ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート21 コガネシティ/BLACKS

「ブラッキー、“だましうち”!」

 長い戦いの末、ようやくブラッキーの一撃がイノムーを戦闘不能にした。

「ふうむ策が尽きた……か」

 負けたヤナギは、どこか満足そうであった。

 対してチリアは、息を上がらせて汗をかいていた。こんな冷え切ったジムなのに、暑い。

 マグマラシもトゲチックも健闘の末、戦闘不能になってしまった。残ったブラッキーが頑丈だったことが幸いして、どうにかとどめを刺すことができた。あと一手でも遅かったら、勝負の結果は逆になっていただろう。

「あー、疲れた。それにしてもあっついわねこのジム」

「うんうん、見事な戦いっぷり。こうして戦ってみると……ふむ、きみの印象もずいぶん違って見える」

「印象? なによあなた、わたしの人間観察でもしていたというの? ちゃんとバトルに集中しなさいよね」

「ほほ、これは手厳しい。だが心配しないでくれ。バトルは真剣だったとも」

 杖をついた老人は、ゆっくりと少女に歩み寄る。

「きみは、なんというか──冷たい。その心のうちに、永遠のような冬を感じた」

「……冷めた子ども、っていう意見ならたまに聞くわよ。褒め言葉で受け取ったことはない」

「わたしとて、けなしているわけではない。──しかし不思議だ。バトルが始まった途端に、きみは熱を帯びていく。実力に関しては天才的といっていい」

「うん。天才だもの」

「戦っている最中と、そうでないときのきみは、まるで別人のような温度だ。──チリア。きみはポケモンが好きかね? それとも、嫌いかね?」

「………………」

 答えは決まっている。だから即答できたはずだ。

「……わかるでしょ」

「わからないから訊いているのだ。きみの冷たさの根幹には、なるほど、ポケモンに対する忌避を感じる。しかし戦いの間にはそれが消えているように思えた。春の日差しで雪が解けるように」

 ヤナギは難しい顔の少女に、六角形のバッジを差し出した。

「このバッジを持っていきなさい」

 アイスバッジ。チリアが手にする7つ目のジムバッジである。

「氷と雪が解ければ、春になる……きみはこれから永い時間、ポケモンと一緒にいられる。自分がポケモンをどう思っているのか、ゆっくりと決めればいい。──その時間を大切にな」

 

 

「ヤナギさんもすごいが、勝ったお前もすごかったぞ! 年齢を超えた熱いバトルだったぜ!」

 眼鏡の男に見送られ、チリアはチョウジジムを後にする。ボロボロのポケモンたちをポケモンセンターで回復さえている間、気まぐれに、チリアはウツギ博士に電話をかけてみた。

『チリアちゃん、きみから電話をくれるなんてね。最近調子はどう?』

「わたしに不調はない。いまチョウジタウンで、7つ目のジムバッジを手にしたところ。もう何日かしたら、ジョウトを一周してワカバに戻るかもね」

『もうかい!? 速いねえ……いや、きみなら当然のペースか。とにかく順調そうで良かったよ。どうにも最近、物騒みたいだし……いやね、なんだかラジオ放送がおかしいからね』

「ラジオ?」

 チリアのポケギアにも、ラジオカードを読み込んであるのでラジオ番組を受信する機能は備わっているのだが、なにぶん彼女にラジオを聴く習慣がない。

 音楽にもトーク番組にも、意味を見出して──聴き出していないのだ。『オーキド博士のポケモン講座』すら、興味本位で数秒聴いただけである。

『うん、ラジオを聞くと、ロケット団が……とか言ってるんだよね』

「……ほお」

 とりあえず、少女はとぼける姿勢に入った。

『チリアちゃん、なにか知らない? それともひょっとしてロケット団って復活したとか? そんなことないか……』

「ええ、きっと、そんなことはないでしょうね。あんな品性のかけらもない集団、復活しようとしたところで、だれかに潰されて終わりでしょ。役所やポケモンリーグが機能しているならば、なおのこと」

 世間にとって、ロケット団の復活はあってはならないことなのだ。

 だからあえて、チリアは『ありえないこと』として話す。ウツギ博士に余計な心配を与えたくない。面倒だからだ。

『そ、そうだね。変な話してごめんね。じゃあ、道中気をつけて!」

 通話終了後、すぐにチリアはラジオを起動する。チャンネルを合わせるまでもなく、すべての放送において同一の内容が流れていた。

『……あーあー、我々は泣く子も黙るロケット団! 組織の建て直しを進めた1年間の努力が実り、いまここに、ロケット団の復活を宣言するー! サカキさまー! 聞こえますかー? ……ついにやりましたよー! ボスはどこにいるんだろう……? この放送、聞いてるかなあ……』

 聞き苦しくなってきたので、ラジオを閉じた。くるくると指でおさげをいじりつつ、少女はしばらく思考する。

「いや──考えるまでもない」

 回復を終えたポケモンたちが帰ってくる。

「成り行きとはいえ、わたしも大概、ロケット団に関わってきた。顔も名前も割れているし、いまさら『関係ない』とは言えないわ。いずれ報復のため、攻撃の対象となるでしょう。だったら……やられる前にやんないと。とどめを刺すところまで、やり遂げないと」

 トゲチックともに飛翔するチリア。

 行き先は、コガネシティのラジオ塔である。

 

 

 ポケギアのラジオ放送すべてを管理しているのはコガネシティのラジオ塔だ。つまりラジオ放送すべてがジャックされている状況では、そのラジオ塔こそが事件の渦中となっていることは明白であった。

「なんだお前? ただいまお取込み中だぞ。ロケット団以外通すなって、厳しく言われてんだよ!」

 チリアの読みは正しかった。ラジオ塔の入り口はロケット団員に塞がれている。強行突破しようものならば、すぐに何人もの団員に取り囲まれるだろう。

 それに、ここは敵のアジトではなく民間施設だ。職員が人質になっている可能性も考えられる。

「ロケット団以外……ってことは、ロケット団の振りをすればいいわけだ」

 コガネシティを見渡してみる。

 事件の影響か、心なしかひとの通りが少ない。その代わりに、ロケット団らしき黒いスーツの姿が散見される。

「あのユニフォームさえあれば……でも、どうやって調達する? 服のサイズが合ってそうな小柄なロケット団員を襲撃して、身ぐるみを剥ぐとか? いやいや、乱暴するなんてリスクが高い」

 今回に関しては、ワタルを見習って力ずくで解決できそうではない。いつものように、知恵を使ってどうにかしなければ。

「写真屋だ」

 おさげをひと撫でして、閃いた。

 すぐにチリアは、コガネシティの地下通路に赴く。この地下街にはいくつかの専門店が並んでおり、そのひとつが写真屋だ。

 ポケモンにはアクセサリー、人間にはコスチュームを貸し出して写真を撮影できるのだが──無論、チリアはそういったアミューズメントには興味がないので、写真屋のことは視界の端に捉えただけだ。

 それで、十分。

 コスチュームのラインナップに、なぜかロケット団の黒服があったことは記憶している。さっそく写真屋に行ってみると。

「んー? お前さんも新入りか?」

 ロケット団の男がいた。

 コスプレではなく、どうやら本職のようだ。

「新入り……?」

「ラジオ塔の作戦のためにメンバーを増やしたら、ロケット団のユニフォームが足りなくなっちまってよ。なぜか写真屋が持ってるって言うから、ちょっくら盗みに来たんだよ」

 つまり、先を越されそうになっているわけだが──まだ間に合う。

「だったらわたしが着てもいい? ほら、わたし、新入りだからさ」

「そうなのか? じゃあちょうどいいや! お前、ここで着替えていけ」

 奥の部屋で、黒服に着替える。一応コスプレ用ということで、子どものチリアにも合ったサイズが用意してあった。

「それにしてもこの写真屋は、子どもが好んでロケット団の格好をしたいと思ってるのかしら」

 見慣れない服を着る主人が珍しく、ブラッキーはしきりに服の匂いを嗅いでくる。

「ほかのロケット団と間違わないでよ。──しょうがないから、そうやって匂いを憶えてもらうけど」

 やがて更衣室から出てきた、黒いユニフォームの少女に、ロケット団の男はなんの疑いも持っていない。

「うんなかなか似合ってるぜ~! だがそのカッコでウロチョロして、あんまり街の住民をビビらせんじゃねーぞ!」

 そしてなんの疑いもなく、少女を見送る。

「たしかに、こんな格好を知り合いに見られたら誤解されちゃうかも……馬鹿だと思われる」

 息を殺すように道の端を歩いて、チリアは再びラジオ塔へ。

「なんだ? 新入りか? ほほう、ロケット団の制服がよく似合ってるじゃねーか! いいぞ、通ってよーし!」

 無事、潜入に成功した。

 悪人ばかりと思っていたロケット団だが、どうやらお人好しというか──他者への疑いを持っていないらしい。さすがのチリアも、ここまで潜入が簡単とは思ってなかった。

「さてと。まずは……」

 周囲を見渡しつつ、慎重に廊下を進み始めたあたりで。

「やい! ロケット団! 弱虫どもが寄り集まって、他人に迷惑かけるような真似してるんじゃねえ!」

 背後から怒号と、轟音。とっさにチリアは体勢を低くして、廊下の角に隠れる。

 様子を伺うと、先ほどまで道を塞いでいたロケット団員が、彼の手持ちのラッタとともに敗北していた。

「こ、こいつは強い……このままでは計画が台無しだ。仲間に報せないと……」

 隠れるチリアの横を通り抜け、ロケット団員は上階へと逃げていく。彼を打ち倒したのは──

「おシル……」

「だれだ!? おれを変な呼び方するのは!」

 視線の先にいたのは、赤毛の少年、シルバーだった。

「……あれ? お前、チリア? こんなところでなにしてんだ?」

「見ればわかるでしょ」

「まさか……お前までそんな格好して、強くなったつもりか?」

「わかんないか……」

 この少年ともそれなりに長い付き合いなのだが、どうにも互いに理解し合えていない。

「馬鹿馬鹿しい! そんな格好やめちまえ!」

 シルバーは、チリアの黒服の胸倉を掴んで。

「脱げ!」

「こら」

 少女は、少年の双眸の前に、二本の指を突き出した。

「女子に向かって乱暴しない。目ぇ潰すわよ」

「う……」

 チリアの冷徹な声と指に、少年はたじろぐ。

「着替えるから。離してよ」

 シルバーから距離をとったチリアは、さっそく黒服の裾をたくし上げた。

「ここで脱ぐなよ!!」

 シルバーは急速に回れ右をする。

「脱げって言ったのはあんたじゃないの……べつに、あんたに裸を見られても恥ずかしくないし。あんただって、裸を見て嬉しいのは、もっとこう、おとなのおねえさんって感じの女でしょ?」

「そ、そ、そういう問題じゃないだろ!」

「まあたしかに、見たらその時点で性加害と言われる可能性があるもんね。待ってね、もうちょっと──はい、着替えた。こっち向いていいよ」

 白いキャスケット帽をきゅっと被ったチリアを見て、ようやくシルバーはひと息ついた。

「そうか、変装して忍び込んでいたのか……フン! 弱いやつの考えそうなことだ」

「賢いやつの考えよ。今回はワタルみたいに、強引にやるわけにもいかないし……」

「ワタル……そうだ。オレはマントのドラゴン使い。あいつをぶっ倒す!」

 どうやら、チョウジタウンのロケット団アジトでワタルに敗北したことが、よほど悔しかったらしい。歯を食いしばりつつ、少年は突然、踵を返した。

「ここはお前に任せてやるよ。あのワタルってやつと戦わなくちゃいけないんだ。こんなところで、ロケット団の相手なんかしていられるか!」

「いいの? ワタル、ここに来るわよ」

 ピタッと、シルバーの足が止まる。

「なに……?」

「だってあのひと、ロケット団をやっつけてるんだもん。当然、このラジオ塔にも来るに決まってるじゃない。占拠されたことはラジオで知れるし」

 チリアは、少年に手を差し伸べた。

「ワタルに会わせてあげる。だからロケット団潰すの、手伝ってよ」

「………………」

 シルバーは、訝しむように逡巡したが、やがて指先で触れるように少女の手を取った。

「ワタルと会うまでだ」

「結構。それじゃ……」

 チリアは廊下の先を見つめる。すでにシルバーという侵入者は知られているので、数人のロケット団人が駆けつけてきた。

「暴れましょう。足を引っ張らないでね」

「こっちのセリフだ!」




マグマラシ ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格
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