ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「ちくしょう! 上で見張っていたのに、なんだあのじいさん。いきなり大声出すから驚いて井戸に落ちてしまった」
最初に対峙したロケット団員は、身体をさすりつつも、チリアを敵として認識したのかモンスターボールを手にする。
「えーい、憂さ晴らしにお前をいじめるとするか!」
敵──というか、弱者と見なしているようだが。
「ヒノアラシ、“ひのこ”」
ロケット団の繰り出すコラッタを、一撃で撃退する。
「誤解があったら困るから一応確認だけど……あなたたち、ヤドンを乱獲してる?」
ロケット団員は、いかにも悔しそうに拳を握りしめながら、少女の問いを肯定する。
「そうさ、ヤドンのシッポを切り売りしていたのはおれたちさ! 金儲けのためならなんでもするのがロケット団さ!」
「あっそ。やな感じね」
ここまではっきりした他人の悪意に触れるのは、初めての経験である。
幸いだったのは、戦った相手が弱かったことだ。
「やっぱりロケット団なんかと関わり合いになるのは良くないわね。ザコだったから良かったものを、もし相手がビギナーのわたしより強かったら、えらい目に遭ってたでしょうから。──ね、ヒノアラシ?」
振り返ると。
「ヒノアラシ?」
ヒノアラシの身体が、ぶるぶると震える。
そして光に包まれる。
「え、え、なに? は?」
光の輪郭が徐々に大きくなり、やがて、ヒノアラシの進化は完了する。
マグマラシ。
胴が伸び、目がはっきりと開いた、ヒノアラシの進化系である。
「……ああ、そう。たしかにそうだ」
チリアはポケモン図鑑を開き、マグマラシを確認する。
「わたしたちも強くなれば、なにも問題はないのか」
:
「シッポを取るのをやめろって? なによ! 幹部のランスさんの命令を無視しろっての!? そんなにやめさせたかったら、わたしたち全員を倒してごらんなさい!」
「シッポを取るのをやめろって? 他人に言われてやめてたら、ロケット団の名が廃るぜ!」
行く先に立ちはだかるロケット団たちを、チリアとマグマラシは打ち倒していく。
「進化というだけある。全能力が上がってるわね。強くなったじゃない。いい感じ」
主人に褒められ、嬉しそうにマグマラシは鳴く。
「最強のポケモンになる予定だものね」
重すぎる期待は、まだのしかかったままだ。
やがてたどり着いたヤドンの井戸の最奥。そこにも黒服のロケット団員がひとり、チリアを待ち構えていた。
「幹部のランスさん──って女の団員が言ってたけど、それってあなたのこと?」
男は少女を睨みつける。顔は良いな、と感じた。
「なんですか? わたしはロケット団でもっとも冷酷と呼ばれた男……わたしたちの仕事のジャマなどさせはしませんよ!」
男はこうもりポケモン、ズバットを呼び出す。
「性格のことは聞いてないんだけど……まあいいわ」
さて、幹部クラスのトレーナーとの戦い。一層の緊張感を持って、マグマラシを送り出す。
「とりあえず、“えんまく”」
「小癪な! ズバット、“ちょうおんぱ”!」
黒煙に紛れ、超音波の狙いは逸れる。
「“ひのこ”」
火炎に呑まれ、ズバットは倒れる。
「どこの街にも、わたしたちに逆らうやつはいるのですねえ……」
「わたしは代理だけどね」
ロケット団に敵意を持っているのはガンテツだ。成り行きで戦っているものの、チリア自身に燃える正義の心はない。
「ドガース、“どくガス”!」
2匹目に出てきた浮遊するバルーン状のポケモンは、マグマラシにガスを吹き付ける。ダメージはないが──
「む、『どく』の状態異常か。これは慎重にもなっていられない」
“えんまく”でとにかく相手の命中を下げようかと思ったが、却下だ。『どく』のダメージが蓄積する前に、ドガースを倒す必要がある。
「マグマラシ、がんがん攻めるよ。“ひのこ”!」
マグマラシの発火器官は、ヒノアラシのときよりも増え、そして大きくなっている。技の威力もその分、上昇している。
「えっ? もしかして、本気でジャマをしに来たのですか……?」
ランスが危機感を覚えたのも束の間。撃ち出される炎に、ドガースは戦闘不能になった。
「くっ……まだ子どもだと侮っていたら、なんということ……」
「油断していなかったら勝てたとでも? それはどーかしら」
腕を組んでふんぞり返るチリア。マグマラシはおずおずと、主人を真似しているつもりなのか、後ろ足で立ち上がってみる。
「な、生意気な子どもですね……」
ランスは、乱れた髪を直し、平静を装う。
「……ふふん。たしかに我らロケット団は1年前に解散しました。しかしこうして地下に潜り、活動を続けていたのです。あなたごときがジャマをしても、わたしたちの活動は止められやしないのですよ!」
べつに、チリアにはロケット団の活動すべてを止める気までは無いのだが。
「これからなにが起きるか、怯えながら待っていなさい!」
「いや、わたしは……」
チリアの反論を待たず、ランスは迅速にその場から走り去っていった。
どうやら負け惜しみだったらしい。
「うーん、ただの面白迷惑集団ならともかく、本気だとしたらやな感じ」
肩をすくめるチリアに、
「チリア、ようやったな! ロケット団のやつら、逃げていきおったわい」
満足気なガンテツが声をかけた。
「腰、もう良いの?」
「おう! わしらも帰るとしようぞ」
「そうね。ここ、じめじめしてるし。さ、つぎはわたしのお願いを聞いてもらう番だからね、ガンテツ」
「お、おう」
孫ほど年の離れた少女に呼び捨てにされ、老人は、なぜかドキッとした。
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「さっきも言ったが、ロケット団は1年半前にやっつけられたはずなんやが……それがまた復活してるとは、なんとなーく悪い予感がするのう……」
「そりゃあ悪の組織が動いているんだもの。良い予感がするわけないでしょう」
夜。
ガンテツの家にて夕食をごちそうになったあと、彼と話しつつ、チリアはマグマラシに日課のブラッシングを施していた。
マグマラシはブラシが気持ちよくて、目を細めている。それをじーっと見つめる、ガンテツの孫娘。
「……やる?」
「いいの!?」
「わたしの手間が省ける。進化して身体が大きくなった分、めんどい。背中の発火器官にはあまり触らないようにね。──マグマラシ、きみもおとなしくするように」
ガンテツの厚意で、チリアは今夜、彼の家に一泊することになった。
もちろんヒワダタウンにはポケモンセンターもあるのだが、ガンテツはチリアが気に入ったとのことで、ぜひ一泊して旅の話を聞かせてほしい、とのことであった。
といっても、旅を始めて日が浅いチリアから珍しい話が語られることはなく、ただ孫娘と女子の会話をしたり、マグマラシの相手をさせるくらいであったが。
「ところでガンテツ、モンスターボールのことだけど」
「おお、そうじゃな! チリア、わしはお前さんが気に入った! お前さんのためなら喜んでボールを作らせてもらうわい!」
「わたし、ノーコンみたいなんだけどさあ、それでもどうにかなる?」
「……どういうことや?」
チリアとガンテツは外に出て、ノーコンを検証することにした。
「いい? あの木を狙うわよ」
少女が投げたモンスターボールは、ガンテツの家の壁にぶつかった。
「………………」
老人は絶句している。
「もう一回やるわね」
「いや! もうええ! もうわかった! なるほどな!」
チリアを制止した理由はふたつある。ひとつは、モンスターボールが無為に消費されるのが忍びなかったこと。もうひとつは──
「……そういったトレーナーの噂を聞いたことがある。そいつは男の子らしいが……」
実際にこの目で見るまで、とてもじゃないが鵜呑みにはできなかった。しかしすくなくとも、自分を助けてくれた──この町を救ってくれたチリアという少女は、冗談でこのような真似をする子どもではない。
「信じてくれるんだ? これ、初見だとふざけてると思われることが多いのに」
「信じたくないけどな……」
さて。
ガンテツは頭を抱える。
「お前さんのことや。考えられる限りの対策や努力は試しとるんやろう?」
「努力……かわかんないけど、日に何度か小石で練習してる。改善傾向はない。身体にも、違和感や痛みはないわ。ポケモンセンターで保健師さんに相談したこともあるけど」
「そしたら?」
「『はあ?』って言われた」
「気持ちはわかる」
「診断結果は異常なしよ」
あらためて、ガンテツは悩む。モンスターボールに関してはともかく、人間の体質に関しては門外漢だ。正直なところ、「ノーコン」という身体障碍を相談されても、力になれることはない。
が、力にはなりたい。
「無理そう?」
明らかに困っている老人の様子に、相談者のチリアは諦め気分である。
「無理なら無理でいいのよ。わたしにはマグマラシがいるし、このタマゴにも可能性がある。2匹もポケモンがいれば最強になれると思うのよ。わたしも天才だし」
「心配しとるこっちがアホみたいな気になってくるわ」
この少女はよほど、したたかだ。
「ボールの軌道まではどうもならん。だから、まっすぐ飛ぶボールは──作れん。なぜならボールは、まっすぐ投げればまっすぐ飛ぶものなんや」
「元も子もないことを言いやがるわ」
「だってそれが大前提やし。まあ、とりあえず……」
ガンテツは、先ほどチリアが狙った木から実をもいだ。
「これをボールにしたるわ。一晩かかるで」
「ぼんぐりってやつね」
殻斗に包まれた木の実。自然由来の素材で作られるモンスターボールの、元となる木の実である。現在でこそモンスターボールは工場で大量生産されるものなのだが、ガンテツのような一部の職人は、手作業によるモンスターボールの加工技術を受け継いでいる。
「色によって作れるボールが違うのよね? その白いやつだと、どんなのができるの?」
「それは明日のお楽しみや! とにかくもう、夜も遅い。今夜は──」
「あ!」
突然、孫娘が嬉しそうな声を上げた。
「お父さんに貰ったあたしのヤドン、帰ってきた!」
気の抜けた顔をしたピンク色のポケモンが、夜道をゆっくりゆっくりと歩いてくる。
「──あいつのシッポもまた生えてくる。今夜は、ゆっくり休めや」
:
翌朝、チリアが受け取ったのはスピードボール。素早さの高いポケモンが捕まえやすくなるモンスターボールである。
「改心の出来じゃ! それで捕まえられるかどうか、ポケモンと勝負してみい!」
きっとこのボールも、まっすぐに投げることができないだろう。
しかしガンテツは、もはやノーコンのことなど気にしないことにした。自分が見込んだトレーナーを信じ、モンスターボールを託す。ただそれだけである。
「じゃあ、素早くて強そうなポケモン用にとっとかないと。もしかしたら当たるかもしれないし」
黄色い模様の特別なボールを片手に、チリアはガンテツの家を後にした。
「……聞きたいことがある」
そんな少女に、ぶっきらぼうに声をかける少年の影が。
「あ、シルバーじゃん」
「だから、気安いんだよお前は……!」
鬱陶しそうに、少年はため息をつく。
「ロケット団が復活してるってほんとか?」
意外な話題だったが、とりあえずチリアは肯定した。
「本人たちはそのつもりらしいわよ。行きがかり上、やっつけといたけど」
「なに!?」
シルバーは、少女を疑うような視線を送る。
「お前が倒しただって? ウソ言うなよな。それが本当だというなら……」
シルバーはモンスターボールを手にした。
チリアがロケット団の──すくなくともこの町における悪事を防いだことなんて、信じられようが信じられまいがどうだっていい。ただ、シルバーに戦意があるというのならば応えるつもりだ。マグマラシに目配せをする。
「その実力、オレに見せてみろ!」
「うん。受けて立ってあげる」
リベンジマッチが始まる。
マグマラシ ♂
おくびょうな性格
タマゴ