Stasis Age~停滞の時代をフリーサマナーは生きる~ 作:ローグ5
原作のダークサマナーって、過去の時代よりサマナーになりやすくなった分犯罪者がCOMPを手に入れたようなタイプもいると思うんですよね。
悪魔召喚師は何も悪魔とだけ戦っているわけではない。
当然ながら悪魔とは便利な存在である。
低級の存在だろうと人を殺せる力があり、便利な魔法を使う事が出来る。
通常生きていては到底不可能な欲望も、その力を利用すれば叶えられるだろう。
故に悪魔に魅了され、精神の箍が外れる者は少なくない。
悪魔の力を以て己の欲望を満たす為に暗躍する闇の召喚師達。
彼等は<ダークサマナー>と呼ばれている。
凄惨な事件を引き起こす彼らは、悪魔と並ぶサマナー達の敵である。
「ここで……あってるな」
かつん、かつんと硬質な音が響いた。
言うまでもなくアクイラの靴が立てる歩行音だ。
東京都内の一角。
放棄地区から近く、治安が良いとは言い難い地域にある安アパート。
築は40年程だろうか、錆びついた階段を登っていく。
「206号室、気配はナシか。エーディン封魔の鈴を頼む」
「はいな」
アクイラに続き階段を載ったエーディンは偽装の為同じようなスーツ姿。
袖口から封魔の鈴を取り出すと、ちりんと鳴らす。
音色が響くと共に、駆け巡る人払いの効果を持った波動。
これで住人に見咎められることはない。
ほぼ同時にアクイラはGUMPを操作する。
選択するのは戦闘用ではない、調査用の悪魔。
スパナを持った水色の小鬼グレムリンだ。
「やっほーサマナー! 僕の力が必要かい?」
「ああ、この部屋の鍵を解除してくれ」
「お安い御用だ! あーそうだ、後で苺ケーキ買ってよ。
コンビニの奴でいいから」
いいぞとアクイラが答えると同時に、グレムリンは喜び勇んで電子鍵に挑む。
アパートとは対照的に新しい鍵は、防犯意識の高さかそれとも見られてはまずい物があるのか。
とは言っても電子戦にはめっぽう強いグレムリン相手。
数秒と立たずにガチャリと音がして鍵が開いた。
「ご苦労。後でチーズケーキも付けておく」
「やったー! サマナーは太っ腹だから好きだよ!」
グレムリンを戻すと、エーディンが慎重にドアを開ける。
トラップはないと思うが念の為だ。
(予想通りだけど、きたねえ部屋だな)
背広の下でGUMPを握りしめつつエントリーしたアクイラは、眉を顰めた。
予想通り安普請の部屋は乱雑で、脱ぎ捨てた服や食品の空き箱が大量に散乱している。
窓も締め切っているのか、饐えた匂いが部屋中に満ちている。
お世辞にも長居したいとは思えない部屋だった。
(単に忙しくて掃除する暇がないっていうタイプの荒れ方じゃない。
精神の荒廃がそのまま直結している感じだ)
壁に目をやると染みや殴打跡が無数にある。
分かっていたことだがこの部屋の住人の精神は荒れているのだろう。
「サマナー端末を見つけたわ。グレムリンに解除してもらいましょう」
「ふむふむ簡単だねこれくらいなら。持ち主の人はいい加減だねえ」
グレムリンがロックを解除すると、アクイラは早速端末の記録を当たる。
ツールも駆使しながら記録を確認していくと案の定ろくでもない。
政治から芸能まであらゆる事柄に関する悪罵。
陰惨な殺人事件に関するセンセーショナルな記事。
そして────ある歌手に関する、あまり言語化したく内容のコラージュ写真や暴言。
「分かっていたけど……救いようがねえ~」
記録を当たりながらもアクイラはため息をつく。
分かっていた事ではあるが、気分は陰鬱だ。
アクイラが侵入した部屋の住人の男はダークサマナーである。
とは言っても暗殺などを生業とする闇のエージェントとは程遠い。
犯罪者にサマナーの素質があり、COMPと悪魔を手に入れたというタイプだ。
男は幼少のころから度々問題を起こし、数年前にもストーカーからの暴行傷害で逮捕されている。
それでも反省することなく、現在はとある歌手に執着しているとの事だ。
自身を拒絶する相手に対して殺害予告、ホームレスを殺害する映像を同封して送り付ける程に、常軌を逸している。
毒ガスと麻痺毒で苦しみ死ぬホームレスたち。
あんなことをやる奴を野放しにしては置けない。
(可能なら、今日中にケリをつけたいところだが)
アクイラへ依頼したのは件の歌手が在籍する芸能事務所である。
事態を重く見た彼らはサマナーへの依頼を取り扱う<Clubクレティシャス>を通じて依頼を出した。
歌手は大規模なコンサートを数日後に控えている為、早急な解決を求むとの事。
その為機動力の高い腕利きであるアクイラが選ばれたという訳である。
「記録からすると、やっぱり狙いはコンサート。
それとPCの記録を参照するとやはり……」
回収したPCのデータにある購入物品や検索履歴を参照。
予想される潜伏地点をサマナーネットを始めとする、各種ネットで検索する。
「ドンピシャだ。予想通りこのあたりか」
「コンサートの会場からもほど近い。あたりの様ね」
男の目撃証言があったのは湾岸倉庫街の東区画。
つい最近もファントムがらみの事件が起きていた、ホットなスポットだ。
湾岸倉庫街の東区画は物騒な土地である。
多量の貨物コンテナが迷路と見まがう程に林立するこの地は、夜になると悪魔が出没する。
大組織等が処置を行い周辺への拡散を防いでいる物の、危険であることに変わりはない。
現に先日にはファントムソサエティの何らかの作戦が行われた。
また二日前にも、一般人三名を殺害したダークサマナーのロックが討伐されている。
有りがちな倉庫はその実、召喚師達の血を啜ってきた戦場なのだ。
「格下相手だろうと油断せずいつも通りいくぞ」
その一角でアクイラは男と対峙している。
目撃証言の通り、この近くに潜伏していた男をアクイラは見つけ出した。
用心していたのか相手は悪魔を召喚し、説得には答えない。
そうなればやることは一つ。
霊鳥ヤタガラスと幻魔エーディンを従え、GUMPを構えて追い詰めた男を制圧せんとす。
「これで終りよ!」
エーディンの
ごお、と吹き荒れた嵐が2体のマッドガッサーを四散させた。
「ぎいいいいいぃぃっ! どいつもこいつも俺の邪魔をオおっおっ!」
耳障りな声を上げる男は、小太りで険のある顔立ち。
口の橋に泡を溜めアクイラを睨みつける姿は成程、顔を知らなくても犯人、そうでなくとも危険人物と確信できるだろう。
「俺を否定したあの雌豚のっ精液臭い売女をこ「口ぎたねえ奴だな」
叫びながらも逃げようとした男に対してレッグショット*1。
太い足が血をしぶかせ、男が絶叫する。
「そういう下品な言葉を吐くんじゃねえっての」
先程の銃撃は出血多量による致命傷を起こさないように手加減している。
ホームレス殺害容疑も含めて、余罪を追及する為に生きて捕獲したいところだ。
まあ、悪魔の力を悪用した人間の末路は決まっている。
通常の犯罪者の様には扱われる事なく、闇に葬られるのだろうが。
「いひぎゃああああああっ!」
のたうち回る男は斧型のCOMPを取り落として泣き叫ぶ。
人を傷つける事を何とも思わなくても、自分が傷つく事には耐えられないようだ。
口ぎたない言葉でここにはいない人間を罵る男の姿は、見るに堪えない。
心の底から侮蔑に値する男の狂態。
COMPに銃弾を撃ち込み、召喚機能を破壊。
狂態に眉を顰めつつ、アクイラは今後の段取りを計算。
(後はCOMPを破壊して手足をへし折って警察に引き渡す。
それで終わりだ)
だが、何かが引っかかる。
確か参考として見せられた資料映像の被害者は、マッドガッサーの毒ガスと。
(麻痺毒で死んでいた……!)
気付いた瞬間飛びのいて距離をとる。
先程倒したマッドガッサーは、麻痺の効果を持つ技はない。
すなわち、別の悪魔がいる!
「ぎゃああっ! 痛いいてええ、いたがぴゅっ」
コンテナの一つのてっぺんが勢いよく吹きとぶ。
滑り出て来た影はまっすぐに男へ向かう。
のたうち回る男の首は腰から下が蛇になった大女によって、喰いちぎられた。
「あ~あ協力して損だったなあ。
あのイケメンくんをねらう隙を作るのも果たせないなんて。
本当につかえない奴だわー」
顎から血を垂らしながら愚痴るのは鬼女ラミア。
通常のレベルは30と明らかに今殺された男の手には余る存在。
「……お前はあの男と契約していたのか?」
「ん-そうだよ。
あいつが食べ放題させてくれるって言うから手を貸していたんだあ。
本来は不意打ちする予定だったんだけど……隙がないしこの様だと未来がないかと思って」
馬鹿だよねとあざ笑うラミアの姿は、無邪気で残酷だ。
「なんか睨んでるけど、逆らえるような雑な契約した奴が悪いんだよ?」
「ああその通りだな。悪魔に裏切られるのは召喚師自身の責任だ」
さりげない動きでラミアの正面から、自身を外しつつアクイラは呟く。
そう、悪魔召喚師は悪魔の力を好き勝手使えるわけではない。
契約によって悪魔という異なる生命体と関係を構築し、以て使役する。
そこで致命的な過ちを犯せば、咎を受けるのは自分だ。
「所で聞きたいが、大人しく魔界へ送還される気はあるか?
もしそうなら術式で痛みなく返すが」
「それはいいね痛くないのは大歓迎だよ」
ラミアの敵意は薄いように見える。
現に男を喰らった後こちらに気安く話してはいるが。
「────けど、お腹空いてんだよねえっ!」
その程度で、仲魔でもない悪魔を信じてはいけない。
ラミアが吐き出すのは魔力の波動。
マカジャマと呼ばれるその魔法は、相手の魔法発動を封印する強力な効果を持つ。
故に自身の苦手な衝撃魔法を得意とするエーディンへの一撃は、非常に効果的。
ぐぅ、と彼女が声を上げるのを聞いたラミアはほくそ笑み、鎌首をもたげる。
「イケメンくんの踊り食いだあああっ」
邪魔な悪魔を蹴散らし、霊力の豊富な召喚師を狙う。
歯を剥き出しにした捕食者の目論見は────あっけなく砕かれた。
「ごっ、ぺえ!?」
逆に床にたたきつけられたラミア。
追い打ちをかける様に照準と共に、アクイラは言葉を紡ぐ。
「召喚師が易々と悪魔を信じるのも、状態異常の対策をしていないわけもないだろうが。
前の奴から高をくくっていたのかは知らないが、判断が甘すぎる」
事の次第は単純明快、アクイラはラミアの襲撃と同時に魔法を行使した。
バリアという、単純かつ効果的な魔法を。
| バリア | 補助魔法 | 3ターンの間、味方単体の状態異常を無効にする。 |
アクイラが使用可能な数少ない魔法の一つ。
このバリアを狙ってくると読んだエーディンに掛けておいたのだ。
敵に対する備えの差、単純明快な違いがラミアとアクイラ達の命運を分けていた。
「ひがっ……ま、待って仲魔になるから」
「信用できなねえよ」
弱点をもろに喰らったラミアに対して、躊躇なく攻撃。
鬼女の断末魔が響くまで、そう時間はかからなかった。
東京随一の繁華街である華楽町。
その中心部にClubクレティシャスは堂々と店を構えている。
表向きは歴史ある高級クラブであるがその実態は、サマナーの依頼斡旋所。
黒衣の淑女マダム銀子が取り仕切る元、今日もサマナー達が行きかう。
「依頼の遂行を確認しました。
迅速な遂行感謝します」
「それはどうも。コンサートまでに終わらせて良かったですよ」
アクイラと並びカウンターに座っているのは、さる芸能事務所の渉外部の社員。
此処へダークサマナー討伐の依頼を持ち込んだのも彼である。
四十がらみの表情が変わらない男は背広を着こなしている。
が、それでもわずかながらの疲労がアクイラにも垣間見えた。
「また何かありましたらよろしくお願いします。
……最近、ああいうおかしなクズが多いですから」
「こちらとしてはそうならないように祈っていますけどね。
一般社会と悪魔やダークサマナーのかかわりは少ない方がいい」
そうですか、と呟くと男は一礼して出ていった。
報酬は短時間でケリをつけたこともあり、難易度に比べれば高額。
装備やアイテム分の経費を除いても、結構な額が入る。
(上々な成果だな。大団円って感じじゃないけど)
結局悪魔に殺された男を警察に送り、余罪について調べる事は出来ない。
残ったのは不満を吐き出す生きた男ではなく、首から下だけだから。
殺されたホームレスに関しても調査が進むことはない。
何せ東京にはホームレスなんて数えてられない程に入るのだから。
(ただそれでも、悪い事だけじゃない、よな)
端末を起動し、今行われているコンサートの状況を確認する。
スポットライトの中、舞い踊り歌うヒロイン。
その姿は、己の積み上げてきた物に裏打ちされた歌声も相まって輝かしい。
ちらりと見える観客も皆楽しそうだ。
重苦しい世の中を忘れて今は、全力で歌を楽しんでいる。
この光景が阿鼻叫喚の地獄絵図になる事無く、人々の人生を彩る物のままである。
それを考えれば、アクイラが動いた意味はあったはずだ。
(……そうだ。依頼で入った金何に使うかなー。
間が空いたし、レルムに行くとするか)
微かな手ごたえを感じつつ、アクイラは思考を移す。
また戦い、その結果について迷う時がすぐに来る。
けど、それを恐れていては生きることなどできやしない。
悪魔召喚師も歌手もそれは同じである。