【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 作:塵塚怪翁
一気に範囲を拡げたばかりの民間組織って内部統制は難しいですよね?
第20話 悪意の胎動
「さあ、どう?
これが、私とトモエが一つになって誕生した【ネオトモエ】あるいは【超コレット】よ!
あ、でも容姿もこうだし面倒だから今まで通りに【トモエ】って呼んでね?」
「嘘よ! コレットちゃんがトモエさんと一つになって成長したなんて嘘よ!
あたしよりも、そんなに背もスタイルもすっごく良くなるなんて!
悪魔だから、ずっと幼児体型だとばかり思っていたのに!」
「希留耶ちゃん??
私の事をそんな風に考えていたの??」
「そうなの。
わたしより視線が上になって、胸もそんなに大きくなるなんて世の不条理なの」
「なのは??
二人とも、私の事を何だと思っていたの??」
「えーと、『永遠の合法ロリ』?」
「あたしは、『若作りが過ぎる中身色ボケおばさん』だと実は思ってた」
「むがああぁ」
隆和たちが山梨での調整と訓練を終えて大阪に戻った日の夜、変化したトモエ=コレットを見て説明を聞いたなのはと希留耶がそんな事を仲良く言い合いしていた。
しかし、その数週間前であるトモエの処置が終わり隆和に連絡が行く少し前、関西支部では隆和の出した異界の攻略の応援要請について揉めていた。
†
大阪梅田駅近くにあるジュネス内の関西支部。
そこの会議室では、二人の女性が激しく声を上げて言い争っていた。
一応、支部長であるレスラーニキもその巨体を窮屈そうな背広で包んで参加しているが、他の幹部同様に止める手立てがなく沈黙して成り行きを見守っていた。
一人は、天ヶ崎千早。
山梨から監査と監視のために来ている大阪が地元でもある転生者の女性だ。
約束通り、今回の隆和から応援要請をされた件を持ち込み予算案も含めて提出し、関西支部の正式な依頼として承認を得て大規模に行動しようとしていた。
もう一人は、【幸原みずき】。
肩書としては【関西支部副支部長】であり、千早が乗り込むまで支部どころかジュネス側の総務部と経理部を悪い意味でも牛耳っていた女傑である。
彼女とって今回の案件は小生意気な小娘が持ち込んだ気に入らない物であり、尚且つ、自分が進めていた襲撃者の捕獲作戦を偶然とはいえ潰してくれた男の要請でもあり、踏み台ではあるが自分の縄張りである支部がそこまでしてやる義理はないと考えていた。
もちろん、幸原みずきも転生者である。
前世では90年代初頭に起きた『マドンナ旋風』に乗って、独善的な人権意識も強い彼女が賛同していた野党の一議員として参加したが国政に出る前に病死していた。
今世でも同じように裕福な家庭で生まれ育ち、取得した弁護士資格を生かした女性市民活動団体を主導して前世と同じように政界に出ようとしていたが、仕事の案件での離婚問題で本物のオカルトに遭遇して覚醒したのが変わり目だった。
そこで裏の世界の調査を重ね、ちょうど出来上がったガイア連合とガイアグループにたどり着いた彼女は、ガイア連合を自らの理想とする日本を実現するのに利用するため組織内で成り上がるべく、市民団体も活用し関西支部の副支部長にまでなっていた。
だからこそ小生意気な小娘の言い分を潰し、自分の考える方向で処理させるべく声を張り上げていた。
「そもそも、ただの会員に過ぎない彼の要請にそこまでやるのは身内びいきに過ぎるのでは?」
「身内贔屓やあらへんわ。
ガイア連合に正式に依頼するのに、所属していたら駄目やなんて規則はどこにあるん?」
「依頼するにしても、他の支部に居る複数の高レベルにも声を掛けるような大規模な物は認められません。
こんな異界も処理できないのか等と、他に思われるような面子の問題があります。
それに、報告書には“大型の異界相当”とありますが誇大な表現ではありませんか?」
「安倍はんの言い分だけでなく、ちゃんと調査もしたわ。
わざわざ仕事の忙しい【霊視ニキ】はんにも来てもらったわ。
あの人の検分に何か文句でもあるん?」
「ふん!
それならそれで、こんな手間を掛けてその彼にやらせる必要があるんですか?
そこまで大変なら、本部の神主に処理してもらえばいいでしょう?」
「あのな、あの異界の攻略は安倍はんがやるからこそ意味があるんや。
それが分かっているからこそ、ショタオジも安倍はんに色々と支援しとるんや。
それに、ただでさえ忙しいあん人を手軽に使えるなどと思わんとき!」
千早の剣幕と周囲の咎めるような視線から言い過ぎたと判断した幸原は、一旦黙るが備え付けの水を一口飲むと何もなかったかのような顔で話を続ける。
「それなら、彼の要請がそこまで重要に扱われる根拠となる組織への“貢献”とやらにも疑問が残ります。
彼が報告した敵対悪魔のレベルは20を越えるものが通算で数体以上いたと言う事ですが、それは我々の観測機械ではなく彼の術による物が根拠です。
レベルの詐称や捏造があるのではありませんか?」
「それはあらへん。
報告書にも矛盾は無いし、占術の使い手や嘘発見も出来る調査専門のスタッフにちゃんと見て貰っとるから大丈夫や。
その辺の調査能力はしっかりしとらんとアカンから、どこの支部でも一番力を入れとるのはあんたも知っとるやろ?」
「ふん! そこまで言うのならいいでしょう!
ただし、募集するのは関西支部に登録や所属するメンバーだけに限ります。
サポートをするまでは他の所属でもいいですが、攻略する人員はそれのみで行います。
それと、サポートするメンバーへの声掛けは関西支部では行いません!
個人で探すようにして下さいね!」
「現場に出て異界にも潜らへん癖に、自分勝手に決めるんやな」
「これでも覚醒はしていますので、あしからず。
ブルーカラーの3K仕事は、私の業務ではありませんから」
そこまで言うと、不愉快そうに資料を纏めて持つと幸原は足音も荒く会議室を出て行った。
それを見送ると、千早はレスラーニキの前に来て支部長としての確認の判子を求めた。
「ほな、関本はん。判子をお願いします」
「あ、ああ。すまないね、天ヶ崎くん。
俺や男の幹部では、どうにも口では彼女を止められなくてね」
「ええです。
ある意味、あん人を見張るために来たようなものですし。
ほな、この案件を進めるので何かあったら協力はお願いしますさかい」
「こんな事しか出来ないが、それで良ければ頼まれるよ」
レスラーニキの判子を貰うと、千早は早速動き出すべくこの所秘書のように扱っている華門和と一門の女性たちがいる部屋へと戻って行った。
†
幸原みずきは会議後、自分のシンパの多い部署へ来るとストレスを発散させるべく、いつものように目を付けていた女性職員たちに細かいミスをネチネチと説教をしていた。
「いつも言っているでしょう?
あそこに送る際はこの封筒ではなく、こちらを使うようにと!
それに、この書類の判子の位置と順番が間違っています。
早急に作り直して、判子を貰ってきなさい!」
「あなたはこの書類の資料を明日の朝までに作りなさい。
もうすぐ定時だから無理? いいから、やりなさい。
それと、あなたの残業は法定時間を越えるから早朝にやりなさい」
「は? 昼間に飛び込みのトラブルがあって定時までに終われない?
あなたの工夫や努力が足りないからそうなるんでしょう!
罰です。タイムカードを定時で処理してからやりなさい!
終わるまで帰ることのないように!」
「はぁ? 依頼書の内容と違う? 仕事をしている間に終了した?
その手のクレーム処理は、受付の貴女がなさい!
『既に襲撃者は倒されていますので、報酬の割増はもうしていません。
終了時刻に関しては、こちらでアナウンスすると事前に告知しました。
それに納得されてサインされたのですから、規定の報酬をお受け取り下さい』
それで、納得させなさい!」
一通り言い終わって落ち着き、自分の机に着くと親指の爪を齧りながら考えた。
彼女としてはとにかく千早がと言うより、その背後に見え隠れする『千川ちひろ』に途轍もなくイライラさせられていた。『未覚醒なのに、有能で自分の上役である』という一点においてだけで。
それには自分の功績となるはずだった作戦を邪魔したくせに、それまで単なるレベルが高いだけの3K仕事に従事する女好きとしか考えていなかった隆和についての情報が足りない。
彼女としても、異界の攻略を完全に頓挫させる事のリスクは多少知っているだけに余計面白くなく思っていた。
だが、だからこそあの小娘を一度黙らせないと我慢できない。
そのため、彼女の行動を完全に潰したり頓挫させるような真似は出来ないが、失敗しない程度に足を引っ張る事に決めた彼女は、手下の女性職員達に千早たちの処理の遅延などの嫌がらせをさせつつ情報を集めていた。
そして、山梨にも居る自分の影響下の職員からの情報を受け取った時、彼女は他人が見たら怖気が走る様な笑みを浮かべると動き出した。
†
その日、差出人不明の封書を受け取った【芥田進】は、このところの連続して起きた身内が起こしたトラブルの処理に追われて自宅で深酒をしている所だった。
彼は若い頃、詐欺師として貴金属や和牛にゴルフ会員権での仕事を成功させて一財産築き、金のある所を見せてある会社重役の娘を口説き落として結婚し、後を継いで重役になる事で社会的に成功していた。
しかし、生まれた息子が“化け物”だったせいで家庭は崩壊し、責任を擦り付けあった末に今では双方に別に相手を作って別居をしている状態だった。
その“息子の姿をした化け物”が遺体になって戻ってきた。
久しぶりに見た半狂乱でその遺体に縋り付く妻を抑えて妻の強い希望で教会式の葬式の喪主を務め、妻だったものを実家の親戚たちが心の病院へ連れて行くのを見送った。
色々と疲れ自宅で酒を飲み始め、ふと気がつくと仕事でよく使う封筒に似たこの封書が新聞入れにあるのを見つけたのだった。
「何だこりゃ、まあいいか。
…………………、おい本当なのか、それは!」
その封書には、黒塗りのされたDNA鑑定書の写しと写真、そしてワープロ印刷の手紙が入っていた。
写真は遠目から隠し撮りした隆和の写真で、手紙にはこう書かれていた。
『拝啓
貴社の重役たる貴方におかれましては益々ご清栄のことと心よりお慶び申し上げます。
このたびはこちらにて厳選した情報をお贈りしました。
是非ともご利用いただけると自負しております。
添付したデータにある通り、そちらのご子息と写真の男性は母親違いのご兄弟でしょう。
彼は今、そちらとも取引のあるガイアグループにて勤務しております。
ご子息を亡くされたばかりなのは悲しいでしょうが、お会いになられてはいかがでしょう?
それでは、今後も変わらぬご厚誼のほど宜しくお願い申し上げます。
本来であれば拝眉の上ご挨拶を申し上げるべきところ、略儀ながら書中にて失礼致します。 敬具』
確かに朧気だが、この男には30年近く前に子供が出来たと告げたので行方をくらませて捨てたあの女の面影があると彼は思い出した。
しかも、工業部品を納めているうちの会社の大手取引先であるガイアグループに勤めているとあるではないか。
頭の中を打算が蠢き、上手いことこちらに取り込めば自分の功績と出来るのではないかと進は思いついた。
そして電話を取り、個人的によく使う興信所を呼び出し仕事を頼んだ。
「こいつが今どんな仕事をしているかはこれから調べなきゃならんが、手紙のことが本当なら利用のしがいはいくらでもある。
壊れたあの女や死んだ化け物は切り捨てて、こいつを使ってみることにしようか。
さて、どんな父親の顔で会いに行こうか」
かつて、“ハイエナ”と呼ばれた詐欺師の頃の事を思い出し、芥田進は暫く振りに愉快そうに嗤った。
†
大阪に戻って隆和が連絡をくれた異界の件について千早に会いに行った時、彼女は渋面のまま彼に告げた。
「安倍はんの実の父親を名乗る男性から、しつこく問い合わせが来とるんや。
しかも、毎回うちの所に対処が回されて来とる。
すまないのやけど、一度会ってくれへんか?」
後書きと設定解説
・関係者
名前:幸原みずき
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・36歳
職業:市民活動家弁護士→ガイア連合関西支部副支部長
ステータス:レベル4 破魔無効
スキル:金切り声(雄叫び)(敵全体・攻撃の威力を2段階下げる)
逃走加速(逃走の成功率が上昇する)
説得、脅し、恐喝、根回し
詳細:
政界に見切りをつけガイア連合関西支部に潜り込んだ女性転生者
ヒステリックで煽る言動が多い性格でキツい印象の容姿の美女
上昇志向が強く、フェミニストを標榜する独善的な理想主義者
彼女、アニメ準拠だから声も無駄に綺麗なんだぜ。
次は、出来るだけ早く。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。