ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート15 タンバシティ/滝行て

「さて、本来なら一刻も早くこの薬を届けるべきなんだけど……」

 アサギ行きのつぎの船は、夕方らしい。

 まだ日は高い。ジムにも挑戦したいところだが、その前にぐるりとタンバシティを見回ってみることにした。

 あまり大きくはない港町──というか漁村だ。陸地の面積は砂浜のほうが多い。浜には昆布が干してある。

 北にある洞窟は、通称「がけっぷちゲート」。サファリゾーンという施設へ続いているらしいが、工事中につき通り抜けることはできない。

 さらに北には民家が一軒あるだけで、高台には──

「あ」

 なにもない、と思いきや。

 水晶のような角が、太陽の光を反射して輝いていた。

「スイクン」

 焼けた塔にいた伝説のポケモンだ。スイクンはチリアのことをじっと見つめていた。以前遭遇したライコウと違って、戦意のようなものは感じない。

 まるで、少女を品定めしているかのような。

「なによ。言いたいことがあるなら……さすがに喋るのは無理か」

 チリアが近づくと、スイクンは跳躍する。

「おっと」

 そして少女とすれ違い、風のように去って行った。チリアがずれた帽子の位置を直している間に、もう見えなくなっている。

「ようチリア」

 スイクンと入れ替わりになるように、マントの男が駆け寄ってきた。

「ミナキ」

 スイクンを追う男だ。なので彼がスイクンがいる場所に現れるのは、不思議ではない。

「いまの……スイクンじゃなかったか? ちょっとしか見えなかったが、海の上をスイクンが走って行ったように見えたぜ……」

「さっきまでそこの高台にいたのよ。みずタイプだし、やはり水辺が好きなのかしら」

「そうかもな。それにしても……スイクンは美しくて凛々しい」

 分析するチリアとは裏腹に、ミナキはうっとりとした顔で、もうスイクンのいない海に熱い視線を向けている。

「しかもものすごい速さで街や道を駆け巡る。素晴らしい。わたしももっと近くで

スイクンを見てみたいのだが……」

 まるでファンだ。

「よし! トレーナーであるきみと戦って、わたしもスイクンに認めてもらう。さっそく勝負だ!」

「なんでそうなるのよ」

「だってきみ、スイクンに認められているみたいじゃないか! そんなきみに勝てば、きっとわたしも認められる! いくぞチリア!」

 少女の返事を待たず、ミナキは長い鼻を持つエスパータイプのポケモン、スリープを繰り出した。

「べつにいいけど……アーボック」

 アーボックの腹部の模様にスリープは一瞬、ひるむ。特性『いかく』だ。これにより相対したポケモンは攻撃が下がる。

「“かみくだく”!」

 スピードはこちらのほうが上だった。“かみつく”より強力な牙の一撃に、スリープは戦闘不能になった。

「嘘お!?」

「へえ、一撃とはやるわねアーボック。技とはタイプ一致してないのに」

 アーボックは得意そうに細い舌を出す。

「まだだ! ゴースト、“したでなめる”!」

 2番目に現れたのはゴースト。エンジュシティのジムで何度も戦ったポケモンだ。アーボックは運悪く、“したでなめる”の追加効果で『まひ』の状態になってしまう。

「じゃあ交代。トゲチック」

 トゲチックは進化する前から、ゴーストタイプとは戦い慣れている。ゴーストが繰り出す“さいみんじゅつ”を軽々と回避し、“じんつうりき”を放つ。これでゴーストは戦闘不能となる。

「くう……! これで最後だ! マルマイン!」

 それは、モンスターボールを大きくして、さらに逆さまにしたような球体のポケモンである。マルマインがでんきタイプであることは知っていたが──

「あ、やば。トゲチックって……」

「“かみなり”だ!」

 激しい落雷がトゲチックを襲う。効果は抜群だった。

「しまった。油断したわ。進化してひこうタイプが加わったから、でんきタイプに弱くなったんだった」

 戦闘不能のトゲチックをモンスターボールに戻す。

「よし! ようやく1匹!」

「2匹目はやらせないわよ。──マグマラシ」

 投げたボールは、波打ち際に飛んで行った。

「やべ」

「なに……え? 焼けた塔でもそういうことやってたよな?」

 マグマラシが海水と砂を払いながら戻ってきて、あらためてマルマインに向かう。

「ええい、なんでもいい! “かみなり”!」

 再度の落雷は、当たらない。

「そんなお手軽な技じゃないでしょ、それ。──“かえんぐるま”」

 炎をまとった突撃に、マルマインは体勢を崩す。

「はいここ! “だいもんじ”!」

 大の字に激しく燃える炎に呑まれ、マルマインは倒れた。

「……悔しいけどわたしの負けだ!」

 うなだれるミナキだが、すぐに顔を上げた。なぜか、晴れ晴れとした表情をしている。

「すごいぜチリア! スイクンがきみの様子を伺っていたわけが、すこしわかった気がするよ……途中、ボールを変な方向に投げたのは意味がわかんなかったけど」

「わたしだってわかんないわよ」

「とにかくわたしはこのまま、スイクンを探し続けてみる。きみとはまたどこかで

会うかもしれないな。じゃあ!」

 海風にマントをたなびかせ、ミナキは颯爽と去って行った。

「……スイクンが、わたしの様子を? そんな言い方じゃ、まるで──」

 スイクンが、()()()()()()()()()タンバシティに来たみたいじゃないか。

 

 

 ポケモンセンターに行くと。

「あれ、いつものストーカーじゃん」

「ストーカーって言うなよ! 公衆の場で!」

 いつもはジムで待ち構えている、眼鏡の男がいた。

「こんなところでなにしてるの? ジムにいるというルールから逸脱したら、いよいよわたしのストーカーっぽいわよ。まあ、仕方ないんでしょうけどね。わたしって見た目も良い上に天才だし」

 言いながら、チリアは受付にポケモンたちを預けて回復してもらう。

「勝手なことばかり言いやがって! たしかにおれはお前を応援しているけど!」

「はいはい。それで、きょうは?」

「まあ、お前を待っていたっていうのは、間違いじゃないんだ」

 男はバツが悪そうに咳払いをする。

「この街のポケモンジムは荒くれ者ばかり! そばまでいるとオレまで吹っ飛ばされそうだ。だからここでアドバイス」

「……わざわざどうも」

 要するに、ジムトレーナーが恐いらしい。

「ジムリーダー使うのはかくとうポケモン! だったらこっちはエスパーポケモンで惑わしてやれ! 相手がパワーを発揮する前に倒してやるんだ!」

 エスパータイプのポケモンは持っていないが、エスパータイプの技ならば、トゲチックが“じんつうりき”を使える。アドバンテージを取るのはそう難しくないだろう。

「それから……ジムリーダーのシジマは滝の修行に夢中だ!」

「滝の? つまり、ジムにはいないってこと?」

「いや、ジムのなかで滝の修行をやっている!」

 チリアは首を傾げる。

「なんとかして滝を止めないと、いくら話しかけてもきみの声は聞こえやしない!」

 意味はわからなかったが、あまり男を問い詰めてはジムチャレンジとして公平ではない。曖昧な前情報と、回復したポケモンたちとともに、チリアはタンバジムへ赴く。

『タンバシティポケモンジム。リーダー、シジマ。唸る拳で語る男』

 ジム前の看板を眺めていると。

「あなた、ジムに挑戦するの?」

 エプロン姿の女性が話しかけてきた。「うん」とチリアは頷く。

「海を渡ってきたの? 大変だったでしょ」

 この場合、“なみのり”や泳いで渡ったことを指して「大変」というものだが、チリアはフェリーを使って、快適な船旅にてタンバシティを訪れた。

「……まあ、それなりにね」

 はぐらかした。

「あらそう。すごいのねえ」

 女性は、チリアと連れているトゲチックを値踏みするように見つめたかと思うと、「よし!」となにかを決心した。

「あなた、この街のジムリーダーに勝ったらまたいらっしゃい。良いものあげるから」

 誘いを受けた少女は、さすがに首を傾げる。

「なにそれ? もともと勝つつもりだけど……うん。なんかくれるっていうんなら、遠慮なくいだたくわ」

「そうこなくっちゃ! じゃあ、がんばってね!」

 物理的に背中を押されて、チリアはそのままタンバジムのドアをくぐった。

「………………」

 受付を終えて、ジムチャレンジのスタート直後。

 目の前で、半裸の男が滝に打たれていた。

「……うわあ」

 目の前の少女に、男は修行に夢中で気づかない。

 ポケモンセンターにいた眼鏡の男の情報から察するに、彼がこのタンバジムのジムリーダー、シジマだろう。

「ねえ」

 一応、声をかけてみるが、少女の声は人工の滝の音にかき消される。

「意識あるの? 寝てない?」

 その疑問の答えは、とにかく滝を止めないことにははっきりしない。

 木造の、大量の水を流す装置。よくよく眺めてみると、装置のスイッチは奥のほうにある。

「なるほど。あのスイッチにたどり着くには、ジムトレーナーたちと戦わなきゃいけないわけね」

 なんとなく、足元を流れる水に触れてみる。温度はふつう。とりわけ冷たいわけでもなく、ぬるいというほどでもない。おそらく滝の水は循環しているのだろう。

「これで修行ねえ……意味あるのかしら。水圧が強いシャワーみたいなもんじゃん」

 好き勝手なことをつぶやきつつ、チリアはジムチャレンジを始める。

 

 

 トゲチックはひこうタイプの技は持っていないものの、”じんつうりき”という

エスパータイプの技がある。この特殊攻撃が、タンバジムの格闘ポケモンたちには

絶大な効果を発揮した。

 最近進化したアーボックも、かくとうタイプがどくタイプに効きづらいこともあり、大いに活躍している。

 とにかくジムトレーナーの格闘家たちは、チリアにとって強敵ではなかった。階段状になっているジムの最上階にたどり着く。

「これを回せばいいのね。──デカいなあ」

 背伸びして、大きなハンドルを力いっぱい回す。

 すると水を流す樋が上がり、激しい滝は止まった。

「これであのおじさんも、わたしに気づいてくれるのかな。──そういう個人的なクセをジムの仕掛けに利用するなんて、どういう神経をしているのかしら」

 ぶつぶつ呟きながら、少女は入り口まで戻る。

 滝が止まって静寂が訪れたジム。ヒゲを生やした中年の男が、目をつむったまま身を震わせていた。──寒い、というわけではないらしい。

「ぬおぉぉー! 激しく流れ落ちる滝がわしの頭の上に()()()()()……ってコラー!」

 かっと目を見開く。

「勝手に水を止めるなー! わしの修行の邪魔をしおってー!」

「なんで怒られなきゃいけないのよ」

 仕掛けをクリアして怒鳴られるという、理不尽な状況にあるチリアだが、男の剣幕にはまるでひるんでいない。

「確認だけど、あなたがジムリーダーのシジマよね? わたしはチリア。チャレンジャーね。ジム戦をしていただける?」

「なに!? バトルか!」

 シジマは、タオルでずぶ濡れの身体を拭う。

「言っとくがわしは強いぞ! こうやって毎日、滝に打たれているからな!」

「それってポケモンとは関係ないんじゃない?」

「なに?」

 シジマは、すこし考えて。

「………………それもそうだ」

「………………」

「………………」

「………………」

「では、勝負といくかあ!」

 おもしろいひとなんだな、と思った。




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

イーブイ ♂
 まじめな性格
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