ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
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ここはコガネシティ。
賑わいの大型都市。
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「あー楽しい。やっぱり大きな街って最高」
チリアは、コガネ百貨店でのショッピングを堪能していた。
洋服店での試着に次ぐ試着。
雑貨屋ではすべての商品を見て回り。
書店では可能な限り雑誌を立ち読みして。
家電量販店ではあらゆる電化製品を試して。
ポケモンの用品もそこそこに見渡して。
ちなみに実際に購入する商品はほんのすこし。
そんなふうに時間をかけて観光するものだから、連れ歩かされるマグマラシやトゲピーは、疲れて眠りこけてしまった。
「なによきみたち、だらしない。女の買い物は長いものよ。もっとがんばんなさい」
仕方がないので、ポケモンたちをモンスターボールに入れて休ませる。
ちなみに街を訪れたときはヒビキも一緒だったのだが、地下通路の商店街でもチリアが長く買い物するものだから──
「チリア、まだかかりそう……? あ、そっか。まだ半分くらいだもんね……半分も行ってない? そっか……そ、そういえば用事があるんだった! じゃあぼくは行くから、またな!」
逃げるように去って行った。
「あいつも女子の買い物に付き合う気力がないのよねー。情けないの」
とはいえ、チリアもウインドウショッピングには飽きてきたところだ。コガネ百貨店をあとにして、つぎの観光地を探す。
「ゲームコーナーに、花屋に、リニアの駅に……ラジオ塔? ってどんな感じのところなのかしら」
てっきり関係者しか入れないような施設かと思ったのだが、一般人も出入りしている。
「はーい! うちがアカネちゃーん!!」
一階の受付で周囲の様子を伺っていると、桃色の髪をふたつ結びにした少女が話しかけてきた。
「どうも、わたしはチリア」
「あんたもクイズしに来たん?」
「クイズ? なに? そういうキャンペーンをやってるってこと?」
「そうや! いまな、ラジオカードが貰えるクイズをやっとるゆーてな。うちも貰いに来たんやけど……」
アカネと名乗った少女は肩を落とす。
「このクイズ、めっちゃ難しいやん!」
なるほど、とチリアは頷いて、受付の列に並ぶ。
「めっちゃ難しいクイズ、上等じゃない。ちょうどわたし天才だから、仇を取ってあげるわ、アカネ」
「え、頼もしっ」
チリアの番が訪れた。受付の女性はにこやかに案内する。
「ただいまキャンペーン中! 5問続けてクイズに正解すると、ラジオカードをプレゼント! ポケギアに読み込ませれば、いつでもどこでもラジオが聴けるようになっちゃう!」
クイズが始まった。
「では第一問! ポケギアでタウンマップを見られるようにできる?」
「できる。よく見てるわ」
「正解です。じゃあ第2問! ポケモンのニドリーナは♀しかいない?」
「ニドリーナは♀しかいない。ニドラン♀から進化するもの」
「正解です。続けて第3問! ボール職人のガンテツさん、材料に使うのはボンゴレ?」
「いいえ、ぼんぐり。──友だちだし、そのくらいわかってる」
「またまた正解。では第4問! ポケモンコイキングにわざマシンは使えない?」
「うーん、たしかコイキングは“はねる”と“たいあたり”と“じたばた”しか覚えない。──であれば、有効なわざマシンは無いわよね? ということで、使えない」
「すごーい! いよいよ最後の問題よ。人気番組『オーキド博士のポケモン講座』。お相手はミルクちゃん?」
「一度だけ視聴したことがある。ラジオMCの女性は、『クルミちゃん』」
「全問正解、おめでとうございます! 商品のラジオカードです!」
それは、ポケギアの機能を拡張するためのカードだ。
「これでポケギアでもラジオを聴けるようになる──と。ラジオ塔らしいキャンペーンだわ」
「わー、あんたすごいやん!」
アカネが手を叩いて駆け寄ってくる。自分事のように嬉しそうだ。
「うち、3問目の答え、てっきりボンゴレやと思てたわ!」
「そこは間違えるところじゃないでしょう」
「あっ、あかん。そろそろジムに戻らな!」
時計を一瞥したアカネは、「ほな!」とチリアに手を振って去って行った。
「……あのひと、ジムトレーナーなのかしら。だったらこの程度のクイズ、
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続いてチリアが訪れたのは、コガネゲームコーナー。
安全、健全、街のみんなの遊び場──と謳っているが、並んでいるのはスロットマシン。
「賭け事か。ただの火遊びじゃん。わたしの趣味じゃないけど……」
景品に並んでいるのは、わざマシンに、アイテムに、そして──
「ちょっと遊ぶか」
売り場でコインを購入し、空いたスロットマシンに座った。
「どんなもんかしら……」
スロットが回る。
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「あ、ダメだこれは」
数分後、チリアはスロットマシンの椅子から立った。
「わかった。これ、運とかじゃない。幸運を期待して回して、がんばって目押しして、それでどうにかなるもんじゃない。なにも考えずにやって圧倒的敗北とかするのは馬鹿だわ」
さて。
手元にある、十数枚のコイン。これらを無駄にするのは気に入らない。
チリアは、ゲームセンター内を歩き回った。そして他人のゲームを観察する。
適当なところで切り上げて、宿であるポケモンセンターに戻った。
ぐっすり眠る。
翌日、チリアは朝のゲームセンターを訪れた。かなり客が入っている。
この日もまた、チリアはゲームセンター内を歩き回るだけであった。マグマラシはただその背中についていく。
せっかくのゲームコーナーで遊びもせず、他人の台を見て回る少女を、訝しむ者もすくなくはないが、みんな基本的には自分のゲームに集中している。
昼前に、チリアはゲームコーナーを後にした。
午後はポケモンセンターで共用テーブルに向かい、ノートになにやら膨大なメモを書き連ねる。ちょうどノート一冊分が埋まったところで、チリアは満足そうに伸びをして、席を立った。
「これで大丈夫」
ノートはゴミ箱に捨てた。内容は憶えたので、もう用はない。
満足な食事を摂って、早めにベッドに入った。
そして翌朝。
早朝に起きたチリアは、すぐに支度をしてゲームコーナーへ向かった。当然、まだ開店前であるが、すでに数人の客がドアが開くのを待っている。チリアは3人目として列に並んだ。
連れ歩いているトゲピーは眠っている。
やがて開店時刻。チリアは寝息を立てるトゲピーを抱き上げて、店内へなだれ込む。
「さて、ここからがギャンブルだ……!」
最善の台として予測していたマシンは、1番目に並んでいた客に取られてしまった。
なので即座に、次善と考えていた席に座る。ここでやっとひと息ついて、落ち着いたのちに、3枚のコインを投入する。
「大した学問だわ。たかが遊びと思わせておいて、なかなかどうして奥が深い……」
スロットが回る。
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結果──としてチリアが諦めた段階で、手元にあるコインは、708枚だった。
「やはり最善の設定ではない台だったか。とはいえ、わたしの運が悪かったと仮定しても、これだけ稼げればマシでしょう。目押しが可能となる好機は確実に成功していたし。たかがゲームと馬鹿にできないわ。こんなの、馬鹿には稼げない」
かくして。
チリアは手にした700枚のコインを交換した。
「アーボをちょうだい」
手に入れたのは、ポケモンだった。
紫色の体色のへびポケモン。モンスターボールから出たアーボは、ぎょろりとした目でチリアを覗き込む。
「これまできみはゲームコーナーの持ち物だったかもしれないけれど、これからはわたしのものだからね。わたしは最強のポケモントレーナーになるから、きみは最強のポケモンになるのよ。がんばりなさい」
主人となった少女の過分な期待に、若干戸惑いつつ、アーボは喉を鳴らして応えた。
「さて。勢いでポケモンを手にしてしまったけれど、3匹か。3匹。これは大変な手持ちの数よ。トゲピーもすこし育ったし、戦術にずいぶんと幅が出る」
チリアはポケモン図鑑を片手に思考する。
「負ける気がしない」
そういうわけで。
3匹目のポケモンを手にしたチリアは、コガネシティのポケモンジムに挑戦することにした。
「おーっす! 未来のチャンピオン!」
やはり、ここにも例の眼鏡の男がいた。
「あなた、ほんとにわたしのことを追っかけてるのね」
「い、いやあ、追っかけなんて言い方は人聞きが良くないぞ?」
「いいんだけどね。わたしに才能を感じることは自然なことでしょうし」
「相変わらずすごい自信だな……」
その自意識に関しては、たしかに天才的だ。
気を取り直して、男はアドバイスを始める。
「このジムはノーマルタイプポケモンの使い手が集まっている! 戦わせるならかくとうタイプのポケモンがおすすめだな!」
「それは弱点を突けるタイプよね? 逆に、ノーマルタイプが弱点となることは?」
チリアの問いに、男はすこし考えてから答えた。
「……無いな。ノーマルタイプの技は、ほかのタイプに対して強みとなる相性はない。特徴という特徴もない」
「オッケー。戦術を試すには持ってこいってわけね。では張り切って行ってみましょう」
有利なタイプが無い。特徴が無い。
いまのところは不利な要素が見つからないが、それでも油断はしていないつもりだ。しかしいまのチリアには、3匹のポケモンたちがイメージ通りに戦うことができるか、その好奇心が強かった。
しばらく控室で待たされたあとに、ジムチャレンジが始まった。
大都会のジムらしい、広大な設備。
ジムリーダーへの道は迷路になっている。ざっと見渡せる範囲で脳内にマップを形成し、チリアは自分なりの最短ルートをたどった。道中にジムトレーナーが立ちはだかるが、いずれも女性であった。
「ジムにもタイプ以外に特色ってものがあるのね。そういえば、女性トレーナーとバチバチにやり合ったことってないな……ツクシはちょっとかわいい見た目だったけど、男の子だし」
そういう意味では、同性かつ格上の相手というのは、初めてであった。──チリアには、このコガネジムのジムリーダーがだれであるのかわかっていた。ジムの看板を見ればわかる。ひとびとの噂を聞けばわかる。
彼女は、ジムトレーナーどころか──
「はーい! うちがアカネちゃーん!!」
迷路の最奥にいたのは、桃色の髪をふたつ結びにした少女だった。二日前、ラジオ塔で出会った少女だ。
「…‥ってあんたこの前、ラジオ塔におったひと? トレーナーさんやったんやね」
「まあね。あなたこそ、ジムリーダーだったのね」
ダイナマイトプリティギャル!
……と、ジムの看板には書かれていたが。
「みんなポケモンしてるやん? うちも始めたら、もー、めっちゃかわいーて!」
「かわいー……? よくわからないけど、それでジムリーダーまでなったの? へえ、それはそれは。あなたもわたしとおなじで天才なのね」
とはいえチリアには、「かわいい」や「好き」という感情を足掛かりにできる気が知れないのだが。
「ところで、やりましょうか。まさかお喋りしに来たわけじゃないし」
「え? うちに挑戦するの?」
アカネは不思議そうな表情を浮かべつつも、自然とモンスターボールを手に取った。
「ゆうとくけどうち、めっちゃ強いでー!」
「そうでなくっちゃ」
最初にアカネが繰り出したのは、ピッピ。薄いピンク色のようせいポケモン。いわゆる「かわいい」とされるポケモンの代表格である。
対してチリアは、連れ歩いていたマグマラシに先手を任せた。
「“かえんぐるま”」
燃えるマグマラシの体当たりは、ピッピの体力を大きく減らす。もう一撃で倒せると予測したが──
「……マグマラシ?」
攻撃を終えたマグマラシの目には、ハートマークが浮かんでいた。
「特性『メロメロボディ』。そのマグマラシ、強い男の子みたいやけど、直接攻撃はまずかったみたいやね! ──ピッピ、“おうふくビンタ”!」
ピッピの攻撃を、マグマラシは無抵抗に喰らう。むしろ嬉しそうに。
「ちょっと、マグマラシ。おいこら。“かえんぐるま”」
チリアの指示は耳には届いているはずなのに、『メロメロ』状態のマグマラシは、ピッピに対して技を出すことができない。
「えへへ! 『メロメロ』状態からはなかなか抜け出せへんでー! ピッピ、もう一回“おうふくビンタ”や!」
「……しょうがないオスね。交代!」
マグマラシを引っ込めて、ふたつ目のモンスターボールを投げる。
真横に飛んで、壁に当たった。
「え!? なにしてんの!?」
「やっぱりダメか」
アーボは自分の出現位置にすこし驚いた様子であったが、それでもバトルのために呼び出されたことは理解しているので、チリアのもとに──ピッピの対面に這い寄ってきた。
「アーボ、“かみつく”」
即座に、アーボはピッピに飛びついて牙を突き立てた。マグマラシの“かえんぐるま”での大きなダメージもあり、ようやくピッピは戦闘不能となった。
「あーん! ピッピがー!」
「『メロメロ』の心配はないわね。アーボはメスだし」
アーボはとぐろを巻いて、得意そうにしている。
「……あと1匹? けど……負けへんからね!」
アカネがこのバトルで使うポケモンは2匹。つまり、つぎのポケモンが彼女の切り札である。
「ミルタンク!」
ピンク色をした乳牛のポケモン。温厚な顔立ちだが、大柄な体格からは迫力が伝わってくる。
「見た感じ、力押しじゃ勝てなさそうね。レベルも高いし。ではいよいよ、頭を使って戦わないと」
チリアの手札は、3匹のポケモンと、彼らが使える4つの技。
ようやく戦略を試すときが来たのだ。
マグマラシ ♂
おくびょうな性格
トゲピー ♂
さみしがりな性格
アーボ ♀
しんちょうな性格