仮面ライダーリタリン 作:ラタ
それは人の心を治療する正義のヒーロー。
#1 Ritalin202
2022年。令和に突入して随分経つ日本。時を刻んでいく世界、そして日本を様々な問題が同時に襲いかかる。
不景気。戦争。感染症。それらの事項は全て誰かの得になることでもなく、しかし誰かの力で止めることができない、抗えない運命だった。
しかし、現在日本…
『俳優 Sさんの死亡が発覚しました。刑事関係者は自殺の線で捜査を進めている模様…』
スマホから流れる機械的な音声が情報を耳に配達する。
私はスマホで時間を確認するとともに、この場で見るには不謹慎なニュースを消した。
「カウンセラー始まる前に見るものじゃないな… …この俳優さん人気だったのに。」
ここ最近…2022年に入ってからというもの、自殺者のニュースの数は平成や令和初期とは比べ物にならない程増加していた。
――そろそろ時間だ。
私はとある家の前にいた。
表示されている時間ぴったりだ。
玄関のインターホンを押す。
返事は数秒後に響いた。
『羽渡先生ですね。少々お待ちください。』
少しして、馴染みのある顔が出てきた。
私が訪問カウンセラーとして通っているため、顔はもう覚えた。
「羽渡先生…今回もよろしくお願いします…うちの子が、翼先生ならって言ってくれたので…」
彼女…今日訪問する子の母親。最初に会った時よりも少し老け込んだイメージがある。それだけお子さんのことに悩んでいるのだろう。
鬱病は患者であるお子さんだけでなく親にまで影響が行ってしまうのは稀ではない。すぐに私がどうにかしなくては…
「はい。今まで通ってきた甲斐がありましたね!やっと心を開いてくれたみたいでホッとしました…」
母親に連れられ玄関を通る。
私が今日お話しする子の名前は桑原莉緒くん。
小学3年生で、鬱病を患ってしまったようだ。
具体的な状況はまだ測りきれてない。今までに4回程訪れたが、あまり話せていないのだ。
しかしやはり訪問を重ねたおかげか、少しずつは心を許してくれるようになったらしい。
すると、1つの部屋の前に通される。
「莉緒のこと、よろしくお願いします…」
「お子さんのこと…任せてください。絶対に救い出してみせます…」
そう言うと、彼女は息子の様子を見ようともせずにすごすごとリビングに戻っていった。
意を決して、ドアに手を近づけノックする。
コツコツ。
「カウンセラーの羽渡翼です。莉緒くん…入っていいかな?」
少し…小さい声が、『入ってください』と言っていることに気づいた。
ゆっくりとドアを開ける。
部屋はこぢんまりして、散乱している様子はない。
そこから発狂や自暴自棄などというステージに発展してないのが見て取れた。自殺の心配は無さそう…?
ドアから少し離れて右。
ベッドの上に、少年が体操座りのまま布団にくるまり、こちらをジッと覗いていた。
髪が伸びて目を少し隠している。
これは長い間引きこもっていることを顕著に表していた。
首元も確認する。ヨシ、首吊り自殺をしようとした痕跡もなし。
「心理カウンセラーの羽渡翼です。ちょっとだけお話しにきたよ」
「そこの…イスにどうぞ。」
勉強机のそばの椅子を指さされた。
近くの床にパソコンがあった。机から落ちたのだろう。戻そうとはしていないのだろうか?
それにしても…ヤケに大人びてるイメージがある。
敬語を使ってる…小学3年生が?
とりあえず話かけてみよう。柔和に。
「部屋に入れてくれてありがとう。お姉さんのこと、翼って呼んでね。」
莉緒くんはそれを快くとも悪くとも反応せずに淡々と、何処かを向いて話す。
「僕のことは好きに呼んでください…それで…何を話しに来たんですか…大体わかってますが…」
機械的な声。彼は何か達観したような顔で俯き、無を見る。
「私はね、君とてきとーに話に来たの」
「てきとー…?」
「そうそう。てきとーーに、莉緒くんの話し相手になりに来ただけ!」
反応…悪くはなさそう。
最初から何があったのか聞くのは良くない…
「莉緒くんはお母さんとは話しづらいこともあるんじゃないかって思ってね。お姉さんと話そう?」
とりあえず『話す』ことを重点的に見てみる。
元々莉緒くんは明るく、良く話す活発的な子だったらしい。攻め入るならここからだ。話したくなさそうだったら他の手段を取ろう。
「お母さんは… お母さんは僕の言うことが信じられないんです…僕のことを信じてくれないんです…」
「優しそうなお母さんなのに…?何を信じてくれなかったの?」
「…それは…言いたく…」
しまった。
彼が言葉を濁してしまったので、すぐに会話を変える。
「あ、それより莉緒くんが話したいことってない?好きなことお姉さんに話してよ。」
子供がカウンセラー相手の場合、『好きなもの、こと』を聞くことは大事だ。それが話の起点になるし、精神の安定にもつながる。
先程よりも軽くなった(ように見える)口は開き、言葉を紡ぐ。
「翼さんは…仮面ライダーって知ってますか」
おや、珍しいものがきた。
いや、珍しくはないのかもしれない。敬語を話したりと少し大人びて見てしまったが、やはり彼はまだ子供なのだ。
「あ、知ってる。お姉さんちょっと見たことあるよ。日曜日の朝にやってる、特撮ヒーロー番組でしょ?」
仮面ライダーは昭和から50年程続く人気テレビ番組である。
私はあまり詳しくないが、知ってる最近の作品は仮面ライダーリバイスだ。…多分4年以上前だけど。
古い記憶を思い起こしながら彼の顔を見るに…
しめた。彼の顔が少し明るくなった。
「翼さんはどの仮面ライダーが好きですか…?僕は仮面ライダーブラックRXです…」
なんか知らないのが来たな。
でも私はこの質問に答えられる。何故なら一時期、訪問した子らに人気な仮面ライダーがいたから。
「私はね、仮面ライダーゼロワンが好き。」
確かそれは令和に入ってすぐの仮面ライダーだった。
すると彼はやっと私の方を向いてくれた。
こんな他愛のない話でも、やはり人との繋がりが強くなる…先生が言ってた通り!
少し話に乗ってきたようだ。
ちょっとだけ高くなったテンションで、彼は問う。
「翼さんは…仮面ライダーを信じますか?」
…?
「へ?」
無意識に声が漏れた。
どういう意味だろう。そのままの意味?
仮面ライダーはテレビ番組…もといフィクションで、現実には存在しない。
いや…しかし、私の立場としては彼に「信じている」と言うべきだ。話を合わせるのは大切だから。
「信じ」
「じつは…ここに今日、仮面ライダーが来るんですっ」
言葉を遮られた。今までそこそこのテンションでしゃべっていた彼が、いきなり大きな声で。
それよりもどういうことだろう。『仮面ライダーが来る』?ありえない…
妄想癖だろうか?信じたくはないが、違法薬物を使用していたり…いや、言うなれば薬物を使わされた、などの可能性の方が高いだろう。もしかして私、このままお薬を渡されちゃうの?
いや待て、相手は子供だ。
子供なら仮面ライダーが現実にいるって考えてもおかしくない。何故私は薬だなんて考えに…
詳しく話をまだ聞いてない。勝手にそう考えを巡らせるのは駄目だ。もう少し踏み込んでみよう。
「仮面ライダーってあのテレビの?が、莉緒くんの部屋に…来るの?」
私、焦っているのだろうか。疑問がどうしても出てしまう。
こういうのは本当に稀なケースだ。
「翼さんも信じてくれないんですか…?」
この声でわかる。
彼は本当に仮面ライダーが来ると思っている。
髪に遮られて見えない目は、きっと悲しそうな目をしているのだろう。
「仮面ライダー…会ってみたいな。お姉さんも。」
会ってみたいよ。こんな世の中にさ、正義の味方がいるのなら。
「もちろんです。すぐ来るはずですから、翼さんも一緒に仮面ライダーに会いましょう。」
興奮気味に莉緒くんが話した瞬間からだった。
「あ…」
彼がいきなり倒れた。
身を乗り出して話していた彼は、力無くうつ伏せに倒れた。
「え…?」
え…?莉緒くんが倒れた…?なんで…?
…じゃない!落ち着け私!
「莉緒くん…!?大丈夫!?」
突如動かなくなった彼の元に近づき声をかける。
崩れ落ちた場所がベッドの上でよかった…!
とりあえず彼を仰向けに寝させ、私は彼の頭部近くに跪いて座る。
片手を額に、片手を彼の顎に手をやって胸の動きを確認し、呼吸を確認する。気道確保と呼ばれるものだ。
「呼吸はしている… 気を失ったのかな…」
とりあえず呼吸は確認できた。親御さんに救急連絡してもらって、それから…
ん?
「これは…?」
顎をクイと上げていたせいか見えづらかった首元。
うすらと、縄のような模様がある。
瞬間冷や汗が垂れてきた。自分の呼吸が荒くなっていくのを感じた。
「この首元の縄の跡は…!いや、まさか!入ってきた時にはこんな跡なかった!」
じゃあなんで…?
たしかに部屋に入った時にはこんな跡はなかった。
それから向き合って彼と話したが、彼は身を乗り出したこと以外動いていない。
「ちょ、ちょっとあなた誰!?勝手に入ってこないで!!」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえる…しかしその声は金切り声だった。
聞く感じ、不審者が入ってきたのだろうか。
一体何が起こって…!
部屋のドアが空いた。
そこにいたのは助けを求めにきた莉緒くんの母親でもなく、長身でメガネをかけた男。
「だ、誰ですか貴方!」
気づかれないように、自分の後ろでスマホを起動する。
男はギロリとその目を動かし、私から莉緒くんへと物色するように視線を移した。
すると、男はマントを靡かせこちらに近づいてくる。
なんだこの人…!
どうすべきだ…!?
「近づかないでください!」
渾身の叫びを浴びせるが止まらない。
男はゆっくり口を開きつぶやく。
「どけ お前に近づいてるんじゃあない」
「え…?」
私は動けずにいたがお構いなしに、彼は仰向けに倒れている莉緒くんを観察し始めた。
この男が何者なのか、私にはわからない。
だが、危害を加えようとしているわけではないのかもしれない。
私は言われた通りに、莉緒くんから遠ざかった。
男は無言で、彼の胸元や首元を弄った。
「…縄の跡…やはりイルか…」
何か独りごちた。
男も首元の縄の跡に気づいている…何か知っているのだろうか。
私は研修だけは積んでいたからなんとなく医療に理解はあるが、こんな症例は見たことがない。
彼は医者なのだろうか…?
「気道確保をしたのはお前だな。そのスマホで救急車及び警察を呼ぶ必要は無い。お前にできることはない。」
ギロリと横目で私を見た男は淡々と告げた。
この男…私が陰に持ってたスマホのことを…!
「急に倒れて動かなくなったんですよ!これで救急車が必要ないってどういうことですか!?」
「これは“人”には治せないからだ。」
間髪入れずに男が言った。私は言葉に詰まって返せなくなる。
男はどこからか、小さな瓶を取り出した。
その瓶の中にはカプセルがたくさん入っている。
男は瓶の中から1つ、カプセルを取り出すと…まさか!
「ちょっ、何を飲ませようと…あっ!!」
聞く耳持たずに男は莉緒くんの口に、1つカプセルを放り込んだ。
またもやどこからか取り出した試験管を彼の口に近づけてカプセルを嚥下させる。
…掴みかかった方がいいのだろうか?
この男が何者かわからないだけで、そんな行為に走ってしまっていいのだろうか?
すると男は私の方に向き、メガネをかけなおした。
「薬が効き始めるまで時間がある…この子について話を聞かせてもらおう。」
…?何言ってんだこの人…?
話を聞きたいのはこっちなんですけど?
「ちょっと待ってください。私からしたら貴方は不審者なんですよ。名乗ってもらえますか?」
「黙れ 俺のことを知ってどうする。最優先はこの子だ」
悪い人…じゃないのか?
……はぁ、しょうがないな
「私は羽渡翼という心理カウンセラーです。普段は学校や老人ホームとかで働いてるんですが、今回莉緒くんの母親から直接カウンセリングにきて欲しいと頼まれまして…」
「莉緒くんが、突然鬱病を患ったらしいんです。病院でそう診断されてから彼は部屋から出てこなくなったらしくて… 私は訪問カウンセリングしに数回ここに来たんですが、ようやく今日莉緒くんが部屋に入れてくれて…」
男は顔色を変えることなく、私が喋る情報をスマホに打ち込んでいた。
「部屋に入って彼と数分話していたんですが、急に倒れ込んでしまって…って感じです。」
「鬱病を患った原因は知らないのか」
「ようやく今日部屋に入れたんですよ?莉緒くんのお母さんでさえ原因を知らないんだから私も知りませんよ。」
「…」
彼は無言でスマホを打つ作業に戻った。
どうすんですか、あと。もう話すことないんですけど。すごく気まずいんですけど。
その状況を砕いたのは幼い声だった。
「翼…さん?それに…?」
え。
莉緒くんが目を覚ました!?
彼は体を起こそうとするができそうになかったので視線だけ私と男の間を複数回移動させた。
まずい。私さえこの男の素性を知らないのに…彼がこの男を見たらどう思うか…!
「あなたが仮面ライダーですね」
??????????????
え?
「桑原莉緒…といったな。俺は君を助けにきた。君のことを教えてくれないか?」
…え?なんで話繋がってるの?
頭がこんがらがってきた。
「わかりました」
この男は仮面ライダー…?いや、肯定してたわけでもないけど否定もしてなかったし…
私が最初莉緒くんに話しかけた時の反応と男が話しかけた反応が違い過ぎる…
少し…見てようかな。状況を。
「僕には勇気くんって親友がいます…いつも一緒に遊んだりしてました。」
「もともと僕が病気で休みがちだったので、友達が少なかったんですが、僕に話しかけてくれたのは勇気くんだったんです。」
莉緒くんは男の方を向きながら話し続ける。
「病気がよくなってきて、3年生になってからはほぼ毎日学校に行けるようになって、僕には友達が増えました。」
「その時からなんです…勇気くんが僕にイタズラをたくさんしてきて… 『やめて』って言ってもイタズラは増えてって…」
…嫉妬だろうか。そうとは限らないが。
それとも彼の周りで何かが起きたのかも。
「僕は嫌になって、学校に行きたくなくなりました。おうちのパソコンにも、勇気くんからの嫌がらせのメッセージがたくさん届いて…」
部屋の床に転がるように臥していたパソコンはそういつことだったのか。
それにしても親友からの嫌がらせ…ココロにくるものがあったんだろう。鬱病になってしまったのがよくわかる。
「なるほど それで最後だな。」
男は立ち上がると莉緒くんに背を向け言う。
「君は明後日に死ぬ」
「!?」
何言ってんだこの人!!!
「しかし君は死なない。助けるのはこの俺仮面ライダーだ。とくと心に刻んどけ」
すると男はそれ以上はしゃべらずに部屋から出て行く。
男が部屋から出た瞬間に、莉緒くんはまた目を閉じ動かなくなった。呼吸はしているが、やはり話しかけても反応しない。
それでも気になるのは…
「安らかな顔してる…」
彼は最初倒れた時よりも安らかな顔をしていた。
私は先程の謎の男を調べるため、莉緒くんの首元の縄の跡を見、すぐに部屋を飛び出した。
リビングの方を見てみると、莉緒くんのお母さんがソファに倒れていた。
しかし彼女は寝息をたてている。
恐らくあの男に眠らされたのだ。
玄関の方を見ると、あの男が革靴を履いて出て行くところが見えた。
「ちょっと待って!!」
わかってたけど、男は止まらない。
急いで走って靴を履き、ドアを開ける。
近くには、バイクに跨ってヘルメットを被った、その男がいた。
「待ってください!一体貴方は誰なんですか!?」
男は、ヘルメットを装着しててもわかるような面倒臭そうな顔をして、ズボンのポケットから何か紙を取り出して私に投げた。
紙…もしかして名刺?
私の上をヒラヒラと舞って取りずらい!
てか届かない!
ぴょんぴょんと跳んでようやく名刺を取れた時には、男はアクセルを捻ってバイクを走らせていた。
「あ…行っちゃった…」
手に入れた名刺には、シンプルに大きな文字で
『仮面ライダー 加良椎奈』と書かれていた。
今日、私こと羽渡翼は学校にスクールカウンセラーとして勤務しに来ている。
私はスクールカウンセラーとしては非常勤である。ため、呼び出されお仕事する以外は学校に行く機会は自主的に行くくらいしかない。
仮面ライダーと名乗る男、加良と会ったのは既に昨日のこととなっていた。
学校の一階…職員室から少し離れたところにある、カウンセリング室へと向かいながら思い起こす。
結局莉緒くんが目覚めることはなかったが、命には別状なかった。
その上、彼の母親も起きなかった。どちらかと言うと彼女は莉緒くんを心配しすぎて寝れなくて、ようやく寝てるという感じだったが。
救急車を呼ぼうか迷ったが、結局呼べず仕舞いだった。もしかしたら、莉緒くんも母親と同じように呼ばれても目覚めないだけで寝ているのかも、と思ってしまった。
正直、怖かったのだ。
どうすればいいのかわからなかったのだ。
私は、莉緒くんのお母さんが起きた時の為の書き置きをすることしかできなかった。
『安心して莉緒くんは寝てしまったようです。起こさないであげてください。また明後日訪れます。』と。
私は加良という男が残した言葉…
「お前にできることはない」と、「明後日死ぬ」
というのがずっと心に残っていた。
彼が言っていたのは本当なんだろうか。
悶々としながら廊下を歩く。
結局彼は何者だったのだろうか…?
男性が前から歩いて来たので笑顔で挨拶すると共に、男の姿を思い出す。
そうそう、さっきの人みたいに黒と白の構成のコーデで…メガネかけてて、マントを羽織ってて… …?
「加良さん!?」
振り返ると、もはや医者には見えない、昨日と同じ服装の男…加良椎奈がいた。
「?」
「ああ 昨日の確か…羽渡翼…なんでここに?」
「それはこっちのセリフですよ!なんでここにいるんですか!?学校関係者じゃない人が不法侵入してるってバレたら大変ですよ!!」
加良は私の胸元にあるネームストラップを凝視して言った。
「そういやお前はカウンセラーだったな 成程ここにいるのに納得だ」
そう。この学校は、生徒以外の学校関係者は教師でもネームストラップを首からかける必要がある。
それを首にかけていなければ、その人は不審者だとわかるように。
つまりこの男…加良は格好の不審者というわけだ。
「ちょっと!ついて来てください!」
とりあえず私はこの不審者をカウンセリング室へと連行することに決めた。
カウンセリング室には運よく誰も来ていなかった。
生徒は授業中なのだろう。しかしたまに教員もカウンセリングに来るので要注意だ。
腕を引っ張られカウンセリング室に連れ出された加良は、表情を変えることなく言う。
「何をしたいんだ 俺をカウンセリングしたいのか?」
「カウンセリングというか…!この学校は関係者がみなネームストラップを首からかけてるんですよ…つまり貴方は今不審者ってわけです」
男はちょっと驚いたような表情をして自分の胸元をみて一言。
「おっと」
「何をしに来たんですか…!誰かに見つかってないでしょうね…!」
「俺は莉緒をいじめている勇気とやらを視察にきた。明日には莉緒が死んでしまうからな…」
未だに何を言っているのかがわからない。
まず何故死んでしまうのか?死んでしまうというのにいじめっ子のことを視察する暇があるのだろうか?
「あのですね…その行動力はすごいと思うんですが流石に無装備で学校に入るなんて無茶ですよ。」
「装備はあるから大丈夫だ」
変なことを言いつつ、少し大きめのスマホの画面をこちらへ向けて来た。
そのスマホには…うん?
「これ…伊藤勇気…?まさか、この情報!」
「そうだ これは莉緒の親友であり、莉緒をいじめた張本人の情報だ」
画面には、伊藤勇気という少年のクラス番号や住所などが記されていた。
「この情報…どうやって…」
「情報とは無限の力を宿した“概念”だ… この情報というのはそれぞれ各人の武器になり、盾になる…人はこの情報を操り生活を作り、この情報で人を殺す」
その言葉に、鳥肌が立った。
いけない、嫌なことを…
男は「終わり」とでも言うようにスマホを翻してズボンのポケットにしまった。
「莉緒のことは俺が解決する お前にできることはないからここでカウンセリングでもしてるんだな。 それだけで救える命があるはずだ」
フォローなのかわからないフォローを跳ね除け、言ってやった。
「加良さんっ!私にもできることありますよ!」
廊下に2人。目的の教室まで歩いていく。
「どうなっても知らないぞ」という警告を無視し、私は加良に同行していた。
「貴方が学校関係者に見つかったら困りますからね。だって莉緒くんを助けてくれるんでしょう?」
「ん そうだな」
そっけない返事を返す男…
設定では、カウンセラー見習いである。
私と一緒にいる見習いなら、ネームストラップがなくてもなんとかなるだろう。
てかそれにしてもこのマントどうにかならないのかなあ…
「伊藤くんは3-3 4番…もう少しで着きますね。」
「ん」
歩く廊下は2号館3階。
職員室は1号館であるため、学校関係者に会う確率は低いだろう。
私ならまだしも、変な格好の加良さんには教室の横を通る時にはしゃがんでもらっている。しょうがないよね。
さて目的のクラスに着いた。
流石に入り口の窓からジーっと見るのは危ないので、とりあえずしゃがんでいる。
加良と共に、少しだけ顔を出して教室の中を覗く。
「あれが…伊藤勇気くん…」
「班活動で浮いてるな いや、避けられてると言えばいいのだろうか… これはこれは本格的なことだ」
莉緒くんを不登校にしたくせによく学校に来れるなと思っているとふと気づく。
「そういえば、莉緒くんが倒れているのと、いじめっ子とでどう関係があるんですか?」
ヒソヒソと話すと、一応返してくれた。
「事象には原因が伴う。今回莉緒が鬱病になったのは、あの伊藤勇気というやつのせいだし、莉緒が目を覚さないのはあいつの原因だ」
「莉緒くんに飲ませてた薬を定期的に服用させた方がいいんじゃないですか?」
加良が莉緒くんに飲ませた薬のおかげで莉緒くんは目覚めたのだろう。
定期的に飲ませるというわけにはいかないのだろうか。
「そいつは駄目だな」
そう言って勇気くんを睨むと、
「依存しちまうだろ」
と。
2人で仲良く(?)教室の中を見てて思う。
「これ、見てるだけでいいんですか?」
たしかに視察しにきたとは言ってたけど…
このまま見続けてたら誰かに見つかってしまう。
「それもそうだな そろそろやるか」
男はゴソゴソと自分のズボンのポケットを探り出す。
やるって…何を?そう言おうとした瞬間。
「あなたたち、何やってるんですか?」
「え」
「あ。」
背後から声をかけられた。
恐る恐る振り返ると…
少し老齢の女性が見下ろすように、屈んでる私たちを見ていた。
そのネームストラップには…
『校長 園田絵里』と。
やば。
「あら、貴方…カウンセラーの翼先生じゃない。そこの男性は?」
そりゃそこに食いつくよね…
「この人はカウンセラー見習いなんです。ほら、自己紹介してください」
やれやれといった表情で加良は口を開いた。
「カウンセラー見習いの加良椎奈だ」
「ちょっ、敬語…」
ふふ、と少し笑みを溢したあと、校長は問う。
「それで、加良さんがカウンセラー見習いってのはわかったんですけど、ここで何をしてるんですか?」
あ、えっとそれは…考えてなかったかも…
ちょっと黙り込んでしまった。校長の笑顔が怖い。
「あ、その…この学校に初めて来た加良さんに、校舎内を案内してたんですよ…今は授業中ですし、迷惑にはならないかと…」
「あら!優しいのね翼先生は〜 でも、教室の中を屈んで見てたのは一体どうして?」
核心を突かれてしまった。咄嗟の言い訳もここでお仕舞いか…
「人を救う為だ」
…?え?あの、加良さん?
「それはどういうことかしら?」
「そのままの意味だ。 人を救う ただそれだけだ」
加良さん…?加良さん…!?
「それともなんだ? お前は俺の人助けを邪魔しようってのか?100%の善意を?」
ちょ…加良さんっ!!!
「ふふふ、なかなか面白いことを言うのね。」
これ怒ってない?校長先生。
怖くて顔見れないんだけど。
「ほんと面白い…存分に人を救いなさいな。助かる人がいるのなら特に追求しないわ。それじゃ、お仕事がんばってね…?」
「???????」
何か言う暇もなく、校長は校内を徘徊していく。
えぇ…?
「ちょ、加良さん…何言ってんですかもう!」
「結果的に助かったから良いだろ。それに、俺が人を救うという行為に変わりはない。」
それはそうなんだろうけど…
でも、この人が莉緒くんに対する『助けたい』という気持ちは伝わった。
そういうところは、“仮面ライダー”なんだろうな。
とりあえず一安心。なんとか乗り切ることができた…
しかし、これから加良さんは何をするのだろう?
何かポケットから取り出してた気がするけど…
「…それ、なんですか?カプセル?」
加良は手に、一粒の小さなカプセルを持っていた。
しかし柄は昨日のとは違うようだが。
「ああ カプセルだ しかし特殊なやつだ」
一体誰が飲むのだろう?
てか、この状態で飲んで何になるんだろう?
すると、加良はドアの隙間からカプセルを投げ入れた。
…投げ入れた?
ただ、ひたすらに嫌な予感がした。
「さて 炙り出しだ」
そう言うと共に、しゅう。という音がカプセルの方から聞こえた。
「あ…あれは?加良さん?あれは?」
見ると、教室の後ろの黒板の方に落ちたカプセルから、白い煙が発生していた。
「なにこれ!?ガス!?」
「みんな!逃げて!」
「きゃーー」
そんな叫び声が聞こえる。
「加良さんっ!何をしたんですか!!!」
「炙り出しだ 命には別状ないから心配するな」
「炙り出しって…!あっ!こっちにも…!」
ガスがこちらにも漏れて来た。
吸い込まないように…しないと…駄目だ!
「…?なんともない…どういうこと…?」
「なんというか お前が倒れないのはビックリだな」
「…え?」
意味不明なことを言う加良を尻目に教室に集中する。
結局教室から逃げ出せた者はおらず、教室から聞こえていた阿鼻叫喚は既に聞こえなくなっていた。
そして教室を覗き込んでみる。
「これは…」
教室内の生徒の大多数が、倒れていた。
しかし何名か倒れていない。伊藤勇気くんもその類だったようで、倒れた周りの生徒を見て困惑していた。
「何が“命に別状はない”ですか!!生徒の何人もが倒れてるじゃないですか!!」
ポカポカと加良を殴る。
しかし加良はものともせずに解説を始めた。
「このカプセルから出るガス…これは純粋な心を持つ者、そして"心が健康"な者を眠らせる」
「言い換えると…“心に闇を秘めている者だけ”がこのガスを吸っても平気というわけだ」
「心に闇を…」
教室を再び見る。
伊藤くんだけでなく、教師も平気そうだ。
教師は焦って周りの生徒の安否を確認している。
なるほど…純粋な子たちは基本心に闇を抱えていない。ほぼ全ての生徒が眠りこけていることがそれを証明していた。
あの教師はもしかしたら何か心に思うところがあるのかもしれない。
「このガスは、心の闇が大きさによって発生する症状の大きさが変わる 見ろ あの教師や、伊藤の近くにいる生徒…眠そうにしているだろ?あいつらはそろそろ寝るはずだ。」
つまり心の闇が小さめということか。
ということは伊藤くんは…もう…
「そしてもう1つ…この薬には特殊な効果がある。」
すると、加良は立ち上がり…
ドアを蹴破った!?
「ちょ、何をやって…!」
加良さんは指を私の口元にやって、『見てろよ』とだけ残して教室に進んでいく。
既に伊藤くんの近くにいた子も眠ってしまい、加良を驚いた表情で見ていたのは伊藤くんと教師のみだった。
「なかなか良い光景じゃないか なあ?伊藤勇気…」
勇気くんは、睨むように加良を見た。
「なんだよ、アンタ。みんなに何やったんだよ!」
「なんなんですかあなた!あなたがやったんですか!みんなを!!」
勇気くんが話した後に教師が加良を糾弾する。
「黙れッ!」
「!?」
加良さん…あんな声出せるんだ…
それよりなんであんな激昂してるのだろうか。
「元はと言えば…いや、この話に元なんてないんだが…この勇気という奴が罪を追求されてないのは…あんたがいじめを見て見ぬフリをしたから だよな?」
加良が教師に近づいていく。
「あなた…何者なんですか!」
瞬間。
加良が教師を…殴った…!?
「言いたいことはわかる 痛いだろ?そうだよな」
そして今度は、勇気くんの元へ近づいていく。
「やめろよ…来るな!なんなんだよ!お前!」
しかしすぐに距離は縮まり、加良は勇気くんの胸ぐらを掴んで宙へと浮かせた。
「加良さんッッ それは違う!もっと違うやり方ってもんがあったでしょ!!」
気づけば、飛び出していた。
こんなやり方、間違ってる。
こんなの、“仮面ライダー”じゃない。
「あぁ そういや伝えてなかったな…この薬のもう1つの効果…」
加良が『もう出しちまえよ』と言う。
すると、勇気くんの影から黒いモノが…?なにこれ…
『ウジュウウウウ』
“黒いソレ”は、鳴き声なのかわからない声を出し、変形していく。
「この薬は 植え付けられた心の闇を固形化し正体を暴き出す」
そして加良は勇気くんを地面に叩きつける。扱い的に“捨てる”と表記した方が正しいだろう。
どんどん変形してった“ソレ”は、断じて人とは言い難い、人ならざるモノに変わっていく。
“怪獣”。そう形容する他ないだろう。
ソレの身体にはたくさんの目があり、身体中から縄を生やしていた。
「加良さん…こ…これって…?」
「あぁ 固形化された病魔。 俺らはこいつらのことを“イル”と呼んでいる」
身体から飛び出る縄…言うなれば“首吊りをする縄”なのだろうか。縄の先が首一つ入るような大きさの円を作り出しているのだ。
「“イル”は人の心を巣食い、根城とする。そしてその乗っ取られた本体の“歪んだ心”をどんどん増幅させ、他人を傷つける。」
「そして…イルのせいで死んだ者からまたイルが生まれる。」
思わず絶句する。
こんなの信じられない。普通あるはずがないことなのだ。こんな化け物…現実に…?
「今回の場合…誰かがこいつ…勇気にイルを憑依させた。そして、こいつがいじめた莉緒はイルの能力で寝込んでいる…莉緒が明日死ぬのはこのイルのせいだ。」
しかし。 と、加良は前置いた。
「“イル”に憑依されるのは“心が歪んじまった”奴だけだ 『憑依されたから仕方ない』じゃないんだ」
「さっきからよお…」
地面で蹲ってる少年は、加良を睨める。
まずい…何かまずい気がする…
「お前ら全員ウザいんだよおおおおおお
ウザいやつらは全員死んじまえ!!!!!」
『グオオオオオオオオオオ』
呼応するように、その“イル”と呼ばれる怪獣が暴れ回る。
机を薙ぎ倒し、椅子を窓の外に投げ出し。
やばい…このままじゃ…!
「加良さんっ!はやく子供たちを助けて、逃げないと!!」
「うわああああああ」
怪獣が、縄を鞭のように何回も教師に叩きつけた。
やがて教師は叫ばなくなる。
まずい…気を失ってるだけならいいけど…ッ
それでも加良さんは…
「じゃあお前が死ね」
「え」
またしても加良は少年の胸ぐらを掴み、いとも容易く浮かして窓の外に突き出した。
「あ、あわわわわわ」
「加良さん!?駄目ですよそんなこと!!」
加良さんを止めるべく走る。が、イルが近づいてきてそれを阻止する。
こんな時に…!
「俺からしたらお前は“ウザいやつ”だからな」
「理不尽だよな?そうだよ それがお前なんだよ。」
勇気くんは重力に引かれ今にも落下しそうな足をバタつかせる。
「お前!お前!お前!!!こんなことやって…!あの化け物がお前を殺しちゃうぞ!!!ほら!あの女も殺されちゃうぞ!」
それに対し加良は…
欠伸をした。
毒気を抜かれたような顔をした少年を、加良は嘲笑した。
「あの子のように命乞いをしたらどうだ?」
…てか!あちらだけを見てられない!
今にもイルが襲ってきそう…!逃げたいけど…みんなを捨てて逃げられない!
「おい ツバサ!助かりたいか?」
遠くからそんな声が聞こえてきた。
そんなの、答えは…
「助かりたい…です!でも… 嫌な現実から逃げたくなんてないっ!!!」
「は。 そうかそうか」
すると…未だジタバタしてる勇気くんを、教室の中へ投げた。
それも、“イル”の目の前に。
「あ…あ…!」
予想通りに、イルは目の前の自分を作り上げた主に掴みかかった。
「こんな…!こんな…!」
加良は回り込んで私の元へ来た。
この人…なんでこんなことを簡単に…!
「抑えられない加虐心はやがて数多の人を傷つけ
いずれ自分の首をしめることになる」
イルは少年の首に縄をくくりつけ、ゆっくりと。その縄を上へ上昇させていく。
「うわあああああ」
「は、はやく助けなきゃ!!」
すると、加良が長い腕を伸ばし制止してきた。
「もう少し待て」
少年は締め付けてくる縄に手を当てもがく。
少し浮いてきたその時…
「ああ俺が悪かったさ!!!悪いのは、どんどん友達を作ってく莉緒に嫉妬した俺だったよ!!」
「したらよ…嫌でも誰かを憎む気持ちが湧いてきちまってよ…莉緒は…親友だったのに…」
「勇気くん…」
告白をした少年は、意気消沈したかのように思えた。
だがしかし、彼の目に映るのは…
彼は急にジタバタし、慣性をつけ勢いよくイルを蹴った。
「このッ!!」
「あっ!」
イルが吹っ飛ばされた。
こんな巨体の怪獣を…!?
「イルの弱点は2つある。1つは憑依者の正義の心だ」
と、加良は私に耳打ちをしてきた。
この人…まさか!
倒れた少年は…縄が首にくくりつけられたまま、でもそれを気にせずに加良に這い寄って言う。
「助けてくれよ…」
「莉緒のことを…」
そして、彼は気を失う。
その決意を、正義を、加良に伝えて。
加良は…不敵な笑みを浮かべた。
「『親友だった』んじゃあない…『まだ親友』だろ?」
そして、飛んできたイルの拳を受け流し、重いストレートをイルに加えた。
「加良さん…!」
「よぉ ツバサ… 2つのうちもう1つのイルの弱点…知ってるか?」
彼はポケットからスマホを取り出し言う。
「この俺 加良椎奈さ」
これから先を、私は息を呑んで見ることしかできなかった。
『-2- -0- - 2-』
加良がそのスマホのパスコード入力画面に数字を入力していくと、機械音声が英数字を読み上げた。
『-Ritalin-』
すると、加良の腰元に…
あれは…ベルト?
『Medical Driver』
加良は腰に現れたベルトに、そのスマホを横向きに装着した。
『Set Up』
そして加良は片手にモバイルバッテリー…?のような瓶、もう片手に手のひらサイズのカプセルを持った。
モバイルバッテリーをスマホの横にあるコネクタ部分に差し込む。それはスマホと合体し、スマホの上部分に寄生するような見た目になった。
『Connect On』
なんと何枚ものカルテが出現し、加良の周りを旋回した。その紙の風圧にイルは仰け反り、何本かの縄がその紙に切断された。
カプセルをモバイルバッテリーに入れ、勿体ぶるように加良は腕を動かす。
「変身」
カチリ、とモバイルバッテリーのスイッチを押した瞬間。
『R E B O O T』
『Prescribing To Your Patient And You. ...Kamen Rider Ritalin202!』
モバイルバッテリーを媒介しカプセルがスマホに流れた。
すると周りを旋回するカルテが加良に張り付き、何かスーツを着たような姿になった。そのスーツは真っ白というよりかは透明寄りで…
そこに、緑色の…スマホの充電を表すような緑色の液体が加良を包み込む。
緑色の“充電液”がスーツに流れ込み、満タンになると、肩に黒いマント、そして顔部分に『Ø』という文字が浮き上がり、そのØの斜めの線を境に2つの『2』が浮かび上がった。
『Go Back! Go Back! Go Back!』
後押しするかのように流れた機械音声が、その“仮面ライダー”を鼓舞した。
無意識に、言葉が零れ落ちる。
「これが…仮面ライダー…」
「さあ 後悔しろ」
仮面ライダーリタリン。それは彼のことだった。
既にカルテに数本切断されていた縄。
勇気くんがくくりつけられていた縄も切れていた。
なので、お構いなしにリタリンはイルに飛び蹴りを入れる。
『グオオオオオオオオオオ』
嗚咽なのか苦しむ声なのかわからない咆哮が教室をつんざくように響き渡る。
吹っ飛ばされたイルは目の前のリタリンを目の敵にし、縄をカウボーイのように振り回しながら走る。
「下がガラ空きだぜ」
瞬時に屈んで、足払いを決めた。
バランスを崩したイルに向かって、リタリンは容赦なく回し蹴り、そして渾身のストレートでイルを窓の外に吹っ飛ばした。
「す…すごい…」
加良はこちらを向くと手を払うような仕草をする。
「ほらな ツバサにできることはなかっただろ?」
この人…!かっこいいって思ったらすぐにこれ!
まもなくして窓の外にリタリンは飛び出す。
…?窓の外?ここ、3階だよね?
窓の外をすぐに確認しにいく。
すぐ下には大きな校庭があった。
既に落下していた巨体のイルは倒れ込み、動けないでいた。
リタリンはまだ宙を落下している。
何かモゾモゾと動いているようだが…?
「さて 死ね」
えっ。
リタリンは器用な動きでカプセルをモバイルバッテリーに入れる。共に、機械的な音声が流れた。
『Waitin' For Rid∅r Kick』
そして勢いよくスイッチを押す。
『Ritalin Injection』
「まさか…ライダーキック!?」
リタリンが飛び蹴りのモーションで落下する。
それに、充電液の色…緑色の電気がリタリンの足元から流れ、身体の周りを電気が行き交っていた。
まるで電気のような速さで落下し、蹴りがイルに命中し、周りを緑色の放電された電気が覆った。
『グアアアアアアアア』
「イルを…倒した!?」
着地を上手く決めたリタリンがこちらを向き、淡々と言う。
「敵はすぐに殺すことに越したことはない 勿体ぶるだけ被害者が増えるだけだからな」
この人…特撮に向いてないな…
そう思ってリタリンを改めて眺める。
白を基本とした全体に、複数のラインが通ってその中を緑色の液体が満たしていた。
風がマントを靡かせる。
…かっこいいな。
すると、彼の背後に揺らめく何かを見た。
「はっ!! 加良さん!まだイルは生きてる!!」
「なんだと」
瞬間、リタリンは縄を結びつけられ、乱暴に振り回された。
「うおお 必殺技を喰らってまで生き残るなんてしぶといな… はやく死んだ方が身のためだ!」
それを挑発ととったのか、イルは思い切り地面にリタリンを叩きつけた。
地面からは大きな砂埃と、緑色の液体が軽く飛び出た。
「くっ… ライダーキックは入ったけどまだ生きてるとはな 電池残量を少し無駄にしちまった」
よーく見てみると、リタリンの身体の上半身…身体に流れ込んでいた緑色の液体が4割程なくなっていた。
加良は『電池残量を少し無駄にした』と言っていた…つまり、仮面ライダーリタリンはこの電池残量分しか戦えないということだろうか?
見た感じ、ライダーキックを放つと何割か充電液が減ってしまうようだ。
「しょうがないな… 充電は大切にしたいが 莉緒を救うことが優先だ」
すると、リタリンはスマホについていたモバイルバッテリーを取り外し、何か小さいパーツに付けた。
『Connect On』
するとそれは展開されていき、1つの大きな剣の形となった。
トリガーを引いている時だけ電気を纏えるらしい。
『Electric Sword』
イルは待たずに縄を飛ばしてくる…が。
「馬鹿 刃物持ってんだぜこっちは」
いとも容易く飛んできた縄を切り飛ばした。
切れ味は抜群らしい。
「逃げまわんなよ」
次々と飛んでくる縄を切り飛ばして、リタリンは走ってイルに近づいていく。
「喰らえ」
緑色の電気を纏った電撃、そして斬撃がイルを襲う。
これは溜まったものじゃないだろう。
一文字の切り傷がくっきりと浮かび上がる…
…すると、急にリタリンの身体が浮いた。
「うおっ」
いつの間にか、足に縄を巻きつけられていたのだ。
「加良さんッ!」
リタリンは縦横無尽に校舎、地面へと叩きつけられる。イルはリタリンを繋いだ縄を引っ張り寄せ、強制的に引き寄せられたリタリンにパンチを入れる。
小さく喘ぐ声が聞こえた。
相手も相手でなかなかやってることがえげつない。
…てか、これ加良さんは大丈夫なのか…!?
「…しょうがないな あんまりしたくはないが…」
…?何をする気だ…?
足を繋げられたまま、リタリンは剣からバッテリーを抜き取り、またスマホに差し込む。
『Connect On』
そして、2粒のカプセルをバッテリーに入れ、スイッチを入れた。変身した状態であのカプセルを入れたら…
『Prescription Strike. Waitin' For Super Rid∅er Kick.』
またライダーキックだ!
しかし足を縛られた状態でライダーキックなんて…
「加良さん!流石に無茶ですよ!」
「おい どこぞで勘違いしてる馬鹿。よく見てとくと心に刻んどけ」
この人今私のこと馬鹿って言った!
…リタリンが全身に電気を纏う。
それを見て、イルはまたもや待たずに上に打ち上げ、地面に叩きつけようとする…。
が。
「そいつを待っていた」
『Ritalin 202 Strike』
リタリンはその上に投げられるのと同時に、“上空”に向けライダーキックした。
上向きに投げられる力と電気の速度のキックに引っ張られたイルはたまらず上空へと投げ出された。
「空にライダーキック!?」
上空。舌なめずりをしているような顔をしてるであろうリタリンは、引っ張られて下からついてきたイルを見下し言う。
「もうお前には容赦しない」
リタリンはもう1つ、カプセルを追加した。
『Waitin' For Rid∅r Kick』
カチリとスイッチを押す。
心なしか、イルが青ざめていた。
『Ritalin Injection』
電気を纏ったリタリンは、足をイルに押し付け重力加速を考慮した高速で落下する。
「死ね」
遠くから見たそのライダーキックは、本物の雷のようだった。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオ』
ドグォォォンという音がする。
高速落下と共に地面と足でサンドイッチにされたイルは、電撃を受けながら爆散した。
「ちょっとばかし懺悔の時間が長かったな」
リタリンはため息を吐くと同時に自身の身体を確認した。充電残量を確認しているらしい。
「たくさんカプセル使っちまったな 今回のイルはわりかし強かった… それだけ悪化してたんだな」
「加良さあん!!教室とか校舎の傷、どうするんですかーっ!?」
遠くにいる加良さんに叫ぶ。
ていうかここで逃げられたら困る。
「この損害… 俺には関係ないね」
ほらでた。
「それに、どうにかしてくれるんだろ?」
は?
「えぇ。確かに『人を救ってた』わけですからね。この損害は私が受け持ちますよ。」
加良の背後から、先程見た老齢の女性が現れる。
まさかあの人…
「校長もなかなか自由なんだな」
「貴方程ではないですよ」
仮面ライダーの背後にいた女性は、先程廊下で出会った…この学校の校長、園田絵里だった。
なんでこんな所に…?
「それにしてもこんな摩訶不思議なことが起きるなんてね。仮面ライダー…リンタンでしたっけ?」
「知らね」
そっけなく返事した加良はバッテリー共々、ベルトからスマホを取り出した。
『Connect Out』
『Take Care Of Yourself.』
すると、一瞬で仮面ライダーは消え、中から加良が現れた。
…それにしても、仮面ライダーか…
見ると、周りの校舎の窓から多くの子供たちが加良のことを見つめ、拍手を送っていた。
「良いなあ、正義の味方って…」
遠くから、救急車のサイレンがきこえる。
それと同時に眠っていた多くの生徒が目を覚ましていく。
加良は私に向かって軽く手を振り、
「またな 身体に気をつけろよ」
とことわった後、校門の方へと歩いていく。
ああやって人々を助けて行くのだろう。
私たちが知らなかっただけで、この世界にはなんでも存在する。
形容できないような心の闇。
そして、心を治療する仮面ライダー。
私は背を向け帰って行く仮面ライダーに叫ぶ。
「ありがとうございましたっ!!!」
正義の味方は振り向かずに、こちらにVサインをしていた。
[newpage]
「訪問カウンセラーの羽渡翼です。」
間延びしたインターホンの音から数秒後、少し快活化した女性の返事が聞こえてくるので、そう答える。
「羽渡先生ですね、少々お待ちください!」
中に通して貰うと、リビングには2人の少年がいた。
テレビに向かい、仲良くゲームをしている。
「ほら、莉緒。羽渡先生のお越しよ。」
私に気づいた1人の少年は、瞬時にゲームを中断した。
「あ、莉緒!勝手に止めるなよ!」
「ごめんごめん… 翼さん!こんにちは!」
すごい変わりようだ。
「その節はありがとうございました!」
“仮面ライダーリタリン”がイルを倒してからまだ1日しか経っていない。
それでもなお莉緒くんは元気になっていた。
そして、もう1人の少年もこちらを向く。
「…あっ!あんた…!」
伊藤勇気くんは私を見て目を見開く。
「仮面ライダーの彼女!!」
「違います」
「即答」
それにしても、1日の間でここまで仲直りしているとは思わなかった。
復縁?ていうのかな? 大体そういうのはもっと時間をかけていくものなのだろうと勝手に思っていたが。
やはり加良さんの言う通り「まだ親友」だったらしい。すぐに仲直りできたのも、勇気くんの正義の心、そして決意のおかげなのだろう。
「伊藤くんが来た時はびっくりしたけど、莉緒がすぐに出てきて仲直りしたからびっくりしたわ〜」
莉緒くんのお母さんが、幸せそうに言う。
彼女の心の健康状態も良くなってるようだ。
もし莉緒くんがイルの能力で死んでいたら、彼女の心の闇からまたイルが発生していたのだろう。
「そういえば翼さん!勇気くん、これから長い間ここにいてくれるんですよ!」
長い髪を揺らめかせて少年は言った。
…?勇気くんがここに住むってこと?
「仮面ライダーが今日俺のところに来てよ、『これからお前は莉緒のところに住め』って言って、支度したらバイクでここに連れてきてくれたんだよ。」
「え、えぇ…?」
いや、流石にそうはならんだろう。
双方の両親の合意を取れよ。
「私としては、莉緒が学校に復帰するお手伝いをしてくれるから全然ウェルカムなんだけどね〜、伊藤さんとこに電話しても繋がんないのよね〜」
…まあ、そこんとこもどうにかしてくれてるんだろうな。
ああ見えて面倒見良さそうだし。
「勇気くん、仮面ライダーはそれ以外に何か言ってなかったの?」
聞くと、「そういえば!」って顔をして叫んだ。
「俺に会った瞬間に『治療費請求してくる』って言ってた!!」
何やってんだあの人!!
ていうか…治療費を親御さんに請求したってこと…?そしてから音信不通になったってことは…
「どんだけ高い請求したんだろう…」
「あぁでも、あの人こう言ってたよ」
『俺は患者の“大切なもの”を治療費として請求してる』って。
親御さんの大切なもの…それはもちろんお子さんのことだろう。つまり加良さんは勇気くんを治療費として請求したってこと…?
「ま、俺からしたら母さんのところを離れられるし、莉緒と暮らせるしで万々歳なんだけどな!」
…なるほどね、なんとなく話は見えてきた。
患者から治療費を請求するのに親御さんに請求した…ということは、本来の患者が「勇気くんの親御さん」だったのだろう。
歪んだ親御さんのせいで勇気くんはイルに憑依された…
そう考えたら、辻褄があう。
というか、あの人が辻褄が合わない行動をするはずがない。ちゃんと考えられた行動なのだろう。
「とりあえず、ゲーム中悪いけど 莉緒くんのカウンセリングするよ?」
「えー!良いところだったのに… でも、莉緒のためなら別に良いか…」
「翼さんよろしくお願いします!終わったら一緒にゲームしましょ!!」
一昨日とは打って変わって、鬱の巣窟だった家には笑顔が蔓延っていた。
それなら笑顔で私は感謝しよう。
……ありがとう、加良さん。
新しく仮面ライダーの小説を書いてみました。
好評だったら続けようかな。