ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート18 いかりの湖/赤い怒り

「ちょっとちょっと、チョウジタウンに来たなら『いかりまんじゅう』を買うのが旅の常識ってもんだ。いまならたったの300円。どう? 買うでしょ?」

「要らない」

「あっそう……」

 道端の土産売りの男を素通りして、チリアはマグマラシを連れて43番道路を訪れる。この先にあるいかりの湖に行くつもりなのだ。

 中央にあるゲートに入ろうとして。

「やば」

 すぐに引き返した。

「──ん? いまだれか来なかったか?」

「そうか? 気のせいじゃないか? だれか来たら、通行料1000円をせしめてやるんだけどなあ」

 ロケット団員2名が、ゲートの真ん中に仁王立ちして道を塞いでいる。ゲートの職員はいるものの、どうやらロケット団に口出しできずにいるらしい。

「危ないところだった。邪魔なやつらね……バトルで突破してやれば……いや、相手ふたりだけなのかまだわかんないわ」

 チリアはおさげを指でいじりながら悩み、やがて踵を返した。

「気に入らないけど、草むらから迂回をしましょう。野生ポケモンを相手にするほうがまだマシだもの」

 ゲートを通らずに回り道をして、途中で野生ポケモンやトレーナーと戦った後、ようやくチリアたちはいかりの湖に到着した。

「うわ、雨だ」

 いかりの湖には雨が降っていた。しかも土砂降りだ。日を改めたいところだが、せっかく草むらをかき分けて来たのに、引き返すのはもったいない。

 ほのおタイプのマグマラシはモンスターボールに戻して、自分はレインコートを着て身体が濡れるのを防ぐ。

「なんだか思っていたより賑わっているわね。というか……」

 湖のほとりに人だかりができている。雨のなかの群衆は、とても楽しそうには見えない。むしろ不安そうに、落ち着かない様子で湖を眺めている。

「このいかりの湖は、ギャラドスが暴れたあとの穴に雨水が溜まってできたってよ。じいさんのじいさんの、そのまたじいさんの話だけどな」

 湖のほとりにいる、釣り竿を背負った男の話し声が聞こえてくる。

「前は活きの良いコイキングが釣れる湖だったのに……一体全体どうしたんだ?」

 風はそこまで強くないのに、湖は異様に波立っている。

「わたし、見間違いかしら。湖の真ん中に赤いギャラドスがいたの……でもギャラドスって、ふつう青色でしょ?」

 そう語る女性の声。チリアは単眼鏡を片手に、より明確な「異変」を探して湖のほとりを歩いた。

『ここはいかりの湖。別名ギャラドス湖』

 その看板の前に来たあたりで、ようやく「異変」を発見した。

「ギャラドスがお怒りじゃ! なんか良くないことが起きるんじゃ」

 おなじく、()()を認めた老人が狼狽する。

「お怒り……たしかにそういう色に見えるけど……」

 単眼鏡で湖の中心を覗くと、そこにはギャラドスがいた。

 赤いギャラドスだった。

「赤……赤ね。あれっていわゆる、『色違い』と呼ばれるものかしら」

 ポケモンのなかには、ほかの個体と比べて体色が特異なものが存在する。この世になにもかもが同一な生物は存在しない。そういった観点では、遺伝子上の相違点によりほかの個体と異なる体色を持つポケモンが生まれることも、不思議ではない。

 とにかく、赤いギャラドスは稀少だということだ。

 ただし問題は色ではない。

「あの赤いギャラドス、どう考えてみても様子がふつうじゃないね……」

 いつの間にか隣に立っていた男が、ぽつりと呟いた。

「やはりだれかの仕業で無理やり進化をさせられてしまったのか……」

 男は、雨をしのぐためか黒いマントを頭から被っていた。顔ははっきりとわからないが、そんなことより目を引くのは、男が連れ歩いているポケモンだった。

 ドラゴンだった。

 翼と長い尾。オレンジの体色。体長はチリアの倍ほどもありそうだ。

「色違いギャラドスといい、カイリューといい、二連続で珍しいポケモンを見ることになるとはね」

「きみも噂を聞きつけてやってきたのかい?」

「噂? ……いえ。べつに、なんとなく通りすがっただけ。そしたら大雨な上に、ギャラドスが暴れているんだもの」

 もう一度、少女は単眼鏡を覗き込む。

 この男は、ギャラドスが「無理やり進化させられた」と言っていた。その件に関して、チリアはなんとなく心当たりがある。

「……わたしの名前はチリア」

「そう、チリアというのか。おれはワタル。きみとおなじトレーナーさ」

「ねえ、ワタル。初対面でなんだけど、頼みがある」

「なんだい?」

「“なみのり”を持っているポケモンがいたら、貸してくれない?」

 ワタルと名乗った男は、少女をじっと見つめる。

「どうして?」

「ギャラドスを止めないといけないでしょ? でもわたし、手持ちに“なみのり”を使えるポケモンがいないから。水上で戦うために貸してほしい」

「………………」

 すこし考えたワタルだが。

「いいよ。それならこのカイリューをに乗るといい。ただし、カイリューはおれの言うことしか聞かないよ。ギャラドスと戦うのは、きみのポケモンだ」

「最初からそのつもりよ。そのカイリューがどれだけ強かろうと、わたしは自分で育てたポケモンしか信用しない」

「ふっ、それは失礼。──カイリュー」

 オレンジの巨体のカイリューは頷いて、荒れる湖に飛び込んだ。

「恩に着るわ。ありがとう」

「お安い御用さ。がんばって!」

 チリアは水面に浮かんだオレンジの背中に乗った。羽を掴んでバランスを取った瞬間、カイリューはさながらモーターボートのように勢いよく、赤いギャラドスに向かって行く。

「速っ……!」

 危うく振り落とされそうになったが、このスピードのおかげで、ほかの湖にポケモンが襲いかかってくることはなかった。

 荒ぶる赤いギャラドスは、みずからに迫るカイリューの姿を認めるや、咆哮して戦闘態勢に入る。

「アーボック!」

 投げたボールは明後日の方向に飛んで行った。

「おっと。カイリュー、アーボックのいるほうに泳いで」

 翼をぐっと引っ張ると、カイリューは戸惑いつつも鳴き声で応え、言うとおりにアーボックの後ろに着いた。──ワタルの言うことしか聞かないと言っていたが、空気は読めるようだ。

 アーボックは器用に水上を泳ぎ、赤いギャラドスに向かって行く。蛇状の長い身体を持つ2匹のポケモンが、絡み合うように戦う。

「“たくわえる”!」

 アーボックの身体が膨張する。ギャラドスの繰り出す技は“あばれる”。アーボックは防御が上がった状態ではあるが、それでも威力は高い。

「もう一度、“たくわえる”!」

 さらに防御を高めて、ギャラドスの攻撃をしのぐ。──やがてギャラドスは“あばれる”の反動で、疲労で『こんらん』状態になった。

「よし。“のみこむ”で回復」

 アーボックは蓄えたエネルギーを、体力回復に消費した。膨らんだ身体ももとに戻る。

「そしてまた“たくわえる”」

 この一連の技を習得したときは、使いどころが難しそうに思ったが、『こんらん』など相手の行動に制限がかかった状況では、やりくりは容易である。

「“たくわえる”。どんどん“たくわえる”」

 混乱するギャラドスは、もはや満足に技を発動することすらできず、自分の身体を傷つけるだけだった。

 ──“あばれる”なんて関係ない。赤いギャラドスはずっと、『こんらん』しているのだ。

 きっと、無理やりに進化をさせられて。

 その副作用があったのか、自分の状態を把握することができずに。

 だからずっと暴れている。

 だからずっと怒っている。

()()の湖か──皮肉だな。きみの受けた仕打ちを思えば、人間なんてみーんな罰を受けても文句は言えないだろうけど」

 それでも怒り狂う赤いギャラドスを、少女は止めたかったのだ。

「心底、やな感じ。せめてきみを狂わせた者たちは、わたしが裁くよ」

 ギャラドスを鎮めるために、アーボックにとどめの技を指示した。

「“はきだす”」

 ためにためたエネルギーを、アーボックは攻撃技として放出した。

 

 

 戦闘不能になった赤いギャラドスは、アーボックに背を向けて、沈むように水中に撤退していった。

「どうもありがとう。カイリューはいい感じだったわ」

 やがて雨が上がり、湖の様子も落ち着いた。チリアとカイリューは岸まで戻って、ワタルにカイリューを返還する。

「きみこそ、見事な戦いだった。ところで最初、アーボックを出した位置……ギャラドスの左サイド側に出したね。あれはどういう戦略だい?」

「……あれはわたしがノーコンだっただけ」

「………………」

 チリアは雨ガッパを脱いで、白い帽子を被る。

「とにかく、湖は落ち着いたわね。じゃあつぎは……」

「なあ、チリアちゃん」

 ワタルはマントを肩まで降ろす。逆立った赤い髪に、鋭い目つきの青年だった。

「おれはここの噂を聞きつけ、真相を調べていたんだが……さっきの戦いを見れば、きみが相当な実力のトレーナーだとわかる。よかったら、おれにちょっと力を貸してくれないか?」

「断れないわね。カイリューの件で借りがある」

 それに、このワタルという男は相当な実力者だ。吸収できる点はあるだろう。

「そうか、助かるよ!」

「で、なにをすれば?」

「まず、このいかりの湖。別名は『ギャラドス湖』なんて呼ばれているけど……それにしては最近、ギャラドスの数が増加しているそうなんだ」

 それが、ワタルが聞きつけたという噂らしい。

「湖のコイキングたちは、チョウジからの謎の電波で無理やり進化させられている。そんな気がするんだ」

「お土産屋ね」

 チリアは、チョウジタウンの土産屋に寄った際、店の関係者らしき男たちが話していた内容を伝えた。

「『へっへっへ! 実験は大成功! コイキングじゃあ売れないが、ギャラドスなら売り物になるぜ』って言ってた」

「ふむ……それは間違いないね。……チリアちゃん! おれは一足先にチョウジタウンへ向かってるよ!」

 ワタルはカイリューに乗って、南の方角へ飛んで行った。

「……乗せてってくれればいいのに。まあいっか。それにしても、羨ましいわね、カイリュー。そういえばコガネのゲームコーナーの景品ラインナップに、進化前のミニリュウがいたわね。コイン2100枚で」

 すこし考えて、やはりやめた。

「ギャンブルなんかあてにしちゃダメだわ。わたしのような善良な美少女に、賭博破戒録は向いていない」

 

 

 チョウジタウンに戻るころには夕方になっていた。ポケモンセンターで手持ちを回復させた後、もう休みたいところだったが、ワタルとの約束があるのですぐに土産屋に向かう。

「カイリュー、“はかいこうせん”」

 入店するなり、突然。

 ワタルのカイリューは、店員に向けてポケモンの技を発射していた。

「………………」

「遅かったね、チリアちゃん!

 現れた少女に、ワタルは爽やかな笑みを向ける。

「やはりここから、おかしな電波が流されてる。ええと……」

 ワタルは、店内にかすかに響く、風が吹き込むような音を探して、やがて店の奥の台座に耳を当てた。

「階段は……ここだっ!」

 台座を押しのけると、床であるはずの場所には、闇に続くような暗い穴が──地下へと続く階段があった。

「これは……」

「チリアちゃん、中を探ろう! 先に行くよ!」

 階段を降りるワタル。チリアは後に続こうとして──一瞬、足を止めて店の状況を見渡した。

「うう……あいつのドラゴンポケモン……強過ぎる……」

 カイリューの“はかいこうせん”を喰らった男は、苦しそうに呻いている。壁に叩きつけられたものの、怪我はないようだ。

「……嘘でしょ。“はかいこうせん”よ?」

 破壊の、光線だ。

 ノーマルタイプ最強の技といって過言ではない、特殊攻撃。

「カイリューが弱いわけなんてない。威力を調節して、()()()()()()()の技にしたんだ。よほどの経験があるのね。……トゲチック、きみ、おなじことできない?」

 チリアの後ろで羽ばたくトゲチックは、よくわかっていないように首を傾げた。

「無理よね。うーん……これまで格上のトレーナーにはたくさん会ってきたけど、あのワタルってひとは一番かもね」

 チリアたちは改めて階段を降り、ワタルと合流する。

「おまたせ」

「あれを見てごらん」

 ワタルが指さす方向には、シャムネコポケモン、ペルシアンを模した彫像。目の部分が赤く光っている。

「趣味悪い内装」

「たぶんあれは……監視カメラの役割になっているんじゃないかな」

 目の前には、長い廊下が広がっている。土産屋の地下室にしては、なんだか規模が大きく見える。

「ねえワタル。やっぱりここって、ロケット団のアジト?」

「そのようだ。やつらが復活したという噂は聞いていたが、予想より活動の規模が広い。どうやら泳がせ過ぎたようだ……このアジトは厄介な防犯システムが仕掛けられているだろう」

「そんなの、切っちゃえばいいのよ」

 少女は気軽に言い放った。

「いやあ、そうは言っても……」

「ここのシステムにアクセスできれば、なんとかなると思うけどな。わたしって天才だから、コンピュータのことはけっこうわかるもん」

「ふむ……」

 ワタルが考え込むのを見て、

「べつに信用してもらわなくっていいわ。約束するほど自信があるわけじゃないし。だから──二手に別れればいいんじゃない?」

「なるほど。それはいい」

 湖で赤いギャラドスと戦った様子から、チリアという少女の実力はなんとなく理解した。その伸びしろさえも。本来、子どもを自分の仕事に巻き込むのは避けるべきことだが──一年前のある経験が、ワタルに期待を持たせた。

「わかった。チリアちゃん、手分けしてなかを探ろう! ロケット団員はおれが引きつけるから、きみはこのアジトの対侵入者向けのシステムの解除を目指してくれ!」

 互いに背を向け、別ルートの廊下を歩きだすふたり。

 最強を目指す少女、チリア。

 ジョウト地方およびカントー地方において現最強の男、ワタル。

 同伴者に気をつかわず本気で戦えることに、ふたりとも、どこか安堵を覚えていた。




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

イーブイ ♂
 まじめな性格
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