Stasis Age~停滞の時代をフリーサマナーは生きる~ 作:ローグ5
世界観や時代は原作通りですが、デビルサマナーシリーズ等他のメガテン作品の要素も入れていく予定です。
今よりも、少し先の未来。
21世紀も中頃になっても、東京の街並みは変わらない。
街々には近代的なガラス張りのビルがそびえ立ち、夜には煌びやかな広告の数々が街を彩る。
遠目に見るれば宝石箱の様な輝く景色は、21世紀の初頭からほとんど変わらない。
……そう、変わらないのである。
20世紀から21世紀の、時代と共に移り変わっていった東京と違い、この時代の東京は数十年前から変わっていない。
まるで時間が止まっているかのように、街並みに代わり映えがしなかった。
そしてそれは、東京だけでなく、日本の他の都市でも、世界中の主要都市でも同じ。
この時代を生きる人々は、世界に対し庶民から政治家まで一つの共通した認識を抱いている。
────世界は今、<停滞>していると。
なにせ技術も経済も文化も発展がなく、画期的な物が生み出されない。
せいぜい調理ロボットが外食産業に普及したり、PCの性能が上がった程度。
映画や音楽も過去作品のリバイバルばかりで真新しさがない。
過去のSF映画で見られた、輝かしい未来像は何処へ行ったのか。
代り映えのない時代を、何処か閉塞感を感じながら人々は生きていた。
が、そんな時代でも喜びは確かにある。
東京の中でも新参道と呼ばれる地区は、楽し気な人々でにぎわっていた。
並ぶのは洗練されたファッションビルやセンスのいいカフェ。
流行の発信地という世間の評判は、噂通りのようだ。
その一角にある<Barヘイズルーン>もまた、新参道の風評を高めるのに役立っている。
一等地に広がるルーフトップ式の店舗は侵しがたい品があり、ライトアップされた巨大な桜が一層に印象を強めている。
片目を眼帯で覆ったマスターのグラスを扱う手つきもまたよどみなく本格的で店に見合う。
総じて洗練された、洒落たBarといえるだろう。
事実、今カウンター席に座っている青年も、Barでの一時を楽しんでいるようだ。
「夜の桜はやっぱりいいものですねえ」
着席したばかりらしき青年は、髪にかかった桜の花びらを軽く払う。
払われたまま、風に乗って飛んでいく花びらを見る青年は楽しげだ。
「ほぉアクイラくんは桜が好きなのかい?」
「ええ、花びらが散るのは好き嫌い分かれると思いますけど。
佐倉は好きですね。何よりも色合いがいい」
アクイラ、ラテン語で鷲を意味する名前で呼ばれた青年は、掌に乗った花びらを眺める。
桜の清純な色合いは、光を受けても過剰な自己主張をせず、目が落ち着く。
「柔らかい色が実に好きで。
ここの常連になったのもそれが理由の一つですかねえ」
「それは良かった。
手間はかかるけど常連客を持つ理由になったなら甲斐はあったかな?」
「だと思いますよ。俺の他にも、結構いそうだ」
マスターと談笑するアクイラの目つきはやや鋭く、着こなしているダークブルーのスーツと相まって、筋者めいた近寄りがたい印象を与えるかもしれない。
だが、印象とは裏腹に言葉は柔らかい物だ。存外に人当たりの良いようにも見える。
そんな相反する雰囲気を持った青年だった。
「さて、今日は何にしようかね」
しばしの会話の後、マスターが離れると青年はメニューを眺める。
メニューに記載されているのは、食欲をそそる料理と、多種の酒類。
どれにするかと、アクイラは悩む。
ヘイズルーンは多数の質の良い酒類で有名だが、料理もうまい。
フランス料理店の様な凝った物はでないが、簡素ながらも酒とよく合う物が揃っている。
どれを選んでも外れはないが、だからこそ組み合わせが重要だ。
(キノコ雑炊……いや、今日はブイヤベースで行くか。そんでもって酒は)
ビールと思ったが、それは昨日飲んだ。
他のにするかと思った所で、ちらりと目に映るのは見慣れない客。
マスターと話している客、若い女性を見て彼は少しばかり驚いた。
(流石に驚いた……あんな綺麗な子この辺にはいなかったよな?)
何やら人探しをしているらしき女性はたぐいまれな美貌の持ち主。
若草色の髪は神秘的な光沢を有し、大きな赤い眼はルビーの様。
細面の顔から四肢の先まで、端正という言葉も陳腐な程に整っている。
まるでスーパーコンピュータで最も美しい女性を計算し、計算結果通りに創ったかの如き美貌。
人間でなくても不思議ではないと思わせるような女性だった。
そんな彼女の探し人はいなかったのか、すぐに出て行ってしまった。
顔は少ししか見られなかったため、アクイラの目に焼き付いたのは綺麗な髪色。
綺麗な色から何となくだが、ある酒を連想した。
(今日は青りんごのシードルにするか)
対して馴染みのない酒だがこういうのもたまにはいいだろう。
そう思いマスターを呼ぼうとしたところで────────ポケットの端末が震えた。
「…………」
眉をひそめたアクイラは、端末を確認。
アメリカのIT企業が製造している端末の画面に映るのは仕事の依頼。
それは、彼の力を必要としてる者がいる事を意味する。
「……すいませんマスター。
急な仕事が入りまして。また明日来ます」
「そうなのかい? では気を付けて」
マスターに会釈するとアクイラは、踵を返し歩き出していく。
その顔は先程よりも幾分厳めしい。
大股で歩く彼の、背広の下に隠した物が、かたりと音をたてた。
────どうして私がこんな目に? 何でなの?
東京の片隅にある路地裏。
引きずり込まれた制服姿の少女は絶望していた。
ほんの数分前まで自分の日常は変わり映えのない物だったはずだ。
友達とカラオケに行ってて帰りが遅くなり、親に小言を言われるかもしれないと足早に帰宅する途中。
最近物騒だから、人通りの少ない道を通り過ぎようとした時に。
突如口をふさがれて、路地裏へ連れ込まれた。
「ひ……あ、ひぅ……」
それだけでも年頃の少女にとっては恐怖だというのに、さらに悪い事がある。
彼女を路地裏へ引きずり込んだ存在は、明らかに人間ではなかった。
『グルルル、コレハ実ニウマソウダ……!』
それは白い体毛に覆われた2mを優に超す巨体の鬼。
黒い顔にはまる二つの目は血を思わせる深い赤で、残忍さをうかがわせる。
更に角を各所から生やした鬼の名前は、ウェンディゴという。
『コッチニ来テ早々巡リ会イガイイゼッ』
生臭い息を吐き、大笑するウェンディゴは、悪魔の一種である。
悪魔とは神話伝承に端を発する情報生命体であり、古来より世界の裏に存在していた。
マグネタイトなる精神エネルギーが必要不可欠な彼らは、摂取の為人を襲い喰らう事も多い。
人類の天敵という存在がいるならば、まさしくこの悪魔なる生命が当てはまるだろう。
現に今この瞬間も、ウェンディゴは少女を喰らおうとしていた。
「あ、ああ、やあ、やだああ……!」
弱肉強食という自然の摂理にあった行いかもしれない。
しかしそれでも、年若い少女を醜悪な鬼が喰らう光景。
現代の人間からすると肯定しがたい物であった。
『イタダキマアアアアス』
少女の絶望をよそに、ウェンディゴの大顎が嚙み合わされる。
脆い骨がウエハースの様に嚙み砕かれ、血と悲鳴をまき散らす。
凄惨極まりない光景が
『……アレ?』
現実の物となる、事はなかった。
何故ならばウェンディゴの牙が到達するよりも早く、少女を運び去った存在が居たからだ。
「あぶねえ……マジで間一髪だったな」
『ヒっヒッヒッ老骨に感謝するんじゃぞ? サマナーよぉ』
「ああよくやってくれた。後でボーナスだな」
少女を持ち去ったのは不気味な和服姿の老婆。
ターボばあちゃんと呼ばれる、怪異という種族カテゴライズされる悪魔の一種である。
ターボばあちゃんにサマナーと呼ばれた男、アクイラは右手に銃を構えている。
歪曲したグリップに、細長い銃身の黒い銃を。
『分かればいいんじゃよ。
後は老骨にはつらい故頼むぞえ』
粒子となったターボばあちゃんが消えていく中、男は目をウェンディゴから外さない。
「君は、立てるね?」
「え? あ、はい」
「じゃあ表通りまで逃げて。後は俺がやっておくから」
アクイラの言葉に少女はためらいつつも通りへ向け走り出す。
その背中をウェンディゴは追わない。
アクイラという男に対して、明確な脅威を感じていたから。
『オレサマノ邪魔ヲシヤガルトハイイ度胸ダ!
ソレニソノ銃ハキサマ────』
超常的な力を持った悪魔に対して、人間は無力ではない。
千年以上の昔、既に対抗策を生み出している。
それは魔の力を以て魔を制す。人の希望にして悪魔の天敵。
『デビルサマナーカァッ!』
「────────そうだよ」
悪魔を召喚し、使役する事で悪魔と戦う者。
彼等は
アクイラもまた、その一人だ。
アクイラが引き金を引くと同時に、銃身から瞬くは蒼い燐光。
男の左右に展開した魔法陣からは、"仲魔"が出現する。
『今日の敵はこの鬼ね。
あの子の為にも早く倒しましょう』
| 幻魔 | エーディン | LV33 | 衝撃反射 電撃耐性 火炎弱点 |
『カァ―ッ見敵滅殺カァ―ッ!』
| 霊鳥 | ヤタガラス | LV29 | 銃撃弱点 火炎吸収 |
召喚されたのは2体の仲魔。
服に蝶の衣装を施した美女は、ケルト神話に伝わる姫君エーディン。
勾玉を提げた三本足の鴉は日本神話に伝わる導きの鳥ヤタガラス。
「人を襲った時点でお前は駆除対象だ。
そのまま朽ち果てろ」
| 召喚師 | アクイラ | LV35 | 銃撃・魔力耐性 |
鋭い目で悪魔を見据え、召喚師は宣言した。
今ここに、戦いが始まる。
『カァッマズハ定石!』
先手を取ったのは召喚師の側。
鳥であるが故に
如何なる相手にも効く魔法は、頑丈そのもの鬼の防御力を低下させる。
「エーディン、君が先だ」
『心得ていますともサマナー』
続いてエーディンが
間髪入れずにアクイラは射撃モードのGUMPの引き金を引く。
軽快な発射音を残して、対悪魔仕様の弾丸は飛翔。
ウェンディゴの強靭な皮膚を貫いて、血をしぶかせた。
『ガアアアアッ!?』
ウェンディゴの肘関節を撃ち抜いた一撃は、狙いすましたアームショット*2。
肘を砕かれ、自慢の腕力も十全には振るう事は出来ない。
邪鬼の長所を潰す、冷徹な一撃だった。
自身の強化と敵の弱体化の合わせ技。
ソレハ召喚師のお手本のような隙のない立ち回り。
『クソニンゲンガッ! コゴエジネ!!』
怒り狂うウェンディゴはもう片方の腕を振り、マハ・ブフを発動。
太い腕にそって半円状にばらまかれるのは、魔法による氷塊。
自動車を破壊する程度は十分な威力の、破滅的な氷塊がバラまかれた。
『カシコミ回避! 成功ダ!』
『私はともかく、サマナーは大丈夫?』
「問題ねえ。この程度ならせいぜい痣どまりだ」
殺到する氷塊にアクイラたちは冷静に対処する。
ヤタガラスは機動力を以てすり抜け、エーディンとアクイラも大半を叩き落とした。
被害は軽傷とすらいえない傷のみ。
幻魔の高い魔法防御力に、悪魔の落した力を取り込んで作成された装備には生半可な魔法等役立たない。
(馬鹿ナ、ナンダコイツラハ……!
コンナ洗練サレタ統制サレタ動キヲ)
ウェンディゴの脳裏には恐れと疑問。
天然の捕食者である自分とは違う、研鑽され洗練された動き。
驚くべきことに召喚師のみならず悪魔まで見せている。
これ程の存在が突如、自分の目の前に現れたことが理解できなかった。
捕食者から非捕食者への転落。
瞬時に変わった立場への動揺は、致命的に過ぎた。
「足を止めたな? なら一気に決めるぞ」
アクイラの指示と共に放たれるのは魔法。
ヤタガラスのファイアブレスに、エーディンの
ウェンディゴの巨体を包み込むように放たれる魔法。
その中心を穿つように、アクイラはスッと目を細め狙いをつけ引き金を引いた。
GUMPの銃身より射出されるは、霊力起動式の特殊火炎弾頭。
猛炎撃と呼ばれる一撃は、ウェンディゴの急所を貫いた。ブルズアイ!
『ガア……! オ、オノレデビルサマナー……!』
魔法の重爆に
崩れ落ちていく体で断末魔の声を上げる。
『貴様ハ、俺達悪魔ガ、人間ヲ殺シテ平気ナ様二。
悪魔ヲ、殺シテ平気ナノカ……?」
断末魔の疑問に、アクイラは答える。
「割と平気だよ。楽しくはないけど。
人を襲うような奴ならまあ、平気だ」
油断せずに銃を構えるアクイラの独白。
それを聞いたウェンディゴは、オオと呻き消滅した。
攻勢されたマグネタイトの残滓が、天へと立ち上っていく。
(ふぅ、一先ずは一件落着だな)
先程の路地裏からほど近いバスの停留所付近。
アクイラは助けた少女と共に、警察の担当者の到着を待っていた。
アクイラ、本名
子供の頃に色々あったせいで悪魔業界に流れ着き、以来師匠による教育を経て今日まで因果な生業を続けてきた。
今ではフリーランスの間ではそれなりの腕利きとして知名度が高く、今日の依頼もその関係で緊急で舞い込んできた物だ。
正直言うと焦ったが、まあ結果は悪くない。
被害者を何事もなく救う事が出来たのはむしろ上々といっていい。
「えっとあの……その、あれは何だったんですか?」
なんてことを考えてきたら少女が質問をしてきた。
さっきからちらちらとこちらを見ていたし、気になっていたのだろう。
一般人に説明するのも久々だしどう答えればいいかなーと思いつつ、言葉を紡ぐ。
「あーあれは、悪魔っていうんだ。
世の中にはああいう生物がいて、人間を狙っている。
それで俺はその退治屋」
「そうなんですか! あんなのが他にも!?」
「まあ一般人は滅多に会わないから心配しなくていいよ。
通り魔や交通事故の方がよほど可能性は高いし」
軽くアナライズしてみたが少女は
まあ、今回の事は偶然で大丈夫だろうというのがアクイラの見立てだ。
何か厄ネタがあっても警察か、この国の霊的国防を行うヤタガラスが何とかする。
自分の役割はもうすぐに終わりだ。
「後は雰囲気がおかしかったり、静かすぎる所には近づかない事かな。
それさえ守れば、まあ大丈夫だよ。……おお、来たか」
遠くから近づいてくるのは警視庁の悪魔対策課の車両。
被害者の少女の保護に来たのだろう。
後は少女を引き渡せば今日の仕事は終わりだ。
「随分と遅くなったけどこれで終わりだ。
後は気を付けて日常生活を」「あ、あのっ!」
近づいてくる車両をよそに、アクイラの言葉を遮るのは少女。
興奮の性か少し潤んだ目で言葉を紡ぐ。
「私、明後日彼氏と、初デートで。
幼馴染で、最近告白して付き合い始めたばかりなんですけど。
楽しみにしてて」
其処で少女は、言葉を切った。
「だからその、助けてくれてありがとうございましたっ!」
そう言って少女は頭を下げた後、警察の車に乗り帰っていった。
担当の刑事と二言三言言葉を交わして、アクイラの仕事は終わり。
後は自分も帰るだけだ。
しかし帰宅する前に、アクイラはしばし足を止める。
少女の言葉を思い返した。
「ありがとう、か」
デビルサマナ―は、殺伐とした世界に生きている。
年がら年中悪魔という超常的な生物と殺し合い、時には相手が人間になる。
少なくない人間が心か体、あるいはその両方を壊し脱落する。
知ってる人間がこの世からいなくなることなんぞざらだ。
必要な仕事ではあるが楽しい仕事とは到底言えない。
だがそれでも、今日の様な気持ちの良い時もある。
「感謝されるっていうのは、いいものだな」
そんな時の気分は、悪くない。