ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

91 / 161
レポート16 タンバシティ/あかり

 シジマはふたつのモンスターボールを構えている。最初に繰り出したのは、

「オコリザル!」

 豚鼻の格闘ポケモンだ。チリアの1匹目はマグマラシである。

「“かえんぐるま”!」

 先手を取り、燃える身体で突撃する。シジマのオコリザルがどんな技を持っているのかまだわからないが、攻められるうちに攻めるのが吉と考えた。

「良い技だな! だが──“いわなだれ”!」

「うわ」

 反撃で喰らったいわタイプの技は、ほのおタイプのマグマラシに効果抜群である。想定外の大ダメージにペースが狂ってしまう。

「あと一発、なにかしら技をもらったら倒れちゃうわね。じゃあマグマラシ、“えんまく”!」

 つぎも“いわなだれ”が使われることを予想し、命中を下げる選択をしたが──

「オコリザル、行くぞ!」

 煙のなかで、オコリザルのシルエットは制止していた。

「“きあいパンチ”!」

 ──かと思うと、爆発的なスピードでマグマラシに迫り、そして爆発的な威力の拳を放った。

「……しまった」

 マグマラシは戦闘不能になり、チリアは即座にボールに戻す。

「集中力を高めて、その間にダメージを喰らわなければ発動できる、高威力のパンチ技か。してやられたわ」

「技の読み合いにかけては、わしの右に出る者はなかなかおらん。腐ってもジムリーダー! 容易に突破できると思うなよ!」

「トゲチック」

 2匹目を出す。

「“じんつうりき”」

 オコリザルは戦闘不能になった。

「なに!?」

「そっちも“かえんぐるま”でそこそこダメージは受けてたし、先手を取れるなら倒せるわよ」

 チリアは妖しく笑う。

 やはりこのシジマという男──おもしろい。

 会話した限りでは間抜けに見えたが、バトルのときの集中力は並外れている。存外、滝行というのも無駄ではないのかもしれない。

「わたしだってバッジを4つ集めてここに来たの。容易に突破できると思うなよ」

「これは一本取られたな。だが……まだまだ負けやせーん!」

 シジマの2匹目は、ニョロボンだった。筋肉質かつ潤う身体を持つ、みずとかくとうタイプのポケモンである。

「あれ、意外なポケモン。ちょっと不穏だな……トゲチック、交代」

 チリアが3匹目に選んだアーボックは、階段の上に現れた。

「思わず投げちゃった……」

「なんだ!? 作戦か!?」

「ただのトラブルよ。気にしないで」

 アーボックは水場を泳いでバトルフィールドまで戻り、ニョロボンと向かい合った。

「アーボック、“ようかいえき”」

 口から強酸を放つ。強い威力ではないものの、幸運なことに追加効果でニョロボンの特殊防御が下がった。

「ニョロボン、“さいみんじゅつ”!」

 腹部から放たれる波動で、アーボックは眠気に襲われた。チリアは即座に、『ねむけざまし』を使ってアーボックを目覚めさせるが──

「そして“きあいパンチ”」

「なるほど……!」

 思わず、少女は感嘆した。

 アーボックは強烈な一撃を喰らう。どくタイプのアーボックにとって効果はいまひとつではあるが、そもそも技の威力が高い。戦闘不能にこそは陥らなかったものの、大ダメージで息も絶え絶えだ。

「『ねむり』のような状態異常になれば行動はできない。こちらが回復に走ってもダメージを受けることはないので、“きあいパンチ”の発動条件は満たす。うまい戦術だな。あなたのことを雰囲気で脳筋と決めつけていた」

「お褒めに預かり光栄だ。……褒めてるんだよな?」

「うん」

「最近のトレーナーは、なよっちく見えるがけっこうやるもんだからなあ! わしも若い衆には負けてられん! いろいろと戦術を試しているところなのさ!」

 これで、()()()()()という段階か。思わずチリアの口角が上がる。

「やっぱり経験ってすごいわ。いままでジムリーダーなんてどこか、閑職みたいなチョロいポジションだと思ってたけど、あなたみたいなベテランを相手にしているとちょっと考えが改まるわね」

 チリアは、アーボックと目を合わせる。まだ、いけそうだ。

「ハヤトもツクシもアカネもマツバも、歳を喰えばそれなりに凄味ってもんを身に着けるんでしょうね」

「ほう。そいつら4人からバッジを獲得したのか」

「ええ。そして5つ目はあなただよ、シジマ」

 まだ、勝負は諦めない。チリアはおさげから指を離した。

「アーボック、“へびにらみ”!」

 まずは状態異常にする。

「くっ……! “さいみんじゅつ”!」

 しかしニョロボンの身体は痺れて動けない。

「しめた。“ようかいえき”!」

 さらにダメージを重ねるが──

「ええい、まだまだ!」

 ニョロボンは持ち物の『オボンのみ』を食べて、体力を回復させる。

「そして“なみのり”!」

 みずタイプの技に呑まれ、アーボックは戦闘不能になった。

「トゲチック!」

 即座にチリアは、アーボックを交代させる。モンスターボールは真後ろに飛んで行ったが、トゲチックは飛翔してバトルフィールドに降り立った。

「“じんつうりき”!」

 エスパータイプの技は、ニョロボンに大ダメージを与える。

「まだ、ま、だ……!」

 ニョロボンは技を発しようとするが、その身体はマヒに痺れて、動けなかった。

「“じんつうりき”!」

 トゲチックの放った波動に、ついにニョロボンは倒れた。

「まだ……ま、けた……」

 

 

「うーむ、わしが負けるとは……こりゃ参った!」

 気持ちが良さそうに呵々大笑するシジマは、拳を模したバッジをチリアに渡した。

「よーしっ! このショックバッジはお前に相応しい!」

「……でも、最後に勝負を分けたのは運じゃなくって?」

 ニョロボンが『まひ』に勝って行動できていたならば──勝敗は逆になっていたかもしれない。

「気合いだよ」

「……へ?」

「勝負を分けたのは、運ではなく気合いだよ。すくなくともこの勝負で、お前にはビリビリとした気合いがあった!」

「……そんなの」

 そんなの意味ないじゃないか。

 関係ないじゃないか。気持ちなんて。

「わはは! なんでもいいけど、わし、楽しかったよ! でも負けは負けだからな。きょうから24時間、特訓だ!」

「無茶言ってる。ずっと滝にでも打たれるつもり?」

 やはり、いろんな意味でおもしろいひとだった。

 

 

「勝ったわよ。ほら」

 ジムの外にて、なぜか挑戦を応援してくれたエプロン姿の女性にショックバッジを見せる。

「それはタンバのジムバッジ! じゃあこのひでんマシンを持って行くといいわ」

 ジムリーダーに勝ったらくれると言っていた「良いもの」。それはひでんマシンと呼ばれる、わざマシンと違って消耗品ではない、ポケモンに技を覚えさせられるディスクであった。

「“そらをとぶ”を覚えさせると、今まで行った場所に一瞬で行けるようになるわ」

 チリアは振り返って、連れ歩いているトゲチックを見つめる。

「飛べるかな」

 トゲチックの羽は大きくないし、チリアを乗せて運べそうな体格でもない。

「ふふふ、うちの旦那、あなたに負けたから特訓ね」

「え? じゃああなたはシジマの……?」

 女性はくすくすと笑っている。

「愉快そうね。旦那さんが負けたのに」

「いいのよ。最近あのひと、お腹たるんできてたから」

 そんなものか。

 夫婦の関係というものは、まだ子どものチリアにはわからない。

 ──否。そんなものはきっと、一生かかっても理解することはないだろう。

 女性と別れ、チリアは夕暮れの港へ向かう。

 フェリーは、ちょうど出航したところだった。

「そんなことだろうと思った。ジム戦に手間取っちゃったもんね。それじゃ……」

 一泊しようとも思ったが──この海を越える手段なら船以外にもある。チリアはさっそく、トゲチックに先ほど貰ったひでんマシン“そらをとぶ”を使用してみた。

「物理技か……まず空を飛んで、そして急降下する攻撃。威力はなかなか」

 トゲチックは、チリアの背中に飛びついた。サロペットの紐をしっかりと掴んでいる。

「……行けるの? マジで? じゃあ──“そらをとぶ”」

 空を飛べば、物理的に()()()()()ことができる。

 アサギシティまでは距離がある。40番水道、41番水道は広い。それでもトゲチックはチリアが考えるよりもずっとタフだった。日が沈むまで飛行し続けても、疲れた様子は見えない。

 先に出航したフェリーは追い越せなかったが、やがてトゲチックとチリアは無事にアサギシティに到着した。

「おつかれさま。がんばったじゃん」

 チリアを港に降ろし、さすがにくたびれた様子のトゲチックをモンスターボールに戻した。そして少女はその足で、アサギの灯台を目指す。

「ミカン、まだいる?」

 灯台の頂上には、ランプの小さな灯りとともに、寝そべったデンリュウと寄り添うミカンがいた。

「チリアさん……!」

「ほら、薬持ってきたわよ。飲みなさい」

 小瓶を差し出すが、デンリュウは顔を背ける。

「は? なによ。飲みなさいよ。わたしの薬が飲めないっての?」

「……あ、あの、気を悪くしないでくださいね」

 冷徹な表情の少女を、ミカンは慌ててなだめる。

「アカリちゃん、あたし以外のひとからものを受け取らないから……」

「あっそ。じゃあ」

 チリアは、ミカンに小瓶を渡した。ミカンの手からは、デンリュウはすんなりと薬を飲み込んだ。

「………………」

 やな感じ、と思った。よくしつけられているからだろうけど。

「……アカリちゃん、具合はどう?」

 ミカンが顔を覗き込むや否や、デンリュウはすっと立ち上がった。

 そして高い声で鳴いたかを思うと、その尾から強い光を放つ。

「アカリちゃん! やった!」

「眩しっ……」

 部屋が真昼のように明るくなる。

 そして光は専用のレンズに反射し、海に標となる灯りを伝えた。

「……ああ良かった。ほんとに良かったです。ありがとうございます。あなたのおかげです」

 ミカンは、少女に何度も礼を言った。チリアのほうがうんざりするほどに。

「わかった、わかった。もういい。とりあえずジム戦のほうはよろしく。あしたでいいからさ」

「はい! ……ではあたし、ジムに戻ります」

 ひとり、灯台から出て行くミカン。

 デンリュウはチリアと目が合うと、機嫌が良さそうに尻尾を振った。

「きみって、ミカンの手持ちじゃないの? じゃあ、あのひとって……でんきタイプ使いってわけじゃない?」




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

イーブイ ♂
 まじめな性格
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。