ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「そうか……この間、舞妓さんたちが言ってたのはきみのこと……あ! いやいや、なんでもない。気にしないでくれよ。それだけの強さを持つきみなら、海を渡っても大丈夫そうだね。ここから西へ行き、さらに南へ下って行くとアサギシティがある。そちらへ行ってごらん……」
マツバに見送られ、チリアはエンジュジムをあとにする。
「旅の行き先に口出しされるのは、やな感じだけど」
ポケギアのタウンマップを確認する。
「西に行けば38番道路。東には42番道路……まあ、マツバのおすすめ通りに西でいいか。道路の番号が若い順にたどりましょう」
歩き出すチリアだが、異変を感じて振り返る。
「……トゲピー?」
いつも、鬱陶しいほど足元近くに付いてくるトゲピーが、うずくまって震えている。
「は? なに? 病気? ケガ?」
様子をうかがうためかがんだ瞬間、トゲピーの身体が光に包まれる。
「わ。そういうこと」
すこしほっとした。
一度見覚えがあるが、これは進化の光である。──光のなかから現れたのは、すらりとした鳥のような体型に白い羽を持った、トゲチック。トゲチックは羽ばたくと、やがてたどたどしく飛行を始める。
「ひこうタイプか。それにしても、赤ちゃんだったきみがなかなか頼もしくなったものね。レベルを上げた甲斐があったわ」
チリアは知らなかった。
たまたま、既読本に記載がなかったので知識に無かったのだ。
トゲチックへの進化には、ポケモンが十分に懐いている必要があり、今回はそれを達成したことを。──ポケモンが嫌いなチリアにとっては、信じられないことであろうが。
「……頭の周りをパタパタ飛ばないで。鬱陶しい」
:
38番道路。草むらを歩いていると。
「……びっくりした」
いつものように野生ポケモンが飛び出してきた──と思ったら、それは雷雲のようなたてがみをたなびかせるポケモン、あの焼けた塔にいたライコウというポケモンだった。
「なによ。やる気?」
チリアとトゲチックは、一応戦闘態勢に入る。相手は伝説のポケモン、格上も格上である。付け入る隙がないものか、観察し始める。
──だが、ライコウは鋭い眼光でしばらく少女を睨んだかと思うと、背中を向けて去って行った。
「……なんなのよ」
怪訝な顔のチリアとは裏腹に、トゲチックはほっとした様子であった。
そんな意味不明なイベントをはさみつつ、チリアたちは39番道路へ進む。草むらばかりだった38番道路とは違って、この道路は開けており、モーモー牧場という施設まである。
「牧場自慢のモーモーミルクはいらんかー? ポケモンに飲ませりゃ、体力回復ってもんだ! いまなら1本500円だー」
「市販の薬より割りが良いのね。じゃあ1ダースちょうだい」
「ありがとう! サービスにお嬢ちゃん、1本飲んでみな! 味と栄養は保証するよ!」
差し出されたミルクを、言われるがままに試飲した。
「どうだい? おいしいだろー?」
「………………」
「どうした? おいしくない? もしかして牛乳は苦手だった?」
「いや、べつに。品質に問題はないわ。ただまあ、牛乳だなーって」
「?」
「気にしないで。ポケモンたちにも飲ませるわ。どうもありがとう」
「あ、うん。たっぷり飲んでくれー!」
チリアには、美味しいという感覚がよくわからない。
食べることも、飲むことも、生きていくに必要な要素を摂取する手段でしかない。それ以上でも以下でもない。
:
────
ここはアサギシティ。
潮風香る港町。
────
「海ならヨシノシティで見慣れてるけど……」
チリアとアーボは、波止場から40番水道を見渡す。
「広い分、見晴らしが良い。地平線まで景色がよく見えるわ」
足元のアーボは、同意するように喉を鳴らす。
「ま、どうでもいいんだけど。さて、今回は観光より先にジムに行きましょう」
アサギジムは街の北側にある。ポケモンたちの体力も万全なので、さっそく足を踏み入れようとすると、ドアから出てくる少年と鉢合わせてしまった。
「………………」
「シルバーじゃん」
「……またお前かよ」
赤毛の少年は、憂鬱そうにため息をついた。
「よく会うわね。じゃあさっそく」
アーボはチリアの前に出るが。
「なにその気になってんだ? オレはお前みたいな弱いやつは相手にしない」
「あらあら、これまで勝ってるからって調子に乗っちゃって」
「……弱いといえば、ここのジムリーダーもいないぜ」
どうやらシルバーは、アサギジムに挑戦しようとしたが、ジムリーダー不在で門前払いを喰らったようだ。
「弱ったポケモンの世話をしに、灯台へ行ってるんだとよ」
少年は、忌々しそうに鼻を鳴らす。
「……フン! 馬鹿馬鹿しい。弱ったポケモンなんかほっときゃいいのさ。戦えないポケモンに、なんの価値もないからな」
「やな感じの言い方だけど、おおむね同意よ。ただそれは、満足にポケモンを捕まえられる者の慢心よね」
「なに?」
「べつに」
ノーコンのチリアには、ポケモンを選り好みできない。
手持ちはたったの4匹。1匹でも弱れば、放っておくことはできないだろう。いくらポケモンが嫌いでも、チリアにとっては必要なのだ。
「ジムリーダーは灯台にいるのね? 行ってみようかしら」
「お前、灯台で修行してみたらどうだ? すこしは一人前のトレーナーらしくなれるかもしれないぜ」
「ご忠告どうも。優しいのね」
シルバーはより機嫌が悪くなった様子で、顔を背けてそのまま去って行った。
「──嘘じゃないとは思うけど、念のため確認しておきましょう」
アサギジムに入ると。
「ジムリーダーのミカンかい? 灯台のポケモンの具合があまり良くないらしくて、様子を見に行ってるぜ」
いつもの眼鏡の男が説明してくれた。
受付に尋ねるつもりだったのに。
「ほんとうに強いトレーナーは、強さと同時に優しさも兼ね備えているものなんだな……」
「どうかな。そうとも限らないと思うけど」
:
ふたたびチリアたちは港へ、そして高台にそびえ立つアサギの灯台を訪れた。
「別名、『輝きの灯台』……大げさな名前」
シルバーには修行を勧められたものの、灯台に野生ポケモンが出現するわけではなかった。ただし、数名のトレーナーがいた。
彼らは修行目的だったり、あるいはこの塔に、ジムリーダーであるミカンという少女が訪れている関係で、彼女を連れ戻しに──もしくは守りに来たジムのトレーナーだった。
「戦う意味がないようなひとたちもいたけど……修行にはなったから、べつにいいか。きみも進化したし」
チリアが連れ歩いているのは、アーボック。
アーボが進化したのだ。最大の特徴は、横に広がった腹部にある顔のような奇怪な模様である。
「わたしは芸術のことなんてよくわかんないけど、センスのある模様よね。個体差はあるのかしら?」
チリアが腹部の模様を撫でると、アーボックはくすぐったそうに、しかし嬉しそうに身を揺らした。
成長したポケモンたちとともに難なくトレーナーたちを退け、ついにチリアは頂上であるライトルームにたどり着いた。
「あなたがジムリーダーのミカン?」
チリアの声に振り向いたのは、長い髪に橙色の髪飾りをつけた少女。チリアよりはいくつか年上だろうが、ジョウト地方のジムリーダーの年齢層は若いようだ。
そしてそのかたわらには、へたり込んだ黄色いポケモン。頭と尻尾の赤い宝石は鈍くて弱い光を放っている。
「それ、デンリュウだっけ? すごく弱ってるようね」
「アカリちゃんっていうんです。……このコ、いつも海を照らしてくれてたの」
ミカンは切なげな表情で、デンリュウを撫でる。
「……でもいきなりぐったりして、息も絶え絶え……」
「ポケモンセンターには?」
「センターの設備では治らなくて……海の向こう、タンバにはすごい薬屋さんがいるそうですけど……あたしアカリちゃんのそばを離れるわけにはいかないし……」
「たしかに、動かして大丈夫そうには見えないわね」
チリアはしゃがみ込み、デンリュウの首元に触れる。
「あのう……?」
「息は荒いわりに、脈は速くない。体温は高いようには感じないけど……熱はないのね?」
「は、はい。なにかしらの状態異常になっているわけでもなく、でも尻尾の光を放つことができなくなって……」
「ふうん……ひょっとしたらデンリュウ特有の病気かな? ポケモンの種類ごとに、能力に不調をきたす病気を発症することもある、って本で読んだ事ことがある」
「………………」
ミカンは、自分より明らかに年下の少女が、手際よく診察を行う様子が頼もしく見えた。
「その薬屋に症状を伝えれば、薬を調合してくれるかしら?」
「え、ええ、たぶん……もしかして?」
「わたしがちゃちゃっと貰ってきてあげる」
チリアは立ち上がった。
「い、いいんですか!? 見ず知らずのあたしたちのために……!」
「アサギジムに挑戦するつもりなの。あなたを知らなかったわけじゃない。お礼は……ジム戦でいいわ。めんどくさいギミックのチャレンジとか、トレーナー戦とか抜きで」
タダで親切をするつもりはない。
それに、タンバシティにもポケモンジムがある。どうせ行くつもりなのだから、ついでにひと助けをするのも悪くない。
少女のたまの気まぐれが、アカネとデンリュウにとっては幸運であった。
:
40番水道、41番水道をポケモンの”なみのり”で越えようとするトレーナーは多い。
──のだが、チリアの手持ちには、海を渡れる技を持つポケモンはおろか、みずタイプすらいない。
「だったら優雅な船旅しかないわね」
アサギシティは港町である。タンバシティへの連絡船は、一日に何本も出ている。チリアはだれもがそうするように、船乗り場でチケットを買い、タンバシティ行きの旅客船に乗った。
40番水道。
「“なみのり”どころか、泳いでるひともけっこういるわね。海パン野郎に、ビキニのお姉さん……泳いで海を渡るなんて考えられないわ。水着なんて、ファッションで着るものでしょうに」
41番水道。
「あれが『うずまき島』……名前の通り渦で囲まれてる。入るには渦を鎮める技が必要、と。つまり観光スポットではないのね」
一時間にも満たない船旅を終えて。
旅客船はタンバシティに到着した。
────
ここはタンバシティ。
荒波寄せる海の街。
────
「ん? 薬?」
さっそくチリアは、ポケモンセンターの隣にあったタンバ薬屋を訪れた。創業500年の老舗らしい。この街にはフレンドリィショップは無いようだが、こんな小さな薬屋で事足りているのだろうか。
店主は、チリアが連れているイーブイをじっと見る。
「きみのポケモン……そない重症とは思えんが、なにごとか困っとるのかね?」
「いえ、わたしのポケモンではないのだけどね」
チリアは、デンリュウの症状も含めて事情を説明した。
「ふーむ、灯台のポケモンがな」
「どうにかなるかしら?」
「わかった! それならこの薬やな。持って行きよし」
想像していたより、薬屋の遠隔な診断は早かった。既存の小瓶がチリアに渡される。
「……疑うようで悪いけど、ほんとに効くの?」
「おう、効く効く! わしの秘伝の薬は効き目強過ぎるからな。よほどのことでないと上げないのや」
「上げるったって、代金は取るでしょ。おいくら? 領収書の宛名は、アサギシティのジムリーダーね」
「いらんいらん! 持って行き!」
突然、手元の小瓶の値段がタダになって、さすがにチリアは驚いた。
「……困るわよ。代金は受け取ってもらわないと……変じゃん」
「だってあんた旅の途中なのに、友だちのポケモンのために、わざわざこんな田舎町まで来てくれたんやろ? そうゆうの、ええなあ! 人情や! 気に入ったから、代金は結構。もともと趣味でやってるようなもんやし」
「……いやいや」
「あんたみたいにポケモンに優しい若者がいると思うと、やる気が出るわ! 未来は明るいなあ!」
などと、機嫌が良さそうな薬師を相手に、とてもじゃないが「そんなことない」なんて言えなかった。
ポケモンなんて好きじゃないのに。
どうして、こう勘違いされてしまうのだろう。
マグマラシ ♂
おくびょうな性格
トゲチック ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
イーブイ ♂
まじめな性格