ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
『アサギシティポケモンジム。リーダー、ミカン。鉄壁ガードの女の子』
「ミカンが使うポケモンは、はがねタイプばかりだ!」
翌日、アサギジムには眼鏡の男が待ち構えていた
「はがねか……」
「心のなかの優しさを挑戦者に悟られないよう、鋼鉄の冷たさで覆い隠しているのさ!」
「そっか。わたしにはもう手遅れね」
「そんなことよりチリア、なんでタンバジムに勝った後、おれに報告しに来てくれなかったんだ?」
「ほのおタイプが効くんだっけ。でもマグマラシに頼り切るのも危険だから……」
「うわー、無視だよこの娘……」
アサギジムに仕掛けはなく、ジムトレーナーたちもチリアを素通りさせてくれた。約束どおりミカンはすぐに戦ってくれるようだ。
「……灯台ではありがとうございました」
ミカンはすでに、バトルフィールドに立っている。
「でも勝負はべつですよ」
「もちろん。負けてくれと頼むほど図々しくない」
それに、八百長試合なんておもしろくない。
「あらためて自己紹介します。あたしはジムリーダーのミカン。使うポケモンは──シャキーン!!」
ミカンは、腕を突き出してポーズを取った。
「は……はがねタイプです」
「………………」
ミカンは顔を赤くしている。
恥ずかしいのならば、やらなければいいのに。
「……はがねタイプってご存知ですか? とっても堅くて冷たくて鋭くて、つ、強いんですよ?」
思えば、はがねタイプと戦った経験はそう多くない。記憶に新しいのはシルバーが使っていたコイルだ。
「強い、ねえ?」
「ほんとなんですよ?」
「はいはい。その強さ、よーくたしかめさせてもらう」
チリアは、連れ歩いていたイーブイをそのままバトルフィールドに出した。
ミカンが1匹目に繰り出したのはコイルだった。審判の合図で、バトルが始まる。
「イーブイ、“かみつく”!」
「コイル、“ソニックブーム”!」
まずは、互いに技をぶつけ合う。
「……よくノーマルタイプを使う気になりましたね。わたしがはがねタイプの使い手だということは知っていたでしょうに」
「わりと直前まで知らなかったけど……それにしたって、イーブイは使うつもりだったわ。最近、活躍の機会が少なかったもの」
イーブイは“しっぽをふる”でコイルの防御を下げる。
「そんなの、
「え? いや、そういうわけじゃ……」
「コイル、“10まんボルト”!」
電撃を浴びて、イーブイは戦闘不能になってしまった。アーボックと交代させる。
「アーボック、“へびにらみ”!」
「コイル、“でんじは”!」
互いに、『まひ』の状態異常になる。
「皮肉な話よね。互いに相手を妨害する戦法を取った結果、五分になるだなんて」
「たしかにそうですが──“10まんボルト”!」
コイルは技の発動に成功する。しかし──
「アーボック、“あなをほる”」
蛇は地中に消えた。電撃は空を撃つ。
「じめんタイプの技……!」
「そりゃ、得意なタイプがわかっているのだから、効果抜群の技は用意するでしょ」
これもコガネ百貨店で購入した、わざマシンで覚えさせたものである。
ほんとうは、途中までミカンのことはでんきタイプの使い手ではないかと思っていたのだが。
『まひ』状態であるアーボックだったが、無事に“あなをほる”の発動に成功した。地中からの突撃を受けて、コイルは戦闘不能になる。
「くっ──つぎもコイル! がんばって!」
ミカンは2匹目のコイルを繰り出す。アーボックには引き続き戦ってほしいところだが、状態異常のまま戦わせ続けるのはリスクがある。
「アーボック、交代。想定より早いけど、きみに頼るよ。マグマラシ」
チリアが投げたボールは、鉄の壁を何度もバウンドした後、結局はバトルフィールドに落ちた。
「……すごい」
曲芸のようなボールさばきに、ミカンは思わず拍手をするが、これはチリアのノーコンである。
「拍手すんなって。“かえんぐるま”!」
はがねタイプに有利なほのおタイプの技に、コイルは一撃で戦闘不能になった。これでミカンのポケモンはラスト1匹のようだが、彼女の目は臆していない。
「鍛え抜かれた鋼は、これくらいでは錆びないの! ハガネール!」
それは、鋼鉄の塊が数珠つなぎになった巨大な鉄蛇のポケモン。
「……おとなしそうな顔して、ごっついポケモンを使うじゃない」
チリアの顔に笑みが浮かぶ。
「マグマラシ、“だいもんじ”!」
チリアのポケモンのなかで、文字どおり最大火力を持つ技を発するが──
「ハガネール!」
もともと命中が高い技ではないこともあり、回避される。
「“いわなだれ”!」
反撃でいわタイプの技を喰らってしまうが──
「まだ」
ギリギリ、持ちこたえる。
「まだ戦える。いい感じ」
マグマラシは再度、“だいもんじ”を放った。今度はハガネールに命中するが、特性の『がんじょう』により一撃では倒れない。さらに、持っていた『オボンのみ』で激減した体力を回復させる。
「最後まで諦めない。鋼の心で! ハガネール、“アイアンテール”!」
迫る鉄の尾。息を切らすマグマラシだが、紙一重で攻撃を回避した。
「“かえんぐるま”」
不思議なことに、チリアはマグマラシの呼吸を感じていた。
マグマラシの視界が想像できた。聴覚も。空気の流れさえも。
とにかく、マグマラシの攻撃はハガネールに命中して、その巨体を戦闘不能にした。
「お見事でした……」
ため息交じりに、ミカンは敗北を認めた。
5つのジムバッジを持つチリアと戦って、その実力、潜在能力について、まぎれもなく天才だと感じた。
加えて、この少女がポケモンに対して
:
「ポケモントレーナーとして、あなたのほうが上手みたい。強さも優しさも、ね」
「強さは当然。天才だし。でも優しさってのは……」
「優しいとしか言いようがないじゃないですか。デンリュウのお薬を取りに行ってくれたり」
「あんなの、タンバに行くついでだもん」
「うふふ、そういうことにしときましょうか」
「なにそれ。やな感じ。強引に議論を打ち切らないでよ」
「……ではリーグの決まりどおり、バッジを差し上げます」
八角形の、はがねタイプらしいデザインのバッジを押しつけられる。
「チリアさん。ついこの前、ポケモンコンテストに出たくてシンオウ地方に行ったんですけど」
「なんの話?」
チリアは、足元で息を切らすマグマラシを、とりあえずモンスターボールに戻した。
「そのとき、あなたと似た雰囲気のトレーナーに会いました」
「どんな美人?」
「美人っていうか……男の子でしたけど」
「ふうん。あなた、負けたからって喧嘩売ってる?」
「そ、そういうわけじゃなくって!」
焦って否定するミカン。
そんなに自分は男っぽい雰囲気があるのだろうかと、チリアは手鏡をじっと覗き込む。
「外見とかじゃなくって……そのひと、友だちやポケモンたちと楽しそうに過ごしていて、ポケモンリーグにも行ったんです。そして殿堂入りさえ果たしました」
「ますます似てないじゃない。まあ、どこのどいつだか知らないけど、とにかく強いひとってわけね?」
「あなたが似ているから──っていうのは根拠にならないと思うけど、チリアさんならきっと……」
ミカンは言い淀んで。
「あ、あの……あんまり上手く言えないけど……がんばってくださいね」
「はっきり言いなさいよ。わたしなら、最強のトレーナーになれるって」
「そこまでは断言できません……」
:
「いやあ、すごかったなはがねタイプ……火花を散らす戦いを見せてもらったぞ!」
眼鏡の男に見送られて、チリアはアサギジムをあとにする。というかもう、アサギシティにも用はない。タウンマップによれば、つぎのジムがある場所はチョウジタウン。エンジュシティまで戻って、東側の道のりになるだろう。
「トゲチック、“そらをとぶ”」
歩いて戻るよりは、飛んでしまったほうが速い。
「飛べると便利ね。もし飛行スピードが速いポケモンに覚えさせれば、どこにだって行き放題じゃない。──トゲチック、べつにきみが遅いって意味じゃないわよ」
エンジュシティに到着。すぐに東側から42番道路へ進む。
最初に目に着いたのは、そびえ立つ巨大な山──通称、スリバチ山。チョウジタウンに行くには、この山の洞窟を抜ける必要がある。
川を渡ることでも先に進めるようだが、チリアの手持ちに“なみのり”を使えるポケモンがいない。おのずと選択肢は限られる。
「洞窟か……ほこりっぽくてイヤなのよね、こういうダンジョンって」
洞窟内で野宿するようなことになったら、最悪だ。チリアは旅を始めて以来、一度も野宿をしたことがないことが誇りなのだ。
幸い日は高い。背後にイーブイを連れて、少女はスリバチ山に入って行った。
「滝だ」
入り組んだ内部には水路もあり、大滝が轟々と流れている。
「シジマもわざわざジムに設備を造らなくて、こういうところで修行すればいいのに……なんてのは、余計なお世話かな」
野生のポケモンについては、ズバットやイシツブテなど洞窟らしいポケモンたちが襲いかかってきた。修行中のポケモントレーナーたちもいたが、いまや6つのジムバッジを持つチリアにとって、強敵ではなかった。
「あれ、終わっちゃった」
意外にも、小一時間ほどで洞窟を抜けてしまった。内部はもっと複雑な道が広がっていたようだったのだが……ただ洞窟を抜ける、という目的のルートは、意外と簡単なものらしい。より洞窟の奥に進む場合、スリバチ山の本領であるルートに挑むことになるのだろう。
「まあ、わたしには関係ない話だ。だれが好き好んで、こんなほこりっぽい洞窟の、奥に奥にと行こうとするものかしら」
などと、肩をすくめる少女の隣を。
突然、冷たい風が──なにかが、すれ違って行った。
「あ」
一瞬、視界に入ったそれの正体を、チリアが目撃するのはこれで三度目だった。
目撃──というほどだろうか。ほんとうに一瞬の邂逅であった。もはやこの42番道路にはスイクンの気配すらない。
「スイクン……」
いつの間にか、マントの男が隣に立っていた。
「あ、ミナキだ」
「なんと勇ましく、なんと瑞々しく、なんと美しく、なんとすばしっこいのだ!」
この前はタンバシティにいたスイクンだが、どこに去って行ったかと思ったら、もうこんな北方に現れたのか。──それは、チリアだって同じではあるが。
「チリア! きみはいつもスイクンが現れるところにいるんだな」
「それはこっちのセリフなんだけど……まああなたはスイクンの追っかけだから、必然っちゃ必然か」
「そうともさ! スイクンを追い求める気持ちはわたしのほうが上なんだ」
どこで張り合っているのか。チリアはすこし、ミナキがおもしろくなってきた。
「わたしの祖父は……伝説に詳しいひとでね」
「わあ、なんか語り出した」
「特にスイクンのことは、子どものころからなんども聞かされていたんだ」
ミナキは、スイクンが走り去っていった方向に熱い視線を向ける。
「スイクン……お前がどこに向かっているのか、それを見届けるまでわたしは追い続けるぜ……いいな!」
マントをたなびかせて、ミナキは見据えた方向へ走って行った。
「楽しそうなひとだな」
:
────
ここはチョウジタウン。
ようこそ忍者の里へ。
────
「さびれてるなー」
町を見渡したチリアはの口から、思わず辛辣な意見が漏れた。
しかし少女の毒舌に気がつく人物はいない。そもそもひと通りが少ないからだ。
それでも観光スポットのようなものは存在する。北の43番道路の向こうには「いかりの湖」という広大な湖沼があり、町の土産屋にはそれにちなんだ物産品が並んでいる。
『ここはおみやげ屋さん。すこしも怪しいところなどございませんからご安心を』
チリアが気になったのは、土産屋の看板のほうだ。
「ふつう、お土産屋が怪しいことなんてないわよね。わざわざこんなこと書いてるなんて、変なの」
店の横には奇妙な鉄塔──これはアンテナだろうか。それとも、前衛的なデザインのモニュメントか。
「なんでもいいんだけどね。買い物ができればいいし」
町にはフレンドリィショップがない。代わりにこの土産屋でもアイテムは購入できるのだが、ラインナップはモンスターボールに『キズぐすり』のみ。あとは『ちいさなキノコ』が販売されているのは珍しいが、チリアにとっては価値のないものだ。
「……やな感じのものも売ってるし」
業務用冷蔵庫には『おいしいシッポ』というピンク色の物体がある。
ヤドンのシッポを加工したものだろう。値段はかなり高い。もちろん、買うつもりはないが。
「へっへっへ! 実験は大成功!」
店の奥。店員らしき男たちが、なにやら楽しそうに会話をしている。盗み聞きなどはしたないのだが、続いて聞こえてきた内容は──
「コイキングじゃあ売れないが、ギャラドスなら売り物になるぜ」
醜悪なビジネス。
「……やな感じ」
ポケモンの売買だろうか。いくらノーコンのチリアとはいえ、いくらアーボをゲームコーナーの引き換えで手に入れたとはいえ、金銭を目的としたポケモンの取引には関わりたくない。
とりあえず声を無視することにして、少女はモンスターボールをいくつか購入する。野生ポケモンのゲットには日々、挑戦し続けているのでよく消費するのだ。
「この音、なに?」
会計の際、店員に尋ねた。
「え? 音? な、なんですか?」
「この部屋のどこからか、風が吹き込んでくるみたいな音が聞こえる」
特別に気にかかるわけでもないが、店を見渡した限り、隙間風の入る箇所が見当たらないので、不思議に思ったのだ。
「それは……」
チリアは世間話程度に話を振ったつもりだったのだが、店員の目は、なぜか泳いでいる。
「ひゅ、ひゅー……」
「………………」
「わたしが口笛の練習をしてるんですよ」
無理がある。
「………………そう」
少女はそれ以上追及しなかった。追及すべき理由も証拠もない。相手がしらばっくれている以上、深追いは禁物だ。
明確なことはただひとつ。この店は、やな感じだ。
マグマラシ ♂
おくびょうな性格
トゲチック ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
イーブイ ♂
まじめな性格