ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート3 マダツボミの塔/絆て

 ヨシノシティのフレンドリィショップで、モンスターボールや『キズぐすり』などのアイテムを買い込む。

「否が応でも嫌いでも、ヒノアラシを大切にしないと。回復とかは気をつかって──モンスターボールは無駄になる可能性のほうが高いけど、やはり好機があれば野生ポケモンのゲットを狙いたい」

 ワカバタウンよりすこしだけ都会なヨシノシティは、たまに買い物に来る。それでも、フレンドリィショップでポケモン関連のアイテムを見つくろうなんて初めてだった。

 おおむね準備を整えたところで、さっそく30番道路へ進む。

 このあたりまでは、ウツギ博士のおつかいで来たことはある。通称「ポケモンじいさん」という男から、ポケモンのタマゴを受け取ったのだ。もっとも、そのときは徒歩ではなくタクシーを使った。

「歩いてみると、景色も違って見えるものね」

 野生のキャタピーを、ヒノアラシの“たいあたり”が倒す。

 ヒノアラシは気が小さいが、それでも強い。そもそも種族として、29番道路や30番道路にいる野生ポケモンより優れているのだ。もはやチリアは景色を楽しむ余裕すらある。

「でもそろそろ、野生ポケモン相手じゃ物足りなくなってきたわね。たしかこの辺り、ポケモントレーナーがいたと思うんだけど……」

 などと周囲を見渡していると、短パンの少年を発見した。彼はチリアと目が合うと、こちらに近づいてきた。

「こんにちは。なにをしているの?」

 いきなりバトルを申し込むのは不自然だと思ったので、まずは、自然に話しかけてみるチリア。

「さっき負けて悔しいから、ポケモン探してるんだよ」

「ポケモンバトルに?」

「うん。でもきみ弱そうだな……よしっ! 勝負しようぜ!」

 なんとも失礼な少年である。俄然、戦意が湧いてきたチリアはもちろん「いいよ」と応戦する。

 短パン小僧が繰り出したのはコラッタ。もう何度も戦ったポケモンだ。なのに、一度もモンスターボールが当たらなかったポケモンだ。

 さて。対人のポケモンバトルを行うのは、シルバーとの初戦以来ではあるが、この段階において、チリアはヒノアラシ1匹でできる戦略を組み立てていた。

「ヒノアラシ、“えんまく”」

 背中から発する黒煙が、コラッタの視界を覆う。

「つぎ、“にらみつける”」

 ヒノアラシの気弱な切れ目が、相手の防御を下げる。

「あとはどんどん“たいあたり”」

 相手の能力を下げることでアドバンテージを取る。まだレベルの低いヒノアラシにとって、これが最善の戦略であろう。

「ああ、もう戦えるポケモンいないや」

 コラッタが倒れて、短パン小僧は降参した。

「うん、いい感じ。上出来よヒノアラシ。そうやってぜんぶの戦いに勝っていけば、やがて最強だからね」

 主人の言う「机上の空論」を呑み込み、ヒノアラシは元気に鳴いた。

 

 

 トレーナー同士、目が合ったらポケモン勝負。

 敗者は勝者に賞金を渡す。

 相手のポケモンは捕まえてはならない。

 逃げてはならない。

「なかなか面倒ね。──まあ、おかげでポケモンバトルがどういうものなのか、いよいよわかってきたわ」

 31番道路。

 これまで、野生のポケモンやトレーナーとの戦いをすべて勝ち抜いたチリアだが、ヒノアラシが疲弊するたびにヨシノシティのポケモンセンターまで戻っていたので、キキョウシティに到着するころには、すっかり日が暮れていた。

 

────

 ここはキキョウシティ。

 懐かしい香りの街。

────

 

 ポケモンセンターでヒノアラシを回復させて、さっそくチリアはポケモンジムへ向かった。

『キキョウシティポケモンジム。リーダー、ハヤト。華麗なる飛行ポケモン使い!』

 看板を一瞥して、自動ドアをくぐる。

「おーっす! 未来のチャンピオン!」

 いきなり、眼鏡の男に話しかけられた。

「ジムリーダーのハヤトに挑戦しに来たんだろう? だーいかんげい! ……と言いたいところだが、ちょっと待った!」

「なんなの、あなた」

 ジムの人間には見えない。受付の窓口は別である。

「おれのことはどうでもいい!」

「………………」

 だったら無視してしまおうかと思ったが。

「この街には『マダツボミの塔』という修行の場所があるんだ。そこの修行に耐えられるぐらいでないと、ジムに挑戦するなんてまだまだ早いだろうなあ。はっはっは!」

 情報は、無視できない。

「こことはべつに、修行の場所があるのね。一応行っとこうかしら……情報をどうも」

「おう!」

 謎の男とジムに背を向け、街の北にそびえ立つ塔を目指す。

『ここはマダツボミの塔。ポケモン修行を通じて、迷いを断ち切りなされよ』

 石橋を渡った先。看板に書かれているあたり、ジムの男の言うとおり修行場であるようだ。てっきり、ただの観光地かと思っていたのだが。

 中に入ると、まず目につきのは中央に立つ巨大な柱だ。柱は微妙に揺れている。

「30メートルもの巨大なマダツボミ。その身体が、塔の中心の柱になったと言われてるんじゃ」

 近くの老婆が解説してくれる。チリアは、改めて柱を見上げて。

「そんなわけないでしょう」

「容赦ないのお、最近の若者は」

 修行のやり方は簡単であった。ただ塔の最上階を目指し、その道中、僧侶たちと戦えばいいらしい。最上階の長老に認められれば、修行はクリアだ。

「我々が大暴れしても、この塔はびくともしません!」

 坊主頭の僧侶たちは、チリアが修行のトレーナーであることを認め、目が合うなりポケモンを繰り出してきた。30番道路、31番道路のトレーナーたちとおなじように。

「マダツボミ!」

 塔の名のとおり、全員がマダツボミを使ってくる。

「くさタイプってことは、ヒノアラシは有利ね。強気に行きなさい」

 マダツボミたちの“つるのムチ”は、ほのおタイプのヒノアラシに威力を発揮しない。チリアたちは順調に塔を登っていく。

 そういうわけで、最上階。

 ここまでは順調だったのだが、意外なことに、この修行には先を行く者がいた。

「そなたの実力、たしかに偽りなし……」

 恐らく「長老」である老人は、赤い髪の少年と対峙している。

「だが……もうちいっとポケモンを労わるべきですぞ。そなたの戦い方は、あまりにも厳し過ぎる……ポケモンは戦いの道具などではないのです……」

 少年は──シルバーは、長老の言葉を無視するように背を向ける。

「………………」

「こんにちは、シルバー。あなたも修行に?」

 気さくに声をかけてくるチリアに、少年は鬱陶しそうに目を逸らした。

「どうだった?」

「……フン! 偉そうに長老なんて名乗っているくせして、ぜんぜん歯ごたえないじゃないか」

 どうやら、彼にとっては物足りない修行だったらしい。

「……当然だな。ポケモンに優しくとか、そんな甘いこと言ってるやつにオレが負けるわけがない。オレにとって大事なのは、強くて勝てるポケモンだけ。それ以外のポケモンなんかどうだっていいのさ」

「あっそ。どうでもいいけど、ワニノコを返してほしいんだけど」

 シルバーは、少女を睨む。

「……お前が、どうだった、って訊いてきたんじゃないか」

「社交辞令よ」

「………………」

 しばらく、睨み合って。

「……いいや。わたしもここには修行に来たんだもん」

 折れたのはチリアだった。少女は、シルバーの横を通り過ぎる。

「またつぎ会ったときにやりましょう。わたしもぼちぼち、まともにポケモンバトルができるようになったんだよ」

「……フン!」

 足早に去って行くシルバー。チリアは、長老の前に立つ。

「よろしいかしら?」

「うむ、よくぞここまで参られた!」

 長老は、先ほどのシルバーとの戦いで傷ついたポケモンたちを回復させている。

「このマダツボミの塔は、ポケモンとひとが明るい道を築けるか、修行で確かめる場所。そして最後の試練はこのわたし」

 チリアは後ろを歩くヒノアラシに目配せをする。戦闘を察したヒノアラシは、少女の前に出る。

「ではそなたとポケモンの絆、確かめさせてもらいますぞ!」

「絆、ね」

 先ほどシルバーが言っていた意見には、じつはおおむね、チリアも同意であった。

 ポケモンに優しく。そんなことが大事とは思わない。

 強くて勝てるポケモンが大事。なるほどそれも真理なのだろう。

「さあマダツボミ! “つるのムチ”!」

 いまチリアにとって大事なのは、ヒノアラシ1匹で、勝ち続けるようになることだ。

「ヒノアラシ、“ひのこ”!」

 背中の発火器官から小さな炎が発射される。ようやく取得したほのおタイプの技は、くさタイプのマダツボミを一撃で戦闘不能にした。

「やりますな。ではこちらはいかがかな?」

 長老が続けて繰り出したのは、大きな目のふくろうポケモン、ホーホーだ。

「ひこうタイプのポケモンか。キキョウジムの挑戦前に、ちょうどいい練習かも──もう一回、“ひのこ”」

 炎はホーホーの羽を焦がすが、戦闘不能には至らない。

「攻撃だけがポケモンバトルにあらず──“さいみんじゅつ”」

 ホーホーの目から放たれる波動に、ヒノアラシは『ねむり』の状態に陥った。

「うわ、状態異常……!」

 ポケモンの動きを封じる状態異常は、チリアにとって課題のひとつであった。『ひんし』ではないにせよ、状態異常ひとつでポケモンの行動はかなり抑制されてしまう。『ねむり』状態なんかは特に顕著だ。眠っているから、動けない。

「ヒノアラシ、“ひのこ”」

 ヒノアラシが目覚めるかどうか、それはヒノアラシ自身に委ねるしかない。仮にチリアが声を荒げたとしても、それは大して意味がないのだ。

「ヒノアラシ、“ひのこ”だってば」

 ホーホーは“つつく”で攻撃してくるが、無防備なヒノアラシに、ひたすらチリアは指示を続ける。

 ポケモンに優しく?

 強くて勝てるポケモンが大事?

 そんなの、驕りにしか聞こえない。

 ポケモンにどう接しようと。ポケモンが弱かろうが強かろうが。

 チリアには、ヒノアラシしかいないのだ。

「なにを眠っている。最強のポケモンになれという命令に、きみは応じたじゃない」

 ホーホーのくちばしに襲われ続けたヒノアラシは、やがて覚醒する。

「“ひのこ”!」

 火炎がホーホーを呑み込み、勝負は決着した。

「ううむ、お見事」

 戦闘不能になったホーホーをモンスターボールに収め、長老は満足そうに頷く。

「ふうむ……そなたの戦い方、やや力押しではあったが、しかしじつにムダがない。それならばハヤト殿とも互角に渡り合えるだろう」

「そうかしら」

 足元に寄ってくるヒノアラシを、チリアはなんとなく撫でた。

「課題はある。力押しはよろしくないもの。状態異常をもらったときは、すぐにアイテムを使って回復したほうがいいわね。待ってても時間の無駄だ」

「ほっほっほ、けっこうけっこう」

 長老は嬉しそうに、身を揺らして笑う。

「まだ粗削りな腕ではあるが、そなたとヒノアラシの絆は疑いようもない」

「……絆?」

 不快そうに首を傾げるチリアをよそに、老人は少女たちを祝福する。

「どうか、これからもそなたの旅が、実り多いものでありますように」

 




ヒノアラシ ♂
 おくびょうな性格
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