「ボム・ドーパントの特性は火薬の生成と、生成能力の応用による回復能力。桁外れ、という訳ではないが体の表面を爆発させる防御を繰り返せる程度には高い」
と、説明してくれるのはサンジェルマン。
火薬の生成………だから現場に未知の火薬反応が残っていたのだろう。
「もちろんこれは無限ではない。いずれ生成不可能になるだろう」
「つまり疲れるまで殴り続ければいいんですね!」
「…………二次被害を気にしなければ、そうね」
その言葉にあ、と固まる響。
相手は文字通り動く爆弾で、当然反撃もしてくる。攻撃してもされても爆発するという厄介な性質はかなりの二次被害を生むだろう。
「だけど、私のアルケミー・メモリなら分泌火薬を別の物質に錬成し直すことが出来る」
「アルケミー…………『錬金』の記憶を宿したガイアメモリ、ですか」
体内に取り入れるだけで触媒も用いず、想い出を焼くこともなく錬金術を使用可能にするメモリ。しかも、『記憶』を宿している都合、例え錬金術になんの知識もない一般人が使用しても並の錬金術師を上回る錬金術が行使可能という反則的なアイテム。
「だ、だめですよ! だって、メモリを使うと毒素が体内に残るって!」
「ええ、だからこれを使うのよ」
と、サンジェルマンがベルトのバックルを見せる。
それなりに大きいそのバックルの中央には四角い窪みが存在した。
「ガイアドライバー。ヘルメスが私のために用意した、ガイアメモリの毒素に対するフィルターのようなものよ。そもそも毒素を受けないあの人には必要ないのだけど」
「毒素を? そ、そんな便利な物が……………あの、やっぱりヘルメスさんって、サンジェルマンさんの事を心配してるんじゃ………」
「…………あの人が私を心配しているなら、家を出た後自分から一度ぐらい会いに来るし、私を目覚めさせて第一声が『パヴァリアの残党を纏められるか?』なんてならないでしょ」
本当に、あの放任主義者は! と怒りを顕にするサンジェルマン。なんか、色々と苦労してきたようだ。
(でも父親って、結構だめなところあるからなあ…………)
自分の父然り、口下手だったらしい翼の父しかり。
サンジェルマンの育て親の場合は、何も言わなければ何もしないらしい。けど、わざわざ毒素のフィルターを渡したり、残党集めを拒否しても自由を許したりと、サンジェルマンに酷い扱いはしていない。
「お父様と同じ気配…………いや、お父様はあのような危険な小箱をばら撒いたりなどしないが」
翼もサンジェルマンの言葉から思うところがあるのか唸っていた。最後には今回の爆殺事件の黒幕とも呼べることを思い出し首を降ったが。
「そういえば、あのボム・ドーパントさんはなんでアルカ・ノイズを使ったんだ? あんなに派手に殺す力があるのに」
と、藤尭が現場周辺の監視カメラ映像を確認しながら首を傾げる。
「目立ちたくないならアルカ・ノイズを使うだろうし………単独だから、逃げないように?」
「そのあたりも改めて調べればわかることでしょう。本音を言えば、ヘルメスを捉えられれば万事解決なのだけど」
ヘルメスはガイアメモリを既に撒いている。サンジェルマンはその相手を知らない。知っているのはヘルメスとその護衛の少年だけ。
サンジェルマンは今回もガイアメモリを売りにこの街に訪れた際に抜け出したらしい。この街からならリディアンに向かい響達と接触できると思ったからだ。
「いきましょう、まずは情報集めよ。それと、ボム・ドーパントの標的である男の調査も」
「彼奴等を恨んでる奴? はっ、んなもん俺だってそうさ!」
と、一人の学生が声を荒げる。
「やれみかじめ料だ、金を払わない罰だの好き放題。肝心な時に役に立たない警察は、みかじめ料のやり取りは同罪だつって被害者も逮捕するくせに彼奴等は金ですぐ釈放だ!」
指定暴力団『
藤堂駆という学生の友人も、その被害にあっていたようだ。
「彼奴の父親は、良い人だったよ。被害者の都合考慮してくれてたんだ…………でも……なのに!」
「その人は、何処に居るのかしら?」
話の流れからして、中肚会に殺された、あるいは傷つけられた可能性が高い。それは、動機としては十分だ。
一人の青年が墓に花を添える。
そんな彼に近づく影。
「小木野洸平ね?」
「…………なんだ、あんたら」
白髪の少女と茶髪のボブカットの少女。何やら制服を着ているが、学校ともバイトの服装とも思えない。
「中肚会や、関わっていた会社で起こったテロ行為。それについて調査しているのだけど」
「…………どの立場でやってんだよ。ガキは危ない場所に近づくな」
「あ、えっと………私達は、その」
「探偵よ」
「へ?」
ボブカットの少女が思わず白髪の少女を見るが、幸いにも小木野は気付かなかった。探偵という言葉に眉を顰め、背を向ける。
「ここで話すようなことでもないだろ。ついてこい」
「まず先に言っておく、この事件の犯人に捕まってほしい奴なんて、この街にはいない」
そうだろう。それは、街の人達と話せば解る、とサンジェルマンは内心で呟く。
「一人生き残ってるらしいが、居場所は知らねえ。さっさと死ねと思ってる………まあ、お前等が聞きたいのは犯人が俺か、だろ?」
「え!? や、その………それはぁ」
「その通りよ」
「まっすぐ!!」
単刀直入すぎるサンジェルマンに響が思わず叫んだ。小野木はといえば、そんなサンジェルマンをジロリと睨む。
「証拠を見つけろよ、探偵ちゃん」
それだけ言い残すとベンチから立ち上がり立ち去る小野木。
「………キーワード………『小野木洸平』、『中肚会』…………」
「サンジェルマンさん?」
「………追加キーワード『小野木家殺人事件』」
「…………お」
「どうしたの?」
拠点となるビルの一室で、不意にザガンが顔を上げる。本を読んでいたザガムは足元の人形を踏みつけながら首を傾げた。
「サンジェルマンが早速俺の与えたアクセス権を活用し始めた………娘の成長は嬉しいものだね」
「錬金術師達の目指す『真理』の一端ね………育て親からのお溢れだけど」
「彼奴なら生きてさえ居れば辿り着けたさ」
「そう………で、これどうする?」
ガッ、と人形を蹴飛ばすザガム。
『何故、わたくしがこのようなサルに…………!』
「? 僕の方が『性能』上だし………今回はトカゲって言ってほしいかな」
『ギィィィ!』
人形の言葉にガルムがムッとし、その肩に乗る『C』の文字が刻印されたガイアメモリを内に持つ蜥蜴のような機械が吠える。
「…………こんなのが本当に人類を滅ぼしうる要因なの?」
「そうだぞー。『終わりの名を持つ巫女』、『世界の滅びを願う錬金術師』、『世界を食らう蛇』、『完璧故に捨てられた人形』、『眠りし神』……他にも色々、人類を滅ぼしうる要因は多い。まあその殆どが装者達によって覆されたが………凄いよなあ、彼奴等」
お前はどう思う? と眼帯の女に尋ねると、眼帯の女は資料に映る最年長の装者をじっと見つめる。
「それでも、犠牲が居なかったわけじゃない」
「そりゃそうさ。死人が出るような事件だから、必死になって止めようとしたんだしな」
『そんな事件を子供に解決させようってのが間違ってんだ!』
と叫ぶのはドーパント体の怪人。『グラウスヴァインさえ完成してたら』、と呟く怪人にザガンは「お前は頑張ってるさ」と笑う。
「まあお前も案外装者達ならなんとかしたかもな…………だがな、問題はそこじゃないんだ。百年後、二百年後は? 人類は一体何度、絶滅の危機に耐えればいい」
『その程度で、死に絶える脆いサルが………生きようなどと足掻かなければ良いのです』
「生きようと足掻く? その程度? 何言ってんだ、今まさに壊されかかって必死に地面這いずって逃げようとしてたガラクタが」
『──!!』
見下してすら居ない、純粋な疑問をぶつけられ人形は身を震わせるもザガムに再び床に踏み付けられる。
「まあガラクタとはいえ、その身は先史文明の遺産だ。全部
『ッ!! ふ、ふざけるな! 何故、わたくしがサルなどと同じ目に合わせられなければならないのです!!』
「……………ふむ。改めて質問されると、そうだな………人類のため?」
『Cretaceous!!』
ザガムの肩のロボットが形を変える。
メモリに恐竜の顔の装飾がついた姿となった『クリテイシャスメモリ』を生体コネクタに突き刺すザガム。
「この子はどうする?」
「保護者の元に………いや、仮にもあの人形の器だったし、何かに使えるか?」
『クリテイシャスメモリ』
『白亜紀の生態系』の記憶を宿したライブモード持ちのメモリ。
『ティーレックスメモリ』や『トライセラトップスメモリ』を高額で購入するのが馬鹿らしくなる。もちろん『ケツァルコアトルメモリ』の力もある。
ランクはゴールド。