【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 作:塵塚怪翁
策謀の場面、上手く表現できているかな?
第21話 悪意の終焉
その日、隆和と面会する約束を取り付けた芥田進は、“人生に疲れて希望となるかもしれない生き別れの息子に会おうと必死な可哀相な父親”となるべく髪型や無精髭、最低限の身だしなみ以外のヨレヨレのスーツやメイクまで用意し、そう成り切るように準備万端にしてタクシーで指定の場所へと向かった。
親子だという情報は、興信所の調査とこれも昔馴染みの裏の顔もある医者にDNA鑑定書を見せて確認を取り七割は真実だと考えていた。
これで上手く行けば新しい息子を得て再出発が出来るかもしれないし、そこまでいかなくてもガイアグループ相手の社の売り上げを向上させる何かのコネや交渉材料に出来るのではと皮算用していた。
彼が指定されていたのは、再開発の進む梅田駅近くの高層ビルにある貸し会議室だった。
タクシーの中で演技の確認を考えていた彼は、入り口につくとオドオドキョロキョロと落ち着かない雰囲気を出した想定通りの演技をしつつ警備員に案内され中に入った。
そして、通された部屋には、彼から見ると写真に写っていた男である隆和と千早がそれぞれスーツを着込み待っていた。
当初の予定通り、涙を流して隆和に縋りつこうした彼に隆和はこう言い放った。
「はじめまして、芥田進さん。
こうしてお会い出来ましたし、もう満足でしょう。
これ以降、接触を試みるなら弁護士を立てますのでいいですね?」
「え? は?」
「今回、連絡を受けてこうして場を用意した天ヶ崎千早です。
お互い生きてる事が分かりましたし、彼の意思としてもう会うことはないです。
彼も言うとる通り、これ以上の接触は弁護士を通して下さい」
「い、いや、ちょっと待ってくれ!
こうして息子かもしれない彼と会えたんだ。話くらいさせてくれ!」
「真偽も不確かな情報でこちらを調べ、ここまで執拗に干渉するんやで?
会えただけで、満足しい。
もう話す事はあらへんやろ。お引取りを」
「少しだけでいいんだ。少しだけでも!
もし、本当に息子なら償いくらいさせてくれ!
うちの会社で良ければ、無理を言ってポストも用意するから!」
「警備員はん。
お客様はお帰りや。表までご案内してや」
「は、話をさせてくれーーーっ!」
騒いで暴れる芥田進を二人がかりで運び出す警備員たち。
それを見送り、ため息をつく隆和。
「これで良かったのか?
これで、まだ何かされるようなら困るんだが?」
「ええよ。ええよ。
向こうの希望通り、一度は面会はした。これでええ。
後の対応はこっちで用意した弁護士に任せるさかい、安倍はんは安心してや。
ああいう手合いには話をさせん事が一番の対処法やし。
もう、会う気は無いんやろ?」
「ああ。もうこれで、異界に向かえるんだね?」
「そや。
態度次第では考えたんやけどなぁ。
あの男に関しては、もう一手打っておいたからこれで終いや」
「もう一手?」
にっこりと笑みで返答する千早に、危険を察知し黙る隆和。
そして、隆和の腕を取り笑みのまま話しかけた。
「ちゃんとこうやって役に立っているって見せたんやさかい、少しはご褒美欲しいわぁ」
「ご褒美?」
「せっかく時間を調整して終わらせたんやし。
一緒に昼食をするくらいええやろ?」
「うーん、まあ。夕食じゃないし、それくらいなら」
「やった!
ほな、このビルに新しく出来たレストランがあってな……」
そう言うと、隆和とウキウキとしながら千早は連れ立って食事に行った。
この後、食事後にまるで初心な中学生のようなデートをして日暮れ前に帰った隆和に、楽しく会話と食事をできた事で午後からいろいろな事を狙っていた千早は拗ねた。
†
ビルから追い出され、タクシーを待つ芥田進は途方に暮れていた。
何がいけなかったのかまるで解らないまま、考え込んでいた彼に電話がかかって来た。
折りたたみ式の携帯を取り出し出た途端、怒りを押し殺した様子の今は彼の上役で義父でもある専務の声が聞こえてきた。
「今はどこにいるのかね? 芥田常務」
「は、はい。有給を取り、所要で梅田にある〇〇ビルにいます」
「そうか。すぐに戻りたまえ。話がある」
「は? 話とは?」
「娘と孫を一度に失い、気落ちしているかと思っていたのだがね?
他の女を抱く元気はあるみたいじゃないか?」
「は、はあぁ!?」
「弁護士の内容証明付きで社内で不倫をしていた事が知られたぞ。
相手の夫の弁護士からも連絡が来ている。
最後の義理だ。社内での弁明の場は与えてやる。
すぐに戻って来い」
「す、すぐに戻ります」
ピッと電話を切り、脂汗を流しながらちょうど来たタクシーに乗り芥田進は戻って行った。
この後、彼から隆和に干渉してくる事は二度と無かった。
†
この日の数日後、大した嫌がらせにもならなかった芥田進の顛末を知って幸原みずきは、表に出してはいないがいつものパワハラのストレス発散をする余裕もないほどに内心はとても荒れていた。
数十分前、デスクの彼女宛に直接かかって来た電話が彼女をさらにそうさせていた。
相手は、彼女がこの世でこの上なく嫌悪している【千川ちひろ】からだった。
『聞きましたよ、幸原さん。
なかなか面白い事をしている様ではありませんか?』
「はい、何の事でしょうか? 千川さん」
『いえ、直接ではないにしろ、内部情報を余所に漏らすような事を示唆した方がいるみたいじゃないですか?』
「さあ、心当たりはありませんが?」
『なるほど、まあそう来ますよねぇ。
ああ、関係ない話ですけど、技術班の研究棟で働いていた彼、大阪にいるご両親の分のシェルターが買えたそうで。
早速、ご両親を山梨へ呼んだそうですよ?』
「はあ、それは彼にはおめでとうと言うべきかも知れませんね」
冷静な話し方をしているが、この時点で彼女は既に腸が煮えくり返っていた。
せっかく苦労して用意した、大阪にいる両親の事をそれとなく言うことで山梨から情報を得ていた重要なラインの一つが潰され、また新しい生贄を探さなくてはならない労力を考えると損害賠償の請求をしたくなる位だった。
彼女をひどく苛つかせるちひろとの話は続く。
『話は変わりますけど、関西支部が担当している大型異界の攻略は大変そうですね。
ただでさえ、京都や奈良といった千年以上日本の中心だったところですから、対処しなければならない大型クラスの異界も多いでしょうし。
さぞ、仕事も多いかと思います』
「いいえ、優秀な人材も多いので他の支部では対処できないでしょうが、うちは違うので。
どこかの年増女ばかりの遺物しかいない北の果ての支部とは戦力が違います」
『それはすごいですねぇ。さすが関西支部と言ったところでしょうか。
まあでも、それでも味方の足を邪魔するような人もいるとか?』
「さあ、何のことやら判りかねますね。
うちにはそのような事を直接的にするような愚か者はいません。
それに、他人の縄張りに嘴を突っ込むのは嫌われると思いません?」
『そうですよね。
流石に、支部内で大っぴらにそんな事をけしかける人なんていませんよねぇ。
ああ、そうそう幸原さんが代表をしている市民団体ですけど、外国人の方多いみたいですね。
メシア教に関係している人はいないようですけど、在留資格の期限は大丈夫ですか?』
「…っ! え、ええ。大丈夫ですわ。
差別のない女性が自立できる事を目指す平和な団体ですから」
そこを言い当てられた途端、幸原みずきの背中に冷たい汗が流れた。
市民団体の連中は、外部で活動する彼女の重要な手駒でもある。
彼女の言う目標の個人情報を調べ、彼女の望みを間接的な物言いで大勢で優しく伝えるのが主な使命である。
まあ時々、素直ではない相手の悪評を流したり、器物の損壊や動物の死骸の遺棄に怪文書の配布などをするが【彼女らの正義】のためであるから誤差の範囲である。
例の大阪に両親のいた彼や幾人かを素直にし、芥田進に封書を送りつけたのもこいつらの仕業である。
どこかでオカルトを軽視し山梨支部の人間とは面識が薄い彼女には、どこまで向こうがこちらの事を把握しているのか判らなくなった。
今までの彼女にとって、ショタオジは【得体が知れないが、便利な道具を作る子供みたいな男】で、霊視ニキは【目がいいらしいヤクザ】、ちひろは【未覚醒なのに、有能で自分の上役である生意気な女】で、他の幹部も【自分が管理してやるべき可哀相な連中】という認識でしかなかった。
だからこそ、支部の誰にも言わず隠蔽しているはずの団体の詳しい内情を言い当てられて、彼女は激しく動揺してしまった。
『それでは、次はないと思いますので気をつけて下さいね。
それと理由は分かりませんが、戒告処分と三年間の減給の指示が出ると思いますので。
ああ、他の方々も解放されたので。それでは』
「はい、し、失礼、し、しますっ!」
ギリギリと爆発しそうになるのを抑え、自分の机から離れた場所にある女性トイレに入ると洗面台の鏡を殴った。
もちろん覚醒者対策済みなので割れることはなく、彼女の拳の方が出血していた。
そして、親指の爪をギリギリと噛みながら鏡を睨みつけ、自分の手駒や手段は漏れなく全て潰すと宣言したちひろの顔を思い浮かべ彼女は叫んだ。
「あんの、小娘ぇぇぇぇ!!
いつか必ず、絶対に潰してやるぅぅぅ!!!」
†
「馬鹿じゃないんやろか?
監視対象なんやから、詳しく調査するんは当たり前やろに」
「何か言いました? 千早さん」
「和はん、何でもあらへん」
幸原みずきがトイレで吠えていた日からさらに数日後、諸々のトラブルがようやく片付き隆和の要請に対しての準備が出来たと伝えるために、千早と華門和は隆和たちの家に来ていた。
ニュースでどこかのNPO法人に不正受給で警察が踏み込んだと流しているテレビを消し、なのはやトモエと共に隆和は彼女たちを出迎えるとお互いにソファに座り、彼女らが用意してきた資料を見ながら今後の予定について話していた。
「予定の期日は一ヶ月後、3月の最初の日曜日や。
こちらの予定では、うちのツテで外部から協力者を2チーム呼び寄せるつもりや。
最奥への突入は、基本、安倍はんとトモエはんになのははんのチームになる。
関西支部からは、レスラーニキを始めとする混合チームと外部のチームが一緒に突入する。
それと、入口付近にこれも外部の協力者も含めた治療用のベースキャンプを作るつもりや」
「ここに書いてあるが、突入に外部のメンバーは使えないんじゃないのか?」
「その人ら、有名な傭兵集団でな。この作戦の間だけ、関西支部に所属扱いになる。
まあ、彼らは悪魔を殺すのが目的の集団やけど」
「その言い方だと、不安が残りますよ。千早さん。
傭兵ですから、払いが確かなら契約は遵守していると記録にあります。
だから、大丈夫ですよ」
「主様の邪魔にならなければ、どうでもいいわ」
「それで、そっちの準備はどうなん?」
千早にそう聞かれ、手帳を取り出して確認するなのは。
少し頬が紅潮している。
「わたし用の新装備と隆和くんの新装備が山梨から届いて、慣れる必要があるけど間に合うの。
練習用の異界も調査済みなの」
「それなら、大丈夫そうやな」
そこまで千早たちが言うと、隆和は彼女たちに告げた。
「ありがとう。千早ちゃん、華門さん。
こうして、やっと師匠のところへ行けるよ。
なのは、トモエ。生き残って一緒に戻ろう。
そうしたら、みんなで凱旋パーティでもしたいな」
「大丈夫なの。敵はみんな、私が吹き飛ばすの!」
「そして、私が前にいる敵は全て斬り伏せますから!」
こうして、彼らはようやく隆和の師匠が待つ【大内屋敷】の異界へと赴くのであった。
後書きと設定解説
・関係者
名前:“ハイエナ”芥田進(あくたすすむ)
性別:男性
識別:異能者・56歳
職業:ガイアグループ取引企業の常務
ステータス:レベル2 破魔無効
スキル:闇討ち(敵複数体・新月時に限り4回の少威力の物理攻撃)
口説き落とし・ゴマすり・引き止め
詳細:
元詐欺師で、隆和の母親(安倍七菜)を一方的に捨てた実父
口が上手く会社幹部の娘と結婚して今の地位についた
芥田六三四の父親で、妻とはお互いに別居状態
次は、出来るだけ早く。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。