常識の裏側にあるもの   作:バラセン

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今回はちょい短め。


-4- 変な子供

-2-

 

「はぁっはぁっはぁっ」

「おい待て!ガキ!!」

「馬鹿、でかい声を出すな!二手に分かれるぞ。挟みこめ」

 

二手に分かれた男達の前方で一人の子供が路地裏を駆け抜ける。

 

「わ、私が何したっていうんだ!」

 

途中でごみや木箱を散乱させながら、右に左に道を曲がり必死に逃げるがついに追い詰められる。

 

「もう!こうなったら少し記憶飛ぶくらいは我慢してくれよ!」

 

子供は振り返り、追いかけてくる男達に右手をかざす。

次の瞬間、その右手が赤色に発光し始める。

 

―――Ability 《フォンの意思に従え》―――

 

赤色の光が明滅するとそれを見た男達は一人二人と徐々に足を止める。

先ほどまで必死の形相でいた男達は虚ろな顔をして声も出さない。

 

「おい!どうしたおまえら!」

 

反対側の路地から挟み込もうとしていた男達も追いついてきた。

 

「本当はこれを使うのは嫌だけど」

 

子供は反対側から現れた男達にも右手をかざし、先ほどの光景の焼き直しのように動かなくなる。

 

「ここから離れたところへ行け」

「···了解」

 

捲れていたフードを被り直した子供ははぁ、と溜息をつきふらふらと歩きだした男達を残して立ち去る。

 

「あ、何で狙われたか聞いておけばよかった。この国もややこしい事情でもあるのかなぁ」

 

ぐうとお腹が鳴る。

 

「おなか減った。どこかでご飯食べよ。この国の料理はおいしいのかな」

 

フードを目深にかぶった子供は先ほど起きたことなど忘れて表通りで食事処を探して歩き始めた。

 

 

~~

 

剣の製作を始めて二日が経過し、ようやくすべての工程が終わる。

 

「キン、これで完成だな」

「これが、俺の打った剣」

 

ありきたりな両刃の短剣。

長剣というにはやや短い形状だが、今の俺の技術では長剣は鍛えることができない。今できる限界の大きさがこれだった。

そして柄に差し込む金属部分には銘を入れてある。

銘には印は入れず、名前だけを入れた。

 

「銘はそれでいいのか?」

「ゆっくり決めようと思うから今はこのままで。鎌の方にも同じようにしてある」

「そうか。わかっちゃいるが、やっぱりもったいねえなぁ。才能は相当にあるのによ」

 

フリストの依頼は断るつもりだ。そう親方には話している。

親方は残念そうに言うが、俺の決断を反対することはない。その気遣いがとてもありがたい。

 

「ああそうだ。こいつは作っておいてやった」

 

そう言って気軽に手渡されたのは革製の鞘だ。

思わず親方を見つつも剣を鞘に収めると、ちょうど刃の部分がはまる大きさ。

 

「これって」

「抜き身じゃかっこつかねえだろ」

 

いつ作ったんだよ。

鞘には親方の印が刻まれており、新しい革特有の油の臭いがする。

 

「ま、片付けとかはやっておいてやる。もう行くんだろう?」

「はい」

 

この二日。剣を鍛えながら親方には事情を話した。

昔突然姿を消した仲間のこと。ようやく見つかった手がかりのこと。会いに行くには都市を離れる必要があること。そして、もう会いに行くと決めていること。流石にその仲間が魔物であることを話はしなかったが大体は伝えている。

 

「全部終わったら戻ってこい」

「必ず」

 

ありがとうございました。親方。

鞘に収めた剣を持ち、鍛冶屋を後にする。

ノン達に会う前にフリストには仁義を通すべきだろう。そう考え、正規軍の詰め所へ向かう。

 

この剣はフリストの依頼で鍛えた剣ではあるが、とても人に渡せるものではない。

それは品質が悪いという意味ではなく、危険すぎるという理由からだ。

傭兵として生活していた時、切れ味の良い武器を見たことはある。だが今回出来上がった剣はそのどれよりも上回った。試し斬りとして丸太に軽く振り下ろすと食い込むどころか貫通して通り抜け、下の土台に突き刺さった。いっそ自分の技術によって出来上がった傑作と言えれば良かったが、どんな技量であろうとただの鉄でこの切れ味はあり得ないと言っていい。

おそらくはまた加護付きになったのだ。効果は【切れ味向上】。これが偶然か。はたまた何か加護付きにする法則を満たしていたのか。まだわからない。いずれにしても効果からして誰かに渡すのは危なすぎるし、連続で加護付きを造ったことが広まるとまずいことになるのも目に見えている。これについては親方も同じ考えではあるようだった。

 

とはいえ、フリストの依頼を断る決め手となったのはそれとは少し異なる理由だ。

これからチイに会いに行くことになって武器の一つも今は無い。そんな中あまりにも強力すぎることを除けば頼りになる道具でもある。金のない俺にとってそういう意味ではこの剣は都合が良かった。

 

詰め所に向かってしばらくすると思考を中断させられるほどの怒鳴り声が聞こえてきた。

最近こういうのによく出くわすな。

しかもおしゃべり店主の店だった。もはやそういう輩を呼び寄せている気すらしてきた。

 

「金がねえのに注文したってのか!」

「ち、違うよ!お金はあったけど、通貨が違うと思わなくて」

「通貨が違うだぁ!?どんな田舎から来やがったこのガキ。いいから住んでる場所言え。親に直接取り立てに行ってやる」

「この都市には今日来たばかりだから家もない!連れもいない。誰がボッチだ!」

「てめえみたいなガキが都市の外から一人で来たってのか。嘘臭えな」

「嘘じゃないって!あとガキ、ガキって私はこれでも立派な―――」

 

今度は誰が揉めているんだ。

店内をちらと覗くと口論しているのはその店主とこの辺じゃ見たことない服装をした子供。

そのやり取りで何となく事情は察したが、今は時間もない。

関わる前にさっさと通り過ぎよう。

 

「くくく。そこの小僧、一芸でもやって見せればここの飯代は奢ってやってもいい。その恰好、大道芸人の見習いか何かだろう?余興でもやってみな」

 

俺は見ていないがこのようなことを言った行商人らしき男がいたらしい。後から聞いた話ではその男は商談が上手くいって機嫌が良かったようだ。

だがそれが結果として事態を騒動に変えた。

 

店を通り過ぎてすぐ、店の中から何かが倒れる音がしたかと思えば子供が一人、店の扉から飛び出してこちらに向かって走ってきた。

すぐ後を追うように傭兵らしき男も顔に殺意を滾らせて同じ店から飛び出す。

事情はわからない。ただ厄介事なのは明らか。経験上ここは見なかったことにするのが吉。ここまで瞬時に判断し、すぐにその場を離れようとするが、走って向かってくる子供とうっかり目が合う。

直後その子の手に赤色の光が集まる。昔経験した〈魔法〉と同じ赤い発光現象。

 

―――俺を狙っているのか!

 

疑問に思うよりも先に左右を確認するが細い道のため逃げ場がない。即座に発動を妨害するべく剣の柄を握るが相手がまだ子供であることを思い出す。それが次の動作に躊躇いを生ませ、対応が致命的に遅れた。

結果、そのまま放たれた光を浴びた。

 

―――Ability 《フォンの意思に従え》―――

 

アビリティが発動する気配を感じる。

まずい。攻撃された。どこを?痛みは···ない。

混乱しつつも目視で自身の身体を確認。どこにも怪我はなく、周りにも被害はない。失敗か?

 

「あいつを足止めして」

 

目の前を通り過ぎようとする子供。

雰囲気から判断するにおそらくは少年。

そいつはいきなり命令した。誰に?俺か?

突然のことで思わず心の声が漏れた。

 

「なんで?」

「え?」

 

お互いに顔を見合わせる。

相当な驚きだったのか、少年も足を止めてしまっていた。

その間に少年を追いかけていた男が追い付いていた。

 

「逃がさねえぞ、魔物のガキぃ」

「魔物!?」

 

魔物という発言に周辺にいた人が状況を理解し始め、我先に逃げ出す。

あっという間に誰もいなくなった。

しまった。この場を離れる機会を逃した。

 

「おいガキ。さっきあの店で使ったのは〈魔法〉だろう。あの店の全員が見てたぜ。今更言い逃れはできねえな」

「何のこと?魔物だか、〈魔法〉だか知らないけど、違うよ。私はこの国に来たばかりなんだ」

「お前の手が赤色に光ったのを見たぞ。それが〈魔法〉じゃなくてなんだ」

 

〈魔法〉がアビリティ発動時に赤く発光するのは有名な話だ。俺もそれで〈魔法〉だと判断し、動こうとした。

 

「〈催眠術〉と言われるクラスのアビリティさ。赤く光るのはそれを使ったからだよ。一発芸として誰か操って見せようとしたら急にみんな騒ぎ出して私の方が吃驚したよ。···そういえばあなたは驚かないんだね」

 

ちらとフードの下からこちらを見る少年。

念のため、確認する。

 

「魔物じゃないんだな?」

「あなたも疑うの?ただ芸を見せただけだよ」

 

もしかしてさっき俺に使おうとしていた〈魔法〉、こいつに言わせれば〈催眠術〉がそうか?

だとすればあの男の仲間にも一方的に使ったんだろう。それは魔物とか関係なく怒るだろうな。

 

「ああ、そうか。〈魔法〉じゃないのか。勘違いして悪かったな

 

―――何ていうとでも思ったか!」

 

男は腰に差していたナイフを抜き、隣の少年に向かって振り下ろす。

しかしその刃は誰にも刺さることはなく、柄から切り飛ばされて地面を転がった。嘘だろ。

 

「な、何のつもりだ」

 

思わず加護付きの短剣を抜いて受け止めてしまったが、切れ味が想像を超えていた。まさか止めるどころか、切断するとは。これなら触れただけでも指くらいなら抵抗なく落とすだろう。やばすぎる。さっさと抜き身の刃を鞘にしまう。

相手の男は相手の男でナイフが破壊された原因がわからないようで動揺しているが、気を取り直して対話を試みる。

 

「魔物と決めるのは早いだろう。そうじゃなくてもまだ子供だ。話を聞いてからにしないか」

 

男は武器を失い少し冷静になったのか、一旦距離を取った。

 

「てめえもそのガキの仲間か。いや、ちょっと待て。てめえの顔、どこかで見たことあるな」

 

顔をじっと見つめてきた男がハッと目を見開く。

 

「···そうだ、思い出した。お前、つぎはぎの“能無し”だな。」

 

つぎはぎの傭兵団を知っているのか。この男が元同業者(傭兵)であることは間違いないな。

 

「つぎはぎの“能無し”?」

 

元凶の少年があまり理解していなさそうな顔でこちらを見る。

“能無し”はアビリティを使えない傭兵や軍人に与えられる蔑称だ。しばらく経験を積めば誰だって一つ、二つは習得できるのが当たり前のアビリティ。それをつぎはぎの傭兵団の中で唯一習得できない、才能がないのは俺だけだった。最初の頃は相当効いた呼び名ではあったが、それがいつからだったか、ただの呼び名として受け入れられるようになった気がする。今では傭兵でもないのだから尚更関係ない。ただ、好んで説明する気にもならない。

 

「最近は見ねえと思ったが、魔物を庇うとは。重罪だぞ」

「だから私はその魔物?じゃないって!」

「冤罪だった場合にも罰則はあるだろう。街中で剣を抜くのはやめた方がいいと思うぞ。後で言い訳できない」

「俺は昔、兄貴を魔物のガキに殺された。魔物を許すことはねえ」

「···無視された」

 

落ち込む様子を見せる少年。

今、かなり緊張感のある局面だから黙っていてくれないかな。

 

いや、違う。まずは俺自身が一旦落ち着け。ここでこの少年を庇ってどうするんだ。

こいつが言ったことが嘘で本当は魔物だったら立場が悪くなるだけだぞ。

こんなことは世界のどこかでいくらでも起きていることなんだから、ここで体を張ったところで意味なんてないだろう。死人に口なし。冤罪だろうが当人が死んでしまえばよっぽど証拠が出ない限りそのまま魔物として処理されるのがこの国だ。この傭兵の男の言っていることはめちゃくちゃだが、それがまかり通ってきた国でもあるのだ。

そんな国で魔物疑惑の子供を庇うということがどれだけ危険な行為なのか。

さあ、剣を下ろして少年を引き渡そう。それがこの国の“常識”なんだから。

 

「しょうもない」

「なんだと?」

「いや、こっちの話。···正規軍に引き渡そう。それでいいだろう」

「馬鹿が!こっちは見てるんだよ。そいつが〈魔法〉を使う瞬間を!」

 

聞く耳持たずか。腹をくくるしかなさそうだ。

流石に予備の武器まで持っていることはなさそうで、拳のまま殴り掛かってくる。

 

「やっちまえー!」

 

ちらと見れば横にいたはずの少年がいつの間にか後ろに下がって拳を振り上げて野次馬と化していた。

何で観戦しているんだ。お前のせいでこうなったのを理解しているのか。

緊張感がなくなりつつも傭兵の男との戦闘は始まった。

 

 

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