ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート14 アサギシティ/アサギ人情噺

「そうか……この間、舞妓さんたちが言ってたのはきみのこと……あ! いやいや、なんでもない。気にしないでくれよ。それだけの強さを持つきみなら、海を渡っても大丈夫そうだね。ここから西へ行き、さらに南へ下って行くとアサギシティがある。そちらへ行ってごらん……」

 マツバに見送られ、チリアはエンジュジムをあとにする。

「旅の行き先に口出しされるのは、やな感じだけど」

 ポケギアのタウンマップを確認する。

「西に行けば38番道路。東には42番道路……まあ、マツバのおすすめ通りに西でいいか。道路の番号が若い順にたどりましょう」

 歩き出すチリアだが、異変を感じて振り返る。

「……トゲピー?」

 いつも、鬱陶しいほど足元近くに付いてくるトゲピーが、うずくまって震えている。

「は? なに? 病気? ケガ?」

 様子をうかがうためかがんだ瞬間、トゲピーの身体が光に包まれる。

「わ。そういうこと」

 すこしほっとした。

 一度見覚えがあるが、これは進化の光である。──光のなかから現れたのは、すらりとした鳥のような体型に白い羽を持った、トゲチック。トゲチックは羽ばたくと、やがてたどたどしく飛行を始める。

「ひこうタイプか。それにしても、赤ちゃんだったきみがなかなか頼もしくなったものね。レベルを上げた甲斐があったわ」

 チリアは知らなかった。

 たまたま、既読本に記載がなかったので知識に無かったのだ。

 トゲチックへの進化には、ポケモンが十分に懐いている必要があり、今回はそれを達成したことを。──ポケモンが嫌いなチリアにとっては、信じられないことであろうが。

「……頭の周りをパタパタ飛ばないで。鬱陶しい」

 

 

 38番道路。草むらを歩いていると。

「……びっくりした」

 いつものように野生ポケモンが飛び出してきた──と思ったら、それは雷雲のようなたてがみをたなびかせるポケモン、あの焼けた塔にいたライコウというポケモンだった。

「なによ。やる気?」

 チリアとトゲチックは、一応戦闘態勢に入る。相手は伝説のポケモン、格上も格上である。付け入る隙がないものか、観察し始める。

 ──だが、ライコウは鋭い眼光でしばらく少女を睨んだかと思うと、背中を向けて去って行った。

「……なんなのよ」

 怪訝な顔のチリアとは裏腹に、トゲチックはほっとした様子であった。

 そんな意味不明なイベントをはさみつつ、チリアたちは39番道路へ進む。草むらばかりだった38番道路とは違って、この道路は開けており、モーモー牧場という施設まである。

「牧場自慢のモーモーミルクはいらんかー? ポケモンに飲ませりゃ、体力回復ってもんだ! いまなら1本500円だー」

「市販の薬より割りが良いのね。じゃあ1ダースちょうだい」

「ありがとう! サービスにお嬢ちゃん、1本飲んでみな! 味と栄養は保証するよ!」

 差し出されたミルクを、言われるがままに試飲した。

「どうだい? おいしいだろー?」

「………………」

「どうした? おいしくない? もしかして牛乳は苦手だった?」

「いや、べつに。品質に問題はないわ。ただまあ、牛乳だなーって」

「?」

「気にしないで。ポケモンたちにも飲ませるわ。どうもありがとう」

「あ、うん。たっぷり飲んでくれー!」

 チリアには、美味しいという感覚がよくわからない。

 食べることも、飲むことも、生きていくに必要な要素を摂取する手段でしかない。それ以上でも以下でもない。

 

 

────

 ここはアサギシティ。

 潮風香る港町。

────

 

「海ならヨシノシティで見慣れてるけど……」

 チリアとアーボは、波止場から40番水道を見渡す。

「広い分、見晴らしが良い。地平線まで景色がよく見えるわ」

 足元のアーボは、同意するように喉を鳴らす。

「ま、どうでもいいんだけど。さて、今回は観光より先にジムに行きましょう」

 アサギジムは街の北側にある。ポケモンたちの体力も万全なので、さっそく足を踏み入れようとすると、ドアから出てくる少年と鉢合わせてしまった。

「………………」

「シルバーじゃん」

「……またお前かよ」

 赤毛の少年は、憂鬱そうにため息をついた。

「よく会うわね。じゃあさっそく」

 アーボはチリアの前に出るが。

「なにその気になってんだ? オレはお前みたいな弱いやつは相手にしない」

「あらあら、これまで勝ってるからって調子に乗っちゃって」

「……弱いといえば、ここのジムリーダーもいないぜ」

 どうやらシルバーは、アサギジムに挑戦しようとしたが、ジムリーダー不在で門前払いを喰らったようだ。

「弱ったポケモンの世話をしに、灯台へ行ってるんだとよ」

 少年は、忌々しそうに鼻を鳴らす。

「……フン!  馬鹿馬鹿しい。弱ったポケモンなんかほっときゃいいのさ。戦えないポケモンに、なんの価値もないからな」

「やな感じの言い方だけど、おおむね同意よ。ただそれは、満足にポケモンを捕まえられる者の慢心よね」

「なに?」

「べつに」

 ノーコンのチリアには、ポケモンを選り好みできない。

 手持ちはたったの4匹。1匹でも弱れば、放っておくことはできないだろう。いくらポケモンが嫌いでも、チリアにとっては必要なのだ。

「ジムリーダーは灯台にいるのね? 行ってみようかしら」

「お前、灯台で修行してみたらどうだ? すこしは一人前のトレーナーらしくなれるかもしれないぜ」

「ご忠告どうも。優しいのね」

 シルバーはより機嫌が悪くなった様子で、顔を背けてそのまま去って行った。

「──嘘じゃないとは思うけど、念のため確認しておきましょう」

 アサギジムに入ると。

「ジムリーダーのミカンかい? 灯台のポケモンの具合があまり良くないらしくて、様子を見に行ってるぜ」

 いつもの眼鏡の男が説明してくれた。

 受付に尋ねるつもりだったのに。

「ほんとうに強いトレーナーは、強さと同時に優しさも兼ね備えているものなんだな……」

「どうかな。そうとも限らないと思うけど」

 

 

 ふたたびチリアたちは港へ、そして高台にそびえ立つアサギの灯台を訪れた。

「別名、『輝きの灯台』……大げさな名前」

 シルバーには修行を勧められたものの、灯台に野生ポケモンが出現するわけではなかった。ただし、数名のトレーナーがいた。

 彼らは修行目的だったり、あるいはこの塔に、ジムリーダーであるミカンという少女が訪れている関係で、彼女を連れ戻しに──もしくは守りに来たジムのトレーナーだった。

「戦う意味がないようなひとたちもいたけど……修行にはなったから、べつにいいか。きみも進化したし」

 チリアが連れ歩いているのは、アーボック。

 アーボが進化したのだ。最大の特徴は、横に広がった腹部にある顔のような奇怪な模様である。

「わたしは芸術のことなんてよくわかんないけど、センスのある模様よね。個体差はあるのかしら?」

 チリアが腹部の模様を撫でると、アーボックはくすぐったそうに、しかし嬉しそうに身を揺らした。

 成長したポケモンたちとともに難なくトレーナーたちを退け、ついにチリアは頂上であるライトルームにたどり着いた。

「あなたがジムリーダーのミカン?」

 チリアの声に振り向いたのは、長い髪に橙色の髪飾りをつけた少女。チリアよりはいくつか年上だろうが、ジョウト地方のジムリーダーの年齢層は若いようだ。

 そしてそのかたわらには、へたり込んだ黄色いポケモン。頭と尻尾の赤い宝石は鈍くて弱い光を放っている。

「それ、デンリュウだっけ? すごく弱ってるようね」

「アカリちゃんっていうんです。……このコ、いつも海を照らしてくれてたの」

 ミカンは切なげな表情で、デンリュウを撫でる。

「……でもいきなりぐったりして、息も絶え絶え……」

「ポケモンセンターには?」

「センターの設備では治らなくて……海の向こう、タンバにはすごい薬屋さんがいるそうですけど……あたしアカリちゃんのそばを離れるわけにはいかないし……」

「たしかに、動かして大丈夫そうには見えないわね」

 チリアはしゃがみ込み、デンリュウの首元に触れる。

「あのう……?」

「息は荒いわりに、脈は速くない。体温は高いようには感じないけど……熱はないのね?」

「は、はい。なにかしらの状態異常になっているわけでもなく、でも尻尾の光を放つことができなくなって……」

「ふうん……ひょっとしたらデンリュウ特有の病気かな? ポケモンの種類ごとに、能力に不調をきたす病気を発症することもある、って本で読んだ事ことがある」

「………………」

 ミカンは、自分より明らかに年下の少女が、手際よく診察を行う様子が頼もしく見えた。

「その薬屋に症状を伝えれば、薬を調合してくれるかしら?」

「え、ええ、たぶん……もしかして?」

「わたしがちゃちゃっと貰ってきてあげる」

 チリアは立ち上がった。

「い、いいんですか!? 見ず知らずのあたしたちのために……!」

「アサギジムに挑戦するつもりなの。あなたを知らなかったわけじゃない。お礼は……ジム戦でいいわ。めんどくさいギミックのチャレンジとか、トレーナー戦とか抜きで」

 タダで親切をするつもりはない。

 それに、タンバシティにもポケモンジムがある。どうせ行くつもりなのだから、ついでにひと助けをするのも悪くない。

 少女のたまの気まぐれが、アカネとデンリュウにとっては幸運であった。

 

 

 40番水道、41番水道をポケモンの”なみのり”で越えようとするトレーナーは多い。

 ──のだが、チリアの手持ちには、海を渡れる技を持つポケモンはおろか、みずタイプすらいない。

「だったら優雅な船旅しかないわね」

 アサギシティは港町である。タンバシティへの連絡船は、一日に何本も出ている。チリアはだれもがそうするように、船乗り場でチケットを買い、タンバシティ行きの旅客船に乗った。

 40番水道。

「“なみのり”どころか、泳いでるひともけっこういるわね。海パン野郎に、ビキニのお姉さん……泳いで海を渡るなんて考えられないわ。水着なんて、ファッションで着るものでしょうに」

 41番水道。

「あれが『うずまき島』……名前の通り渦で囲まれてる。入るには渦を鎮める技が必要、と。つまり観光スポットではないのね」

 一時間にも満たない船旅を終えて。

 旅客船はタンバシティに到着した。

 

────

 ここはタンバシティ。

 荒波寄せる海の街。

────

 

「ん? 薬?」

 さっそくチリアは、ポケモンセンターの隣にあったタンバ薬屋を訪れた。創業500年の老舗らしい。この街にはフレンドリィショップは無いようだが、こんな小さな薬屋で事足りているのだろうか。

 店主は、チリアが連れているイーブイをじっと見る。

「きみのポケモン……そない重症とは思えんが、なにごとか困っとるのかね?」

「いえ、わたしのポケモンではないのだけどね」

 チリアは、デンリュウの症状も含めて事情を説明した。

「ふーむ、灯台のポケモンがな」

「どうにかなるかしら?」

「わかった! それならこの薬やな。持って行きよし」

 想像していたより、薬屋の遠隔な診断は早かった。既存の小瓶がチリアに渡される。

「……疑うようで悪いけど、ほんとに効くの?」

「おう、効く効く! わしの秘伝の薬は効き目強過ぎるからな。よほどのことでないと上げないのや」

「上げるったって、代金は取るでしょ。おいくら? 領収書の宛名は、アサギシティのジムリーダーね」

「いらんいらん! 持って行き!」

 突然、手元の小瓶の値段がタダになって、さすがにチリアは驚いた。

「……困るわよ。代金は受け取ってもらわないと……変じゃん」

「だってあんた旅の途中なのに、友だちのポケモンのために、わざわざこんな田舎町まで来てくれたんやろ? そうゆうの、ええなあ! 人情や! 気に入ったから、代金は結構。もともと趣味でやってるようなもんやし」

「……いやいや」

「あんたみたいにポケモンに優しい若者がいると思うと、やる気が出るわ! 未来は明るいなあ!」

 などと、機嫌が良さそうな薬師を相手に、とてもじゃないが「そんなことない」なんて言えなかった。

 ポケモンなんて好きじゃないのに。

 どうして、こう勘違いされてしまうのだろう。




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

イーブイ ♂
 まじめな性格
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