ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~   作:サンダーゴリラ

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レポート24 ラジオ塔/その夢に絶望を

「デルビル!」

 骨のような装飾を持った、黒い犬型のポケモンだ。

「ほのおと、あくタイプも持っているんだっけ。とりあえず──ブラッキー、“おんがえし”!」

 デルビルはブラッキーよりもすこし小柄だし、まだ進化前のポケモンだ。攻勢に出て早めに倒してしまおうと思ったのだが──さすがに、一撃では戦闘不能にはならない。

「デルビル、“ほのおのキバ”!」

 火炎をまとった牙が、ブラッキーに突き立てられる。

「威力はそこまで……おっと」

 ブラッキーは運悪く、技の追加効果で『やけど』を負ってしまった。

「これじゃ物理攻撃の威力も下がる。交代……の前に、“あやしいひかり”!」

 せめてデルビルを『こんらん』状態にした後、ブラッキーを引っ込めて、つぎのモンスターボールを投げる。

 展望台の分厚いアクリルガラスに、ガツンと当たった。窓ガラスがなければ、夜の街に飛び込んでいくところだった。

「……なんの真似ですか?」

「べつに」

 現れたアーボックは、おかしな出現位置にも慣れた様子で、すぐにデルビルに向かって行く。

「アーボック、“どろばくだん”!」

 ほのおタイプを持つデルビルに効果抜群である。泥の塊を浴びたデルビルは戦闘不能となった。

「なるほど。では……ドガース!」

 見慣れたどくタイプのポケモンだ。ロケット団がよく使うので、なんども戦ったことがあるのだが──

「だからこそ、アーボックだと戦いづらいってわかってるのよね。さてどうしたものか……」

 特性は『ふゆう』なので、せっかく覚えたじめんタイプの“どろばくだん”は無効化される。防御も高いので、“かみくだく”といった物理攻撃も通じづらい。交代させたほうがいいだろうが、その前に。

「アーボック、“へびにらみ”……」

「遅れるな、ドガース! “えんまく”!」

 技を発動させる前に、黒い煙に包まれてしまった。

「しまった。これじゃ“へびにらみ”が当たるのは期待できないか……いいや、アーボック、交代して」

 アーボックに代わって現れたのは、トゲチックである。

「“じんつうりき”!」

 即座に効果抜群の特殊攻撃を繰り出す。狙いどおり、ドガースは一撃で戦闘不能になった。

「ふむふむ。そうでしょうねえ」

 2体の手持ちを倒され、追い詰められているはずのアポロは、どういうわけか余裕な態度であった。

「焦ってないんだ? 見たところ、手持ちはラスト1匹みたいだけど?」

「この1匹で十分。じつはこのラジオ塔でのお前の戦いは、モニタリングさせていただきましてね……」

 アポロは、片手に握られたポケギアを示す。

「ブラッキー。アーボック。トゲチック。そして、マグマラシでしたか。使える技も把握していますよ。手の内がわかっている以上、こちらに負けの要素はありません」

「………………」

「卑怯と思いますか? 結構! わたしはロケット団。勝利のためならどこまでも卑怯者になりましょう! 我々の復活宣言がサカキさまに届くまで、お前に邪魔をしてもらっては困るのですよ!」

 アポロが繰り出した最後のポケモンは、ヘルガー。

 しなやかな体躯。頭部には2本の角。尾の先は尖っている。黒い体毛と相まって、悪魔を思わせる風貌だ。

「“だましうち”!」

 さっそく、必中の一撃を喰らうトゲチック。チリアはおさげをひと撫でして──

「トゲチック、“しんぴのまもり”」

 状態異常を防ぐ障壁を展開した。

「慎重ですねえ。だが──“ほのおのキバ”!」

 燃える牙を突き立てられ、トゲチックは戦闘不能になった。できれば“げんしのちから”を一発でも喰らわせたかったが、この都合の悪い展開も想定の範囲内である。手早くトゲチックをボールに回収し、4つ目のモンスターボールを投げた。

 うっかり投げてしまったボールは、天井高くに舞い上がって、

「バクフーン!」

 燃えるたてがみのバクフーンが現れた。

「むっ……!?」

「モニタリングしてたのは、ラジオ塔の戦いだけ? 詰めが甘いなあ。一回外に出たとき、パワーアップさせてもらったわよ」

 その後のラジオ塔でのランス、アテナでの戦いでは、あえてバクフーンを出さなかった。()()()()()()()()()()()、隠し玉にしておいたのだが──まさかほんとうに監視されていたとは。

「あんたたちが卑怯者だってことくらい、よく知ってんだよ」

 唸り声を上げるヘルガー。バクフーンは一切ひるむ様子もなく、たてがみの炎をさらに大きくし、ヘルガーと向かい合う。

「能力的にはほぼ互角ですか……いいでしょう。だとしてもねじ伏せる! ヘルガー、“スモッグ”!」

 ガスを吐き出すヘルガー。どくタイプの技だ。低威力だが、追加効果で『どく』を付与することがある。

 ──が、バクフーンは真っ向から“スモッグ”を突っ切って、ヘルガーとの距離を詰める。

「なに!?」

「“スピードスター”!」

 至近距離で光線を浴びせる。当然ながら、『どく』の状態にはなっていない。

「はあ……わざわざ教えてあげるのもお人好しだと思うけどさ、トゲチックの“しんぴのまもり”、まだ残ってるからね? 状態異常でアドバンテージを取ろうなんて、しばらく考えないほうがいいわ」

「……“だましうち”!」

「“スピードスター”。相手の技そのものにぶち当てて、相殺してみて」

 難しい指示だが、バクフーンはすぐさま実行に移した。

 “スピードスター”と“だましうち”は、技の性能として同程度の威力だ。おなじタイミングでぶつけ合えば相殺する……というのは、机上の空論。そもそも使用するポケモンのステータスによっては威力だって変動する。

「ふむ。それでもある程度、技同士が弾き合っているところを見るに、やはりバクフーンとヘルガーの実力はおんなじくらいか。だとしたら倒すのにも時間がかかっちゃう。“しんぴのまもり”の効果が持っている間に決めたいところだけど……」

 チリアはおさげをくるくると指でいじりながら、つぎはじっとアポロの様子を観察する。

「さっきまでの慇懃無礼で余裕で強気で鼻につく態度が、すっかり消え失せている。もう策とか無いんだろうなー……じゃあなに? あいつ、ラジオ塔での戦いをカンニングしたくらいで、こっちの手の内をわかった気になって、余裕ぶっこいてたってこと? それはそれでムカつくわね。こっちはこっちで、強い相手かと期待してたのに……」

「なにをブツブツ言っているのですか?」

「あんたへの文句よ。──バクフーン、こっちに!」

 その合図で、バクフーンはヘルガーから距離を取って、チリアのかたわらに戻った。

「とどめは()()で決めることにしよう。練習とかしてないからぶっつけ本番だけど、どうにかなるでしょう。どうにかするわ」

 バクフーンは鳴き声とともに後ろ足で立ち上がる。そして両前足を合わせて、エネルギーを溜める。

「一体なにを……!? ヘルガー!」

「“きあいだま”!」

 やがて放出された光弾が、身構えていたヘルガーの頬をかすめた。

「………………」

 かくとうタイプの特殊攻撃技。

 コガネ百貨店で購入したわざマシンで覚えさせたものだ。いささか命中は低いのだが、高威力の技だ。

 これもまた、()()()()()()()()()()()。複数のタイプの技を習得させておくことで、有利になれる場面は多い。

「外れたか。どんまい。じゃあもう一回」

「そんな馬鹿な……」

 青ざめるアポロ。

 つい先ほどまで、ヘルガーとバクフーンの力関係は対等だと思っていた。しかし「効果抜群」の技がひとつあるだけで、そのバランスは崩壊する。

「だからって、戦意喪失するかね……しょうもない男」

 チリアは、自分のなかの闘志が冷めていくのを感じながら、それでもバクフーンに技を指示した。

 このポケモンバトルにかかっているものは大きい。だからどんなかたちであれ、決着は必要だ。

「バクフーン、“きあいだま”」

 

 

「……ぐう……サカキさま、お許しください……」

 膝をつきうなだれるアポロ。彼のかたわらには、戦闘不能となったヘルガーが倒れている。

 チリアはアポロに目もくれず、言葉もかけず、バクフーンの傷をアイテムで治療する。

「……なんということだ。すべての夢がいま終わりましたよ」

「………………?」

 ふと。

 床に伏して敗北を惜しむアポロの姿が、急激に気になってきた。ポケモンたちの回復もそこそこに、チリアは彼の顔を、覗き込んだ。

「やはりわたしでは無理でしたか……って、なんです?」

「あなたのその顔、なんだか覚えがある。かなりむかし……思い出したくもないあの頃、鏡のなかに」

「は……?」

「わかるの。あなたは、わたしに負けたから悔しいんじゃないでしょ」

 チリアの大きな瞳には、歪んだ姿のアポロが映っている。

「負けたことで、この作戦は終わった。ついぞ、サカキってひとは──大切なひとは来なかった」

 突きつける。

 アポロにとって、直視しがたい事実を。

「叶わなかった期待は、裏切り。夢が終わって、喪失感。そういったものを合わせて、()()っていうのよね?」

「………………」

「ああ……とってもやな感じ。あのときのわたしは、あなたのように絶望していたんだっけ。思い出したくなかったな」

「お前に……なにがわかるのですか!? 10歳そこそこの小娘に!」

 アポロは跳ね起きるように立ち上がり、チリアから距離を取る。

 逃げるように、距離を取る。

「10年も生きてれば、絶望することもあるでしょ」

 少女は笑う。

 自嘲するように。

「大切なものを奪われて……あなたの言葉を借りるなら、『すべての夢』が終わってさ。あなたはこれから、絶望したまま生きていくんでしょうね。わたしみたいに」

「お前みたいに……?」

「その傷、なかなか埋まらないわよ。読書とか美容とかファッションとか、趣味に走っても一時しのぎ。油断すればネガティブな気分でいっぱいになる。……でもポケモンバトルはなかなか楽しめたかな。わたし、ポケモン嫌いなのにさ」

「……お前は一体、なんなのですか」

 アポロは呼吸を落ち着けて、それでも青ざめた顔で少女に問う。

「たったひとりで我々の作戦に飛び込んできて、なにもかもを台無しにして! まるで災厄ではないですか!」

「悪の組織に災厄とか言われたくないんだけど」

 それでも、強いて何者であるかを名乗るならば。

「あなたたちを蹴散らすくらい、造作もないわ。だってわたしは最強のトレーナーになるんだもの」

「最強の……?」

「絶望のなかで生きるわたしにとって、いまのところはそれが目標(ゆめ)かな。希望と呼べるほど期待はしてないんだけど」

「………………」

 アポロは、ようやく倒れたヘルガーをモンスターボールに戻した。

「皮肉な話だ。思えば1年前、サカキさまを打ち負かしてロケット団を壊滅させた者も、10歳の少年でした」

「ふーん」

「これもまた、運命か……わかりました。サカキさまがそうしたように、わたしたちロケット団はここで解散しましょう」

「なんか、清々しい様子になってるし。やな感じ」

 それでも青い顔をしているアポロは、少女に背を向けた。

「これでもおとなです。あいにくだが、わたしはこの絶望を耐え得る。お前と違って、壊れたりしない」

 そうだ。この少女は、壊れている。

 彼女が過去にどのような経験をしたのか知らないが、きっと、絶望を知るには幼く、脆かったのだ。

 だからチリアという少女の生き方には、取り返しがつかないほど、絶望が刻み込まれている。

 それは「おとな」でありながら「悪」の道で絶望したアポロにとって、理解のしようも、助けようもない事象であった。

「さらばです。金輪際、ロケット団はお前に関わりません。お前のような魔女がいる時代に行動を起こした、己の不仕合せを呪います」

 去って行くアポロ。この敗走をきっかけに、ロケット団によるラジオ塔占拠の事件は終息することとなった。




バクフーン ♂
 おくびょうな性格

トゲチック ♂
 さみしがりな性格

アーボック ♀
 しんちょうな性格

ブラッキー ♂
 まじめな性格
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