ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
ワタルのカイリュー、チリアのマグマラシが、2体の敵に向かい合う。
「マグマラシ、“スピードスター”!」
「カイリュー、“たつまき”!」
2匹が放った技は、それぞれがアーボックとスリープをまとめて攻撃した。
「“スピードスター”とは良い選択だね。相手全体を攻撃できる技だ」
「でもまともに動けるのなんて、きっと最初だけよ。すぐに敵の妨害が来るわ」
スリープは戦闘不能にしたが、アテナのアーボックは健在だ。マグマラシに向けて、“へびにらみ”を放つ。
「ちっ、わたしのほうかよ……ワタル。この際、サポートに回るわ」
チリアは、マグマラシを退かせて、モンスターボールを投げる。真後ろの壁に当たって、ブラッキーが現れた。
「おお、ほんとうにノーコンなんだ……」
なぜか感動しているワタルだが、その間にもカイリューはアテナのアーボックを倒していた。
「な……なにをふたりだけで遊んでいるの! ヤミカラス!」
敵が新たに繰り出したのは、ヤミカラスとベトベター。
「カイリュー、“かみなり”!」
「ブラッキー、“あやしいひかり”」
メインの攻撃をカイリューに任せ、チリアはサポートに専念する。他人を頼りにするのはチリアにとって本意ではないが、敵に勝つにはこちらのほうが手っ取り早い。
それに──ワタルの攻撃は、見ていて参考になる。
「最強って、こういうあたりなのかな……もうちょっと時間かかりそう」
相手のポケモンは最後の1匹──アテナのクサイハナだけになった。ブラッキーは“てだすけ”でカイリューの技を強化する。
「カイリュー、“はかいこうせん”!」
:
「あら強いのね」
冷や汗を浮かべているアテナだが、それでも必死に冷静を装う。
「残念ね。あなたならロケット団にくれば、幹部にだってなれるかもよ」
アテナは、ワタルではなくチリアに向けてそう言った。
「結構よ。ボスにしてくれるってんなら考えてあげる」
「生意気な娘! ……まあいいわ。電波の実験も上手くいったみたいだし、こんなアジト、どうにでもなれだわ」
アテナは踵を返す。
「あたくしたちの狙いは、もっともーっと大きいの! ロケット団の恐ろしさ、いずれわからせてあげるわよ。そのときを楽しみにね。うっふっふっふ……」
去って行く彼女を、慌ててロケット団員が追いかける。その余裕な態度は負け惜しみか、それともまたべつに計画があるのか──
「おつかれさま、チリアちゃん。この機械室の扉も解除してくれたみたいで、ありがとう」
「……それに関してはあなた、わたしに丸投げしてなかった?」
図星だったのか、ワタルは申し訳なさそうに少女から目を逸らした。
「悪かったね。きみががんばっているのを見て、ちょっと出番を待ってみたのさ。──さて、あとはおかしな電波を止めるだけか……」
チリアとワタルは、怪電波発生装置の制御室に入った。さっそくワタルは装置を調べる。
「これが装置……スイッチは見当たらないな」
装置のかたわらには、マルマインたちが繋がれている。彼らは絶え間なく電気を発している。
「これ、発電機の役割をさせているの?」
「仕方ない。マルマインを気絶させよう。そうすればおかしな電波も出なくなるはず……マルマインには罪がないから、かわいそうだけどね。ほんのすこしの辛抱さ」
「……そーね。やな感じ」
ふたりは手早く、数体のマルマインを戦闘不能にした。
人間がポケモンを利用するのは、見慣れた光景だ。それはロケット団のような犯罪者だけではなく、市井のひとびともでさえ日常的に行っていることだ。
チリアだって、手持ちのポケモンたちを利用しているつもりでここまでやって来た。
だから本来、この「やな感じ」という感想さえも歪なものなのだ。
「自己矛盾って人間あるあるだろうけどさ。とはいえ……あーあ、マジやな感じ」
「ようやくおかしな電波も止まった。これで湖も元通りの姿になるはず。きみの活躍のおかげだな。ポケモンに代わって、お礼を言わせてもらうよ!」
「………………」
「チリアちゃん?」
「……なんでもない。用が済んだんなら、こんなところ早く出ましょう」
少女は口に手を当てて、それでも隠し切れないほど大きなあくびをする。
「こんな夜中まで動いてちゃ、肌に悪いわ」
「ふふっ、そうだな。じゃあ行こうか」
アジトのロケット団員は、もはやだれもいなかった。作戦失敗を悟った彼らは、アジトに見切りをつけて逃げ出したのだろう。
「それじゃあ、ここで」
アジト──土産屋を出たところで、ワタルと別れることになった。
「わたしにはなにかアドバイスはないの? シルバーには、『愛と信頼が足りない』なんて言ってあげたんでしょ?」
「ああ──あの赤い髪の少年とは友だちなのかい?」
「友だち……うーん、ライバルというか、腐れ縁というか。もうちょっとオトナになってくれたら、彼氏候補なのに」
「そ、そうか。──きみへのアドバイスは特にないよ。そのままでいい」
「へえ? でも自慢じゃないけど、わたしだってポケモンに対して愛も信頼も持ってないわよ?」
「そうかい? そうは見えないけどな」
なぜならいままさに、チリアは自分の手持ちそれぞれに、ブラッシングをしたり除菌シートで身体を拭いたりしているからだ。
「ほら、順番。ちゃんと並んでいなさい。──ブラッキーになって、毛足が短くなったわね。ブラシも新調したほうがいいかな。はー、めんどくさ」
「……そのブラッキーだって、さっき進化したんだろう? イーブイが夜の時間帯に、十分に懐いたことで進化するんだよ」
チリアの手が、ピタッと止まる。
「……そんなの、こいつが勝手に懐いただけだわ。わたしはポケモンなんて好きじゃないもの。むしろ嫌い」
「まるで自分にそう言い聞かせているみたいだね」
「……事実よ」
「ならばなぜきみは、ポケモントレーナーに? この旅でなにを目指している?」
「最強。最強のポケモントレーナーになろっかな、って思ってる」
稚拙な目標に聞こえるが、少女は真剣であった。それは実際にチリアと共闘した、ワタルにも理解できる。
冷静で、冷徹で、怜悧な少女だが、バトルの際は火が付いたように目が爛々と煌いていた。好戦的であることも才能のひとつだ。
「最強……いわば、ポケモンマスターか」
その座に近づいている少年を、ワタルはひとりだけ知っている。チリアとは対照的な性格で、かつ極めて近い性質の少年だ。
「チリアちゃん! ポケモンマスターへの道は永く険しいという……それでも目指すのか?」
「目指すよ。ワタル、きょうは勉強させてもらった。いずれはあなたにだって勝つからね」
「………………」
少女に厳しい視線を向けるワタルであったが、内心では、小躍りしたくなるほどに嬉しく、そして胸を熱くしていた。
「そうか。そうだよな。諦めるくらいなら、最初から夢、見ないよな」
いつかきっと──否、必ずこの少女は、自分の目の前に現れるだろう。
「夢て。そんな大層なもんじゃない。ただの目標なのに」
「じゃあ、また会おう!」
ワタルはカイリューに乗って、夜空へ飛び去って行った。
「……変なひと」
チリアとポケモンたちは、とにかくポケモンセンターで休むことにした。
:
『チョウジタウンポケモンジム。リーダー、ヤナギ。冬の厳しさを教える者』
翌日の昼過ぎ。たっぷりと眠って体力を回復させたチリアたちは、この町にもポケモンジムがあることを思い出し、準備もそこそこに門を叩いた。
「ヤナギさんはポケモンと50年付き合っている強者だ!」
いつもの眼鏡の男もいる。
「50年? はー、考えられないわ。わたしなら無理」
「いや無理とか言うなよ。──それに見てのとおり、凍りついたこのジムでひとびとを震え上がらせる攻撃を仕掛けてくるぞ! 凍らされる覚悟はいいか? おっと違った! 氷に負けないように、熱い闘志を燃やしているか!?」
「こおりならほのおタイプが有効なんだろうけど、併せてみずタイプを持っているポケモンも多いのよね。さて、どう戦ったものか……」
「えっと、聞いてる……んだよな?」
やがて開始された、チョウジジムへの挑戦。氷の床はまともに歩行ができず、滑るようにして部屋を進むしかない。
「わたしの運動神経や、ランニングシューズをもってしても、氷の床の上では停止やカーブは不可能ね。とすると、床を滑って移動するのは想定された移動方法であり、それ自体がギミックとなっているとすれば……」
これはパズルだ。
少女はおさげをいじりつつ、ジムを俯瞰する。パズルであれば、解凍──否、解答するのは簡単だ。
さながら、スケート選手のように。
華麗に。それでいて、まっすぐに。
見知った場所かのようにスムーズにジムを進んでいき、ジムトレーナーを打ち倒し、すぐに最奥に到着した。
「ポケモンもひとも、生きているといろいろある」
杖をついた青いコートの老人が、チリアに振り返った。
「わたしもいろいろ辛いことを味わった。人生の先輩として、それを教えてやろう」
「結構よ」
少女は冷たく拒む。
「老人の長話なんか聞いていたら凍え死ぬ。なんでここ、暖房とかつけてないのよ」
冷たいのはこのジムのほうだ。
壁も床も氷に覆われたチョウジジムの室温が極めて低い。ジムチャレンジを開始してまだ1時間も経過していないが、普段着ではそろそろ限界だ。
「こういうのも作戦? ちょっとズルいんじゃないかしら。クレームをつけるわよ」
震えながら、足元のマグマラシの炎にあたるチリア。老人は──ジムリーダー、ヤナギは睨む少女に動じることなく、静かに笑っていた。
「いやはや、これは失礼。ここに来るまでのジムトレーナーとのバトルは、きみを暖めてはくれなかったようだな」
「……そうね。あなたはもうちょっと、手応えがあればいいんだけどね、おじいちゃん?」
これは挑発だ。いささか見え透いているが、ヤナギはあえて乗っかるつもりで、さらに笑みを浮かべてモンスターボールを構えた。
「きみが生まれる前からポケモンと一緒にいる。おいそれと負けたりはせん。『冬のヤナギ』と呼ばれるその実力、見せてやろうかの」
1匹目に現れたのは、パウワウ。白い身体のアシカポケモンだ。チリアの足元から、炎を上げたままでマグマラシが飛び出す。バトル開始だ。
「パウワウ、“あられ”」
屋内のジムに、しんしんと氷粒が降り始める。この天候により、こおりタイプ以外のポケモンが、一定時間ごとにダメージを受けてしまう。ほのおタイプのマグマラシも例外ではない。
「そもそもパウワウってみずタイプ持ちだし……じゃ、交代」
さっそくチリアはマグマラシをボールに戻した。ほんとうはずっとこの火にあたっていたいが、バトル中はそうもいくまい。
「アーボック!」
投げたボールは足元に落下し、床をつうっと滑っていった。
「これはいかん。手がかじかんでしまったかね」
「……ご心配なく。いつものことよ」
アーボックはパウワウの目の前で、胸元の模様を見せつけて『いかく』するが、霰を浴びて苦しそうである。
「寒い? 我慢なさい。“いやなおと”」
まずはパウワウの防御を下げて。
「そして“かみなりのキバ”!」
雷電をまとった牙を突き立てた。でんきタイプの技だ。アーボックとはタイプが一致していないものの、事前に防御を下げていたため、パウワウはその一撃で戦闘不能となった。
「ほう……ではつぎは、ジュゴン」
2匹目はパウワウの進化系である。流線型の身体は水中を泳ぐように、氷上を優雅に滑る。
「さっきとおなじ戦法でいきたいけど……“あられ”のせいであまり余裕がないわね。しょうがない、この際、前のめりで攻めるわよ」
チリアはアーボックに目配せをして、“かみなりのキバ”でいきなり攻撃を仕掛ける。
「うむ、そうだろう。得意なタイプの技ではないとはいえ、効果が抜群なだけある。いい威力だ」
「……ずいぶん余裕ね。歳を取ると感覚がマヒしちゃうのかしら」
「いやあ、まだまだ。ただわたしは、このダメージを無為にする手段を持っているというだけさ」
ヤナギの命令で、ジュゴンは目を閉じた。
「“ねむる”」
みずから『ねむり』の状態異常になることで、体力を全回復させる技だ。
「なるほどね。でも眠って行動できなくなるのはデメリットよね? それとも、『ねむり』から覚めるきのみでも持たせているとか?」
「ふふふ、目覚める必要はないのだよ。このジュゴン、目をつむっていても攻撃ができる。──“ねごと”」
眠っているはずのジュゴンだが、その状態のまま氷の塊を生み出し、発射した。
「いまのは、“こおりのつぶて”……? ああ、そうゆうこと」
“ねごと”は『ねむり』状態である場合、覚えている技をランダムに発動するという、特殊な条件のもとで扱える技だ。たしかにこの技があれば、眠っていようが関係ない。
「老獪だこと……“かみなりのキバ”!」
「褒め言葉かな? もう一度、“ねごと”」
選ばれた技は、“オーロラビーム”。虹色の光線を浴びて、アーボックは倒れた。
「……なんか、いい感じ。寒くなくなってきた」
チリアは腰のモンスターボールに手をかけ、一瞬思考し、やがて放ったボールは真後ろに飛んで行く。──が、現れたトゲチックは慣れた様子で空中旋回した。
「ほう、ひこうタイプ。こおりタイプには不利だろうに、なにが狙いかな?」
ヤナギは技の指示の前に、眠るジュゴンをじっと見つめる。このジュゴンとの付き合いも長い。『ねむり』状態からいつ頃に覚醒するか、経験に基づいた勘に賭けることができる。
「ジュゴン、“ねごと”だ」
三度目の“ねごと”は、また“こおりのつぶて”を発動させた。高い威力の技ではないが、ひこうタイプのトゲチックには効果抜群だ。
「よし」
技を喰らった側なのに、チリアは笑みを浮かべた。
「いま! “アンコール”!」
トゲチックは手を叩いて技を誘う。ジュゴンはぱちりと目を覚ましたものの、覚醒状態のまま“ねごと”を使った。
「しまった……!」
「はい、これでようやくほんとに、行動を封じることができたわね」
アンコールは、最後に使った技を繰り返させる技である。この場合に対象となるのは、実際に使われた“こおりのつぶて”ではなく、“ねごと”だ。
つまりいまのジュゴンは、眠ってもいないのに意味もなく“ねごと”を繰り出すことしかできない。
「トゲチック、攻撃に移るよ! “げんしのちから”!」
浮遊する岩を発射する。いわタイプの技は、こおりタイプに効果抜群だ。眠りから覚めたばかりのジュゴンだが、もう戦闘不能になった。
「ふむ…… やるもんだの。“アンコール”は使いどころが難しい技だというのに。“ねごと”が技の対象となることも、よく知っていたな」
「いっぺん本で読んだから覚えたの。──まあ、ジュゴンがふつうに起きてて、ふつうに攻撃技を使われたら破綻してたし、ちょっと賭けだったけど」
「………………」
人生のほとんどをポケモンと過ごした老人には、その賭けがいかに重要なものか、よくわかっていた。賭けて、勝利した者がポケモントレーナーとしての栄光を手に入れる。
この少女は、間違いなく──
「柳はしなやかで折れにくい。まだ諦めたりはせんよ」
ヤナギは、最後のモンスターボールを放り投げた。巨山のような体躯に、氷をたやすく砕く牙を持ったいのししポケモン、イノムー。
「もっと教えてくれないか。きみという若きトレーナーのことを」
マグマラシ ♂
おくびょうな性格
トゲチック ♂
さみしがりな性格
アーボック ♀
しんちょうな性格
ブラッキー ♂
まじめな性格