仮面ライダーリタリン   作:ラタ

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受験生なので、更新頻度がこれより遅くなります。勘弁してください。

仮面ライダーリタリン面白い…面白くない…?(自惚れ)


#3 SPEEDCHARGE 666

病室。気づいたらここに居た。

そして、部屋に変なヤツがいる。

 

なんでここにいるんだろう。ここは何処だろう。こいつはなんなんだろう。

最初はそんな疑問ばかりだった。

 

『災難でしたね、沢中さん』

 

ガスマスクをつけた黒い変なヤツが話しかけてくる。

俺のことを知っている…もしかしたらファンかも?自分のことを知ってるってだけでちょっとテンション上がってきた。

 

寝転がっていた姿勢から、変なヤツへと向き合えるくらいに体を持ち上げた。体が重いな…

 

「あんた、俺のファンか?」

 

『まあ、そんな感じですかね。』

 

なんでそんな言い濁すんだ。

でも少し嬉しいな。

…って今はそれどころじゃなくて。

 

「ここは…病院か?あんたは、俺の見舞いに来てくれたのか?」

 

病院ってのはわかりやすい。部屋にある物を見たら一発でわかる。

 

俺が眠っていたベッドから少し離れた椅子に座っていたヤツが口を開き、言う。

 

『いやあ、本当に災難でした。怪物に襲われただけではなく、まさか“治療費”にギターを取られてしまうとは…』

 

「!!」

 

瞬時に周りを見渡す。

……いつも肌身離さず持っていたギターが無い…

 

「今、なんてった?“治療費”っつったか?」

 

『ええ。』

 

くぐもった声が、俺の頭の中で響く。

 

『教えてさしあげますよ。貴方の身に何が起こったのか。誰が貴方のギターを奪ったのか。』

 

『……どうすればギターを取り返せるか。』

 

俺はいつの間にか、身を乗り出してその男の話を聞こうとしていた。

 

 

 

 

「知らない天井だ…」

 

今、起きた。

起きて気になったこと…強いていえば今何時なのかとか。

あと、視線の先の天井に見覚えがないこと。

私ちゃんと化粧落として寝たかなあ…最近忙しくて寝落ちすることとか多いもんなあ。というか、夜だけに限らずに寝落ちすることがあるし。

 

部屋に時計は置いてないから、スマホで時間を…

あれ?スマホは?

 

周りを見渡しても私の愛用のスマホはない。

……てか、これ私の部屋じゃなくない?

私の寝室にテーブルやらテレビやらはない。

 

「そういえばそうだったなあ…」

 

聞こえるようにわざと独りごちた。

見渡した時に見えた、1人の男に。

 

「…」

 

「……………ああ 起きたのか」

 

大幅なインターバルと共に目覚めた男、加良椎奈。

まるで病人を見守る親のように、私が寝るベッドの側にいた。椅子を置いて見守っていたらいつの間にか寝てたみたいな感じかな?

 

こんなシチュエーションって本当にあるんだなあ。

 

「ここ、どこです?病院?じゃないですよね」

 

「当たり前だ ここは俺の家だ」

 

うわあ…

ついに来ちゃったのかあ…

 

「なんて顔してんだ」

 

「私そんなにしかめっつらしてました?」

 

男の人の家に泊まるなんて生まれてこの方ない。

てか、彼氏とかできたことない。

つら。

 

「目覚ましのコーヒーでもついでくる お前もいるだろ?」

 

「あっはい…ちなみに今何時です?怪我についても聞きたいんですけど…」

 

「そういうのも後だ」

 

えぇ…

加良が階段を降りていく音が聞こえる。

スマホもないし、暇だな。

 

「……なんでスマホが無いんだっけ?」

 

何故スマホが無いのか、何故加良の家で寝ていたのか。

頭を軽く振って思い起こす。

 

昨日、人気ロックバンドのギターヴォーカル担当、沢中大和の訪問カウンセリングでテレビ局に向かった。

加良とはそこで再会した。加良と沢中を探すも、彼は既に何者かにイルに変えられていた。

そういや、イルの特殊攻撃で何人かのスマホが燃やされたんだっけな。もしあの攻撃の射程距離が長かったらテレビ局内の全スマホが燃えていたのだろう。

 

最硬のイルにリタリンは太刀打ちできず、遂にイルは生放送中の番組に乱入。リタリンの充電切れで万事休すかと思われたが、まさかの稀之高というヒーローズのギタリストが仮面ライダーアンプに変身。負けじと加良も仮面ライダーカロナールに変身し、アンプとカロナールの共闘でイルを撃破…

 

んで、私のこの怪我は…そっか、周りの人を庇った時に何度も殴られたやつか…

ちょいと服をめくってみると、お腹の部分に包帯が巻かれている。…てか、服は昨日のままか…帰りたい…

 

思い返しても暇なので部屋を観察し始めた頃。

馴染みのない声が聞こえてきた。

 

「からし!来たぞー」

 

…?誰だろう。からし…?

声的にも、若々しい男性の声に聞こえた。

 

「返事しろよー かくれんぼか?受けて立つ!」

 

瞬間に、どたどたと走り回る音が聞こえた。

もしかして加良さんを探してるのかな。

 

…いや、まさかね?寝室には入ってこないよね?

 

「からし!ここにいるだろ!」

 

 

目があった。

場が凍りつく。

 

「あっ えっ あっ」

 

「なんかそのすいませんでした」

 

「ちょっと待って!!そういうのじゃないから!そういうのじゃないから!」

 

ドアをそっ閉じしようとした“男の子”に叫ぶ。

ベッドから身を乗り出そうとしたが…

 

「いっつ…」

 

傷が痛んだみたいだ。無理に動いちゃ駄目か…

すると、ドアから少し覗いていた男子高校生は…

 

「…まあ、てのは冗談なんだよね」

 

さっきの平謝りの声はどこにいったかわからないくらいのトーンで言った。

 

彼はそう言いながら、部屋の中に入ってベッドの近くの椅子に座る。先程加良が座っていた椅子だ。

 

その高校生だと思われる青年…いや、少年?

身長が高いというわけではなく、もしかしたら私の方が背は高い。顔に少し幼さを残しており、制服らしきものの前のボタンを外してマントのように羽織っている。私が“少年”と判断した理由でもある。

 

「からしから話は聞いてる。君が羽渡さんだな」

 

これ年下か…?

 

「そ、そうだけど…あの、からしって…?」

 

「何断りもなく人様の寝室に入ってきてんだ」

 

マグカップを“3つ”トレイに乗せた加良がやってきては一言目にそう発した。

 

「おっ、からし!元はと言えば僕がきても返事しなかったお前のせいだろ」

 

加良は少年に感情のこもってない返事をして、マグカップを一つ私の近くの小さいテーブルに置いた。

 

「加良さん…?あの、彼は…?あとからしって?」

 

まだ理解に至っていない。加良の知人だろうか。

てか私がいることを知ってる上でさっきのかくれんぼの流れをやったってかなり悪質だな…

 

「おいおい、来るって説明してなかったのかよ…これだからからしは…」

 

「これの名前は末次 俺の知り合いだ」

 

“末次”と他己紹介された少年はドヤ顔をした。

 

「僕は末次。加良椎奈を略して“からし”って呼んでる一般高校生だ。」

 

「は、はあ… 今の紹介じゃあんま繋がりがわからないんですけど…」

 

知り合いということは家族ではないということだ。しかし加良のことをあだ名で呼べるくらい仲がいい…

見た感じ本当にただの高校生だし…

 

「まあ、ご飯食べながら詳しく説明するよ。朝飯適当に買ってきたから。」

 

よくできてるなあ。

…てか、今日が平日か休日か今何時かなんてわからないけど、学生はこんなとこにいて大丈夫なのだろうか?

 

腕にかけていたビニール袋からおにぎりやらサンドイッチやらを取り出し、ベッド近くのテーブルへ並べる末次。加良は何を食べようかと吟味していた。

 

痛む身体を起こしてサンドイッチを受け取る。

ついでに下にこぼしてもいいようにシートのようなものも受け取った。

 

「準備は整ったっ!」

 

テーブルに着く加良と末次。側から見たらただの兄弟だ。

 

「いただきまーす」

 

「いただきます」

 

…あれ?今加良さんいただきますって言った?

怪訝な視線に加良は気づいたようだが…明らかに不機嫌そうな視線を返された。

……すいません。 心の中で謝りながら、両手を合わせた。

 

「さて、僕と加良の話やらの話をしたいところなんだけど、まずこれを見て欲しい。」

 

一口おにぎりを齧って言った末次。

リモコンを手に取り、テレビに向けその一撃を放った。

 

…やっていたのは幼児向けの番組。

加良はため息をつきながら、サンドイッチを咀嚼している。

 

「…いや、これじゃあないよ」

 

そりゃまあ。

瞬時にリモコンを弄り、末次はチャンネルをニュース番組へと変える。

 

「何が始まるんです?」

 

サンドイッチを咀嚼しながら問う。

“まあ見てなって”とでも言うような視線を受け、黙りながら映像を流し続ける画面を見る。

 

「っ!?」

 

衝撃的な映像が、私にサンドイッチを嚥下させなかった。

げへっげへって間抜けな音の咳と共に…

危ない。シートが間に合った。

 

「これは!?」

 

「まあ 見ての通りだ カメラは結局止めれなかったからな」

 

「まあ逆にニュースにならない方がおかしい気がするけどね。」

 

そのニュースが報道していたのは。

 

『昨日、生放送で放送されたバラエティ番組に怪物が出現しましたが…』

 

『仮面ライダーと名乗るロボットらしきものが怪物を撃退しました。』

 

ニュースキャスターが、何度も喋ったからなのだろうか。特に驚きもせずに淡々と紙に書いてあることを読み、口に出していた。

 

「昨日の…私たちの…」

 

「おう、一躍有名人だよ羽渡さん。」

 

それはそうだ。生放送にイルが乱入する前、私は出演者に逃げるよう勧告しに行っていた。

その上、イルが著名人を攻撃しようとした際に私はそれを庇ったのだ。

 

「よく考えたら私すごいことしてたんだなあ」

 

「僕もヒヤヒヤして番組を視聴してたんだよ。それにしてもさあ、仮面ライダーを“ロボット”って呼ぶのはナンセンスすぎない?」

 

彼も生放送を見ていたようだ。

 

「存在がナンセンスだと思うんだがな」

 

「副作用を発見し終える前にからしがカロナールに変身したもんだからさ。本当に文字通り冷や冷やだったよ…能力だけにね」

 

……ん?

 

カロナールの能力よりも寒いギャグを無視して加良が尋ねる。

 

「副作用 発覚したのか」

 

「たりめえよ!リタリン程のものではなかったから気にしなくていいと思うぞ」

 

この少年…まさか?

つい昨日の、加良の発言を思い起こす。

仮面ライダーカロナール…の、“副作用”…?

 

"仮面ライダーリタリン"では倒せない硬度のイルを目の当たりにした時の私と加良さんの会話。

 

『もう一種類の“変身”がある…だがそれがまだ、副作用が発覚していない もしかしたらそれは命に関わることかもしれない』

 

『今知り合いにその“変身”の副作用を調べてもらっている それが発覚するまで耐えだ』

 

その知り合いっていうのは…

 

「もしかして末次くんって…」

 

「そういうこと」

 

その先の疑問を口にだすよりも先に端的に会話を終わらせた末次は、加良に『変身用リタリン今ないからカロナールね』と錠剤を渡した。そして彼はこちらを向き直り。

 

「確かに僕は昨夜、カロナールの変身リスク(副作用)を調べてた。でも、僕ができるのはそれだけじゃないんだぜ」

 

ドヤ顔で言った。

今の言葉の時点で聞きたいことはあったが、それよりも先に加良が口を開いた。

 

「こいつはメディカルドライバー…つまりライダーシステムの開発をしてる」

 

「????????????」

 

はい?

 

「それマジで言ってんです?」

 

「ま そういうことになる」

 

「マジに決まってるだろタコ」

 

口悪。

 

「加良が変身する仮面ライダーリタリンとカロナール…ついでに仮面ライダーアンプとかもベルトは僕が作ってる」

 

「それ初耳だな 後で詳しく」

 

今の加良の発言も気になるが。

 

「君高校生だよね…?」

 

年齢聞いてないけどこれで大人とかないだろ。

ないだろ…?

 

「高校生が仮面ライダーの変身ベルト作ってちゃ悪いんですかねえ...」

 

「マジかあ…」

 

じゃあ何故ライダーシステムの開発をしているのだろう。

 

「なんで仮面ライダーを作ろうと…?加良さんに雇われてる…とか?」

 

なんらかの使命があるのだろうか。研究者の子とか…

 

「趣味。僕は気が向いたから仮面ライダーを“書いて”いるんだ。」

 

えぇ…てか、今彼書くって言った?

そんな疑問を抱いていると、自嘲気味に加良が薄い笑みを浮かべ言った。

 

「これに世界の命運がかかってるんだぜ 笑えるだろ」

 

笑い事じゃないんですが。

 

「それじゃあリタリンの強化とかは、末次くんの気分次第…ってこと?」

 

「まあそうなるわな。そんな技術力あるかなんて知らないけど。」

 

なんなのこの子。

逆にこういう感じでヒーローをやってきて、犠牲者が出ていないのに驚きだ。

 

「でも…」

 

末次がライダーシステムを開発していることや、それが趣味であることは今はどうでもいい。

話の流れなど気にしない。さっきから質問する前に遮られてるから...

 

「リタリンの副作用ってなんなんですか?」

 

加良の食事を進める手が止まった。

末次も、それに続くように手を止める。

 

「それは…」

 

その言葉は、加良がテーブルを叩き立ち上がる鈍い音に遮られた。

 

今度はそういうパターンか... 

いきなりのことに驚き、軽く脱力し、のけぞってしまった。

 

「ナルコレプシーだ」

「ナルコレプシーか」

 

そう言ったのは、末次も加良も同時だった。

 

「え?」

 

加良はポケットからスマホを取り出し、食事を放って走り出した。

 

「からし カロナールは副作用はないが抗うつ作用はない。そこんとこ気つけろよ」

 

「わかった」

 

今の一瞬で、何が起こったのだろうか。

聞いたことのない単語。ナルコレプシーと言っていた。

 

「わかってるさ、ナルコレプシーのことだろ」

 

走り去る加良を眺める末次。

コーヒーを啜りながら彼は言葉をこぼす。

私の心の中を悟っているような彼の素振りに私は黙り込んだ。

 

「今最近起こってる怪人騒動…それの黒幕のことさ」

 

「黒幕!?」

 

「あぁ、こちら側は既に奴のことを把握している。向こう側からからしに接触しに来たことも多々あった。」

 

それって、本当に黒幕なのだろうか。

私は特撮や漫画といったものの知識に乏しいからなんともいえないけど…

 

「確かに今までの特撮でもそういうケースがないというわけではなかった。でもやっぱり、意外なキャラがラスボスだった、というケースの方が多かった。」

 

特撮モノ…仮面ライダー作品をかなり見ているような言動だ。だから...と前おいて彼は人差し指を立てる。

 

「僕は個人的にナルコレプシーはラスボスなんかじゃないと思ってる。」

 

黒幕≠ラスボスみたいなイメージなのだろうか。 

 

”つまりまだラスボスと思しきものは現れていないってことだね”

 

と口にする瞬間だった。

 

 

『おやおや、私が黒幕であってもラスボスじゃないって言いたいんですか』

 

「!!」

 

「えっ!?」

 

いつのまにか、窓際にソレは居た。

ガスマスクをつけた人型の“何か”。全体的にに真っ黒。

窓から来たように見えるが、窓は開いていない。

 

「ナルコレプシー…」

 

『や。この前はどうも。前の処方箋は随分と効きましたよ。処方量いつもより多くしました?』

 

フランクな喋り方とは裏腹に、ガスマスクでくぐもったような声…その上、よく聞くと何か聞き覚えのある…合成音声みたいだ。

 

「からしはどうした?見た感じ戦闘までには至ってないみたいだが」

 

『ちょっと今日は戦う気分じゃないから談笑しにきただけなんですよ。彼には次イルが出現する場所とかその他諸々を教えてあげたんです。』

 

何言ってんだコイツ。これが…悪役?

悪役のはずなのに嫌悪感が湧かない。そんな自分に嫌悪感が湧く。

 

「正義のヒーローと談笑とはなかなか良い趣味してんじゃん。やっぱおめーラスボスじゃねえだろ」

 

『これはなかなか判断し辛い質問ですね。そちら側が用意している“仮面ライダー”の種類を教えてくれたら少しは答えてさしあげますよ?』

 

冗談めかして言ってくる。

言うわけないって分かった上での質問だろう。

 

「リタリンとカロナールとフェノバール。次はテトラサイクリン辺りを試してみようと思う」

 

 

何言ってんだコイツ。

 

「何言ってんだコイツ」

 

『心の声漏れてますよ』

 

「え?教えたんだから教えてくれるんだよな?」

 

それ以外に何も考えてないような純粋な疑問の顔。

これマジ?

 

『そうですね…確かに私が黒幕です。イルを生み出してるのは今のところ私だけですし。でも、ラスボスは私じゃないかもしれません。』

 

答えるのかよ。

何者なんだコイツ…!

 

「ナルコレプシー…なんで無関係の人をイルに変えるの?なんでイルを生み出すの?」

 

『そりゃ、世界中の人を鬱にして混乱を巻き起こす為に決まってるじゃないですか』

 

圧倒的な棒読み。元々の機械音声が更に変に聞こえた。

 

「嘘つけよ。何か目論んでるんだろ」

 

『当たり前でしょう。それは流石に教えませんけど…ま、仮面ライダーリタリンの活躍が見たいだけなんですけどね。』

 

えぇ…(困惑)

 

「今回は本当に談笑に来ただけなんだよな?僕にも何か面白いこと教えてくれよ。」

 

『えぇ~っ?しょうがないですね。一つだけ教えてさしあげましょうかね』

 

「やったぜ。」

 

仲良しかな?

 

『私ですね、とある技術の開発に成功してですね、今回はまた学校を標的にしちゃいました。』 

 

『遂に“小さな鬱”でさえイル化することに成功しまして...今日の午前中に実験するつもりなんですよね。』

 

小さな鬱をイル化…?それってどういうことだろう。

 

瞬間、鈍い音がした。

それが末次が勢いよく踏み込んだ音と判明したのは、私がナルコレプシーの意図を察しようとしている時だった。

 

「それマジに言ってんの?」

 

見逃してしまうような速い動きだった。

彼は今の一瞬で制服の内側から“それ”を取り出したのだ。

 

『おぉ、怖いですねぇ...』

 

ナルコレプシーのガスマスクに突き詰めている大きめの銃。

特撮作品で出てくるような…最早銃と言える形状をしていない気がするが...

 

『手に持っているのはリタリンですか...(ナルコレプシー)に効く特効薬はそれだけですからね...まぁそんなちゃちなもので私を倒せたらこの物語はすぐに終わってしまうでしょうけど。』

 

末次が握るその手には、小さなカプセルがあった。

ナルコレプシーの特効薬...リタリンが...?

 

「逆にお前はこの物語にどんな“終幕”を見る?」

 

『そりゃ、私の野望が叶った暁でしょう。』

 

すると、ナルコレプシーの周りを漂っていた真っ黒いガスがガスマスクに吸い込まれていく。

それに伴い、体も薄くなっていた。

身体がガスで構成されているの...!?

てかそうやって脱出するの…!?

 

「待て!」

 

カプセルを装填し、発射する…が、その前にその身体はガスマスクの中に消えた。

その弾丸はガスマスクに着弾し、嫌な金属音を響かせるだけに留まってしまった。

 

『おぉ危ない...見た目の裏腹に結構殺意籠ってますね』

 

地面に音を立てて落っこちたガスマスクからまだ声がする。ガスマスクから白い煙が発生していた。

それを聞いた彼はというと...銃口から出る煙をふぅと吹き散らかせていた。

...いや、倒せてないでしょ。

  

『最後にもう一個...私事ではありますが、私もとある趣味を始めまして...』

 

仮面のようなガスマスクに出来たヒビが収束する極限点に達する時。

その機会音声のような声が聞こえないくらいに言った。

 

『いやぁ、ライダーシステムの開発は楽しいですね。』 

 

その瞬間にガスマスクは完全に砕けた。

 

わりかし長めの沈黙が降りた後。

ようやく末次が口を開く。

 

「やってんなぁ、あいつ。」

 

「ナルコレプシーが言ってた...新しい技術って...」

 

散らばったものを片付けながら、末次はウンと頷いて言った。

 

「からしが奴と交戦しないのも無理はないな。」

 

「奴はもともと、不安や依存、そして鬱...心に起因する事象を怪物化させる技術を持ってんだ」

 

「イルはその代表例...といってもイルは基本重度の鬱じゃないと発生させることはできない。これであいつの言ってたことはわかったか?」

 

……???

私の顔を見て察した末次くんが語り出す。

 

「鬱病社会とはいえ、"重度の"鬱病患者を探し出すのは容易じゃない。だからイルの数はいつも少ないんだ。でも、ほんの小さな…例えば、“課題多すぎて辛い〜”みたいな鬱でもイルに変えれるとしたら?」

 

それって鬱って言えるか…?言えるか。

重度の鬱じゃないとイルに変えられなかった…?確かに今まで相対してきたイルは一体だけだった。

 

ナルコレプシーは、今回はまたもや『学校を標的にしている』と言った。

もし軽度な鬱をイルに変えれるようになったら…?

 

……まさか!

 

「学校の全生徒の鬱をイルにしようとしてる!?」

 

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こんにちは、羽渡翼です。

福岡県出身で24歳、独身です。

バイクとかはともかく、車の免許さえも取っていないため、急いでる状況なのに交通手段が限られてるのが凄くもどかしい私です。

 

席に座り、目的の駅への到着を待ち侘びる。

やっぱり車の免許、取っといた方がよかったかあ。

加良はバイクがあるのですぐにでも学校に到着してるだろう。

 

まあ…こういう移動時間にでもできることはあるはずだ。…ナルコレプシーの目的の考察とか…?

 

“重度ではない鬱でもイルが発生させれるようになった”…そして今回の標的は学校。調べたところ高校だった。

つまりナルコレプシーは、学校中の生徒からイルを生み出すつもりなのだ。

 

想像しただけでも…

もし止めれなければ被害は甚大になり、もっとイルが発生することだろう。

 

気になるのはそれだけではない。

ナルコレプシーは、ライダーシステムの開発についても示唆していた。もしシステムが完成していれば、どんなことが…

 

電車に揺られながら、膝の上に鎮座するバッグの中を覗き見る。

 

……銃だ。

 

バッグの中には、末次くんから預かった銃とリタリンカプセル錠が複数入った瓶。

彼曰く、『こんなんいくらでも作れるから、遠慮せず持ってって。』らしい。

いざとなったら…私もこれで戦わないといけない。

 

「…できれば使いたくないな。」

 

少なくとも、人には。

 

「おっ、ツバサちゃんじゃん!オッスオッス!」

 

使っちゃおうかな。人に。

 

目の前には、電車内にも関わらず大声を出した非常識男こと稀之高がいた。

これの連れとは思われたくないな。

 

逃げるか。

 

 

倫理という概念を知らない男から逃げおおせた。

傷が少し痛むが、あの男に捕まるよかマシだろう。

そして麻布手高校にようやくついた…のだが。

 

「加良さん…もしかして今着いたんですか…?」

 

「ツバサ…来たのか…?」

 

校門の前には、ザ・疲労困憊という顔の加良がいた。

かなり様子がおかしいが…

なぜ私よりも先に出たのに同時に着くのだろう。

 

「どうかしたんですか?凄く疲れた顔してますけど」

 

「…」

 

…あれ?おかしいな。さっきまで目にクマなんてなかったのに…

顔をまじまじと見る私を尻目に、加良はスマホを取り出した。

 

「…何もない。なんでここに来た。」

 

喋り方に何か違和感を感じながらも返す。

そう、私も何も考えなしには来ていない。

 

「何もできないわけじゃないですよ。生徒たちの避難だってさせれるはずですし…」

 

「…足手纏いにはなるなよ」

 

「善処します」

 

カバンから、銃を取り出し言った。

 

「……足手纏いになるなよ」

 

「なんで2回言ったんですか」

 

 

心配性なのか、もう一度同じことを言った加良と歩き出した。

 

 

この高校には一時期勤務していた。道をしっかり把握している翼ちゃんと加良さんは生徒相談室に誰にも見つかることなくつきましたとさ。

私にもできることあってよかったぁ。

 

「それで…今回発生するのが集団のイルなのなら、どうやって予防するんですか?」

 

「予防は不可能だ…俺は奴がイルを作る瞬間を見たことがない…“どうやって鬱のエネルギーをイルに変化させているのか”…これがわからないから、発生したイルをとりあえずで叩くしかない。」

 

……やっぱり、なんか加良さんおかしい。

喋り方もいつもと違う気がするし…

もしかして、到着する前にイルと遭遇して戦ってたとか?後で充電液で確認しよう。

 

「今は10:25…授業を受けてるはずですね。」

 

「もしかしたら、集会等で集まった生徒たちを利用して一気にイルを発生させるかもしれない。」

 

なるほど。集会で集めるとしたら、この学校であり得る場所は体育館かグラウンドだ。

 

「二手に別れましょう。考えられる場所はグラウンドと体育館です。」

 

提案したのち、考えるようなそぶりを見せた加良は言った。

 

「俺が体育館の方へ行く。いつでも校舎内に戻れるからな」

 

「わかりました。私がグラウンドに行きますね。…加良さん、電話番号教えてください。グラウンドに来たらすぐに連絡するんで。」

 

「…お前…スマホぶっ壊れたんじゃなかったか」

 

当たり前のことを聞いてきた。

そうだ。スマホは昨日、イルの攻撃(ほぼ加良のせい)でお亡くなりになった。

 

「じゃん」

 

今朝、末次くんから受け取ったスマホを見せびらかす。

すると加良は間を置くこともなく言う。

 

「末次の仕業だな」

 

“正解です”と言いながら、スマホを振り回して加良に見せびらかす。

 

「バックアップまでは取れてなかったみたいで、流石にスマホゲームのデータとか連絡先とか全て消えちゃったんですけどね」

 

「…まあ、私には消えて困る連絡先なんてなかったんで」

 

できるだけ悟らせないように、渾身の笑顔を。

 

「…」

 

「よかったですね。スマホを弁償せずに済んで。仕事先のデータとかも消えたんで、これからは加良さんのスネをかじって生きていきますからね?」

 

その返事は、間を置くこともなくすぐに返ってきた。

 

「好きにしろ」

 

……できれば断ってほしかった…

 

「マジにしないでくださいよ…加良さんと一緒にいたら命なんて一個じゃ足りませんよ」

 

「問題ないだろ 何せこの俺が守るからな」

 

 

珍しく少し微笑んだ加良と電話番号を交換した。

 

あぶね。なんか今のは心にきた。

もしかしてフラグ立った?

 

……この人ってメガネじゃなくてコンタクトにしたら似合いそう。髪とかもいい感じに整えたら…

何言ってんだ私。これ加良さんだぞ?

 

取り繕うように話題を変える。

 

「あ、そういえば稀さんも来てるみたいですよ。末次くんが連絡したのかも。」

 

電車内で会った時、彼はギターを背負っていた。恐らく加勢に来てくれた…と思う。

彼は非常識だが…頼み込んだらきっと戦ってくれるだろう。そうだとしたら心強い。

 

「…あいつが来るのか…」

 

さっきの微笑みは何処に行ったのか、加良は瞬時に笑顔を引っ込めた。

すると加良は体を翻して出口へと歩く。

 

「気をつけろよ。あいつは仲間とは限らないからな」

 

あれ?そういう感じ?

 

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誰にも遭遇することなく、グラウンドに着くことができた…加良さんは無事だろうか。

見たところグラウンドには誰もおらず、外から教室を覗くと生徒たちの姿が見えた。流石に上階の子たちは角度的に見えないが、同じく教室にいることだろう。

 

 

最後の彼の発言…私を気にかけてくれているのだろうか。まあ…加良さんのことだから私を好きだとかなんだとか言うのはないだろう。

 

……ないな。

 

そういえばうっかりしていた。

加良にナルコレプシーがライダーシステムを開発しているかもしれないことを伝えることを忘れていた。

末次くんとも連絡先交換しといた方がよかったよなあ。

 

……暇だ。何も起こらないまま、刻一刻と時間が過ぎていく。加良から電話がくることもない…

……そうだ。リタリンについて調べてみよう。

 

カロナールはリタリンよか副作用はないと言っていた…

リタリンには副作用があるってことだよね。

 

「…リタリン、メチルフェニデート…?メチルフェニデートを利用した薬がリタリンってことか…」

 

メチルフェニデートという物質を使った薬が二種類あり、片方がコンサータ。そしてもう片方がリタリンらしい。

 

「強い抗うつ作用に、ナルコレプシーの治療…なるほどね、末次くんが言ってた通り。…精神刺激薬?なんか雲行きが怪しくなってきたな…」

 

副作用…えっ?

 

「あっツバサちゃんじゃん!!さっきはなんで逃げたんだよお!!」

 

うわ。

さっき撒いた、ギターケースを背負った男が脳天気に近づいてくる。

 

「あっ稀さん…さっき?会いましたっけ?」

 

惚けよう。都合の悪いことを惚けるのはよくないけど。

 

「あれえ、気づいてなかったのかあ… それならしょうがないよなあ。」

 

ヨシ!

 

「稀さんも加勢に来てくれたんですか?心強くて助かりますっ」

 

「え?あや、俺イル退治のために来たんじゃなくてさあ。今加良の野郎を探してるんだよ。」

 

へ?

 

「いや、なんかさ。この前あいつが助けてくれた沢中っているだろ?あいつが『加良に用がある』っつってさ。急に出てっちゃってさあ。この高校に行ったって聞いたもんで来たんだよ。」

 

え?加良さんがなんかしたっけ…

沢中さんといえば、私に相談してきた人でもあって…加良さんの患者でもあって…

 

待って、何か…忘れてるような…

患者?加良さん?報酬?

 

「あっ」

 

「どしたのよ」

 

最初…加良さんと初めて出会った時。

莉緒くんという少年を加良が救った後。

加良は(半ば強引に)患者の『大切な物』を、イルを発生させた少年の親に治療費として請求していた。

 

昨日救った沢中さんの『大切な物』は…?

もしかしたら…それでゴタゴタが起きるかもしれない!!

 

「ちょっ!?ツバサちゃん!?」

 

「いいですか、稀さん!私がその件、隠密に平穏に解決してくるんで、そこに待機しててください!」

 

「えっ…!?あっ、行く前についでにこれだけ聞かせて!!昨晩は無事だったのかい!?!?」

 

それ、ついでなんだ…意外。

ピースサインをしながら、体育館へと駆ける。

 

その時には、リタリンの副作用なんて頭の中からどこかにいってしまっていた。

 

 

 

二手に別れて体育館に着いたが、誰もいない。

大人数もくる気配もしない。鬱の匂いもしない。

 

グラウンドの方か?まさかな。

ツバサからも連絡は来ていない。

 

……まずいな 今1番辛いのは待ち時間だ。

はやく…はやく…

 

 

「おい、お前が加良って奴だな。」

 

背後から、誰かの声が聞こえた。

ゆっくりと振り返る。

 

「…なんだ?」

 

体育館の入り口。人影が見える。

見覚えがある…あれは。

 

「昨日の患者…the HEROesのギターヴォーカル沢中大和。」

 

昨日助けて、“治療費”を請求した男。

 

「俺もお前のことをしっかり覚えてるぜ。助けてくれたことは感謝するさ。でもな、」

 

「俺の大事なギターを奪うってのはないよなあ!!」

 

視線の先にいる沢中が激昂して叫ぶ。

 

「奪うってのは人聞きが悪いな。俺はあれを治療費として差し押さえただけだ。」

 

「俺のアイデンティティはあれしかないんだ!俺を認めてもらうにはあれしかないんだ!もっと別のがあっただろう!返せよ!てか今差し押さえって言った?」

 

…何も分かってないな

 

「不可能だ」

 

ぎりり、と聞こえるくらい歯軋りした沢中。

 

「まあそう言うって分かってたさ」

 

「ヤケに諦めがはやいな」

 

じゃあコイツは何をしにここに来たんだ。

 

……待て、なんで俺がここにいることを知ってるんだコイツ…

 

「諦めてなんかねえよ」

 

男はこちらを睨んだままスマホを取り出した。

…何をするつもりだ?

 

「後悔させてやるぜ」

 

『-6- -6- -6-』

 

スマホのパスワード入力画面に3桁数字を打ち込み…

男はそれを左腕にかざした。するとそれは変形して…

 

『ディペンドライバー』

 

「!!」

 

ブレスレット型の何か…何かを装着させるスロットがついている。

そして、ゆっくりと上着の内ポケットから取り出したその注射器をスロットに装着した。

 

『インジェクション レディ』

 

「お前まさか!」

 

制止するより早く、男は呟いた。

 

投与(変身)

 

男は注射器をスライドし立てて、腕に差し込みその針を通して液剤を血管に注入した。

 

『ドラッグ・イン・スピードチャージ』

 

瞬間、地面から水槽のようなものが現れ、男を閉じ込めた。そして何処からともなく溢れた液体は男を包み込み…

男は、完全にその液体に溺れていた。

それなのに。

 

 

男は、恍惚の表情を浮かべていた。

 

男の周囲の液体がスーツのように変形し、その男を変えていく。

男を囲んでいた水槽がいきなり壊れ、男を沈めていた液体が周囲へと流れ出る。

 

充血したような紅い色の複眼、全体的に透明なガラスのような見た目で、胸部から下腹部にかけて目盛りがついていて、その腕や脚にはチューブが幾本も巻きついている。注射器を彷彿させるような見た目で、ガラスのような装甲の中身は白と紫で構成されていた。

 

 

そこに立っていたのは、“仮面ライダー”だった。

 

「仮面ライダースピードチャージ… お前に取られたもの全てを取り返す」

 

そう言いながら、男はゆっくりとこちらに向かってくる。

こいつ…マジか…!

 

 

……こんな時に…ッ!!

 

スマホにコードを入力しようとした瞬間に、奴が拳を振りかざした。 …間一髪 

俺の変身さえ待たずに攻撃してくる。これはマジだ。

 

余裕を与えるはずもなく、何度も歩み寄ってくる。

それだけでない。

 

「…速い!」

 

感覚が研ぎ澄まされたかのような動き。殴打を避けても、すぐ避けられたと判断しこちらに向かってくる姿勢。

 

殴打は基本左手。

腕に装着した注射器が肥大化し、刺突武器と化しているのがその理由のはず。あんなのを受けたらひとたまりもないだろう…

 

「お前に構ってる暇はないッ」

 

「後でギターを返してくれるとでも言うのか?言わないんだろう!?」

 

高揚感がさせているのだろうか、沢中のテンションは高い。今の俺からしたらうざったくて仕方がない。

 

「オラッ!」

 

変な掛け声と共に来る刺突攻撃を避ける。空を切った針が床に刺さったその時。

 

「!!」

 

体育館の床が、溶けてぐしゃぐしゃになっていく。

…足が…

 

足を取られた俺へ、沢中は跨って注射器の針を誇示してくる。

 

「お前、なんでそんなに意地でもギター返そうとしないの?俺のファンなのか?」

 

「なわけないだろッ!」

 

限界だ。

 

『Connect On』

 

嵐のような風が、カルテだけでなく沢中も吹き散らす。

沢中が思わず飛び退いた。

 

「変身…ッ」

 

スイッチを押した瞬間に、飛び回っていたカルテが体に張り付いてくる。纏うカルテが素体と化し、コードを介して青色の充電液が身体を満たした。

 

『Calonal115』

 

『Cool down, you idiot.』

 

驚くくらいに周りが冷ついている。

起き上がった時には周りの床が凍りつき、氷柱を形成していた。

 

たった今。最悪なタイミングで襲撃してきた男に。

 

バッドコンディションなんて関係ない。

なんとかしてでも…お望みなら叩き潰すまでだ。

 

「後悔しろ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

私は今、高校の校舎をひたすら突っ走っている。

加良が言っていたように、体育館には校舎からしか入れないのだ。

 

the HEROesのギターヴォーカル沢中…

恐らく取られたんだ。ギターを加良に、“治療費”として!

 

もし彼が躁鬱になった明確な原因が“ギター”にあったのなら…!彼は!

 

もちろん彼1人じゃ加良に立ち向かう力なんてない。

イルに感染した病み上がりなのもあるし、まずまずライダーシステムを所有している加良には勝てない。

 

そこで出てくるのがナルコレプシーだ。

 

あいつはライダーシステムの開発を示唆していた。

もし開発が既に終えていたのなら…!

これ以上に都合のいい状況はない!

 

先程から加良に電話をかけているのだが、繋がることはない。考えられるのはイルが発生しているか、沢中と遭遇しているか…

 

前者も、後者も。

どちらも起こったら面倒なことになる。

イルの発生は免れないことだけど…!

 

しかし廊下には生徒や教員の姿は1人も見えない。

集会で集まった生徒を利用して一気にイルを発生させるつもりなんじゃ…?

 

思考が頭の中を錯綜する。

 

…まずどうやって鬱を具現化しているの…?

 

体育館へと渡る道は2階にある。

2階へと上がる階段へ差し掛かるその時。

 

「きゃあああああああ」

 

瞬間、断末魔とも取れるかもしれない悲鳴が、もしかしたら起こってるかもしれない...そんな嫌な予感と結びついた。

 

しまった…

私たちはナルコレプシーに乗せられたんだ!

 

 

階段をのぼりきったが、体育館には向かわず教室の方向へ走る。

 

「……!」

 

嫌な予感的中だ。

教室の中は人間大のイルが大量発生していた。

 

…しかしどうやって?

教室の中を覗き見る。

 

生徒たちは椅子に座ったまま机に突っ伏していた。

教卓の近くには、さっき叫んでいたと思われる女性教員が座り込んでいた。

…みんな気を失っている…?傷はない。怪物を見た恐怖から失神したのだろうか?…まさか。女性教師が失神したのはまだしも、生徒全員が恐怖で失神するとはお前ない。

 

蠢くイルは、生徒や教職員を襲う素振りを見せない。

果たしてどうやってイルを発現させたのか…

 

「もしかして他のクラスも…!」

 

廊下を駆け、すぐ横のクラスを覗く。

ここも!

生徒教職員共々、気を失っていた。

側のイルにも気づかずに。

 

他のクラスも…他のクラスも…!

 

「あっ!」

 

端のクラスには、イルはいなかった。

生徒たちは黒板の上から垂れ下がっているスクリーンに映る映像を見ていた。

 

……なるほど、だから生徒や教職員が移動しないわけだ!

スクリーンに映っているのは、偉そうな教職員…多分校長先生だろう。禿げた頭を揺らしながら、カメラ目線で話をしていた。

 

集会をスクリーンに流して各教室で行っている…

配信(リモート)形式だったんだ!少し前まで流行っていた感染症の名残かもしれない。

 

息切れをしながら思考する。

じゃあなんでこのクラスはイルが発生していない…?

どうしたら“予防”できる?

 

私に気づいた生徒たちがこちらを見る。

同じタイミングで担任と思われる男性がこちらを向いた。

 

くそう、私には何もできない…!

 

私を不審者だと思ったのか、教職員がこちらに歩を進める時だった。

 

スクリーンからザーという砂嵐音が流れた。

生徒達だけでなく私も注視する中、ホワイトノイズからはナルコレプシーが現れた。

 

『おはようございます生徒諸君!いや、この時間帯じゃこんにちはですかね?』

 

『今回はみなさんに実験台になってもらいたいと思います』

 

スクリーンに映るナルコレプシーを不思議そうに眺める生徒たち。

 

…まさか!?

 

パッと変わった画面には、テクノを思わせる…しかし何か幻想的な映像が流れた。

 

しかし、目を疑うような光景が映像に見惚れることを許さなかった。

 

「うっ!」 「おぼっ…」 「うぐっ」

 

目の前の生徒が大胆に吐血し、気を失っていく。

そして地についた血は変形していき、さっきから見てきたイルの姿へと変貌した。

 

「血がイルに…」

 

“鬱”のエネルギーを怪物に変化させる技術…

何か光線とか薬物だとか物理的接触でイルを生み出すのだと思っていたけど違った!

まさか電子媒体でイルを発生させるなんて…!

 

“イルは予防できない”と加良は言っていた。まさにその通りだ。こんな方法でイルを発生させれるのなら予防なんてできるはずがない。

 

テレビの画面からナルコレプシーが消えた数秒後には、教室にイルが氾濫していた。

イルが発生する光景に軽く吐き気を催したが、なんとか持ち堪えて思考する。

なんでこいつらは誰も襲わないんだ…?ナルコレプシーの不備…?他の目的が…

 

「うわああああ なんだこいつら!!!」

 

「!」

 

いきなり教室の1人の男子生徒が叫び声を上げた。

教室に蠢くイルを見、絶叫している。

 

気絶していない…

まさか映像を見てない…?居眠りしてたとか…?

 

少年が、絶叫しながらも椅子をイルに投げつける。

しかしそれはびくともしない。未だ何もせずにいた怪物が、少年を見た。

それに呼応するように周囲のイルが少年を見る。

 

まさか…攻撃はしてこないけど反撃はしてくるのか…!?

私は勢いよくカバンの中に手を突っ込んだ。

 

「あぁ…」

 

少年はイルに囲まれ、観念したかのように叫ぶのと呼吸をやめた。周囲のイルが少年に向かって歩く。

まずい、助けなきゃ!!

 

少年は窓際の席でうずくまっている。私がいる場所からそう遠くはないことが不幸中の幸いだ。

 

意を決し、私はついに引き金を引いた。

 

発砲音が複数。

薬弾は怪物に着弾することなく、すれ違って奥のガラスに衝突し乾いた音を起こしながら粉々に割れた。

 

ここはまだ2階だから…!

 

私は割れた窓に向け、下で待機しているであろう男に叫んだ。

 

「稀さん!!変身してくださいっ!!!」

 

そして私はまた引き金を引き、少年の近くのイル数体に1発ずつ薬弾を打ち込んだ。

 

『うじゅううううう』

 

すると怪物どもが煙を上げて溶けていく。

 

「威力やば」

 

流石薬弾をリタリン錠にしているだけある。

いや、軽度の鬱エネルギーのイルだから普通のイルよりも弱いんだろうか?

 

しかし今はそんなことを気にしている暇はない。

 

「大丈夫!?今すぐここから逃げて!」

 

少年のもとへ駆け込み、背を向けイルに銃口を向けた。

少年は小さく頷き、転けそうになりながらも走り去っていく。

 

「ふぅ…これでよし…」

 

たった一点…私に視線が移る。

数体のイルを撃破したことで攻撃対象が私へと切り替わったようだ。

 

すると、教室の出入り口から幾数ものイルが入ってくる。逃げ道を塞がれた…けど、計算通り。

“逃げ道はまだある”。

 

「私にも勇気が…!!」

 

ある男を心に思い浮かべて、決心する。

あの人なら何もかも見通して、こんな賭けでさえいとも容易くこなしてしまうのだろう。

私も一点、たった1つの“逃げ道”…割れた窓を見ていた。

 

……私にだって!!

 

「私はもう後悔しない…ッ!!」

 

1人の背中を追いかけて。

 

 

椅子から机へ…

“私の道”の邪魔になるイルを銃でどけ…

 

机から机へ…

勢いよく、駆ける!

 

窓へ…!

彼がやるような、笑みを浮かべて!

 

私は足に力を入れ、思いっきり跳んだ。

割れてぽっかり穴が空いた窓から見える、蒼い空に向かって。

 

 

 

いきなり窓が割れた。

スマホいじってる最中に銃声と窓が割れる音がしたからビックリしたわ。

 

銃声…?銃なんて使うやつ、知り合いにいたっけ…

もしかして加良の野郎か?んー…でもあいつが銃か…

どちらにせよ、怪物…イル?だっけ?が発生したのは間違いない。

 

ほんの数分前に、教室の中でいきなり怪物が出現した。

ここからじゃよく見えないが、生徒達は無事らしい。怪物共も何もせずに、動かないままだ。

 

第一、ここに待機してろと言ったのはツバサちゃんだ。

彼女の安否も心配だが、勝手に動くのもなあ…

もとよりカワイイ子達しか救う気はないが、男子諸君も場合によっては助けなくもない。

 

「稀さん!!変身してくださいっ!!!!」

 

窓が割れてから数十秒後、ツバサちゃんの声が上から聞こえてくる。窓が割れた教室からだ。

ようやく指示が飛んできたぜ…

 

また数回、銃声が聞こえる。

え!?これツバサちゃんなん!?銃使える娘って可愛いよね、お前らもわかるよな?

 

……よっしゃ、ちょうど待たされて2、3年くらい経ったんじゃかいかって思ってた頃だ、遊んでやろうぜ!

 

スマホを取り出し、パスコード画面を見る。

手慣れた手つきで9つの点の上を指でスワイプし、「A」のマークにしてパスワード解除した。

 

『-Over Ampere-』

 

『Suicidriver』

 

背中に背負っていたギターケースから、ギターが、そして肩掛けが瞬時に腰に巻き付いた。

 

己の欲望を再認識し念ずると、額から“エレキアンプル”がニョキと生えてきた。

それを勢いよく取り、ギターに差し込む。

 

『Switch On』

 

周りの静けさを、業火がかき鳴らす。

さながら、LIVEが始まる直前のシーンとした瞬間。

誰もが息を呑むタイミング…薔薇のような焔が、己の身を焦がすかと錯覚し始めるタイミングで。

 

「変身!」

 

『Convert』

 

焔が、弦が、稀の体に巻きついていく。

 

『Looking for “A”』

 

歓声かのように、業火が燃えたぎる。

 

『Rits, anymore.』

 

『It's fate to be weedhead』

 

そこには、仮面ライダーが立っていた。

 

 

「……ごめん、シリアスなところ悪いけど変身した後どうすればいいの?」

 

「変身しろ」という指示自体はわかるのだが、それ以降の行動がわからない。

 

「んーーーー…」

 

少なくとも人間のものではない足音を出しながら、アンプは窓が割れた教室の下辺りを歩く。

 

「まさかここからジャンプして教室に来いってことかなあ」

 

瞬間。

 

「稀さあああああああああああああん!!」

 

ツバサちゃん!?(超高速理解)

上方向…教室からだ!

 

「うええええ!?!?」

 

目を疑う光景…ツバサちゃんが、飛び降りた!!!

 

「なるほどね…!」

 

2階から飛び降りたからか、すぐにでもこちらへ近づいてくる。うおお、ツバサちゃんは俺を信じてくれたんだ!

 

落下地点は…そこだ!間に合うか…!

なるべく傷つけないように、優しく彼女を受け止めた。

 

「さ、流石稀さん…」

 

息切れをしながら、ツバサちゃんは俺のことを褒めてくれた。やべえ、めちゃ嬉しい。沢中の気持ちがよくわかるぜ。

 

お姫様抱っこの形で受け止められたのは、俺の幸運値がよかったのだろう。

まあ、そんなことはいい。

 

「俺のこと、惚れてもいいんだz」

 

破裂するような発砲音が、俺のセリフを掻き消した。

ビックリしたあ!!!!

 

ツバサちゃんの視線の先には、数体の怪物がいた。

ツバサちゃんと同様に、奴らも飛び降りたらしい。

複数回撃ったようだが、一体しか消滅していない。

 

「銃撃が拙い女の子も素敵だと思うぜ」

 

完璧なフォローを入れた後に、彼女をゆっくりと降ろす。名残惜しいけどな…

そして、受け止める前に地面に置いていたギターを手に取り、砂を払った。

 

「あとは俺に任せなよ」

 

さながら野球のように!

ツバサちゃんが静かに頷くのを見、バッt…ギターを振りかぶる。

 

「うおらあっ!」

 

跳んできた怪物の1体目を、フルスイングで打った。

 

『グオオオオオオオオオオ』

 

飛んでった怪物が2体目に当たって落ちる。

狙い通りだ。俺は野球が好きだからかな?

 

落ちてきた怪物2体を同時に…真っ赤なギターを振り下ろして滅多打ちにする。

 

「…まるで金属バットみたいですね」

 

「俺の愛用ギターは万能だからな」

 

そういえば、沢中と加良の件を平穏に解決するって言ってたが、何故怪物に襲われてたのだろう。

色々聞きたいことはやまやまだが、今の彼女の顔を見るとそんなことを聞く気にはならない。この顔…

 

「やっぱツバサちゃん可愛いよね 今夜どう?」

 

「……」

 

「ごめんなさいなんでもないです」

 

無言で銃口突きつけられるの駄目だろ。

 

「すいません稀さん…今急いんでるんですけど、ここ任せてもいいですか?教室から出てこなくなってきたら校舎のイルたちを退治してほしいんですけど…」

 

「そーだなー、暇だしいいよ。なんかご褒美あるとそれなりに頑張るんだけど」

 

「おっ、もしかしてリタリン欲しいんですか?いいですよいくらでもあげますよ」

 

「よっしゃ頑張るか!(早口)」

 

すると、彼女は踵を返して走り出す。

いや〜サディなツバサちゃんもいいね。

すると、一度彼女が振り返る。忘れ物かな?

 

「…死なないでくださいね」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

跳んできた怪物に思い切りフルスイングを決め、教室へと帰してあげる。

 

彼女は引いたような顔で走り去っていった。

 

「よーし!バッティングの練習になってもらうぞテメーら!」

 

どんどん飛び降りてくる怪物どもを、かの大谷翔平のようにバカスカ打っていく。

プロ野球選手も夢じゃないな!!

 

 

 

「これも全て…、ナルコレプシーのシナリオ通り…ってことなのかな…!」

 

稀と別れた後、私は校舎を疾走していた。

発生したイルをとりあえずだが稀に任せることができた。

私が今すぐにでもしないといけないのは、加良と合流することだ。

 

今のところ悲鳴の類は聞こえてこない。

恐らくどの教室にもイルが発生していることだろうが、(攻撃さえしなければ)襲ってこないのが幸いだ。

 

もうすぐ階段が見えてくるはず…!

 

『フフフ、そんなに急がなくてもいいんじゃないですか?』

 

「!!!」

 

段が連なっているところの空中…

いきなり、ガスマスクが出現した…!?

 

私はバッグという名のホルスターから銃を取り出し、即座に引き金を引いた。

 

『いやあ、さっきぶりですねツバサさ』

 

発砲音と同時に、ガスマスクが床に落ちて階段を転げる。

真っ黒いガスが身体を構成する前に落ちたそれは、文句を垂れる。

 

『これマジ?』

 

「マジに決まってんだろハゲ」

 

『ひどい』

 

さて。こいつは一体何故私の前に現れたのだろう。

時間稼ぎか?

銃をガスマスクに向けながら、台詞を待つ。

 

『私の知り合い、話聞かない人しかいませんね…』

 

「何しに来たの?ナルコレプシー」

 

『ひええ、談笑しにきたのに銃向けられるとかたまったもんじゃないですね』

 

ガスマスクから身体を出すべきではないと判断したのか、ナルコレプシーはガスマスクの状態で喋り続ける。

 

『報告ですよ…ライダーシステムの開発のね。』

 

思わず唾を飲む。

なんでこいつが私にそれを伝える必要がある?

どうして末次くんや加良さんにじゃなくて?

 

『私が開発した、注射器を利用し変身する仮面ライダースピードチャージ。今リタリン…じゃなくてカロナールと戦ってるとこなんですが、いい感じそうですよ』

 

“仮面ライダースピードチャージ”…

 

「やはりあなたね…!沢中さんを唆して加良さんと衝突するように仕向けたの!」

 

“いい感じ”ということは、善戦しているととっていいのだろう。もしかしたは加良がやられているとも…

 

『私自身が変身しても良かったんですけどねえ、いきなり黒幕が変身したらキツいと思いません?』

 

本当に今回の件は、“試作段階”ということなのだろう。

やろうと思えばナルコレプシーも変身できる…ってことか。

 

「仮面ライダーなんて作って、あなた何するつもりなの?なんで作ったの?私の今日の夕飯教えてあげるから教えて。」

 

『“趣味”…ですかね。ちなみに私の今日のお夕飯は豚の生姜焼きです。』

 

果たしてこいつはものを食べるのか、まずまずこいつが人間なのか、そういうのは置いとこう。

 

「誰もかれも趣味でライダーシステム開発しちゃうんだなあ…」

 

『あなたもどうぞ?』

 

私もいつかライダーシステム開発しちゃお。

 

「それで?時間稼ぎにきたの?」

 

果たしてこいつは私に接触して何をするつもりなのだろう。

もしかして強がらずに逃げた方がいいのかな?

やる時はやりそうだし。

 

『なに、あなたたち陣営に有益な情報を教えてあげようかと思っただけですよ。』

 

「え…?」

 

こいつ…本当に目的がわからない。

何故?今朝言っていた“仮面ライダーの活躍が見たい”ということは本当なのだろうか。

飽きたら急に殺戮し始めちゃう系黒幕…?

 

てか、正体が発覚してる(?)ってそれ黒幕じゃなくね?

 

『そうですねえ…軽くネタバレしちゃいましょうか。あなたならもう気づいてるかもしれないことですがね。』

 

「ネタバレ…?」

 

今この場でバラすネタなんてあるか…?

ナルコレプシーの正体とか?

 

『じつは仮面ライダーリタリンって“暴走フォーム”なんですよ。』

 

『いや…リタリンの禁断症状ってのが的確なんでしょうけど』

 

『ちょうど今頃暴走してると思うんですよ。もうちょっとしたら沢中さんが殺されるかなーって感じですね。』

 

「……??????」

 

「それマジ?」

 

『マジに決まってんだろハゲ』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

――血飛沫。

 

「おいおいどうした?最初の威勢はどうしたんだよ!」

 

対峙する仮面ライダーが、この俺を挑発する。

 

数発の殴打…捌けない。

普段ならこんなもの…

 

意表をついて足払い…

 

――血に塗れた2人の見慣れた男女。

 

駄目だ、止められて逆に蹴られてしまった。

 

「スロースピード過ぎるぞおい!?」

 

――紅い我が手。

 

脳裏にこびりついた…

何枚もの記憶の写真が、映像が何度も頭の中で反芻される。

 

相手の拳が空を切ると同時に、肥大化した注射器から50ccはありそうな液体が俺の元へと飛び散った。

 

「っ!」

 

瞬時に凍らせて、空中に留まってる内に蹴り砕く。

 

それを見越したかのように、蹴りに合わせて注射器で刺突してくる。

駄目だ、氷で防御を…

 

――“からし!お前まさか、これを…お前が!”

 

間に合わず、重い一撃を喰らってしまった。

 

「キマったな!随分と疲れてるようだが、まだ俺のギターを返す気にはならないか?」

 

「……しつこいなお前もッ!!」

 

痛えな…しかしそんな痛みさえ、気にならない。

逃げるわけにはいかない…だがこいつは…

 

『Waitin' For Rid∅r Kick』

 

錠剤を投入し、足を溜める。

 

「ふーん…お前、死にたいみたいなんだな、本当に」

 

笑いながら、男が注射器を動かす。

立てたそれを腕に突き刺し、今度は逆に引いて深紅の液体を体から抜き取った。

 

注射器の中は男の血液で満たされた。

 

『ブラッドドロー』

 

男は横にした注射器から勢いよく血液を放出した。

するとその血液は、地に溢れ広がっていく。

一目見るとまんま血の池地獄だ。

本当に注射器に入っていたのかと思うほどの量の血液で辺りは包まれ、まるで塩湖のようになった。

 

まずい、足が血液にとられてしまう…

カロナールの必殺待機の状態のおかげで半径3メートル程が凍っているので近くは問題ないのだが、これでは近づくことができない。

 

はやく決めないと、俺が…

しかしこの状況、こちらから攻めることはできない。

カウンターライダーキックを決めるしかない。

 

「いつでも来い。叩きのめす」

 

「言ってくれるじゃん」

 

足元の血溜まりが流動し始める。

渦を巻き…波紋を作り始め…

スピードチャージは足に血液を球状に纏い、その血液でさえ回転するように流動していた。

 

スピードチャージは動かない。

こいつ…!いい加減に…!

 

――椎奈…もうやめて

 

「ッッ!」

 

――瞬間、男は何か、大切なことを思い出したかのように体を悶えさせ、地に手をついた。

 

「待ってたぜ、お前がそうやって集中力を切らすタイミングを」

 

『ブラッディストライク』

 

激流へと化した血液に合わせて助走をつけ、勢いを付けたスピードチャージが、血を溜めた足を思いっきりカロナールに叩きつけた。

 

叫び声も悶える声もなく、カロナールが吹っ飛ばされた。

流石に応えたのか、倒れ込むが…

 

「ほっほう!決まった!…?」

 

 

「げほっ」

 

「えー…まだやんのかよ」

 

再び、立ち上がる。獣のように。

息切れのような喘ぎが聞こえる。限界なのだろう。

 

「限界なんだろ!?終わらせてやんよ!」

 

『ブラッドドロー』

 

 

男は、無意識にも立ち上がったのだ。

その行動に“意思”はない。

 

男は攻撃を受ける瞬間に気づいた。

もう、間に合わない。自分が保っていた理性の糸も…

もう、切れてしまうのだ。

 

変身解除までには至らなかったが、またもや足元が血浸しになってもカロナールは動じない。

凍らせようともしない。

 

「うおおおおおおお 死ねエエエエエエエエ」

 

うんともすんとも言わなくなった男を見て、スピードチャージは助走をつけ男に近づいた。

 

『ブラッディストライク』

 

勢いよく踏み込み、蹴りを入れる…!

 

入らない。右足が男にぶつかる寸前にピタリと止まった。

 

稼働時間が過ぎたのだろうか。体に不調がきたしたのだろうか。いや、違う。

 

「お…お前…なんで…」

 

スピードチャージに相対するその仮面ライダーの複眼()には、“光”がなかった。

 

一方の男は、油断をしていた。必殺技のモーションにさえ動じないその男に。

 

もう一方の男は、本能で知っていた。

“どうしたらカウンターを叩き込めるか”。

 

「俺の足が…!」

 

男の足が…踏み出した左足も、蹴ろうとした右足も。

凍りついてしまった。

 

「ふゥゥゥ」

 

先程まで声を荒げていたとは思えない…声ともとれない、呼吸。

仮面ライダーという上っ面を被っていても、“目の焦点があっていない”ことがわかる。

 

すると、さっきまで動じもしなかった男が、急に動き出す。凍ってしまった男の足を踏み台にし、跳んだ。

 

「なっ」

 

『Calonal Injection』

 

「ふぅゥゥゥッ フウウウウウウウ!!!」

 

雄叫びをあげながら空を舞い一回転したその仮面ライダーは、動けずにいるスピードチャージに氷を纏った重い踵落としを決めた。

それだけでは飽き足らず、瞬時に作った氷の足場を空中で蹴り、その足で思い切りわき腹を抉った。

 

「ぅぐッ」

 

声を出し切らないまま、スピードチャージは吹っ飛ばされた。

 

倒れたスピードチャージが、ぶつぶつと疑問を口に出す。

何故急激に足が凍りついてしまったのか、何故加良が急に反撃に出たのか。何故、“理性がない”ように見えるのか。

 

"解説をする者がいない"ためこの場で説明をするが、スピードチャージの足が血液ごとに急激に凍りついたこの現象は主に“過冷却”と呼ばれるものによるものである。

 

基本液体は凝固点を超える温度まで冷却された時、凝固し固体と化すはずである。

しかし、凝固点を過ぎてすぐの状態では、完全に凝固が始まらず液体の状態で留まる。この状態を“過冷却”と呼ぶ。

ただ、この現象はこれだけではない。

 

「ふゥゥゥ…」

 

カロナールが、血溜まりを歩いていく。

足を踏み込む度に足と血液が凍るが、気にせず足を引き抜いてずんずんと歩いていく。

 

過冷却…特筆すべき点は、特定の液体(特に水)がこの状態にある時、衝撃を受けると瞬間的に凍りついてしまうということだ。

 

カロナールは、スピードチャージの必殺待機中に出現する血液を密かに凝固点ギリギリまで冷却していた。

スピードチャージのライダーキックが助走を使う形であったため、血溜まりを力強く踏んで急激に足が凍ってしまったのだ。

 

スピードチャージが必殺技に使った液体が本当に血液なのか、定かではないが…

 

「フシュウウウウ」

 

カロナールが歩きながら、氷の…ハンマーのような、斧のような…物体を作り出し、立ちあがろうとするスピードチャージに投げつけた。

 

「うおおっ」

 

氷の物体は当たる寸前の目の前で砕けた。

注射器の刺突で溶解とともに破壊したのだ。

 

「こいつ…急に動きが変わったぞ!」

 

人であるような、そうでないような動き。

緩慢なようで、意思があるような…

そんな動きで、カロナールは近づいてくる。

 

「往生際が悪いぞッ!!」

 

感覚が過敏になったはやい刺突…

氷のスライダーで流された!?

 

「ぐあっ」

 

流された腕を、氷ごと下から蹴り上げる。

なぜ蹴り上げ…!!

 

「上にも氷塊!?こいつ俺の注射器(シリンジ)を!」

 

蹴り上げて、俺のシリンジを氷と挟んで砕くつもりだ!

空いてる手でわざと自分の腕を殴打する。

 

軌道が変わり、シリンジの粉砕だけは免たが…

 

「痛みを感じていない…?」

 

殴打を受けた頰を摩ることもなく、こちらを見る。

同時に、躊躇もなしに殴りかかってくる。

 

流石にそれは避け、反撃に出ようとするが…

足元が既に凍りついていた。

動かせねえ!クソっ!

 

「…はっ」

 

すごい速度で飛んできた蹴りを両腕でガードしようと…

違う!わざとガードさせようとしてシリンジを砕こうとしてる!?

 

「痛みを感じねえのはそっちだけじゃねえよ!!」

 

蹴りをわざと受け、その脚を掴む。

待て、この脚どうすりゃいい?俺の足凍らされてるし

 

瞬間、奴が足に体重をかけ押し倒してくる。

待て、足が凍らされたままで倒れたら…!

急いで足を離すと同時に、俺が動けないことをいいままにカロナールは拳(しかも氷のトゲトゲデコレーション付き)の連打を打ち込んでくる。

 

――こいつはまずい…勝てねえ…

どうにかして距離を取らなければ…

 

「ふしゥゥゥゥゥゥ」

 

おいおい、それが本当に人間の声かよ。

てかこいつ意識あんのか?さっきから全然喋らねー。

暴走した?なんで暴走?

暴走して無意識に俺に攻撃?今の攻防を無意識に?

てか暴走ってなんだよ。

 

『Prescription Strike. Waitin' For Super Rid∅r Kick.』

 

錠剤2つ…あれ?もしかして俺死んだ?

 

自分を除いた周りがだんだん凍りついていく。

その光景は、まるで(見たことはないが)氷河期のようだった。

 

俺でもわかる。錠剤1個入れてライダーキックが出るんなら、2個入れたらもっと強くなる。

……死んじまうのか?誰からも認めてもらえないまま?

 

「それだけは…絶対…」

 

足を引き抜こうとしても、引き抜けない。

 

「嫌だ…」

 

ついに自分自身にさえ氷が侵食してくる。

寒さが頭を支配し、眠たくなってきた。

駄目だ、意識が…

 

このモーションは…あぁ、ついにキックを…

 

 

瞬間、発砲音が聞こえた。

クスリで飛躍した視力でかろうじてそれを見る。

 

弾丸…いや、カプセル…?

こちら側に飛んでくるが、明らかにそれは俺に向けられたものではなかった。

 

「がっ」

 

その薬弾が目の前の意識を失った男に着弾したのを確認して、俺の意識は闇に溶けていった。

 

 

「加良さん!!!!」

 

「加良さん!大丈夫ですか!?」

 

1人の女性が、薬弾を受け膝から崩れた仮面ライダーに走り寄る。

 

「……相変わらず… やかましい」

 

「止めてあげたのにその言い分はないと思いますよ」

 

加良は、近くに倒れ伏した沢中と同様に仰向けになる。

そして軽く目をこちらに向けた。

……焦点があっている。ちゃんと目と目が合っている。待って、なんか恥ずかしいんですけど。

 

照れ隠しに一言。

 

「無事で何よりです」

 

「ああ 助かった」

 

口調も元に戻っている。(気がする。)

ナルコレプシーが言っていた、加良を“暴走状態から救う方法”は正しかったようだ。にわかに信じがたかったが…

 

彼の手を取る。

彼を立たせると、今の状況を説明した。

 

「予想外の方法でナルコレプシーがイルを発生させていました。映像媒体で、教室に待機してる生徒たちから…」

 

「なるほどリモート集会か 生徒たちは無事なのか」

 

「今のところ、生徒たちは気を失ってて、イルも子供達を攻撃対象としてないようです。多分今、稀さんが大量発生したイルを叩いてるんだと思います。加勢しにいきましょう。」

 

窓から湧いてくるイルを叩くだけの稀でも、流石に囲まれたりしたら大変だろう。

しかしこの量のイル…多分普通のよりは弱い気がするが、どうやったら一気に倒せるのか…

 

それだけではない。今ここでノビている沢中の対処だ。

ナルコレプシーに唆されたとは言え、“何か”に手を染めてしまったことには変わりない。

もしかしたら奴に人体実験をされている可能性だって捨てきれない。

 

「どうすれば…」

 

末次から託された銃を握りしめる。

リタリン薬弾はまだあるが、この学校全教室のイルと対面することになったらもちろん足りないだろう。

 

一体どうすれば。私は。

 

 

「おい」

 

「1人で抱え込むな 自分だけじゃできないことは誰かに相談しろ それこそ高校の時にでも習うぞ」

 

加良の声。

 

「お前には 俺や末次がいるだろ」

 

すると、加良は変身解除してスマホをこっちに投げ渡した。

 

「今末次にかけた この状況の対処の判断を仰げ」

 

「…あいつに頼ったら次は俺に頼れ」

 

すると彼は体育館入り口の方へ行き、イルの動向の観察を始めた。

……あの人も素直じゃないな。

 

3回程度のコール音で、控えめにぷつりと繋がる音がした。

 

『おい、からし!俺から散々電話したのに!』

 

「ハァーイ、末次くん」

 

『誰だお前は!』

 

「すり替えておいたのよ!」

 

茶番は置いておいて。

ナルコレプシーが接触してきたこと、イルが大量発生してしまったこと、沢中が仮面ライダーへと変身したこと…

それぞれを、追って話す。

 

『なんでナルコレプシーが接触してきたのかは気になるところだが、最優先はイルの討伐だな…』

 

「そうなんだけど…量も量で、どうすればいいかな」

 

考え事をしているかのような間。

大丈夫かな。頼って良かったのかな。

 

『大丈夫、なんとかなるさ。策はある。』

 

『そんでもって頼みたいことがあるんだけどさ、沢中?が変身したとかいう仮面ライダーの変身ツールとか、周辺機器の写真の撮影を頼みたいんだけど』

 

確かに。ナルコレプシーが開発したライダーシステムを解明すれば、相手側の秘密も何かわかるかもしれない。

 

そう思考しながら倒れている沢中へと近づく。

 

「腰にベルトを巻いてるわけではないみたいですね。なんか腕の腕時計みたいな装置にシリンジが付いてます。」

 

『シリンジ?注射器ってこと?なんかナルコレプシーらしいな…』

 

微かにだが、画面をタップする音が聞こえる。

恐らく情報をメモ帳に記録しているのだろう。

 

……てか寒くない?さっきの攻防で残ってるのであろう氷が、そこら中に転がっている。

変身解除しても残るのか…

 

彼が入力し終えるまで待っている間、倒れている男をまじまじと見る。

 

腕時計のようなものにシリンジが装着してある。恐らく薬を注入して変身するのだろう。

 

目と口を開けたまま、微動している。

 

……もし私が加良を止めれなかったら、この人は…

 

……目を開けたまま?

失神ってそういうものだっけ

え?動いて

 

 

「ツバサ!? おいどうした!!」

 

気づいたら、加良が私を覗き込んでいた。

え?なんで?私、今…?

 

体が痛い。

手から離れなかったスマホから、焦った末次の声が聞こえる。

 

『羽渡さん!?おい、どうしたんだ!?』

 

げほげほと、自分の意思でもないのに咳が出る。

お腹が痛い。昨日殴られたばっかなのに…

蹴られた?あの一瞬。

 

鉄の味がする。吐血したのか…

 

加良は私の身体を瞬時に診察しだす。

 

「女性の身体を弄るとかセクハラですよ」

 

「こんな時にごちゃごちゃ言うな 蹴られたのか

……おい末次あいつ起き上がったぞ」

 

霞む目で遠くを見ると、沢中がそこに、ふらふらしながら立っていた。

やっぱり、蹴られたということで間違いないようだ。

 

『ふふhuフフフ腐ふフはハハハhahaハハハは!!』

 

妙な笑い声を上げながら身体をくねらせ、こちらを睨め上げながら叫ぶ。

 

『これで終わらせるワケねえだろッ!おめえらだけじゃなく生徒共もれなく全員皆殺しにしてやるぁッ!!!!』

 

『からし、それ結構まずいんでねーの?』

 

ひゃははははと笑いながら、腕時計型変身ツールからシリンジを外し捨て、もう一つのシリンジを装着した。

 

『インジェクション レディ』

 

「けほっ…まだ戦うつもり…?」

 

投与(変身)!!』

 

躊躇うこともなく、シリンジを突き立てて液剤を身体に注入する。

 

『ドラッグインスピードチャージ』

 

すると、さっきちらっとだけ見えた…しかし、体の所々が肥大化してしまった仮面ライダーが現れた。

 

『へへhehヘ』

 

もはや狂気な笑い声をよそに、私は痛む身体を酷使し携帯を顔に近づけた。

 

「末次くん、加良さんが沢中さんに近づいて行っちゃってるんだけど…」

 

特に何も言うこともなく、ゆらゆらと同じく揺れながら加良は高笑いする仮面ライダーに近づいて行く。

 

『それ多分普通にキレてんな。そりゃ大虐殺を宣言されたらなあ…しかも、ツバサさん蹴られたんだろ?そりゃあいつもキレるよ』

 

『しょうがない、僕もそっちに向かおう。あまり時間は食わないと思うから…』

 

通話口から、“こう伝えといてくれ”と。

 

…私は随分頑張った。後は加良さんに任せるとしよう。

 

「加良さん!コードは1125です!末次くんから炙り出しのカプセルを使えって!」

 

叫ぶと同時に、スマホを加良へ投げた。

こちらを見ずにそれを受け取るが…

両者動きを止めない。

 

大丈夫。加良さんなら。

 

 

 

『 -1- -1- -2- -5-』

 

『-Phenobarbital-』

 

そして、男が手に持つスマホが腰に自動的に装着される。

 

『Medical Driver』

 

恐らく変身リスク等を調べてのことであろう。

末次からは、“とある薬品”の変身許可が出たのだ。

 

『Connect On』

 

スマホに繋ぎ合わせたモバイルバッテリーに、加良は機械的な動きでカプセルを投入した。同時に嵐のようにカルテが飛び回る。

……なんか雰囲気がピリピリしている。

 

それは…普段、イルを炙り出す為に使われる薬。

純粋な心を持つ人間を眠らせ、心の闇を具現化する薬。

カプセルが破けると白いガスを放出する…

 

何千枚と飛び交っていたカルテの周りには、白煙が生じていた気がした。

 

「変身」

 

腕をいつものように動かし、そう告げた瞬間に起動スイッチを入れた。

 

『-R E B O O T-』

 

『Take it bro you need this』

 

『Anti horny-Phenobal1125』

 

まだ溶け切ってない氷塊が散在する中、白煙の中から現れたのは、リタリンと同じくして白と緑が基調の仮面ライダー。充血したような色の複眼が、相対する仮面ライダーを見る。

充電液は濁ったような白で、カロナールと同じくマントの代わりにガスがマフラーのように漂っている。

 

スピードチャージを睨みつけながら、ずけずけと近づいていく。そして首を掻っ切るように指を動かしながら言うには。

 

「後悔しろ 再びな」

 

まるで死の宣告のような口癖を言ったと同時にスピードチャージは走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

末次から受けた簡易的な説明。

イルを炙り出す為に使っているカプセルはもともと“フェノバール”という薬品を用いたもので、前から変身にも使えるように改良していたのだという。

 

仮面ライダーフェノバール。

 

とだけ彼は最後に言い、エンジンを噴かす音を残して通話を切った。あの子バイクの免許持ってんの?

 

『うおおおあああっ!』

 

スピードチャージが、研ぎ澄まされた動きで加良に殴りかかる…が、避けられる。

避けられたのを認識した瞬間にパンチに行動が変換されるが、それもまた…

 

――避けてばっかり?

 

加良は無口のまま、素早い沢中の攻撃を避けまくる。

カロナールの時の氷を用いた攻防とは大違いで反撃さえしていない。

 

『おォい!どゔしたんだよ!反撃したらいいんじゃねEかよ!』

 

調子がおかしい沢中からも指摘されている。

もしかしてだが、新形態だから能力を理解してない?

 

『お前の避け方は単調d!理解ってきたぞ次どう避けるか!』

 

『跪かせてやん…』

 

『Waitin' For Rid∅r Kick.』

 

沢中が急停止した。がくりと膝から落ちたのだ。

加良が一切反撃しない中薬品を投入したのはそれと同時だった。

 

『すー』

 

 

よく見たら、彼らの周りには白いガスが蔓延していた。

 

私は知っている。フェノバールとは昔使われていた麻酔薬の一種だ。なんで使われなくなったのかは知らないが…

 

ガスが蔓延しているのは必殺待機の状態だからではない。恐らく、沢中の攻撃を避けながらガスを撒き散らしていたのだろう。

 

『Phenobal Injection』

 

叫んでいる途中でありながら麻酔薬によって意識を失いかけている沢中にむけて、加良は足を振りかぶる。

ガスで形成された蹴りの軌道に這わせた回し蹴りが思い切り沢中に直撃し、有無を言わせず蹴り抜けた。

 

「うわあ…(引)」

 

なんていう卑怯な戦法なんだろう。

相手にガスを吸わせる為に全部避けていたんだ。

 

聞こえていたらしく、加良がこっちをちらりと見た。

しれっと言ったはずだが…

 

……強力なライダーキックを受けたというのに、沢中は叫んだり悶えたりすることもなく、よろよろと立ちあがった。この人もこの人だな…

 

成程、この薬…もといこの形態はやはり、睡眠作用のあるガスを放出する能力らしい。

確かにカロナールの瞬時に形成できる氷のように手数を増やすことはできないが、接近戦には強い。

 

ほぼダウンしたような状態に陥った沢中に対して攻撃をしかける加良。…だが、もはや反射のように沢中は拳を受け止めた。

 

「おい聞いてるか さっさと変身解除しろ さもないと麻酔が切れた時に痛いぞ」

 

“麻酔が切れた時”…

じゃあ攻撃されてもたいして痛くないけど、麻酔が切れた時に痛みが一気に襲いかかってくるってこと?

 

しかし沢中は。

 

『hはは…!ブッ殺す』

 

もう片手でシリンジを動かした。

 

『ブラッドドロー』

 

放出された血液が私の方に来るほど広がり、もはや湖と言える程の血溜まりと化した。

 

この血は…足を取るため?

沢中は気を取られた加良を引き離し、距離を取る。

 

「往生際が悪い奴」

 

足を取られないように最小限の面積で血を蹴り、沢中の背後に回り込む…

 

血に足ついた瞬間、俯いたままの沢中がカウンターじみた回し蹴りを放った。

 

「!!」

 

両腕でギリギリガードできた加良が、少し驚いたような表情をする。

驚いた顔の加良に沢中は、(恐らくニタァって顔をしてるんだろうか)変なテンションで語る。

 

『なんかよ…さっきよりも気分が高まってんだ…眠いのはマジだがよ、無意識に反撃できるんだ…なんでも感じ取れる…音も、血飛沫も!』

 

必殺技を放たず血溜まりが残ったまま、沢中は加良と距離を取る。

 

「加良さん…」

 

フェノバールは麻酔ガスによる接近戦が強い、と認識していたが逆に言えばそれだけだ。

自分の能力が一時的に飛躍するとかそういう追加能力はない。手数が少なすぎるのだ。

 

『カウンターライダーキックでブッ殺してやるよ!来い!!!!』

 

チンピラみたいなスタイルで足をためている。

今の加良からしたらカウンター戦法はめっぽう弱いはずだ。

 

「…」

 

しかし、加良は“受けてたつ”とでも言うようにフェノバール錠を2つ投入した。

 

『Prescription Strike. Waitin' For Super Rid∅r Kick.』

 

プシューという音と共に、白煙が立ちこもっていく。

少なくとも遠くにいる私には何も見えないくらいに…

 

――(麻酔ガスで周りが見えなく…)

しかし問題ない。感覚過敏で反射神経に磨きがかかっている。周囲の音…着地した際の血飛沫…全てが俺を手助けしてくれる。

 

遂に周りが完全に見えなくなる。

視覚は邪魔だ。逆に惑わされてしまう。

 

だっだっだっ、という血が粘着した足音がし始めた。

走り始めた…!

 

『聞こぇてるせ…お前の足音…吐息!』

 

助走をつけた強力なライダーキック。

近づかざるを得ない。これはどちらかが“一手”見誤ったら負ける勝負!!

 

すると、力強く地を蹴る音がピタリと止む。跳んだか!

どうする…?そのまま蹴ってくるか?

 

俊敏になった思考。俺があいつならどうするか…

俺なら…

 

『踏むッ』

 

先程されたかかと落としを思い出しながら…腰を落とし、自分が思うタイミングで一歩前へと踏み出した。

 

「!!!」

 

すぐ背後で勢いよく着血する音、そして軽くこちらにかかる血飛沫を感じた。

――全ての感覚を捨て、全力をこの足に込めるッ!

 

『タヒね』

 

『ブラッディーストライク』

 

強烈な後ろ回し蹴りライダーキック。

着地して無防備な哀れな男に吸い込まれるように入っ…

 

『え』

 

手応えがない。

 

空を蹴ったのだ。

 

なんで?

 

 

着地した瞬間にまた跳んだ?

違う。そんな余裕さえない速さで蹴った。

何故?

 

訳もわからず目を開ける。…と、やっぱり目の前には誰もいない。しかし、足元には…

 

『氷…』

 

普通に重そうな氷塊。まさか。さっきの…?

 

囮!?氷を投げたのか…!?俺が感覚だけに頼るのを知っていて!

振り返った瞬間。

 

 

 

『Phenobal 1125 Strike』

 

そこには、蹴りを外してバランスを崩すことを見越したような顔をした男が、単純に殺意を込めたような足の振りかぶり方をしたままそこに居た。

 

「じゃあな」

 

 

……

――「加良さんっ!!」

 

白煙の中から現れたのは、変身解除し倒れた沢中、そしてそれを見つめる仮面ライダーフェノバール。

いつのまにか、足を取るような血溜まりは消えていた。

 

よたよたと近づいていく。身体は痛むが、昨日めちゃくちゃに殴られたのの比にならない。……もしや手加減したのだろうか。

 

「…」

 

加良はなんも言わずにこっちを見た。

なんだろう、なんか言ってもらってもいいですか?

 

「沢中さん…なんであんな急に豹変したんでしょうか。暴走したのかな?」

 

「さあな」

 

今も尚変身解除しない加良を見る。

沢中はさっき急に起き上がって私を蹴った前例があるので、油断しきっていないという感じだろうか。

 

……ん?なんか変な音が聴こえる。

なんかのノイズ?

 

『お見事お見事 流石仮面ライダー!』

 

その合成音声みたいな声は、倒れている沢中の方から聞こえてくる。

 

「??」

 

加良が振り返ると同時に、私も沢中の方を向く。

 

沢中は倒れたまま。しかし、その周辺が何やらおかしい。

黒いガスが蔓延し出して…黒いガス…?

 

まさか…!!!

 

『いやあ流石仮面ライダー。フェノバールでしたっけ?朝末次くんが言ってましたもんね〜』

 

「ナルコレプシー!」

 

待って、どうして沢中さんの中から…!?

さっき私と会ったばかりなのに…!

 

しかも何故沢中さんから…

 

え?嘘、まさか…

 

「おい お前まさか」

 

『え?私がこの人の身体を乗っ取ってたの、もしかして気づいてなかったんですか?って言っても、私の体力を少し分けてあげただけですが…』

 

すると、ナルコレプシーは質量を持ってなさそうな足で沢中を数回足蹴にした。

 

『いやあ、それにしてもこの男はどこまでも役立たずでしたねえ。まあ、未熟だったから分が悪かったんでしょうけど』

 

「じゃあ、倒された沢中さんが急に起き上がったのも、狂ったみたいに豹変したのも!」

 

『禁断症状中の人を一方的に殴るだけじゃそれは活躍とは言えないと思うんですよね。様子を見ないから反撃されてすぐダウンしてたし…』

 

「お前 まさか知ってたな」

 

加良がドスの効いた声でナルコレプシーに尋ねる。

 

『なんのことですかねえ…私はただ、彼に“ギターを取り返す方法”を教えてあげただけですよ』

 

本当になんのことだ…?

何のことを指してるのかはわからないが、ナルコレプシーはその“何か”を知っていたようだ。

 

何か加良について都合の悪いことを知っておきながら沢中をけしかけたとか…?

 

「どうしてあなたは沢中さんの身体を乗っ取ったの?」

 

 

『そりゃもちろん、仮面ライダーの活躍が見たかったですからね。今回の勝負って、どちらにせよ一方的だったじゃないですか。それだけじゃ流石に物足りなかったんで、戦闘シーンを追加オーダーしたんですよ』

 

そして、“全員皆殺しって言ったら本気出してくれるって考えは的中でしたね”と。

 

それは見るたびに真っ黒い。…何やらガスで構成されたマントから何かを取り出しているようだ。

 

私は、心の中に残った疑問を反芻し続ける。

ただ、“加良の活躍が見たい”という理由だけで瀕死の沢中に憑依し、その身体を酷使した…?

え?ナルコレプシーが?

 

今までやることが全てにおいて謎だった存在。

ヒーロー陣へ談笑しにきたりするヤツが、そんな…

 

『この人いわゆる“役立たず”ってやつですね』

 

「…!やめろッ」

 

「え?」

 

フェノバールはいつのまにか走り出していた。

なんで…え?

 

ナルコレプシーが手に持っているものが目に入る。

銃…?それも、末次くんが渡してくれたものに酷似した。

頭が追いつかな

 

「ぁが」

 

数発の乾いた発砲音が辺りを鳴らす。

 

え。

 

 

仮面ライダーが制止するよりも早く、悪役(ナルコレプシー)は倒れている男の脳髄をその拳銃で撃ち抜いた。

 

「ごほっ」

 

口から血を吹き、少し微動した後に男は動かなく…

え?

止まらない流血に咳が混ざり、かぷと変な音が出ている。

 

「お前ッ!!」

 

いつの間にか…気づかなかった。

吐き気を催してたらしい。抑えるまもなく口から吐瀉物が流れていた。悲鳴よりも先に。

 

血はすぐには止まらず、血に混ざっていた気泡も消えた。

沢中は…完全に息絶えた。

 

ナルコレプシーはフェノバールの拳を避けた後、私のそばに現れては貶すように言った。

 

『あれ?刺激が強すぎましたか?人が死んでるところを見るのは初めてじゃないですよね?』

 

“まあ、死ぬ瞬間と死んだ状態を見るのは違いますからね〜”と残し、その黒いやつがフェノバールへ向く。

 

『人間って実は使い捨てってこと知ってましたか?少なくとも私は今までそうしてきましたが。』

 

もう何も入ってない胃袋から胃液だけが出て、その強酸のせいで咳が止まらない。

 

『うるさいですね…貴方も体験してみます?』

 

『あ』

 

躊躇することなくリタリン薬弾を連射する。

しかしそれが当たる前にやつは消えた。

 

『ふふふ』

 

何が面白いのか、ナルコレプシーは笑う。

 

『一応言っておきますけど、活躍を見たいがためだけにこの人を乗っ取った訳じゃありませんよ?』

 

いつのまにかフェノバールのそばにいたナルコレプシーは入り口の方を指差した。

 

……イル!しかも大量の…

そいつらの目(?)は、仮面ライダーの一点を見ていた。

 

『大虐殺…も悪くないんですがね。ちょっと今日は仮面ライダー側をピンチにしてみようと思いまして』

 

「成程時間稼ぎか 全て計画通りってことか?」

 

それに対しても意味深な笑いで返すナルコレプシー。

 

『彼らがこちらに辿り着くまでもう少しありそうなんで、軽くこの沢中とか言う男の話をしましょう。』

 

こいつ…!

 

『この男、“死にたい”とか言いながら本心では死にたがらず、これまた“世界に絶望した”って言いながらも自分への賞賛を世界に求めてたんですよ。』

 

『哀れだと思いません?』

 

「…」

 

加良は黙ったまま。

 

『この男はどこまでいっても役立たずで、イルに変えても失敗するわ。仮面ライダーに変身しても油断して止めを刺さなかったから返り討ちにされるわ…』

 

「……つまり何が言いたい」

 

『この人が死んだ理由は生きる価値がなかったからです』

 

「……」

 

「…!」

 

加良も私も、何にも言えずにその場に佇む。

 

――じゃあ、どうすればよかったんだ?

彼は躁鬱(双極性障害)という病気で、誰にもそれを気づいてもらえず…自分の実力をただ評価されたかった、純粋な人だったんじゃないか?

 

『さあ、仮面ライダー。貴方ならどうしますか?このイルの大群!もし貴方が死んだらこいつらはこの学校の生徒たちを皆殺しにするようにプログラムされています!』

 

『貴方の生きる価値を、教えてください』

 

大勢のイルがこちらに迫ってくる。

私とフェノバールが戦闘体制をとるなか…

 

ブロロロォという音が鳴り響いた…

かと思いきや、真っ黒いバイクが数台のイルを弾き飛ばしながらこちらに飛び出してきた。

 

「待たせたなッ!」

 

そのバイクに乗っていたのは、片手に電気剣、ホルスターにリタリン銃を備えた末次くんだった。

 

「末次くん…っ!来てくれ」

 

「うおおおおおおお」

 

私の台詞を遮り、彼はバイクをその勢いのまま走らせナルコレプシーに突っ込んだ。

 

『これマ』

 

『Electrical Slash』

 

トリガーを引き、バイクの速度…60km/hはありそうな速さで、緑色の電気を纏った電気剣でナルコレプシーを斬った!

 

一閃の雷が走ったかと思えば、ナルコレプシーの黒い体が真っ二つに割れ、煙を生じていた。かなり苦しそう…!

 

『やったか!?』

 

「お前が言うなよ」

 

体を半分に斬られたとはいえ、ピンピンしている…

てか、もしかして不意打ちって基本なんですか?

 

「…間に合わなかったみたいだな」

 

苦虫を噛み潰したような顔をした末次が、絞り出すように言った。

バイクから降り、(剣は待ったまま)こちらの方に末次は近づいてきた。

 

「加良、ツバサさん。あんまり気に病むな。あいつの頭がイッてるだけだ。」

 

ザザ…という音を立てながらいつのまにか復活していたナルコレプシーがこちらに話しかける。

 

『末次くん…貴方には無いらしいですね、生きる価値』

 

それ以上何か言おうとしたナルコレプシーに、末次は銃撃で返事をした。

早撃ち…見えなかった。

 

「生きる価値だと?笑わせるな」

 

「みんな好きで生きているわけじゃあない。死ぬのが理不尽っていうなら生きるのだって理不尽なことだ」

 

「僕らには生きる価値は愚か、もとより生きる理由も死ぬ理由もない」

 

「理由が無ければ死ぬ必要はないだろ?」

 

「お前の論は根本的に違うんだよ」

 

「!」

 

加良は驚いたそぶりで末次を見る。

 

「ヒーローといえどまだまだだなからし」

 

ナルコレプシーが少し笑いながら、

 

『でもそれって貴方の感想ですよね?』と。

 

「お前がさっき抜かしてた沢中さんのこともお前の感想だろ」

 

瞬間、黒いガスが私を包んだ。

 

「!!?」

 

『じゃあ、あげますよ。死ぬ理由。』

 

黒いガスでできたナイフを私の喉元にあてがえる…

 

「死ね」

 

…前に、フェノバールがナルコレプシーの体を殴って弾け飛ばした。

 

「テキトーな存在如きが人間を語るな」

 

弾け飛んだ黒い粒子が、迫り来るイルの大群の先頭に流れていった。

 

私たちは、3人で身を固めて…

言うなれば、“三位一体”ってヤツだ。

 

「つまりはまあ そういうことだ」

 

加良さんらしい、ぶっきらぼうでテキトーな結論。

 

『ふふ、ふふふ…』

 

イルを統率するかのような姿のナルコレプシーは、オーバーな仕草で叫んだ。

 

『良い! 良い!素晴らしい!私はこういう胸熱な展開を待ってたんですよ!』

 

『いいでしょう!このイルの大群を対処してみれるならね!生徒だけじゃなくてご自身の命も守れればいいんですが、戦いの中で命を落とすのも乙なものでしょう!』

 

体を構成する黒いガスが、ガスマスクの中に吸い込まれ消えていく。流石に戦闘には参加しないか…

 

『まあ、私も疲れましたしね、何処か良い感じの所で休憩しながらヒーローショーを楽しむとします』

 

私の考えを読んだのかと思しき発言。

その体が消えるともに、“沢中の死体”も消えた。

ガスマスクが床と衝突する金属音が鳴ると同時に、イルの大群は行進し始めた。

 

「いくぞ」

 

「任せろ」

 

「…了解です」

 

3人対イルの大群の戦いが火蓋を切った!

 

 

 

『Blizzard Slash』

 

「うおらぁッ!!」

 

カロナール錠をバッテリに注ぎ込んだ末次が放つ、冷気を放つ回転斬り。

刃の当たる部分からイルは凍りつき、断末魔をあげる暇もなく砕けて消えていく。

 

『Phenobal Injection』

 

「死ね」

 

煙を纏わせた蹴りで数体のイルをボールのように蹴り上げ、そいつらに煙を纏わせたまま大群に蹴り放った。

 

『うじゅううう』

 

煙を吸い込んだ怪物達が、たちまち溶けていく。

ヨシ!わたしも必殺技を…

 

「えいや」

 

普通の発砲。

いや、確かに銃は普通に撃つしかないけど。

なんか…あるじゃん?そういうの。

 

何発か撃ってわかったが、何故かはわからないが先程よりもイルが弱まっている。

たった1発のリタリン薬弾が何体ものイルを貫いたりしたのだ。

 

「なんかさっきよりも弱いけど…でもやっぱ量が多いですね!!」

 

「あぁ…正直僕らにこの量を捌くのはキツい。稀にも手伝って欲しいんだけどアイツが戦ったら校舎が燃えちゃうしなあ…」

 

こう言う時って、本家(私たちも本家なんだろうけど)の仮面ライダーはどうやっていたのだろうか?

ちょっとだけ見たことがあるが、主人公達が数体の怪物を倒してたらいつの間にか首領の所に…ということはあったが。

 

「おい ツバサ」

 

「どうしたんです?」

 

あ、もしかして撃つ時真顔になってたかな。

 

「さっきイルが弱くなってるって言ったか」

 

かなりの迫力で顔を近づけてきた。

これが仮面ライダーじゃなくて本人の顔だったら恥ずかしくて目を逸らしてただろう。

 

「もとより1発で即死はしてたんですけど…前は貫通とかしなかったかなって…」

 

「なんでだろ?あれかな、大量生産しすぎて単品のクオリティが下がったってやつかな。」

 

怪物の生産において、そんなありきたりなことがあるのだろうか?際限なく生産するだけで、鬱の力というものは弱まるものなのだろうか?

 

小さな鬱をイル化しているとはいえ、そんな小さな鬱にさえ個人差があるとか。うーんわからない…

 

…?フェノバールが攻撃の手を止めた。

末次くんはいまだにイルを千切りにしているが。

 

「どうしたからし。なんかイルの対策の目星ができたのか?」

 

「ああ」

 

フェノバールは、末次くんが乗ってきたバイクに跨った。

 

「じゃここ任せるぞ あと予備の電気剣も貰う」

 

「おう」

 

「えっ!?何処かいくんですか!?」

 

「まあな」

 

『Prescription Strike. Waitin' For Super Rid∅r Kick.』

 

曖昧な返事と共に、バッテリにフェノバール錠を2つ注ぎ込んだ。

 

一体何を…

いや、いいや。加良さんなら大丈夫だろう。

 

「お気をつけて」

 

「任せろ」

 

バイクの(少しうるさい)エンジン音。

その仮面ライダーは必殺待機の状態の白煙を噴出しながら大軍のイルに突っ込んで行った。

 

麻酔ガスを吸い込んだイルが溶けていく。

この麻酔ガスには抗うつ効果が有るのだろうか…

 

「あの人、今度は何をするつもりなんですかね」

 

すると末次くんは。

 

「さあ」

 

「でも、こんな最悪な状況がなんとかなるんじゃないかな」

 

そういって、ガスを吸わずに生き残ったイル達を狩り始めた。なんとかなる…か。

 

リタリン錠を装填し、末次くんの戦闘をサポートする。

目指すはガンマン!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ…こいつらマジにキリがねえな」

 

赤い姿の男が、ギターを振り回してはそう言う。

教室から湧き出てくる怪物達。これらは一体でも叩き逃したら街に進出して被害を産むだろう。

 

「ツバサちゃんも加良の野郎も遅いな…流石に飽きてきたぞ…」

 

彼がやっていたことといえば、教室から降ってくるイルをバッターのようなギターのスイングで打ち殺すことである。

 

たまに複数体のイルも降ってくるが、必殺技で難なく切り抜けた。今のところ順調である。

 

流石に飽きてきたのか、男は考え事をしながらスイングに没頭するようになった。

 

「にしても時給が出ねーのにこんな仕事なあ…ツバサちゃんの頼みだけどー…」

 

そういえば、こいつらはさっきまで人を襲ってなかったのになんで俺に近づいてくるのだろう。そんな考えに至りつく。

 

「ツバサちゃんと別れた後から随分経ったけど、なんか数増えてる気がすんなあ…」

 

数が増えている…というよりも、じつは頻度がはやくなっているということにこの男は気づいていない。

 

『なあに、今防御状況が手薄なあなたをコッソリ始末するために全部のイルをあなたに向かわせてるだけですよ』

 

「はっはっは なるほど考えるなあ」

 

「??????なんて?」

 

合成音声のような声に思わず男は振り返る。

そこには、黒いマントに身を包んだソレがいた。

 

『やあ、こんにちは。今日は良いイル日和ですね。』

 

「……誰だオメー?って痛!こいつらまだ襲ってくるんだけど!会話中だぞ!」

 

『悪役が待ってくれるのは変身中とシリアスなシーンだけですよ』

 

ちゃんとギターのボディに当たるように、纏わりついてくるイルを殴打する。

 

『私の名前はナルコレプシー。あなたには死んでもらいます。』

 

「は?お前が死ねよ」

 

男が、イルがボディとネックの間に引っ掛かるように振り回しては黒い奴に放り投げた。

…が、怪物はその体をすり抜けて飛んでった。

 

「なんだこいつぅ…!」

 

『だからナルコレプシーだって!』

 

男は足りない脳みそで考える。

さっきこいつは俺のことを“防御状況が手薄”と言っていた。

多分恐らく絶対ツバサちゃんと加良は合流しているって判断でいいんだよな?

 

こんな善良なイケメン(=稀)を始末するなんて…

こいつ悪い奴だ!と。

 

「うおお死ねや!」

 

背後の黒い奴に赤いギターで殴りかかる。

 

…が、マントから勢いよく出てきた黒い爪が振り下ろされたボディを遮る。

 

「爪!動物みてーな…竜?」

 

『私はナルコレプシーです』

 

ナルコレプシーは掴んだギターを返すと、稀から距離をとって話し出す。

 

『あなた、末次くんが作ったライダーシステムを使ってるらしいですが…イマイチ仮面ライダーには思えませんね。動機もわからない…』

 

「なにおう!仮面ライダーになった理由だってあるわい!ある…」

 

周囲の時が止まる。

ちょっとだけだが、イルが稀のことを待ってくれているように感じた。

 

「…なんでだっけ?」

 

『やっておしまい!』

 

いつの間にか周りを囲んでいたイル達が稀に襲いかかる。

 

「やべ!」

 

『Heat Up』

 

……く…一本しかアンプルを刺せなかった…

ギターの模様から湧き出たような焔が稀を包み、それは纏わりついてくるイルに着火した。

 

「うおお」

 

焔に焼かれ、手を緩めたイル達を一気に振り払い…

見えた!

 

真夏の太陽よりも熱いギターを、剣のように回転させる…!

 

『Burst Rok'n'roll』

 

瞬間、乾いた銃撃音がした。

 

「痛っ」

 

「え?」

 

頭に、普段感じないようなものすごい痛みを感じた稀。

流石にびっくりして周りを見渡した。

 

『最近はヒーローを待たない悪役が流行っていますが、今の流行は必殺技中断ですよ』

 

ナルコレプシーと名乗るやつが銃口をこちらに向けたまま、しゃべった。 撃たれたらしい。

 

「なにいいいいいいい」

 

今度こそイルがまとわりついてくる。

アンプルをつけられないように腕を、戦えないようにギターを…

 

「あれ?もしかしてこれ」

 

『はい終わりでーす』

 

ブロロロォ

 

バイクの音が、上からした。

 

「ぶッ」

 

『???????????』

 

ナルコレプシーには、今起こったことがよくわからなかった。少なくとも目視できたことは…

 

「ナルコレプシー」

 

窓から飛んできた黒いバイクが、イルの集団に突っ込んではアンプを思いっきり轢いていた。

 

『仮面ライダーフェノバール…』

 

白と緑の仮面ライダーが、バイクに乗ったままこちらを見ていた。

仮面ライダーアンプは側でノビている。

 

『何故ここがわかったんです?』

 

「お前なら 孤軍奮闘してるこいつを真っ先に狙うだろうって思っただけだ」

 

「…それにわかったことがあるからな」

 

フェノバールが手に持つ剣のトリガーを引いた。

 

『なっ!!!』

 

太陽の光でよく見えてなかった煙…それだけでなく、微弱ながらもその煙を吸い込んでいたのであろうイルを貫いた蛇のような煙がうねってナルコレプシーをしめつけた。

 

『これは…!既にガスを撒き散らして…!』

 

数珠のようにイルをところどころに通した煙が、煙電気剣の振りに呼応してナルコレプシーをもみくちゃにする。

 

『Smoggy Slash』

 

フェノバールが剣を振り下ろすと同時に、煙の蛇がナルコレプシーに巻きついたまま地面に激突し爆散した。

 

『いてて…』

 

ガスに蹂躙されたイルたちは既に溶けてしまっていたが、ナルコレプシーは溶けることなく地面に座り込んでいた。

 

「やっとまともに攻撃をくらってくれたな」

 

よくみると、その黒い奴はノイズとともに体が消えたりしていた。

 

『これだから不意打ちは嫌いなんですよ。パーセンテージ下がっちゃったかな…』

 

フェノバールは言葉を無視して周りを見渡した。

稀の周りにいた多数のイルが“消えていた”。

 

――やはりな

 

「このイルの大群 お前がダメージを受けると消えてくみたいだな」

 

『あ、バレました?』

 

その仮面ライダーはバイクに乗ったまま話す。

 

「ツバサが“イルが最初より弱体化してる”と言っていた これはお前がツバサに撃たれたり沢中の体を乗っ取り体力をわけることによって体力を消耗したからだ」

 

「体育館にいた俺らの活躍を見ずに消えたのはこれ以上ダメージを負わずにいるため そしてついでに稀を始末できるから」

 

「流石と言いたいところだ イルを大量に発生させ 稀が1人きりになる状況 そして沢中を利用しライダーシステムの運用 全て計画通りだったんだな」

 

男が話し終わった時には、その黒い奴は拍手をしながら…ガスマスクの下から笑みを浮かべていた。

 

『なるほど全てバレちゃいましたか…もちろん私の計画は今あなたがおっしゃった通りですよ』

 

『しかし一つ違う』

 

わざとらしく、機械の指で『1』のマークをつくる。

 

『あなたがここに現れるのも計画通りでした』

 

すかさず黒い奴が銃撃する。

 

「そうか」

 

男はそれだけいうと、飛んできた銃弾を寸分狂わずに真っ二つに切り裂いて見せた。

半分に割れた銃弾は煙に流されイルの方へ飛んでいって直撃した。

 

『…ほ!フィクション作品ではよくあるやつですが…まさか現実でもできるとは…アツいですね』

 

フェノバールは電気剣についているモバイルバッテリーに錠剤を追加した。

 

『Injected』

 

つぎ込んだカロナール錠の能力で、空間が凍りついていく。

そしてまもなく、フェノバールはスロットルグリップを何回も捻り、ナルコレプシーに突っ込んだ。

 

『バイクに乗りながらも銃弾を切ることは出来ますかねえ…期待していいんですよね?』

 

ナルコレプシーが不敵に笑いながら銃を男に向ける。

 

「俺についてこれるならな」

 

まっすぐ突っ込んでくる男に対しナルコレプシーは銃撃するが、その男は避けると同時に渦巻きのようなルートでナルコレプシーに近づいていく。

 

『もしかして私を舐めてるんです?バイクの動きを先読みして撃つなんてお腹の中の胎児でもできますよ』

 

ブレーキを考慮した地点を先読みして撃った。

……が、男は淡々と言ってのけた。

 

「じゃあお前は腹の中の胎児以下だな」

 

その弾丸は男には当たらなかった。

それどころか、バイクにさえも。

 

『これはっ!!』

 

その仮面ライダーはバイクを氷の上で走らせていた。

フェノバールが放つ煙がバイクを先行し、それが瞬間的に凍ることによってバイクも通れる綺麗な道を空中に作り出しながら走っているのだ。

 

空気中に存在する物質よりも凝固点が高いのか…

普段カロナールが作る歪な氷塊とは違う氷。

睡眠ガスを自由自在に操れるフェノバールと、物体を瞬間的に凍らせるカロナールの併用である。

 

『なるほど…』

 

『流石ですね でも抗うつの効能がないカロナールの攻撃では私を倒せませんよ』

 

そう言いながら発砲するが、ガスが作る氷の道は変幻自在にうねり、弾丸は氷にヒットする。

 

「うるせえ死ね」

 

男は遂に、手に持つ剣のトリガーを引いた…

と、同時にフェノバールのカプセルをドライバーに装填した。

 

『Waitin' For Rid∅r Kick.』

 

『Phenobal Injection』

 

有無を言わす暇をも与えず、仮面ライダーはガスを纏った足で冷電気剣をナルコレプシーへ蹴っ飛ばした。

 

『ええええええ!!!???』

 

『Blizzard Slash』

 

雷のような速さでガスをまとった剣が、避ける暇もなくナルコレプシーに突き刺さった。

 

『(剣が私の身体をすり抜けていない…何故通り過ぎずに刺さって止まっている…?)』

 

『…まさか!』

 

『氷の壁!』

 

「お前の体を“固定”した お前の身体がガスで出来ていて剣で斬るだけじゃ凍らないならじっくり冷やすまでだ」

 

ナルコレプシーの背後にはいつのまにか氷の壁が出来ていて、冷電気剣はナルコレプシーを貫いたまま壁に突き刺さっていた。男はナルコレプシーを動けないように固定し、ついでに凍らせようとしているのだ。

 

『(麻酔ガスで私の身体が中和されている…これが私に対するダメージブーストの秘密ですか…成程考えましたね)』

 

『あ』

 

剣に貫かれたまま固定され、その上身体がだんだん凍ってきているナルコレプシーの元へバイクが飛び込んで来た。

 

「もういっちょ」

 

『Waitin' For Rid∅r Kick.』

 

『Phenobal Injection』

 

時速70kmの速度で走るバイクに乗ったまま、フェノバールはガスをまとった腕を伸ばしたままナルコレプシーへ突っ込み…

 

動けないナルコレプシーに70km/hのラリアットを炸裂させた。

 

『つうっ!!』

 

バイクは止まらず、男は腕にナルコレプシーを引っ掛けたままそれを氷にめり込ませ、そのまま氷の壁を突き抜けて吹っ飛ばした。

 

バイクの速度でラリアットをかまされたので当然だが相対的にバイクよりはやく黒い奴が吹っ飛んでいく。

 

『やることが…ごほっ 荒々しいですね!』

 

黒い奴は心底驚いていた。

鬱の化身とも言える自分を、麻酔効果があるだけの薬で追い込んでいるヒーローに。

だからこそ、燃えるものがあった。

 

「しぶといな」

 

『Prescription Strike. Waitin' For Super Rid∅r Kick』

 

カプセルを2つ投入した仮面ライダーが、スロットルグリップをまた数回ひねる。

 

『やってみなさい!私を殺せるというのなら!!』

 

返事などなく、男は遠くにいるナルコレプシーに向けてバイクを発進させた。

 

ナルコレプシーはかなり痛手を負っている。

もう少しでもダメージを受けたら…いちいち面倒な手で作り出したイルの集団がつゆとして消えてしまうだろう。

 

――ここまでやられてばかりのはずがない

 

ナルコレプシーは依然、フェノバールに向けて銃を構えるだけである。

 

 

『かかりましたね!』

 

残り数mとなったところで、黒い奴が叫んだ。

手に持つ銃に、錠剤を投入したのである。

 

「!!」

 

『気づきませんでしたか!あなたからくすねていたんですよ…カロナール錠を!』

 

時既に遅し。気づいた時には、ナルコレプシーが発砲したカロナール弾が、麻酔ガスを凍らせて氷のバリケードを作っていた。

 

『その速度でぶつかっちゃったらどうなっちゃいますかねえ… おっと、やることが汚いとか言わないでくださいよ?』

 

しかし、男は速度を緩めることなく更に加速させた。

 

 

「……信じてやってもいいのかもな」

 

『Encored Rock'n'roll』

 

 

『え』

 

黒いマントの中に爪を隠し攻撃のタイミングを見計らうナルコレプシーの目の前に…

その、氷の壁に。

 

いきなり真っ赤なギターが飛んできては氷を溶かし、破壊した。

 

『氷のバリケードが!!このギターは!!』

 

「…へっ してやったりだぜ!さっき俺の必殺技を止めやがった仕返しだぜ」

 

いつの間にか仮面ライダーアンプが目を覚ましていたのだ。

 

『くっ…こいつ!私の邪魔を…』

 

「俺に目をくれてていいのかなー」

 

赤いライダーに向き激昂していたナルコレプシーが振り返ったその時には、バイクは既に目の前に辿り着いていた。

 

「死ね」

 

『ッッッッッ!!!!!』

 

瞬間、超高速回転しているタイヤがナルコレプシーのガスマスクにめり込んだ。

 

ギャギャギャギャと変な音を立てながらも、バイクは止まらない。ナルコレプシーをタイヤに巻き込み轢いたまま、更に加速していく。

 

『私はまだ…こんなところでは!』

 

その時、フェノバールがスロットルグリップから手を離した。

 

『…はっ』

 

跳んだ。

 

主がいないままバイクは慣性にしたがってナルコレプシーを轢いたまま未だ突き進む。

 

フェノバールもまた、慣性の法則にしたがってバイクと同じ速度で宙を舞い一回転し…

気づいたら足をナルコレプシーに向けた飛び蹴りのモーションに変わっていた。

 

「じゃあな」

 

『Phenobarbital 1125 Strike』

 

『う、うわあああああああああああかっけえ』

 

瞬間、蛇のような真っ白いガスを纏ったまま…

その仮面ライダーはナルコレプシーをバイク共々貫通し蹴り抜けた。

 

突き抜けた後、慣性でズザザザと離れた所に着地した後…

麻酔ガスがバイクの破壊により漏れた火に引火し、大爆発を起こした。

 

背後で爆発した光が、フェノバールの複眼を輝かせた。

 

 

遠くから見ていた稀は…

 

「ば、バイクごと蹴った…!あいつ頭おかしい」

 

爆心地には、爆風で吹き飛んだバイクの焼けこげた部品が散乱し、ガスマスクが中心に鎮座していた。

 

 

加良は変身解除すると、稀に歩み寄る。

 

「助かった 礼を言う ありがとう」

 

「いいってことよ」

 

同じく変身解除した稀は、差し出された手を受け取り立ち上がった。

そして急に殴った。

 

「それにしてもお前!バイクで俺轢いたろ!?」

 

「本当ならイルに殺されてたところをバイクに轢かれた程度にしてやっただけだ」

 

反撃とでも言うかのように加良は稀に殴りかかる。

2人とも怪我をしているというのに、なかなか元気そうである。

 

そんな2人を、見下ろす存在がいた。

 

『なかなか面白くなってきましたね。私の残機(パーセンテージ)は少し減っちゃいましたが』

 

校舎の屋上には、黒い風貌の機械みたいなやつがいた。

 

『んー…流石に“ナルコレプシー”は維持できませんでしたねえ…カタプレクシーくらいは…いや、ないか…』

 

そしてそれは、合成音声の高笑いをする。

 

『まあ、まあ!良いでしょう!ここまでまだ私のシナリオ通り!新生ナルコレプシー…いや、“ハルシネーション”として!計画を進めていきましょう!』

 

そんな叫び声は、上空へと溶けていった。

 

『それにしてもかっこよかったですねえ ビデオとか撮っとけばよかった』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「よう、終わらせたみたいだな」

 

末次くんが、生徒職員の健康調査をしている私たちのもとへ訪れた加良さんに言った。

私たちは、体育館で戦っていたイルの大群が消滅したことで加良の勝利を確信し、各教室へ生徒たちの安否確認をしていた。

 

加良は淡々と返事する。

 

「ああ」

 

「ほぼ俺の活躍だったな!加良は活躍してなかったな!俺だけだったな!」

 

加良さんも随分怪我してる…あれ、稀さんも。

まったくしょうがない…正義の味方ってのはこんなもんだよね。

 

「ほら、2人ともこっちきてください。軽い手当してあげますから… 末次くん、生徒たちは任せていいよね?」

 

「おう てかほぼみんな無事だしなー」

 

稀が秒で、加良がゆっくりとこちらに近寄ってくる。

2人をよく見ると、加良の方がボロボロだった。

 

「はあ…無理したんですよね?」

 

「おう!無理した!ツバサちゃんよくわかってるじゃんか」

 

「そんなことはない いつも通りだ」

 

「なんかうるさいのが1人いますね…」

 

口を怪我してるという名目で稀の口元に包帯をぐるぐる巻いた。これでヨシ。

 

「ナルコレプシー、何か言ってましたか?」

 

「特に何も」

 

「そんなもんですか」

 

不貞腐れて寝転がる稀を尻目に、なんか気まずい雰囲気が2人の周りを漂う。

 

しょうがない、雰囲気を変えよう。

 

「そういえば、加良さんは私を養ってくれるんですよね?」

 

「「!?!?!?」」

 

不貞腐れてた男と、気絶している生徒たちの様子を見ていた男が驚愕の表情でこちらを見た。

 

「もちろんだ お前にその気があるんならな」

 

「「!?!?!?!?」」

 

ちょっとだけモジモジしてみせる。

 

稀は死んだ。目の光がなく、虚空を眺めていた。

末次くんは何やら悶え苦しんでいた。

 

「なんてこった…帰ったら赤飯炊かなきゃ…加良の家に遊びにいくのも頻度減らした方がいいよな…?」

 

加良さんも、少しだけ笑っていた。

これはわかってやってる表情だ。

 

それにしても稀の反応が面白すぎる。

 

「家事とかは私に任せてください。カウンセリングに行く日は難しいかもですが…」

 

「いや 俺も家事はやる」

 

「夫婦って感じですね」

 

稀は死んだ。

 

てか仮面ライダーって稼げるのだろうか。

なんか資産があったりするのかな。

 

末次くんが稀を引きずって教室を出ていく。

この子マジ?本当だったにしても教室はないだろ。

 

「それで、どうするんです?生徒たちに被害はなかったし、学校側としても被害は窓数枚だけ。どこかに報告したりするんですか?」

 

「ああ 知り合いの刑事に報告する」

 

「イルのこととかを知ってるやつだ 俺が連絡する度に色々後始末してくれる」

 

知り合いの刑事さんかあ。その人過労死しそう。

手当が終わると、加良が立ち上がって教室のドアに向かう。

 

その後ろ姿は、かっこよかった。

 

「ほら 帰るぞ」

 

「わかりました!」

 

「バイク壊したから電車な」

 

少しだけ、楽しくなりそう。

2人並んで歩き、死んだ稀さんを起こしながらみんなで帰った。稀は翌日まで目を覚ますことはなかった。




1話分に40000文字とか初めてなんですけど…
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