ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート7 ヒワダタウン/ハッピーバースデイ

 シルバーが繰り出したのは、ガス状ポケモンのゴース。マダツボミの塔で野生の個体と戦ったことがある、ゴーストタイプのポケモンだが、当然、野生よりも強い。

「“さいみんじゅつ”!」

 いきなり眠らされてしまうマグマラシ。状態異常を受けることは予測していたが──チリアはおさげをくるくるといじる。

「マグマラシ、“ひのこ”。──ちぇっ、起きないか」

 その隙に“したでなめる”といった攻撃を受けてしまうが、威力は高くない。どうやらゴースは、マグマラシに対して決定的な攻撃力を持っていないようだ。ならば、回復のための道具を収めて、まどろむマグマラシへと指示を続ける。

「“ひのこ”!」

 再三の指示で、ようやくマグマラシは覚醒した。

 火炎はゴースの急所を焼き、やがて戦闘不能にする。

「よし。でも起きるのが遅いわよ、マグマラシ」

「なんだお前、すこしは自信をつけてきたのか……」

 つぎのモンスターボールから現れたのは、赤いトサカに青いウロコのワニのようなポケモン──

「お前みたいなやつに負けるなんて、冗談じゃないぞ。行け、アリゲイツ!」

 それがみずタイプのポケモン、ワニノコの進化系であることは、一目瞭然であった。

「……“えんまく”」

 命中率を下げることで、好機を見出そうとするが──

「“みずでっぽう”!」

「あらら」

 効果抜群のみずタイプの技を受け、マグマラシは戦闘不能となった。チリアは胸に抱えたタマゴに触れるが、無理だ。たまに動くタマゴからは、なかから音が聞こえるだけで、戦力にはならない。

「あーあ、負けちゃった」

「……フン! 弱いやつだぜ」

 シルバーはアリゲイツをモンスターボールにしまう。

 結局、タイプ相性の良いポケモンでねじ伏せておいて、よく勝ち誇れるものだと、チリアは感心さえ覚えた。

「……オレは弱いやつが大嫌いなんだ。ポケモンだろうが、トレーナーだろうが……そういう弱いやつらがうろついてるのが、目ざわりで仕方ない……」

「ふーん。それは難儀だね」

 それでは、強くなるたびに不快になるだろうに。

 チリアも戦闘不能のマグマラシをボールに収める。

「ロケット団もおなじ。ひとりひとりは弱いくせに、集まって威張りちらして、偉くなったつもりでいる。そんなやつらが許せないんだ」

「強い弱いはともかくとして、徒党を組んで悪事を働くなんてのは、始末が悪いわよね。もっとも──」

 チリアは、シルバーの顔を覗き込む。

 上目遣いの、妖艶な笑み。シルバーは先ほど負かしたばかりの少女に、言いようもない恐怖を覚えた。

「単独犯だからって、格好が付くわけでも、許されるわけでもないけど。ね、ドロボーくん?」

「……おまえはうろちょろするなよ。オレの邪魔をするなら、ついでにお前も痛い目に遭わせてやるからな……」

「またね、シルバー。つぎはわたしが、あなたを痛い目に遭わせてやるね」

 シルバーは、逃げるようにチリアに背を向ける。

 勝ったのに、逃げるように。

 

 

「まだ、マグマラシは1匹で多数を完封できるようなレベルじゃないか。やはりタイプ相性は課題だし。なんにしても、育成が足りないわね。もっと経験を積ませなければ……」

 とにかくチリアは、ヒワダタウンのポケモンセンターに向かう。

 そのときだった。

 胸に抱いたタマゴが、ぶるぶると大きく震えた。

「あら?」

 孵化の兆候を感じたチリアは、すぐに抱っこひもを解き、揺れるタマゴを柔らかい地面に慎重に置く。

「強いのこい、強いのこい……」

 タマゴの頂点にひびが入る。

 やがて各箇所が割れたかと思うと、続いて、手足らしきものが飛び出す。

「危なっ」

 顔面目がけて飛んできた破片を回避した。

 あらためてそれに目を向けると、そこにはタマゴをそのまま着こんだ、クリーム色の体色の小さなポケモンがいた。

 つぶらな瞳がチリアを覗いている。

「トゲピーね」

 ポケモン図鑑を確認する。

「はりたまポケモン。ノーマルタイプ。強そうな印象は受けないけど、まあ生まれたてだからこんなものよね」

 トゲピーは、きょろきょろと周囲を見渡したかと思うと、やがて泣き出しそうな顔で、よちよちとチリアのほうへ歩いてきて、彼女の靴にしがみついた。

「……マジか。めちゃくちゃ赤ちゃんじゃん」

 トゲピーを抱き上げたチリアは、すぐにポケモンセンターへ。

 受付に、戦闘不能のマグマラシと生まれたてのトゲピーを預ける。トゲピーはチリアから離れるとき、ものすごく泣いた。

「もしもし、ウツギ博士? タマゴからトゲピーが孵ったわ」

 ロビーで待っている間、チリアはポケギアでウツギ博士に電話をかけた。

『さすがはチリアちゃんだ。きみにタマゴを預けて大正解だったね!』

「まだ生まれただけじゃないの」

 当のトゲピーは、健康診断でピーピーと泣いている。ロビーまで聞こえるくらいに大泣きだ。

「ポケモンセンターに預けただけですごく泣いてさ。ポケモンにも『刷り込み』ってあるの?」

『生まれた直後に見たものを親だと思う──っていうやつだね。種類や個体にもよるのかもしれないけど、十分に考えられる。そうかあ、きみに懐いているのならば、結構じゃないか』

「どうかな。手がかからないほうがありがたいんだけど」

 生まれたてのポケモンにまで、自立を求めるのは厳しいのだろうか。

『どんなポケモンが生まれたのか、そのうち見せに来てよ!』

「冗談を言わないでよ。ここからワカバタウンまでけっこう距離あるわよ」

『う、うん。だからそのうちでいいから……』

「取りに来たって渡さないわよ。もうトゲピーはわたしのだからね」

 そう一方的に告げて、チリアは勝手に通話を切った。

 ウツギ博士への用事は、孵化の報告だけである。

「回収でもされたらたまんないわ。せっかく手に入れた、2匹目のポケモンなんだから」

 そうこうしているうちに、マグマラシとトゲピーは帰ってきた。

 チリアはさっそく、ポケモンセンターの外でトゲピーをモンスターボールの外に放つ。

「あ、やっぱり変なところにいった」

 投げたモンスターボールは、案の定。思ったよりも遠くに飛んで行く。

 遠くで現れたトゲピーは、泣きながらチリアのもとに駆け寄ってくるが、途中で転んで、さらに泣いた。

「うーん、手がかかるなあ。まあそれはしょうがないとして……」

 チリアはすでに、赤子のポケモンを対象にした育児の手引書を暗記した。

「ただきみ、それで戦える?」

 チリアは一応、「最強のトレーナー」を目指して旅を始めた。当然、トゲピーにも戦ってもらうつもりなのだが。

「どう思う? マグマラシ」

 ぽいと放ったモンスターボール。こちらもはるか遠くに飛んで行ったが、マグマラシは静かに、チリアのもとへ戻ってきた。

 トゲピーはマグマラシに怯えて、チリアの靴の影に隠れた。

「仲良くなさい。きみたちは2匹で最強になるんだから。──良かったわね、マグマラシ、負担が減ったわよ」

 マグマラシは困ったように鳴いた。トゲピーは泣きそうにしている。

 そしてチリアの目線は、とある建物に向いていた。

「とりあえず、ジム戦でもやってみましょうか。トゲピー、きみにもデビューしてもらうからね」

 

 

『ヒワダタウンポケモンジム。リーダー、ツクシ。歩く虫ポケ大百科』

 チリアがヒワダジムを訪れると。

「オッス、チャレンジャー! このジムはツクシが造ったむしポケモンの巨大な巣だ!」

 キキョウジムにもいた、眼鏡の男が話しかけてきた。

「あなた、ここにもいるんだ」

「お前のことが気になってな! お前からは未来のチャンピオンの気配がするんだ。しばらく追いかけさせてもらうぜ!」

「……そう」

 大の大人に「追いかける」と言われては、さしものチリアも防犯意識が刺激されるが、とりあえず彼に悪意はなさそうなので、見逃すことにした。

「ツクシはまだ若いのに、むしポケモンを使いこなす! アドバイスがないと辛いだろ?」

「アドバイスねえ……せっかくだからいただいておくわ。いいわよ、アドバイスして」

「よーし任せとけ! ……って、なんかお前、上からだな!」

 ちゃんとチリアにツッコミつつも、眼鏡の男は助言を始める。

「そうだな、むしポケモンは炎が嫌いだ! それにひこうタイプの技も効果抜群だな!」

「……ふうん」

 チリアは、ポケモンのタイプ相性は頭に入っているので、今回の男のアドバイスは特にありがたくはなかった。

 気持ちだけ受け取っておこう。

「さ、トゲピー。きみの力を見せてもらうわよ」

 チリアの過分な期待とは裏腹に、トゲピーは彼女の足元で嬉しそうにしている。

 受付を済ませて、すぐにジムチャレンジが始まった。

 木々、茂み、落ち葉。建物であることを忘れてしまいそうになるほど、森のイメージに寄せた内装のジムであった。

「これは……?」

 目の前には、クモのポケモンであるイトマルを模した乗り物がある。

 とりあえず乗り込むと、その機械はロープを伝って動き出した。しかし乗り物はまっすぐには進まず、ロープの分かれ道で必ず曲がる。

「なるほど、あみだくじ状に進むのね」

 つまり、ルートを見極めればそれだけ早くジムリーダーのところにたどり着くだろう。

「でも前回と違って、完全にジムトレーナーを無視して踏破するのは難しいかな」

 イトマルのライドを降りた少女の前に、虫取り少年が立ちはだかる。

「むしポケモンのように巣を渡ってここまで来たな! きみにむしポケモンの魅力を教えてやるぜ!」

 少年の言葉に特にリアクションは返さず、チリアは足元のトゲピーに話しかける。

「トゲピー、戦いなさい」

 嫌がるかと思ったが、意外にもトゲピーは元気に鳴いて、バトルフィールドへよちよちと歩いていった。

 虫取り少年は、キャタピーを繰り出す。トゲピーは臆せず、緑のむしポケモンと対峙している。チリアはさすがに心配を覚えたが、止める間もなく勝負の開始が告げられる。

「キャタピー、“たいあたり”!」

「トゲピー、“じんつうりき”!」

 技の応酬一回で、チリアは見極めた。

 というかそれはだれの目にも明らかであった。

「……勝てない」

 トゲピーは、“たいあたり”一発で戦闘不能にこそならなかったものの、非常に大きなダメージを受けている。かたやキャタピーは、まだ余裕がありそうだ。

 トゲピーが覚えていた“じんつうりき”というエスパータイプの技は、スペック上は強力な技ではあるのだが、使うポケモンが未熟ではこんなものである。

「トゲピー、交代よ。戻りなさい」

 チリアの声に、トゲピーはあっけなく敵に背を向け、よちよち歩きで少女のもとに戻る。

「やはりしばらくはきみを頼るしかないわね、マグマラシ」

 モンスターボールに語りかけて、そしてバトルフィールドに向けてボールを投げた。

 真後ろに飛んで行った。

「あっ」

 ボールは、イトマルのライドにスポッと入った。

「あっ」

 ライドのなかに現れたマグマラシ。その体重に反応したのだろうか。ライドは起動して、来た道をロープに伝って戻って行った。

「………………」

「………………」

 去って行くマグマラシを、チリアと虫取り少年は黙って見送る。

 呆然とするしかなかったのだ。

「……ねえ、どうにかできる?」

 慌てても事態が解決するわけではない。とりあえずチリアは、ジムトレーナーである虫取り少年を頼った

「は、はい!? ああ、そうだな、ええと……」

 虫取り少年は、ポケギアでどこかへ連絡する。

「……にしてもわたし、ここまでノーコンか。ほかは完璧なのに……」

 危ないところだった。

 イトマルのライドに乗ったのは、まだ幸運である。コースとなっているロープの下は、床の見えない奈落だ。ボールの軌道が数十センチでも逸れていれば、この暗闇の中にマグマラシは放り込まれていただろう。

「投擲に挑戦するにしても、場所は選んだほうがよさそうね。すくなくともこのジムでは、ちょっと危ないかも」

 ほどなくして、係りの者がマグマラシと一緒に、イトマルのライドに乗ってやってきた。

「ポケモンだけをライドに乗せないようにしてください」

 形ばかりの注意を受けて、係員は裏口から去って行った。

「……それでは、バトルを再開してもよろしいかしら?」

「それはいいけど、さっきのって、なに?」

 虫取り少年は、ずっと不可解そうな顔をしていた。

「ただのノーコンよ。それ以上に説明はないわ」

 再開するバトル。キャタピーもビードルも、マグマラシの“ひのこ”が一撃で破った。




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

トゲピー ♂
 さみしがりな性格
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