ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
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ここはクチバシティ。
クチバはオレンジ、夕焼けの色
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マサキにもらった、サント・アンヌ号への招待チケットを使うために、アクタはクチバシティを訪れた。
さっそく港に向かおうとしたが、道中で「ポケモンだいすきクラブ」なる集まりを見つける。
「行かなければ」
「ポケモンだいすきクラブの会長はわしじゃ! 飼ってるポケモンは100匹を越えとる! ポケモンに関してはホントうるさい! ですぞ!」
髭の老人はアクタを歓迎した。
「で……きみはわしのポケモン自慢を聞きに来たのかね?」
「聞きましょう」
「そうか!ではさっそく始めるか! あのな……わしのお気に入りのギャロップがな……」
「ふむふむ……」
「……では……が……かわいくてな……」
「ははあ……どうなって……」
「たまらん……くう……」
「そりゃあそう……だって……」
「……さらに……もう……」
「そんなことが……でも……」
「すごすぎ……で……」
「よっぽど……ですかね?」
「……そう思うか……どうして……」
「ぼくとしては……重さとか……」
「好き……はー!」
「はー!」
「……抱きしめて……寝るときも……」
「……ぐっすり……」
「……じゃろ……すばらし……!」
「……わかる」
「……美し……」
「おかしくなっちゃって……」
「……ありゃ!もうこんな時間か! ちょっと喋り過ぎたわい」
数時間が経過していた。
「わしのポケモン自慢に、こんなに付き合ってくれた者は初めてじゃわい!」
「そうですか? 聞いてて楽しかったですよ」
「そうかそうか! お礼に……これは気持ちじゃ!」
嬉しそうな会長から渡されたのは、自転車が描かれた「引換券」だった。
「その引換券をハナダシティのミラクル・サイクルに持っていくと、タダで自転車が貰える!」
「ああ、自転車の……マジですか!?」
あの自転車は、100万円だった。
「ずいぶんな値段でしたよ? ほんとうにいいんですか?」
「なに、わしにはお気に入りの鳥ポケモン、オニドリルがおる。行きたいところへひとっ飛びじゃ。だから自転車などいらん! 自転車はきみが好きに乗ったらええ!」
100万円のチケット、と思えば手が震えてしまうが──厚意と思って、ありがたく受け取ることにした。
「自転車に乗って、また来ます。ぼくもポケモンの自慢話を用意しておきますから」
「うむ、楽しみにしておるよ」
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サント・アンヌ号は有名な豪華客船である。年に一度だけクチバ港に停まるらしい。
巨大な船体に圧倒される。アクタは、自分のような庶民の少年が入船していいものかと尻込みしていたが、船員にチケットを見せると、
「はい! 結構です! ようこそサント・アンヌ号へ!」
すんなりと入れてもらえた。乗船客の様子を見ると、想像していたよりずっとカジュアルな場らしい。
「とはいえ、みんなお金持ちなんだろうなあ……」
などとひがむ間もなく、乗客たちからはポケモン勝負を挑まれた。長い船旅で退屈しているそうだ。
「よーし、行くぞコイキング! ──コイキング、どうした?」
何度目かのバトルの後、不意にその赤い身体は震えて、やがて輝きを放った。
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「ボンジュール、アクタ! おやおやこんなところで会うとは……!」
休憩がてらデッキで海風を浴びていると、グリーンが現れた。
「あ、グリーン。ぼんじゅーる」
「アクタ……招待されてたっけ?」
「そういうグリーンこそ」
「じいさんの代わりだよ」
そういえばハナダで別れたとき、「クチバシティで用事がある」と言っていたが、それか。
オーキド博士は、世界的なポケモン研究の権威だ。豪華客船のパーティーに招待されていたとしても、なにもおかしくはない。
「ぼくはいろいろあって、チケットをもらったんだ。さっき乗ってきたんだけど……」
「さっき? じゃあパーティーは?」
「ああ、いつ始まるの? やっぱり、ごちそうとか出るのかな? 楽しみだな」
「いや、もう終わったけど……」
アクタは膝から崩れ落ちた。
「クチバに停泊するのはきょうが最終日で、パーティーもさっきのが最後だ」
追い打ちをかけられる。
「お前なあ、どこで道草を食ってたんだよ」
「ちょっと、ポケモンだいすきクラブの会長さんとお話を……後回しにすればよかった……」
今回ばかりは、マイペースに行動する自分を悔やんだ。
「まあ、元気出せよ。それよりポケモン図鑑のデータは集まったか? まあ、捕獲がさっぱりなのは前提として」
「うっ……まあ、見つけた数に関しては、けっこうなもんだよ。この船のトレーナーさんたちにも、バトルついでにポケモン見せてもらったし。グリーンこそ、どう?」
「おれなんか、もう40種類捕まえたぜ!」
「40種類!? 盛ってない!?」
「盛ってねえよ! あのな、道一本違うだけで、捕れるポケモンも違うんだぜ! ちゃんと草むら入って探してみろ!」
「野生ポケモンなら……けっこう、出会ってるつもりだよ」
そのたびに捕獲に失敗するのだが。
「まあおれの場合、育てて進化とかさせてるからな。──たしかめてみるか?」
グリーンはモンスターボールに手をかける。ポケモンバトルだ。
「ボール、投げるなよ! 海に落ちても知らねえからな!」
「う、うん、投げないよ。ていうか、べつに海に落ちても大丈夫かも……」
アクタはボールを開ける。
青い鱗。龍を思わせる長い身体。三又の角。
「ギャラドスです」
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だれより嬉しかったのは、やはり当のコイキングだっただろう。
気がつけば、自身は金銭で取引される「商品」だった。長らくボールのなかだけで過ごして、ようやく自分の購入者が現れた。
少年は、自分を見て目を輝かせていた。しかし、コイキングの能力を知って、すこし困ったような顔をした。
それでも、“はねる”ことしかできない自分を抱きしめてくれた。
どうやら少年は自分を育ててくれるようだ。コイキングはがんばった。しかし“はねる”だけではどうしようもない。
がんばって学んだ。ようやく“たいあたり”を習得したが、威力は粗末なものだった。
少年のポケモンバトルは激化するも、先達であるフシギソウにばかり負担がかかる。
力が欲しいと望んだ。少年の愛に応えたかったのだ。
やがて、そのときが訪れた。
「ラッタ!」
「“たいあたり”」
「ユンゲラー!」
「“かみつく”」
「リザード!」
「“みずのはどう”」
ギャラドスは、進化したグリーンのポケモンたちを打ち倒した。アクタは歓喜の声を、ギャラドスは勝利を雄たけびを上げる。
「ふん……! とにかく、ポケモンはそこそこ育ててるようだな!」
強がるグリーンであったが、悔しさは表情に出ていた。
「『いかく』の特性が辛いな……それに、攻撃力がずば抜けてる」
「ようやくフシギソウの負担が減るよ。これなら、クチバのジムも楽勝かもね」
アクタはギャラドスの頬のヒレを撫でる。ギャラドスは気持ちが良さそうに唸る。
「は? クチバジム、まだなのか? あそこはでんきタイプのジムだから……さすがのギャラドスでもしんどいだろ」
「あ、そうかみずタイプ……」
「みずと、ひこうタイプだよ。電気は4倍だって」
「…………」
アクタはギャラドスをボールに収める。
「でんきって、くさタイプにはあんまり効かないんだったよね?」
フシギソウの負担は、まだ続くようである。
アクタとグリーンは、しばらくデッキで語り合った。互いの旅の話や、ポケモンの話。ただの友人らしい会話だった。
「ここの船長がさ、居合切りの名人っていうからよ。会ってみたら、これがただの船酔いオヤジ!」
「船長さんなのに?」
「ありえないよな! 仕方なく背中をさすってやったんだけどさ。結局、調子が悪いから居合い切りは見れずじまい。これじゃ、オヤジの介抱をしただけだぜ!」
「あはは、べつにいいじゃん。船長さん、楽になっただろう」
「お前な、そんなお人好しじゃ……」
話の途中で、船内アナウンスが鳴った。まもなく船は出航するらしい。海は夕日の色に染まっている。
「……降りるか」
「もうこんな時間か。ぼくも船長さんに会ってみたかったな」
「はっ、わざわざ船酔いオヤジの世話か? ポケモンの世話だけやってりゃいいんだよ、おれたちは」
ふたりはサント・アンヌ号を後にした。
汽笛を上げて、船はクチバ港を去って行く。
「あの船、べつの地方に行くんだろうね。いいなあ、いつかカントー以外も旅してみたいもんだ」
「呑気なこと言ってらあ」
「ぼくはこのまま、クチバのポケモンセンターに泊まるけど、グリーンはどうする?」
「おれは先を急ぐよ。まだ日があるからな」
「……どうしてそんなに、急いでんの?」
アクタの問いかけに、グリーンは「べつにいいだろ」と素っ気なく返した。
「クチバジム、せいぜいがんばれよ。じゃー、あばよ!」
グリーンは去って行った。
ジムチャレンジをクリアし、バッジを手に入れた者は、そのジムのリストに登録される。ニビでも、ハナダでも、アクタが訪れたときにはすでにグリーンの名があった。
クチバジムにもあるのだろう。
そしてきっと、これからアクタが挑むジムには、どこにだって彼の名前が先にあるのだろう。
「グリーンって、ぼくよりよっぽどがんばってるよな……」
フシギソウ
れいせいな性格
後輩がギャラドスに進化したことに、けっこう喜んでいる。
ギャラドス
がんばりやな性格
めったに姿を現さないが、ひとたび暴れ出すと大きな都市が壊滅するときもある。