ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート9 クチバシティ/強くなったと思います?

「おーす!未来のチャンピオン!」

 例の眼鏡の男は、クチバジムにもいた。

「どこにでもいるんですね」

「どこにでもはいない! そんなことよりジムの情報を教えるぜ!」

 今回も、深く突っ込まずにおとなしく聞くことにした。

「マチス少佐のあだ名はイナズマアメリカン! 電気ポケモンを使わせたらナンバーワンらしいぜ! ひこうタイプ、みずタイプは相性が悪いぜ! マヒさせられないよう気を付けな!」

 モンスターボールのなかで、ギャラドスは残念そうだった。

「それと、マチスは用心深い! 彼の部屋はロックされて簡単には入れないぜ!」

「ロック……?」

 ジムリーダーと戦うまでに「関門」があるというのは、アクタにとって初めてであった。ジムチャレンジが始まってすぐに、その過酷さを体験することになる。

「マチス少佐は自分でトラップを作って、部屋を二重にロックしてるぜ……」

 最初のジムトレーナーとの戦闘後、その船乗りの男はヒントを残した。

「第1ロックを外したら、第2ロックはすぐそばだ。ふたつのロックは隣り合わせにあるぜ」

「なるほど……」

 会場を見渡す。あちこちにスイッチが仕掛けられている。とりあえず片っ端から押してみて──

『第1ロックが解除されました』

 アナウンスが流れる。

「よし、じゃあこれの隣だから……どれ?」

 スイッチはあらゆる方向に配置されている。恐る恐る、手近なスイッチを押してみた。

『第1ロックが作動しました』

「……え、やり直し? なんでえ!?」

 連続でロックを解除できなければ、再度第1ロックがかかる仕組みだった。しかも、第1ロックの解除スイッチの場所は変化する。

「これは長丁場になるぞ……」

 このトラップは運の要素が強い。最初の正解のスイッチの場所は完全にランダムであり、早い者は数分でクリアできる。アクタはどちらかというと、不運なほうだった。

『第2ロックが解除されました』

 チャレンジ開始からおよそ2時間後、ふたつの扉が開いた。

「ハァイ」

 扉の奥にいた男はアクタの姿を認めて、歯を見せて笑った。筋骨隆々とした身体に、軍人らしい迷彩服をまとった金髪の男だった。

「疲れているみたいだネ。アーユーオーケー?」

「おかげさまで……でも、大丈夫です」

 フシギソウがいるモンスターボールを手に取る。

「ナイス・スピリット! さっそく、始めまショ!」

 マチスが指を鳴らすと、部屋がライトアップされる。広い空間で、アクタとマチスが向かい合った。

「ヘーイ! プアリトルキッド! ユーのハンパなパワーでは戦場じゃ生き残れないネ。ミーはエレクトリックポケモン使って戦場を生き延びたネ! みんなビリビリシビれて動けナーイ! ユーもおなじ道たどる違いナーイ!」

 マチスはモンスターボールを投げた。出てきたのは、まるでモンスターボール。ボールポケモンのビリリダマだった。

「カモン! ユーもポケモンを出しな!」

「お、オーケー!」

 アクタはモンスターボールを投げた。うっかり投げてしまった。若干、疲れが出ているのだ。

 ボールは部屋の壁に何度か反射して、器用に、ビリリダマの目前にフシギソウを出した。

「ワオ、ブラーボー!」

 拍手するマチス。パフォーマンスと思われたらしい。

「テクニシャンだネ、キッド! バトルのほうはどうかナ?」

 アナウンスの審判が、バトル開始を告げる。

「ビリリダマ、“ソニックブーム“!」

「フシギソウ、“はっぱカッター”!」

 衝撃波が、葉っぱが、それぞれを傷つける。威力はもちろん“はっぱカッター”が上だ。

「オー、タフなフシギソウだネ! それじゃ、“いやなおと”!」

 音波がフシギソウの防御を下げる。アクタたちは再度“はっぱカッター”を撃ち、ビリリダマは倒れた。

「つぎは、ピカチュウだ!」

「かわいい!」

 繰り出されたねずみポケモンに、思わずアクタは歓声を上げてしまった。フシギソウはたしなめるように鳴く。

「あ、ごめん」

「ハハハ! プリティなだけじゃないよ! ピカチュウ、“でんじは”!」

 フシギソウはマヒ状態になってしまった。動きが鈍り、一定の確率で行動が封じられてしまう異常だ。

「くっ……“はっぱカッター”!」

 今回は行動できた。緑の刃は一撃でピカチュウを『ひんし』にした。しかしフシギソウはマヒに加えて、防御も下げられている。

「ゴー! ライチュウ!」

 マチスの最後のポケモンだ。ピカチュウの進化系であり、体格も大きくなったオレンジ色のねずみポケモンだ。

「“でんげきは”!」

 素早い電撃がフシギソウを襲う。

「フシギソウ、“ねむりごな”……」

 だが、フシギソウは身体が痺れて動けない。

「ワンモア、“でんげきは”!」

 フシギソウにでんきタイプはいまひとつの効果だが、それでも軽いダメージではない。

「──“やどりぎのタネ”!」

 マヒに負けずに種を発射する。ライチュウの身体に蔦が巻きつく。

「フン! “でんげきは”!」

「“はっぱカッター”!」

 アクタは計算する。フシギソウの使える技。ライチュウが使えるであろう技。ギャラドスを出した場合、このバトルに耐えることができるか。

 思い浮かべた選択肢は、どれもが賭けに思えた。

 だが──

「……ビビることないか」

 選択肢が思い浮かぶということは。

 ()()()()()()だという証じゃないか。

「フシギソウ、動けるか? “ねむりごな”!」

 フシギソウは粉を発射する。ライチュウは眠気に襲われる。

「オーマイガッ!」

 やどりぎのタネの効果で、時間が経つに連れてライチュウの体力がフシギソウに吸収される。

「ウェイカップ、ライチュウ! ──シット! 一手目に“かげぶんしん”しておくべきだったか」

「ああ、それをやられてたら、ぼくらは詰んでいたかもしれませんね」

 アクタはマヒに苦しむフシギソウを気遣いつつ、最後の指示を出した。

「“はっぱカッター”」

 ライチュウは倒れ、マチスは大仰に肩をすくめた。

「オーノー! ユーの強さトゥルース! つまり本物ネー! オッケー! オレンジバッジやるヨ!」

 太陽を思わせる形の、オレンジ色のバッジが渡された。これでジムバッジも3つ目だ。

「結局、ポケモン1匹でクリアされちまったナ」

「交代しても良かったんですけどね。それ以外にも、『まひなおし』を使ったり、“はっぱカッター”でごり押しても、勝ち目はあったかも」

 “ねむりごな”を選んだのは、それがもっとも安全だと感じたからだ。

「持っているバッジ以上にストロングだったんだな、キッド。オーケー、ユーはスペシャル! これはミーの気持ちネ!」

 マチスはわざマシンと、

「なんですかこれ」

「ミーのサインさ! 遠慮せず受け取れヨ! フレンドに自慢できるぜ!」

 サイン色紙には、流れるような文字でマチスの名前と、“Good Luck !“と書かれていた。

「要らない」の一言が口に出せるわけもなく、アクタは苦笑いして受け取った。

 

 

「ふー、国際試合にきんちょーしたぜ」

 クチバジムを出る際、眼鏡の男性は見送ってくれた。アクタは男に尋ねる。

「あの、ぼくって強くなったと思います?」

 彼はニビシティのときから、アクタを知っている。

「そりゃそうだろ。ポケモンのレベルも上がったし、お前さんも経験を積んだ。──ははあ、もしかして」

 男はにやりと笑った。

「いまになって、強さを実感できるようになったか!? ははは! マチスに勝って、調子に乗っているんだろ!」

「そういうわけじゃ……からかわないでくださいよ」

「でも、自信が出てきたのはほんとうだろう?」

「……たぶん」

 これまでの勝利は、ひとえにポケモンのおかげだと思っていた。しかし本物のポケモンバトルとは、トレーナーの的確な指示と、戦況の読み方がカギを握るものである。そして、アクタはそれができるようになっていた。

 3つのジムを初回の挑戦でクリア。ギャラドスという新しい戦力で、グリーンにも勝った。

 否が応でも、「自信」がつく。

「マチスさんとのバトルで、なんだか、冷静に戦えたんです。ちょっとだけ余裕すらありました。だからもしかして、ぼく自身が成長しているのかなって」

「そうか……! きっと、そうだな。だけどバッジはまだまだ3つ目だ。これからの戦いはもっと激しくなるぞ! 負けるなよ、未来のチャンピ……」

「それじゃ、ぼくはこれで」

「聞けよ!」

 この男はつぎのジムにもいるだろう。付き合いは長くなりそうだ。アクタは、それが嫌ではなかった。

 




フシギソウ
 れいせいな性格
 最初から、自分とアクタなら勝てそうだと思っていた。

ギャラドス
 がんばりやな性格
 コイキングからギャラドスに進化するとき、脳細胞の構造が組み換わるために性格が凶暴になると言われている。
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