切って去って行く警察官。

「チリア、疑いが晴れて良かったな! じゃあまたあした!」

 ヒビキも、安心した様子で去って行く。

「チリアちゃん……大変な目に遭ったよ。とりあえず事件のことは、警察に任せるとして──」

「はい、ヒノアラシ。『ひんし』っていう状態だから、治してあげて」

 ウツギ博士に、ヒノアラシが入ったモンスターボールを押しつける。

「わたし、帰るから。もう夜だし」

「そ、そうかい? じゃあまたあしたにでも話を……」

「あしたから旅に出るわ。そこんところよろしく」

 

 

 ヒノアラシとワニノコの実力は、まったくの互角であった。

 勝負を分けたのは、トレーナーとしての年季や戦略でもなく、ワニノコの“ひっかく”がヒノアラシの急所に当たったことである。

「……フン! 時間の無駄だったか」

 少年は、汗を拭って余裕な態度を見せる。

「………………」

 言いたいことはいくつかあるが、いまはなにを言っても負け惜しみだ。ぐっと呑み込んで、とりあえずヒノアラシをモンスターボールに戻す。

 体力が尽きた『ひんし』と呼ばれる戦闘不能状態だ。こうなれば『キズぐすり』なども効果がないことは、本の知識で知っている。

「あなたは、一体なんなの? ただの泥棒の振る舞いには見えないけど」

「……オレがだれだか知りたいか?」

 少年は、ワニノコをモンスターボールに戻す。

「それは……世界でいちばん強いポケモントレーナーになる男さ」

「シルバーっていうのね」

 チリアの手には、一枚のカードがあった。

「返せ! それはオレのトレーナーカード……!」

「落としてたから、拾ってあげたのよ。はいどうぞ」

 先ほど少年の頭にモンスターボールをぶつけてしまった際に落ちたのだ。駆け寄ったときに、しれっと拾っていた。

 詰め寄ってくる少年シルバーに、彼のトレーナーカードを差し出す。

「ふん……オレの名前を見たのか……」

「わたしの名前はチリア」

「お前みたいな弱いやつの名前なんか、憶える気はないね!」

「そう? きっと忘れられない名前になると思うけど」

 チリアは笑った。

 シルバーは一瞬、ぞっとする。

 それは、10歳の少女の笑みにしては、どこか妖艶で、魔性を孕んだものであった。

「……ふん!」

 走り去っていくシルバー。チリアはこれ以上彼を追わず、踵を返して、手元のモンスターボールを見つめた。

「いまのがポケモンバトルか……なーんか、おもしろいもの見つけちゃったかも」

 このあと、軽い足取りでワカバタウンに戻り、ウツギ博士に敗北を報告した。

 

 

 翌朝。

 自室にて、黄色い肩掛けバッグに物を出し入れする。

「服……どうしよっかな。あんまり持ってったらかさばるんだよね。サプリメントは小分けにして、化粧品はどうしよう……てゆうかポケモンセンターにどういうアメニティがあるのかしら。場所によるのかしら。あくまでも旅であって、旅行ではないわけだから、荷物は軽いに越したことはないわよね。でも万が一、野宿するようになったらけっこうヤバいな。ウェットティッシュはあり過ぎて困るものではないし、化粧水だの乳液だの、リキッド系って重いわりに必須になる。そもそも物が増える場合があるのよね。ポケモンに使うアイテムってやたら多いし……」

「なにバタバタしてんの?」

 日が高くなってもチリアが部屋から出てこないのは珍しい。チリアの母親は、物にあふれかえった部屋を見渡した。

「……大掃除?」

「旅の準備。言い忘れてたけどお母さん、わたしはきょうから旅に出るから」

「マジか。言い忘れんなよ……」

 母は面倒そうに頭を掻いて、部屋を去って行く。

「相変わらず放任主義だこと。いいんだけどね」

 荷造りを続けるチリア。悩んだ末に、あらかた荷物がまとまったところで、母が戻ってきた。

「ほいこれ」

 プラスチック製のカードを差し出される。

「なにこれ。キャッシュカード?」

「旅の間、大金を持ち歩くのは危険だからね。それに貯金しなさい。長い旅になりそうだもの、お金は大切にしないと」

「なるほど……で、いまはいくら入ってるの?」

「0円」

 ほんとうに貯金用らしい。

「なによその顔は。金くらい、自分で稼ぎなさい。きみは天才なんでしょ」

「そうだけどさあ。ふつう、いくらか入れてくれているもんでしょ」

 放任主義というか、厳しいくらいである。

 チリアはキャッシュカードを財布にしまって、動きやすい服に着替える。赤のトップスにサロペット。そしてリボン付きの白いキャスケット帽をかぶる。靴は、とっておきのランニングシューズだ。

「実際、どのくらい旅するの?」

「さあ……とりあえず、ジョウト地方はぐるっと一周しようと思ってる」

「そうかあ、がっつりやるのね。じゃあ数ヶ月単位になるだろう」

 玄関まで降りて、チリアはしっかりと母を見据える。

「お母さん。わたしがいなくても、ちゃんとご飯を食べて、ちゃんと寝るのよ」

「はあい」

「あと、掃除もちゃんとするのよ」

「……どっちが母親なんだか」

 母はバツが悪そうに目を逸らした。

「じゃあ、行ってくるから」

「あ、チリア」

 背中を向けた娘を呼び止める。

「きみがなにを目的に旅を始めるのか知らないけど、帰って来たいときに帰って来ていいんだからね。ここはきみの家なんだし」

「……うん」

「ちゃんとご飯を食べて、ちゃんと寝なよ」

 なんだ、ちゃんと母親らしいことも言うではないか──珍しく母の愛を受けて、チリアは振り返らずに、ひらひらと手を振った。

 

 

「ウツギ博士、ヒノアラシを取りに来たわ」

「あ、チリアちゃん! 旅に出るってどういうことなのさ!?」

 チリアは、あれだけ拒絶していた旅に出ると決めた理由を、まだウツギ博士に説明していない。

「なによ、旅に出ろと頼んだのはそっちのほうじゃない」

「それはそうだけど……急にさあ!」

 落ち着かないウツギ博士に、チリアは肩をすくめて呆れる。

「きのうも言ったけど、わたしはシル……あの泥棒に負けたの。ポケモンを持ち出して、おめおめと負けて帰ってきたの。こうなれば、わたしのモチベーションが発生するのもわかるでしょう?」

 ウツギは、敗北で悔しさを覚えたのかと──ひいては、以前から天才少女を自負するチリアが、ようやく挫折を覚えたのかと期待したのだが。

「だから、最強のトレーナーになろうと思ってさ」

 ウツギ博士の想像は、頭ひとつ飛び越えられてしまった。

「さ、最強って……?」

「あいつ、そういうこと言ってたのよ。だからわたし、あいつより先に最強の座について、ぐうの音も言わさずにワニノコを取り戻すわ」

 それが、ようやく見つけたチリアのモチベーション。

「研究の手伝い、そしてポケモン図鑑のデータ収集? そういうのはついでにこなすとしましょう」

 チリアは回復用のマシンから、ヒノアラシを眠るボールを手に取った。

 ボールの開閉スイッチを押して、足元に落とす。現れたヒノアラシはじーっとチリアの顔に見つめている。やがて、彼女の足元のにおいを嗅ぐ。

「ちょっと。まとわりつくなよ。その靴、新品なんですけど」

「嫌いなんだよね? ポケモンのこと」

「嫌いよ。でも好き嫌いなんて、意味ある?」

 チリアは鼻で笑う。

「わたしは自分の好き嫌いを克服するつもりはない。自分の性質として抱え込んだまま、目標を遂げてみせる。それで構わないでしょ?」

「………………」

 構わない、とは言いづらいところなのだが、ウツギ博士自身、10歳になったチリアにはポケモンとの旅を経験してほしいし、なによりオーキド博士の勧めもある。

「まあ、ヒノアラシもきみにすっかり懐いているようだし……」

「どこがよ」

「よし! このまま各地のポケモンジムに挑戦してみるのはどう? そして……すべてに勝ち抜いていけたら、その先に待っているのは……ポケモンリーグチャンピオン! ……なーんてね!」

「なるほど、ポケモンリーグか。最強の座に着くには、それがいちばん手っ取り早そうね」

 おどけるようなウツギ博士の語り口とは裏腹に、チリアはすっかりその気である。ポケモンジムは各地にあるし、旅の指針とするにはちょうどいいのだが。

「すごいやる気だね……チャンピオンを目指すのは簡単なことではないけど、とりあえずここから一番近い、キキョウシティのジムに挑戦してみたら?」

「そうする。じゃあ、行ってくるわね」

 チリアは、ヒノアラシをモンスターボールに収めようとするが。

「あ、チリアちゃん! ポケモンはできるだけ、連れ歩いてほしいんだ。研究のために……」

「ああ、そうだったわね」

 ポケモンを連れ歩くことにより、成長や進化に影響が及ぶのか。それが、現在のウツギ博士の研究である。

「行くわよヒノアラシ。ついてきなさい。遅れても知らないわよ」

 まるで気遣いなく、すたすたと歩いていくチリア。ヒノアラシは戸惑いつつ、急いで少女の後ろに続いた。

「……不安だなあ」

 少女たちを見送ったウツギ博士は、深く、ため息をついた。

 

 

 さっそく、29番道路。

 ヨシノシティに行くときはいつもバスを使うので、この道路を歩くのは初めてだ。野生のポケモンが飛び出してくるため、自衛の手段を持たない子どもだけでは、入っていけないことになっている。

 しかしいまは違う。

 チリアにはヒノアラシがついている。

「きみ、バトルに関しては問題ないわよね?」

 チリアの後ろで、落ち着かない様子で周囲を見渡すヒノアラシに問いかける。

「きのうは負けたけど、あんなのほとんどマグレ決着だしね。もっとポケモンバトルの感覚を知りたいな」

 まずは、野生ポケモンを相手に経験を積むべきだろう。勇んで草むらを進むが──

「お、来た来た!」

 現れたのは、野生のポケモンではなくヒビキだった。

「ヒビキじゃない。こんなところでなにしてんの?」

「ウツギ博士から聞いたけど、チリアは旅に出るんだろ? ぼくもトレーナーカードを持ってるし、旅をしようと思って……」

 ヒビキは少女の背後にいるヒノアラシに気づく。

「きみが貰ったのは……ヒノアラシか! さすがいいポケモン選んだな!」

 ヒビキのマリルは、さっそくヒノアラシに近づくが、ヒノアラシはたじろいでいる。研究所で育ったせいか、気が小さいらしい。

「いいポケモンかどうか、わたしにはまだわからないけどね」

「そ、そんなこと言うなよ……そうだ! モンスターボールがあれば野生のポケモンを捕まえられるって知ってるか?」

 ポケモンの捕獲。

 オーキド博士から受け取ったポケモン図鑑のデータを埋めるにあたって、それは必須なスキルであろう。チリアもそのやり方に関しては知っているが、あくまで物の本から得た知識に過ぎない。

「ちょっと僕についておいで」

 チリアの返事を待たず、得意顔のヒビキはマリルを連れて草むらを探る。

 現れたのは、紫色の体毛のねずみポケモン、コラッタだ。戦闘が始まる。

「マリル、“たいあたり”!」

 いつもはパッとしない少年だが、ポケモンバトルの経験はあるらしい。その点を考慮すれば、チリアよりは先輩である。

「こうして体力を減らして、モンスターボールを投げれば……」

 赤と白の球体が、ダメージを負ったコラッタに直撃する。モンスターボールが何度か揺れたあと、カチッとした音がして、コラッタが捕まった。

「……とまあ、こんな感じ!」

「へえ、お見事」

 チリアに素直に褒められ、ヒビキは顔を赤くしてはにかむ。

「えへへ……もっと相手を弱らせたり眠らせたりすると、さらに捕まえやすくなるよ。あとは自分でいろいろ工夫してみるといいね」

 気を良くしたのか、ヒビキがリュックからモンスターボールを5つ取り出して、チリアに差し出した。

「これあげるからやってみな!」

「気が利くじゃない。じゃあやってみるわよ、ヒノアラシ」

 ヒビキに倣い、チリアも草むらを探ってみる。

 やがて、縞模様の大きな尾を持つポケモンが飛び出してきた。オタチだ。

「“たいあたり”」

 及び腰のヒノアラシだったが、チリアの指示には即座に従う。目の前のオタチに身体全体をぶつけた。オタチも“ひっかく”で応戦するが、ヒノアラシに対してはあまり大きなダメージにはならない。

「ヒノアラシ、もう一度“たいあたり”」

 チリアは空のモンスターボールを構える。オタチに与えるダメージは十分だろう。

「ここだ……!」

 振りかぶって、モンスターボールを投げた。

 ボールは、オタチの頭上を飛び越えた。

「………………」

「……チリア、惜しかったね! ほらもう一回!」

 手元が狂ったのか──しかし投げる手に特に違和感を覚えなかったのが、逆に気になる。とにかくヒビキの励ましを受けて、ふたつ目のモンスターボールを構えた。

 心は落ち着いている。

 投げる角度。投げる力。頭のなかでなんどかシミュレートして、そして実行に移す。

「当たれ!」

 当たらなかった。

 モンスターボールは、明後日の方向へと飛んで行った。

「………………」

「………………」

「……ヒノアラシ、“たいあたり”」

 オタチを倒した。

「ち、チリア……?」

「A.モンスターボールに問題がある。B.私に問題がある」

 原因を仮定すれば、おのずと検証すべき課題が見えてくる。

「もう一戦、やってみましょっか。最悪の結果は、わたしがとんでもないノーコンだということね」

 残り3つのモンスターボールと、落ちていた小石で試行した結果──残念ながら答えはBであった。

 完璧な人間はいない。

 裏を返せば、どんな人間でもなにかが不足しており、あるいは致命的な欠落がある。

 たとえ天才だとしても。

 さしずめ、チリアには「投げる」能力が欠如していた。

 

 

────

 ここはヨシノシティ。

 花の香りただよう街。

────

 

「やな感じ。まさかノーコンとはね」

 ポケモンセンターにて。

 チリアとヒビキは、ヒノアラシとマリルを預けて回復させている。

「え、えーと……なんていうか」

「無理して慰めなくていいわよ」

「あ、うん……ごめん」

「謝らなくていいわよ」

「う、うん、ごめ……」

 口をつぐむヒビキ。沈黙が訪れて、妙に気まずい雰囲気になってしまう。チリアは浅くため息をついた。

「べつにあなたが気にすることないじゃないわよ。わたしの問題だし」

「それは……」

「どうやら最強のトレーナーへの道は、過酷なものになりそうだわ」

 落ち込んでいるのはヒビキだけだ。

 チリアのほうは、この事実を後ろ向きにはとらえていない。

「最強の……?」

「ノーコンを克服しない限り、ポケモンをゲットするのは望めなさそうね。だったらしばらくはヒノアラシだけを頼りにしなきゃいけないわけだ」

 これは大きなハンデだ。

 だからといって、目標を諦めるつもりはなかった。

「これから大変になるわね。まあいいか。わたしは天才だし」

「……チリアは、すごいね」

 ヒビキは苦笑する。

「こんな状況でも、ちっとも落ち込んでないんだ。それどころか、逆に燃えているみたい」

「わたしが燃えているかどうかはともかくとして、落ち込むってのは、意味がないもの。ただ自分を哀れんでも事態は好転しない」

「そっか……そうだね」

 チリアは窓の外を見る。そろそろ夕方だ。

「ちょっと早いけど、もうきょうはポケモンセンターに泊まろうかな」

 ポケギアには宿泊施設があり、トレーナーズカードさえあれば18歳未満は無料で滞在できる。

「あ、じゃあぼくも……」

「そういえばヒビキって、このままわたしについてくるわけじゃないわよね?」

「え」

 少年の顔が硬直する。

「わたしはひとりで旅するつもりだったから、だれかと一緒に旅するとかイヤなんだけど」

 ヒビキは、しばらく黙り込んだかと思うと。

「も、もちろん! ぼくだって一人旅のつもりさ!」

「そうよね」

「だって、こういう旅なんかはさ! 自分とポケモンの力で乗り越えないと! ほかのだれかに頼るのは違うもんね!」

「そうよね。なんか、泣いてない?」

「泣いてないよ!」

 ヒビキは回復が終わったマリルを受け取って、足早にポケモンセンターを去って行った。きょうは宿泊せずに、もうすこし旅の道のりを進みたいらしい。

 チリアもヒノアラシを受け取った。

 ヨシノシティの海岸。オレンジ色の夕日に照られた砂浜で、ヒノアラシが入ったボールを放る。

 ボールは水没した。

「やべ」

 幸いにも、ボールが落ちたのは波打ち際だったので、出てきたヒノアラシはすぐに砂浜まで戻ってきた。ぶるぶると身を震わせて、海水を払う。

「ごめん。ほのおタイプなんだから、水場には気をつけないと」

 ノーコンという弱点ひとつで、なかなか課題が増えるものだ。チリアはかがんでヒノアラシに語りかける。

「きみには、最強のポケモンになってもらう」

 ヒノアラシは、主人の言葉の意味を分かっているのか否か、ただ少女を見上げる。

「これからきみ以外のポケモンを入手する機会があるのかどうかわからないけど、あらゆる不運を考慮すると、やはりわたしのポケモンはきみだけということになると思う。その場合、わたしが最強トレーナーになるためには、きみにも最強になってもらう必要がある」

 これは重圧だろうか。

 ポケモンにとっても、トレーナーにとっても。

「わたしはポケモンが好きじゃない。どちらかというと、嫌い。それはきみのことも例外でもない」

 でも。

「でも、最強への道に付き合ってもらう。その代わりにワニノコだって取り返してあげる」

 少女の進む道は、過酷だ。自身が天才だという自負、それ故に。

 あるいは、自身に刻まれた古い傷跡を忘れるために。

「一緒に来なさい」

 その命令に、ヒノアラシは大きく鳴いて、応えた。

 




ヒノアラシ ♂
 おくびょうな性格
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