ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート4 キキョウシティ/火の嵐

 キキョウシティポケモンセンターの食堂で、チリアは優雅に朝食を摂った。

 トースト2枚(バターなし。ジャムなし)、サラダ(ドレッシングなし)、ベーコン、ゆで卵(調味料なし)、ヨーグルト(砂糖なし)、バナナ、お湯。不足している栄養素はサプリメントで調整する。

 ヒノアラシは少女の足元で専用のフードを食べる。

「……いいわね。きみらポケモンは、完全栄養食があって。いい加減、人類もそっち方面に移行したらいいのに」

 ヒノアラシは少女の言葉の意味を分からず、首を傾げた。

 エネルギーを摂取したあとは、フレンドリィショップで必要な回復アイテムを購入する。

 準備を万端に整えたところで、チリアとヒノアラシは再度、キキョウジムを訪れた。

「おーっす! 未来のチャンピオン!」

 今回も入り口には眼鏡の男がいた。

「だから、なんなのよあなたは」

「おれのことはどうでもいい!」

「どうでもいいけど、どうでもよくない。こちとら美少女のひとり旅。知らないおとなの男に話しかけられれば、身構えるわよ」

 美少女を自称するチリアに、男は若干引くものの、なお食い下がる。

「たしかにおれは、ポケモンジムの人間ではないし、トレーナーですらないが、アドバイスはできるぜ!」

「………………」

「信じろよ! 信じればチャンピオンも夢じゃない!」

「結局、何者なのかは答えないつもりね」

 だが、ポケモンジムの情報を知れるのはありがたい。この男の見据える先にほんとうにチャンピオンの座があるのかわからないが──

「……いいでしょう。わたしにアドバイスすることを許すわ」

「めちゃくちゃ偉そうだな……でも、そうか聞いてくれるか!」

 男は咳払いをして、アドバイスを始める。

「いいか! くさタイプはひこうタイプとものすごく相性が悪い。要注意だぜ!」

 内容は、チリアには関係ないもののようだった。少女はがっかりした様子を隠さず、ため息をつく。

「な、なんだよ!」

「べつに……もういいから、ジムチャレンジのやり方を教えてくれる? ──あ、やっぱりいいわ。受付のひとに聞く」

「いや! おれが教える! 教えさせてくれ!」

 第一に、ジム戦は「公式試合」であること。一般的なポケモンバトルと内容は変わらないものの、その勝敗は厳密なルールによって決められる。

 第二に、使用できるポケモンは6匹であること。

 第三に、使用できる技は1匹につき4つであること。

 第四に、道具は認可を得ているものしか使ってはいけないこと。

「あと、ジムによっては様々な仕掛けがある。途中にはジムトレーナーがいるし、いかにスマートにジムリーダーのもとにたどり着けるのか、そこもトレーナーとしてのセンスの見せどころだな!」

「ふうん……なんだか簡単そうに思うけど」

 ジムチャレンジはすぐに始められるようだ。チリアの目の前には、木製の床がある。

「高いところは平気か?」

「……? たぶん」

「そうか! じゃあ張り切って行ってこい!」

 男に見送られて、チリアとヒノアラシは床の上に乗った。

 その瞬間、高速で床が上昇していく。スタート地点からずいぶんと離れた上層部。天高いフィールドが、ジムチャレンジの舞台であった。

「これ、エレベータだったの。それにしても、ずいぶんと高く造ったものね」

 ヒノアラシは、突然の高所にびくびくと震えている。

「なにやってんの、おいてくよ」

 目の前の一本道をこのまま進めば、ジムトレーナーと戦ったのちにジムリーダーに到着する仕組みになっている。しかし──

「あら? こっちにも通路があるじゃない」

 脇道に逸れた道を行けば、どうやらジムリーダーのもとまで直行できるようだ。

 ただし、通路は透明だった。

「ヒノアラシ、こっちの道を使いましょう」

 主人の提案に、ヒノアラシは抗議するように鳴く。というか、泣きそうである。

「いいから来なさい。ただの床じゃん。ガラス……分厚いアクリルね。わたしやあなたの体重で割れるとは思えないわ」

 チリアは爪先で透明な床を蹴る。その行動に、ヒノアラシは激しく震える。

「抱き上げたりなんかしてやらないわよ。どうしても歩きたくないというのなら、モンスターボールに入る?」

 ヒノアラシは、想定してしまう。

 モンスターボールに入る。

 →バトルが始まれば、投げられて呼び出される。

 →チリアはノーコンなので、モンスターボールとともに、自分は下層に落ちていく。

 悲鳴のように鳴いて、ヒノアラシは断固拒否した。足を踏み外さないように小走りで、チリアの後ろについていく。

「それでいいのよ」

 チリアはまるでペースを落とさず、透明な床を歩いた。

 見下げれば、はるか遠い下層。通路自体、人間ひとり分くらいの幅しかない。

 しかし少女は、まるで動揺せずに通路を渡り切った。──ヒノアラシも、がくがくと震えつつも、主人にぴったりと寄り添いつつ、道をクリアする。

「すごいなあ、きみは。スタートからおれのもとにたどり着くまで、歴代最速だと思うよ」

 通路のゴール地点。和装の青年は、感心してチリアを迎える。

「あなたがジムリーダーね?」

「そう! おれがキキョウジムリーダーのハヤト! 世間ではひこうタイプのポケモンなんか、電撃でいちころ……そんなふうに馬鹿にする。おれはそれが許せない!」

 そのような世間の声は、すくなくともチリアは聞いたことなかったが。

「でんきタイプにコンプレックスが?」

「いわタイプとこおりタイプも許せない!」

 弱点のタイプを疎んでいるあたり、とにかくひこうタイプにこだわりを持っているようだ。

「それにしても、この高さは無意味じゃなくて?」

「いやいや。高いからこそ、鳥ポケモンの気持ちがわかるのさ」

「気持ち、ねえ」

 つまり無意味なのだと、チリアは勝手に納得した。

「どうも理解を得られないみたいだが……大空を華麗に舞う鳥ポケモンのほんとうのすごさ、思い知らせてやるよ!」

 ハヤトは、空高くモンスターボールを投げた。空中で現れたのは、ポッポ。チリアも道中、何度も野生ポケモンと戦った。

「ヒノアラシ、もうビビってないわよね。やるわよ」

 震えを押さえて、ヒノアラシは前に出る。

 審判の合図とともに、ジムリーダーハヤトとのバトルが始まった。

「ヒノアラシ、“ひのこ”」

 先手の攻撃で、ポッポにダメージを与えるが。

「ポッポ、“すなかけ”!」

「うわ」

 砂を巻き上げられ、命中率を下げられてしまった。何発も喰らうと厄介だ。

「当たり前だけど、野生のポッポとはわけが違うわね……もう一度、“ひのこ”!」

 何度も“すなかけ”を喰らってしまえば厄介だ。勝負を急ぐ必要があると判断し、さらなる攻撃を指示する。

 小さな火炎は辛うじてポッポに命中し、戦闘不能にする。チリアは思わず、胸を撫で下ろした。

「……なにをほっとしてるんだ、わたしは」

 これまで、ポケモンバトルなんてもっと冷静にやってきたはずなのに。予想外に昂っている自分に、少女は戸惑いを覚える。

「ようやく風に乗ってきたところさ!」

 ハヤトの繰り出す2匹目。このジム戦において、最後のポケモンだ。

「ピジョン!」

 それはポッポに似ているが、身体は大きく、赤い鶏冠が目立っている。ポッポが進化したポケモン、ピジョンだ。

「攻撃一辺倒じゃ苦しそうね。じゃあ、さっきの仕返しに……“えんまく”」

 ヒノアラシが黒煙を発射する。“すなかけ”同様、相手の技の命中率を下げる技だが──

「効かないね」

 ピジョンの特性は『するどいめ』。技の命中率は下がらない。

「しまった。マジか」

「ピジョン、“かぜおこし”!」

 激しい風がヒノアラシを襲う。

「……“ひのこ”」

 チリアは攻撃を指示する。おさげをくるくるいじりつつ、冷静さを保つ。

 “えんまく”は無意味。

 メイン攻撃は、タイプが一致している特殊攻撃の“ひのこ”。防御を下げる“にらみつける”や、先制攻撃の“でんこうせっか”は、使い時ではない。

 選択肢は限られている。

 こうして攻撃を続けて、果たして勝てるのか──

「……よしピジョン、“はねやすめ”」

 2発の“ひのこ”を受けたところで、ピジョンは地面に羽を下ろした。

「体力回復の技まで持っているの?」

「器用なもんだろ? これがひこうタイプさ!」

 加えて、回復を上回るダメージを与えなければならない。チリアは続けて“ひのこ”を指示するが、こんどは攻撃が外れた。

「最初に喰らった“すなかけ”が効いてきたか……」

 ヒノアラシは、申し訳なさそうにチリアを振り返るが──

「おもしろ」

 少女は、口元に笑みを浮かべていた。

「……おや、余裕そうじゃないか」

 ハヤトは少女を不気味に感じつつ、問いかける。

「そうでもないわ。でも、なんだか今後が楽しみになってきた。これから戦う相手は、あなたみたいに戦略を持った戦いをしてくるでしょう。そしてヒノアラシも、成長して戦い方に幅が出てくるでしょう。そう思うと、ちょっと楽しみになってきてね」

「だったら、いまこの勝負のことは諦めるのかい! “かぜおこし”!」

 大きなダメージを受けるヒノアラシに、チリアは歩み寄って、『キズぐすり』を使用した。

「いいえ、勝つわ。アイテムを使いまくってでも、勝つ」

 ヒノアラシはしっかりと立ち上がり、ピジョンに向かって行く。

「“ひのこ”!」

 ひたすら火炎を発射する。やみくもに攻撃しているわけではない。チリアの期待は──

「うっ……しまった、『やけど』か!」

 炎が、ピジョンの翼を焦がす瞬間である。

「“ひのこ”は低確率で相手を『やけど』状態にする。命中率が下げられたのは痛かったけど、なんども喰らわせれば、いずれ必然的な『やけど』よね?」

「ピジョン、“はねやすめ”で回復だ!」

 体力を回復させるが、同時に『やけど』による時間経過分のダメージも受ける。

「もはや羽を休めたくらいじゃ取り返せない。“ひのこ”」

「まだだ! まだまだ飛べるぞっ! “かぜおこし”!」

 火花散る──否、火の粉が散る激しい戦い。最終的に制したのは、『やけど』によるアドバンテージを得た、ヒノアラシであった。

「わかった……いさぎよく地に降りるよ」

 ピジョンが力なく落下するのと同時に、ハヤトはポケモンをモンスターボールに収めた。

「……ちくしょう。父さんが大切にしていたポケモンが……」

 ボールに眠るピジョンを、悔しそうに胸に抱くハヤト。どうやら彼には、負けたくない理由があるらしい。

「どうでもいい」と思ったチリアであったが、さすがに口には出さない。

「だが負けたものは仕方ない。ジムを突破した証として、ポケモンリーグ公認のジムバッジを持っていけよ! おれからきみに贈るのは、このウイングバッジだ!」

 鳥の羽を模したバッジだった。受付で貰った、専用のバッジケースに収める。

「どうも。これでひとつ目」

「さらに、おれからはこのわざマシンをあげよう」

 差し出されたのは、ディスク状のアイテムだった。

「わざマシンを使えば、一瞬でポケモンに技を教えることができる! ただし使い捨てだから、よく考えて使わないとな」

「へえ。それで、このわざマシンにはどんな技が記録されてるの?」

「“はねやすめ”が入っている。さっきの戦いでわかったと思うが、これは最大体力の半分の量を回復させられる技だ。この先、いろんな街にポケモンジムがあるから、有効に活用してくれ」

「………………」

 チリアは、足元のヒノアラシにわざマシンを差し出す。

「羽を生やしなさい」

「無茶言うなよ……」

 どうやら、いまのところは有効に活用できない。

「まあいいわ。ところでハヤト。ここから一番近いポケモンジムは、どこかしら?」

「えっと……」

 まさかの呼び捨てに、面食らうハヤトだったが。

「つぎは……そうだな、ヒワダタウンにでも行ってみるといいかもな」

「ヒワダタウンね。ありがとう」

 まだ10歳らしい少女。その立ち振る舞い自体は、おませを通り越しておとなびて見えるが──バトルを純粋に楽しんでいる姿は、ハヤトには眩しく見えた。

「きみにも負けていられないな。おれは最強の鳥使いになるため、ポケモンと己を鍛えるよ!」

「そう。がんばりなさい」

 それにしても、偉そうな子だと思った。

 

 

「ナイスファイト! その調子で一気にポケモンチャンピオンだぜ!」

 眼鏡の男の声援を背に、チリアはキキョウジムを後にする。

「とりあえずきみのこと、回復させないとね」

 背後を歩くヒノアラシを振り返る。

「……まあ、なんというか」

 ポケモンは好きじゃない。むしろ嫌いだ。

 だからといって、たった1匹でジム戦を勝ち抜いた自分のポケモンを、労わないのは不義理というものである。

「よくがんばっ……」

 言葉の途中で、バッグに下げたポケギアから着信音があ鳴った。

『もしもしチリアちゃん!』

 ウツギ博士だ。

「なあに? いま忙しいんだけど」

『ごめんごめん、すぐ済むから! ──ええと、前にポケモンのタマゴを受け取りに行ってもらったこと、憶えてる?』

 博士のおつかいで、30番道路に住む通称「ポケモンじいさん」からポケモンのタマゴを受け取ったことがある。そのときはポケモンを持っていなかったので、バスとタクシーを使ったのだが。

『あのタマゴ、きみに持っていてほしいんだ! ぼくの助手がキキョウシティのフレンドリィショップに行ってるはずだから、そこでタマゴを受け取ってよ!』

「ポケモンのタマゴって、じゃあ……」

『孵化したポケモンは、そのままきみが育ててくれて構わないから! それじゃ!』

 電話が切れる。

 チリアは、ヒノアラシをちらりと見る。ヒノアラシは不思議そうに首を傾げる。

「……きみに仲間ができるかもしれないわよ。良かったわね」

 




ヒノアラシ ♂
 おくびょうな性格
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