ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート9 コガネシティ/欲望の沼

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 ここはコガネシティ。

 賑わいの大型都市。

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「あー楽しい。やっぱり大きな街って最高」

 チリアは、コガネ百貨店でのショッピングを堪能していた。

 洋服店での試着に次ぐ試着。

 雑貨屋ではすべての商品を見て回り。

 書店では可能な限り雑誌を立ち読みして。

 家電量販店ではあらゆる電化製品を試して。

 ポケモンの用品もそこそこに見渡して。

 ちなみに実際に購入する商品はほんのすこし。

 そんなふうに時間をかけて観光するものだから、連れ歩かされるマグマラシやトゲピーは、疲れて眠りこけてしまった。

「なによきみたち、だらしない。女の買い物は長いものよ。もっとがんばんなさい」

 仕方がないので、ポケモンたちをモンスターボールに入れて休ませる。

 ちなみに街を訪れたときはヒビキも一緒だったのだが、地下通路の商店街でもチリアが長く買い物するものだから──

「チリア、まだかかりそう……? あ、そっか。まだ半分くらいだもんね……半分も行ってない? そっか……そ、そういえば用事があるんだった! じゃあぼくは行くから、またな!」

 逃げるように去って行った。

「あいつも女子の買い物に付き合う気力がないのよねー。情けないの」

 とはいえ、チリアもウインドウショッピングには飽きてきたところだ。コガネ百貨店をあとにして、つぎの観光地を探す。

「ゲームコーナーに、花屋に、リニアの駅に……ラジオ塔? ってどんな感じのところなのかしら」

 てっきり関係者しか入れないような施設かと思ったのだが、一般人も出入りしている。

「はーい! うちがアカネちゃーん!!」

 一階の受付で周囲の様子を伺っていると、桃色の髪をふたつ結びにした少女が話しかけてきた。

「どうも、わたしはチリア」

「あんたもクイズしに来たん?」

「クイズ? なに? そういうキャンペーンをやってるってこと?」

「そうや! いまな、ラジオカードが貰えるクイズをやっとるゆーてな。うちも貰いに来たんやけど……」

 アカネと名乗った少女は肩を落とす。

「このクイズ、めっちゃ難しいやん!」

 なるほど、とチリアは頷いて、受付の列に並ぶ。

「めっちゃ難しいクイズ、上等じゃない。ちょうどわたし天才だから、仇を取ってあげるわ、アカネ」

「え、頼もしっ」

 チリアの番が訪れた。受付の女性はにこやかに案内する。

「ただいまキャンペーン中! 5問続けてクイズに正解すると、ラジオカードをプレゼント! ポケギアに読み込ませれば、いつでもどこでもラジオが聴けるようになっちゃう!」

 クイズが始まった。

「では第一問! ポケギアでタウンマップを見られるようにできる?」

「できる。よく見てるわ」

「正解です。じゃあ第2問! ポケモンのニドリーナは♀しかいない?」

「ニドリーナは♀しかいない。ニドラン♀から進化するもの」

「正解です。続けて第3問! ボール職人のガンテツさん、材料に使うのはボンゴレ?」

「いいえ、ぼんぐり。──友だちだし、そのくらいわかってる」

「またまた正解。では第4問! ポケモンコイキングにわざマシンは使えない?」

「うーん、たしかコイキングは“はねる”と“たいあたり”と“じたばた”しか覚えない。──であれば、有効なわざマシンは無いわよね? ということで、使えない」

「すごーい! いよいよ最後の問題よ。人気番組『オーキド博士のポケモン講座』。お相手はミルクちゃん?」

「一度だけ視聴したことがある。ラジオMCの女性は、『クルミちゃん』」

「全問正解、おめでとうございます! 商品のラジオカードです!」

 それは、ポケギアの機能を拡張するためのカードだ。

「これでポケギアでもラジオを聴けるようになる──と。ラジオ塔らしいキャンペーンだわ」

「わー、あんたすごいやん!」

 アカネが手を叩いて駆け寄ってくる。自分事のように嬉しそうだ。

「うち、3問目の答え、てっきりボンゴレやと思てたわ!」

「そこは間違えるところじゃないでしょう」

「あっ、あかん。そろそろジムに戻らな!」

 時計を一瞥したアカネは、「ほな!」とチリアに手を振って去って行った。

「……あのひと、ジムトレーナーなのかしら。だったらこの程度のクイズ、()()()()()()()なんかないはずなのに……」

 

 

 続いてチリアが訪れたのは、コガネゲームコーナー。

 安全、健全、街のみんなの遊び場──と謳っているが、並んでいるのはスロットマシン。

「賭け事か。ただの火遊びじゃん。わたしの趣味じゃないけど……」

 景品に並んでいるのは、わざマシンに、アイテムに、そして──

「ちょっと遊ぶか」

 売り場でコインを購入し、空いたスロットマシンに座った。

「どんなもんかしら……」

 スロットが回る。

 

 

「あ、ダメだこれは」

 数分後、チリアはスロットマシンの椅子から立った。

「わかった。これ、運とかじゃない。幸運を期待して回して、がんばって目押しして、それでどうにかなるもんじゃない。なにも考えずにやって圧倒的敗北とかするのは馬鹿だわ」

 さて。

 手元にある、十数枚のコイン。これらを無駄にするのは気に入らない。

 チリアは、ゲームセンター内を歩き回った。そして他人のゲームを観察する。

 適当なところで切り上げて、宿であるポケモンセンターに戻った。

 ぐっすり眠る。

 翌日、チリアは朝のゲームセンターを訪れた。かなり客が入っている。

 この日もまた、チリアはゲームセンター内を歩き回るだけであった。マグマラシはただその背中についていく。

 せっかくのゲームコーナーで遊びもせず、他人の台を見て回る少女を、訝しむ者もすくなくはないが、みんな基本的には自分のゲームに集中している。

 昼前に、チリアはゲームコーナーを後にした。

 午後はポケモンセンターで共用テーブルに向かい、ノートになにやら膨大なメモを書き連ねる。ちょうどノート一冊分が埋まったところで、チリアは満足そうに伸びをして、席を立った。

「これで大丈夫」

 ノートはゴミ箱に捨てた。内容は憶えたので、もう用はない。

 満足な食事を摂って、早めにベッドに入った。

 そして翌朝。

 早朝に起きたチリアは、すぐに支度をしてゲームコーナーへ向かった。当然、まだ開店前であるが、すでに数人の客がドアが開くのを待っている。チリアは3人目として列に並んだ。

 連れ歩いているトゲピーは眠っている。

 やがて開店時刻。チリアは寝息を立てるトゲピーを抱き上げて、店内へなだれ込む。

「さて、ここからがギャンブルだ……!」

 最善の台として予測していたマシンは、1番目に並んでいた客に取られてしまった。

 なので即座に、次善と考えていた席に座る。ここでやっとひと息ついて、落ち着いたのちに、3枚のコインを投入する。

「大した学問だわ。たかが遊びと思わせておいて、なかなかどうして奥が深い……」

 スロットが回る。

 

 

 結果──としてチリアが諦めた段階で、手元にあるコインは、708枚だった。

「やはり最善の設定ではない台だったか。とはいえ、わたしの運が悪かったと仮定しても、これだけ稼げればマシでしょう。目押しが可能となる好機は確実に成功していたし。たかがゲームと馬鹿にできないわ。こんなの、馬鹿には稼げない」

 かくして。

 チリアは手にした700枚のコインを交換した。

「アーボをちょうだい」

 手に入れたのは、ポケモンだった。

 紫色の体色のへびポケモン。モンスターボールから出たアーボは、ぎょろりとした目でチリアを覗き込む。

「これまできみはゲームコーナーの持ち物だったかもしれないけれど、これからはわたしのものだからね。わたしは最強のポケモントレーナーになるから、きみは最強のポケモンになるのよ。がんばりなさい」

 主人となった少女の過分な期待に、若干戸惑いつつ、アーボは喉を鳴らして応えた。

「さて。勢いでポケモンを手にしてしまったけれど、3匹か。3匹。これは大変な手持ちの数よ。トゲピーもすこし育ったし、戦術にずいぶんと幅が出る」

 チリアはポケモン図鑑を片手に思考する。

「負ける気がしない」

 そういうわけで。

 3匹目のポケモンを手にしたチリアは、コガネシティのポケモンジムに挑戦することにした。

「おーっす! 未来のチャンピオン!」

 やはり、ここにも例の眼鏡の男がいた。

「あなた、ほんとにわたしのことを追っかけてるのね」

「い、いやあ、追っかけなんて言い方は人聞きが良くないぞ?」

「いいんだけどね。わたしに才能を感じることは自然なことでしょうし」

「相変わらずすごい自信だな……」

 その自意識に関しては、たしかに天才的だ。

 気を取り直して、男はアドバイスを始める。

「このジムはノーマルタイプポケモンの使い手が集まっている! 戦わせるならかくとうタイプのポケモンがおすすめだな!」

「それは弱点を突けるタイプよね? 逆に、ノーマルタイプが弱点となることは?」

 チリアの問いに、男はすこし考えてから答えた。

「……無いな。ノーマルタイプの技は、ほかのタイプに対して強みとなる相性はない。特徴という特徴もない」

「オッケー。戦術を試すには持ってこいってわけね。では張り切って行ってみましょう」

 有利なタイプが無い。特徴が無い。

 いまのところは不利な要素が見つからないが、それでも油断はしていないつもりだ。しかしいまのチリアには、3匹のポケモンたちがイメージ通りに戦うことができるか、その好奇心が強かった。

 しばらく控室で待たされたあとに、ジムチャレンジが始まった。

 大都会のジムらしい、広大な設備。

 ジムリーダーへの道は迷路になっている。ざっと見渡せる範囲で脳内にマップを形成し、チリアは自分なりの最短ルートをたどった。道中にジムトレーナーが立ちはだかるが、いずれも女性であった。

「ジムにもタイプ以外に特色ってものがあるのね。そういえば、女性トレーナーとバチバチにやり合ったことってないな……ツクシはちょっとかわいい見た目だったけど、男の子だし」

 そういう意味では、同性かつ格上の相手というのは、初めてであった。──チリアには、このコガネジムのジムリーダーがだれであるのかわかっていた。ジムの看板を見ればわかる。ひとびとの噂を聞けばわかる。

 彼女は、ジムトレーナーどころか──

「はーい! うちがアカネちゃーん!!」

 迷路の最奥にいたのは、桃色の髪をふたつ結びにした少女だった。二日前、ラジオ塔で出会った少女だ。

「…‥ってあんたこの前、ラジオ塔におったひと? トレーナーさんやったんやね」

「まあね。あなたこそ、ジムリーダーだったのね」

 ダイナマイトプリティギャル!

 ……と、ジムの看板には書かれていたが。

「みんなポケモンしてるやん? うちも始めたら、もー、めっちゃかわいーて!」

「かわいー……? よくわからないけど、それでジムリーダーまでなったの? へえ、それはそれは。あなたもわたしとおなじで天才なのね」

 とはいえチリアには、「かわいい」や「好き」という感情を足掛かりにできる気が知れないのだが。

「ところで、やりましょうか。まさかお喋りしに来たわけじゃないし」

「え? うちに挑戦するの?」

 アカネは不思議そうな表情を浮かべつつも、自然とモンスターボールを手に取った。

「ゆうとくけどうち、めっちゃ強いでー!」

「そうでなくっちゃ」

 最初にアカネが繰り出したのは、ピッピ。薄いピンク色のようせいポケモン。いわゆる「かわいい」とされるポケモンの代表格である。

 対してチリアは、連れ歩いていたマグマラシに先手を任せた。

「“かえんぐるま”」

 燃えるマグマラシの体当たりは、ピッピの体力を大きく減らす。もう一撃で倒せると予測したが──

「……マグマラシ?」

 攻撃を終えたマグマラシの目には、ハートマークが浮かんでいた。

「特性『メロメロボディ』。そのマグマラシ、強い男の子みたいやけど、直接攻撃はまずかったみたいやね! ──ピッピ、“おうふくビンタ”!」

 ピッピの攻撃を、マグマラシは無抵抗に喰らう。むしろ嬉しそうに。

「ちょっと、マグマラシ。おいこら。“かえんぐるま”」

 チリアの指示は耳には届いているはずなのに、『メロメロ』状態のマグマラシは、ピッピに対して技を出すことができない。

「えへへ! 『メロメロ』状態からはなかなか抜け出せへんでー! ピッピ、もう一回“おうふくビンタ”や!」

「……しょうがないオスね。交代!」

 マグマラシを引っ込めて、ふたつ目のモンスターボールを投げる。

 真横に飛んで、壁に当たった。

「え!? なにしてんの!?」

「やっぱりダメか」

 アーボは自分の出現位置にすこし驚いた様子であったが、それでもバトルのために呼び出されたことは理解しているので、チリアのもとに──ピッピの対面に這い寄ってきた。

「アーボ、“かみつく”」

 即座に、アーボはピッピに飛びついて牙を突き立てた。マグマラシの“かえんぐるま”での大きなダメージもあり、ようやくピッピは戦闘不能となった。

「あーん! ピッピがー!」

「『メロメロ』の心配はないわね。アーボはメスだし」

 アーボはとぐろを巻いて、得意そうにしている。

「……あと1匹? けど……負けへんからね!」

 アカネがこのバトルで使うポケモンは2匹。つまり、つぎのポケモンが彼女の切り札である。

「ミルタンク!」

 ピンク色をした乳牛のポケモン。温厚な顔立ちだが、大柄な体格からは迫力が伝わってくる。

「見た感じ、力押しじゃ勝てなさそうね。レベルも高いし。ではいよいよ、頭を使って戦わないと」

 チリアの手札は、3匹のポケモンと、彼らが使える4つの技。

 ようやく戦略を試すときが来たのだ。




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

トゲピー ♂
 さみしがりな性格

アーボ ♀
 しんちょうな性格
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