ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート19 ロケット団アジト/BLACK

 ここがロケット団のアジトであるという読みは正しく、ほどなくして黒服の団員たちが駆けつけてくる。──が、ワタルが表立って戦ってくれているおかげで、もうひとりの侵入者であるチリアに目をくれるものは非常に少ない。

「ここはもともと忍者屋敷。色んな仕掛けで侵入者の邪魔をするんだ」

 先ほどバトルで倒したロケット団の研究員が、諦めたようにアジトの情報を語る。

「アミューズメント施設だったってこと?」

「いや、忍者屋敷だから……忍者がいたんじゃないか? 知らないけど」

「忍者なんてものがいた時代に造られたとしたら、相当むかしでしょ。ずいぶんと手を加えたのね」

 さて。

 地下1階のオフィス。モニターには監視カメラの映像が並んでおり、コンピュータはたったひとつ。

「その机にあるパソコンはペルシアン警報装置の切り替え用端末だ! いいか? 触るなよ? 絶対に触るんじゃないぞ?」

「んー……はいはいはい。これね。ポチっとな」

 こうして、監視システムは解除された。

「まあ、ワタルがここまで暴れてるんだから、監視を切るのもいまさらな気がするけど……とりあえずひとつ、仕事はした。ほかにも仕掛けはあるだろうから、そっちも落としちゃわないと」

 スイッチが切れたペルシアン像の前を素通りし、チリアは地下2階へ。物陰に身を隠すワタルとカイリューに合流した。

「大丈夫かい? きみのポケモン、すこし傷ついているな。おれの薬を分けてやるよ」

「どうもありがとう。あなたのほうは……元気そうね」

 チリアよりもロケット団員たちを相手にしていたはずなのに、ワタルのカイリューは元気そうである。

 ワタルの戦いの様子は監視カメラでちらりと見たが、あまりに圧倒的すぎてなんの参考にもならなかった。

「さあチリアちゃん、ポケモンのためがんばろう!」

「べつにポケモンのためとかじゃ……」

 ワタルはさっさと行ってしまった。どうやら二手に分かれて行動する作戦は、まだ続いているらしい。

「いいんだけどね。ひとりのほうが気が楽だ。それに、なんだかあのひとにはあんまり手の内を見せたくない。そうは思わない? イーブイ」

 イーブイは少女の足元で、首を傾げた。

 それから。

 数人のロケット団とは遭遇したものの、チリアは難なくアジトの地下へと進んで行った。どうやらワタルはアジト中の注意を十分に引きつけてくれているらしい。

「なんだか囮役をさせているみたいで悪い気がするな……いや、気のせいね。あのひとってちょっと強引なんだもの。たとえあのひとが単独でもおんなじ感じだったかもね」

 とにかくチリアは、無事に「怪電波発生装置」という機械にたどり着いた。

 否。その機械の、扉の前にたどり着いた。

「ここにマイクがあって……ほかに入力装置がないってことは、音声認識? つまり、この扉はキーワードを言ったひとの声に反応して開くようになっている……とか?」

「チリアちゃん!」

 装置を調べているうちに、ワタルも機械室の前に現れた。

「ワタル。これ、声認証でロックがかかってるみたいなんだけど」

「そう! 怪電波発生装置の部屋のロックを解除するには、ある人物の声を入力しなければならない。その人物とは……ロケット団幹部のラムダ! やつはボスの部屋に隠れているということを突き止めたぞ!」

 少女は、呆気にとられた

「だけど……ボスの部屋にもパスワードが仕掛けてあるらしいんだ……」

「ねえワタル。あなた、あんなに派手に暴れておいて、どうやって情報収集を……」

「まずはボスの部屋のパスワードを探しに行ってみよう!」

 ワタルはさっさと行ってしまった。やはり二手に分かれて行動する作戦は、まだ続いているらしい。

「こそこそ移動しつつもアジトの調査自体はしているのに、それで情報収集力で負けているなんて、いい感じはしないな……手間が省けているから、べつにいいけど」

 ワタルの情報収集力の秘密は、倒れたロケット団員の証言ですぐにわかった。

「ううう……マントを着たやつが強過ぎて、アジトの秘密をぜんぶ喋らされちまった……」

 言うなれば、暴力。

 相手に有利な位置に立ち、情報を洗いざらい喋らせる。その手段は主にポケモンバトルによって決着をつけるものだが──カイリューの“はかいこうせん”を人間に対して使うような男だ。

 繊細なテクニックかつ、猪突猛進な手段。

「恐ろしい男だ。──あんたも大変だったわね。かわいそうに」

「へへ……だがボスの部屋のパスワードがふたつあることだけは、最後まで言わなかったぜ!」

 情報とは、こうした「飴と鞭」によっても引き出すことができる。

 あとは簡単だった。よりセキュリティレベルの高い、地下3階の部屋にてパスワードを探す。──これも、パスワードを知っているロケット団員にポケモンバトルで勝って聞き出すという、暴力的な手段。

「いや、暴力的なんてことはないか。ふつーよね。ワタルよりずっとマシ」

 とにかくパスワードは記憶した。階段を上り下りして、やはり地下3階にあるボスの部屋へ。その扉に手をかけようとした瞬間──

「ばーしる……」

「シルバーだ。変な呼び方すんな」

 地下3階に、赤い髪の少年が現れた。

「……こんどはこんなところをうろついてるのか。フフン! お前、そんなにロケット団が好きなのかよ」

「あんたもそーゆー冗談を言うのね。つまんないけど」

「……そんなことより、あのマントのドラゴン使い! あいつは何者なんだ? オレのポケモンでもまったく歯が立たなかった……」

 ワタルのことを言っていることは、状況から明白だった。

「シルバー、アレと戦ったんだ? へえ。あんたも負けるとわかってる戦いをするのね」

「きょう負けたことはべつにいいさ。もっと強いポケモンを手に入れることさえできれば、あいつになんか負けやしない」

 手持ちのポケモンを鍛える、ではなく、新しいポケモンに期待を寄せている点が、ノーコンのチリアにはなかなかない発想である。

「それよりも気に入らないのは、あのセリフ……『きみはポケモンへの愛と信頼が足りない』、だと。そんな生ぬるいこと言うやつに自分が負けたかと思うと、腹が立って仕方ない!」

「愛に、信頼ねえ……陳腐な言い回し」

 少女は冷酷に鼻で笑う。

「でもシルバー。ああいう強いひとが言うのなら、その陳腐な言葉にも説得力が生まれるんじゃないの? 愛とか信頼とか、クサいワードをそのまんま受け取らずにさ。自分が納得できるような、置き換えられるワードを考えてみればいいのに」

 シルバーは、しばらく黙って。

「……フン! お前の相手なんかしてられるか!」

 すれ違いざまにチリアの肩を押して、階段から去って行った。

「優しく押しやがって……あーあ、わたしとしたことが、柄にでもない。シルバー坊やに説教なんかかましちゃった」

 

 

 ボスの部屋の扉に、パスワードを入力する。

『ヤドンのシッポ』。

『ラッタのシッポ』。

 扉が開錠された。偽の情報を掴まされていなかったことに、まずは安堵する。そのまま特に緊張せずに入室した。

 高級そうな椅子に、帽子の男が座っていた。

「ぐっふっふっ、よく来たな。きみがチリアか……」

「………………」

 この男は、ロケット団のボス──

 ──のはずなのだが、少女は違和感を覚えた。

「おや? わたしがだれかわからんかね? サカキだよ。サカキさまだよ! ぐわぁーっはっはーっ!」

「影武者ね」

 少女の指摘に、帽子の男の笑い声はピタリと止まった。

「……あれ? ぜんぜん似てない? サカキさまに見えない? くっそー、一生懸命

練習したのに!」

「わたしはサカキって男のことは知らないけど……侵入者が襲来しているアジトのボスの部屋に、そのままボスがいるとは思ってない。ふつう、逃げるとかするでしょ」

「さ、サカキさまはそんな腰抜けじゃねえ!」

 男は、黒い帽子とコートを脱いで、変装を解く。細身に、ヒゲを貯えた男。まるで別人だった。

 彼がボスの部屋にいるということは、ワタルから聞き及んでいた。

「おれはロケット団幹部のラムダだ! おまえはどうせ、怪電波発生装置の部屋に忍び込むつもりだろう?」

「うん」

「だがそうはいかないぜ! なぜならあの部屋は特別なキーワードでロックされているからな! そのキーワードとは──『サカキさまばんざい!』」

 いきなりぺらぺらと情報を喋り出したので、チリアは少々たじろいだ。

「ふふふ、あっさりバラしたので驚いただろう? だがキーワードなんか知られてもぜんぜん平気なのさ。なぜならあのドアは、おれの声でキーワードを言わないと開かないようになってるからな!」

「知ってる。だったらあんたの首根っこを掴んで、ドアのところまで連れて行くまでよ」

「恐ろしい娘だなおい!」

 ラムダと名乗った男は、モンスターボールからズバットを出す。

 チリアは後ろに控えていたイーブイを呼ぶ。

「おれを影武者と呼んだのは、カマをかけたのか!?」

「べつにそんなことないわ」

「でも、ボスが部屋におとなしくいるわけがない──っていうのは、根拠としては弱えだろ!」

 早々にズバットを打ち倒す。イーブイはラムダのポケモンよりもレベルが高い。「なんだよやるじゃねえか」と静かに舌打ちして、ラムダはドガースを繰り出した。

「こう、主観的な話だから、あんまり声高に主張したくないけど……」

「なんだよ、言ってみろ」

「ラムダ。あなたの演技がさ……ボスと信じるには、品性がない。威厳がない。説得力がない。ぜんぜんダメ」

 少女のあまりに辛辣な評価に、ラムダは言葉を失った。

 その間に。

「イーブイ、“おんがえし”!」

「うおっ、強え!」

 ドガースは戦闘不能となった。

「ぐうう……まったく歯が立たない。サカキさま、お許しください……」

 ラムダのポケモンたちに楽に勝利したイーブイは、チリアの足元に戻ってくると。

「……おや」

 身体が震わせたかと思うと、光とともにその身体を進化させた。

「いま進化? なんで?」

 やがて光のなかから現れたのは、影のような黒い毛並みに、黄色い帯状の模様を持つ、ブラッキーという姿だった。

「たしか、あくタイプ……そうか、こういうタイミングなのね。意識していなかったわ」

 まじまじとブラッキーを見つめるのも束の間、すぐに少女は顔を上げる。

「どこにも行くなよ」

 部屋から逃げようとしたラムダが、ピタッと制止する。

「ツラを……いえ、声を貸してもらうわよ」

「……サカキさまは1年前、ロケット団を解散させて姿を消した……だが、きっとどこかで復活のチャンスを狙っているはず……」

「なんの話よ」

「ふははは! お前なんかに負けたって痛くもかゆくもねーぞ! なにしろおれの声でなけりゃ、怪電波発生装置の部屋のドアは開けられないからな!」

 高笑いしたラムダは、煙玉を足元に叩きつけ、部屋中に煙幕を発生させた。

「うっ……ごほっ、ちょっと、ふざけんなって!」

 扉が開けられる、乱暴な音。恐らくラムダは逃げたのだろう。

「煙って……服に匂いが付くでしょ……!」

 チリアの怒るポイントは少々おかしいものの、とにかく煙が晴れた部屋に残されたのは、チリアとブラッキーのみであった。

「ブラッキー。きみさあ、上手いこと追いかけ……それは無茶か」

 ブラッキーは前足で目元をこすり、何度かくしゃみをした。おそらくこの煙幕は、対ポケモン用のものだ。いくら視覚や嗅覚に優れたポケモンとはいえ、目標を追跡するのは難しいだろう。

「いまから全力で走っても、ラムダに追いつくのは難しいでしょうね。さーて、どうしよっかな」

 おさげを指でいじっていると、天井から羽ばたく音が聞こえる。見上げると。

『サカキサマバンザイ!』

 どこから現れたのか。黒い羽毛を持つポケモン、ヤミカラスが、天井を飛び回りながら口を利いていた。

 鳥ポケモンのいくつかの種類は、人間の言葉を少数ながら模倣することができるそうだ。

とにかくそのヤミカラスは、ラムダの声をそっくりに真似していた。

「これはひょっとして……!?」

 チリアはバッグから、木の実を取り出す。

「来なさい。ついてこれたらあげるわよ」

 チリアとブラッキーが廊下に出ると、ヤミカラスは食べ物につられ、少女の後を追ってきた。

 おそらくこのヤミカラスは、最初からあの部屋に隠れていたのだ。ラムダの声でキーワードを覚えていたあたり、緊急用のキーの役割といったところか。

「当然よね。例の部屋に入るには、ラムダという個人がいなければいけない、なんて不便だもの」

 やがて怪電波発生装置の部屋の前にたどり着いた。

「さあ、言ってごらん」

『サカキサマバンザイ!』

 音声認識のロックが解除された。

「はい、お利口」

 放り投げた木の実は、明後日の方向に飛んで行った。ノーコンに驚いたヤミカラスだが、床に落ちた木の実にかぶりつく。

「さて……」

 さっそく部屋に入ろうとしたところで。

「そこまでよーーーっ!!」

 高い女性の声に、思わず足が止まる。ヤミカラスは食事もそこそこに飛び去って行った。

 振り返ると、ロケット団員を連れた赤毛の女性が、つり目で少女を睨みつけていた。

「なにか?」

「なにか? じゃないわよ! あなたみたいな子どもをいつまでものさばらせておいたら、ロケット団のプライドはキズついてキズついて、キズだらけになっちゃうのよー!」

 ヒステリックな声に、背後に控える一名の団員は怯えている。反して、まったく動揺していないチリアは、女性の服装から彼女が幹部クラスであることを察した。

 彼女はアテナ。現段階において、このアジトの最高責任者である。

「……というわけで、そろそろ終わりにしましょ。いくらあなたが強くたって、あたくしたちふたりを同時に相手するとなれば、まず勝ち目はないでしょ?」

「ダブルバトルってこと?」

「この場でそんな、ルールに則ったバトルができると思って? うっふっふっふ。悪いけど覚悟してもらうわ!」

 ルール無用で襲いかかってこられたら、いくらチリアといえども余裕ではいられない。少女は後ずさりしたが──

「ちょっと待った!」

 期待通り、助け船がやって来た。

「2対1での勝負とは、ずいぶん不公平じゃないか? さすがはロケット団。ずるいことが大好きなんだな」

 マントの男、ワタルとその手持ちであるカイリューがチリアの隣に並んだ。

「悪いけどこの勝負、おれも参加させてもらうよ!」

「あら、仲間がいたの? 気に入らないわねえ……サカキさまのお留守を預かるあたくしが、生意気なあんたたちに教えて差し上げるわ……。ロケット団に刃向かうと、どうなるかってことを!」

「もしもし。やっぱりダブルバトルにしない?」

 チリアは空気を読まずに、挙手して発言する。

「4人で乱戦してもややこしいだけでしょ。ダブルバトルでちゃんと勝負しよ。わたし、すっきりしないのもはっきりしないもの嫌いなの」

「なにを勝手な……」

「どさくさに紛れて装置の部屋に押し入られてもいいの? どんな乱暴をするかわかったもんじゃないわよ、この男は」

「オレかよ」

 急に指さされたワタルは、とっさに否定できずに苦笑いした。

「……いいでしょ。2対2で正々堂々、ロケット団の恐怖を思い知らせてやるわ!」

 アテナはアーボックを、部下の団員はスリープを繰り出した。

「さあ、行くよチリアちゃん。ダブルバトルを望んだのはきみだ。しっかり協力してもらうからね」

「あなたこそ、テキトーにやらないでよね」




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
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