ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート22 コガネシティ/爆噴

 チリアとシルバーは別段、息が合っているわけでも、互いの手の内を知り尽くしているわけではない。

 だからこそ今回の共闘は、ダブルバトルではなく、各々で戦うという形式で成立していいる。

「アーボック、“どろばくだん”」

「ニューラ、“だましうち”!」

 それぞれのポケモンが、それぞれの戦うロケット団を打ち倒す。

「ところでシルバー。あんたってなんで、ロケット団が嫌いなの?」

「その話はもうしただろ! 弱いくせに、群れて強くなった気になっているあいつらが、気に喰わないんだよ!」

「それはほんと? なんだか特別な執着があるように思えるけど」

「……お前こそ、どうしてロケット団に関わるんだよ!」

「成り行きとはいえ中途半端に邪魔をして、それで見逃してもらえるとは思わないから。だったら徹底的に潰してしまおうと思ったの。これはあくまでも自衛のためよ」

「………………」

 少女の目に、シルバーは背すじに寒いものを感じた。

 

 

「──なんかお前、おればっかり戦わせてないか!?」

 ラジオ塔のロケット団員をあらかた倒したところで、ようやくシルバーは振り返った。

「バレたか。だってシルバー、とってもすごーく、強いんだもん」

「見え透いたお世辞を言うな!」

「でもその代わり、人質になってた局員から情報を聞いてきたわよ」

 チリアは咳払いをして。

「『こいつらのボスが、展望台に立てこもったの。なかからカギをかけられたけど、局長なら開けられるわ! 局長は5階よ! お願い、助けてあげて!』だって」

「わざわざ一言一句記憶する必要があったか……?」

「というわけでわたし、5階に行ってくる。シルバーはこのへんで、てきとーに戦うなり休むなりしてて」

「おい、待っ……」

 展望台へ続く道とはべつの階段で、チリアは局長室のある5階へ駆け上がる。

 そして局長室の扉に手をかけたかと思うと、一瞬嫌な予感がして、息を殺して扉に耳を当てた。

「ゴホンゴホン、あーあー……えー、吾輩は局長であーる! きょうから我がラジオ局では、ロケット団を褒めたたえる素晴らしい番組を放送していくことになった! みんな、ツベコベ言わずにしっかりと良い番組を……」

「あんた、ラムダでしょ!」

 勢いよく扉を開けた。

「うわっ! モノマネの練習中に、だれだお前は!? ……って、またチリアか!」

 いかにも局長らしい格好をしていた男だが、チリアの姿を認めるや、誤魔化そうともせずに変装を解いた。

 細身に、ヒゲの男。チョウジタウンのアジトでロケット団のボスに変装していた、幹部のラムダだ。

「くっそー、せっかく局長に成りすまして、各地をロケット団色に染めてやろうと思っていたのに!」

「どうせバレるって。いくら顔は似せられても、あなたって品性がないんだもの」

「うるせえ! よっし、こんどこそホンキのホンキで勝負だ!」

 ラムダは6つのモンスターボールを構えていた。本気というだけある。手持ち6匹を使ったフルバトルだ。チリアには4匹しかポケモンがいないのだが──

「ドガース!」

「……トゲチック!」

 頭数以前に、チリアのほうが実力は上のようだ。トゲチックのエスパー技、“じんつうりき”は、ラムダのドガースをつぎつぎと倒す。

「しかしドガースが5体も出てくるなんてね……」

「あれ? おれさま負けそう?」

 ラムダが6匹目に繰り出したのは、そのドガースの進化系であるマタドガスだった。連結した毒々しい紫色の塊が、ガスを噴きながら浮遊している。

 これも“じんつうりき”で撃破したいところだが──チリアはおさげをいじりつつ、ドガースたちの特長について考える。

「なんだかやな感じ……トゲチック、“あくび”」

 マタドガスの眠気を誘うが──

「はっ! ここで行動を封じにくるか……やっぱりお前、末恐ろしいガキだぜ!」

「褒められてるって解釈していいのかしら」

「だけどなあ、オトナの恐さも覚えておけ! これが最後っ屁ってやつよ!」

 危険を察知したトゲチックは、一瞬、チリアのほうを振り返ったかと思うと、主人の盾になるかのようにマタドガスに向かって行った。

「なっ──トゲチック! なにしてんの! 避けなさい!」

「マタドガス、“だいばくはつ”!」

 局長室が、閃光に包まれた。

 

 

「回復をお願い」

 ポケモンセンターに現れた少女は、服がところどころが汚れていて、ガスのような匂いがしたので、受付はすこしざわついた。とにかく預けられた4匹は回復マシンへ。そのうち、トゲチックが戦闘不能状態であった。

「ったく、ひどい目に遭った。しかも局長は地下倉庫に閉じ込めてあるなんて」

 “だいばくはつ”は喰らったものの、勝負自体はチリアの勝利で幕を閉じた。その後、ラムダを締め上げて局長の居場所を聞き出し、地下倉庫の鍵を奪った。

「おまけになぜかシルバーはいなくなってるし……あのドロボー小僧。つぎに会ったらタダじゃおかないわ」

 やがてポケモンたちの回復が終わると、チリアは汚れた服を着替える間もなく、街の地下通路へ向かった。

 そこには。

「さっきから黒い服のロケットはんたちが慌てて行ったり来たり……なにごとやろか?」

 絢爛な着物の、舞妓がいた。

「………………」

 専門店が並ぶ地下通路。彼女はいずれかの店に用事があったのかもしれない。というか、舞妓がどこにいようがチリアには関わりないことだ。

「キキョウシティか、ウバメの森か、歌舞練場で会った?」

「いえ? ちょっとわかりらしまへんなあ」

「あっそ。……あまり出歩かないほうがいいかもよ。いま、その()()()()()()がラジオ塔を占拠してて、街は大変だから」

「あらまあ。あんさんは平気どすの?」

「わたしはちょうど、抗争中」

 抗争。という言葉は少女には不似合いだが、“だいばくはつ”で薄汚れた格好が説得力を生んでいる。

「まあ。あんさんがロケットはんを? ほんにお強いのどすなあ。これなら伝説のポケ……」

 言いかけて、舞妓は口元を押さえた。

「なに? 伝説?」

「おほほ! なんでもあらしまへん。ほなお先にー」

 踊るような足取りで去って行く舞妓。やな感じだ、なんて思っている暇もない。チリアは鍵を使って、『立入禁止』の地下倉庫へと飛び込んだ。

「けっこう広いな……」

 この地下倉庫はコガネ百貨店につながっており、そこの倉庫も兼ねているらしい。見張りのロケット団員はいない。ということは、局長は拘束されている状態にあるのだろう。

「待てよ!」

 地下倉庫に踏み出したチリアの足を、背後からの声が止めた。

「おシル。あんた、勝手にどこ行ってたのよ」

「だから変な呼び方をするなって! ていうかお前、なんでボロボロなんだよ!?」

 いつも小ぎれいなチリアの服が汚れているので、シルバーは驚いた。

「ちょっとね。それより、なに? なんだかご機嫌ななめみたいだけど」

「だってお前……あのワタルってやつが来るとか言ってたくせに、ちっとも現れやしねえじゃねえか!」

「……ああ、そういえば」

 そういえば、そんなことを言ってシルバーを釣ったのであった。

「まだ来てないっぽいわね。どこかで道草でも喰ってるのかしら」

「ふざけんじゃねえ! お前、おれを騙したな……?」

「人聞きの悪い言い方をするじゃん」

 チリアは腕を組んで、少年に冷たい視線を向ける。

「騙したつもりはないけど……こういう場合、ノせられるほうが悪いんじゃなくって?」

「ノせたって言っちゃってんじゃねえか……!」

「やる気がないんなら、べつに帰ってもいいんだけどさあ」

 チリアはモンスターボールを手に取る。

「そんな中途半端なの、ムカつくな。ムカつくから、一戦やろうよ。わたしも急いでるし、1匹VS1匹ね」

「……フン、まあいいさ」

 シルバーは、少女と距離を取る。戦うには十分な空間だ。

「ワタルと戦う前に、先にお前から片づけさせてもらうぜ!」

 シルバーが繰り出したのは、青い鱗に、筋骨隆々とした身体に成長した、大顎を持つポケモン。

「オーダイルか……じゃあこっちは」

 背後に連れ歩いたマグマラシが、背中に炎を燃やしている。

 その目には、闘志の炎も。

「行きなさい、マグマラシ。きょうこそやつらに勝つわよ」

 

 

 1匹VS1匹。

 その提案をしたチリアが、オーダイルに不利なマグマラシを選択したとき、いよいよシルバーは彼女が馬鹿なのかと思った。

 彼女の手持ちは、ここまでの戦いで把握している。トゲチック、アーボック、ブラッキー。正直なところ、どれも強く育てられたポケモンだと思っている。

 マグマラシも例外ではないのだが──それにしても、みずタイプであるオーダイルの相手をするには、最悪の選択肢だ。

 チリアには妖しい「魔性」を感じていたし、決して馬鹿ではなかろうと思っていたのだが──今回ばかりは、シルバーは強い疑念を抱いた。

 どうして、オーダイルに、マグマラシを当てる?

 なにを狙っている?

「オーダイル、“みずでっぽう”!」

 シルバーはオーダイルに強力なみずタイプ技を習得させていない。しかしオーダイル自身の能力も高く、有利なタイプ相手では、“みずでっぽう”でも十分に通用する思ったのだが──

「マグマラシ、“にほんばれ”」

 かっと廊下を照らす光が、技の威力を削いだ。

「これでほのおタイプの技は強くなり、みずタイプの技は半減。相性の有利不利もいくらか埋まるわね。さてつぎは──“ふんえん”」

 マグマラシの背中の発火器官から、真っ赤な火炎が噴出する。

「いくら天候で威力が増しているからって、大したダメージにはならねえよ!」

「威力には期待してないわ。この技の特長は──そう、それ。状態異常」

 言われてようやく、シルバーはオーダイルの異常に気がついた。青い鱗が、炎で焼け焦げている。『やけど』の状態であった。

「これでオーダイルにはダメージが入り続けるし、物理的な攻撃技の威力も下がる。これって大ピンチじゃない?」

「だ、黙れ! まだ終わってねえ! オーダイル、“かみくだく”!」

 凶悪で強大な大顎から放たれる技は、しかし、『やけど』状態では威力は振るわない。

「負けてたまるか……! オレは最強のトレーナーになるんだ……!」

「マグマラシ、“スピードスター”。ためらうなよ。ちゃんと決めなさい」

「なのに、どうしてチリアに……オレのほうが、強いはずだろう!!」

「もう一度、“スピードスター”」

 陽光に照らされたバトルフィールドで、星のように降る光線を受けて、やがてオーダイルの巨体は沈んだ。

「……なぜだ。なぜ負ける」

 少年は、その場で膝をついた。

「自分でわかんないの?」

「……くっ、わからない。あのワタルってやつが言うように、オレにはポケモンへの愛情が……信頼が……足りないから勝てないってのか」

「え、そっち?」

 チリアは首を傾げる。

「単純に戦略でしょ。ポケモン1対1っていうルールにもしたことだし」

「それでも……!」

「ていうかさあ、わたしがあんたに勝つために、どれだけ戦略を練ったと思ってるの。ほかのどのポケモンでもなく、マグマラシで勝たなきゃいけなかったの。こいつを最強のポケモンにするために。そして、初めての戦いで負けたときの雪辱を晴らすために」

 マグマラシは、戦闘不能のオーダイルに駆け寄って、火傷を舐めて気遣っている。

「まあ、雪辱戦とか因縁とか、そんなものに意味がないってのはわかってるんだけど……あら?」

 そのマグマラシの身体が、ぶるぶると震えた。

 光に包まれた身体の輪郭は、オーダイルに匹敵するほど大きく。

 発火器官は首の周りに集中する。炎がたてがみのように噴き出している。

「来た来た、進化だ。そろそろだと思ってたのよ。──バクフーン」

「………………」

「わたしたち、まだまだ強くなるよ。あんたが立ち直るのなんか、待ってあげないからね」

「なっ……てめえ! まるでオレが落ち込んでるみたいな言い方じゃねえか!」

「落ち込んでるでしょ」

「落ち込んでねえ! たった1回勝ったくらいで調子に乗るなよ……! 忘れるな。おれはお前に、3回勝ってるんだからな!」

「ええ、それはもう。ちゃあんと憶えているわよ」

 チリアは妖艶に笑う。シルバーは背すじが冷たくなった。

「また戦いましょう、シルバー。もっと時間あるときにさ。そのときは、あなたのポケモンをぜんぶやっつけて、完膚なきまでに勝利してあげるから」

「……ふん!」

 少年は、少女に背を向けた。戦闘不能のオーダイルをモンスターボールに収める。

「おれはもう、ラジオ塔の件からは手を引く。意味がない」

「へえ。意味がないってのは……どういうこと?」

「放送が続いているんだ。ロケット団のボスに向けて、呼びかける放送が」

 シルバーの背中からは、妙に寂しそうな雰囲気が漂っていた。

「それがどういうことかわかるか? この期に及んで、ロケット団のボスは……あいつは仲間たちのもとに帰っていないんだ」

「………………」

「あいつは組織を見捨てたんだ! ロケット団を復活させるって、そう言ったのに……くそ!」

 悪態をついたシルバーは、そのまま駆け出して去って行った。

「不安定だなあ。あの年ごろの男子って、みんなああいう感じなのかな」

 嘆息するチリアの足元に、バクフーンがすり寄った。

「はいはい、おつかれさん。そんなデカい図体で、甘えてこないでよ」

 チリアより体格が大きく進化したバクフーンは、切なそうに鳴いた。

「とにかく、最強に一歩近づいたわね。ワニノコ時代からの幼馴染だったオーダイルを倒すのも、ほんとはやな感じだったんでしょ。だのに、よくやった。今後も精進なさい」

 チリアは珍しく、ポケモンの頭を撫でて褒めてみた。




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格
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