ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
東にある塔──スズの塔には入れなかった。
一般には開放されていないようで、「資格なき者」は立ち入り禁止とのこと。関所の時点で僧侶に門前払いを喰らった。
「それで、こっちの火事にあったほうには入れるっていうんだから、わけわかんないわ」
西の塔の看板には、『この焼けた塔は謎の大火事で焼けました。危険な匂いがするのであまり近寄らないでください』とあった。
「ちょっとくらい大丈夫でしょ」
まるで臆することなく、チリアはマグマラシを連れて、焼けた塔に入って行った。
「ふーん、火事の跡ってこんな感じなんだ。マグマラシ、これならきみの炎でも、やろうと思えば全焼できるんじゃないかしら」
マグマラシは困ったように鳴いた。
言葉だけはまるで冗談みたいだが、チリアの口調は、本気だったからだ。
「……ん?」
こんな物騒な場所への観光客は自分だけかと思ったが、意外にも2名の先客の姿を認めた。
ひとりは、タキシードに白いマントの男。
そしてもうひとりは、紫色のヘアバンドとマフラーの男。
ふたりは会話をしながら、焼けた塔を見渡している。仲の良さそうな様子から、彼らは一組と見て間違いないらしい。
「こんにちは」
こんなひと気のない場所で素通りするのも不自然なので、チリアはかたちだけでも挨拶をした。
「やあ。わたしはミナキ。スイクンという名のポケモンを探して旅をしている」
そのまま素通りはさせてくれなかった。マントの男は、爽やかに自己紹介してくる。
「きみは……?」
「通りすがりの旅のトレーナーよ」
「名前は?」
「……チリア」
「チリアというのか。よろしく。」
ほんとうに、素通りさせる気はないようだ。
ただすれ違っただけの男たちのことを、わざわざ無下に扱うのもかえって面倒だ。情報収取のためと割り切って、チリアは彼らと会話することにした。
「ここには観光のつもりで来たんだけど、あなたたちは?」
「わたしたちは、ここにスイクンがいると聞いてやってきたのだが……そこの床に空いた穴から、地下室を覗いてごらん」
ミナキは、1階の中央に空いた穴を示した。床が崩れては危険なので近づきたくはなかったが、覗き込んでみると、そこにはポケモンたちがいた。
ただのポケモンではなさそうだ。
1匹は、黄色い毛皮に黒い模様が入った、鋭い牙を持つポケモン。
1匹は、鋼のような甲殻に、額には冠のような飾りを持つポケモン。
1匹は、水晶のような大きな角に、紫のたてがみ。透き通るような青い毛皮のポケモン
「なにあれ。なんだかすごそうなポケモン」
「そうだ。ライコウ、エンテイ、スイクンたちが見えるだろう? 下へ降りていってもいいんだが、彼らはすぐにどこかへ走り去ってしまうんだ。わたしは何度も試しているからね……」
ミナキは肩をすくめる。
「ミナキ。あなたはスイクンを探してるって言ってたっけ?」
チリアは、おさげをいじりながら、地下に佇むポケモンたちを改めて眺める。
「あの青いやつ?」
「そうさ」
「ふうん。それで、あなたは?」
チリアは、ミナキの奥に隠れている、紫のヘアバンドとマフラーを身に着けた男に目を遣る。
「あなたも、あのなかのどれか狙い?」
「いいや、ぼくの場合はちょっと違う」
男は苦笑する。
「ぼくはマツバ。エンジュのジムリーダーだよ。古い友人のミナキくんがスイクンを探しに来ているので、ついでだから一緒にこの塔のことを調べてるんだ」
「そう。あなたが……」
ならば明日にでも、チリアはこの男に挑戦することになるだろう。
「エンジュには昔から、スイクン、エンテイ、ライコウという伝説のポケモンにまつわる言い伝えがある、エンジュのジムリーダーは、きちんとそのことを知っておかなければならないんだ」
「ふうん。そういえばこの塔に入る前、通りすがりのおじいちゃんが、なんか言っていたわね」
「どんな?」
「『むかし……この塔が火事になったとき、名も知れぬ3匹のポケモンが炎に包まれて死んでしまった。それを蘇らせたのが、空より降り立った虹色のポケモンじゃ……街のひとびとはこうしたポケモンの力を恐れ、暴力で抑えつけようとした。しかしポケモンたちはひとびとに反撃することなく、むしろ人間の行いに深い哀しみを覚え、みずからこの土地を去った……これはエンジュのジムリーダーに古くから伝わる話じゃ』──だって」
「一言一句憶えているのかい!?」
マツバは長文をそらんじた少女に驚愕する。
「べつにそんな驚くことでもないでしょう。わたしの記憶力が良いというだけ」
「良すぎるなあ……きっとそのおじいさんは、むかしジムリーダーをやっていたお方だよ。ぼくの大先輩に当たる」
「そう。ところでわたし、もう行くわ」
チリアの向く先は、出入口──ではなく、それとは真逆に、地下へと続く階段だった。
「下に降りるつもりなのかい!?」
「あの3匹のポケモン、もうちょっと近くで見たいの。べつに、あなたたちの許可なんて要らないでしょ?」
「それはそうだけど」
「それじゃ……あら?」
チリアの足を止めたのは、新たに焼けた塔に現れた、ひとりの少年だった。
「………………」
「シルバーじゃん。元気そうね」
赤い髪の少年は、うんざりした様子で少女を睨む。
「……なんだお前か。相変わらずなれなれしいな」
にこりともしない攻撃的な雰囲気の少年は、初対面のマツバやミナキからしてみれば、とてもじゃないが
「どうせ、ここに現れるという伝説のポケモンを捕まえて、自分を強く見せようと思ってるんだろう」
「わたしが?」
「だがそれは無理な話さ」
「……そうかもだけど」
チリアは自分のノーコンに引っかかっているのだが、シルバーのほうはべつの意見であった。
「いいか、伝説のポケモンは、最強のトレーナーになると誓ったオレにこそ似合うんだ。お前はせいぜい、ロケット団の下っ端にでも遊んでもらうのがお似合いさ!」
「その理屈だと、わたしにだって資格はありそうだわ。シルバーには言ってなかったっけ?」
少女は、妖艶な笑みをシルバーに向ける。
「わたしも最強のトレーナーを目指しているのよ」
「……笑わせるなよ」
シルバーは笑っていない。
チリアとはこれまで二度、戦っており、いずれも勝利している。なのに、彼女の宣言が戯言だと、無謀だと、一笑に付す気にならなかった。
「それでは挑戦させてもらおうかしら。ねえ、マグマラシ」
チリアとシルバーは距離を取る。
「なんだかおもしろそうじゃないか」
マツバが、ふたりの間に立つ。
「偶然居合わせたとはいえ、ぼくはジムリーダーだ。公正な勝負になるよう、審判をしてあげよう」
「ではぼくは観客だ」
ミナキは呑気に座り込む。
「……ちっ、鬱陶しいな。なんなんだよこいつらは」
「言ってたとおり、偶然居合わせただけのひとたちよ。ちょっと鬱陶しいのは同感だけど、邪魔するつもりはなさそうだし、いいじゃない。好きにさせてあげましょう」
少年少女は、目上の男たちに対して一切の尊敬はなかった。
:
「マグマラシ、“かえんぐるま”!」
先手を取り、大きなダメージを与えるが。
「ゴース、“あやしいひかり”!」
『こんらん』状態を与えられてしまう。あと一発でも“かえんぐるま”を使えば、ゴースを倒せそうなのだが──
「安全策を取る。交代、トゲピー!」
投げたモンスターボールは、観戦するミナキのところまで飛んで行った。
「うわ、なんだい!? あ、トゲピーかわいい……」
「ストップ! ええと、とりあえずトゲピーはバトルフィールドまで戻って」
マツバは審判らしく、ゴースを制してトゲピーを誘導する。
「チリアちゃん、いまのはなんだい?」
「手元が狂った」
「そっか。気をつけようね」
よちよち歩きのトゲピーがチリアのもとに戻り、バトルが再開する。
「無様だな! そんなことで最強のトレーナーになろうっていうのか。──ゴース、“したでなめる”!」
ゴースの長い舌がトゲピーに迫るが……その舌は、トゲピーの身体をすり抜けた。
「なっ……!?」
「トゲピーはノーマルタイプよ。ゴーストタイプの技は当たらない」
チリアはわざと嫌味っぽく、言葉を返す。
「無様ね、シルバーちゃん。そんなことで最強のトレーナーになろうっての?」
煽った直後に、トゲピーに攻撃を指示する。
「トゲピー、“じんつうりき”」
どくタイプを持つゴースに、効果は抜群である。マグマラシから受けたダメージもあり、ゴースは戦闘不能になった。
「……コイル!」
シルバーが2匹目に繰り出したのは、ひとつ目の鉄球に、U字磁石のようなユニットが付いたポケモンであった。
「“でんじは”だ!」
でんきタイプの技だ。トゲピーは回避できず、マヒ状態になる。
「トゲピー、“てんしのキッス”!」
だが、トゲピーは痺れて動けない。
「コイル、“でんきショック”!」
電流がトゲピーを襲う。チリアはおさげをいじりながら、冷静に状況を分析するが──
「これはマズい」
コイルはでんきタイプにして、はがねタイプである。
トゲピーが攻撃に転じたとしても、エスパータイプの“じんつうりき”は効果がいまひとつだ。ならば交代するのが最適解であるが──はがねタイプを相手に、どくタイプのアーボやノーマルタイプのイーブイは決定打を持ち合わせていない。
「こうやって選択肢がどんどん消えていくの、やな感じだな──トゲピー、マグマラシに交代!」
飛び出したマグマラシは、さっそくその身を火炎に包む。
「“かえんぐるま”!」
効果は抜群だった。戦闘不能になったコイルを、シルバーはすぐに交代させる。
「弱いやつは弱いなりに、悪あがきするもんだな」
彼がつぎに出してくるポケモンは、チリアも予想していた。──だからこそ、マグマラシを繰り出すのには躊躇があった。
「アリゲイツ!」
赤いトサカに、大あごを持つみずタイプのポケモンだ。ウツギ研究所から盗まれたワニノコの進化系。マグマラシにとっては、ヒノアラシの頃から続く因縁深い相手だ。
「“みずでっぽう”!」
「“えんまく”!」
──と。
チリアたちはそれなりに足掻いたのだが、やはりアリゲイツという大看板を崩すことは叶わず。
途中でアリゲイツと交代したズバットにも追い込まれて……
「降参」
アーボとイーブイが戦闘不能になったところで、チリアは白旗を上げた。
「え、チリアちゃん、まだトゲピーが……」
審判のマツバは戸惑っているが。
「どうにも勝てる筋道が見つからないし、博打に出るのもやな感じだから、もうやめとく。シルバー、今回はわたしの負けね。次は勝つから」
悔しさなど微塵にも見せず、無遠慮に言い放つチリアに、シルバーは呆れた様子でズバットをモンスターボールに戻した。
「……フン! これだから弱いやつと戦うのはイヤなんだ」
それでも、シルバーのポケモンたちも、楽勝とは呼べない程度に追い詰められた。ズバットは『ひんし』も目前。アリゲイツは『どく』の状態異常を受けている。
あるいは、バトルを続けていても運次第ではトゲピーに負けていた可能性も、無きにしも非ずであるが──
「なに見惚れてるの?」
敗北を宣言したチリアには、自分を睨むシルバーをからかうほどに余裕がある。シルバーは少女たちに背を向ける。
「つい遊び過ぎた。……まあいいさ。お前に伝説のポケモンが捕まえられるはずないからな」
赤い髪の少年は、伝説のポケモンたちへ挑戦することなく、焼けた塔を去って行った。
「ふうん。譲ってくれるんだ……」
とはいえ、どんなポケモンであれチリアに捕獲はできないであろうことは、彼女も予測しているのだが。
まずノーコンだから。
「……よかったのかい、チリアちゃん。あの勝負、がんばればトゲピーでも勝てそうだったんじゃないかい?」
「かもね。まあでも、必死こいてあいつと決着をつけるのは、ここじゃないかな、って」
「どうやらきみにも、いろいろわけがありそうだね……」
立ち上がったミナキは、苦笑してチリアに歩み寄る。
「まあとにかく、スイクンたちを見に行くというのならば、心するがいい! 彼らはきっと、あの少年より強いぞ!」
「ちょっと、邪魔。いまからポケモンたちのことを回復するから」
「あ、うん……」
:
地下に行くと。
「伝説のポケモン、ねえ」
ライコウ、エンテイ、スイクン。
3匹のポケモンは、近くまで来たチリアの気配を察知して、すっと立ち上がった。
「なるほど。それなりに雰囲気あるわ。いまのわたしやシルバーが戦っても、敵わないでしょう」
警戒態勢の3匹とは逆に、チリアは腕を組み、リラックスした様子で彼らに向き合う。
「わたしはいまのいままで、あなたたちに興味なんて抱いていなかったから、ちゃんと調べたりしてないんだけど……つまり、あなたたちはかつて、この塔で焼死したポケモンということでいいのかしら?」
スイクンたちは少女をじっと見つめる。
「あなたたちを蘇らせた、虹色のポケモン。あなたたちにとっての主、あるいは神。──空より降り立ったということは、すくなくとも、ひこうタイプってこと?」
そんなポケモン、チリアに心当たりは──
「勘よね、もはや。たとえばその名は……」
記憶というライブラリから取り出したのは、アルフの遺跡で見た壁画。
そこに描かれていたのは見たこともない姿。記されていたのは聞いたこともない名前。しかし恐らく、鳥ポケモン。
「HOUOU」
マグマラシ ♂
おくびょうな性格
トゲピー ♂
さみしがりな性格
アーボ ♀
しんちょうな性格
イーブイ ♂
まじめな性格