ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート13 エンジュシティ/必殺!大文字かがり火

「見ただろう!? 目の前をものすごい勢いでスイクンが駆けて行った」

 1階に戻ってきたチリアに、ミナキは興奮気味に話しかけてきた。

「かれこれ10年近くスイクンを追いかけてきたが、こんなに近くでスイクンを見たのは初めてだ! 感動だぜ!」

「あっそ。ちょっと近い。離れて」

 チリアは不愛想に、ミナキを押しのける。

 先ほど、チリアがあてずっぽうで告げた「HOUOU」という言葉が、伝説のポケモン名であったのかはわからずじまいだ。

 その言葉を聞いた途端──あるいは別のなにかが契機であったのか知らないが、ライコウとエンテイとスイクンは、飛ぶように駆けて焼けた塔から去って行った。

「それにしても……スイクンは明らかに、きみのことを意識していたな」

「……そうかしら」

 たしかに去り際のスイクンは、チリアのことをじっと見つめていた。その意味は、視線を向けられたチリアにもわからない。断言はできないものの、敵意らしきものは感じなかったが。

「エンジュシティにつたわる伝説のポケモンは、力を認めた人間のそばに寄ってくるらしい」

「たしかにわたしは天才だけど、力を示した覚えはないわよ」

「見ればわかるんだろう。たぶん。伝説のポケモンというくらいだし」

 なんともアバウトである。

「今後はわたしもきみのように、もっと積極的にスイクンと向かい合ってみるか……」

「好きにすれば。ところで、マツバは?」

 先ほどまでここにいた、ジムリーダーであるマツバの姿がない。

「スイクンたちが去って行ったところまではいたんだが、なにを思ったのか、あいつもすぐに出て行ったよ。ジムに戻ると言ってたけど」

 ということは、エンジュジムにはジムリーダーがいる状態のようだ。挑戦しに行ってもいいのだろうか。

「ではチリア。またどこかで会おう!」

 意気揚々と去って行くミナキ。

 チリアとしても、もはや崩れかけの塔に用はない。ミナキに続いて、焼けた塔を後にした。

「そういえば伝説のポケモンたち、出て行っちゃったけど……シルバー、あとで挑戦するつもりじゃなかったのかな。だとしたら悪いことをした。──まあ、わたしに先を譲った判断が悪かったということで」

 

 

『エンジュシティポケモンジム。リーダー、マツバ。千里眼を持つ修験者』

 ポケモンセンターで休息を取ったあと、チリアはすぐにエンジュジムへ向かった。

「おーす! 未来のチャンピオン!」

 眼鏡の男に迎えられるのも、もう4回目だ。

「このジムのトレーナーたちは、ゴーストタイプのポケモンを自在に操ってくる! ゴーストとは亡霊。そして幻のようなもの……力任せにぶつかっても効き目はないはずだ!」

「ノーマルタイプとかくとうタイプは効果がないんでしょ?」

「なんだ、よくわかってるなあ」

「それにしても、暗いところ」

 ジムを照らすのは蝋燭の火。あちこちに影が差しており、さながらお化け屋敷のように薄暗い。

「ひょっとして、怖いのか?」

「怖いって……ああ、暗いから怪我とかするのは、たしかに嫌だけど」

「……うん。お前はそういう女の子だよな。とにかく、がんばるんだぞ!」

 なぜかがっかりした様子の男の声援を受けて、チリアのジムチャレンジが始まった。

 真っ暗なジムの道は、細い橋になっている。しかも、道を照らす光源がいくつかの蝋燭しかないので、足元はまともに見えない。

 そしてジムトレーナーと戦うたびに、頼りない蝋燭のうち、灯火の箇所が変化する仕掛けだ。道を踏み外せば暗い池に落ちてしまい、またスタート地点からやり直しとなる仕組みになっているのだ。

 ──が、チリアにとっては容易い道のりであった。

「どこが難しいのかしら。灯りの位置が変化するとはいえ、ふつうに記憶できるし、そもそもジムトレーナーがいる場所から道のある場所は予測できるし」

 まるで迷いなく。

 まるで恐れなく。

 チリアは闇に包まれる道を、普段を変わらぬ速度で歩いた。

 連れ歩いているマグマラシのほうが、腰が引けている。

「マグマラシ、さっさとついてきなさい。きみは燃えてるんだから、だれよりも足元は歩きやすいでしょう。──それにしても、このあたりってゴーストタイプのポケモンが少ないのね。さっきからゴース系列のポケモンばかりと戦ってる。ほかにジョウト地方にいるゴーストポケモンは──ムウマっていうのがいるんだっけ。街の周辺にはいないのかしら。なんにしても、対策するポケモンが少なくて済むならそれに越したことはない」

 チリアは主に、自分の思考に意識を傾けているので、そもそも恐怖など感じようもないのだ。

 だから速足のまま、ジムリーダー、マツバのもとまでたどり着いた。

「よく来たね」

 闇に包まれた奥の部屋で、マツバは少女を出迎えた。

「ここに到着するまで、歴代最速なんじゃないかな? ふふ、タイムを計っておけばよかったよ」

 周囲の蝋燭の火が付いた。広いバトルフィールドが、ほのかに照らされる。

「ここ、エンジュでは昔からポケモンを神様として祀っていた。そして真の実力を備えたトレーナーの前に、伝説のポケモンは舞い降りる。そう伝えられている……」

「まさか、信じているの?」

 チリアは挑発するつもりで、鼻で笑ってみせる。

「ポケモンはポケモンという生き物でしょ。それ以上でも以下でもない。知識や歴史、あるいは教訓を伝承する術として、『神様』というありもしないシンボルをでっちあげているだけ。そういうの、否定するつもりはないけど、いい感じとは思わないな」

「きみは賢いね。でも未熟だ」

「………………」

「ぼくはその言い伝えを信じ、生まれたときからここで秘密の修行をしてきた。そのおかげで、ほかのひとには見えないものも見えるようになった……」

 嘘だ。

 ──と、判断するのはやめておいた。

 淡々と語るマツバの目は、すくなくとも本気に見えたからだ。

「千里眼──と看板に書いてあったわ。いわゆる、遠い場所、あるいは未来を見ることができる能力のことだっけ」

「よく知っているね。ぼくに見えるのは、この地に伝説のポケモンを呼び寄せる人物の影……ぼくはそれが、ぼく自身だと信じているよ!」

 マツバはモンスターボールを手に取り、チリアから距離を取る。

「そしてそのための修行、きみにも協力してもらおう!」

「修行というのならばお互いさまね。わたしが最強になるためにも、協力してもらうわ」

 ジム戦が始まった。

 

 

「アーボ、”かみつく”」

 1匹目に繰り出されたゴースを、アーボの牙が倒した。あくタイプの技は、ゴースのガス状の身体を効果抜群に捉える。

「さすが。ゴーストタイプとの戦いは慣れたものだね」

「ここに来るまで散々、ジムトレーナーのイタコたちに相手させられたからね。ゴースにできることはだいたい予想がつく」

「ふっ……では、こいつの相手も余裕かな? ゴースト!」

 ゴースの進化系だ。ガス状の身体は形状が定まっており、両手が宙に浮いている。

「……“かみつく”!」

 “へびにらみ”と迷ったが、ここは攻撃を選択した。ゴーストはあくタイプの技で大きなダメージを受けるものの、戦闘不能には至らない。

「ゴースト、“さいみんじゅつ”!」

「げ」

 アーボは『ねむり』の状態異常に陥ってしまう。技が通ったことを確認し、マツバはすかさずつぎの技を指示した。

「“ゆめくい”!」

 それは、眠っているポケモンにダメージを与える技だ。というか、眠っているポケモンにしか効果がない技だ。──使用条件があるだけに、高威力。しかもエスパータイプの技なので、どくタイプであるアーボには効果抜群だ。

「なるほど。これはマズい」

 戦闘不能になったアーボを、モンスターボールに戻す。

「しかも“ゆめくい”は体力を吸収する技か。せっかく“かみつく”しておいたのに、ゴーストはすっかり元気そうね。……泣きっ面に蜂だわ」

「降参するかい?」

「やな感じのことを言うな」

 チリアは、つぎのモンスターボールを手元で開けた。

 投げつけたい気持ちもあったが、いまノーコンを発動してしまえば、ポケモンは奈落に落ちてしまうだろう。

「トゲピー、“じんつうりき”!」

 これもまた、エスパータイプの技。どくタイプでもあるゴーストには効果抜群である。だが戦闘不能には至らず──

「“さいみんじゅつ”!」

 ゴーストはふたたび波動を放つ。

 しかしそもそも、“さいみんじゅつ”のような状態異常の技は、命中が高くはない。トゲピーは転倒するように、波動を回避した。

「あら、やるじゃんトゲピー」

 チリアは、『ねむけざまし』をバッグにしまう。

「ではもう一回、“じんつうりき”!」

 2発目の技で、ゴーストは戦闘不能になった。

「……ふふ、そうそう上手くはいかないか」

 マツバの繰り出す3匹目は、またゴーストであった。

「トゲピー、交代。イーブイ」

 チリアが3匹目に選んだイーブイは、攻撃技はノーマルタイプの技しか持っていない。ゴーストタイプには効果を発揮しないので、エンジュジム戦では使う機会がないと思っていたのだが──

「おもしろいこと思いついちゃった。ちょっと運任せだけど」

「博打はやな感じ、とか言ってなかったっけ?」

「細かいことを憶えてんのね」

 イーブイとゴーストは、互いに技を発動することなく、じりじりと睨み合う。

「あれえ?」

 チリアは、挑発的な笑みを浮かべる。

「なんだかお困り? ひょっとして、使える技が無いとか?」

「……まさか。ただ選択肢が──」

「“すなかけ”」

 イーブイは砂塵を巻き上げ、ゴーストの命中を下げる。

「くっ……! したたかだなきみは! ゴースト、“くろいまなざし”!」

 ゴーストの視線で、イーブイは交代できなくなる。

「おっと、これはこれで困ったわね」

「続けて“のろい”だ!」

 ゴーストは、自分の体力を削って、イーブイに状態変化を植えつけた。

 “のろい”。

 呪い。

 自分の体力の半分を犠牲に、敵にダメージを与え続ける技だ。これで、放っておいてもイーブイの体力は減っていく一方なのだが──

「予測済み」

 チリアは肩掛けバッグから、何本もの『キズぐすり』を取り出す。

「イーブイにゴーストタイプへの攻撃手段はないし、ここからは根競べね」

「根競べって……呪いで一方的にダメージを受けるのはそっちだぞ?」

「だからいちいち回復する。そっちのゴーストが無駄撃ちする技が尽きるまで」

「………………」

「こっちは砂をかけたり、尻尾を振ったりして能力を下げまくる。技を使うのもタダじゃないわよね? 先にPPが無くなるのはどっちかしら?」

「……話にならない」

 明らかに有利なのはマツバだ。なのにチリアの目は自信に満ち溢れている。

 焼けた塔でのシルバーとの戦いで、あっさりと勝利を捨てた少女の戦い方とは思えない。運任せの博打ですらない。泥仕合も甚だしい。

「椅子とかない? 時間がかかると思うから、できれば座りたいんだけど」

 マツバは、深くため息をついた。

 考え得る限り最善の手は、ポケモンの交代。それはだれにでも明らかだ。しかしだからこそ、この魔性を持つ少女の思うつぼに陥りかねない。

「未熟なのは、きみかぼくか……とにかくぼくは、そこまで意地にはなれない。降参するわけではないが──すまない、ゴースト」

 マツバはふたたび、ゴーストに“のろい”を指示した。

 ふたたび、体力の半分を消費する。

 すなわち、すべての体力を使い切り、ゴーストは戦闘不能になった。

「……いいの? それじゃ自滅じゃないの」

 すでに『のろい』を受けていたイーブイにはなんの効果もない。ゴーストの退場で、“くろいまなざし”による戦闘から離れられない状態も解除された。

「根負けということでいい。ただし、勝負に負けるつもりはない」

 マツバは、最後のモンスターボールを取り出す。

 チリアもイーブイを交代させる。

「ぼくは信じているのだよ! ぼくのことを! ぼくのポケモンのことを!」

 ゲンガー。

 進化前のゴースやゴーストとは一変して、手足を持ったポケモンである。

「マグマラシ、“かえんぐるま”!」

 先に行動したのはマグマラシだった。その身を炎に包み、ゲンガーに突撃する。

「ゲンガー、“シャドーボール”!」

 反撃の黒い塊がマグマラシを襲う。

 威力は明らかに、“シャドーボール”のほうが高い。ゲンガーの様子を見るに、再度“かえんぐるま”を使っても戦闘不能には至らないだろう。

「さすが、三段階進化。強いわね」

 少女の口ぶりは余裕である。

 しかし攻撃力で勝っているマツバは、油断しない。つぎのマグマラシの行動は、再度“かえんぐるま”か、それともつぎにつなげるための“えんまく”か。

「でも、マグマラシも強いわよ。最強になるからね」

 マグマラシの背中の発火器官から、激しく炎が噴き出す。マツバは“かえんぐるま”かと身構えたが──

「“だいもんじ”」

 大の字に広がった轟炎が、ゲンガーを戦闘不能にした。

 

 

「当たってよかった」

 “だいもんじ”は、非常に高火力だが命中は高くない。そんな上級レベルの技が成功して、チリアは安堵する。

「わざマシンか」

 マツバはゲンガーをモンスターボールに収める。これで、彼がこのバトルに選んだポケモンは全滅したことになる。

「コガネ百貨店で買ったの。ほんとは服とか雑貨とか欲しかったけど、荷物になるからね。結局、ポケモンたちにばっかりお金を使っちゃった」

「……だれよりも修行を積んだのに! なんということだ……」

 あらためて、マツバは敗戦を悔しがった。

「そんなにムキになることないじゃない。ジムリーダーって、挑戦者が所持しているジムバッジの数によって、使うポケモンを変えるものでしょ? ──って、本に書いてあったけど」

「それでも悔しいものは悔しいよ。いつだって、勝つつもりで戦っているんだ。勝負の実力ではそれほど負けていないはず! けれどきみには、それだけではないなにかが……」

 焼けた塔でのシルバーという少年との勝負で、好機を見過ごして「降参」という手段を取ったチリアのことを、マツバはどこか、見下していた。

 そんな未熟な少女と対面した、スイクンたち伝説のポケモンは、チリアの()()()を感じて焼けた塔から去った。

「なにかもなにも、そうやってわたしの実力を見抜けなかったことが敗因じゃなくって?」

 チリアは妖しく笑う。

「シルバーと戦うことになって、すぐに思った。見ているあなたに、()()()()()()()()()と」

「………………」

 マツバは絶句したのちに。

「……はははっ!」

 思わず笑った。

「参ったな! きみにとっては、ジム戦は焼けた塔の時点で始まっていたというわけか。たしかに、ジムに挑戦するつもりなら、ジムリーダーのぼくに手の内を明かさないのは必然だ!」

「シルバーとの戦いで“だいもんじ”を使っていれば勝てていたわ。絶対」

 若干、負け惜しみでもある。

「わかった。とにかく、このバッジはきみのものだよ!」

 ファントムバッジ。エンジュジムのバッジが、チリアのものになった。




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

トゲピー ♂
 さみしがりな性格

アーボ ♀
 しんちょうな性格

イーブイ ♂
 まじめな性格
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