ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート6 ヤドンの井戸/頑固一徹

「ちくしょう! 上で見張っていたのに、なんだあのじいさん。いきなり大声出すから驚いて井戸に落ちてしまった」

 最初に対峙したロケット団員は、身体をさすりつつも、チリアを敵として認識したのかモンスターボールを手にする。

「えーい、憂さ晴らしにお前をいじめるとするか!」

 敵──というか、弱者と見なしているようだが。

「ヒノアラシ、“ひのこ”」

 ロケット団の繰り出すコラッタを、一撃で撃退する。

「誤解があったら困るから一応確認だけど……あなたたち、ヤドンを乱獲してる?」

 ロケット団員は、いかにも悔しそうに拳を握りしめながら、少女の問いを肯定する。

「そうさ、ヤドンのシッポを切り売りしていたのはおれたちさ! 金儲けのためならなんでもするのがロケット団さ!」

「あっそ。やな感じね」

 ここまではっきりした他人の悪意に触れるのは、初めての経験である。

 幸いだったのは、戦った相手が弱かったことだ。

「やっぱりロケット団なんかと関わり合いになるのは良くないわね。ザコだったから良かったものを、もし相手がビギナーのわたしより強かったら、えらい目に遭ってたでしょうから。──ね、ヒノアラシ?」

 振り返ると。

「ヒノアラシ?」

 ヒノアラシの身体が、ぶるぶると震える。

 そして光に包まれる。

「え、え、なに? は?」

 光の輪郭が徐々に大きくなり、やがて、ヒノアラシの進化は完了する。

 マグマラシ。

 胴が伸び、目がはっきりと開いた、ヒノアラシの進化系である。

「……ああ、そう。たしかにそうだ」

 チリアはポケモン図鑑を開き、マグマラシを確認する。

「わたしたちも強くなれば、なにも問題はないのか」

 

 

「シッポを取るのをやめろって? なによ! 幹部のランスさんの命令を無視しろっての!? そんなにやめさせたかったら、わたしたち全員を倒してごらんなさい!」

「シッポを取るのをやめろって? 他人に言われてやめてたら、ロケット団の名が廃るぜ!」

 行く先に立ちはだかるロケット団たちを、チリアとマグマラシは打ち倒していく。

「進化というだけある。全能力が上がってるわね。強くなったじゃない。いい感じ」

 主人に褒められ、嬉しそうにマグマラシは鳴く。

「最強のポケモンになる予定だものね」

 重すぎる期待は、まだのしかかったままだ。

 やがてたどり着いたヤドンの井戸の最奥。そこにも黒服のロケット団員がひとり、チリアを待ち構えていた。

「幹部のランスさん──って女の団員が言ってたけど、それってあなたのこと?」

 男は少女を睨みつける。顔は良いな、と感じた。

「なんですか? わたしはロケット団でもっとも冷酷と呼ばれた男……わたしたちの仕事のジャマなどさせはしませんよ!」

 男はこうもりポケモン、ズバットを呼び出す。

「性格のことは聞いてないんだけど……まあいいわ」

 さて、幹部クラスのトレーナーとの戦い。一層の緊張感を持って、マグマラシを送り出す。

「とりあえず、“えんまく”」

「小癪な! ズバット、“ちょうおんぱ”!」

 黒煙に紛れ、超音波の狙いは逸れる。

「“ひのこ”」

 火炎に呑まれ、ズバットは倒れる。

「どこの街にも、わたしたちに逆らうやつはいるのですねえ……」

「わたしは代理だけどね」

 ロケット団に敵意を持っているのはガンテツだ。成り行きで戦っているものの、チリア自身に燃える正義の心はない。

「ドガース、“どくガス”!」

 2匹目に出てきた浮遊するバルーン状のポケモンは、マグマラシにガスを吹き付ける。ダメージはないが──

「む、『どく』の状態異常か。これは慎重にもなっていられない」

 “えんまく”でとにかく相手の命中を下げようかと思ったが、却下だ。『どく』のダメージが蓄積する前に、ドガースを倒す必要がある。

「マグマラシ、がんがん攻めるよ。“ひのこ”!」

 マグマラシの発火器官は、ヒノアラシのときよりも増え、そして大きくなっている。技の威力もその分、上昇している。

「えっ? もしかして、本気でジャマをしに来たのですか……?」

 ランスが危機感を覚えたのも束の間。撃ち出される炎に、ドガースは戦闘不能になった。

「くっ……まだ子どもだと侮っていたら、なんということ……」

「油断していなかったら勝てたとでも? それはどーかしら」

 腕を組んでふんぞり返るチリア。マグマラシはおずおずと、主人を真似しているつもりなのか、後ろ足で立ち上がってみる。

「な、生意気な子どもですね……」

 ランスは、乱れた髪を直し、平静を装う。

「……ふふん。たしかに我らロケット団は1年前に解散しました。しかしこうして地下に潜り、活動を続けていたのです。あなたごときがジャマをしても、わたしたちの活動は止められやしないのですよ!」

 べつに、チリアにはロケット団の活動すべてを止める気までは無いのだが。

「これからなにが起きるか、怯えながら待っていなさい!」

「いや、わたしは……」

 チリアの反論を待たず、ランスは迅速にその場から走り去っていった。

 どうやら負け惜しみだったらしい。

「うーん、ただの面白迷惑集団ならともかく、本気だとしたらやな感じ」

 肩をすくめるチリアに、

「チリア、ようやったな! ロケット団のやつら、逃げていきおったわい」

 満足気なガンテツが声をかけた。

「腰、もう良いの?」

「おう! わしらも帰るとしようぞ」

「そうね。ここ、じめじめしてるし。さ、つぎはわたしのお願いを聞いてもらう番だからね、ガンテツ」

「お、おう」

 孫ほど年の離れた少女に呼び捨てにされ、老人は、なぜかドキッとした。

 

 

「さっきも言ったが、ロケット団は1年半前にやっつけられたはずなんやが……それがまた復活してるとは、なんとなーく悪い予感がするのう……」

「そりゃあ悪の組織が動いているんだもの。良い予感がするわけないでしょう」

 夜。

 ガンテツの家にて夕食をごちそうになったあと、彼と話しつつ、チリアはマグマラシに日課のブラッシングを施していた。

 マグマラシはブラシが気持ちよくて、目を細めている。それをじーっと見つめる、ガンテツの孫娘。

「……やる?」

「いいの!?」

「わたしの手間が省ける。進化して身体が大きくなった分、めんどい。背中の発火器官にはあまり触らないようにね。──マグマラシ、きみもおとなしくするように」

 ガンテツの厚意で、チリアは今夜、彼の家に一泊することになった。

 もちろんヒワダタウンにはポケモンセンターもあるのだが、ガンテツはチリアが気に入ったとのことで、ぜひ一泊して旅の話を聞かせてほしい、とのことであった。

 といっても、旅を始めて日が浅いチリアから珍しい話が語られることはなく、ただ孫娘と女子の会話をしたり、マグマラシの相手をさせるくらいであったが。

「ところでガンテツ、モンスターボールのことだけど」

「おお、そうじゃな! チリア、わしはお前さんが気に入った! お前さんのためなら喜んでボールを作らせてもらうわい!」

「わたし、ノーコンみたいなんだけどさあ、それでもどうにかなる?」

「……どういうことや?」

 チリアとガンテツは外に出て、ノーコンを検証することにした。

「いい? あの木を狙うわよ」

 少女が投げたモンスターボールは、ガンテツの家の壁にぶつかった。

「………………」

 老人は絶句している。

「もう一回やるわね」

「いや! もうええ! もうわかった! なるほどな!」

 チリアを制止した理由はふたつある。ひとつは、モンスターボールが無為に消費されるのが忍びなかったこと。もうひとつは──

「……そういったトレーナーの噂を聞いたことがある。そいつは男の子らしいが……」

 実際にこの目で見るまで、とてもじゃないが鵜呑みにはできなかった。しかしすくなくとも、自分を助けてくれた──この町を救ってくれたチリアという少女は、冗談でこのような真似をする子どもではない。

「信じてくれるんだ? これ、初見だとふざけてると思われることが多いのに」

「信じたくないけどな……」

 さて。

 ガンテツは頭を抱える。

「お前さんのことや。考えられる限りの対策や努力は試しとるんやろう?」

「努力……かわかんないけど、日に何度か小石で練習してる。改善傾向はない。身体にも、違和感や痛みはないわ。ポケモンセンターで保健師さんに相談したこともあるけど」

「そしたら?」

「『はあ?』って言われた」

「気持ちはわかる」

「診断結果は異常なしよ」

 あらためて、ガンテツは悩む。モンスターボールに関してはともかく、人間の体質に関しては門外漢だ。正直なところ、「ノーコン」という身体障碍を相談されても、力になれることはない。

 が、力にはなりたい。

「無理そう?」

 明らかに困っている老人の様子に、相談者のチリアは諦め気分である。

「無理なら無理でいいのよ。わたしにはマグマラシがいるし、このタマゴにも可能性がある。2匹もポケモンがいれば最強になれると思うのよ。わたしも天才だし」

「心配しとるこっちがアホみたいな気になってくるわ」

 この少女はよほど、したたかだ。

「ボールの軌道まではどうもならん。だから、まっすぐ飛ぶボールは──作れん。なぜならボールは、まっすぐ投げればまっすぐ飛ぶものなんや」

「元も子もないことを言いやがるわ」

「だってそれが大前提やし。まあ、とりあえず……」

 ガンテツは、先ほどチリアが狙った木から実をもいだ。

「これをボールにしたるわ。一晩かかるで」

「ぼんぐりってやつね」

 殻斗に包まれた木の実。自然由来の素材で作られるモンスターボールの、元となる木の実である。現在でこそモンスターボールは工場で大量生産されるものなのだが、ガンテツのような一部の職人は、手作業によるモンスターボールの加工技術を受け継いでいる。

「色によって作れるボールが違うのよね? その白いやつだと、どんなのができるの?」

「それは明日のお楽しみや! とにかくもう、夜も遅い。今夜は──」

「あ!」

 突然、孫娘が嬉しそうな声を上げた。

「お父さんに貰ったあたしのヤドン、帰ってきた!」

 気の抜けた顔をしたピンク色のポケモンが、夜道をゆっくりゆっくりと歩いてくる。

「──あいつのシッポもまた生えてくる。今夜は、ゆっくり休めや」

 

 

 翌朝、チリアが受け取ったのはスピードボール。素早さの高いポケモンが捕まえやすくなるモンスターボールである。

「改心の出来じゃ! それで捕まえられるかどうか、ポケモンと勝負してみい!」

 きっとこのボールも、まっすぐに投げることができないだろう。

 しかしガンテツは、もはやノーコンのことなど気にしないことにした。自分が見込んだトレーナーを信じ、モンスターボールを託す。ただそれだけである。

「じゃあ、素早くて強そうなポケモン用にとっとかないと。もしかしたら当たるかもしれないし」

 黄色い模様の特別なボールを片手に、チリアはガンテツの家を後にした。

「……聞きたいことがある」

 そんな少女に、ぶっきらぼうに声をかける少年の影が。

「あ、シルバーじゃん」

「だから、気安いんだよお前は……!」

 鬱陶しそうに、少年はため息をつく。

「ロケット団が復活してるってほんとか?」

 意外な話題だったが、とりあえずチリアは肯定した。

「本人たちはそのつもりらしいわよ。行きがかり上、やっつけといたけど」

「なに!?」

 シルバーは、少女を疑うような視線を送る。

「お前が倒しただって? ウソ言うなよな。それが本当だというなら……」

 シルバーはモンスターボールを手にした。

 チリアがロケット団の──すくなくともこの町における悪事を防いだことなんて、信じられようが信じられまいがどうだっていい。ただ、シルバーに戦意があるというのならば応えるつもりだ。マグマラシに目配せをする。

「その実力、オレに見せてみろ!」

「うん。受けて立ってあげる」

 リベンジマッチが始まる。




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

タマゴ
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