ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート23 ラジオ塔/希望の声

 地下倉庫の奥。

「あなた、ラジオ局の局長?」

 縛られた男に問いかける。

「そうだが……き、きみは?」

「正義の味方のつもりじゃないけど、ロケット団の敵ではある。ラジオ塔のカードキーが必要だから、ついでにあなたを助けに来た」

 チリアの立場上、明解な説明ではなかったものの、局長は目の前の少女が味方であると納得し、安堵した。

「そうか、ありがとう。礼を言うよ。そ、それで? ラジオ塔はどうなってる?」

「ロケット団でいっぱい。占拠されちゃってるわ。首謀者(アタマ)を潰せばどうにかなると思うから……ああもう、めんどい。バクフーン」

 説明するより先に、バクフーンに命じて局長を縛る縄を焼き切った。

「事件を解決するから、カードキーを頂戴。あとで必ず返すから」

「事件を解決って……きみはまだ、子どもじゃないか! しかも女の子で……」

「女も子どもも関係ない。いま大事なのはスピードでしょ? ロケット団はチョウジで、ポケモンを操る電波を流して事件を起こしていたわ。ラジオを利用しておなじようなことをされたら、いよいよ事件に収集がつかなくなるわ」

 わざと大げさに伝えてみた。

 嘘ではない。いつだって最悪の事態は想定しておくべきだ。

「……わかった! このカードキーを渡そう」

 局長はまんまと──否、事の重大さを理解して、ふところから取り出したカードキーを少女に渡した。

「それさえあれば3階のシャッターは開く。この状況で頼れるのはきみだけなんだ。ラジオ塔を……全国のポケモンを助けてくれ」

 その頼みごとを「重い」と一蹴するのは、さすがに憚られる。どのみち敵と見なしたロケット団を妨害するのだ。結果的に、ラジオ塔を救うことにはなるのだろう。

 余計なことは言わずに、形だけでも快く、局長の頼みに応じることにした。

「オッケー。いいわよ」

「なんか軽くない……?」

 

 

 ふたたび、ラジオ塔へ。

 さきほどチリアとシルバーが、ラジオ塔にいるロケット団員をあらかた片づけたおかげで、下っ端たちの警備も手薄になり、人質になっていた職員たちはほとんど解放されている。

 同時に警察への通報も行われていたようで、警察官たちによるラジオ塔の捜査、そして通行止めが始まっていた。

「警察沙汰になったからといって、手を引くわけにはいかないわよね。中途半端はやな感じだし」

 というわけで、ひと目のないラジオ塔の裏手に回って。

「トゲチック。あそこまで飛んで」

 チリアたちは5階まで飛行する。そこは、数時間前にラムダと戦った局長室。マタドガスの“だいばくはつ”により、窓ガラスが割れていたのだ。

 ガラスの破片を避けつつ、局長室に侵入する。すなわち、ラジオ塔へふたたび立ち入ることに成功した。

「警察とかロケット団の下っ端がごたついてるのは……1階か2階か。ラジオ塔が占拠されてだいぶ時間が経ってるでしょうに、おまわりさんたちは動きが遅いのね」

 下層の騒動に見向きもせずに、チリアは3階、展望台行き通路の前へ。装置にカードキーをかざすと、閉ざされていたシャッターが上がった。

「お待ちなさい!」

 しかしシャッターの向こうに待ち受けていた男が、少女の行く先を塞いだ。

「何者ですか!? どうやってシャッターを……おや? きみはたしかヤドンの井戸で我々の作戦を邪魔してくれた……」

「おや? ロケット団でもっとも冷酷と呼ばれた男、ランスじゃない。お久しぶり。そうそう、ヤドンの井戸でわたしにこっぴどく負けて以来よね」

 チリアは見覚えのある男──ランスを揶揄してみる。

「なるほど……そうまでしてわたしを怒らせたいのですね」

 少女の狙いどおり、ランスは頭に血を昇らせて、モンスターボールを手に取った。からかい甲斐のある男である。

「いいでしょう。お望みどおり、ロケット団幹部の怒りを見せて差し上げますよ!」

 ランスはこうもりポケモン、ゴルバットを呼び出す。

「ブラッキー、“あやしいひかり”」

 チリアの背後から飛び出した黒い影は、即座に技を繰り出した。

「小癪な! ゴルバット、こちらも“あやしいひかり”!」

 しかし先に混乱していたゴルバットは、わけもわからず自分を攻撃する。

「“だましうち”」

 続くブラッキーの一撃で、ゴルバットは倒れる。

「わたしをこれほどまでに追い詰めるとは……!」

「早いわね、追い詰められるまでが」

「マタドガス!」

 2匹目に繰り出されたポケモンに、思わずチリアは顔をしかめた。つい数時間前、“だいばくはつ”でひどい目に遭わされたばかりだからだ。

「“ヘドロこうげき”!」

 しかしランスの様子から、捨て身の自爆技を使うほどの度胸はないらしい。ラムダのときのような()()()()がしない。

「ブラッキー、そのままやりなさい。“あやしいひかり”」

 すこしでも行動を妨害できるよう、『こんらん』状態にして。

「“だましうち”!」

「むむ……なんてやつ! マタドガス、“ダブルアタック”!」

 マタドガスも反撃してくるが、防御力が高いブラッキーには大したダメージにならない。

「あなたって、幹部のわりには強くないのね」

「なっ! なんですって……!?」

「ブラッキー、“おんがえし”」

 その一撃をもってして、ランスのマタドガスは戦闘不能になった。

「ふぅぅ……」

 戦力を失い、ぶつけようのない怒りを抱えたまま、ランスは悔しさに打ち震えている。

「わたしに勝ったところで、所詮はロケット団の怒りを強めただけですよ……」

「あっそ。ところでランス。ロケット団って顔採用で幹部になれるの?」

「は……?」

「だってあなた、大したことないから」

「き、き、貴様……!」

 なんて。煽り過ぎだろうか。

 顔を真っ赤にして憤慨するランス。一瞥もくれずに彼を素通りし、チリアは上の階へ向かった。

 

 

「あらあなた……チョウジのアジトで会ったわね?」

 5階にいたのは、白いスーツの女性。アテナだった。

「あのときは負けたけど、こんどこそ……うっふっふっふ」

 アテナは周囲を見渡す。この場にいるのはアテナとチリア、ふたりの女性だけだ。

「こんどこそほんとうにおひとりさまみたいね。だったらチョロいもんだわよ」

「この前の戦いでなにを見てたのよ。わたしひとりでも、あなたたちの相手はチョロいわ。──そもそもこの現場にワタルが来ていないことには、ちょっとムカつくけどね」

 チリアの前に、ブラッキーが躍り出る。

「生意気な! ちょっと強いからって、このあたくしに勝てるわけがないわ! さあ、覚悟なさい!」

 アテナが繰り出したのは前回同様、紫の尾を持つコブラポケモン、アーボック。

「お。じゃああたしも。ブラッキー、交代」

 残念そうに鳴いて引っ込むブラッキー。チリアは代わりのモンスターボールを投げる。真後ろの壁に当たって、アーボックが現れた。

「な……なにを遊んでいるの! ていうか、あなたもアーボックを? うっふっふっふ、お馬鹿さんね! アーボック同士の戦いであれば、あたくしのポケモンのほうが優れているに決まっている!」

「それをはっきりさせようじゃない。わたしのアーボック、あなたのアーボック、どっちのほうがいい感じなのか」

 2匹のアーボックは、同時に動いた。

「“へびにらみ”!」

「“へびにらみ”!」

「“かみくだく”!」

「“かみくだく”!」

 偶然、おなじ技をぶつけるアーボックたち。2匹の蛇は巻き付き合い、噛み合う。

「う……どっちがどっちだか!」

 アテナは一瞬、激しく戦うアーボックたちの見分けがつかなくなり、指示が遅れた。その一瞬が隙だったのだ。

「アーボック、とどめだよ。“どろばくだん”!」

 チリアのアーボックは泥の塊を吐き出す。どくタイプには効果抜群の、じめんタイプの技だった。アテナのアーボックは回避することができず、爆ぜる泥を浴びて戦闘不能になった。

「はい、うちのアーボックのほうが優秀ってことで」

「きーーーっ!! 調子に乗るんじゃないわよ! 行きなさい、ヤミカラス!」

「アーボック、そのまま行けるよね?」

 同種同士の戦いに勝ち抜いたアーボックは、自信ありげに喉を鳴らした。

「じゃ、“かみなりのキバ”!」

 効果抜群である。

 雷電をまとう牙に襲われ、ヤミカラスは戦闘不能になり、地に落ちた。

「ちょっと、なにすんのよ!」

 アテナに残されたモンスターボールはひとつ。少女のひとり、ポケモン1匹に追い詰められた状況に、大いに焦っていた。

「ラフレシア!」

 頭部に巨大な花を持つ、くさタイプとどくタイプを併せ持つポケモンだ。

「アーボック、まだまだ行こう。“へびにらみ”!」

「舐めんじゃないわよ! “ねむりごな”!」

 しかしラフレシアは、『まひ』で身体が痺れて動かない。

「ウソ……!?」

「よし。完全に流れはこちらに向いている。この隙に攻めるわよ、“かみくだく”」

 アーボックは、チリアを信頼している。

 故に一切の疑いなく、ためらいなく、全霊を以て攻撃に転じる。

「な、なんでそんなに強いの!」

「なんでかしらね。わたしが──わたしたちが天才だからじゃないかな」

 勝負の結果はすぐに出た。ラフレシアはついに攻勢に出ることはできず、アーボックの牙の前に戦闘不能となった。

「くききききーっ! 全力で戦ったのに……これでも勝てないなんて!」

 アーボックは息を切らしつつ、主人の足元に寄ってくる。チリアは不器用に労いの言葉をかけつつ、『キズぐすり』などのアイテムで回復した。

「じゃあわたしたち、行くので」

「………………」

 アテナはエレベータに向かうチリアに、しばらく恨めしそうな視線を送ると、やがて、深いため息をついた。

「もったいないわねぇ……」

 鼻で笑う。

「せっかくの強さを悪いことに使わないなんて! まっ、あなたのようなひとには、あたくしたちの素晴らしさ、永遠に理解できないのよ」

 チリアはアテナに一瞥もくれずに、すれ違う。

「残念だわぁ。あなたの強さ、気に入ってたのに」

 操作パネルのボタンを押して、エレベータを呼び出す。

「……ちょっと、なにか言いなさいよ」

「負け惜しみに返す言葉なんてないわよ」

 少女の回答に、アテナは絶句する。

「あるいは、あなたのアーボックのほうが強かったならば、どれほど良かったことか。特になにも学ぶことなく、ふつうに経験値を得た、ふつうのバトルだったわ」

 エレベータに乗り込むとき、一瞬だけ、チリアはアテナと目を合わせた。

「こちらこそ残念だわ。あなたの弱さが」

「どっ……どんだけ毒舌……!」

 エレベータの扉が閉まる。

『展望台へ参ります』

 チリアは壁にもたれかかって、深くため息をついた。

 

 

『展望台に着きました』

 ラジオ塔の最上階にして、広いコガネシティを一望できる展望台。夜の街を照らすネオンに光に、チリアは特に感想を抱かない。

「おやおや……ついにここまで来ましたか」

 白いスーツの細身の男が、たったひとりで少女を待ち受けていた。

「子どもが邪魔をしているとは報告を受けていましたが……その様子だと、ランスやアテナも倒したのでしょう。なかなか優秀なトレーナーのようですね」

「どっちも大したことなかったわ。あなたはそうでなきゃいいんだけど。ええと……」

「アポロ。恐れ多くも、いまはロケット団ボスの代理のような立場に着かせていただいています」

「そう。わたしはチリア」

 シルバーが言っていたとおり、ラジオ放送で呼びかけられている、ロケット団のボス──サカキという男は、帰還していないらしい。

「一応、訊いておくけど。なぜこのラジオ塔を占拠したの? いま流れているこの放送に、意味があると思ってる? あなたたちの呼ぶ『サカキさま』、ここに来るまで会わなかったわよ」

「まだです!!」

 アポロの目が、かっと見開く。

 先ほどの慇懃無礼な態度とは、真逆にも見える剣幕だ。

「……いいですか。我々はラジオ局を乗っ取り、全国に向けて復活宣言をするのです。そうすればどこかで修行中のサカキさまも、戻られるに違いない。あのむかしの栄光を取り戻すのです……!」

「いつまで? そのひとが放送を聞いているかもわからないのに、いつまでラジオ塔に居座り続けるの?」

()()()()()ですよ! あの方が、ロケット団の鼓動に気づいてくれるまで、いつまでだって我々は叫び続けましょう! その邪魔はさせませんよ!」

 アポロはモンスターボールを握る。

 チリアは背後のブラッキーに呼びかける。

「なんだろう……微妙に、やな感じじゃないな。こういうひとのこと、よく知っている気がする」




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格
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