【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 作:塵塚怪翁
三人称に挑戦しています。
時間軸は、青森の攻略が終わり霊視ニキが襲われている頃です。
※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加
第1話 求む、異能者が真っ当に就職する方法
第1話 求む、異能者が真っ当に就職する方法
この世界は、悪魔が存在する。
マグネタイトという不可思議な粒子でもって悪魔は存在することができ、異能者と呼ばれる者たちも超能力や魔法に普通の人ではあり得ないような身体能力を持つ者もいるだろう。
でもそれは社会の裏側に限ったことであり、余程運か頭が良いのでなければ真っ当に暮らす場合は表の社会での就職や社会的信用にはあまり繋がらない。例え、多量のマグネタイトを有する高レベルの異能者であっても。
「突然で悪いんだけどもね、隆和くん。
今月付けで仕事を辞めて貰うことになるんだ。本当にすまない」
「木下社長。
納得できません。俺が何かしましたか?」
「隆和くんが悪いわけではないと判ってはいるんだ。
君は6年間もの間、真面目にうちの工務店で働いてくれて免許も取得してるのも知っている。
経営も余裕が出たから正社員にしようと話をしていたのも忘れていないとも」
「だったら、何故なんですか!?
木下社長!」
大阪市外の外れにある小さな社員数十人ほどの規模の工務店である『木下工務店』のプレハブ社屋の夕日が眩しい事務室で、社長と呼ばれている気の弱そうな初老の男性と一人の若い背の高いだが鍛え上げた身体の男性がいる。
彼の名前は、【安倍隆和】。
容姿は某所で有名な同音異句の名前の男性とよく似た顔と声の持ち主だが、彼はツナギを着ることはあっても車の修理工ではないし、何より巨乳の大好きな極ノーマルの性癖である。
その証拠に、目の前の社長とその手の巨乳の娘が多くいるお店の『おっぱいパブ』に行って社長の奥さんに一緒に叱られた事があるのだから。
その彼の恩人でもある目の前の木下社長は、本気で気の毒な顔で言う。
「数日前に事務所に来た親会社の金上新社長が来たじゃないか。
その時に彼からの申し出を断ったのが原因だよ」
「でも、あれはよりにもよってこっちに来て部下になれって言うんですよ!?
俺はここで正社員になるんだから受けられる訳がないでしょう!?」
「あー、うん。そんな申し出だったのか。
その返答は嬉しいんだがなぁ。
しかし、彼は数年前に実の父親から会社を乗っ取って大きくした遣り手でもあるんだ。
何しろ、大手ゼネコンから回される仕事を孫請けに割り振るのも彼の会社が牛耳っているんだ」
話題に出ているその男は【金上金作】と言う。読みは、『かねがみかねさく』である。
元々彼は『極亜信用組合』という中堅の民族系金融機関の社長をしていたが、実の両親と兄弟が里帰りのための日本海での船旅の事故で全員死亡してから葬式を終える間もなく、30代後半の年齢ながら両親と兄弟が経営していた『金上建設』も手に入れて一気に大きくした実績がある社長だ。
もっとも、今回の事故は彼の差し金だろうと噂されるほど私生活の評判が悪い人物でもある。
その点も、彼が金上からの誘いを断った理由の一つでもあるだが。
「もしかして、俺を辞めさせないと仕事の割り振りをしないとか?」
「周囲には言っていなかったが、彼の父親とは同胞でね。
一緒に数十年前に日本に来た仲だったんだが。
この辺の同胞の会社はほぼ皆、彼の所から融資を受けているし、今までは彼の父親の会社だった所から仕事を回して貰っていたんだ。
だから、仕事の割り振りだけでなく融資も打ち切ると言われてね」
「すいません、社長。
そうとは知らずに断ってしまって」
「いや、いいんだ。
今の金上社長は汚い事も平気でやるようだし、プライドが山ほど高く能力もあるから年上でも儂らみたいなのは下に見て言う事は聞かないだろう。
ましてや、彼からしたら下請けの一従業員が自分の申し出を断るなど我慢が出来なかったんだろう」
「社長、労基や弁護士に相談するっていうのは?」
「無理だよ。
大阪の役所や弁護士会にも帰化した同胞も含め何人もいる。
おまけに、向こうの方が金も持っていて会社の規模も大きいんだ」
「……分かりました。
ロッカーの中身も片付けてすぐに出られるようにします」
「今まで本当にありがとう。
二十歳の時に、必死な表情で面接に来たのが懐かしいね。
明日から有給を消化してもらって終わったら、正式に退社だ。
後日、諸々の書類を郵送するから元気でやるんだよ」
彼らは今までの六年間を思い出し、少し悲しく思いながらも別れる事になった。
隆和はもともと着替えくらいしかなかったロッカーを片付け、鍵を社長に返すとお世話になった人達にも深々と一礼し自分の自宅の安アパートに帰っていった。
†
彼のアパートは、月5万の風呂のない木造の古い建物で1DKの物件である。
室内には、それこそちゃぶ台と畳んだ布団に古い家具類、電化製品の冷蔵庫と電子レンジに携帯の充電器ぐらいしか無い殺風景な部屋である。
何故、彼がこんな生活をしているのかはちゃんと理由がある。
彼には、今と変わらない日本で生活していた前世の記憶があるのが理由だ。
前世で彼は、まともな正規雇用も結婚も果たすことはなく一人で働き通して体を壊して50歳前で死んだが、今度こそ彼は履歴書に書ける真っ当な職歴の正社員となり慎ましやかな結婚を夢見ているのだ。
だからこそ、今まで稼いだ金は4割は貯金に回し口座も財閥系の大手の銀行に預けている。
残りの6割は、マッカや宝石などの換金出来るものに変えて信用できる人に預けている。
それもこれも全ては、結婚資金と老後のためのものである。
隆和はくよくよしている暇はないと思い、帰りがけに夕食の弁当を買ったコンビニで貰ったアルバイト情報誌を見ながら1つ480円ののり弁当を温めて食べた。
貯蓄もあるし、失業保険も貰えるのでしばらくは過ごせるだろう。
そうしていると、充電していたガラケーの携帯に着信が入った。
固定電話? 電話番号を複数持つ金の余裕はもったいないと彼は言うだろう。
もそもそと急いで食べ終わり、ペットボトルのお茶で流し込み電話に出る。
「もしもし、安倍ですが?」
「よう、俺だ。仕事があるんだがいいか?」
低い男性の声が電話の向こうから聞こえてくる。
「ウシジマさん? 何かありましたか?」
「お前が表の仕事を辞めさせられたと聞いてな。
こっちの仕事も多めにやってくれると思って連絡したんだよ」
「……どこで聞きました? つい数時間前の話ですよ?」
「そりゃ、お前の所の元社長の関係者からだよ。
お前さんには、意味不明な独り言を言う幽霊の出る物件の解決を何度もやってもらっているからな。
恩に感じている耳の早い建築関係の友人は何人もいるんだぜ」
彼の名は、通称【ウシジマ】。
短く刈り込んだ髪と丸眼鏡、いかつい顔つきに大きい体格といかにもな30代の男性であるが、彼の恐ろしさは体格などではない。
彼は、この辺のフリーのデビルバスターの仲介元締めと金融業【ウシジマファイナンス】の社長の顔を持っている。そして、隆和と同じ転生者でもある。
つまり、例えば多額の借金を背負って堕ちる女性が辿るルートとしては水商売から泡姫に泡姫から女優にというのが創作でも有名だが、彼はその女性に霊能の素質がある場合に他の闇に落とす闇金の業者でもある。もちろん、それは男でも変わらない。
昨今の霊能関係の旧い家であればあるほど、家の体面に傷が付かないなら【素材】に【母体】に【種馬】と高い素質の人物はこれらの需要に尽きないと彼から直接聞いた。あと、日本だけでも年間約3万人の行方不明者はいるのだとも。
それだけに、金の事に関して言えばちゃんとしている限り信用ができる人物なので彼の会社の貸金庫に資産を預けている。
「それで誰からの仕事ですか?
また、幽霊物件でもありましたか?」
「今回の仕事は、佐川の親父からの依頼だ。
キャバレーの料金の切り取りなんだが、相手が霊能の使い手らしくてな。
料金を払う時に催眠をかけて逃げた上に、自宅まで取り立てに行った連中も帰って来ないそうだ。
俺の知る限り、今連絡できる仕事を丁寧にこなす真面目な高レベルの霊能者はお前ぐらいなんだよ」
「【魔王】の姐さんや【モリソバ】さんはどうなんです?」
「魔王の方は何でも粗方吹き飛ばすからこの依頼には向いてないし、モリソバは青森まで長期で仕事に行ったままでまだ帰って来ていないぞ」
彼の言う「佐川の親父」とは、道頓堀近くで一番大きいキャバレー「グランド」のオーナーで関西最大勢力の「関西連合」の直参の佐川組組長「佐川司」である。
彼自身も覚醒者であり、ウシジマのケツ持ちでもあり、隆和の育て親の知人でもある。
隆和の育て親には命を助けられたらしいが、詳しいことは聞いていない。
あと、「魔王」や「モリソバ」とは知り合いのデビルバスターの通称である。
ちなみに隆和自身の通称は、本人の前では言われないがあの作品を知っている人達からは【アーッニキ】である。発音が少し変なだけなのでバレていない。
「(何で、青森?)分かりました。それで、場所はどこです?」
「〇〇にある屋敷だ。
大阪市内のJRの駅の近くだな。小学校と屋根付きの商店街が目印だ。
大型車も入れないような路地を通るから気をつけろ。
報酬はいつもの場所で、資料は新聞受けに入れさせたから見ておいてくれ」
「じゃあ、そういうことで。
あと、出来れば報酬は金銭じゃなく表の仕事の紹介とか……」
プツンと、電話が切られる。
電話が切れると、ガタンと音がして新聞入れに大型の封筒が差し込まれていた。
いつもの彼の所の部下が届けてくれたのだろう。
ため息を付き、さっそく封筒を開けて中を見る。
そこには、事件のあらましが書かれていた。
料金を踏み倒した彼は、『月岡一郎』と言う36歳の男らしい。
今から2週間ほど前に彼は店で8桁近くまで豪遊し、料金を払う際に出口の職員たちを前後不覚にして逃げ出したのがカメラに写っていた。
カメラから割り出した顔写真を持って身内や興信所などからの調査に1週間後、彼の自宅が割れた。
近所の話では、数ヶ月前にその家の中年の娘が結婚してから急にリフォームの業者が入って工事をしたかと思うと、住んでいた家族の姿が見えなくなり身なりの怪しい連中が出入りするようになったので近づかないようにしているとの事だ。
そして、料金の取り立てに最初は職員が行ったがそこに居た愚連隊のような格好の連中に追い返され、組の関係者や業者の強面を数人ほど何回かに分けて送ったが誰も戻らず、店長がオーナーに報告を上げてこちらに回ってきたのがあらましだった。
資料を読んで、隆和は考え込んだ。
警備員を含めた職員を同時に前後不覚にするという事は、何かの状態異常を複数人に与える効果のあるスキル持ちだろう。
そして、近所の話とその後の取り立ての経緯から組織立って何かをしているのかもしれないという懸念も出て来た。
普通ならこういう場合は警察と霊能組織に話が行くが警察は巡回を多くするのが今の時点では限界だし、関西の霊能組織を仕切っている【京都ヤタガラス】を名乗る勢力は血統・伝統主義が過ぎて根願寺と日本メシア教とは冷戦状態なので内々で無かった事にして終わらせるだろう。
これは自分単独でやるしか無いと隆和は考え、明日の朝に出向くことにし眠りについた。
朝になりいつもの出勤時間に合わせて早起きをしてしまったが、ちょうどよいので準備の時間に当てるようだ。
準備と言っても朝飯代わりのゼリー飲料を飲み、タンスの奥から装備を引っ張り出すくらいである。
装備は、比較的小綺麗なシャツとGパンに大枚を叩いて買った自衛隊の型落ちのサバイバルベスト、腰のサイドポーチに畳んだ資料と育ての親で師匠だった人物から貰った封魔管が2つと治療用の魔石を何個かを入れて終わりである。
2つ付いた扉の鍵を閉めて、駐輪場の愛用のママチャリで現場まで隆和は向かう事にした。
指定されている資料の地図では、ここから徒歩でも2時間以上かかるのだが気にしていないようだ。
今までの出勤でも身体能力に任せて、かなり離れた現場でも自転車と公共交通機関で済ませていたのでそれが彼の当たり前だった。
何しろ、自動車の購入は免許はあるが代金と維持費が高すぎるので。
それから、通勤に向かうサラリーマンを羨ましく思いながらその横を軽快に走り抜けて行った。
†
商店街近くの駐輪場に自転車を置くと迷路のような住宅街の路地を抜け、目的の家まで来ることが出来た。
その家は、路地から見るだけでもここら辺の住居の3軒分の幅がある大きいものだった。
路地側から向かって右側の塀に引き戸式の頑丈そうな入り口がありその奥に2階建ての真新しい住居が、左側は塀に沿って奥の庭を覗けないようにするためかこれも新しい倉庫が建っている。
塀は2m位の高さで、要所によく見ると監視カメラまで偽装してありよじ登るのは難しいだろう。
彼は正面から行くことにしたようで玄関の前に立つと、カメラを見ながらチャイムを鳴らす。
『ピンポ~ン』
今の時刻は8時を回った頃だから誰か起きてるだろうが、反応がない。
今度はチャイムを連射する。辺りに音が木霊する。
『ピピピポピポポ~ン。ピポピポピピポピピポピポピンポ~ン』
『朝っぱらからうるせーぞ、誰だ!?』
インターホン越しに若い男の声が聞こえてきた。
無視して連打を続ける隆和。
『ピポピポピポピンポ~ン。ピンポ~ン、ピンポ~ン、ピッンポ~ン』
『てめえ、そこを動くなよ』
キレた声がして声が止む。
声の主が出てくるのを、術の用意をして待つ隆和。
程なくして、中から一昔前の特攻服を着た木刀を持った若い男が怒り心頭の表情で出て来た。
見鬼の術で観ると、レベル2と出ている。
うっかりと殺さないように優しく彼のみぞおちを撫でて、彼を支えながら隆和は中に入る。
ゲホッと倒れる彼を放り出し、空曜道(マッパー)の術を使い周囲を見る。
敷地内の状況はかなり荒れていた。
庭は空き缶やコンビニの弁当などのゴミが散乱して酷いことになっており、彼らがよく通るだろう道以外はゴミだらけであった。生ゴミの腐った臭いも酷い。
玄関の外にはこの臭いは漏れていないことから、何らかの仕掛けがあるのだろう。
ふらふらとさっきの男が立ち上がって、こちらを睨んでいる。
話を聞くべく隆和は、腰のポーチから封魔管を取り出し声をかける。
「コレット」
「はい、今出ますね」
隆和が名を呼ぶと、長い金髪の少女が現れる。
背丈は160に届かない白地に青いラインの入ったワンピースを着たその少女は、その血の気のない白い肌を頬だけは桃色に染めて青い瞳で彼の方を見ている。
隆和は驚愕にこちらを凝視する男の方を指差すと、彼女に話しかける。
「彼に話を聞きたいのだけど、素直になって貰いたいんだ」
「分かりました。ごめんなさいね、【マリンカリン】」
術が掛かったのかトロンとした目でこちらを見る男。
彼にここの事を聞くべく隆和は話しかけた。
「ここで一体何が起きているんだ?
ここの主の『月岡一郎』という男性に心当たりは?」
「ああ、えっと?」
「お願いだから話してね?」
「わかったよ、お嬢ちゃん。実はな、……」
彼のたどたどしい話を総合するとこうなる。
ここの主の『月岡一郎』を名乗る男は、【半島】人であり故郷で何かを経験し力を得たらしい。
それから日本に渡り、こちらに居た親戚の伝手でこの家の娘と結婚した後で他の家族をどこかに消し、同胞の銀行から金を借り同胞の伝手で彼ら愚連隊を引き入れたと言う。
彼は『力の再現』を始めるために繁華街の家出少女を彼らに集めさせ、容姿の気に入った娘は家の中に連れていき他の余ったのはそこの倉庫内で楽しんでいると嬉しそうに彼は話している。
人数は数えていないが、10人は超えているんじゃないかとまでのたまった。
至極不愉快げに眉をひそめているコレットに隆和は告げる。
「コレット、こいつはもう人間じゃない。なりたての【外道】だよ。
その証拠に見鬼の術も、こいつの種族名を【外道 グレンタイ】だ。
正気に戻る前に殺してやれ」
「分かりました。死後に安らかに眠れますように。【エナジードレイン】」
「はあぁあぁぁぁああ」
コレットは彼の手に触れると彼の生命力を吸い出し始めた。
彼女の種族名は、【幽鬼チュレル】。
伝承においてチュレルは、若い男性を美女の姿で誘惑し一夜にして生命力を吸い取り老人の姿に変わるか死ぬまで離さなかったと言う。
ただし、彼女の下半身は反対を向いていない。
その例に漏れず、コレットに手を掴まれていた彼も、快楽に染まった表情のままミイラのようになってマグの塵になり消えてしまった。
「ふう、隆和さん。まず、倉庫の中の娘達を助けましょう」
「ああ、そうだな」
コレットにそう言われ、ゴミを避けながら倉庫の中に入る。
その倉庫の中もまた別の意味でひどい有様だった。
ゴミと毛布やタオル、引きちぎられた女性の洋服に脱ぎ散らかした男物の下着にズボンが床一面に散乱し、高いびきをしている下半身を晒した男たちが6人。そして、体中を汚され気を失った裸の少女たちが4人いた。
隆和の見鬼の術には男たちは皆、人間ではなく【外道】となっている。
こいつらには手加減無用だろう。
隆和は男には使いたくはないが奥の手を使うことにした。
「コレット、アレを使うから無力化した奴から吸い殺せ。
コイツラはもう悪魔だから処分しないといけない」
「いいんですか? 相手は男ですよ?」
「この状況で人質とか乱闘は面倒だろう? 嫌だけど行くぞ。【耽溺掌】」
彼が名付けたそのスキルは、【耽溺掌】。
効果は、【小威力の物理攻撃。高確率で魅了・緊縛・至福の状態異常を付与】である。
ただそれは、彼が生まれ育った環境で生き残るために身に付けた師匠直伝の奥の手だった。
そもそも彼、「安倍隆和」は実の両親を知らない。
名札と共に、今はもう無くなったある児童施設に捨てられていたのだ。
後年になって知ったが、そこは霊能の素質のある孤児を集め必要に応じて畿内の各旧家に養子や家人として配分するのが目的の施設だった。
普通に小学校にも通い、時々その子供の素質に合った霊的な指導があるだけの幼児時代だった。
そんな彼の生活が一変したのが11歳の精通の時だった。
その頃から彼の周囲では異性間のトラブルが頻発するようになり、その時に『天狗』と名乗る男性が現れ彼に女性悪魔を大人しく挿せるスキルを閨の技術や房中術と一緒に伝授した。
しかも、当時はその『天狗』の使い魔だったコレットに優しく筆下ろしをされながらである。
彼によれば、その時に前世の記憶が蘇ったという。
彼の強すぎる素質に寄り集まっていた絡新婦も協力の末に退治され、術の全てを伝えるとその『天狗』はコレットの入った封魔管を残して姿を消した。
それからの中学を卒業し施設を出るまでの5年間、隔離された一人部屋で術の復習名目で襲い彼の技で屈服していたコレットに『天狗』の事を教えられた。
彼の名は、【大内隆(たかし)】。京都にある異界【大内屋敷】の管理人である。
【異界・大内屋敷】。
そこは山中にある寺だった場所が異界化したものである。
元々は、かの大寧寺の変で謀反を起こした陶晴賢に、一族を皆殺しにされた大内義隆の忘れ形見と称する一族が起こしたという眉唾ものの伝説のある寂れた寺であった。
しかし、霊能に関する何かがあったのか戦後にGHQと共に来たメシア教の部隊に襲撃を受け、その襲撃部隊諸共に寺全体を異界に沈め葬り去ったという。
以来、その場所は公的な記録から消され京都府内にも住所のない場所とされ、根願時と日本メシア教が揃って『不可触』と記録に残した場所だった。
だから、気まぐれと偶然で彼を助けた『天狗』に施設の職員は何も言わないのだそうだ。
コレットによれば、彼はその異界で自分の妻を自称する家の祭神の鬼子母神の【地母神ハリティー】、同じく妻を自称する家で祀っていた稲荷が進化した【妖獣タマモ】、また同じく彼の妻を自称する撃退したメシア教の部隊のリーダーだった【大天使ライラ】を閨に引き込んで鎮めている技を伝授されていると。
また、彼女自身も元はその襲撃の時に命を落としたメシア教の聖女で、死亡後に魂を今の形で呪縛されているので死んでも一緒だと笑顔で告げられた夜の事は今でも忘れられないそうだ。
それが、彼のスキル【耽溺掌】の成り立ちである。
物理攻撃した相手を魅了(CHARM)して逆らえなくし、緊縛(BIND)で動けなくし、至福(HAPPY)にして何も考えられなくする。
そんなスキルを受けたクズ共の様子は詳しく描写はしたくないが、端的に触れられた彼らは白目向いて身体中から色々な汁を噴出し痙攣している間にコレットの糧になったとだけ言っておこう。
少女たちはコレットの【ディアラマ】と【パトラ】で傷を癒やし、倉庫の奥で毛布に包まって眠っていてもらうしかない。MPの元はたくさん転がっているのだから。
†
倉庫を片付けて、次は母屋の方である。
コレットと共に玄関から入ると、一般的な日本の住宅ではなくどこか中国様式に似た外国の屋敷内の様子が続く異界と化していた。
ただ、出てくる悪魔は低レベルの幽鬼や悪霊だけなので、簡単に一番奥のボス部屋にまで到達することが出来た。
手下が手下なだけに、ボス部屋の内部も悪趣味極まりない様子であった。
室内には檻や多種多様な拘束具などあり、目の前の箱で『SM部屋』で画像検索し寝台を取り除いて色を木材の茶色一色にすれば想像できるだろう。
ただし、檻の中で眠っている服はきちんと着ているが猫耳と尾がある黒髪の少女と、拘束具に捕まり明らかに激しい乱暴をされ焦点のない目で虚空を見る切り裂かれたシスター服の黒髪の少女、そしてツリ目気味の切れ目や特徴が目立つ容貌の男が慌ててズボンを穿いている様子がなければであろう。
部屋に踏み込む隆和に、その男は金切り声を上げて意味の分からない言葉で叫んできた。
『何だ貴様は! 島国の倭猿が俺の家に入って来るんじゃない! 出て行け!』
「日本語で喋れよ。お前、『月岡一郎』だろう?
そこにいる女の子らの事も全部話してもらうぞ、クソ野郎」
「こっちは楽しんでる最中なんだよ!
せっかくメシア教の女を捕まえられたっってのに邪魔すんじゃねぇ!」
「もういい。動けなくしてから話を聞くことにする」
「うるせぇっ! テメエの方が死ねぇ! 【マハラギオン】!」
金切り声で叫ぶその男は黒い山羊の頭の姿に変わり、広範囲に強力な火炎魔法を放って来た。
それに構わず、両腕を翳して男に走り寄る隆和。
そして、男の後ろを顎で指す。
「余所見していいのか? 彼女は助け出したぞ」
「何っ!?」
男が振り向くと隆和の大柄な体の影から飛び出したコレットが、拘束されていたシスターの革ベルトを外して始めている。
振り返り彼女を殴ろうと踏み出した見鬼の術には【邪神バフォメット】と映るその男の片腕を掴み、隆和は告げた。
「“状態異常の対策をしていない以上、俺が触れた時点でお前は終わりだ。”
アヘ顔でも晒していろ、クズ野郎」
「な!? ……?? あ、アへ。アヘヘアはへへへへへへはへ???」
物理攻撃と言うなら、状態異常にするだけなら相手に触れればそれでいい。
上半身を黒い毛で覆う山羊の頭をしたその男は、奇怪な声を上げながら舌を出し崩れ落ちてしまった。それからしばらくコレットが彼女たちを完全に解放する頃には、触れたままのその男は股間を大きく濡らし痙攣を始め異界が解けていた。
†
隆和が携帯で終わったことを知らせてタオルや毛布で包んだ救助した女性たちを運んだり痙攣したままの山羊男を拘束して待っていると、しばらくしてウシジマが護衛らしき男らを連れて直接乗り込んできた。
そして、隆和が此処であった事を一通り説明するとウシジマは頭を抱えてしまった。
しばらくして表を片付けてこいと護衛たちに命令すると、隆和にウシジマは告げた。
「こんなオカルトだらけの事態になっちゃあ、俺や佐川の親父だけではどうしようもないな。
かと言って、関西を今仕切っている京都の石頭共は頼れねぇ。
ちょうどいい、【ガイア連合】に連絡を取るか」
「ガイア連合?」
「パソコンもないしネットもしないお前は知らないだろうが、近年力を付けてきた新興のオカルト組織だよ。
そして何より、俺やお前みたいに前世の記憶持ちの連中が相互扶助のために立ち上げた組織だ」
「本当にそいつらは頼れるのか? 金はかかるのか?」
「少なくとも京都の連中よりは頼れる。
お前も顔つなぎしたほうが表の業種に返り咲けるかもよ?」
「ぜひ頼んでくれ!!」
「お、おう」
そう言うと、ウシジマは携帯を取り出し連絡を始める。
こうして、数奇な運命が転生者の組織【ガイア連合】で隆和を待つことになるのだった。
後書きと設定解説
・主人公
名前:安倍隆和(あべたかかず)・【アーッニキ】
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・26歳
職業:工務店契約社員→フリーター/ダークサマナー
ステータス:レベル39・フィジカル型
耐性:破魔無効・呪殺無効・精神無効
スキル:悪魔召喚(封魔管)
見鬼(アナライズ)
空曜道(マッパー)
ジャイブトーク(通常会話の不能なダーク悪魔と交渉できる)
妙技の手管(状態異常時の相手へのダメージ25%増加)
不屈の闘志(HPが0になる攻撃を受けた際、1回だけHP全快で復帰する)
背水の陣(苦境時に万能属性及び即死攻撃を除き、受ける攻撃の命中率低下)
耽溺掌
(敵単体・小威力の物理攻撃。高確率で魅了・緊縛・至福の状態異常を付与)
詳細:
捨てられた状態から16歳まで霊能関係の施設で成育された
相手をアヘ顔にする【耽溺掌】は、師匠直伝。出来なければ死んでいた
性癖は男色ではなく、普通の女性との普通の恋愛を夢見るほどの極ノーマル
夢は前世でも果たせなかった履歴書に書ける職業での正規雇用と普通の結婚
夢を果たすために10年ほど表側の就職活動をし続けている
【挿絵表示】
主人公のイメージ図
・仲魔
名前:コレット
性別:女性
識別:幽鬼チュレル(特異個体)
ステータス:レベル34 破魔弱点・呪殺無効
スキル:マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
シバブー(敵単体・中確率で麻痺付与)
ムドオン(敵単体・中確率で即死付与)
ディアラマ(味方単体・大回復)
パトラ(味方単体・軽度の状態異常回復)
エナジードレイン(敵単体・小威力の万能属性のHPとMP吸収)
詳細:
元々は、大内屋敷の異界に攻め込んで死んだメシア教の聖女
彼女は人間としての魂が悪魔化して再生され封魔管と共に師匠から下賜された仲魔
享年16歳で、金髪をロングヘアにしていて胸が薄いのを気にしている
身長156cm、B:73(A)・W:53・H:81(黒医者ニキのメモより)
主人公の幼なじみであり初めての女で在る事が、彼女の立脚点にして全て
【挿絵表示】
waifulabsで作成したコレットのイメージ図
・今回のボス
【邪神バフォメット】
レベル28 耐性:破魔弱点・呪殺無効
スキル:マハラギオン(敵全体・中威力の火炎属性攻撃)
ムドオン(敵単体・中確率で即死付与)
フォッグナー(敵全体・低確率で幻惑を付与)
道具の知恵(悪魔が道具を使用可能にする)
詳細:最初の事件の主犯と同化して悪魔人になっていた悪魔
次はガイア連合関係者との遭遇
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。