ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート12 焼けた塔/伝説の三体

 東にある塔──スズの塔には入れなかった。

 一般には開放されていないようで、「資格なき者」は立ち入り禁止とのこと。関所の時点で僧侶に門前払いを喰らった。

「それで、こっちの火事にあったほうには入れるっていうんだから、わけわかんないわ」

 西の塔の看板には、『この焼けた塔は謎の大火事で焼けました。危険な匂いがするのであまり近寄らないでください』とあった。

「ちょっとくらい大丈夫でしょ」

 まるで臆することなく、チリアはマグマラシを連れて、焼けた塔に入って行った。

「ふーん、火事の跡ってこんな感じなんだ。マグマラシ、これならきみの炎でも、やろうと思えば全焼できるんじゃないかしら」

 マグマラシは困ったように鳴いた。

 言葉だけはまるで冗談みたいだが、チリアの口調は、本気だったからだ。

「……ん?」

 こんな物騒な場所への観光客は自分だけかと思ったが、意外にも2名の先客の姿を認めた。

 ひとりは、タキシードに白いマントの男。

 そしてもうひとりは、紫色のヘアバンドとマフラーの男。

 ふたりは会話をしながら、焼けた塔を見渡している。仲の良さそうな様子から、彼らは一組と見て間違いないらしい。

「こんにちは」

 こんなひと気のない場所で素通りするのも不自然なので、チリアはかたちだけでも挨拶をした。

「やあ。わたしはミナキ。スイクンという名のポケモンを探して旅をしている」

 そのまま素通りはさせてくれなかった。マントの男は、爽やかに自己紹介してくる。

「きみは……?」

「通りすがりの旅のトレーナーよ」

「名前は?」

「……チリア」

「チリアというのか。よろしく。」

 ほんとうに、素通りさせる気はないようだ。

 ただすれ違っただけの男たちのことを、わざわざ無下に扱うのもかえって面倒だ。情報収取のためと割り切って、チリアは彼らと会話することにした。

「ここには観光のつもりで来たんだけど、あなたたちは?」

「わたしたちは、ここにスイクンがいると聞いてやってきたのだが……そこの床に空いた穴から、地下室を覗いてごらん」

 ミナキは、1階の中央に空いた穴を示した。床が崩れては危険なので近づきたくはなかったが、覗き込んでみると、そこにはポケモンたちがいた。

 ただのポケモンではなさそうだ。

 1匹は、黄色い毛皮に黒い模様が入った、鋭い牙を持つポケモン。

 1匹は、鋼のような甲殻に、額には冠のような飾りを持つポケモン。

 1匹は、水晶のような大きな角に、紫のたてがみ。透き通るような青い毛皮のポケモン

「なにあれ。なんだかすごそうなポケモン」

「そうだ。ライコウ、エンテイ、スイクンたちが見えるだろう? 下へ降りていってもいいんだが、彼らはすぐにどこかへ走り去ってしまうんだ。わたしは何度も試しているからね……」

 ミナキは肩をすくめる。

「ミナキ。あなたはスイクンを探してるって言ってたっけ?」

 チリアは、おさげをいじりながら、地下に佇むポケモンたちを改めて眺める。

「あの青いやつ?」

「そうさ」

「ふうん。それで、あなたは?」

 チリアは、ミナキの奥に隠れている、紫のヘアバンドとマフラーを身に着けた男に目を遣る。

「あなたも、あのなかのどれか狙い?」

「いいや、ぼくの場合はちょっと違う」

 男は苦笑する。

「ぼくはマツバ。エンジュのジムリーダーだよ。古い友人のミナキくんがスイクンを探しに来ているので、ついでだから一緒にこの塔のことを調べてるんだ」

「そう。あなたが……」

 ならば明日にでも、チリアはこの男に挑戦することになるだろう。

「エンジュには昔から、スイクン、エンテイ、ライコウという伝説のポケモンにまつわる言い伝えがある、エンジュのジムリーダーは、きちんとそのことを知っておかなければならないんだ」

「ふうん。そういえばこの塔に入る前、通りすがりのおじいちゃんが、なんか言っていたわね」

「どんな?」

「『むかし……この塔が火事になったとき、名も知れぬ3匹のポケモンが炎に包まれて死んでしまった。それを蘇らせたのが、空より降り立った虹色のポケモンじゃ……街のひとびとはこうしたポケモンの力を恐れ、暴力で抑えつけようとした。しかしポケモンたちはひとびとに反撃することなく、むしろ人間の行いに深い哀しみを覚え、みずからこの土地を去った……これはエンジュのジムリーダーに古くから伝わる話じゃ』──だって」

「一言一句憶えているのかい!?」

 マツバは長文をそらんじた少女に驚愕する。

「べつにそんな驚くことでもないでしょう。わたしの記憶力が良いというだけ」

「良すぎるなあ……きっとそのおじいさんは、むかしジムリーダーをやっていたお方だよ。ぼくの大先輩に当たる」

「そう。ところでわたし、もう行くわ」

 チリアの向く先は、出入口──ではなく、それとは真逆に、地下へと続く階段だった。

「下に降りるつもりなのかい!?」

「あの3匹のポケモン、もうちょっと近くで見たいの。べつに、あなたたちの許可なんて要らないでしょ?」

「それはそうだけど」

「それじゃ……あら?」

 チリアの足を止めたのは、新たに焼けた塔に現れた、ひとりの少年だった。

「………………」

「シルバーじゃん。元気そうね」

 赤い髪の少年は、うんざりした様子で少女を睨む。

「……なんだお前か。相変わらずなれなれしいな」

 にこりともしない攻撃的な雰囲気の少年は、初対面のマツバやミナキからしてみれば、とてもじゃないが()()()()な印象は受けない。

「どうせ、ここに現れるという伝説のポケモンを捕まえて、自分を強く見せようと思ってるんだろう」

「わたしが?」

「だがそれは無理な話さ」

「……そうかもだけど」

 チリアは自分のノーコンに引っかかっているのだが、シルバーのほうはべつの意見であった。

「いいか、伝説のポケモンは、最強のトレーナーになると誓ったオレにこそ似合うんだ。お前はせいぜい、ロケット団の下っ端にでも遊んでもらうのがお似合いさ!」

「その理屈だと、わたしにだって資格はありそうだわ。シルバーには言ってなかったっけ?」

 少女は、妖艶な笑みをシルバーに向ける。

「わたしも最強のトレーナーを目指しているのよ」

「……笑わせるなよ」

 シルバーは笑っていない。

 チリアとはこれまで二度、戦っており、いずれも勝利している。なのに、彼女の宣言が戯言だと、無謀だと、一笑に付す気にならなかった。

「それでは挑戦させてもらおうかしら。ねえ、マグマラシ」

 チリアとシルバーは距離を取る。

「なんだかおもしろそうじゃないか」

 マツバが、ふたりの間に立つ。

「偶然居合わせたとはいえ、ぼくはジムリーダーだ。公正な勝負になるよう、審判をしてあげよう」

「ではぼくは観客だ」

 ミナキは呑気に座り込む。

「……ちっ、鬱陶しいな。なんなんだよこいつらは」

「言ってたとおり、偶然居合わせただけのひとたちよ。ちょっと鬱陶しいのは同感だけど、邪魔するつもりはなさそうだし、いいじゃない。好きにさせてあげましょう」

 少年少女は、目上の男たちに対して一切の尊敬はなかった。

 

 

「マグマラシ、“かえんぐるま”!」

 先手を取り、大きなダメージを与えるが。

「ゴース、“あやしいひかり”!」

『こんらん』状態を与えられてしまう。あと一発でも“かえんぐるま”を使えば、ゴースを倒せそうなのだが──

「安全策を取る。交代、トゲピー!」

 投げたモンスターボールは、観戦するミナキのところまで飛んで行った。

「うわ、なんだい!? あ、トゲピーかわいい……」

「ストップ! ええと、とりあえずトゲピーはバトルフィールドまで戻って」

 マツバは審判らしく、ゴースを制してトゲピーを誘導する。

「チリアちゃん、いまのはなんだい?」

「手元が狂った」

「そっか。気をつけようね」

 よちよち歩きのトゲピーがチリアのもとに戻り、バトルが再開する。

「無様だな! そんなことで最強のトレーナーになろうっていうのか。──ゴース、“したでなめる”!」

 ゴースの長い舌がトゲピーに迫るが……その舌は、トゲピーの身体をすり抜けた。

「なっ……!?」

「トゲピーはノーマルタイプよ。ゴーストタイプの技は当たらない」

 チリアはわざと嫌味っぽく、言葉を返す。

「無様ね、シルバーちゃん。そんなことで最強のトレーナーになろうっての?」

 煽った直後に、トゲピーに攻撃を指示する。

「トゲピー、“じんつうりき”」

 どくタイプを持つゴースに、効果は抜群である。マグマラシから受けたダメージもあり、ゴースは戦闘不能になった。

「……コイル!」

 シルバーが2匹目に繰り出したのは、ひとつ目の鉄球に、U字磁石のようなユニットが付いたポケモンであった。

「“でんじは”だ!」

 でんきタイプの技だ。トゲピーは回避できず、マヒ状態になる。

「トゲピー、“てんしのキッス”!」

 だが、トゲピーは痺れて動けない。

「コイル、“でんきショック”!」

 電流がトゲピーを襲う。チリアはおさげをいじりながら、冷静に状況を分析するが──

「これはマズい」

 コイルはでんきタイプにして、はがねタイプである。

 トゲピーが攻撃に転じたとしても、エスパータイプの“じんつうりき”は効果がいまひとつだ。ならば交代するのが最適解であるが──はがねタイプを相手に、どくタイプのアーボやノーマルタイプのイーブイは決定打を持ち合わせていない。

「こうやって選択肢がどんどん消えていくの、やな感じだな──トゲピー、マグマラシに交代!」

 飛び出したマグマラシは、さっそくその身を火炎に包む。

「“かえんぐるま”!」

 効果は抜群だった。戦闘不能になったコイルを、シルバーはすぐに交代させる。

「弱いやつは弱いなりに、悪あがきするもんだな」

 彼がつぎに出してくるポケモンは、チリアも予想していた。──だからこそ、マグマラシを繰り出すのには躊躇があった。

「アリゲイツ!」

 赤いトサカに、大あごを持つみずタイプのポケモンだ。ウツギ研究所から盗まれたワニノコの進化系。マグマラシにとっては、ヒノアラシの頃から続く因縁深い相手だ。

「“みずでっぽう”!」

「“えんまく”!」

 ──と。

 チリアたちはそれなりに足掻いたのだが、やはりアリゲイツという大看板を崩すことは叶わず。

 途中でアリゲイツと交代したズバットにも追い込まれて……

「降参」

 アーボとイーブイが戦闘不能になったところで、チリアは白旗を上げた。

「え、チリアちゃん、まだトゲピーが……」

 審判のマツバは戸惑っているが。

「どうにも勝てる筋道が見つからないし、博打に出るのもやな感じだから、もうやめとく。シルバー、今回はわたしの負けね。次は勝つから」

 悔しさなど微塵にも見せず、無遠慮に言い放つチリアに、シルバーは呆れた様子でズバットをモンスターボールに戻した。

「……フン! これだから弱いやつと戦うのはイヤなんだ」

 それでも、シルバーのポケモンたちも、楽勝とは呼べない程度に追い詰められた。ズバットは『ひんし』も目前。アリゲイツは『どく』の状態異常を受けている。

 あるいは、バトルを続けていても運次第ではトゲピーに負けていた可能性も、無きにしも非ずであるが──

「なに見惚れてるの?」

 敗北を宣言したチリアには、自分を睨むシルバーをからかうほどに余裕がある。シルバーは少女たちに背を向ける。

「つい遊び過ぎた。……まあいいさ。お前に伝説のポケモンが捕まえられるはずないからな」

 赤い髪の少年は、伝説のポケモンたちへ挑戦することなく、焼けた塔を去って行った。

「ふうん。譲ってくれるんだ……」

 とはいえ、どんなポケモンであれチリアに捕獲はできないであろうことは、彼女も予測しているのだが。

 まずノーコンだから。

「……よかったのかい、チリアちゃん。あの勝負、がんばればトゲピーでも勝てそうだったんじゃないかい?」

「かもね。まあでも、必死こいてあいつと決着をつけるのは、ここじゃないかな、って」

「どうやらきみにも、いろいろわけがありそうだね……」

 立ち上がったミナキは、苦笑してチリアに歩み寄る。

「まあとにかく、スイクンたちを見に行くというのならば、心するがいい! 彼らはきっと、あの少年より強いぞ!」

「ちょっと、邪魔。いまからポケモンたちのことを回復するから」

「あ、うん……」

 

 

 地下に行くと。

「伝説のポケモン、ねえ」

 ライコウ、エンテイ、スイクン。

 3匹のポケモンは、近くまで来たチリアの気配を察知して、すっと立ち上がった。

「なるほど。それなりに雰囲気あるわ。いまのわたしやシルバーが戦っても、敵わないでしょう」

 警戒態勢の3匹とは逆に、チリアは腕を組み、リラックスした様子で彼らに向き合う。

「わたしはいまのいままで、あなたたちに興味なんて抱いていなかったから、ちゃんと調べたりしてないんだけど……つまり、あなたたちはかつて、この塔で焼死したポケモンということでいいのかしら?」

 スイクンたちは少女をじっと見つめる。

「あなたたちを蘇らせた、虹色のポケモン。あなたたちにとっての主、あるいは神。──空より降り立ったということは、すくなくとも、ひこうタイプってこと?」

 そんなポケモン、チリアに心当たりは──

「勘よね、もはや。たとえばその名は……」

 記憶というライブラリから取り出したのは、アルフの遺跡で見た壁画。

 そこに描かれていたのは見たこともない姿。記されていたのは聞いたこともない名前。しかし恐らく、鳥ポケモン。

「HOUOU」




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

トゲピー ♂
 さみしがりな性格

アーボ ♀
 しんちょうな性格

イーブイ ♂
 まじめな性格
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