仮面ライダーリタリン   作:ラタ

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あけましておめでとうございます。
これを書き納めにしたかったんですけどね…
別れの雨も近頃出すので、乞うご期待を。


#2 Calonal115

#2 Caronal115

2022年現在日本、鬱病による自殺者は数知れず、それは若者に関する死亡数第1位をも総なめしていた。

 

未だ自殺者の数は減ることを知らずに二次関数的に増えていく。

…私は、何故にそのような事態に陥っているのかという理由を知っていた。

 

 

少し前に私…心理カウンセラーである羽渡翼は、“鬱”を具現化した怪物、“イル”を目の当たりにした。

 

それは人の心の闇を喰い荒らし悪化させ、その負のエネルギーを誰かにぶつけ、感染するかのように広がっていくものだった。

 

恐らくそれらは抗うことのできない運命…もとい“病魔”であり、現在日本の人々の心を巣食っていて、今の自殺者数に至っているのだろう。

特に私は未成年の死亡者数だけでなく、成年年齢の層の死亡者数が増えていることに危機を感じていた。

 

――「私がなんとかできるってわけじゃないんだろうけど」

 

自分を諭すように言う。

スマホの画面に映るニュースを見、溜息を吐く。

 

『損壊した学校は、数ヶ月間の自宅学習の措置を取ると発表しており…』

 

いるのだ。世界を変えられる、正義のヒーローが。

 

私は“イル”という怪物を知るのと共に、『仮面ライダー』という正義のヒーローがこの世に存在することを知った。

 

嘘じゃない。それはテレビに出てくるような本物のヒーローだった。

 

私が心理カウンセラーとして勤務している挟上小学校… そこに怪物、“イル”が現れ暴れ回った。しかしそこでとある男が変身した“仮面ライダーリタリン”がイルをやっつけたのだ。

 

イルの出現当初、それは学校内を暴れ回り生徒を傷つけ、学校校舎さえも傷つけた。

仮面ライダーがそれをやっつけるまでにできた傷は大きく、今ニュースで流れたように復旧作業にあたっているという。

 

私はもとより挟上小学校に週2くらいで勤務していたのだが、生徒が自宅学習となると流石に仕事がなくなった。

このままじゃ生きようにも生きれずに私自身からイルを発生させてしまう…のは冗談だが、めっきり仕事が減ったのは事実である。

 

「羽渡さんですね。入局許可証を確認させていただきます。」

 

私はその建物に入るために、入り口で若い女性に“入局許可証”を見せた。

 

「はい。確認しました。どうぞお入りください。ただし、あまりうろつかないでくださいね。」

 

背が小さくて、何か人懐っこそうなその女性は私に説得するように言った。

可愛い。

 

「テレビ局ってすごく迷いやすいイメージがあるんですけど…簡単に楽屋に辿り着けますかね?」

 

「うーん、私はあまり内部に対して詳しくはないんですが…まあ楽屋って一部の場所にかたまってるイメージです。いざとなれば誰かに聞けばいいですし…」

 

なるほど…

私はわりかし方向音痴だ。地図を貰ってもよくわからなかったりするし。

今回訪れたテレビ局はかなり有名なところだが内部の構造なんてわかったものではない。…まあどうにかなるでしょ。

 

私が知っているこの世界は、“なんとかなる”で済む。

今までずっとそうだったし、これからも。

…この短絡的というか適当な思想は、いつからだったっけ。

 

考えることを諦め、テレビ局の内部を歩いて行く。

不審者に見えない程度に周りを見回してみるけどやはりテレビ局は壮大だ。

 

今回、私は個人を訪問しカウンセリングする。

個人訪問カウンセリングは常勤だった学校カウンセリングよりも頻度は少ない。

 

それもそうで、人によっては遠くまでいかないといけないし、カウンセリングは回数を重ねる必要がある。

訪問しに来る私のことも考慮して遠慮する患者さんが多いのだ。

 

じゃあ何故私は今日テレビ局に来ているのか?

その答えはもちろん、今回カウンセリングするのは芸能人だからだ。

依頼人は、今や有名なロックバンド“the HEROes”のボーカル、沢中大和。

 

私はそのバンドについて詳しいわけではない。

しかしそれは私がカウンセリングしないという理由にはならない。

心に病を負ってしまった人は、誰だって私が助けないといけない。

 

歩きながらも周りを見るが、目的地には未だ着かない。

…まずこの道であってるのだろうか?

 

見た感じ、やはりテレビ局。見たことがある芸能人がいる。人が多い…というわけではないから、もし道に迷っても聞けるかも。

 

すると、とある1人の人に目が映る。

…眼鏡をかけた黒髪でマントを付けた…

 

嫌なものを見た。

 

「…」

 

向こうが気づいていないようなので、様子を見ながら彼から遠ざかる。

 

私はその男を知っている。

 

彼の名は加良椎奈。女の子みたいな名前だが男だ。

そんな名前とは裏腹に、その男は正義のヒーローである。

加良…その男は“仮面ライダー”に変身し、世に蔓延る病魔を退治する…

どこまでも冷徹で理不尽。しかしどこか、頼りになる。

自分や周りのことなど見ておらず、患者のことを最優先で助ける。

 

文面だけ見るといい感じ(?)だが、私は加良が少し苦手だ。

加良と絡むと、何か碌なことに巻き込まれそうな予感がするのだ。てか仮面ライダーと一緒にいたら嫌でも変なことに巻き込まれるか。

 

いいぞ、このまま気づかれないうちに…

 

瞬間。どさっ、という音と共に、世界が揺れた。

鈍い音と共に私は尻餅をついた。

 

「いっっ…?」

 

背後を見ると、同じく人が尻餅をつき、臀部をさすっていた。

 

「あっ、ごめんなさい!」

 

反射的に謝る。

加良ばかり見ていたせいか、人がこちらに向かってきていることに気づかずぶつかり、2人して転んでしまったようだ。

 

「いつつ…へーきへーき…君は大丈夫?」

 

「あっ、はい…すみません不注意で…」

 

その男は手を差し伸べてきた。

ここで手を取らないのも不躾だよね。

 

「しょうがないよ。このテレビ局には美男美女ばかりいて目を奪われることが多いだろうから。」

 

うーん、それは間違いないのかも。

私は手を取って彼を見る。…?ん?

 

「君もその美男美女に入ってるねえうん。ちょっと俺とご飯食べに行かない?その後ホテルとかどう?」

 

???????????????

 

男は握った手を離さずに、その眼を私に向けていた。

顔は悪くない…?のだが…ちょっ、やめ!手を握り直すな!

 

「あの…すいません、今それどころじゃなくて…私お仕事で来てて…!」

 

手をブンブンと振るが、解けない。なんて男だ。

 

「いいじゃん、少しぐらい!有名人と付き合えるなんて、お友達もビビるよ!自慢できるよ!」

 

なんてデリカシーと常識のない男!

ど、どうしよう…!

 

すると、手が少し緩んだ。 え?

気づくと、男が軽く宙に浮いていた。

 

それと同時に、『かなりいい姿勢で蹴りを入れる男』の姿も目に入る。

この男は…マントをつけた人は!

 

「気色悪い」

 

一言目で、それか〜

 

その男、加良椎奈は眼鏡をかけ直し、私を見る。

 

「…ツバサか。なんでここにいるか知らんが、こういう変な男には気をつけろ。」

 

「か、加良さん…ありがとうございます…」

 

あなたも変な男に分類されると思うんですけど…

 

加良はまだ蹴りを入れれる体制で倒れた男に向く。

 

「いてて…あんた何してくれんの!いい雰囲気だったのに邪魔しないでよ!」

 

あれのどこがいい雰囲気だよ!

 

「視界に入れたくないほど不愉快だった。あとお前が気色悪かった 死ね」

 

私が言いたかったことを加良が代弁してくれた。

死ねとまでは思わない…いや、思うけど。

 

「ひどい言い草だな…てかあんた、誰?見た感じマネでもなさそうだし…ちゃんと入局許可証持ってんの?」

 

「そうですよ加良さん…入局許可証持たずにここに入ったらとっ捕まりますよ…?」

 

私も加良を見、言う。

 

「ツバサ…俺がそういう面倒なことすると思うか?もちろん職員を眠らせて入ったに決まってるだろ」

 

違うよ。違うよそれは。

 

私と加良が2人して話しているのを見て、まだ倒れたままの男は肩をすくめ、言った。

 

「なんだよ、彼氏いたんだ…」

 

「違います」

 

即答。てかなに?なんで私最近そういう勘違いされるの?

 

「加良さん…今回も患者を救うんでしょうけど、あまり面倒ごとを起こさないでくださいよ?」

 

「患者を救うためならなんでもするのが仮面ライダーだ」

 

そういうと、加良は入り組んだ道を歩き始めた。

患者の元へと向かっているのだろう。

 

さて、この男は…

 

「貴方、the HEROesの稀さんですよね?」

 

ようやく立ち上がってスマホを見ているこの男。

私が最近調べたばかりのバンド…“the HEROes”のギタリスト。間違いなければ、名前は稀之高といったハズ。

 

「お、知っててくれたんだね。いかにも俺の名前は稀之高(まれ これたか)。これも何かの縁だし、稀とでも呼んでくれよ。下の名前呼びでもいいよ♡」

 

きしょ。

 

「私、心理カウンセラーの羽渡翼っていうんですが…今回はthe HEROesの沢中さんにカウンセリングしに来たんです。」

 

すると男は目を丸くして。

 

「ありゃ、君がリーダーが呼んでたカウンセラーの人だったの!?これは運命でしかねえなあ」

 

「だから、楽屋へ道案内してほしいんですけど…ダメですかね?」

 

男はスマホをポケットにしまい、親指を立てて言った。

 

「任せとけよ。リーダーの話となると別だ。ツバサちゃんだっけ?リーダーをよろしくな。」

 

返事を待たずに男は振り返りもせずに道を歩いて行った。

案外悪いやつじゃないのかも?

 

私も後ろを歩き出す。

しかし、一安心しようにもできなかった。

 

私たちは、加良が通った道を通っていたから…

 

 

 

 

「まさかヒーローズのメンバーに会えるとは思ってませんでしたよ。…沢中さんは今どのような状況なんですか?テレビ局まで訪問してまでカウンセリングするってどれだけ…」

 

2人して歩きながら楽屋へと向かう。

私は男から少し(意図的に)離れ、話しかける。

 

「リーダー…いわゆる鬱ってやつなんだろうな…俺が知ってる限り、リーダーはネットで誹謗中傷を受けてんだよ。」

 

暗い雰囲気の話題にも関わらず、男は明るく言った。

 

「リーダーもリーダーなんだよな…元々あいつはスマホ依存みたいな感じでよ、そういう言葉らを無視しようにも無視できねーんだよな。エゴサばっかしてるし」

 

俺だったら無視して元気に生きるね。と言い、稀は歩く。するとふと気づいたように私を見た。

 

「…なんですか?」

 

「いや、いちいちテレビ局まで呼び出されて可哀想だな…って思ってよ…ツバサちゃん、お姫様抱っこしてあげよっか?疲れたでしょ?」

 

は?

 

「いや、いいです。やめてください」

 

先程からの3倍くらい距離を取る。

なんなんだこの男…よく炎上しないな…いや、してる絶対。

 

「そんなに離れなくったって…恥ずかしがってんだな?さては。」

 

無視を決め込んで、依頼内容を確認し直す。

端的にいえば、「心が不安定になり、仕事ができなくなりそうなのでカウンセリングしてほしい」とのこと。

 

それでも気になるのは、交通費を出してくれるのはまだしも、普段の依頼料の2倍近くを出すと依頼に書かれていたこと。

芸能人となるとこういうことは普通なのかな?はやく治さないと近いライブに支障をきたすとか?

 

それだけでなく、依頼人が心が不安定である“本人”であることも気になっている。 私が今までカウンセリングしてきた限り、患者本人から依頼が来ることはない。基本、患者の周り…例えば身内やらが依頼してくるのだ。

 

「もう着いたぜ〜 …ん?」

 

「あ、もう着いたんですか。 …あれ?」

 

ドアの奥から、罵声(?)が聞こえる。

 

いや、嫌な予感はしてたよ?

まさかね〜って思ってたよ?

 

稀がドアを開けた先には、予想通り真っ黒い衣装に身を包んだ…先程会った男、加良がいた。

 

「はやくでてかないと警察呼びますよ」

 

少し大きめな楽屋の部屋の中には、人が2人。

正常な対応をしていた男はおそらくヒーローズのメンバーだろう。

 

加良は、その男のことを興味なさそうに部屋の中を探索している。

 

「げっ、さっきの男じゃん!なんでここにいんだ?」

 

警察に連絡しようとしていた男がこちらに気づくと、稀に話しかける。

 

「稀さん…知り合いなんですか?知り合いが来るんなら前もって連絡して欲しいんですけど…」

 

「知り合いじゃねえよ!」

 

ノリノリで突っ込む稀。

そして、男は冷ややかな視線を私にも向ける。

 

「あなたは…どちら様です?入局許可証を持ってますが、あの不審者の知り合いとか?」

 

「まあ、あの人とは知り合いっちゃ知り合いなんですが…」

 

「平井。このお方は心理カウンセラーの羽渡翼さんだ。」

 

「…なるほど、リーダーが依頼していた…」

 

加良が部屋の中を漁っていることを最早気にせずに、会話は進む。 なにこの状況。

 

平井と呼ばれた、加良とはまた違ってクールな人…

the HEROesのドラマー。平井笙(ひらいしょう)

 

「すいません…連れ…じゃないけど、この男が変なことを…すぐ連れ帰るんで…」

 

「カウンセラーと面識があるということは、この人もリーダーを助けてくれる人なんですよね?」

 

「それに、先程の『私は沢中を助けに来た』って言ってるのも合点がいく…」

 

マジで何やってんの。この人。

どちらにせよ不審者じゃん。

 

「それで、沢中さんは?楽屋にいらっしゃらないんですか?」

 

「それがですね、私が戻ってきたら時にはいなくなってて…撮影まで残り時間が少ないんで、困ってたんですよ」

 

「失踪したのか…?」

 

稀が、心配してるとも取れない陽気な声でひとりごつ。

 

「…加良さん。それであなたは何をやってるんです?」

 

遂には沢中の荷物さえも漁り出した男を見下し、言う。

ようやく私に気づいたらしい加良。

 

「やっぱりツバサもここに来るのか 職業柄、やはり会うことが多いんだな」

 

「質問に答えてもらえませんかね…」

 

私が加良に近寄って話している時、稀と平井は座って話していた。この人たち適応力すごいな。

私はこの非常識な男に未だ慣れてないってのに。

 

「私は今回沢中さんのカウンセリグをしにここに来たんですけど、目的の人は同じなんですよね?」

 

加良は荷物を漁り終わると、スマホを確認しながら返事する。

 

「同じだ 今回もイルが発生して、テレビ局が滅茶苦茶になる可能性も考慮できるから前もって治すか外に連れ出す必要がある」

 

今回は流石に加良でも、患者だけではなくテレビ局の人々への被害を考えているらしい。

 

「俺はまだその患者と出会っていない そいつが今どのような状況なのかすらわからないから今こうして情報を集めてる」

 

「私もまだ会ってないです。加良さんとは結局一緒に行動する羽目になりそうですね… 何か、気になる情報でも見つかったんです?」

 

ぽりぽり頭をかきながら加良は喋る。

 

「あると言えばあるが ツバサ…次いで、今回の患者には関係ないな」

 

「そんな、荷物を漁るだけで情報が出てくるもんなんですかね…」

 

すると、稀がこちらに話しかけてくる。

 

「なんかうちのリーダー、テレビ局にいるのは確かなんだが行方不明らしいぜ。最後の目撃情報ですらあやふやだな…」

 

「思い当たる場所はありませんか?」

 

「んー…ないなー… あいつって実はそこまでプライベートの話をしてくれないんだよなー」

 

じゃあ逆にどうやってメンバーを結成したというのか。

果たしてこんな状況で、イルを発生させる前に探すことができるのだろうか?

 

「とりあえず沢中について簡単なことを教えてもらおう」

 

加良が死ぬほど上から目線で言う。

しかし稀は顔をしかめることもなく、適当に。

 

「稀ねー…もともとおとなしめで隙あらば鬱になっていつの間にか立ち直ってるような奴だったな。」

 

なんだその人。

 

「私が知ってる限りでも、鬱から立ち直るのはかなりはやかったんですよ。はやくて数時間、遅くて2日程度。」

 

それって本当に鬱… 違う。思い当たる症状がある…

それじゃあ、カウンセリングの希望をするくらい今回はマズい鬱なのだろうか。

 

「それじゃあ、今回は例外だって言うのか?沢中はいつから立ち直れないほどの鬱だったと?」

 

加良が私が考えてたことを疑問にする。

 

「いつからだったかな」

 

「2日前程度ですね。本当に突然、今までに見ない程鬱気味になって…」

 

聞き、加良を見る。

彼は察しているように頷く。

 

「イルだ。」

 

見解では…躁鬱と呼ばれる、“双極性障害”から“イル”に侵されたのではないかと。

 

双極性障害とは、躁鬱と呼ばれている病気。

躁鬱などと呼ばれているにも関わらず、鬱病とは違うジャンルに分類される病気。

 

簡単に言えば、活動的な躁状態と、気分が落ち込む鬱状態が繰り返される病気。

鬱状態になれども、いつのまにかハイテンション…躁状態になるため、周りの人から見て比較的病気だと判断されにくい。

 

稀や平井が、沢中が鬱病だと思っていなかったのと同じだ。

しかし、今回は躁状態になることもなく果てしない気分の急低下に見舞われている…これは間違いなくイルの仕業だろう。

 

「イルって…」

 

稀が深刻そうな顔して。

 

「なんだ?」

 

ですよね。

 

「イルってのは人間の心を蝕む病魔で、にわかには信じられないと思いますけど、怪物に変化してどんどん感染していくんです。」

 

「あぁ〜、なんかそういうの、見たり聞いたりしたことあるな。Twitterで見たかも」

 

流石情報化社会。

私は情報収集等の為にSNSを使用する。それでさえ、最近ニュースで怪物…もとい、イルを見かけたことがある。

 

今まで、そんなニュースなど見かけたことないし、怪物のことなど知らなかった。

 

加良を見る限り、今までずっと、人知れず病魔と戦ってきたのだろう。それなのに、認知されずに孤独に戦うというのは…

 

「なるほど 最近ようやくイルの存在が認知されてきているんだな」

 

つまり、今まではそこまでイルは発生していなかったというのだろうか?実際仮面ライダーが実在することが世間で騒がれたこともなかったし。

 

「てことは…」

 

何か、思い悩んでるような…

加良がしなさそうな…そんな、暗い顔。

 

「どうしたんですか?らしくないですよ」

 

私と加良のやりとりを見て、隠す気もない舌打ちをする稀。

 

「探すのなら急がないとまずいです。本番まであと2時間程ですよ。」

 

そんなことを、焦りを見せずに平井が言った。

それに対して稀も、

 

「俺らは最終打ち合わせみたいなのがあるから、2人で捜索してもらえねーかな?」

 

と。

 

やはり、加良と2人きりで行動するしかないようだ。

 

 

 

2人で、テレビ局内を歩く。

前に学校を2人で忍んで探索していたことを思い出すな。

 

加良は突貫工事で作ってもらった入局許可証を首にぶら下げ、周りを見ながら歩く。

 

「加良さん。入局許可証貰ったからって、あんまりキョロキョロしてると怪しまれますよ。」

 

見た目がもう怪しいのに、と心で付け加えて言う。

 

「人の命が懸っている」

 

それだけ言って、また見渡し始める。

そういう人だったな。この人。

 

途中で出会う人などに沢中の行方を聞いて、その方向へ辿っていく。

 

「そういえば…今回もまた、あの煙が出る薬使うんです?」

 

衝撃が加わると煙を吹き出すカプセル剤。

心の闇を持っていない人を眠らせ、心に闇を持つ者からイルを具現化し引き摺り出す薬。

 

私が見るに、あれがないとイルが身体から出てこず、直接叩けないのだろう。

仮面ライダーなのなら、他にもあるんじゃないだろうか。イルを引き摺り出す何かが。

 

「使うだろうな ここは道ゆく人を眠らせても問題はないだろうし」

 

使うんですねはい。

テレビ局の人を巻き込まないようにって言ってた貴方は何処に行ってしまったのですか。寝てたら逃げることさえできないでしょ。

 

「…?」

 

...何かに違和感を感じた。

流石に露骨な違和感を感じたため、動きが止まる。

 

「ツバサ?どうかしたか」

 

途中で止まったその言葉に、聞き返そうとした時に気づいた。

熱い。熱い?何が?ズボンの左ポケットから、何か焦げた匂いが。焦げた…?

 

燃えていた。小火がポケットを紅く、侵食していた。

ズボンが燃えてる!?

 

「ツバサ そのポケットの中の何かが燃えてるんだッ 火傷してでもその中の物を取り出せッ」

 

珍しく焦り気味の加良の言葉を受け、急いでポケットを弄ろうとするが…

 

「あっつ、あっち!熱いんですけど!」

 

「しょうがない 後でぐちゃぐちゃ言うなよ」

 

一段と焦げた匂いがし始めたデニムのズボンのポケットに、加良が勢いよく手を突っ込んだ!

ちょっ!!

 

そして取り出して放り投げたソレは…スマホ?

画面が赤々しく、光っていた。

 

「スマートフォン…ツバサ、何か心当たりは?」

 

「ないです」

 

状況が察せないまま周りを見てみると、幾らかの人もまた火のついたスマホを上着で叩いていた。

服が燃えている人もいたし、歩きスマホをしていたためか服が無傷の人もいた。

 

スマホが燃えているの?

なぜ?みんなのスマホが一斉に?

 

「イルの攻撃だな」

 

イル?あの鬱の塊みたいな怪人がこんなことを?

こんな特殊攻撃ができるというの?

 

「仮面ライダーの悪役でもありがちなことだ なんらかの条件に当てはまっている精密機器を燃やしているんだ」

 

そういえば加良はスマホを持っていたハズだ。

しかし燃えていない。持ってきていないとか?

 

考えを読んだかのように、加良はポケットから燃えずにいるスマホを取り出した。

 

「ツバサ お前はSNSをやっているって言ってたな?」

 

「は、はい…TwitterとLINEやってますけど…」

 

つまりそういうことか?まさか、加良さんでもSNSくらい…

 

「俺はSNSをやっていない」

 

さいですか。

 

「おそらくこれが明確な差だ SNSを使っている人のスマホを確実に燃やしている… 理由も明確だな」

 

“the HEROes”の沢中…ネットでエゴサをし鬱になりがち…

先程調べてみたが、沢中はネットで言われもない誹謗中傷を受けたり炎上していた。

理由もないものだったり…まるで、狙われてるように。

 

SNS系統からの誹謗中傷に、恨みを持っているのだろう。

それがきっと、イルになっても忘れられずに...

だからといって関係のない人のスマホさえ燃やすなんて…

 

すると、加良は私のスマホをトングみたいなものでつまんだ。

どっからそんなもん取り出したんだ。

 

「ツバサ このスマホ借りるぞ」

 

あっ、こういう展開みたことある。ここからどうにかして怪物のいるところを推理していくんだよね。

でもなんか嫌な予感するんだけど。

 

すると、加良は。

 

「あちらで燃えていたスマホより、お前のスマホの方がよく燃えている。」

 

そう言って誰もいない道を歩き出す。

すると…私のスマホがもっと勢いよく燃え出した!

 

ちょっ!!!!ちょっ!!!!

 

「恐らくだが この燃え具合がイルの近く度合いと比例している」

 

「…というと?」

 

「お前のスマホでイルの居場所を探る」

 

でたよ。

私、加良さんのこういうとこ嫌い。

 

すると、加良は悪気もなさそうに。

 

「こういうことが起きているということは 既にイルが発生している可能性が高い 誰かが被害を被るのも時間の問題だ」

 

卑怯だよ。そういうの。

 

「弁償してくださいね」

 

「考えといてやる」

 

あーあ。いろいろとバックアップ取ってなかったんだけどな。

そうこう考えている内に、加良が走り出す。

 

誰もいない廊下を進み、突き当りの角をも右往左往して右に。

...ちょっ、加良さん早すぎ!

 

追いついて、目に入ったのは。

...トイレ?

トングで挟まれていたスマホは、子気味いい音を出しながら、床で淡々と燃えていた。

 

「ここにいるってことですね」

 

「そうなるな ツバサ 下がってろ」

 

そう言って加良は。スマホをポケットから取り出した。

 

『-2- -0- -2- -Ritalin-』

 

『Medical Driver』

 

その光景を呆然と見ていた私は。

 

「...ここで変身するんです?」

 

「特撮と違って イルは容赦なく攻撃してくる そしてそれはこちら側も同じだ」

 

淡々と言う加良。

イルに親でも殺されたのかな?

 

『Set up Connect on』

 

軽快なロックミュージックとともに、幾枚ものカルテが加良の周りを飛び交う。

 

「変身」

 

その一言と同時にスイッチを押し、そのまま腕でマントを音を立てて翻した。

カルテが何枚も加良に重なり、コード、そして充電液に満たされ、その仮面ライダーは姿を現した。

 

『Kamen Rider Ritalin202!』

 

『Go Back! Go Back! Go Back!』

 

鼓舞された仮面ライダーが、歩みだした。

 

 

 

トイレの中が異様に暗い。電灯はちかちかと照っていて、個室のトイレが一つだけ鍵がかかっていた。

中には、人はいない。ただし、“人は”だ。

 

すると急に、閉まった個室から波動のような何かが飛び出て空間が振動した。

怪電波...また何か攻撃をしたようだ。ゆっくりしている暇はないらしい。

 

『Prescription Strike. Waitin' for Super Rid∅r Kick』

 

カプセルを二つ、バッテリにつぎこむ。

そして、足に緑色の電気を纏い、雷の速度でドアへ突っ込だ...!

 

手応えはあったのだが。突き抜ける感覚はなかった。

 

「うじゅううううう」

 

そのイルは、自販機のような。パソコンのような。ネオンサインのような見た目をしていた。

見た目に反さず、硬い。

 

「カプセル二つも使ったんだが...この硬さは...」

 

振り払われる手を避け、キックを断念し着地する。

硬いが攻撃は遅い...なるほどな

 

「おやおやおや 正義のヒーローが不意打ちですか...関心しませんねぇ...」

 

誰もいなかったハズの隣の個室トイレから、機械の合成音声のような声が聞こえてきた。

この声は...

 

「患者がイルの近くにいたかもしれないのに、まさかいきなり必殺技とは...流石冷徹主人公」

 

「やっぱりこの件はお前が仕組んだものだったか」

 

自然と、顔がこわばる。

仮面ライダーをやってきて、何度コイツと出会っただろうか。

 

「やだなぁ...そんな怖い顔しないでくださいよ~小説だから顔が見えないとしても、やりすぎですよ」

 

冗談めかすように言いながら、“それ”は壁からひょっこりと現れた。

 

「ナルコレプシー...」

 

「今はカタプレクシーですよ... 前君に貰ったキックが効きましてねぇ」

 

そのガスマスクをつけた男のような“モノ”...全身が黒く、体を黒いガスが覆っている。

人のように見えるが、そうではないと俺は見ている。

 

「流石リタリンと言ったことでしょうか、薬効が高いですね!まともにキックをもらっちゃったもんですから、力が76%ぐらいまで下がってカタプレクシーになっちゃいました」

 

茶目っ気に言う。しゃべり方が非常に腹立たしい。

 

「今回のイルは上出来で芸術的でしょう?いきなり強化ライダーキックを撃たれてちょっと焦りましたが、耐えてくれたのに驚きました」

 

自分をカタプレクシーと名乗るこれは絵に描いたような敵役。

正体を明かさず、一般人をイルに変え、周りに甚大な被害を出そうとしている。

 

「莉緒の件もことの発端はお前だった 今回は直接イルに変えたか ...何が目的だ?」

 

イルの発生条件は二つある。

一つは、尋常じゃない鬱のエネルギーを他人から受け、感染し、自分の体から具現化するもの。

もう一つは...恐らく、いまだ確認されていない薬物を身体に注入するもの。

 

前者においては、前回の莉緒の件と同じである。まわりまわってきた鬱に侵され、その人を死に追いやり、また他人に感染する...

 

問題は後者だ。この謎の存在...カタプレクシーが、薬物を使用して人を直接イルに変えてしまう。

今回がまさにそれだ。

 

「それよりも、なんで今回は私が関わってるってわかったんですか?」

 

「今回の患者...沢中のカバンを探っている時にこれを見つけた」

 

何らかの薬物が入っていたと思われるアンプルと注射器。

 

「わざとだろ?アンプルやらを残していったのは わかりやすく“イル”ってかかれているもんな」

 

「これのおかげで患者の安否なんて気にせずにライダーキックを撃ち込めた」

 

するとカタプレクシーは人間っぽく笑い。

 

「ふふふ、今回は実験みたいなものですよ。」

 

「実験?」

 

オウム返しする俺に、それは。

 

「リタリンという抗うつ剤だけでは治療できない病魔というものをお目にいれてさしあげようと思いましてね」

 

「俺が変身できるのがリタリンだけだと思ったら大間違いだ」

 

そしてそれは、クスクスと笑う。

『何が可笑しい』と聞こうとする前に、叫び声が聞こえた。

 

「加良さん!もしかしてトイレの中でライダーキックしたんですか!?」

 

振り向くと、申し訳程度にトイレの入り口から身を出しているツバサが。

 

「では、楽しんで...」

 

という言葉が耳元に取り残されていた。

カタプレクシーは、消えていた。ツバサが来るタイミングを知っていたかのように。

 

「男子トイレに入ってくるなんて いい趣味してんな」

 

「違います!ライダーキックの爆発音が聞こえてから随分と経っても出てこなかったから…って、イルまだ生きてるじゃないですか!!」

 

そう言えばそうだった。

見ると、自販機みたいなパソコンみたいな見た目のイルは、変なところから生えている拳を随分と振りかぶっていた。

 

「あぶね」

 

間一髪。

動きは遅いが破壊力はあるようだ。便器が割れて…

…!!

 

「トイレの水が沸騰している…」

 

ぼこぼこと、割れて便器から出た水が沸騰していた。

こいつ…熱波を出したのかッ

 

「ツバサ逃げろッ こいつ熱波を出しているッ」

 

このままじゃ不利だ…

リタリンの打撃が効かない硬さ…どうしたもんか…

テレビ局ということもあって被害も出せないし利用できるものもない…

 

「ライダーキックで倒せなかったんですよね!?どうやって倒すんですか?」

 

「確かに“リタリン”では勝てないだろうな」

 

イルから距離を取ってツバサと話す。

策はないことはないが…勝率は低いな

 

「ちょっと待ってください…イルが向かってきてますよ」

 

言われた通りに見ると、イルがゆっくりと、虚空を見つめ前進し始める。

畜生、“リタリン”だけじゃ治療できないだと…?

 

「これ…もしかして、私たちに向かってるわけじゃないんじゃないですか?」

 

ふと、イルを観察していたツバサが言う。

 

「どうしてそう言える?確証はあるか?」

 

すると、ツバサは返事をせずに、イルの背後へするりと回り込んだ。

しかし、イルはツバサを攻撃する素ぶりを見せない。

これは…

 

「“何処か”へ向かっているのか…これはまずい」

 

2人して頷く。

これを放っておいては、多大な被害が…

そこで、一つの考えがよぎる。

 

まさかカタプレクシーは…ッ

 

「おいツバサッ ヒーローズが出演するバラエティ番組は何時から始まる!?」

 

「既に始まってます!まさか…目的地はそこなんですか!?」

 

なるほど…考えたもんだ…

“惨劇をテレビで流すつもり”か…ッ!

 

 

これはまずいかもしれない…

仮面ライダーリタリンが倒せない程の鉄壁の防御力を持つイルが、生放送のバラエティ番組へと向かっている。

 

強化版ライダーキックでさえ効かなかったイルを倒すどころか…どう足止めをすればいいのだろう。

 

「充電は大丈夫そうですね。充電がなくなったらどうなるんです?」

 

「詳しく言えないが リタリンに変身できなくなって、少なくともまともに戦える状態ではなくなるだろうな」

 

今リタリンのバッテリーは6割だ。

しかしライダーキックばかり撃って足止めしても、すぐにバッテリーが切れてしまうだろう。

 

どうすれば…

 

「エレクトリックソードは試したんですか?」

 

「拳や脚が効かなかった相手に剣が効くとは思えないが…」

 

イルは動きを止める様子はない。

私が先回りして人を逃がしているが、生放送を止めることは…

 

『Electric Sword』

 

バッテリを移植され展開していく電気剣。

 

「喰らえ」

 

鈍い鋼鉄音が出る。しかしダメージはない。

 

「ダメみたいですね…」

 

「まだわからんぞ」

 

トリガーを引き、緑色の電気を纏った刃がイルの装甲を削らんと飛び交う。

イルはそれをものともせずに歩き続ける。

 

裏に回ったリタリンは。

 

「なるほど ここにいいもんがあるじゃないか」

 

剣に付属するバッテリにカプセルを一つ入れた。

 

『Injected』

 

そして、リタリンは必殺技待機状態になった剣をイルの背後にある隙間に差し込んで思いっきりトリガーを引いた。

 

『Electrical Slash』

 

差し込んだ状態の剣が、音声と共に展開し肥大化する。

そこに巨大な電気が形となり、一文字にイルを突き抜けた。

 

「…!切れない…」

 

何か抜け道があったみたいだが、ダメだったようだ。

これは本格的にまずい。

 

「まさか配線コードでさえ硬いとはな…仮面ライダーリタリンはもしかしたらここで終わりかもな」

 

「物騒なこと言わないでください!策はあるにはあるんでしょう!?」

 

「もう一種類の“変身”がある…だがそれがまだ、副作用が発覚していない もしかしたらそれは命に関わることかもしれない」

 

“副作用”…

 

「今知り合いにその“変身”の副作用を調べてもらっている それが発覚するまで耐えだ」

 

「私ができることは…」

 

「周りの人を避難させる、それぐらいしか…」

 

もう一種類の“変身”…それの詳細がわかるまで耐え…

完遂させるまでに、どれだけの被害があるだろう。

――そんなの、耐えられないよ。

 

「…?おい、ツバサ!?何処に行く!?」

 

 

……誰かの命の為には、誰かの犠牲がつきものだ。

前回は私が助けてもらった。それなら今回は。

 

周りの人の制止を振り切り、走る。

どうせ事情を説明しても無駄だ。

 

目の前にある、大きいドア。ここを開いたら…

 

心臓がバクバク鳴っている。

しかしこれはこれから受ける羞恥なんかじゃない。走ったからだ。きっとそうだ。

 

自分に言い聞かせて、遂にそのドアを勢いよく開けた。

 

 

その先は…呆然としている大勢の人、そしてカメラがこちらを向いていた。

 

 

「翼ちゃん!?なんでこんなとこに?もしかしてサプライズ出演!?」

 

“the HEROes”のギタリスト、稀がギターを背負ったままはしゃいで言う。あの平井さんでさえ驚いているようだ。

 

MCの人が困惑しながらカンペを見、どうしようもできずにいる。

 

「今こちらに、怪物が攻めてきてます!急いで逃げてください!!」

 

勇気を振り絞り、言う。

私にできることはこれだけだから。

 

「本当です!今仮面ライダーが応戦してるんですが、止める術がないんです!」

 

何を言ってるんだ、という目。衆人環視の中、こんな恥辱…耐えて見せる。誰かの命の為だ。

 

そして、非常識というレッテルを貼られている稀が。

 

「マジ?それやばくね?みんな逃げた方がいいんでないの?」

 

「そんなわけあるかい!こんなイベント、企画になかったやろ!しかも生放送やぞこれ!」

 

「誰か知らんけど、勝手に出てきて好き勝手言うとんちゃうぞ」

 

稀の隣に座っていたお笑い芸人が、ツッコミを入れる。

駄目だ…このままじゃ…

 

「もう…誰にも死んでほしくないんです…」

 

自然に、涙が出た。

人が死ぬのは、もう沢山だ。

誰かが悲しむことは、もう起こっちゃ駄目なんだ。

 

「翼ちゃん…」

 

天井から、耳に入れたくない嫌な音がする。

流石にみんなも気づいたのか、上を見上げた。

 

瞬間、天井に大きな穴が空き、何かが落ちてきた!!

 

「ぐッ!!!」

 

落ちてきたのは…傷だらけになった仮面ライダーリタリン。

 

「加良さん!!!」

 

周りの目を気にせずに駆け寄る。

うめき声を少しあげ、リタリンは変身解除してしまった。

 

周りがどよめきの声を上げた。

 

「悪い…ツバサ…」

 

予想通り、上からソレは降ってきた。

もう、終わりかもしれない。

 

「“イル”…」

 

周りから悲鳴が聞こえる。

逃げる人が多数、逃げずに写真を撮る人が大勢。

芸能人達は呆然と、それを眺めていた。

 

そして、間をおかずにイルは波動を放つ。

 

「うわああああああっ」

 

「きゃあああああああ」

 

阿鼻叫喚の声。波動に幾人も吹き飛ばされる。

熱波も含まれているのか、様々な装飾物に火がついた。

 

もう、終わったんだな。

私は見た。変身解除される前…仮面ライダーリタリンの体を満たす充電液がなくなっていたことを。

 

加良は、充電がなくなると『リタリンに変身できなくなり、少なくともまともに戦える状態ではなくなる』と言っていた。今加良はまともに動けずにイルの行動を見守るしかないようだ。

 

「いや…まだ!カメラを止めるくらいは…っ!」

 

立ちあがろうとするが、できない。

身体に力が入らない。なんで、なんで、なんで、なんで

 

涙が溢れる。

仮面ライダーの世界って、こんなにも残酷だったんだなって。

 

「そんな悲しそうな顔すんなって。」

 

……?

 

稀が、ギターを担いだままこちらに来ていた。

 

「稀さん…」

 

「こういう残酷な世界は、誰だって通る道だっ」

 

ぽんぽんと肩を叩いた後、イルの方へ向かっていった。

駄目だ、行かせちゃ…

 

泣きそうな顔の私を横目に、歩く稀は。

 

「おっと、今回は左手から出てきたか」

 

言う通り、稀の左手には何かが生えていた。

あれは…アンプル?

 

「そんじゃ行こぅ!正義のヒーロー!」

 

カメラは稀に集中していた。

 

稀はスマホをちょちょいと操作すると、機械的な音声が流れる。 え…え…!?

 

『-Over Ampere-』

 

すると、ギターから伸びる肩掛けが瞬時に稀の腰に巻きついた。稀は器用にスマホを、ギターの弦が途切れて空いた部分に取り付けた。

 

『Suicidriver』

 

弾き語りのギタリストのように、ギターを目の前に下げた状態で、イルを見る。

手に生えていたアンプルを取ってギターにさし、まるでスイッチかのように倒した。

 

『Switch On』

 

瞬間、弦が稀の周りを薔薇の茎のように巻きつき、導火線のように…だが所々に火がついた。

 

「うおおおおおおおおお 変身っ!」

 

じゃーん、と指で弦を払った。

 

『Convert』

 

『Looking for “A”』

 

軽快な音楽が鳴り響く。

周りに浮く弦が、稀にピッタリと巻きつき、燃え上がった焔から出てきたそれは。

 

『Rits, anymore.』

 

『It's fate to be weed head』

 

「俺は仮面ライダーアンプ… 翼ちゃんさ、助けたんだから後でホテルどう?」

 

しつけえ!

 

 

 

 

無数の弦が通り、絡まったような見た目。

所々に炎や雷をあしらった模様があり、身体は赤と黄が基調とされている。

 

顔には弦を繋いだ『A』の文字が浮かび上がり、闇を落としたような黒い複眼がイルを覗き込む。

 

仮面ライダーアンプ…

ギターが変身ベルトの仮面ライダー…!

 

「じゃあ死ね!」

 

ちょっ!!

 

前置きをパッと済ませて、アンプはいきなりイルへと殴りかかった!!

 

「とりゃっ!とうっ!かてぇ!」

 

がん、ごんと鈍い音を出しながらも、アンプは殴り続ける。

 

「うじゅううううううう」

 

イルが振りかぶって拳を振るってきた。

しかしアンプはそれをものともせずに、逆に拳を足場にイルの背後に跳んだ。

 

「動きがぬるいぞ!もっと熱くなろうぜ!」

 

すると、再び勢いよく弦を鳴らした。

 

『Heat Up』

 

すると、アンプの周りを紅い火が囲った。

その火はアンプに吸い込まれ、体にある炎の模様が強く紅く光る。

 

「うおおお死ね!」

 

再び無謀にも殴りかかった。

ダメージは入ってないが…押してる…

 

「力が増加してる…」

 

「まだまだ足んねええーー!」

 

じゃかじゃか弾き鳴らしたギターが奏でる音は、まるで悲鳴だった。

 

『Heat Up』

 

また叫び声と共に、イルは袋叩きにされる。

格段に力が上がっていっている…!

 

「喰らえやっ」

 

そして遂に、イルは吹っ飛ばされて倒れた。

倒れたイルは動かない。

 

「おっ、やったかな?」

 

「仮面ライダー…アンプ…」

 

呆然とそう呟くしかできなかった。

リタリンこと加良も、動けずそれをみていた。

 

「どうよ!仮面ライダーはお前1人だけじゃないんだぜ!まさかお前が仮面ライダーとは思わなかったがな!」

 

カメラ目線でダブルピースを決めながら、倒れたイルに近づいていく。

 

「最後はかっこよくライダーキックで決めてやるぜ!」

 

「おい馬鹿」

 

加良の制止など知ったもんかとどんどんイルに近づくアンプは、至近距離に来たところで…

 

熱波をモロに喰らった。

 

「うおおおあっちッ あっつ ちょっ熱いんですけど!」

 

シリアスな感じだったのに、何やってんだこの人。

なんでギャグ路線に持ってってんのこの人。

 

燃えてジタバタしているアンプを、勢いよく。冗談にもならなそうな蹴りを入れた。

たまらず、声も出ずに吹っ飛ぶ。

 

アンプが飛んでって動かないのを視認し、次にイルの視界に移るのは...

 

「やめて!!」

 

体は動いた。

動けないでいる芸能人に近づくイルの目の前に立ちはだかるのは、一瞬だった。

 

「うじゅうううう」

 

あぁ...

イルが私を片手で持ち上げる。

そしてそれは、容赦なく。

 

「...っ! ぁぐっ ...っ!!」

 

一回。二回。三回と、拳をいやというほど撃ちこんでくる。

あっ、これもう駄目かも...

 

加良さん...

 

「やめろ」

 

 

目に映るのは。片手でイルの拳を止める加良だった。

拳を止める手から流れる血よりも、そのイルを睨む目の方が血走っていた。

 

「やめろと言ってるのが聞こえねぇのか おいッ!!!!!」

 

そして、思いっきりイルを蹴っ飛ばした。

なんだ、王道の展開じゃないですか加良さん...

 

「加良さん...」

 

「これ以上うだうだしてるのはやめだ」

 

『-1- -1- -5-』

 

『Calonal』

 

『Medical Driver』

 

「副作用なんてしったことか 誰かの未来を紡げるならな」

 

このコードは...その錠剤は...!

 

『Set Up Connect On』

 

「変身」

 

無数に飛び交ったカルテが、仮面ライダーの素体にひっつき、青色の充電液が流れ込んだ。

白を基調とした体...その体中を通る青色のコード。

とげとげとした氷が体にまとわりつき、吹雪のようなものが、マントの代わりにマフラーのように渦巻く。

結果的に見た目は白、水色っぽい。

 

『Calonal115』

 

『Cool down, you idiot.』

 

「これ以上こいつに手を出したら殺す」

 

そしてずかずかとイルに歩み寄る。

 

「後悔しろ」

 

 

 

その仮面ライダーの周りには、見たらわかる程の冷気が漂っていた。

あれは...“リタリン”ではないのだろうか?

 

イルは、吹き飛ばされた恨みなのか先程よりも早い動きで殴り掛かる...が。

その拳は、重厚な氷に防がれた。

 

次々と、イルの攻撃を氷で、手で、捌いていく。

そして気づくと、いつの間にかイルの足元が凍っていた。

 

 

「氷の能力の仮面ライダー...」

 

「ツバサ 大丈夫なのか」

 

「大丈夫じゃないです」

 

口から少し出た血を手で拭い、痛みにこらえる。

わからないが、たぶん骨が折れてるんだと思う。

こういう時は下手に動かない方がいい。

 

すると、アンプが加良に近づき...!

 

「死ねっ!!」

 

思い切りギターを振り下ろした。

が、加良はわかってたかのような動きで避けた。

マジで何やってんの?この人。

 

「お前マジでふざけんなよ!翼ちゃんの前でかっこつけやがって!それの俺の活躍まで奪って!」

 

「ノリノリで出てきてかっこつけた割にすぐダウンしてたな 恥ずかしくないのか」

 

「むっかー!なんだよなんだよ!新しいリタリンのフォームに変身しちゃって!」

 

「フォームでもリタリンでもない 仮面ライダーカロナールだ」

 

会話を聞きながら考える。

仮面ライダーリタリンでもない?

それに、カロナールって、解熱剤の...?

 

じゃあ、リタリンも薬の名前ってことか...

 

「それより、あのイルをはやく協力して倒してください!」

 

「策、あるんですよね?」

 

「ああ」

 

私は、イルを倒す為にとっておきの秘技を...

 

「稀さん、協力してイルを倒してください...お願いします...」

 

「ったく、しょうがねーなー!おい加良とやら!協力プレイだ!」

 

これでよし!

 

 

 

熱エネルギー弾によって既に足元の氷を溶かしていたイルは雄たけびをあげた。

 

「アアアアアアアアアアア」

 

熱球を避け、イルに走って近づいたカロナールとアンプは、勢いよく同時にストレートに決めた。

よろめいたイルは回転して振り払うが、かえってアンプとカロナールに挟まれる形に誘導されてしまった。

 

『Electric Blizzard Sword』

 

『Heat Up』

 

カロナールは冷電気剣、アンプは真っ赤なギターを振りかぶり、猛攻を重ねていく。

炎の打撃、冷気の斬撃がイルの硬い装甲を削っていく。

 

「どういうこった!?効いてるぞ!」

 

イルはいよいよ、熱波の全体攻撃を繰り出す...が。

 

「熱...くねぇ!てか寒っ!」

 

熱波は打ち消されるどころか、周りが凍り付いてしまった。

そしてまたもや器用にイルの動きが封じられている。

 

「...」

 

「成程、キメろってことね!」

 

アンプはどこからともなく取り出したアンプルをギターにもう一本さしこみ、じゃかじゃんと弦を鳴らした。

 

『Burst Rock'n'roll』

 

炎を纏ったギターの殴打が、イルに直撃する。

 

「ゔぁああああ」

 

二人の攻撃が...最硬のイルに通じている!

一体どうして...?

 

倒れてじたばたしているイルを尻目に、二人は頷き。

 

「死ね」

 

「アップビートでキメるぜぇ!」

 

加良さん、キメ台詞くらいないと。死ねは駄目だよ。

 

『Calonal 115 Strike』

 

『Encored Rock'n'roll』

 

カロナールが空中に跳び上がると同時に、氷のスライダーが出来上がった。

アンプが焔を纏いイルの真正面に回し蹴りを撃ちこんだのに対し、カロナールのキックは廻るスライダーの先...イルの背後へと叩き込まれた。

 

頑丈な装甲は炎と氷のライダーキックに削られ、遂に崩れ落ちる。

 

「アアアアアアアアアアア」

 

イルは倒れ、異形の姿から1人の人間へと変化する。

 

「す、すごい連携プレー!なんであんな硬かったイルを倒せたんです!?」

 

変身解除をし、こちらに近寄ってきた加良と稀。

加良が質問に答えながら、応急処置を施してくれる。

 

「急激に発生した極めて大きい温度差の熱却と冷却による熱膨張で装甲のダウンを狙った」

 

何いってんだこの人。

ご都合展開で勝ったと思ってたらちゃんと論理で勝利してたの?

 

...早い話、こう。物質は熱せられると膨張する。これを熱膨張というのだが、これが大きい温度差で発生すると、極めて大きい破壊エネルギーが発生するらしい。

炎を操る仮面ライダーアンプと、氷を操る仮面ライダーカロナールのペアだからこそ成し得た勝利と言えよう。

 

未だどよめきが消えない撮影現場で、加良は深刻な顔で私に言った。

 

「一般人のお前を巻き込んでしまったこと 申し訳ない」

 

???本当に加良さんか?これ

 

「加良さんどうしたんですか?らしくないですよ?」

 

しかし加良は口調を変えずに。

 

「救急車は呼んだが、その後の対応にきっと困ることになる」

 

「え?そうです?あー確かに、イルがどう、とか説明しにくいですもんね」

 

すると、加良は非常に不思議そうな顔をした。

 

「お前 スマホ持ってないだろ」

 

あ。

 

 

「その怪我、そしてスマホの故障...きっと無事に帰れない だから」

 

「俺の家に来い」

 

 

...???

もしかして私、仮面ライダーにお持ち帰りされちゃうんですかね?

 

「マジすか...」

 

 

 

言わずもがな、話を聞いていた稀がもう一度変身しようとするのを止めるのは容易ではなかった。

 

 

 




なんか1話目書くときより時間かかった気がするけどなんでだろ?
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